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【ファシリテーション手法】すぐ使える12選│場創りから行動変容まで

 HOW TOと書かれた黒板 

2023/8/15更新ー2023/2/17作成ー

「ファシリテーションを行う際の手法を知りたい」と考え、本コラムにたどり着いたのではないでしょうか。

ファシリテーションスキルの習得には、ある程度時間はかかりますが、ファシリテーションの手法はオペレーションが決まっているので、すぐに身に付けることが可能です。もちろん、同じ手法を使っても、ファシリテーターによって差は出ますが、スキルと比較すると高い効果が見込めます。

そのため、スキル習得には経験を積んでいくことが必要ですが、手法は会議やワークショップ・研修の場で意識的に活用していきましょう。

本コラムを最後までお読みいただくと、すぐ使えるファシリテーションの手法を知ることができます。そして、読み終えてすぐに会議やワークショップで活用することが可能です。

執筆者プロフィール

迫間 智彦

大学卒業後、大手通信会社、アルー(株)勤務後、2010年にアーティエンス(株)を設立。業界歴17年。大手企業から、中小企業、ベンチャー企業の人材開発・組織開発の支援を行っている。専門分野は、組織開発、ファシリテーション。

1)すぐに使えるファシリテーションの手法12選

すぐに使えるファシリテーションの手法を、目的別にお伝えします。今回は、ファシリテーターとして、会議・ワークショップの場をホールドするために、成功循環モデルの観点(※)に沿って、手法を紹介します。

・「場の質」を高める手法3選
・「関係の質」を高める手法3選
・「思考の質」を高める手法3選
・「行動の質」を高める手法3選

【参考】 成功循環モデルと、「場の質」の関係
成功循環モデルとは、MIT組織学習センター共同創始者ダニエル・キム氏が提唱した考え方。
「関係の質が高まれば、思考の質が高まり、行動の質が高まり、結果の質が高まる、そしてさらに関係の質が高まる」という好循環が生まれます。ただし、「関係の質が低くなれば、思考の質が低くなり、行動の質が低くなり、結果の質が低くなり、そしてさらに関係の質が低くなる」という悪循環も生まれるという内容です。
この成功循環モデルを好循環にするために、場の質を高めていくことが重要だと言われています 場をどう扱うか? 当社、ファシリテーション研修のテキストより一部抜粋

「場の質」を高める手法3選

場の質を高める手法は、場の目的に沿った状況を創ります。
簡単にできる内容を、下記3つをご紹介します。

・OARR
・場のセッティング
・チェックイン

それぞれ詳しく説明していきます。

OARR

OARRを使うことで、会議やワークショップの場の質が上がります。会議やワークショップを行う際、目的や進め方などをOARRに沿って言語化していくことで、参加者の意識が統一されます。

「OARR(オール)」とは、デイビッド・シベッツ氏が提唱した「会議やワークショップをスムーズに進める」ためのフレームワークで、ファシリテーションする際には必ず知っておくべきフレームワークです。

※ 当社、ファシリテーション研修のテキストより一部抜粋

本フレームワークは、ファシリテーションの場に入る前の準備段階で作成する必要があります。そして、ファシリテーターは、このOARRを使いこなすことで、会議・ワークショップの場の質はとても高くなります。
例えば、下記の目的・目標を比較してみてください。どちらのほうが会議の質が上がるかは、一目瞭然です。

A社の営業会議 B社の営業会議
目的 売上達成のため、目標と現状の差分を明確にする。そして、事業戦略・戦術のPDCAを回すための情報収集と整理を行う 今期の売上達成
目標 事業戦略・方針のもと、顧客に素晴らしい価値を提供するための営業アプローチを、チーム全体で考える 現状を確認し、達成するためのアプローチを決める

参考までに、AgendaとRuleに関しても、具体例をお見せします。
下記のAgendaとRuleは、筆者がある経営会議で用いたものです。 アジェンダ 本日のルール

※ 本ミーティングでは、Rollはファシリテーターがいるだけでしたが、書記やタイムキーパーなども決めてもいいでしょう。

このように、「OARR(オール)」は、「会議やワークショップをスムーズに進める」ためのフレームワークであり、ファシリテーションをする際に必ず知っておいてほしいフレームワークです。

