研修の手法が鍵!講義型・実践型・対話型の効果的な選び方とは?

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「研修って、どんな手法があるのだろう?」
「研修のやり方を変えることで、成果にも違いが出るのか?」
「毎年、同じ内容を踏襲しているけど、本当にこれで良いのだろうか…」

このようなお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実は、研修の効果は“手法選び”によって大きく変わります
同じテーマであっても、「どう伝えるか」「どう学ばせるか」の設計次第で、受講者の学習体験や行動変容の度合いはまったく異なってきます。

本コラムでは、講義型・実践型・対話型という3つの代表的な研修手法について、活用シーンや設計のポイント、アーティエンスでの実際の事例を交えながら解説します。

研修の目的に合った手法を選ぶことで、受講者の行動変容を促し、組織全体の成果と成長に直結する研修を実現することができます。

適切な研修の手法を選ぶことで研修効果を高め、社員の成果・成長に繋げられるようにしましょう。

執筆者プロフィール
迫間 智彦
X:@tohaza_atc youtube:中小企業の人材育成・組織変革 専門チャンネル
大学卒業後、大手通信会社、アルー(株)勤務後、2010年にアーティエンス(株)を設立。業界歴17年。大手企業から、中小企業、ベンチャー企業の人材開発・組織開発の支援を行っている。専門分野は、組織開発、ファシリテーション。

専門性:ファシリテーター管理職組織開発・組織変革

1)研修の手法①:講義型(講義とeラーニング)

講義型は、受講者に知識や情報を一斉に伝える際に適した研修手法です。

講師が情報を伝えるスタイルになるため、多人数に同じ内容を届けられるという効率の良さがあります。一方で、受講者が受け身になりやすく、記憶に残りづらい傾向があります。

アメリカ国立訓練研究所の研究によると、講義を受けるだけだと学習定着率が5%と言われています。

受講者の主体性になりづらいめ、知識の定着には工夫が必要です。

講義型の研修が効果を発揮する場面は、以下のような「情報の共有」や「知識のインプット」が目的のときです。

【解決したい課題の例】

課題 解説
社内で共通認識を持たせたい 組織の方針・理念・ビジョンなどを全社員に一貫して伝えたいとき。代表や経営層による講義形式が効果的。
業務に必要な基礎知識がバラバラ 職種や階層ごとに必要な共通知識(例:コンプライアンス、マナー、ITリテラシーなど)を、均一にインプットする場面に向いている。
新入社員や異動者に基本情報をインプットしたい 入社・異動直後など、まず「知る」ことが必要なフェーズでは、講義型で効率よく土台を築くことができる。
知識を正確に理解しておいてほしい 「ハラスメントとは何か」「自社の価値観とは」など、定義や意味を正しく理解させる必要があるときに適している。
テーマに対する意見や経験がまだ少ない 新しい概念や考え方に初めて触れる場面では、まず情報を整理して伝える講義形式が効果的。
主体的な学びにつなげる“きっかけ”をつくりたい 講義で興味や関心を引き出し、ワークやディスカッションなど能動的な学びへとつなげる構成に向いている。

受講者の「行動変容」や「内省・気づき」がゴールになるような研修(例:リーダーシップ開発やキャリア研修など)では、講義だけで完結させるのは難しいため、講義+ワークなどの合的な手法を設計するのが効果的です。

講義型には、リアルタイムで行う「講義」と、あらかじめ収録された動画を視聴する「eラーニング」の2種類があります。
以下、それぞれの特徴や効果的な活用ポイントを詳しく解説します。

【講義】のメリット・デメリット、ポイント、実施事例

講義とは、講師や登壇者がリアルタイムで情報を伝える研修手法です。オフラインでもオンラインでも実施でき、特に「知識のインプット」が目的の研修でよく用いられます。

【講義のメリットとデメリット】

メリット リアルタイムで受講者に情報を伝えられる
受講者の様子を見ながら、内容や伝え方を柔軟に調整できる(※オンラインでは見えづらくなる場合あり)
デメリット ・受講者が受け身になりやすく、スキルの定着には不向き
・進行や伝え方に工夫がないと、受講者の集中力が続きにくい

講義型は、「多くの人に一斉に情報を伝えたい」「共通認識をつくりたい」といった場面で、特に効果を発揮します。

例えば、
・経営層が全社員に組織の方針を共有する時
・新入社員にビジネスマナーや社会人基礎力を伝える時
・職種ごとに必要な共通知識(例:コンプライアンスなど)をインプットさせたい時

