【事例有り】意義ある管理職研修に導く目的設定ガイド|目的明確化までのポイント解説

更新日:

作成日:2023.6.23

ファシリテーション

「管理職研修の目的は、どのように設定したらいいのだろう?」
「自社の管理職に意義のある研修とは、どんなもの?」

そんな想いを持って、このコラムにたどり着いたのではないでしょうか。

・研修会社から管理職研修のラインナップを見せてもらったけど、なぜかピンとこない
・内製で管理職研修を企画しているが、目的設定の部分で経営者から承認が下りない

実は管理職研修を実施する際の”あるある”です。「管理職研修の目的」は難しいテーマですが、しっかりと考えることで管理職研修の成功確率がとても上がります。

本コラムでは「そもそも管理職研修の目的とは何か?」そして「自社の管理職に意義のある管理職研修を実施するには、どのように目的を設定すると良いのか」をお伝えしていきます。
本コラムを読みながら「自組織の状況にあわせた、管理職研修の目的」を考えてもらえると嬉しく思います。

監修者プロフィール

迫間 智彦

大学卒業後、大手通信会社、アルー(株)勤務後、2010年にアーティエンス(株)を設立。業界歴17年。大手企業から、中小企業、ベンチャー企業の人材開発・組織開発の支援を行っている。専門分野は、組織開発、ファシリテーション。

1. 管理職研修の目的は“役割認識”と“課題解決”に分けられる

管理職研修の目的は大きく下記の2つに分けられます。

1)管理職の役割認識・遂行を目的とした研修
→自社が掲げる「管理職として求める姿」に近づけるための研修です

2)目の前の課題(管理職本人・組織・事業)の解決を目的とした研修
→「自組織で起こっている課題」を起点として、その課題を解決するために実施する研修です

世の中にはさまざまな管理職研修がありますが、この2つ切り口で考えを進めると良いでしょう。まずはシンプルに考え、企画や選定を進めていくことで経営者や人事の方々の悩みも少なくなります。

イメージが付きやすいように、2つの目的別に具体的な研修内容を下記に記載します。

目的 管理職研修の例(一部)
役割認識・遂行
を目的とした研修
・新任管理職研修
・次世代リーダー研修
・役職別管理職研修
・(参考)管理職候補研修
目の前の課題の解決を
目的とした研修
部下育成(OJT/1on1/コーチング)研修
目標管理/評価面談研修
チームとしての業務遂行力研修
・管理職同士のチームビルディング研修
・リーダーシップ研修
・戦略思考研修
・財務、会計理解研修
・問題解決(クリティカルシンキング、システムシンキング)研修
・人事労務管理研修
・メンタルヘルス研修
・コンプライアンス研修

・女性管理職研修

2章・3章で、管理職研修の2つの目的に関して、詳しく説明していきます。

2.管理職の役割認識・遂行を目的とした研修

「組織が管理職に求める役割を知り、全うするために実施する研修」です。管理職本人が組織に求められる役割を知ることは、日々の業務における多くの判断を迷わず実施できるようになるためにとても重要です。また、その役割を遂行するために必要なスキルを研修で学ぶことも、実践していく上で必要な機会です。

「管理職の役割認識・遂行を目的とした研修」で一般的なものは、下記です。
・新任管理職研修
・次世代リーダー研修
・役職別管理職研修
・管理職候補研修(※)

※正確には対象者は管理職ではありませんが、次期管理職として重要な階層であるため、あわせて記載しています

(参考) 「管理職の役割認識・遂行を目的とした研修」の内容を、詳しく知りたい方へ
・新任管理職研修の目的は、チームの成果・成長への意識転換を促すこと
・【次世代リーダー育成プログラム】次世代リーダー研修で抑えたい3つの内容
・管理職候補者向け研修で得られる3つの効果|内容選定時の注意点も解説!