場のセッティング

場のセッティングを行うことで、会議やワークショップの場の質が上がります。会議やワークショップの意図に沿った場のセッティングができるためです。具体的には、

・レイアウト
・備品の手配
・空間設計

を行うといいでしょう。

【参考】レイアウトに関して レイアウト

※ 当社、ファシリテーション研修のテキストより一部抜粋

会議やワークショップの目的によって、レイアウトを変更します。報告会のような会議であればスクール形式でもいいかもしれませんが、対話が必要な会議であればバズ形式やサークル形式が良いでしょう。

【参考】備品に関して

※ 当社、ファシリテーション研修のテキストより一部抜粋

会議やワークショップの目的によって、必要な備品を利用します。例えば、ワークショップではじめに音楽を流すことで、柔らかい雰囲気になります。ワークショップ・研修開始まで静寂で待っていると、緊張状態が続くことが多いため、音楽を流すことは有効です。

【参考】空間設計に関して

※ 当社、ファシリテーション研修のテキストより一部抜粋

空間設計を把握し、場を整えます。例えば、参加者の人数に対して明らかに大きすぎる部屋の場合は、寂しさがあり、場の活性度に影響を与えます。パーテーション等を用意してもらって、調整するといいでしょう。

チェックイン

チェックイン(※)を行うことで、会議やワークショップの場の質が上がります。
チェックインを行うと、参加者の発言・態度などをファシリテーターが観察できます。ファシリテーターが観察することで、その後の会議やワークショップへの介入や進め方を考えることが可能です。

具体的なチェックインのやり方は、10名程度まででしたら全員一言話してから、会議・ワークショップ・研修に入ります。人数が多い場合や、時間がない場合は、3~4名のグループに分かれて、チェックインを行い、その後、数グループにどんな話をしたかを共有してもらうといいでしょう。

チェックインを行うことで、ファシリテーターが参加者や場の状況が見えるため、会議やワークショップをホールドでき、結果的に場の質が上がっていきます。

【参考】チェックインの注意点 チェックインには注意点もあります。事前に、話すテーマを決めたり順番を決めると、参加者が受け身になったり、オープンにならない場合があります。話すテーマや順番を決めると、その場の枠組みが決まり、ファシリテーターの指示のもと参加するという意味付けが強くなります。ファシリテーターの指示が強くなるように、参加者が感じると、ファシリテーターの答えを探すようになります。

そのためチェックインは、自由度高く実施する方が場創りに関しては望ましいです。チェックインに時間がかかりすぎるケースも出てくるので、当社ではチェックインの前に下記ルールを説明して、実施します。

※ 当社、ファシリテーション研修のテキストより一部抜粋

「関係の質」を高める手法3選

関係の質を高める手法は、参加者同士の心理的距離を縮めます。簡単にできる内容を、下記3つご紹介します。

・チェックイン
・相互インタビュー
・ポジティブフィードバック

チェックイン

場の質を高める際に紹介したチェックインですが、参加者の関係の質も上がります。会議・ワークショップ・研修に入る前に、一人一言話します。このことにより、お互いの背景が分かります。そのことから、相手への理解が深まると言われており、関係の質が上がる効果があります。

例えば、「体調が優れない」という発言をした方がいたら、他の参加者はフォローしようという考えが生まれるかもしれません。この時にチェックインを行わない場合は、「体調が悪い人」という認知ではなく、「(体調がすぐれないにもかかわらず)機嫌の悪い人」という認知になり、行動もフォローではなく、そっけないものになるかもしれません。

チェックインを行うことで、場の質を上げるだけではなく、参加者の関係の質を上げることも可能です。

相互インタビュー

相互インタビューを行うことで、関係の質が上がります。お互いのストーリーを深く知るため、理解が深まります。この際、インタビューシートの問いは、ポジティブな問いにしたほうがいいでしょう。参考として、当社のオンボーディングの際に行うインタビューシートを一部抜粋してご紹介します。

