やらされ感をなくす!管理職の目標設定で納得と行動を生む5ステップ

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「毎期の目標設定、なんとなく形だけになっていないだろうか?」
「目標は立てているけれど、メンバーが主体的に動かない…」

こんなモヤモヤを感じたことはありませんか?

目標設定は、管理職にとって欠かせない業務のひとつです。
しかし、「とりあえず数字を並べた」「会社方針をそのまま落とし込んだだけ」では、メンバーの納得感も行動も生まれません
その結果、管理職自身が細かく指示を出し続けたり、評価のときだけ無理に帳尻を合わせたり…と、本来目指したいマネジメントとは逆の状態に陥りがちです。

そうならいために、本コラムでは、管理職向け目標設定の5つのステップやポイントを具体例とともに解説します。

形だけの目標設定から抜け出し、「自律的に動けるメンバー」「成果と成長が両立するチーム」を生み出しましょう。

執筆者プロフィール
菊地 大翼
組織人事コンサルタント。業界歴15年以上。研修会社に入社し、法人営業で売上トップを達成後、新規商品の開発に従事。現在は人事制度構築支援、成人発達理論に基づいた人材・組織開発のコンサルティングを行っている。

専門性:パフォーマンス・マネジメント、研修開発・ワークショップデザイン、成人発達理論を活用した人材開発・組織開発

1)管理職向け目標設定の5つのステップ

目標設定は、単に目標を立てるだけではありません。適切なプロセスを踏むことで、メンバーの納得感と行動変容が生まれ、目標達成の可能性が高まります。

以下が、効果的な目標設定を進めるための5つのステップです。

【管理職向け目標設定の5つのステップ】

ステップ 内容
①方針咀嚼 全社・自部署の方針をしっかり理解し、自分の言葉で説明できる状態をつくる。
②部や課のありたい姿を描く 会社の方針と自分たちの想いの両方を盛り込んだ「理想の状態」を対話を通じて描く。
③目標設定 背景や理由、全体とのつながりを明確にしながら、納得感と行動につながる目標を設定する。
④実行 設定した目標を「任せきり」にせず、定期的なフォローアップで軌道修正と成長支援を行う。
⑤振り返り 設定した目標やそのプロセスを振り返り、次回に向けた改善点を整理する。

① 方針咀嚼

目標設定を始める際、いきなり自分やメンバーの目標を考えるのではなく、まずは全社や自部署の方針を理解することが大切です。
このステップを飛ばしてしまうと、会社や部・課の方針とズレた目標が設定されてしまい、目標そのものがバラバラになったり、目標の解釈が人によって違ったりと、チームの足並みが揃いません。

だからこそ、まずは管理職自身が方針を深く理解し、「自分たちに具体的に何が求められているのか」をしっかりと咀嚼することが重要です。

本来であれば、メンバー一人ひとりに方針を丁寧に説明し、理解を促していくことが理想ですが、忙しい中でそれが難しい場合も多いでしょう。
その場合におすすめなのが、チーム全体で方針を共有し理解する「方針咀嚼会議」を設けることです。
特別な会議を新たに設定しなくても、目標設定の1〜2か月前の週次会議や月次会議の時間を活用して、「今回は方針咀嚼の時間にする」と決めて行えば十分効果があります。

【方針咀嚼会議の進め方】

方針咀嚼会議では、以下のステップで順番に方針への理解を深めていきます。

■ ステップ① 役員と部長で方針の解釈をすり合わせる

まずは、経営層と部長クラスで全社方針について解釈のすり合わせを行います。
このとき大切なのは、単に事前に作成した方針を「説明する」だけで終わらせず、わからない点はその場で素直に確認し、対話を通じて理解を深めることです。

目的は、部長が方針をしっかりと理解し、納得したうえで、課長やメンバーに「自分の言葉で説明できる状態」になること。この準備が次のステップにつながります。

■ ステップ② 部長と課長で方針の解釈をすり合わせる

続いて、部長と課長の間でも同様に、方針の解釈・捉え方のすり合わせを行います。
こちらもステップ①と同じく、説明を受けるだけでなく、疑問点はその場で確認し合い、納得感を持って共有することがポイントです。

■ ステップ③ 部長・課長・メンバーで方針の理解を深める

最後に、部長・課長・メンバー全員で方針への理解を深める場を持ちます。
この段階では、メンバーからの質問にしっかり応えるとともに、方針実現に向けて「現場からどんなアイディアが出せるか?」について意見交換を行うことが重要です。