など、「まず知っている状態を作る」ことが目的の場面に適しています。

効果的に行うためのポイント

講義は一方向的な伝達になりやすいため、以下の3つの工夫をすることで受講者の理解度を高めることができます。

理解しやすい話し方を意識する
受講者の知識レベルに合わせて、言葉選びや話すスピードを調整しましょう。難解な言葉が続くと理解が追いつかなくなります。

特に口頭だけの情報伝達では「聞き取りやすさ」が非常に重要です。マイクの反響やノイズの確認はもちろん、オンライン実施時には音質や環境音にも注意しましょう。

【参考コラム】
【社内研修の講師育成】高いスキルを得るために押さえたいポイント

資料を活用して視覚的に伝える
耳からだけでは伝えきれない情報も多いため、スライドや配布資料を活用して視覚的にサポートしましょう。理解度や記憶の定着が高まります。

【参考コラム】
見返したくなる新入社員研修資料の作り方【チェックシート付】
効果抜群の管理職研修資料!資料作成のコツとよくある質問に回答

質問する機会を用意する
受講者の理解度を確認し、双方向のやり取りを生むために、途中や最後に質問の機会を設けましょう。「質問できる場がある」ことを事前に伝えておくことで、安心感が生まれ、受講者の集中力や学びへの主体性も引き出しやすくなります。

話し方・資料・質問タイムという3つの工夫を意識することで、講義型研修の質は格段に向上します。

アーティエンスの事例

アーティエンスでは、行動変容を促すことを目的とした研修を実施しているため、講義だけで完結する研修は行なっていません。ただし、部分的に講義の手法を取り入れています。

当社の研修の基本的な流れは、事前講義→実践的なワーク→事後講義を行う設計です。

例えば、社会人の自覚研修では、まず、「社会人とは」をテーマにした事前講義を行います。

その後、グループワークやケーススタディを通して、自分なりの社会人像を考える場を設け、最後に振り返りと定着を行います。

講義だけでは受講者に変容を促すことは難しいため、他の手法と組み合わせて行うことをおすすめします。


講義型は、「知識のインプット」や「共通理解の形成」に適した手法です。
ただし、受講者の定着や行動変容を目指すには、ワークやディスカッションなど他の手法との組み合わせが鍵になります。

研修で講義の手法を使用する際は、これらのポイントを意識して実施することで、受講者に理解してもらいやすくなります。

【eラーニング】のメリット・デメリット、ポイント、実施事例

eラーニング(動画学習)は、収録された動画教材を視聴しながら学習を進める研修手法です。個人で学ぶスタイルが主流ですが、集合研修の一部として活用されることもあります。

【eラーニングのメリットとデメリット】

メリット ・(人事として)研修の準備がしやすい
繰り返し見直すことができる
・(個別に学習する場合)受講者が場所や時間に縛られずに学習できる
デメリット ・受講者の反応に応じて内容を柔軟に変えることができない
・相互作用がなく、理解が浅くなる場合がある

eラーニングは、「個別にスキルを身につけてほしい」「繰り返し学んで定着させたい」という場面で効果を発揮します。

例えば、
・マーケティングやITツールなど、基礎スキルを学習させたいとき
・社内で一律の操作・マナー・制度を理解させたいとき
・忙しい現場社員向けに、時間や場所に縛られず学べる環境を提供したいとき

など、「知識の習得」や「行動の型づけ」に適した手法です。

効果的に行うためのポイント

eラーニングは一方通行になりやすい分、受講者の主体性と学習内容の鮮度が重要です。
以下の2点を意識することで、効果的な学習を支援できます。

受講者が主体的に参加できる仕掛けを組み込む
受講者が主体的に参加する機会を設けられているコンテンツにしましょう。ただ視聴するだけの動画では、定着しにくいためです。課題に取り組む・考える時間を挟む・クイズ形式にするなど、頭や手を動かすアクションを促す工夫が重要です。

また、難易度を段階的に上げていく構成にすることで、「できた!」という成功体験を得られやすくなり、受講者の前向きな姿勢や継続意欲を引き出すことにもつながります。

組織や時代に合った内容かを見直す
eラーニングは一度制作すると使い回しがしやすい反面、古い情報や今の組織に合わない内容が残りがちです。

導入前に、以下二点をを見直すことが重要です。
・現在の組織の方針や価値観と合っているか
・今の受講者にとって本当に必要な知識・スキルか

誤った内容のまま提供してしまうと行動のズレや混乱を引き起こす可能性があります。

この2つを押さえることで、eラーニングは「単なる知識のインプット」から「行動につながる学び」へと進化します。

アーティエンスの事例

アーティエンスでは、ビジネスマナー研修の一部でeラーニング教材を活用しています。実際のやり取りや流れを見て、言動をイメージしやすくするためです。

当社のマナー研修の動画の特徴は、間違い探し形式の動画を採用している点です。受講者はまずマナー違反のシーンを視聴し、「何が問題か」を自分で考え、その後に正解を学びます。

