2022/11/4作成ー
厚生労働省の調査(学歴別就職後3年以内離職率の推移)によると、新入社員が入社1年以内で退職してしまう割合は約1割、3年以内だと約3割という結果が出ています。
この数値を皆さんは多いと感じますか?それとも、少ないと感じますか?
いずれにせよ、せっかく手間暇かけて採用と育成を行った大切な新入社員が「いよいよこれから…」というタイミングを待たずして会社を辞めてしまうのは、採用コスト増や職場の士気が下がるなどの組織全体へのダメージも大きいため、何とか防ぎたいものです。
そのような早期離職を未然に防いでいくための最初のステップとしては、新入社員が会社を辞める理由を把握する必要があります。
そこで本コラムでは、新入社員が会社を辞めてしまう理由である「5つのギャップ」を具体例と共に解説をしながら、退職を未然に防ぐために注意したい点や対処法についてご紹介いたします。本コラムをお読みいただくと、新入社員が会社を辞める理由を把握でき、離職を食い止めるために自社で実施できる対処法を検討するのに役立ちます。
新入社員が会社を辞める理由をひと言で集約するのであれば「ギャップを感じるから」です。
ギャップは、次の5つに分類されます。
筆者は、前職で転職エージェントに勤めていました。そこでは主に20代前半~半ばくらいのいわゆる第二新卒・若手社員の転職希望者向けのキャリアアドバイザーに従事していました。そこでの転職希望者とのやり取りを通して得た事例なども交えて、次の章から上記5つのギャップについて一つずつお伝えしていきます。
(【参考】の内容は、あくまで筆者が経験したことをベースに主観でお伝えしています。)
一つ目は、「仕事内容に関するギャップ」です。
入社後に感じるギャップの代表的なものとも言えるでしょう。入社前に抱いていた仕事内容に対する理想と現実の乖離が大きくなると、モチベーションの低下に繋がり、離職に至る場合があります。
仕事内容に関するギャップは、大きく3つのパターンに分類されます。
一つ目は、入社前に開示されていた仕事内容と実際の内容に相違があったパターンです。
採用時の説明や求人票の記載内容に不足がある等、企業側が正しい情報を開示していないために発生するギャップです。ただ、企業側に悪意がなかったとしても、採用の打ち出し方によってギャップを引き起こしてしまうこともあるため、採用時には細心の注意が必要です。
二つ目は、新入社員が想像していた仕事内容と異なるパターンです。
これは、就活生の先入観や経験、知識からもたらされるギャップとも言えるでしょう。例えば、『マーケティング職と聞いて企画を行う華やかな仕事をイメージしていたら、実際は地味なデータ分析や入力作業が中心だった』というようなギャップです。
三つ目は、企業側の説明も十分で新入社員の理解としても問題はなかったが、本人が希望していた配属通りではなかったパターンです。
Z世代ともいわれる近年の新入社員は【最短でキャリアパスを実現したい】という志向が強まる傾向にあります。そのため、最初の配属が希望通りでない場合「自分の望むキャリアパスが期待できない」と早々に判断し、離職を選択してしまう場合があります。配属を伝える際は、新入社員の考えや想いを丁寧に聴きながら、配属を決めた背景や意図を丁寧に説明し、理解を得られるよう対応していく必要があります。
『将来的には希望している企画部門へ配属となる予定ではあるが、入社後数年は営業を経験する必要があることが分かった』といった時間軸を伴うギャップも存在します。企業側からすると、商品・サービスや顧客をまずは知ってもらいたいという想いから配属を決めていますが、近年の新入社員は「下積み」に対する感覚や必要と感じる期間が昔と変わってきています。採用時に、仕事のやりがいで魅力付けをしている場合には注意が必要です。
とある若手社員の事例です。
その方は「コンサルタント職と聞いて入社したのに、実際は違った」という理由で前職を退職していました。詳しく話を聞くと「コンサルタント職だから、顧客の課題解決に向けて、丁寧にヒアリングしたり、企画書をつくったりできる仕事だと思った。でも、実際はテレアポがメインで既にある商品を提案するだけだった。」とのことでした。もしかしたら、その方もその会社でもっと中長期的にキャリアを積んでいけば、本人のイメージに近しい仕事内容を実現できていたかもしれません。ただ、本人がイメージする「コンサルタント職」と「その会社のコンサルタント職」の間のギャップを解消できないまま、退職に至ってしまいました。