それぞれ説明します。

2-1.新任管理職研修の目的と概要

新任管理職研修の目的は「一般社員から、管理職への認知変容・行動変容(パラダイムシフト)を起こすこと」です。

管理職になり、今まで求められていた役割と変わります。ただ、役割が変わったことを伝えるのではなく、自身の取り巻く世界が大きく変わり、その新しい世界でパフォーマンスを出していく必要があります。

例えば、一般社員の場合は、基本的には自身の成果と成長が最重要項目であり、コミットが高くなります。管理職は、チームの成果と成長にコミットしなければなりません。そのためには、下記の役割があると言われています。
・部(チーム)における業務遂行
・職務権限に基づく意思決定・決裁
・情報の伝達と共有
・メンバーの育成・評価
・チームビルディング
・モチベーション管理
・労務管理・健康管理
・コンプライアンス管理
・プレイヤー業務
・リーダーシップの発揮

管理職の役割に興味がある方は、下記コラムもぜひお読みください。
管理職の役割と責任│変化するビジネス環境に対応するために必要なこと

役割の変更を伝えるとともに、役割のなかで自組織にとって重要な項目を選び、優先的に研修を組んでいくことが必要です。

2-2.次世代リーダー研修の目的と概要

次世代リーダー研修を行う目的は「管理職から、経営者になるための準備」です。

経営者の役割は、管理職として今まで求められていた役割と大きく変わります。「一般社員から管理職」よりも「管理職から経営者」に役割が変わることの方が、自身の取り巻く世界が大きく変わるでしょう。その新しい世界でパフォーマンスを出していくためには、本来充分な能力開発の時間が必要になります。

経営陣の役割は「事業開発・推進」と「組織創り・変革の推進」のための意思決定です。
「事業開発・推進」では、経営理念の実現を念頭に、社会貢献・顧客満足・売上と利益、それぞれを意識しながら諸課題を統合・両立し、事業を開発・推進するための意思決定をします。
組織創り・変革の推進」では、「『事業開発・推進』」を力強く進めるために、組織をアップデートし続けながら、あわせて、社員の幸せを高めていくための意思決定を行います。

このように次世代リーダー研修を通して、「管理職から、経営者になるための準備を行う」ことが必要です。

2-3.役職別管理職研修の目的と概要

役職別管理職研修を行う目的は「各役職で求められる役割を理解し、実行する」です。組織によって、課長・部長・本部長(事業部長)で求められる役割はそれぞれ異なります。

例えば、「方針策定」に対するアプローチも、それぞれの組織・役職によって異なるはずです。本部長は全社的・長期的な観点をふまえて、最適な戦略を練る。部長は中期的な観点をふまえて、自部署の戦略を練る。課長は方針策定には直接的に関与せず、策定された方針に沿って課の目標を設定し、動機付けしながらメンバーに伝える等です。

自組織でそれぞれ求められる役割を正しく認識、遂行できるように、研修の目的・内容を決めていく必要があります。

※参考 役職別管理職研修のトレンド
人事制度上の役割に紐づけた役職別管理職研修は、減少傾向にあります。理由は、他の研修を行ったほうが費用対効果が高いと考える組織が多いためです。役職別管理職研修を行うにしても、自組織の実際の課題と紐づけて実施するケースが多いです。

2-4.管理職候補研修の目的と概要(参考)

管理職候補研修を行う目的は「一般社員から、管理職になるための準備」です。10年前と比べて、管理職に求められる役割は多くなり、責任も重くなっています。そのため、より丁寧に一般社員から、管理職への準備を行うことが求められています。

具体的には(新任管理職研修で説明した)管理職の役割の一部を切り出し、その役割を遂行するために必要となる研修を前もって行う、等です。チーム力が弱い組織であれば、チームビルディングや部下育成を行うのもいいでしょう。管理職同士の連携が弱いのであれば、情報の伝達と共有を高めていくための研修を行ってもいいでしょう。

このように管理職候補研修では、管理職に求められる役割のうち、どの要素を切り出すのかを決めて必要なスキルを伝えていくことが必要です。

(参考)管理職候補研修を通して、管理職登用へのアセスメントを行う
管理職候補研修を通して、管理職登用へのアセスメントを行う組織もあります。能力開発をしながら、研修を通して管理職の適性や能力があるかを確認していきます。本格的なアセスメントを行うケースもあれば、講師からのフィードバックですませるケースもあります。