この設計によって、受講者は「ただ見る」だけでなく、自分で考え、納得して学ぶ姿勢を自然に取るようになります。
また、間違った例を見て「このままじゃカッコ悪いな」と感じることで、マナーへの意識も高まります。


eラーニングは、時間や場所に縛られずに反復学習できる便利な手法です。一方で、一方通行になりがちな分、コンテンツの構成や設計に工夫が求められます。

受講者が「考えながら学ぶ」仕掛けを取り入れ、かつ組織に合った内容を提供することで、知識のインプットだけでなく、実践につながる学びを届けることができます。

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2)研修の手法②:実践型(ロールプレイング・シミュレーションワーク・ビジネスゲーム)

実践型は、受講者が実際に手や頭を動かしながら体験を通じて学ぶ研修手法です。

講義のように一方向で知識を受け取るのではなく、ワークやゲーム形式で自ら考え、発言し、行動することで、理解の定着や現場での活用につながりやすくなります

特に、受講者に「知っている」状態から「使える」状態へとスキルを移行させたい場面で効果を発揮します。

【解決したい課題の例】

課題 解説
座学だけでは現場で活かせていない 知識をインプットしただけで終わらせず、実際に使う練習の場を設ける
受講者の当事者意識が低い 自分の頭で考え、自分の言葉で発言する体験を通じて、「自分ごと化」されやすくなる。
現場でよくある状況を再現したい 実務に近いシーンを再現することで、対応の質や判断力を高めることができる。
受講者の行動や習慣を変えたい 実際に体験することで、自分のクセや思考パターンに気づき、行動変容が促される
チームで働く力を養いたい 役割分担や連携、合意形成などをチームで体験することで、実践的なチーム力が養われる。

このように、実践型の研修は体験を通じた気づきや学びが得られる点が大きな特長です。特に、受講者自身が現場で「実際にどう動くか」をイメージしながら学ぶことができるため、研修と実務が自然につながっていきます

実践型に該当する主な手法には、以下の3つがあります。

ロールプレイング
シミュレーションワーク
ビジネスゲーム

それぞれの手法について、特徴や効果的な活用ポイント、アーティエンスでの実践事例をご紹介します。

【ロールプレイング】のメリット・デメリット、ポイント、実施事例

ロールプレイングとは、「役割(role)」と「演じる(play)」を組み合わせた学習手法で、実際の業務シーンに近い状況を再現しながら、役割を演じることで実践的なスキルを身につける方法です。

【ロールプレイングのメリットとデメリット】

メリット 実務に直結するスキルを練習できる
他者からのフィードバックを受けて気づきが得られる
デメリット 「役になりきる」ことに恥ずかしさがあると効果が薄れる
・(人事として)シナリオ作成の負荷が大きい

ロールプレイングは、現場を再現した実践練習を通じて学ばせたい時に効果的です。

例えば、
・営業トークや電話応対の場面練習を行いたい時
・接客やクレーム対応など、状況判断力が求められる場面を体感してもらいたい時
・育成スキルやマネジメント行動を実際の場面で体験しながら身につけてほしい時

など、「その場の反応」や「臨場感」を伴って学ばせたい場面に適しています。

効果的に行うためのポイント

ロールプレイングは、リアルな場面設定と実践を通じて学ぶ分、準備や設計の質が学習効果を左右します。 以下の2点を押さえることで、効果的な研修を実現できます。

リアルなシナリオと役割分担を設計する
現場に即したリアルなシナリオを用意し、受講者が違和感なく役割に入り込める設計にしましょう。シナリオに非現実的な要素があると集中しにくくなり、学習効果が落ちてしまいます。

そのためには、実際の社員にヒアリングを行い、「現場でよくある会話」や「起こりがちな対応」をベースにシナリオを作ることが効果的です。

リアリティのある設定にすることで、受講後すぐに実務で活用できる内容に仕上がります。

フィードバックを受け取りやすくする工夫をする
ロールプレイングでは、お互いのフィードバックが大切な学びになりますが、慣れていないと「ただ褒めるだけ」になってしまいがちです。

