管理職研修の必要性を経営者・管理職に理解してもらうためのアプローチ

更新日:

作成日:2023.8.4

 管理職研修 必要性

「管理職研修の必要性」って、何だろう?

このような問題意識を持って、本コラムにたどり着いたのではないでしょうか。

管理職研修の必要性、経営陣にどのように伝えたらいいのだろうか?」
「管理職研修の必要性を管理職本人に伝えて、しっかり学んでほしい」

という背景があるのではないでしょうか。

結論をお伝えすると、管理職研修の必要性の有無は、組織の状況によって変わります。
本コラムでは、下記内容をお伝えしていきます。

・管理職研修が必要なケースと、必要ではないケース
・管理職研修の必要性を、経営者・事業責任者にどのように伝えていくか
管理職研修の必要性を、管理職にどのように伝えていくか

本コラムを最後までお読みいただくと、「自組織にとって、管理職研修が必要かどうか」と、「管理職研修の必要性の伝え方」を知ることができます。

監修者プロフィール

迫間 智彦

大学卒業後、大手通信会社、アルー(株)勤務後、2010年にアーティエンス(株)を設立。業界歴17年。大手企業から、中小企業、ベンチャー企業の人材開発・組織開発の支援を行っている。専門分野は、組織開発、ファシリテーション。

1. 管理職研修の必要性は、組織の状況を観て判断する

管理職研修の必要性は、組織の状況を観て判断することをお勧めします。管理職研修を行う目的(※)は、“課題解決”と“役割認識”に分けられますが、その2つの観点で管理職研修が必要かどうかを判断するといいでしょう。

この2つの観点で「管理職研修が必要なケースと、管理職研修が必要でないケース」の基本的な考え方を、事例をもとにお伝えしていきます。

1-1. 管理職研修が必要なケース

管理職研修を行ったほうがいいケースは、2点です。

・課題解決を行うのに、管理職の認知変容・行動変容が必要な場合
・管理職の役割認識をきっかけに、組織としての一体感をより高めたい場合

それぞれ説明していきます。

課題解決を行うのに、管理職の認知変容・行動変容が必要な場合

課題解決を行うのに、管理職の認知変容・行動変容が必要な場合は管理職研修を行ったほうがいいでしょう。ハード(システム・仕組・ルールなど)の導入だけでは、難しいケースが該当します。
具体的には、下記のようなものが上げられます。

・管理職本人の課題 : 
「部下育成ができない」「目標達成をするマネジメント力がない」など
・組織課題 : 
「エンゲージメント低下による離職率増加」「部門間の壁が高く、部門間のコラボレーションが生まれない」など
・事業課題 :
 「コロナにより営業スタイルが変わり、営業力低下、売上が低迷」「新規事業開発の進みが悪い」など

これらはシステムを入れたり、仕組み・ルールを変えただけでは課題解決が難しい場合が多いです。「仏を作って、魂入れず」の状態になります。管理職は「言われたからやる」という意識になり、システムや仕組み・ルールも上手く根付いていかないでしょう。
これらの課題に対しては、管理職研修の必要性は高いと言っていいでしょう。

参考: システムの導入や仕組み・ルールだけで、課題解決をしたときの危険性
よく見られるケースは、表面的に課題が解決したように見えるが、また新しい問題がより大きな問題として出てくる場合です。課題解決を進める際によく起こる現象であり、もぐらたたきの状態が続きます。
例えば、「残業時間を減らすために、システムを入れる」という施策を行った際に良く起こる反応をご紹介します。

・結局システムを利用せずに、昔のやり方を行っており、何も変わらない
・システムを利用する時間が増えて、余計効率が下がった(隠れ残業が増えた)

システムの導入や仕組み・ルールで解決できることも多いですが、それだけでは難しい場合も多くあります。

管理職の役割認識をきっかけに、組織としての一体感をより高めたい場合

管理職の役割認識をきっかけに、組織としての一体感をより高めたい場合は、管理職研修を行ったほうがいいでしょう。管理職の役割を伝える方法は他にもありますが、管理職が一堂に集まることで管理職同士、時には管理職と経営陣の一体感を強く醸成することが可能です。

具体的には、下記のようなものが上げられます。

・会社の方針を伝える場合 : 
「経営陣と管理職の一体感を醸成する」「部門間を超えた一体感を強める」など

・新しい役職に昇格した場合や、次の役職への準備を行う場合 : 
「新任管理職研修を通して、切磋琢磨する仲間を作る」「次世代リーダー研修を通して、組織をよりよくする仲間を作る」など

