※ 本コラムでの中小企業の定義は、社員数30~500名程度の組織を指します。そのため、大企業であっても、事業部の管理職研修を行う際は、参考にされてもよいでしょう。
※ 研修を行うにあたって、悩みが明確な方は、「3. 中小企業の社員研修の導入でよくある質問20選」をお読みいただき、その後「1. 中小企業で行う研修は、自組織の課題を解決する研修」と「2. 中小企業の社員研修の内容とは、2つの課題を解決することが重要」をお読みいただいても構いません。
実業務と繋がった研修効果を体感すると、研修は面倒なものというより、学ぶことで実業務に活かせるという認知に変わります。そうすると、経営者はより人材開発・組織変革に投資しますし、現場も自分たちにとってメリットがあるので、協力度合いが強くなります。
2)中小企業の社員研修の内容とは、2つの課題を解決することが必要
中小企業の社員研修の内容とは、2つの課題を解決するために行います。
具体的には、
・事業課題を解決する内容 : 営業力が弱く売上上がらない、一つのヒット商品に依存している、顧客満足が下がり顧客離れが起きているなど
・組織課題を解決する内容 : 離職率が高い、管理職が機能していない、受け身の社員が多いなど
です。 この二つの課題は、複雑に絡み合っているケースの方が圧倒的に多いため、それを紐解き、優先順位を決めて、課題解決をしていく必要があります。そのために、まず課題を洗い出し、そしてそれらの課題がどのように絡み合っているかを紐解き、その課題からアプローチするのが必要かを考えていく必要があります。
この時の思考方法としては、システムシンキングという思考方法を使うといいでしょう。
イメージが付きやすいように、当社がご支援した企業さま(コンテンツビジネス事業。社員数200名程度)との課題の整理を行った内容をお見せします。
事業課題・組織課題を経営陣4名と共に丁寧に紐解いていきました。 経営陣が始めに認識していた課題は下記のとおりでした。
・次世代リーダーが育っていない
・ヒット商品の売上が鈍化し、新しい商品が生まれない
・新しいヒット商品を創る気概を、事業部長・管理職からは感じない
・株価も下がり始めている
・部門間を超えたコミュニケーションが、ミーティング以外で見られない。雑談もない。仲が悪く、縄張り意識もある
・事業部長・執行役員が目の前の仕事が忙しくて、新しい商品の企画が全く上がってこない
これらの課題がどのように絡み合っているのかを把握するために、システムシンキングという思考方法をもとに、組織の状況を可視化していきました。
※ 下記システム図は、お客様の言葉を尊重して作成しているため、飛躍している部分もあります。
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上記内容を簡単に説明すると、
・組織風土として、部下へのハードマネジメントを行うので、上司への信頼がなく、チーム力が弱い
・ハードマネジメントをするので、挑戦したいとは思えず、今までの成功体験に依存して、目の前の利益ばかりに固執する
・目の前の利益ばかり追うので、目の前の仕事しかしない
・目の前のことばかりになるので、自部署しか見ず部分最適になり、部門間の壁は高くなる
・挑戦の気持ちもないので、アイディアは出ず、新サービスは生まれない
になります。
今回の事例では、上記の流れを解決していくために「自部署の正当性」という課題に目を向けました。組織として、「どのように一体感を持つのか」を考えて、そのために執行役員・事業部長、そして経営者が組織をどうしていきたいかを考えてもらいました。
「自部署の正当性」ではなく、自分たちがどのようなビジョンを大切にしたいかを考えていき、言語化します。そうするとことで、部門間の壁が無くなったり、上層部がビジョンのために素晴らしいリーダーシップを発揮しようと考えて、悪循環になっていた流れを、好循環に変えていくというアプローチを行いました。
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この企業では、次世代リーダー研修と、管理職研修をメインに行いましたが、2年間で下記のような効果がありました。
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このように中小企業の内容とは、2つの課題である事業課題・組織課題を解決するために、研修を行います。
これらは、「人材育成の体系図の策定」、「新入社員研修」、「管理職研修」等の実施でも変わりません。
実施方法などを詳しく知りたい方や、本事例をより詳しく知りたい方は、下記のコラムをぜひご覧ください。
3)中小企業の社員研修の導入でよくある質問とは?