効果的に行うには、
・フィードバックの観点を事前に共有する
・相手を傷つけない伝え方(例:「良かった点 → 改善点 → また良かった点」)を促す
・フィードバックの目的を明確に伝えておく
といったポイントを伝えておくことが大切です。

これにより、受講者同士が安心して建設的なやり取りを行えるようになります。

【参考コラム】
【例文付き】新入社員育成に必須!フィードバックのポイント解説
新入社員に響く【アドバイス例文】手順と成功のポイントも解説

こうした工夫によって、受講者は単なる知識習得ではなく、「自分の行動を振り返り、変えていくきっかけ」を得ることができます。

アーティエンスの事例

アーティエンスでは、リアルな場面を体感しなければ理解しづらいテーマを扱う研修で、ロールプレイングを取り入れています。

例えば、育成担当者・OJTトレーナー研修では、「部下の指導場面」を再現したロールプレイを通じて、ティーチング・フィードバック・コーチングの基本スキルを実践的に学びます。

この研修では、受講者の対応によってストーリーが変化します。育成がうまくいかなければ、現実でも起こりうる”痛み”を体験する設計です。

これにより、単なる知識ではなく、「行動の質」への気づきと変容を促すことができます。

受講者が現場に戻った時に研修で学んだことを以下えるようにするためにも、リアルな場面や役割を設定することを意識しています。


ロールプレイングは、現場に近い状況で実践練習を行うことで、行動変容を促すことができる強力な手法です。臨場感のある体験が、受講者の「腑に落ちる学び」につながります。

【シミュレーションワーク】のメリット・デメリット、ポイント、実施事例

シミュレーションワークとは、実際の現場で起こりうる状況を再現し、その中で受講者がスキルや知識を使って対応するワーク形式の研修手法です。チームでの取り組みが多く、実践力と同時に協働力も鍛えられます

【シミュレーションワークのメリットとデメリット】

メリット ・スキルや知識の現場での活かし方がわかる
チームとしての問題解決力や連携力が向上する
デメリット 長時間の設計になることが多い(例:3時間以上)
・(人事として)設計や準備に時間と労力がかかる

シミュレーションワークは、チームでの仕事を意識しながら、実務に必要なスキルや知識を状況に応じて活かせるようになってほしいときに特に効果的です。

例えば、
・ビジネススキルを「使える」レベルで身につけさせたいとき
・問題解決に必要な思考力や対人スキルを、実践を通じて鍛えたいとき
・チームでのPDCAや意思決定、役割分担を体験させたいとき

など、複合的な力の習得や実践応用を目的とした場面に最適です。

効果的に行うためのポイント

シミュレーションワークの効果を最大化するには、受講者が設定された世界観に入り込み、主体的に取り組める環境を整えることが大切です。以下の3つの観点を意識しましょう。

ワークの世界観や設定を丁寧に説明する
設定が曖昧だったり、理解のズレがあると、受講者が集中しきれず本来の学びを得づらくなります。そのため、ワークの目的・背景・登場人物・状況などを丁寧に共有し、全員が同じ理解で取り組めるようにしましょう。

ワークの世界観や設定は具体的に設定できている方が良いです。その分ワークの世界観や設定の理解は時間をかけて丁寧に行い、受講者が迷いなくワークに取り組める状態を作ることが必要です。

習得を目指すスキルを繰り返し使用できるように設計する
研修で習得を目指すスキルを繰り返し使用できるように設計しましょう。アメリカ国立訓練研究所の研究によると、実践・演習を通じた学習の定着率は75%とされています。

ワークの中で、同じスキルや思考を複数回使う構成にすることで、「わかる」から「できる」への橋渡しができます。

適切な時間管理と休憩の設計を行う
シミュレーションワークは集中度が高く、つい時間を忘れてしまいがちです。そのため、進行管理と休憩タイミングの明示が重要です。

基本的なの時間の使い方は、各チームで考えてもらって問題ないですが、この時間までにここまで進んでいなかったらサポートをする、など最低ラインを決めておくことは必要です。