営業職といっても求められるスタイルが千差万別であるように、同じような職種名であっても仕事内容は全く異なる場合もあります。ただし、就業経験のない就活生にとっては、職種名は仕事内容を理解する大きな手掛かりであり、職種名をきっかけに興味関心を示すこともあるでしょう。また、職種名に対する先入観は誰しもが少なからず持っているものだと思います。採用の際は、職種名に対する本人のイメージと実際の仕事内容との間にギャップが発生しないよう、丁寧に説明していくことが必要です。
二つ目は、「自身や他者の能力に関するギャップ」です。
このギャップは、さらに次の2つのパターンに分けられます。
一つ目の「自分の能力や適性に対するギャップ」ですが、新入社員の能力や適性と、実際に職務を遂行するために求められる能力や適性との間に不一致が生じるケースになります。
例えば、「営業職」といっても「熱意やフットワークの軽さによる信頼関係が重要視される営業職」なのか「提案力や分析力が成果に繋がる営業職」なのかなど、求められる能力や営業スタイルは会社によって千差万別です。選考過程において新入社員が自身の強みや適性を理解し、その上で会社から求められる能力や仕事の進め方も把握できているとは限りません。どちらか一方でも理解が足りていない場合、「入社前に想像していたよりも仕事ができない…」「同期と比べると、自分の能力が劣っている…」といったギャップに悩む感じる場合があります。その結果、「この仕事は自分には向いていない」と判断し、退職に至ってしまうケースがあります。
二つ目の「他者の能力に対するギャップ」というパターンも考えられます。「同じ企業に勤める人はこうあるべき」という思い込みが崩れることで、このギャップは起こります。一緒に働く上司や先輩の仕事ぶりや勤務態度が悪く、「上司や先輩が思ったよりも仕事ができなくて幻滅」と感じてしまう場合があります。
ただ、これは、実際に「上司・先輩が仕事ができない」のではなく、「上司・先輩が指導してくれない・放置されている=上司・先輩は仕事ができない」という状況から生じるギャップという場合も考えられます。
下記コラムを参考に、職場の状況を改めて見直していただくとよいかもしれません。
新入社員の放置は今すぐ止めるべき!その理由と対処方法5選
三つ目は、「評価や給与・待遇に関するギャップ」です。
例えば、下記のようなギャップが考えられます。
評価や昇給など、求人票や面接時の説明と実際の条件が乖離していたような場合、当然ながら新入社員は強い不満と会社への不信感を抱きます。選考時に給与や待遇についてしっかり説明し理解を得られていても、実際に働き始めると「業務内容の割に給与が低いのではないか?」と感じる新入社員も少なくないようです。
また、地元や学生時代の友人との再会を機に「周りと比べて、自分の給与って低いかも?」と感じ、退職を検討することもあるでしょう。
ギャップや不安を解消させていくためには、
・どのような評価基準で昇給が決まるのかを正しく情報開示する
・納得感と正当性のある評価を行う
ことが重要です。たとえ昇給額がわずかであっても、自分の頑張りが認められて、正当性と納得感の持てる評価であれば、次なるモチベーションへとつながっていくことでしょう。
部下が納得感を持てるような目標管理・評価について、さらに詳しく知りたい方は下記コラムをご参考ください。 withコロナにおけるパワフルな目標管理とは? ー管理職が目標管理で抑えておきたい5つのポイント
四つ目は、「対人関係に関するギャップ」です。 会社の人間関係に悩む社会人は少なくありません。社内の人間関係を退職理由にする方も多く、新入社員の場合も同様です。特に新入社員の場合は、直属の上司やOJT担当のトレーナーとの人間関係で悩む場合が多いと思います。
例えば、直属の上司先輩との年齢差が大きく、ジェネレーションギャップから気軽に話しかけられなかったり、敢えて厳しく接してくる人だったため報連相ができなかったりなど、うまくコミュニケーションが取れずに、ストレスを抱え、会社を辞めたいと感じてしまうこともあります。