ポジティブフィードバック

ポジティブフィードバックを行うことで、関係の質が上がります。お互いの良い部分を探すことになり、承認や肯定感が強くなります。

例えば、営業会議などであれば、受注した際に何が良かったのかを探求し、ポジティブフィードバックを行います。結果ではなく、受注に行くまでのプロセスを紐解いていくといいでしょう。失注したときの課題解決の探求よりも、再現性が強くなり、パワフルに活用できるという側面もあります。ワークショップや研修の場合は、グループワーク等の後にお互いの良かった点を探すとよいでしょう。
また、インタビューと連動するのも一つの方法です。インタビューが終わった後に、グループメンバー全員から、インタビュー(インタビューを受けた方)のストーリーの感想として、ポジティブフィードバックを行うのもよいでしょう。

ポジティブフィードバックを行うことで、関係の質が上がっていきます。

「思考の質」を高める手法3選

思考の質を高める手法は、思考を深めたり広げたりします。簡単にできる内容を、下記3つご紹介します。

・素晴らしい○○とそうでない○○
・Tチャート
・マトリックスによる認知の可視化

素晴らしい○○とそうでない○○

「素晴らしい○○とそうでない○○」を行うことで、思考の質が上がります。「○○」に入るものは、会議やワークショップの目的にあわせます。

【参考】「素晴らしい○○とそうでない○○」のイメージ

※ 当社、※ 管理職のリーダーシップ開発ワークショップのテキストより一部抜粋

本手法を用いることで、チーム学習を促したり、他の参加者の意見により自身の認知が広がります。

具体的な進め方としては、

1. 個人ワーク (5分程度)
2. グループワークでのシェアと、ショートダイアログ(10~15分程度)
3. 全体シェア(5~10分程度)

です。
※ ファシリテーターが注意することは、「正解・不正解はなく、自由に考えること」と伝えていただくことです。正解・不正解を探すのではなく、探求することが重要だからです。MECEではなくてもいいと伝えるのもいいでしょう。

本手法を行ったときに、大きな変化は見られませんが、チーム学習をするマインドが醸成されたり、自身の認知の拡がりを緩やかに感じることができるので、後々のセッションに大きな影響を与えていきます。

Tチャート

「Tチャート」を行うことで、思考の質が上がります。
※ 横軸は、「メリット・デメリット」や、「事実・意見」、「Good Point・Needimprove Point」などさまざまな物を活用できます。

【参考】「Tチャート」のイメージ 分かっていること分からないこと

本手法を用いることで、思考が整理されたり、論点が明確になれば深く考えていくことが可能です。

具体的な進め方としては、

1. 個人ワーク (3~5分程度)
2. グループワークでシェアと、ショートダイアログ(10~15分程度)
3. 全体シェア(5~10分程度)

です。本手法を行うことで、チームでの議論・対話のきっかけを作ることが可能です。思考の質は、高まっていくでしょう。

マトリックスによる認知の可視化

「マトリックスによる認知の可視化」を行うことで、思考の質が上がります。
※ 縦軸・横軸は、会議・ワークショップの目的に応じて決めます。

【参考】「マトリックスによる認知の可視化」のイメージ 下記は、中堅メーカーさまの新入社員の配属前研修の内容です。

本手法を用いることで、参加者の認知が明確になるので、議論・対話のきっかけを作ることが可能です。

具体的な進め方としては、

1. 個人ワーク (3~5分程度)
2. グループワークでシェアと、ショートダイアログ(10~15分程度)
3. 全体シェア(5~10分程度)

です。本手法を行うことで、チームでの議論・対話のきっかけを作ることが可能です。思考の質は、高まっていくでしょう。

「行動の質」を高める手法3選

行動の質を高める手法は、思考を言語化し、行動レベルに落としていきます。簡単にできる内容を、下記3つご紹介します。

・宣言文
・未来への一歩
・バトンメール®

宣言文

宣言文を使うことで、参加者の行動の質が上がります。

【参考】「宣言文」のイメージ

下記は、中堅メーカーさまの新入社員の配属前研修の内容です。

チームで宣言文を創ることで、仲間と共にコミットを高めていきます。具体的な場面では、プロジェクトの会議では宣言文という形ではなくプロジェクトビジョンを創ります。ワークショップや研修などでは、最後のワークとして宣言文を創ることが多いです。

本手法を行うことで、チームでの行動変容を促し、仲間と共にコミットを高めていきます。

未来への一歩

未来への一歩を使うことで、参加者の行動の質が上がります。

【参考】「未来への一歩」のイメージ

下記は、中堅メーカーさまの配属前研修の内容です。

最後に、自身が「どう変わるか」、「どう行動するか」を宣言することで、自身の行動変容につなげます。チームで創った宣言文をもとに未来への一歩を創ることで、行動変容への効果が高まります。