また、講師側からに声をかけて休憩を促すことで、最後まで集中力を保てる環境が整います。

これらのポイントを押さえることで、受講者がワークの意図を正しく理解し、実務に近い形で主体的に取り組む環境を整えることができます。

研修でシミュレーションワークの手法を使用する際は、これらのポイントを意識して実施することで、受講者が主体的に参加し学びを得られる状態を作ることができます。

アーティエンスの事例

アーティエンスでは、受講者が学んだ知識やスキルを実務に活かせる状態にまで高めることを目的に、シミュレーションワークを積極的に取り入れています。

例えば、問題解決力研修では、「営業スキル向上のための企画を創る」というリアルな課題に取り組みながら、ヒアリング・対話・提案などのコミュニケーションスキルを、PDCAを回しながら繰り返し実践します。

※「営業スキル向上のための企画を創る」のシミュレーションワークを実施している様子

受講者は上司役の講師からその都度フィードバックを受け、実際の仕事のように緊張感のある環境で行動を積み重ねていきます。

そのプロセスを通して、「状況に応じて自分がどう動くべきか」を自ら考え、実践で再現できるレベルまでスキルを定着させていきます。


シミュレーションワークは、受講者がスキルや知識を「現場でどう活かすか」を体験を通して学ぶことができる強力な手法です。

学びを「理解」で終わらせず、「現場で使える力」へ変えるための実践の場として、シミュレーションワークを上手に設計しましょう。

【ビジネスゲーム】のメリット・デメリット、ポイント、実施事例

ビジネスゲームとは、仕事のシチュエーションを疑似体験としてゲーム形式で体感する研修手法です。受講者が普段の業務では経験できない場面に触れることで、理解や気づきを促進します。

【ビジネスゲームのメリットとデメリット】

メリット ・実務ではなかなか体験できないことを、擬似的に経験しながら学べる
・複雑な概念も、体感を通じて理解しやすくなる
デメリット ・ゲームとして楽しむことが目的化してしまうリスクがある
・(人事として)設計や準備に時間と労力がかかる

ビジネスゲームは、受講者が頭で想像しづらいテーマや、組織の視点で物事を考えてもらいたいときに適しています

例えば、
・経営判断や戦略立案の視点を疑似体験してほしいとき
・コスト構造や目標達成の意味を、感覚ではなく理解として落とし込みたいとき
・自分の役割や立場を客観的に見つめ直してほしいとき

など、「自分ゴト化しづらいテーマに気づきを与える」場面で力を発揮します。

効果的に行うためのポイント

ビジネスゲームは、ただ「楽しかった」で終わってしまわないように、設計段階から意図を明確にし、体験を学びにつなげる工夫が必要です。以下の2点を意識しましょう。

ビジネスゲームの途中に学びのポイントを伝える
受講者が難しさや手ごたえを感じているタイミングで、学んでほしい要素を言語化して伝えることで、納得感のある理解を促せます。

ただし、あまりに細かく中断すると没入感を損なうため、タイミングや頻度には配慮が必要です。

ビジネスゲームを終えた後に振り返りの時間を設ける
ゲーム後には、体験を学びに変えるための振り返りが必須です。
「何を感じたか」「なぜそうなったか」「どんな学びがあったか」を言語化することで、受講者自身が内省し、次の行動に繋げやすくなります。

振り返りの際は、「考えてほしい観点(例:判断基準、チームでの役割、目標意識)」を伝えておくと、より深い学びにつながります。

これらのポイントを押さえることで、ビジネスゲームを単なるレクリエーションではなく、深い学びの体験へと昇華することができます。

アーティエンスの事例

アーティエンスでは、受講者が想像しにくい「経営感覚」や「コスト感覚」を身につける研修において、ビジネスゲームを活用しています。

例えば、目標達成・コスト意識研修では、経営シミュレーションゲームを通して「お金の流れ」や「会社にかかるコスト」など、普段は見えづらい視点を体験してもらいます。

 

ゲームを通じて、「自分は会社にとってコストである」という気づきが生まれ、目標達成に向けた意識の醸成や、自身の立場・役割への自覚につながります。


ビジネスゲームは、受講者が経験しにくい状況を体感し、気づきと学びを得るための強力な手法です。
「楽しいだけ」で終わらせず、要所での解説と丁寧な振り返りを設けることで、深い学びへとつなげることができます。

3)研修の手法③:対話型(対話・ワールド・カフェ・OST)