上司先輩以外にも、同期入社の社員とのノリが合わず、ちょっとした悩みや相談を打ち明ける相手ができずに社内で孤独を感じ、退職に至るケースもあります。
また、「社風が合わない」といったケースも考えられます。
例えば、
・「個人プレーを重視して成果を出す社風」or「チーム一丸になり協調性を大切にする社風」
・「伝統を重んじる社風」or「革新を重んじる社風」
といったように、どちらの社風が良い・悪いということはありませんが、新入社員の価値観やこれまでの経験によって、社風が合う・合わないと感じることがあります。社風が合わないと、会社に行くのが億劫になり、辞めたい気持ちが強くなってしまいます。
何年かに一度しか新卒を採用していない企業では、社員の年代が偏りがちです。ちょっとした相談や気軽な雑談ができずに職場で孤独を感じてしまわぬように、次の2章でお伝えする対処法をご参考に、フォローを検討いただければと思います。
五つ目は、「ワークライフバランスに関するギャップ」です。
働き方改革が進み、ワークライフバランスを重視する人が増えています。
「仕事よりもプライベートを優先させたい」、「仕事とプライベートの調和を保ちたい」と考える新入社員も多いと言われています。
例えば、以下ような観点で自身が理想とするワークライフバランスとのギャップを感じているようです。
新入社員には、入社後どのような働き方をするのか、繁忙期のタイミングや期間などの勤務条件をできる限り明確に共有しておく必要があります。
また、労働環境の悪化の要因としては、上司のマネジメント不足といった理由も考えられます。職場の労働環境について課題を感じている場合は、管理職に対する育成サポート等も検討いただくとよいかもしれません。下記コラムもご参考ください。
管理職に必要な4つのコミュニケーションを身に付ける~社内の上下横と、社外の視点~
お休みの取り方は変更が難しい場合が多いと思いますので、仕事内容ややりがいの魅力付けとのバランスを意識しながら、ライフステージに合わせた社員の働き方を支援できると良いかもしれません。
前章では、新入社員が会社を辞める5つのギャップについてお伝えしました。
では、そのようなギャップが生じる要素を軽減させて、新入社員の離職を防いでいくにはどのような対処法を講じていけばよいのか、対処法10選をご紹介します。
①ギャップになりそうな情報を丁寧に開示する
②社員との懇親会や面談、職場見学など機会を設ける
③インターンシップや内定者アルバイトを行う
④内定後、改めて、自社への理解を深める機会を設ける
⑤学生から社会人へのマインドセットを入念に行う
⑥同期との相互理解を深め、関係性を高める
⑦現場の育成意識とスキルを向上させる
⑧フォロー研修を行い、業務に対する意味付けを行う
⑨オンボーディングを丁寧に計画・実行する
⑩サーベイを行い、新入社員を定点観測してフォローする
一つずつ、具体例と共に解説していきます。
採用フェーズ(採用ページ、自社紹介資料、説明会、面接など)では、ギャップになりそうな情報について、しっかりと開示しておくこと、また、ギャップが生じることに対して心構えをつくっておくことが重要です。
仕事内容や評価制度、待遇などに関しては、お互いに認識のズレがないようにするのは言うまでもありません。それに加えて、例えば、前章でお伝えした「一見華やかそうに見える仕事の理想と現実」や「配属希望や下積み期間に対する考え方」など、ギャップの要因になりそうなものは、入社前に解消しておきましょう。実際に働いている社員と会って、リアルな話を聴く機会を設けるのもアリです。
「ネガティブな内容ばかり伝えると、入社承諾してくれないのでは…?」と思われるかもしれませんが、ネガティブな情報を伏せて入社しても、ギャップが生じて離職に繋がりかねません。結果、企業側にとっても新入社員側にとっても、幸せな状況とは言えません。
ネガティブな情報を開示する際には、企業側が一方的に話すのではなく、就活生の話にも丁寧に耳を傾けることがポイントです。
などヒアリングし、自社で叶えられる魅力付けできるポイントは魅力付けしつつも、入社後ギャップになりそうな部分は丁寧に説明するように心掛けましょう。