中小企業が社員研修を行う際に、よくある質問をまとめましたので、ぜひこちらを参考にしてください。
【事業課題に関しての質問】
Q1. 売上を上げたいのだが、どんな研修をしたほうがいいのか?営業力を上げる研修をしたい
回答
売上に関しての課題の洗い出しが必要です。「売上が下がっているのか?停滞しているのか?よりドライブをかけたいのか?」などで全く変わってきますし、そもそも研修で効果が発揮できるかもわかりません。
よくお聞きする失敗例は、「営業研修を入れたけど、まったく効果がなかった」などです。これは、営業に問題があるのではなく、戦略に問題がある可能性もあるかもしれませんし、もしかしたら、ターゲットの選定が悪かったり、離職が続き人が育っていないことなどが原因かもしれません。
目の前の売上に囚われるのではなく、何が事業課題なのか、組織課題なのかを紐解いていく必要があります。今回の事例のように、まずは課題洗い出し、何を実施したほうがいいかを考えていくといいでしょう。
Q2. 新しい事業を創っていきたい
「新規事業開発が進まないこと」への課題の洗い出しが必要です。新規事業開発のやり方が分からないのであれば、新規事業開発に関連した研修としてデザイン思考研修などを導入すればいいですが、「新規事業開発を行う風土がない」のであれば、研修を行っても、恐らく効果はないでしょう。
よくお聞きする失敗例は、「デザイン思考研修を行い、コンサルを入れたけど、結局うまくいかなった」などです。そもそも、新規事業や新サービスは簡単に成功はしません。何度もチャレンジすることが必要ですし、根気も必要です。そして、失敗を許さずチャレンジする風土がないケースも見られます。
プロジェクトとしてアクションラーニング(※)を用いる方法もありますし、コンサルタントと長期契約が必要な場合もあります。
※ アクションラーニングとは・・・現場に戻り、組織における現実の課題に対する解決策を考え、実行していくことで、個人・組織の学習する力を向上させる学習法です。主は、学習効果を高めていくことになり、課題解決が主ではありません。主従が逆転すると、学習効果が下がります。
今回の事例のように、まずは課題を洗い出し、何を実施したほうがいいかを考えていくといいでしょう。
【組織課題に関しての質問】
Q3. 会社の雰囲気を良くしたい。心理的安全性の研修を行いたい
会社の雰囲気を良くしたい背景を紐解いていく必要があります。「離職率が高くなっているのか?」、「個人プレイが多く、チーム力が弱いのか」などを洗い出し、さらにそれを深ぼっていきます。
一つ事例をお伝えすると、当社にご相談いただいた例で、「会社の雰囲気を良くしたい」というご相談がありましたが、最終的には「会社の雰囲気を良くする必要はない」という判断になった組織があります。
理由は、一人ひとりが自律していて、個人としてもチームパフォーマンスも高かったためです。心理的安全性という言葉が流行っていたため、経営者がその言葉に振り回され、それを取り入れようとしていたようです。ただすでに心理的安全で言われる「ラーニングゾーン(※)」にいる状態でした。最終的には、自己啓発の機会を増やそうということで、他社様の学び放題の動画サービスを導入されていました。
「会社の雰囲気を良くしたい」背景を考えて、リソースも予算も使っていただくといいでしょう。
Q4. 離職を無くしたい
離職に関しての課題の洗い出しが必要です。「離職が下がっている背景は何か?」、「離職が起きると、どのような問題が出ているのか?出てくるのか?」等を考えていきます。
例えば、離職の原因が、パワハラ・セクハラ問題や、業界水準と比較して給与が低すぎる場合など衛生要因と言われるもので、研修を行っても解決しません。この場合は、パワハラ・セクハラを起こしている社員に対しての対応が必要になりますし、業界水準と比較して給与が低すぎる場合は、人事制度や評価などを見直していく必要があります。
まずは、課題を洗い出し、研修で解決できる課題かを考えていったほうがいいでしょう。なお、離職に関して、下記内容は参考になると思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
Q5. 教育制度が整っている会社としてみられたい
「教育制度が整っている会社としてみられたい」ために、教育制度を創ることには、当社は反対しています。
理由は、効果がないためです。多くの動機として福利厚生がよいイメージを創り、採用のアピールとしているケースが見られます。多くの場合は、「受け放題の動画サービス」を入れたという話を聞くことがあります。採用時点では訴求されたとしても、実際入社して、育成支援が弱い場合は入社後のギャップに繋がり、エンゲージメントが下がったり、離職に繋がります。
教育制度を整えることでどんな効果を得たいのかを考えて、企画運営することが必要です。
Q6. もっとチャレンジする会社になってほしい
「チャレンジがない。チャレンジが少ない」ことに対して、課題の洗い出しが必要です。原因がわからなければ、適切な対策が行えないためです。