対話型は、受講者同士が対話を通じて気づきを得ていく研修手法です。

講師が一方的に教えるのではなく、問いをもとに考えを言語化し、お互いの意見に耳を傾けながら視点を広げていく中で、学びや変化が生まれます

正解のないテーマに向き合うときや、自分自身や他者との関係性を見つめ直すような場面に特に効果を発揮します。

【解決したい課題の例】

課題 解説
自分の考えを言語化する力を育てたい 問いに向き合いながら話すことで、自分でも気づいていなかった価値観や感情を整理できるようになる。
他者の視点を取り入れて視野を広げたい 多様な意見や立場に触れることで、自分の前提を見直したり、考え方の幅が広がる
当事者意識を高めたい 自らの経験や想いを話し、仲間と共有することで「自分ごと化」されやすくなる。
チームの関係性を深めたい 表面的なやり取りではなく、本音ベースの対話を通じて、信頼関係の土台が築かれていく。
答えのないテーマについて考えたい 「正解」ではなく「自分なりの答え」を考えることで、行動や判断の軸が育つ。

このように、対話型の研修は、受講者一人ひとりが自分の内面に向き合い、他者と関わりながら学び合うことができるのが大きな特長です。

特に、ロジックや知識だけでは動かない「価値観」や「感情」を扱うテーマにおいては、対話によって深い納得感や意識変容が生まれやすくなります

対話型に該当する主な手法には、以下の3つがあります。

対話
ワールド・カフェ
OST(オープン・スペース・テクノロジー)

それぞれの手法について、特徴や効果的な活用ポイント、アーティエンスでの実践事例をご紹介します。

【対話】のメリット・デメリット、ポイント、実施事例

対話とは、お互いの価値観や考え方を尊重し合いながら意見を交わすプロセスのことを指します。単なる情報のやり取りではなく、「相手を理解しようとする姿勢」が求められる、深いコミュニケーション手法です。

【対話のメリットとデメリット】

メリット 相手への理解を深められる
・自分の視野や価値観が広がる
デメリット ・心理的安全性がないと、深い対話にならない場合がある

対話の手法は、相互理解を深めたいときに特に効果を発揮します。

例えば、
・営業部と技術部など、立場の異なる部門同士の関係性を良くしたいとき
・世代や役職の違いから生じる価値観のズレを埋めたいとき
・お互いに信頼関係を築きながら、協働できる土台をつくりたいとき

など、相手を知ることが協力の第一歩になるような場面におすすめです。

効果的に行うためのポイント

対話の質を高めるには、受講者全員が「理解し合おうとする姿勢」で臨むことが大切です。以下の3つのポイントを押さえることで、より実りある対話の時間をつくることができます。

断定的な言い方をしない
断定的な言い方をしないように気を付けてもらう必要があります。「あなたは間違っている」といった断定的な物言いは、相手にとって否定的に聞こえてしまい、対話が閉じてしまうためです。

「私はこう思うけど、どう感じますか?」「確かに、そういう考え方もありますね」といった相手を尊重する表現を意識してもらうことで、相手も安心して意見を出しやすくなります。

相手の話の良し悪しをジャッジするのではなく探求する姿勢を持つ
相手の話の良し悪しをジャッジするのではなく、「なぜそう思ったのか?」と探求する姿勢を持って話を聞くように意識してもらう必要があります。

良し悪しのジャッジは、相互理解につながらないためです。意見の後ろにある背景を聞くことで、自分にはない新たな気づきが生まれやすくなります。

一人の人が話しすぎないよう意識する
一人の人が話しすぎないように意識してもらうことも必要です。お互いの意見を平等に理解できるようにするためです。

時間配分を細かく決める必要はありませんが、バランスの取れた会話になるよう、「自分ばかり話していないか?」と時折振り返り、相手に問いかけたり、話す時間を譲るような意識を持って全員で協力し合うことが大切です。

これらのポイントを意識することで、受講者が安心して意見を交わし、対話を通じた深い相互理解が生まれやすくなります。

アーティエンスの事例

アーティエンスでは、認識のズレが生じやすい関係性において、対話を通じて相互理解を深める場を設けています。

例えば、新入社員・OJTトレーナー合同研修では、事前のサーベイと、研修内の対話ワークを通じて、お互いの想いや考えを率直に伝え合い、お互いの理解を深める機会を設計しています。

対話の中では、以下のような声が出てきます。一部をご紹介します。

「想像していた以上に、新入社員とのギャップが大きいことに気づけた」
「迷惑だと思っていたことが、実は感謝されていた。思い込みに気づいた」
「できないことばかり気になっていたけど、成長の過程なんだと実感できた」
「普段なかなか話せないことも、この場では素直に伝えられた」