こうした対話のプロセスを通じて、方針が一方的に「降りてくるもの」ではなく、現場も一緒に考え、動かすものとして根づいていきます。

※ ①~③のステップは、人数やチーム構成によっては一度に全員で行っても問題ありません。ただし、参加人数が多い場合は意見が出にくくなったり、議論が混乱したりすることもあります。その場合は段階的に分けて実施するのがおすすめです。

この会議の結果「何をすれば良いのか明確になった」「方針を実現するための優先順位が明確になった」などの声があれば、方針咀嚼はうまくいっています。

方針咀嚼のプロセスをしっかりと行うことで、「自分たちが何を目指し、何に取り組むのか」が明確になり、次のステップである「部や課のありたい姿を描く」ことへと自然につながっていきます。やらされ感ではなく、納得感と主体性を持った目標設定の土台がここで築かれます

② 部や課のありたい姿を描く

方針咀嚼で会社や部署の方針をしっかり理解できたら、次に取り組むのが「部や課のありたい姿」を描くステップです。

このプロセスを省いたまま目標を設定してしまうと、会社の方針だけを押しつける形になり「やらされ感」が生まれやすくなります
また、方針咀嚼が不十分だと、会社の方針と自分たちの理想が結びつかず、成果につながりにくくなります

具体的な実施方法としては、「自分たちの部や課がどんな状態になっていると理想なのか?」をテーマに対話を行うのが良いでしょう。
「会社の方針」と「自分たちの想い」の両方を含めたありたい姿を、対話を通じて描くことが大切です。

このとき、以下の5つの観点を意識すると、視点が偏らず、バランスの取れたありたい姿が描きやすくなります。

①外部環境の変化は?
②事業目標の変化は?
③お客様の変化、商品・サービスの変化は?
④業務の変化は?
⑤求められる人材の変化は?

これらの観点ごとに、「現状」と「将来のありたい姿」を整理することで、やるべきこと(目標)が自然と見えてきます。

なお、ありたい姿は一度描いて終わりではありません。前提条件やメンバー構成の変化に合わせて、毎年1回〜半年に1回程度、定期的に対話し、見直していくことが効果的です。

方針咀嚼を丁寧に行ったうえで、会社の方針と自分たちの想いの両方を盛り込んだ「ありたい姿」を描くプロセスこそが、目標への納得感とコミットメントを高めるための重要なステップです。

③ 目標設定

ここで初めて、実際の目標設定に取りかかります。
目標設定は「管理職自身の目標設定 → 事前準備 → 目標設定面談」という3つのプロセスで進めていきましょう。

管理職自身の目標設定

まず行うべきは、管理職自身の目標設定です。このとき、部や課のありたい姿が適切に描けていれば、自然と管理職自身の目標設定もスムーズに進められるはずです。

管理職の目標は、そのままメンバーの目標にブレイクダウンされます。したがって、この段階で上位方針とズレていないか、必要な観点が抜けていないかを必ず上位者と確認しましょう。

悪い例 20XX年3月までに3億円の売り上げを達成する
良い例 営業部で10億円の売り上げを達成するために、営業1部では20XX年3月までにY商品の3億円の売り上げを達成する

悪い例は、「なぜ3億円なのか?」という背景や理由が示されていないため、目標が単なる数字の羅列になってしまい、具体的な行動につながりません。

一方、良い例では「全体の目標(営業部全体で10億円)」と「自部門の目標(営業1部で3億円)」の関係性が明確にされており、さらに「どの商品で達成するのか(Y商品)」まで具体的に記載されています。このように背景や全体とのつながりが明らかになっていることで、メンバーも納得感を持ちやすく、どのように行動すればいいのかをイメージしやすくなります

管理職自身の目標設定は、背景や理由、全体とのつながりを明確にすることがポイントです。
数字だけを並べるのではなく、「なぜこの目標なのか」を説明できることで、メンバーの納得感と行動につながります。

事前準備を行う

続いて、メンバーとの目標設定面談を行うための事前準備を行います。目標設定面談の前に次の5点をメンバーに伝えておくことで、目標設定面談が効果的に進みます。

【メンバーとの目標設定面談前に伝えておく5つのこと】

抑えておきたいポイント
前提条件を明確にする 「市場・市況動向(外的要因)」
「財務状況」、「会社の戦略・方針」
「事業部の戦略・方針」
「自チームの目標・方針」