本手法を行うことで、個人の行動変容を促し、コミットを高めていきます。

バトンメール®

バトンメール®を使うことで、参加者の行動の質が上がります。バトンのように、特定のグループの中でメールを回していく、会議・ワークショップ後のフォローツールです。(メール以外にも、グループチャット等での実施も可能です)

【参考】「バトンメール®」のイメージ

会議・ワークショップ・研修後のフォローとして活用することで、リフレクションを促し、行動変容につなげていきます。

【具体的な進め方】

1. 新入社員に意識して欲しいことを基に、’問い’を作成しメールの文言を考えます
2. 新入社員をグループ(4~6人)に分けます
3. 各グループのなかで1名指定し、その方からバトンメール®をスタートします
4. メールを作成し、グループメンバー全員にメールを送ります
5. メールの文末に、次にメールを送ってほしい人を指名します
6. 指名された人は、次の1週間内にメールを作成し、グループメンバー全員に送ります
7. メールの文末に、次にメールを送ってほしい人を指名します
※ 6~7を繰り返します

【バトンメール®を実施する際のポイント】
・文頭でアイスブレイクを入れる
・メールの順番は新入社員に任せる
・人事もCCに入れ、メール送付が遅れている場合は声掛けをする
・終了時期を決める

バトンメール®の大きなメリットは、人事や新入社員の負担が少なく実施できる点です。また、終了時期を予め決めておくことで、新入社員も「いつまで続くのだろう?」という気持ちにならず、取り組むことができます。例えば、「プロジェクトの企画段階まで」や「フォロー研修の時期」を設定し、実施できると良いでしょう。

本手法を行うことで、チーム・個人の行動変容を促し、コミットを高めていきます。

2)ファシリテーションの手法を使う際の注意点

ファシリテーションの手法を使う際の注意点として、下記2点があります。

・手法より大切なのは「あり方」
・伝え方(オペレーション)を丁寧に

それぞれ説明していきます。

手法より大切なのは「あり方」

手法よりも、何より重要なのは「あり方」です。
手法を用いることで場に素晴らしい影響を与えますが、手法よりもファシリテーターのあり方が与える影響の方がとても大きいです。ファシリテーターは、促進者という立場で場をホールドします。「企画者が落としたいゴールへコントロールする」の考えで手法を用いると、参加者の当事者意識・主体性は解放されません。表面的には上手くいったように見えても、現場は何も変わらないということが起きます。

まずは、ファシリテーターのあり方として、その場にどのように関わるのか、貢献するのかを、ファシリテーター自身が問い続ける必要があります。

伝え方(オペレーション)を丁寧に

手法を用いる際は、伝え方(オペレーション)を丁寧に行うことが必要です。
伝え方(オペレーション)を丁寧に行うことで、参加者の余計な迷いが無くなったり、当事者意識・主体性が解放されます。

例えば、オンラインでZOOMを活用される場合は、口頭だけではなく、チャットで再度伝えたり資料などに落としておくことで、ブレイクアウトルームに行った後でも、参加者は迷いが無くなります。リアルで行う場合は、敢えてオペレーションを緩やかに伝えることで、質問を促し、参加度合いを高めて、当事者意識・主体性を持たせることも可能です。

伝え方は、ファシリテーターが場に介入できる部分でもあるので、丁寧に扱っていきましょう。

3)まとめ

本コラムでは、すぐに使えるファシリテーターの手法を、成功循環モデルに沿ってお伝えしていきました。

・「場の質」を高める手法3選
・「関係の質」を高める手法3選
・「思考の質」を高める手法3選
・「行動の質」を高める手法3選

本手法を目的に沿って、活用していただければと思います。また、ファシリテーションの手法を使う際の注意点でお伝えしたとおり、「手法より、あり方」と、「伝え方(オペレーション)を丁寧に」を大切にしてください。ご紹介したファシリテーションの手法を活用して、素晴らしい会議やワークショップを創っていただければと思います。

アーティエンスでは、ファシリテーション研修も実施しているので、ご興味がある方はぜひご連絡ください。