3.目の前の課題(管理職本人・組織・事業)の解決を目的とした研修

目の前の課題(管理職本人・組織・事業)を解決するのための研修では、実際の現場で起こっている課題からテーマを検討し、解決するための研修を行います。そのため、組織によって具体的な研修目的は異なります

課題の例
・管理職本人の課題 : 
「部下育成ができない」「目標達成をするマネジメント力がない」
・組織課題 : 
「エンゲージメント低下による離職率増加」「部門間の壁が高く、部門間のコラボレーションが生まれない」
・事業課題 :
 「コロナにより営業スタイルが変わり、営業力低下、売上が低迷」「新規事業開発の進みが悪い」
※これらの課題はお互いに影響し合っていることが多く、それぞれの関係性を整理することも大切です。

このような課題を解決を行うことを目的として、管理職研修を行います。よりイメージを持てるように、当社が管理職研修を通して管理職本人・事業・組織課題を解決した事例をお伝えします。

3-1.【事例から学ぶ】研修の目的設定から研修後のフォローまでのステップ

「コンテンツビジネス事業会社(マザーズ上場会社(当時)。社員数200名程度)」の事例をお伝えします。下記の手順で進めました。

1. 企画 : 組織の真の課題に目を向け、目的を定める
2. 準備 : 研修受講への意識を上げていく
3. 運営 : 管理職が当事者意識を持つために、予定調和に終わらせない
4. 研修後フォロー : 内省とチーム学習を通して、行動変容を止めない

それぞれのステップごとに、下記に説明します。

3-2. ステップ1|【企画】組織の真の課題に目を向ける

下記のプロセスで、組織の真の課題を見つけていきました。

1. 課題を全て洗い出す
2. 課題の関連性を確認する
3. 真の課題を把握し、研修の目的と内容を決定する

プロセスに沿って、説明していきます。

1. 課題を全て洗い出す

本事例では「ストレスチェックの結果が悪かったので、管理職研修を行いたい」というお話があり、ここから真の課題を探求していきました。以下は、お客様から、実際に頂いた資料です。

#守秘義務のため、一部加工しております。

お客様が抱える組織課題は明確でしたが、さらに深く対話をしていったところ・・・

・新規サービスは立ち上がるが、マネタイズする気配がない
・新規サービスの失敗が多く、現場が疲弊している
・管理職はプレイヤーとして優秀だが、チームとして仕事ができていない

などの別の組織課題の話があり、これらの課題は複雑に絡み合っていました。

2. 課題の関連性を確認する

さらに組織課題を紐解いていくために、当初解決したい課題であった「メンタルをやむ・離脱する」の背景に何があるのかを、お客さまとの対話しました。すると、下記のような組織背景・課題が見えてきました

「役員・幹部社員の方針変更スピードが速い」→「現場で新たなチャレンジや変更点が多発する」→「現場社員は頭では理解しているが業務が追い付かない」→「各所でミス・失敗が続き、恐れや諦めが生まれる」→(そもそもの課題である)「メンタルを病む・離脱する→「新たなチャレンジが実を結ばない」→「役員・幹部の方針変更の必要性が発生する…」という悪循環が続く。

【参考】実際にはシステムシンキングという思考方法をもとに、組織の状況を可視化していきました。

※ システム図は、実際にお客様と作成したものです。その場で認識をすりあわせながら作成しているため、飛躍している部分もあります。

もし、すぐにプログラムの選定を行っていたら、上記のような組織課題は浮き彫りにならず、根本的な課題にアプローチすることは難しかったでしょう。

3. 真の課題を把握し、研修の目的と内容を決定する

その後、まずどのポイントに注力して課題を解決していくのかを考え、テーマを決定しました。
※レバレッジ(小さい力で大きな効果を生む)ポイントともいわれます

結果、「管理職個人での抱え込み」と「失敗の数」のポイントに注力して、それらを解決できるテーマを選定することとなりました。

本お客様と対話をするなかで、本お客様は
管理職個人での抱え込みに対しては“管理職同士の連携”」
「失敗の数に対しては“チームとしての業務遂行”」
が、組織課題を解決できるものだという認知になっていきました。