入社後のイメージをより明確にしてギャップを軽減していくために、既存社員との交流機会を設けるのもおすすめです。次のようメリットがあります。
例えば、弊社では採用過程でできる限り多くの既存社員と顔合わせの機会を設けています。既存社員との面談やオンラインランチなどを開催し、入社前後に感じたギャップや大変なこと、自社に対する課題など面接では聞きにくいことをざっくばらんに話し「想定していたイメージと違う」という入社前後のギャップを減らせるような取り組みをおこなっています。
既存社員との交流機会としては、以下のような例があります。
・先輩社員とのオンラインランチ
・配属予定となる職場の見学
・忘年会や新年会等の社内イベントへの参加
・社内の部活動やサークル活動への参加
・四半期のキックオフミーティングの見学
是非、自社で取り組めそうなものから実施検討いただければと思います。
【参考:弊社オンラインランチの様子】
インターンシップや内定者アルバイトを通した内定者フォローも、入社後のギャップ解消の施策としては有効です。入社前に職場の雰囲気を感じながら業務の一部を体験したり、社員とのコミュニケーションの機会をつくることで、入社後の立ち上がりも早める効果も期待できます。
ギャップを解消するためのポイントとしては、インターンシップやアルバイトでは、一人で黙々と作業をする業務ではなく、社員とコミュニケーションを取りながら進めていく業務を担当してもらう方がよいでしょう。
内定者研修の一環として、自社への理解を深める機会を設けることも、ギャップ解消には効果的です。以下に一例を挙げます。
上記例の一つ目に挙げた、内定者研修として改めて自社の業界や顧客、仕事内容を調べて、理解を深めるワークを行うことは特におすすめです。
なぜならば、説明会や面接などでどれだけ丁寧に説明をしていても、実際、理解が曖昧な内定者が多く存在するからです。これは、弊社が内定者研修を実施させていただく中でよく感じていたことです。そして、入社後に改めて自社に関する説明を行っていては、ギャップ解消の観点からすると手遅れです。
その他、内定者向けに書籍をプレゼントし、自社の業界や仕事内容への理解を深め、ギャップ解消に繋げていくことも有効です。
例えば、弊社では「社風を理解するために役立つ本」を内定者にプレゼントしています。
下記コラムに、おすすめ本や書籍の選び方・贈り方のポイントをまとめていますので、ご参考いただければ幸いです。
【新入社員育成のプロが厳選】新社会人におすすめ本16選!成長につながる渡し方
学生から社会人へのマインドセットを入念に行うことも重要です。
「学生と社会人の違い」を理解し、社会人としての自覚が醸成されると、ギャップと感じていたことも見え方が変わり、解消されることがあります。
マインドセットを行う際は、「社会人とはこうあるべき」と一方的に押し付けるのではなく、新入社員の「インサイドアウト(内発的動機)」を促すアプローチができているかも重要な観点です。なぜならば、インサイドアウトが促せていない新入社員は、指示待ちの受け身人材となる可能性が高いためです。
インサイドアウトの対極にあるのはアウトサイドインで、2つのメタファーとしてよく用いられるのが、卵の例です。以下2枚の写真を見ていただくと一目瞭然ですが、「内側から殻を破る」ととても力強いエネルギーが発揮されます。その一方で、外側から無理やり強く叩くと壊れてしまいます。 新入社員研修も同様に、外側からの「こうあるべき」を押し付けるのではなく、新入社員の内側からの「ありたい」を解放し、変容に繋げていくものが、本質的に効果的な研修であると考えています。
また、マインドセットというものは、教わったからと言ってすぐに切り替えられるものではありません。マインドの切替が必要な「はじめ」のタイミングで初期教育を丁寧に行い、その後は継続的にサポートしていくことが必須になります。では、どのような機会を活用し、マインドセットに取り組んでいけばいいのか、以下に一例を挙げます。
一つ一つの節目を意識し、立場や期待される役割が変わったことを認知してもらいます。
会社の理念やビジョン、組織の一員としての行動指針を経営陣や管理職から共有し、新入社員の当事者意識を醸成します。