よくお聞きする失敗例は、「チャレンジを促すマインドセット研修を行ったが、効果がなかった」や、「会社のバリューに挑戦という言葉を入れ、浸透するためのワークショップを行ったが意味がなかった」などです。「チャレンジをしろ」と言っても、人はチャレンジをしません。理由は、チャレンジをするためには、内発的動機づけが必要なためです。
今回の事例のように、まずは課題洗い出し、何を実施したほうがいいかを考えていくといいでしょう。
Q7. パワハラ・セクハラを無くしたい
現時点で、パワハラ・セクハラが起きているのであれば、パワハラ・セクハラが起きている当人へのアプローチが必須です。パワハラ・セクハラが起きやすい社風であれば、起きない仕組みづくりが必要です。人事制度の再設計も必要ですし、また人事や産業医などの相談窓口を設けるなどです。もちろん啓蒙のために、研修を実施するのもいいでしょう。下記コラムも参考になると思いますので、こちらもご確認ください。
Q8. 社員のレベルが低いので、基礎的なことを教えてほしい
「どの程度のレベルになってほしいのか」をまず言語化することが必要です。さらに、具体的な行動ベースまでに落としていくと、実施する研修が明確になっていくでしょう。
例えば、「考える力が弱いので、思考力をあげたい」というのであれば、どの階層がどのレベルまでになってほしいかなどです。管理職が事業戦略を立てるための思考力と、一般社員が企画力を付けるための思考力では、習得するスキルが異なります。社員に求めるレベルの解像度を上げていくことが必要です。
【研修の内容や進め方などに関しての質問】
Q9. 人事制度を変えたので、それに伴い研修制度も見直したい
研修制度を固定化するより、その年によってテーマを設定していく方法をお薦めします。
階層別のコンピテンシーを決めて、研修もしっかり決めていく方法もありますが、現在の人材開発・組織開発の分野では、少し時代遅れになってきています。時代の流れが速いため、求められるスキルなどが変わっていくためです。そのためスキルを固定化できません。
そのため、組織課題や戦略をもとに、その年の人材開発のテーマ(コンセプト)を決めて、どの階層に何を実施するかを考えていくといいでしょう。
あるメーカー様(200名規模)の事例として、企画内容を下記にお見せしますので、よければご参考にしてください。 
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Q10. ビジネススキルがないので、学ばせたい
「ビジネススキルがない」がないことで、どのような課題が起きているのかを確認することが必要です。課題の確認がないと、ビジネススキル系の研修を行っても的外れになったり、対象者も参加意欲を持てないためです。
よくお聞きする失敗例を一つ上げると、管理職がマネジメント力がないので、管理職研修を受けさせようなどです。管理職の役割は多いため、何が足りていないかを考えて、必要なスキル習得を行うことが必要です。これは、他の階層でも例外はありません。
Q11. 人を集めるのが大変なので、動画を見せて終わりでもいいか
何もしないよりは、実施したほうがいいですが、効果はそれほど高くないことと、悪影響が出る可能性もあることは念頭に置くといいでしょう。
例えば、動画を見て、強制的にレポートを書かせるなどになると、そのことに対してネガティブに思う社員のエンゲージメントは下がります。代替案としては、少人数でも構わないので、1~2時間程度の社内勉強会などを実施し、育成文化を創っていくことをお薦めします。
Q12. 予算はどれくらい必要か
実現したいことによって、予算は変わってきます。解決したい課題によって、時間軸も変わりますし、投入されるリソースも変わるでしょう。
例えば、メンタルヘルスの啓蒙を行うのみであれば、産業医に1~2時間程度のメンタルヘルス研修の実施でいいかもしれません。メンタルヘルスの問題によっての離職が高いということが起きているのであれば、仕組みづくりから行う必要もあるでしょう。何を解決して、実現したいかを考えていく必要があります。
Q13. 研修はしたいが、「経営陣から投資対効果は?」と、必ず聞かれる
人材育成・組織変革において、投資対効果をみるのはとても難しいため、人材育成・組織変革においてのゴール設定を、可能な限り経営陣と一緒に創ることをお薦めします。※ 難しい場合は、こまめに確認を取って、経営者や責任者のフィードバックを反映させていくことが必要です。
そのことにより、経営陣が当事者意識を持ち、理解・納得しやすくなります。それでも難しい場合は、小さいスタートを行うように働きかけるといいでしょう。
Q14. 時間も予算もあまりかけたくないが、早く効果を出したい
人や組織の成長に時間はかかるため、時間も予算もかけないで効果を上げることはできません。 限られたリソースで早い効果を上げていくためにも、本コラムで説明した内容を実施していただくといいでしょう。
1)中小企業で行う研修は、自組織の課題を解決する研修 2)中小企業の社員研修の内容とは、2つの課題を解決することが重要