これらはメールを送っただけや、簡単な説明会で進めるだけでは、組織の一体感を持つのは難しいです。管理職研修の必要性は高いと言っていいでしょう。

1-2. 管理職研修が必要でないケース

管理職研修が必要でないケースは、2点です。

・課題解決を行うのに、管理職の認知変容・行動変容が必要ではない場合
・管理職の役割認識を伝えるときに、管理職が数人しかいない場合

それぞれ説明していきます。

課題解決を行うのに、管理職の認知変容・行動変容が必要ではない場合

組織課題・事業課題の解決を行うのに、管理職の認知変容・行動変容が必要ではない場合は、管理職研修を行わなくて良いでしょう。
具体的には、下記のようなものが上げられます。

・組織課題 : 
「人事制度の陳腐化」「新入社員・新人の受け入れ態勢の仕組化(オンボーディングの仕組化)」など

・事業課題 :
 「イノベーションが生まれるための仕組化」「人材不足によるリソース確保への対応」など

・(参考)管理職本人の課題 : 
「一部の管理職のハラスメントや、パフォーマンスの低下」など

これらは、経営陣や人事が対応すべきものです。例えば、人事制度が陳腐化しているにもかからわず【目標設定・管理】の研修を行っても、上手くいかないケースが多いです。現状の人事制度と【目標設定・管理】の研修の内容とで連動がないので、歪がより生まれます。管理職研修の必要性は低いと言っていいでしょう。

(参考)小さな一歩としての管理職研修の位置づけ
管理職研修の位置づけとして、小さな一歩の施策として行うのは、良いことです。
例えば人事制度が整っていなかったとしても、目標設定・管理の研修を行い、現状でできることを、管理職と共に考えたり、今後の人事制度をアップデートするための材料を得るのもの一つの方法です。

管理職の役割認識を伝えるときに、管理職が数人しかいない場合

管理職の役割認識を伝えるときに管理職が数人しかいない場合は、管理職研修を行わなくてもいいです。そもそも管理職研修が実施できないということも多いですし、管理職の役割を伝える方法は他にもあります。

代替案としては、個別対応をするといいでしょう。

「中小企業で昇進する人が少ない」という例を挙げてお伝えします。無理やり新任管理職研修を行うよりも、動画配信サービスなどを利用して学び、その後にコーチをつけるなどの方が投資対効果がいいでしょう。管理職研修の必要性は低いと言っていいでしょう。

参考: 少人数の管理職に対して研修を行いたい場合は、公開講座がおすすめ
公開講座の管理職研修で効果はでるの?事前に確認したい3つのポイント

2. 管理職研修の必要性を、経営者・事業責任者にどのように理解してもらうか?

管理職研修に対する反対意見は、主に下記の5つがあります。

・費用対効果はどの程度あるのか
・現場が忙しいから無理
・過去に同じようなことをやって意味がなかった
・過去に成功した事例はあるのか
・今、他に優先事項がある

これらはすべて「やらない理由」を探しています。

「1. 管理職研修の必要性は、組織の状況を観て判断する」で管理職研修の実施が必要だと判断したのであれば、管理職研修は実施するべきです。

一方で、上記の反対意見に対して経営陣や事業責任者を説得しよう」という働きかけは、お勧めしません。さらに反対する態度が強化される場合が圧倒的に多いです。その背景には、変わることへの経営者・事業責任者の恐れや、面倒だというネガティブな感情があるためです。

この感情を払拭する方法は、共創と対話を行い、管理職研修の実施に対して、前向きになってもらうことです。
最もよい方法は、管理職研修の企画会議に経営者・事業責任者の参加を促すことです。企画会議に参加することで、管理職研修を進める当事者としての意識が高まり、管理職研修への想いが強くなっていきます。対話のなかで【管理職研修を通して、どのように“課題解決”と“役割認識” の目的を達成していくか】を考えるといいでしょう。
管理職研修の企画会議に経営者・事業責任者の参加が難しい場合は、進捗報告をこまめに行い、意見をもらいながら、一緒にアップデートしていくといいでしょう。