研修を通して、社会人として基礎となるマインドとスキルを習得します。以下は研修コンテンツの一例です。
社会人の自覚研修 ・ビジネスマナー研修 ・目標意識・コスト意識研修 ・ビジネススキル研修
その他にも、コンプライアンス研修、自社のルール・社内規定などを教える研修などもあるでしょう。
配属後は日々の仕事の中で、上司・先輩から自社で大切にしている価値観を伝えていくこと。また、仕事の意義を一緒に考えながら、社会人としてのマインド醸成のサポートをし続けることも重要です。
定期的に振り返る機会をつくり、今の自身の状態を把握するとともに、今後の意識・行動すべき点を明らかにしていきます。例として以下のような観点での振り返りをおすすめします。
・意識できていること/できていないこと
・実行できていること/できていないこと
・変化・成長を感じる部分
同期入社の新入社員がお互いに理解し合い、悩みを打ち明けたり、困ったときには助け合える関係性を構築しておくことも大切です。
上司やトレーナーには言いにくい不安や悩みを同期に吐き出すことで気持ちが楽になったり、自身が感じているギャップについても、同期の捉え方・考え方を知ることで、ギャップ解消や課題解決の糸口を得られることもあるでしょう。管理職の目線では見えてこない問題も、同期の新入社員の間ではよく理解し合っていて、アドバイスできる場合もあります。
弊社の新入社員研修内でも「同期がいたから辛いことも相談して乗り越えられた」「同期の工夫や取り組みを自分も真似して取り入れたらとても役立った」といったコメントをよく聞きます。
同期との関係性を高めるには、研修を通じて、簡単なゲームワーク等でお互いの新たな一面を知ったり、グループワークで協力し合いながら異なる意見を一つにまとめていく等の経験を積んでいくことが効果的です。例えば、弊社研修では「あなたが大切にしていること」をテーマにしたワークシートを用いて、新入社員同士が自己紹介し合います。シートを用いることで、通常の自己紹介では伝えられない観点を伝え、お互いに知ることができ、関係の質向上に繋がります。
・年齢の近い先輩社員との交流機会を多く設ける(ブラザー・シスター制も効果的です)
・公開講座に参加して、他社同期の仲間をつくる
【新卒採用が少人数の企業向け】新入社員研修の検討にお役立ちコラム
新卒採用が少人数の企業の新入社員研修は、公開講座と社内研修のミックスがおすすめ!
現場社員の育成に対する意識・スキルの向上も、重要です。新入社員育成への意識とスキルが高まれば、職場のコミュニケーション量と質も高まっていきます。そうなれば、新入社員が感じているギャップや違和感にいち早く気付くことができ、フォローが可能になります。
育成意識とスキル向上のためには、研修の実施が効果的です。職場のトレーナーに対しては、次の2つの観点で研修を行っていただくことを推奨します。
・トレーナーとしての想い醸成
・OJTスキルの付与
育成スキル付与の前に、育成担当者であるトレーナー自身の仕事や育成に対する“想い”を醸成していくことが大切です。下記問いについて整理できる簡単なフォーマットを用意し、“想い”の言語化の手助けを行うことも一つの方法です。
・自身は日々どのような想いをもって行動しているのか
・会社からの育成方針を受けて、自分なりにどのような育成を行おうと考えているのか
想いが醸成されたら、育成に必要なスキル習得を目指します。次の4つを基礎的な育成スキルとして、研修を企画していくことをおすすめします。
また、前章でお伝えしたように、トレーナーとの関係性の悪化が退職理由となる場合もありますし、どんなに関係構築に力を注いでいても、お互い人間なので、相性の良し悪しは生じてしまうこともあります。 そのような状況になった際、職場の関係性を広げ、周囲がどれだけ2人をフォローしていけるかが、離職を防いでいくためには重要です。 トレーナーだけが育成するのではなく、チームで育成する意識を持つこと、その意識醸成と仕組み化がポイントになります。
1on1導入に関するヒントを得たい方は、下記コラムをご参考ください。 テレワークにおいても効果的な1on1を進め、定着させていく方法とは?