※財務状況も可能な限りオープンにすることが重要です。
目標設定の観点を明確にする 「会社・事業・チームの方向性と連動すること」
「自身の成長・キャリア形成に繋がること」
「ストレッチがかかっていること」

※ライフイベントなどがある場合は、特にストレッチに関しては、調整が必要です。
成果を明確にする 「目標項目(何を)」
「達成基準項目(いつまでにどこまで)」
「計画(どのように)」
共創・協働を意識する 「自身の目標を達成するために、周りにどのように働きかけるか」
「自身がチームメンバーや他部署に貢献できる部分を探すこと」
質問・会社へのリクエストを用意する 「できる・できないにかかわらず、自由に考えてもらうこと」
「会社・事業・チーム・自身の目標達成のためなら、ウェルカムであること」

※ アーティエンスの「管理職のための目標設定・管理研修」のテキストより抜粋

【前提条件を明確にする】
目標を立てる前に、会社やチームの方針がしっかりと説明されていて、メンバーがその内容をきちんと理解していることが重要です。

特に、「市場・市況動向(外的要因)」「財務状況」、「会社の戦略・方針」「事業部の戦略・方針」「自チームの目標・方針」は押さえておきましょう

前提条件が異なると、目標設定への認識が大きくズレます。

【目標設定の観点を明確にする】
目標設定をスムーズに進めるためには、あらかじめ「どんな観点で目標を考えるべきか」をメンバーに伝えておくことが大切です。
必ず抑えておきたいポイントは、「会社・事業・チームの方向性と連動すること」、「自身の成長・キャリア形成に繋がること」、「ストレッチがかかっていること」です。

なお、伝え方は相手によって工夫が必要です。
ベテラン社員であれば、観点を簡潔に伝えるだけでも理解できることが多いですが、若手社員や入社間もない中途社員には、背景を含めて丁寧に説明しないと、認識のズレが生じやすくなります。

相手の経験や理解度に合わせた説明が、目標設定の質を大きく左右します。

【成果を明確にする】
目標設定の3要素「目標項目(何を)」「達成基準項目(いつまでにどこまで)」「計画(どのように)」を押さえておけば、問題なく進められるでしょう。

数値目標でなくても、「できたか、できていないか」を明確にできる内容にします。

【共創・協働を意識する】
1人で完結する業務であれば必要ありませんが、複数人で取り組む仕事や、後工程に影響を与える業務の場合は、共創・協働を意識することが大切です。
そのためにも、「自身の目標を達成するために、周りにどのように働きかけるか」、「自身がチームメンバーや他部署に貢献できる部分を探すこと」は押さえておきたいポイントです。

個人目標だけでなく、チームとしてどう貢献し合うかを考えることで、チーム意識が自然と高まります。

【質問・会社へのリクエストを用意する】
メンバーからの疑問や不安を管理職が理解して解消するため、目標を一人で抱え込まないようにし、目標へのコミットを高めるためにも重要です。
抑えておきたいポイントは、「できる・できないにかかわらず、自由に考えてもらうこと」、「会社・事業・チーム・自身の目標達成のためなら、ウェルカムであること」です。

目標設定面談の時だけに聞くのではなく、常日頃から自部署の方針や目標、自身の目標についての疑問や不安を聞く習慣をつけると、早い段階で認識のズレや情報不足をフォローできます。

事前準備でよくあるのは、共有情報が数値目標だけに留まるケースです。

悪い例 「今期の目標は5,1000万円だから頑張ってね」
良い例 「今期は全社で103億円の売上が必要で、私のチームでは3億5,000万円が目標になっています。そこでAさんには、昨年の実績もふまえて1,500万円を目標にしてほしいと考えています。どうやって達成するかは、一緒に考えていきましょう。」

悪い例は、背景や理由、達成方法が説明されておらず、ただ数字だけを伝えているため、メンバーが納得感を持ちづらく、具体的な行動にもつながりにくいです。目標が「やらされ感」につながってしまう原因となります。

良い例は、全体の方針や背景を共有し、個人の目標が全体とどうつながっているのかが明確に示されています。また、達成方法を一緒に考えるスタンスを取ることで、メンバー自身の納得感と主体性を引き出し、行動につながりやすくなります