参考:管理職研修に対しての反対意見への対応
経営者・事業責任者に対して説得するという文脈はNGですが、対話の中でも反対意見はできてきます。その時に対応をお伝えします。※ 「基本方針」以外は、あくまでも参考例としてください。
・基本方針:
議論をするのではなく、探求する。その反対意見の背景を確認したり、どうしたらその問題を乗り越えられるかを、共に考えます。
・「費用対効果はどの程度あるのか」 :経営陣・事業責任者と、管理職研修のゴールと、要件定義を行います。
下記コラムの事例を参考にしていただくといいでしょう。
参考:管理職研修を通して、課題解決を促した事例を詳しく知りたい方へ
【管理職研修】管理職が”変われる”と確信が持てる内容にするべき

・「現場が忙しいから無理」:
「今、すぐではなく、年間計画で決めていくのはどうでしょうか」と伝えるといいでしょう。
さらにこの時の反対意見として、「そんな先のことは分からない」というケースです。
その際は「○○という課題を、組織としてそのままにしてもいいのでしょうか?この課題とちゃんと向き合わないと、組織も現場もいつまでたっても、この課題が付いて回ります」と伝えてもいいでしょう。


・「過去に同じようなことをやって意味がなかった」:

「その時の失敗を糧にして、どのようにしたらうまくいくかを考えませんか?」
さらにこの時の反対意見として、「現場の状況が変わっているのだから、過去の失敗意見を出しても意味がない」というケースです。その際は「現場の状況が変わっているのであれば、現場にあわせた内容を共に考えませんか」と伝えてもいいでしょう。

・「過去に成功した事例はあるのか」:

※ 事例がある場合は、他社事例を伝えてもいいでしょう。
「新しいチャレンジのため、成功確率を少しでも上げる方法を、共に考えませんか?」と伝えるといいでしょう。
さらにこの時の反対意見として、「絶対、成功するのかを聞いている」というケースです。その際は「どのようなリスクや阻害要因があるかを考えていきませんか」と伝えてもいいでしょう。

・今、他に優先事項がある:
「いつ頃なら、管理職研修の実施は可能でしょうか」と伝えるといいでしょう。
さらにこの時の反対意見として、「そんな先のことは分からない」というケースです。
その際は「○○という課題を、組織としてそのままにしてもいいのでしょうか?この課題とちゃんと向き合わないと、組織も現場もいつまでたっても、この課題が付いて回ります」と伝えてもいいでしょう。

3. 管理職研修の必要性を、管理職自身にどのように理解してもらうか?

管理職自身が抱く、管理職研修へのネガティブな感情は主に2つあります。

・忙しい中、管理職研修を受けたくない
・管理職研修は意味がないと思っている

参考: 意味がない管理職研修を、詳しく知りたい方へ
意味がない。無駄!と言われる管理職研修12パターンとその回避策
管理職研修を受ける際に管理職の多くは、この感情のどちらか、もしくは両方持っていると考えて良いでしょう。
このネガティブな感情をふまえながら、必要性を伝えるために、下記の5つのことを実施すると良いでしょう。

・管理職研修の企画の際に、想定されるネガティブな反応を洗い出す
・事前に管理職研修の目的を丁寧に伝える
・管理職研修の前に、経営者・事業責任者が挨拶を行う
・管理職研修と実業務との連動を体感する
・研修に対して前向きになった感情を、管理職自身に言語化してもらう

それぞれ説明していきます。

3-1. 管理職研修の企画の際に、想定されるネガティブな反応を洗い出す

管理職研修の企画の際に、想定されるネガティブな反応を、可能な限り洗い出すことが必要です。その反応を洗い出すことで、事前に対応が可能になるためです。
下記のようなものを考えていくといいでしょう。

・管理職研修の実施を伝えたときに、どんな声が出てきそうか
(ex) 「プロジェクトが佳境で研修受けている余裕がない」、「また経営陣が思い付きで始めた」など
・管理職研修の現場で、どんな反応がありそうか
(ex)「管理職研修中でも携帯を操作して、メールをチェックしている」、「表面的な話しか出てこない」など
・管理職研修が終わった後にどのような声が出てきそうか
(ex)「やっぱり時間の無駄だった」、「現場では使えない」など

このように洗い出したネガティブな反応に対して、どのような対策を行っていくかを企画段階で考えていきます。

「3-2.~5」で、対応方法例もお伝えしていきます。

3-2. 事前に管理職研修の目的を丁寧に伝える

事前に管理職研修の目的を丁寧に伝えることが必要です。事前に目的を伝えることで、管理職研修が何のために行われるか、また、自身の参加理由が理解できて、必要性に気付けるでしょう。