入社直後の4月だけでなく、配属後も定期的にフォロー研修を実施いただくことをおすすめします。 なぜならば、前述の「仕事内容に関するギャップ」は配属後しばらく経ってから感じるギャップであり、そのギャップを軽減させるためには、フォロー研修の実施が効果的だからです。
フォロー研修は、入社後3ヵ月・半年・1年といった節目のタイミングで実施されることが多いです。研修内容は企業ごとの実施目的によって様々かと思いますが、デービッド・コルブ氏が提唱した『経験学習サイクル』を取り入れ、入社してからこれまでの経験を内省するワークを行っていただくことを推奨します。
■(具体的な)経験:物事を直接もしくは間接的に、経験する
■振り返り(省察・内省):具体的な経験を振り返り、また、他者の観点を踏まえた上で、自分の考えや行動などを深く振り返る
■気付き(概念化):内省をもとに、次回から自分自身の行動を変え、良い状況を生み出すための方法を考える
■行動(試行・新たな状況への適応):気付きを基に、新しい場面で実際に試し、次なる経験に繋げる
入社してからこれまでを丁寧に振り返ってこの経験学習サイクルを回していけると、これまでの自身の経験や目の前の業務に対して新たな意味を見出せたり、自身の枠組み(認知)が広がったりと新しい気付きや発見が出てくるはずです。
ここで、ある企業の新入社員Aさんにフォロー研修(公開講座)を実施した際の事例を紹介します。Aさんは、当初配属予定だった部署とは異なる部署に配属となり、研修参加前のアンケートサーベイでは「会社に対して信頼を持てなくなっている」と回答するほどネガティブな状況でした。
参加されたフォロー研修は、新入社員・OJTトレーナー合同研修で、Aさんの他にAさんのトレーナーの方も参加していました。研修では、入社してから約半年間の振り返りをグループで共有し合い、トレーナーや他社同期と共に対話を重ねながら、「自身のこれまでの成長とこれからの成長」についての探求を深めていきました。
研修後の振り返りシートでは、Aさんから下記コメントをいただきました。
※実際の研修レポートは、こちらからご覧いただけます。
自身、そして他者と共に内省を丁寧に行ったことで、目の前の仕事に対する自分なりの意味を再考するきっかけになったようです。理想と現実のギャップを嫌々受け止めて流すのではなく、自分なりに現状を捉え、解釈していけると、より主体的に目の前の業務や自身のキャリアを考えていけるようになります。
フォロー研修は、ギャップに対する捉え方や枠組みを広げていくために重要な機会と言えるでしょう。
オンボーディングとは「新入社員の受け入れ~定着・即戦力のプロセス」を指します。オンボーディングの計画を丁寧に設計・実行していくことで、新入社員の職場定着を促し、ギャップの解消にも寄与できます。
実際にオンボーディングを取り入れていく際には、次の5つのプロセスで進めていけるとよいでしょう。
入社してしばらくは、パルスサーベイなど短スパンで定期的に回答するサーベイを導入し、新入社員の状況を把握することをおすすめします。新入社員の状態が可視化されると、フォローを行うタイミングや内容を検討しやすくなります。なお、サーベイはやりっぱなしにせず、結果を基に本人と対話を行うことが、ギャップ解消と離職防止のための重要なポイントになります。
【参考:パルスサーベイ Growth 計10の設問】
若手・新入社員に必要とされるセルフマネジメント力の醸成とリーダーシップ発揮の意識醸成を目的とした設問を設定しています。
新入社員が会社を辞める5つのギャップと、新入社員のギャップを解消し、離職を防ぐための対処法10選ついてお伝えしてきました。改めて、以下にまとめます。
①仕事内容に関するギャップ
②自身や他者の能力に関するギャップ
③評価や給与・待遇に関するギャップ
④対人関係に関するギャップ
⑤ワークライフバランスに関するギャップ
①ギャップになりそうな情報を丁寧に開示する
②社員との懇親会や面談、職場見学など機会を設ける
③インターンシップや内定者アルバイトを行う
④内定後、改めて、自社への理解を深める機会を設ける
⑤学生から社会人へのマインドセットを入念に行う
⑥同期との相互理解を深め、関係性を高める
⑦現場の育成意識とスキルを向上させる
⑧フォロー研修を行い、業務に対する意味付けを行う
⑨オンボーディングを丁寧に計画・実行する
⑩サーベイを行い、新入社員を定点観測してフォローする
新入社員の早期退職は、採用条件や仕事内容のミスマッチや認識のズレが主な要因として考えられます。せっかく採用した新入社員が早期に辞めてしまっては、企業側も新入社員側も幸せにはなりません。
企業側は採用活動の時点で、こうしたミスマッチが起きないよう前述の対策を講じていきましょう。そのうえで、新入社員入社後は育成体制の充実や社員間の関係性構築、新入社員へ定期的なフォローを行う等して、5つのギャップを解消しながら、未然に離職を防いでいく取り組みが大切です。
アーティエンスでは、新入社員の早期離職改善につながった新入社員研修やフォローツールを、お客様が抱える課題やご要望に合わせてご提供しております。
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