「管理職同士の連携」では、自チーム内はもちろん、管理職同士の連携も高めることで、管理職個人の抱え込みを無くしていくことにしました。
「チームとしての業務遂行」では、メンバーの個人での抱え込みや失敗の捉え方を変えていくことにしました。

次は、管理職研修の目的・コンセプトと要件定義を創ります。目的・コンセプトと要件定義は、以下のように進めます。

• 管理職研修を通して、何を成し遂げたいか?大切にしたいか?(目的 ・コンセプト)
• 研修現場でどのような変化を目指すか?(研修要件)
• 研修で学んだことを実践することで、現場でどのような変化が起きていくか?(効果要件)

「研修の目的(コンセプト)」と「目指す姿(要件定義)」を行き来しながら、最終的に下記のようなコンセプトと、要件定義になっていきました。

(参考)研修の目的:
共創の場を創る管理職-素晴らしいサービスが生まれ続けるチーム創り-

(参考)目指す姿※ 「現場」と書かれた記載が効果要件になります。

いよいよ研修内容の選定です。どのようなストーリーで、目指す姿を実現していくのかを考えていきました。なお、講師の選定の際は「ストレスの解消方法を教える」というよりも、「管理職の方々が部下の当事者意識・主体性を最大限発揮することを促しながらも、今抱えている組織課題に対して知識不足に陥らないようにする事が必要」であったため、組織変革の経験があるファシリテーターを選定していきました。

このように企画していくと、研修効果はとても高まるでしょう。

(参考)管理職研修の企画承認を得る際の重要なポイント

管理職研修の企画承認を得る際には、早い段階で当事者として、経営者を巻き込みましょう。理由は、2点あります。

1点目:管理研修の効果が変わる
考え抜いた企画であればあるほど、情報量の多さにより、その文脈が伝わりきらないことがあります。そのため経営者から適切なフィードバックを得られることができないことも多くあります。そうすると、結局は経営者の考えのみを形にする内容になり、効果がとても低くなる可能性があります。逆に早い段階で経営者を巻き込めると、経営者の考えや想いも入り、研修品質が上がるだけではなく、経営者自身が管理職研修への関心を強く持ち、コミットも高まるでしょう

2点目:経営者自身が体感する研修効果が高まる
経営者と要件定義を考えると、経営者自身がその要件がしっかりイメージでき、腹落ちしています。そのため「効果があったのか?コンセプトは達成できたのか?」を強く体感でき、次の施策につなげていくことが可能です。進め方としては、「課題の洗い出しから経営陣に入ってもらう」、難しい場合は「進捗報告をこまめにして、その都度経営者の意見やフィードバックをもらうこと」です。

これらのコミュニケーションはできればメールだけではなく、口頭で実施するようにしましょう。経営者の方は時間がないので、時間が取れないという方もいますが、管理職研修は会社に大きなインパクトを与える研修です。そのことを伝えてもいいと思いますし、このコラムを読んでいただいてもよいのではないでしょうか。組織へのインパクトが大きい管理職研修の企画承認を得る際には、早い段階で経営者に当事者意識を持ってもらいましょう。それが、組織課題の解決に繋がっていきます。

3-3. ステップ2|【準備】 研修受講への意識を上げていく

研修実施案内と事前ワーク配布など、研修受講者とコミュニケーションを取る際は、研修受講への意識が上がることを意識して展開することが大切です。

1. 研修実施の案内

管理職が少しでも参加意欲が上がるような内容を送ります。いつもとは違うという認知を持ってもらうことが重要です。それだけでも、研修への関心度合いが変わります。関心度合いが上がれば、当事者意識が高まります。
例えば、本お客様は経営者から下記のようなメッセージを添えて、案内を送っていました。