具体例として、コンテンツビジネス事業会社の管理職研修の事前連絡メールを、ご紹介します。

このように管理職研修の目的を、伝えていくといいでしょう。

3-3. 管理職研修の前に、経営者・事業責任者が挨拶を行う

可能な限り管理職研修の前に、経営者・事業責任者が挨拶を行うことをお勧めします。経営者・事業責任者が、挨拶を行うことで管理職研修への本気度が伝わり、管理職は研修の必要性を強く感じられるようになります。

例えば、社内の人間関係の問題から若手社員の離職率が高く、この課題を解消するために、管理職に対して心理的安全性の研修を開催することとなりました。

その際は、下記のような挨拶を行うことで、管理職は目的も知りながら、経営者の本気度や想いを理解します。

【挨拶例】
「今回の心理的安全性の研修を、まずは影響力の高い管理職のみなさんが受講することで、みなさんが中心となり、組織風土を変えて欲しいと思っています。なぜ心理的安全性の研修を行うかというと、若手社員の離職が多くなっているからです。これでは、当社の未来は明るくありません。離職が続けば、現場の負担も増えるでしょう。この組織課題を解決するために、本日の心理的安全性の研修の学びを活かし、私たちと一緒に組織風土を変えていきましょう!それが組織・若手社員・私たちにとって、明るい未来に繋がっていくと考えています。管理職のみなさんと共に、私たちは本気で取り組んでいきたいと思っています」

このように研修前に経営者・事業責任者が、想いを持って管理職研修の目的を踏まえて、挨拶を行うといいでしょう。

3-4. 管理職研修と実業務との連動を体感する

管理職研修と実業務との連動を体感することが必要です。実業務との連動が起きることで、「現場で使える!」という意識になり、研修の必要性を強く感じられるためです。

よくある失敗する管理職研修とは、ケーススタディやグループワークのみで終わらせてしまうことです。研修中は学びがあったと感じても、現場に行って使えないと感じる場合もあります。そのため、グループワークなどが終わった後に、「現場で活用できること」と「きれいごとだと思うこと」などを考え、それをどのように乗り越えていくかを、対話をしていくことをお勧めします。現場での違和感を出し、それを解消していく働きかけをすることで、実業務との連動は強くなっていきます。

(参考)受講生を説得する講師は、NG
「現場のことを考えると、きれいごとだ」、「現状を考えると、研修の内容を行う時間がそもそもない」などの意見や質問が、受講生である管理職から出てくるケースがあります。
その際、講師が説得するのはNGです。その場で説得できたり、また論破したように見えても、管理職の意識も行動も変わらないからです。どうすれば、その状況を乗り越えて、学びを現場で活用できるかを、管理職と共に探求することが必要です。

3-5. 研修に対して前向きになった感情を、管理職自身に言語化してもらう

管理職研修に対して、前向きになった感情を言語化してもらうことが必要です。言葉にすることで、自身の認知が強化されます。そうすると、次回の管理職研修の実施がある場合、研修に対してポジティブな感情を持つ可能性が高くなりますし、まだ未受講の管理職に対して「あの研修はよかったよ」など前向きな発言を行うようになります。

具体的には、管理職研修内に振り返りの時間を設けて、研修での学びを言語化していきましょう。内容は、下記の3つは基本入れたほうがいいでしょう。

・管理職研修での学び・気付き・発見
・現場で活かせそうなポイント
・学びを阻害するものと、それをどのように乗り越えていくか

当社が管理職研修実施する際に、よく使用する振り返りシートを下記にお見せします。
※ 管理職研修後のレポートやアンケートの代替としても活用できます。

参考: 管理職研修の振り返りシート

実際に、管理職が言語化した内容もお見せします。

このように管理職研修に対して、前向きになった感情を言語化することで、研修に対する必要性を改めて実感することができます。

まとめ

本コラムでは、「管理職研修の必要性」をテーマにお伝えしていきました。

具体的には、下記3点をお伝えしました。

・管理職研修が必要なケースと、必要ではないケース
・管理職研修の必要性を、経営者・事業責任者にどのように伝えていくか
・管理職研修の必要性を、管理職にどのように伝えていくか

本コラムを通して、「自組織にとって、管理職研修が必要かどうか」と、「管理職研修の必要性の伝え方」を知ることができたのではないでしょうか。

管理職研修を通して、管理職が組織の今の課題を解決し、そして明るい未来を創っていく働きかけを行っていくことが必要です。

多くの組織で管理職研修が必要と言っても構わないでしょう。

管理職研修の必要性を周囲に伝えていくのは、骨が折れることもありますが、より具体的な進め方や企画を知りたい方は、当社までご相談ください。