このように、対話の場を持つことで認識のズレが解消され、関係性そのものが前向きに変化していきます。


対話は、相互理解を通じて視野を広げ、関係性の質を高めるための研修手法です。相手とのズレや違いに気づけたときに、行動変容のきっかけが生まれます

【ワールド・カフェ】のメリット・デメリット、ポイント、実施事例

ワールド・カフェとは、カフェのようなリラックスした雰囲気の中で、少人数に分かれて自由な対話を行う手法です。正解のないテーマを探求しながら、自分の考えを深めたり、他者の視点から学ぶことができます。

【ワールド・カフェのメリットとデメリット】

メリット ・答えのない問いを深く探求できる
・多様な意見や価値観に触れ、視野が広がる
デメリット ・心理的安全性が確保されていないと、対話が表面的になりやすい

ワールド・カフェは、正解がひとつではない問いに対して、自由に思考を巡らせてほしいときに効果的です。

例えば、
・「社会人とは何か?」「良い仕事とは?」といった価値観を深掘りしたいとき
・社員一人ひとりが、自分なりの考えやスタンスを言語化したいとき
・形式的なディスカッションではなく、本音ベースの対話を促したいとき

など、自身の内面と向き合いながら、他者と共に考えを深めていく場面に適しています。

効果的に行うためのポイント

ワールド・カフェでは、自由に思考を巡らせられる環境と問いの設計が、深い学びにつながります。以下の3つのポイントを意識しましょう。

自由に考えられる問いを用意する
自由に考えることのできる問いを用意しましょう。問いの言い回しに価値判断や正解をにおわせる言葉があると、受講者の思考が狭まりがちです。

例えば「良い社会人とは?」という問いにしてしまうと、社会人には良い社会人と良くない社会人に分けることができるという思考になりやすく、思考が制限されてしまいます。そうではなく「社会人とは?」のように、自由に解釈できるオープンな問いにすることで、受講者が自分の言葉で考えを深めやすくなります。

線が引かれていない白紙を用意する
白紙の模造紙やオンラインの場合はデジタルホワイトボードを使い、自由に言葉・イラスト・線などを組み合わせて表現できる状態にすることが理想です。
紙やスライドに枠線やフォーマットがあると、意見が分断され、自由な発想や相互作用が生まれにくくなります。

対話をする相手を入れ替える
対話の相手をラウンドごとに入れ替えることで、多様な意見に触れ、刺激を受けながら自分の考えをアップデートすることができます。

例えば3ラウンド制にし、2ラウンド目でテーブルをシャッフル、3ラウンド目に1ラウンド目と同じチームに戻る設計にすると、より多様な意見を知る機会が作られます。

これらの工夫を取り入れることで、受講者が安心して自由に思考し、他者と対話しながら自分なりの答えを見つける場をつくることができます。

アーティエンスの事例

アーティエンスでは、受講者のインサイドアウトを促すためにも研修の初めににワールド・カフェの手法を導入しています。

例えば、社会人の自覚研修では、「社会人とは何か?」についてワールド・カフェの手法を用いて、理解を深めています。

ワールド・カフェの問い
・round1 学生と社会人の違いとは何だろう?
・round2 「組織・世の中に貢献し、自身の幸せ度を上げる」社会人とは?
・round3 私たちの未来と今を豊かにするために、社会人のスタートをどのように切るといいのだろう?

アウトプットとして出てきた内容は次の写真のような内容でした。
さまざまな意見や表現が混ざり合う中で、参加者は「自分にとっての社会人とは何か」など自分の価値観を言語化する力を育んでいきます


ワールド・カフェは、正解のないテーマに向き合いながら、自分なりの考えを導き出すことができる対話手法です。

自分の言葉で考え、自分の言葉で語ることが、行動変容の第一歩になります。

【OST】のメリット・デメリット、ポイント、実施事例

OST(Open Space Technology)とは、受講者が自ら話したいテーマを提案し、それについて自由に対話・探求するプロセスです。進行の自由度が高く、参加者の主体性を引き出すことに特化した研修手法の一つです。

【OSTのメリットとデメリット】

メリット 受講者が自らテーマを決めることで主体性が促される
・対話を通じて実践的な問題解決につながる
デメリット ・進行が読めず、場の空気や安心感に左右されやすい

OSTは、受講者一人ひとりが「今、話したいこと・聞きたいこと」を持っているときに特に効果を発揮します。

例えば、
・社員の主体性が弱く、受け身な姿勢が目立つとき
・チーム内の本音が言いにくく、モヤモヤが溜まっているとき
・上司部下・同期間など、関係性の再構築や相互理解が必要なとき