2. 事前ワークの配布

事前ワークは、可能な限り負担を無くした上で、管理職の状況・状態が分かる内容にします。
忙しい管理職は、基本的に管理職研修に対してネガティブな印象を持っています。多くの仕事と大きな責任に追われているので、ネガティブになってしまうのも仕方ありません。
少しでも前向きに受講するためには、管理職が今持っている課題意識や状況などを把握し、講師・事務局と共に当日の準備を進めることが大切です。
なお、本お客様の事前課題は、質問事項に対して「記載内容が少ない」もしくは「特になし」が多くありました。また、内容も淡々としており、あまりエネルギーを感じられませんでした。事前ワークを見て、経営陣は「当社の管理職は、こんな状態か…」と、がっかりされていました。当社からは、状況が分かってよかったことをお伝えし、管理職の本来持っているパフォーマンスを発揮できるためにどのようにアプローチしていくか、を話していきました。

3-4. ステップ3|【運営】管理職の当事者意識を高める。予定調和を求めない

管理職研修当日の運営で大切にすべきことは「あるべき論を押し付けるのではなく、研修の状況をふまえて進めていくこと」です。

「管理職とはこういうものだ」など講師から一方的に伝えると、管理職はその場をやり過ごすようになるか、もしくは反発してしまうことが多くなるでしょう。そうなると、学習効果を高めることは難しいです。講師が説得モードに入っている場合は、要注意です。
また、研修目的から逸れないことは前提に、必要に応じて研修の場で出てきたものにあわせて、その場の流れを変えられる対応も大切です。頑なに予定通りの研修を進めることを優先してしまうと、課題への当事者意識が低いままに終わってしまうケースもあるためです。

本事例では、一日目は予定通り、研修は進んでいきました。しかし、二日目に、管理職の本音が出て場が乱れました。ロジスティック部のマネージャーに対して、マーケティング部・営業部のマネージャーが不満や非難を伝え始めました。ロジスティックのマネージャーは、顔を真っ赤にして、怒りに耐えていました。他のマネージャーもその状況を見て、驚いていました。

この時に、ロジスティックのマネージャーを慰めたり、マーケティング部・営業部のマネージャーをなだめても、何も変わりません。その場は一時的に収束するかもしれませんが、管理職は何も変わりませんし、組織課題は解決されないのです。

この時、講師は研修をいったん中断して、マネージャー全体で対話をしていきました。対話を進めるうちに、ロジスティックのマネージャーが悪いという認知ではなく、組織としての連携が取れておらず、どの部署も自分の部署の都合ばかりを考えていることが浮き彫りになりました。

この状況が生まれる前は、管理職研修は活気にあふれていましたが、その後はとても静かに進んでいきました。最後に、今後のアクションプランと、研修の感想を伝えて終了しました。静かながらも、前向きなコメントが出ていました。下記画像は最後の終了場面の様子です。

3-5.ステップ4|【研修後フォロー 】内省とチーム学習を通して、行動変容を止めない

研修後のフォローでは、定期的な内省と対話によるチーム学習による行動変容の認知を促すことが重要です。
人は忙しいと、自身が変わっていても、変化に気付かないことが多いです。だからこそ、定期的な内省の時間を意図的に創り、自身が今どのよう状態・状況なのかを振り返り把握することが大切です。そして仲間との対話によるチーム学習を通して、成功体験や改善点として捉えて、変化を大きくしていきます。
具体的に研修後のフォローは、下記プロセスで進めていくとよいでしょう。

研修後のフォローのプロセス 内容
1.定期的な内省の機会 「事後課題が負担になり、やらされ感を強く持たせないこと」を意識しながら、管理職の定期的な内省(振り返り)の機会を設けます。
2.内省を促す対話の場 研修後一定期間を設けて、変化している実感が持てる対話の場を設けます。