このように、背景説明と対話を丁寧に行うことで、数字だけではない「納得できる目標設定」が実現できます

目標設定面談の流れ

事前準備が終わったら、いよいよ目標設定面談を行います。
目標設定面談の流れは以下の通りです。 目標設定面談の流れ

※ アーティエンスの「管理職のための目標設定・管理研修」のテキストより抜粋

【メンバーから目標を聴く】
まず、メンバーが作成した目標を聴きます。この際は「なぜその目標を設定したのか?」背景や想いも含めて最後まで聴き切ります

【管理職からフィードバックする】
目標内容を踏まえ、必要に応じてフィードバックを行います。不足している観点があれば、修正の方向性を具体的に伝え、理解を確認しながら進めます

【目標を最終決定する】
目標の最終決定を行い、コミットメントを高めます。「言われたからやる」のではなく、「この目標は自分にとっても意味がある」と感じられる状態を目指します

この「自分にとっても意味がある」という状態は、モチベーション理論で「同一化的調整」と呼ばれています。自己決定理論とは? アーティエンスの「管理職のための目標設定・管理研修」のテキストより抜粋

この認識を持ちやすくするためにも、自部署の方針説明や、メンバーのキャリアプランを事前に確認しておくことが大切です。

最後に、目標達成に向けた支援の意志を伝えることで、メンバーが安心して挑戦できる環境を整えましょう。人は新しいことに挑むとき、不安を感じるものです。「目標設定したらあとは任せる」ではなく、「困ったことがあればいつでも相談してほしい」という姿勢を示すことが重要です。

実際の面談では、目標設定面談用のシートに情報を整理して臨むとスムーズです。

必要に応じて、下記より目標設定面談用シートをダウンロードしてご活用ください。
withコロナにおける目標設定面談とは?

④ 実行

目標を設定したあとに重要なのは、「ただ任せきりにしない」ことです。
実際に動き始めると、想定していなかった課題や問題が生じたり、外部環境が変化したりすることも少なくありません。そのため、計画通りに進んでいるかどうかを確認し、必要に応じてサポートや軌道修正を行う「フォローアップ」が欠かせません

フォローアップでは、以下のポイントを意識して、定期的に面談や確認の場を持ちましょう

・目標達成への見通しは順調か?
・目標達成に向けて、順調に行動できているか?
・目標達成に向けて思うようにいっていないこと、上手くいっていないことはないか?
・軌道修正が必要なところはないか?
・モチベーションが急激に低下していたりしないか?

基本的には「メンバー自身から進捗を報告する」スタイルを促しつつ、相手の成熟度に応じてサポートの頻度や方法を調整しましょう。
管理職が一方的に確認するだけでは、メンバーが「やらされている」と感じてしまうためです。

進捗確認のタイミングは、2週間〜1か月に1回程度を目安にするのがおすすめです。

また、部や課の定例会議の中に目標に関連した共有の時間を取り入れることで、日常的に意識づけを行うことも有効です。

さらに、目標達成に向けた試行錯誤そのものが、メンバーの成長の機会になります。行動や成果が出たときには、しっかりと認め、褒め、承認することが、メンバーの意欲や自信を育てるポイントです。

フォローアップの場は、ただ進捗を確認するだけの時間ではなく、メンバーの成長を支援する貴重な機会ととらえましょう。

⑤ 振り返り

目標設定を行ったあとは、必ずそのプロセス自体を振り返ることが大切です。

目標設定は「立てて終わり」ではありません。次回に向けて改善していくことで、より質の高い目標設定ができるようになります

振り返りを行う際は、以下の観点を参考にしましょう。

目標設定面談を振り返る

※ アーティエンスの「管理職のための目標設定・管理研修」のテキストより抜粋

振り返りは、自分自身の視点だけでなく、できればメンバーからのフィードバックもあわせて行うのがおすすめです。
目標設定は、頻繁でも年に4回程度、少ないと年1回のことが多いため、前回の気づきを忘れてしまいがちです。そこで、振り返りの内容はメモなどにまとめ、次回の目標設定時に見返せるようにしておくと、目標設定スキルのレベルアップにつながります。

丁寧な振り返りを重ねることで、管理職自身の目標設定スキルを磨き、より効果的なマネジメントへとつなげていきましょう


この5つのステップを通して目標設定することで、管理職自身の目標設定スキルも磨かれ、チーム全体のパフォーマンス向上につながります。

「やらされ感」ではなく「自分たちで目指す目標」として、チームで納得し、力強く進んでいける目標設定を実践していきましょう。

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    2)管理職が知っておくべき悪い目標設定の3つの特徴