よくある失敗例は、研修会社を低価格で選び、何も効果が出ないパターンです。そうすると、経営者も現場も「研修=悪」という認知になり、さらに研修に関して後ろ向きになっていきます。
Q15. どこまでカスタマイズをすればいいか
カスタマイズを行うか行わないかは、あくまで企画を考えた上で判断を行うといいでしょう。基本、研修会社のパッケージは創り込まれているので、企画の目的からそれた些末なカスタマイズは行わないほうがいいです。カスタマイズを行う目的は、研修効果を最大限高めて、課題を解決するためのものとして扱っていきます。
Q16. 小さいスタートではなく一気に行いたい
組織によっては、急激な変革が必要な場合があります。その場合も、今回の事例のように、課題解決の優先順を明確にすることと、現場が耐えられる体制や、フォローできる体制を創っておくことが必要です。急激な変革は、自組織の否定と破壊が強くなるためです。
例えば、組織変革を進めることで、離職率やメンタルヘルスの問題が起きることが想定できるのであれば、そのための施策・体制を創っておくとよいでしょう。
Q17. 研修をすると、現場が嫌がり非協力的だが、どうしたらいか
当社がおすすめするのは、プロジェクトにして、現場を巻き込んで行うことです。そのことで、現場も当事者意識を持ちやすくなります。
この時の注意点としては、現場に協力的な人やハイパフォーマーのみで実施することはお薦めしません。
なぜなら、このメンバー構成にすると、組織に選ばれた人と捉えて、現場の溝が大きくなるためです。そのため、可能な限りその組織の縮図にしていくといいでしょう。ハイパフォーマーもローパフォーマーもいれば、協力的な人も非協力的な人もいるとうチームです。この時にローパフォーマーがやる気になっていたり、非協力的な人が現場でポジティブな発言をしていると、現場の認知が好意的に変わっていきます。
Q18. 社員を鍛え直してほしい
鍛え直すというアプローチは行わないほうがいいです。組織が正しくて、現場が悪いという認知になっており、現場のエンゲージメントは下がります。
あくまで、今回の事例のように課題を整理して、優先順位を決めて、その上でどのような対応を行うとよいかを考えていく必要があります。
参考コラムとして、下記内容もご紹介させていただきます。
Q19. 研修を行う期間や時期はいつがいいのか
研修の企画次第です。研修効果を最大限高めていくために、どの時期にどのような内容をどの程度行ったほうがいいかを、考えていく必要があります。
ただし、よくない実施方法として私たちがよくお伝えするのは、GW前・夏休み・年末年始休暇など、長期休暇の前に研修を実施するのはお薦めしておりません。長期休暇前に行うと、認知変容・行動変容が起きていても、休みによってリセットされてしまう可能性があるためです。
唯一、長期休暇前にお薦めする研修は、エンゲージメント・モチベーション低下が起きている社員に対してフォローするための研修です。長期休暇に入り、組織と離れたときに、家族や友人との関わりで今の組織に居ても仕方ないと思い、離職してしまうケースがあるためです。組織の問題ではなく、自身の問題であっても、組織の問題にすり替えてしまう場合があります。
具体的な例としては、夏休み前に新入社員へのフォロー研修を行うなどです。少し社会人に慣れてきて、さらに夏の暑さによる体力を失い、モチベーション低下が起きる場合があります。このモチベーション低下は、組織の問題ではないですが、適切なフォローをしないと、新入社員は組織に対してネガティブな感情を持つケースがあります。例えば、友人から「そんな企業はブラックだ」という発言があり、それを真に受けるなどです。新入社員や若手社員は、人としての成熟度(精神的成長)が未熟なため、他責にしてしまうことがあります。このような時にフォローとして、研修を行うことは一つの方法です。
Q20. 内製化と、外注を行う割合はどの程度がいいのか
組織の状況によって、割合は変わります。組織にどのような課題があり、どのような未来を描きたいかによって変わっていきます。
よくお伝えするのは、内製化のみ、外注のみというのはNGということです。内製化のみですと、内容が時代遅れになっていたり、外部講師の方が参加者の意見を聞きやすいということもあります。外注のみになると、外部への依存度が高くなり、当事者意識が弱くなっていくためです。
状況にあわせて、内製化と外注のバランスを取っていただけるといいと思います。
4)まとめ
本コラムでは、中小企業における研修の位置づけや企画・実施方法が分かり、研修実施の失敗のリスクが下げるための方法をお伝えいたしました。
具体的には、下記二点です。
・中小企業で行う研修は、自組織の課題を解決する研修であり、事業課題と組織課題を解決することが重要
・中小企業の社員研修の導入でよくある質問への回答
本コラムを通して、自組織に必要な研修を企画・運営していただければと思います。アーティエンスは、さまざまな中小企業さまにご支援していますので、何かあればお気軽にご相談ください。