1. 定期的な内省の機会

当社では、バトンメール🄬というものを推奨しています。一定期間の間に管理職がお互いの現場での活動を、一人ずつ交代で報告していきます。
具体的には、4~5名程度で編成されたグループ内でメールを送り合う方法です。トップバッターをきめ、他のメンバーにメールを送ってもらいます。その際に、次にメールを送る人を指定してもらいます。タイミングは週に1度程度が適切です。4~5名で実施した場合は、管理職本人は一ヶ月に一度テンプレートメールに沿ってメールを送るだけなので、そこまで負担はありません。同時に一週間に一度は、他の管理職の現場での活動報告のレポートが送られてくるので、自身の内省にもつながります。
そして、基本受講者同士で進めるため、企画側の負担も少なくなるという利点もあります。

負担の多きな事後課題を設定すると、研修に対してネガティブなイメージを持ち続け、今後の人材開発・組織変革に対して、管理職が非協力的になる可能性もあります。そのため、事後課題は極力負担のかからないものとして、バトンメール🄬のような、比較的ライトで、かつ、内省と学習を促せるものを実施するといいでしょう。具体的な進め方や、バトンメール🄬のイメージは下記を参考にしてください

2. 内省を促す対話の場

内省を促す対話の場を用意すると、管理職自身が変化している実感を持ちやすいです。人は忙しいと、どうしても目の前のことだけに集中しがちです。受講者自身が、自身の変化に気付くには企画側が意図して内省と対話の機会を設定することが大切です。
本事例では、初回研修から数ヵ月経った際に実施したフォロー研修のオープニングでは、ネガティブなコメントが出てきました。

「研修をやったからと言っても、私は変われなかった」
「結局、学んだことを活かせなかった」

などです。その時に「事前課題である部下へのインタビューワークで、部下の変化を通して自身の変化を感じた」と話されている方がいました。そのあと他の管理職のみなさんも、自分自身や周りが変わっていることを認知していきました。
管理職は普段とても忙しいです。だからこそ、落ち着いて対話と内省ができる時間を取ることで、認知が広がります。下記は、最後のフォロー研修の導入と終了場面です。

【フォロー研修の導入場面】

【フォロー研修の終了場面】

さらに研修終了後には、更に内省を深めるための事後ワークを実施しました。

その結果、管理職自身も変化を強く認知することができ、現場での変化がよりはっきりと起こるようになりました。企画の方からは下記のようなコメントをもらいました。

「自分たちは変わった。そして変われると確信できる」と、私たちは考えます。

一旦、課題解決を目的とした管理職育成のプロジェクトは、これで終了しました。

なお、一年後のアフターストーリーとして、人事の方から「ストレスチェックの大幅改善」「新サービスの収益化」といった変化があり、「株価も緩やかに上がっています」というお話を聞いています。

また、管理職自身にも「リーダーシップの発揮の強化」や「自身の成果よりもチームの成果がでることへの喜び」「他部署の成果・部下の成長への喜び」を感じている方が増えたと聞いています。

(参考)課題設定の際に管理職を悪者(スケープゴート)にするのはNG!

課題設定をする際に、管理職を悪者(スケープゴート)にするのはNGです。なぜなら、管理職本人の課題と見える課題も、実は組織の環境によって引き起こされていることが多いからです。
例えば、3章の事例でお伝えした「メンタルヘルス・離脱者の増加」の原因は「管理職がメンバーをフォローできていない」や、「すぐにメンタルヘルスの問題が起きる社員が悪い」など、一見すると当人の課題ともとれます。しかし、課題をしっかり紐解くと「個人での抱え込み」と「失敗の数」といった、組織構造や社内文化的な課題があることが分かりました。
管理職を悪者(スケープゴート)にすることは簡単です。しかし、管理職や個人にばかり課題点を見つけようとする方法は限界があり、管理職自身も疲弊してしまいます。それでは、いつまでたっても課題は解決しません。あくまで、構造を変えていくことを意識しましょう。