など、「一人ひとりの内側から出てくるテーマ」を掘り下げる場面に適しています。

効果的に行うためのポイント

OSTでは、受講者の自主性と対話の安全性をどう確保するかが最大のカギとなります。以下の2つのポイントを意識しましょう。

受講者が安心して意見を出せる場を作る
受講者が安心して意見を出せる場を作りましょう。「本当は話したいことがあるけど、言えない…」という状態ではOSTの良さは発揮できません。

経営層が同席している、評価の目がある、静まり返った空気など、発言のハードルが上がる要因はあらかじめ排除しておきましょう。

講師やファシリテーターはできる限り関与せず見守る
講師やファシリテーターはできる限り関与せず見守るようにしましょう。OSTの醍醐味は、受講者自身がテーマと向き合い、自由に対話を展開していく点にあるためです。

講師やファシリテーターが口を出しすぎてしまうと、受講者の主体性を奪ってしまうことになります。たとえその場で雑談や停滞が見えても、途中で指導せずに一度任せて見守る姿勢が大切です。

最終アウトプットに対して、ポジティブフィードバックとより良くするためのアドバイスや問いを与えると効果的です。

これらの工夫により、受講者の内側から「話したい」「解決したい」という思いを引き出し、真の主体性に火をつけるOSTの価値を最大化できます。

アーティエンスの事例

アーティエンスでは、組織に混乱が起きている時や、個々で深めたいテーマが出てきやすい時にOSTの手法を取り入れます。

例えば、関係性構築力研修では、上司・トレーナーとトレーニーが素晴らしい関係性を創るために、新入社員やトレーニーが現場で抱えている悩み・違和感・問いを自らテーマとして挙げ、OST形式で対話を深めています。

最後には上司・トレーナーとトレーニーが素晴らしい関係性を創るためのアクションプランを出してもらいます。

※アウトプットイメージ

テーマが参加者発信だからこそ、対話には熱量があり、解決策に対しても本気で向き合う姿勢が見られます
納得感を持って対話を終えた受講者は、自らの意思で行動に移しやすくなり、研修後の実践にも繋がっています。


OSTは、参加者の「話したい」を出発点にした、主体性を引き出す対話型の研修手法です。
安心できる空間の中でこそ、本音が交わり、“自分ごと”としての問題解決と行動変容が生まれていきます。

【参考コラム】
ファシリテーターになるには?~何を目指し、身に付ければいいのか~
すぐ使える!ファシリテーション手法を公開!│成功循環モデルを強化する

4)まとめ〜アーティエンスでは研修手法を組み合わせて効果的な研修をサポート〜

本記事では、「講義型」「実践型」「対話型」という3つの研修手法について、特徴や適した場面、アーティエンスでの活用事例を紹介しました。

研修の手法①:講義型(講義とeラーニング)
知識や情報を効率よく伝えることができる研修手法です。オフライン・オンライン問わず多人数に同じ内容を届けられる反面、受講者が受け身になりやすく、定着のためには工夫が必要です。土台づくりや共通認識の形成に適しています。

研修の手法②:実践型(ロールプレイング・シミュレーションワーク・ビジネスゲーム)
体験を通じて「知っている」から「使える」へと変える手法です。リアルな課題に取り組みながら、現場での応用力やチーム力を養います。設計には工夫が必要ですが、行動変容や習慣づけに高い効果があります。

研修の手法③:対話型(対話・ワールド・カフェ・OST)
正解のない問いや価値観を扱う場面に有効な手法です。受講者同士が対話を重ねることで、多様な視点に触れ、自分なりの考えや行動の軸を見つけていきます。安心して話せる場づくりとファシリテーションが鍵となります。

研修効果を高めるには、「手法を正しく選ぶ」ことがとても重要です。
それぞれの研修手法には得意な場面があります。だからこそ、目的や対象、ゴールに応じて適切な手法を選び、場合によっては組み合わせて活用することが、より深い学びと成果につながります。

アーティエンスでは、課題や目的に適した研修手法を組み合わせ、最適な研修設計をサポートしています。

「どの手法が効果的かわからない」
「研修をアップデートしたい」
「現場での変化が見える研修をつくりたい」

——そんなお悩みがありましたら、ぜひ一度ご相談ください

また、当社が提供する各種研修プログラムでは、さまざまな手法を効果的に取り入れながら、受講者一人ひとりの意識と行動に変化を促す設計を行っています。

目的や課題に応じて選べる多彩なコンテンツをご用意していますので、こちらから詳細をご覧ください

研修の手法を意識することで研修効果をより高め、育成力の向上に繋げましょう。

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