4. 管理職研修の目的決定で必ず抑えるべき3つのポイント

    • 4-1.課題とありたい姿を明確にする

    • 課題とありたい姿を明確にすることは、とても重要です。課題が明確になっていないと、具体的に何をしたら良いかわからないためです。またありたい姿が明確にならなければ、目指す方向が分かりません。
    • 例えば、「3.目の前の課題(管理職本人・組織・事業)の解決を目的とした研修」でご紹介した企業では、複雑に絡み合っている課題を整理し「管理職個人の抱え込み」と「失敗の数」といった真の課題を見つけました。そして、ありたい姿は「もっと社内で一体感を持って、新サービスを創り続けたい」という想いがありました。
    • 本当に課題を解決したいのであれば、この課題設定が最も肝になります。どうしても、時間がない場合やなかなか真の課題が分からない場合であっても、仮置きで課題を設定して、アジャイル的な動きをしていくといいでしょう。
    • まずは、自組織の課題とありたい姿(目的)を明確にし、言語化していくことが重要です。
    • (参考)アジャイルとは
      アジャイルとは『すばやい』『俊敏な』という意味で、反復 (イテレーション) と呼ばれる短い開発期間単位を採用することで、リスクを最小化しようとするソフトウエア開発手法の一つです。
    • 今の時代にあったソフトウェア開発の手法として成功を収めてきており、それがさまざまな分野で使われるようになりました。人材開発・組織開発においても、アジャイルで進めるケースはとても増えてきています。
    • 4-2.研修目的をコンセプト・キャッチコピーにする

    • 研修目的をコンセプト・キャッチコピーにすることは、とても重要です。なぜなら、今回の研修が一言で何のために行うかを、多くの関係者(経営者、管理職、現場のメンバーなど)が理解でき、伝播しやすいためです。

例えば、「3. 目の前の課題(管理職本人・組織・事業)の解決を目的とした研修」でご紹介した企業では、下記のようなコンセプト・キャッチコピーにしていきました。

    • 企画を担った人事や経営者は、何度も言葉を磨きこのコンセプトを決定し、その後も自分たちの想いを入れていきました。そして、この言葉は伝播していき、一年後に下記のような大きな成果を出すことができました。

    • 研修目的をコンセプト・キャッチコピーにすることは、とても重要です。
    • 4-3.研修目的だけではなく、得たい効果(要件定義)を明確にする

    • 研修目的だけではなく、得たい効果(要件定義)も明確にすることはとても重要です。なぜなら、得たい効果(要件定義)が明確になっていなければ、具体的に何の研修を実施すべきかが分かりません。また、その研修を行ってよかったのかどうかの判断がつかず、改善もできません
    • 例えば、「3. 目の前の課題(管理職本人・組織・事業)の解決を目的とした研修」でご紹介した企業では、下記のような得たい効果(要件定義)にしていきました。
    • 研修コンセプトと要件定義
    • 得たい効果(要件定義)を明確にしたため、具体的な研修も決まりましたその。また、研修後のコメントと照らし合わせて、実際にどのような変化が起きたかを確認することができます。
    • (参考)フォローセッション(研修終了日)のコメント

    なお、企画チームは、研修の後も、現場での変化をウォッチングし、変わった点を振り返ることが必要です。管理職育成をふくめ、人材開発や組織開発には終わりはありませんので、現場での変化を強化していくことが必要です。

5. まとめ

本コラムでは、「管理職研修の目的設定」に関して、お伝えしていきました。

具体的には管理職研修の目的は、

1)役割認識・遂行を目的とした研修
2)目の前の課題解決を行うことを目的とした研修

の2つであることをお伝えしました。また、

1)役割認識・遂行を目的とした研修」についてはそれぞれの目的と概要2)目の前の課題解決を行うことを目的とした研修」については事例を基に具体的な進め方

について記載しました。最後には、

管理職研修の目的を決めるときに必ず抑えるべき3つのポイント
    ー課題とありたい姿(目的)を明確にする
    ー研修目的をコンセプト・キャッチコピーにする
    ー研修目的だけではなく、得たい効果(要件定義)を明確にする

をお伝えしました。

本コラムを通して「管理職研修の目的」と「管理職研修の目的をどのように設定するのか」を理解いただけたと思います。

ぜひ本コラムを通して、管理職研修の目的を設定してください。また、管理職研修の目的設定や、管理職研修について不安な点や進め方についてご相談があれば、ぜひ当社にご相談いただければと思います。