    目標設定をする際、「具体的にどういう目標なら良いのか」「逆に、どんな目標が悪いのか」を押さえておくことはとても重要です。

    ここでは、よくある悪い目標の3つの特徴とその改善ポイントをお伝えします。

    ① 実行手段が不明確
    ② 目的や効果が不明確
    ③ 行動や基準が曖昧

    ① 実行手段が不明確

    目標には「どうやって達成するのか」という具体的な実行手段(計画)を必ず盛り込みましょう

    達成基準だけを設定しても、行動に落とし込めなければ、目標はただの数字で終わってしまうためです。計画があることで、進捗確認や軌道修正が可能になり、目標達成の確度が上がります

    悪い例 「新商品Xの売上高5,000万円を達成する」
    良い例 「新規提案先として営業部の〇〇業界リストにアタックする」
    「既存顧客向けに活用事例をまとめた資料を作成する」
    「代理店とのパートナー契約を3件結ぶ」

    悪い例では「売上高5,000万円を達成する」という目標だけが示されており、そのためにどのような行動をとるべきかが不明確です。このように計画がない目標設定では、メンバーが「何から手をつければよいのか」「どんな動きをすれば達成できるのか」がわからず、結果として行動に結びつきにくくなります

    一方、改善例のように「新規提案先へのアプローチ」「活用事例の資料作成」「代理店とのパートナー契約」といった具体的な実行手段を明記することで、目標達成に向けた行動イメージが持てるようになります。これにより、計画的に行動でき、必要に応じて軌道修正もしやすくなります。

    目標設定の際には、単に「何を達成するか」だけでなく、「どうやって達成するか」という行動計画まで落とし込むことが重要です。

    ② 目的や効果が不明確

    目標は「何のために取り組むのか」という目的や効果までセットで設定しましょう

    目的が不明確だと、導入や実施がゴールになってしまい、本来得たい成果につながらないためです。目的を明確にすることで、行動の優先順位や判断基準も整います

    悪い例 「〇〇システムを20XX年12月までに導入する」
    良い例 「〇〇システムを20XX年12月までに導入し、業務時間を月100時間削減する」

    悪い例では「システム導入」という手段そのものが目的化してしまい、本来実現したい効果やゴールが見えなくなっています。この状態では、「導入が完了したかどうか」だけが確認ポイントとなり、システム導入後に本当に業務改善につながったのかどうかを判断できません。

    改善例のように、導入の目的(業務時間を月100時間削減するなど)を明確にし、その目的に向けた具体的なプロセス(計画)を示すことが大切です。できる限り定量的なものが望ましいですが、難しい場合は実現したい効果などでも構いません。

    これにより、「なぜそのシステムを導入するのか」「何をもって成功とするのか」が明確になり、メンバーも目的意識を持ちながら行動できます。

    なお、この目標をもとにさらに具体的な計画を立てられるとより実行しやすくなります。

    例えば、

    ・〇〇業務における業務フローを理解し、プロジェクトメンバーとすり合わせる(4月末)
    ・〇〇における業務フロー改善の実施(6月末)
    ・〇〇業務における要件定義の実施(8月末)
    ・システムのトライアル実施(12月末)
    ・システムの安定稼働とコスト削減効果の検証(3月末)

    のようなイメージです。
    計画にはプランを実現するためのスケジュールや期日などを記載することをおすすめします。

    目標設定においては、「手段」と「目的」を混同しないこと、そして「効果」と「計画」をセットで考えることが質の高い目標づくりのポイントです。

    ③ 行動や基準が曖昧

    行動目標の場合は、基準(どこまでできれば達成なのか)と具体的な行動内容を明確にしましょう

    「できるようになる」「頑張る」だけでは、何をすればいいのかがわからず、成長にも評価にもつながりません。基準と行動を具体的にすることで、本人も納得感を持って取り組めます

    悪い例 「ビジネスマナーがしっかりできるようになる」
    良い例 「電話応対でお客様評価B以上を目指す。そのために、相手の名前を呼ぶ、内容をメモ・復唱する、重要情報は必ず文書でも確認する」

    悪い例の「ビジネスマナーがしっかりできるようになる」という表現は、「ビジネスマナー」とは具体的に何か、どのレベルでできれば合格なのかが不明で、評価やフィードバックがしにくい目標になっています。

    改善例のように、「具体的な行動内容(何をするか)」と「達成基準(どのくらいできればOKか)」をセットで示すことで、何を目指せばよいのかが明確になり、メンバー自身も行動イメージを持ちやすくなります

    また、「お客様評価B以上を目指す」など、行動の目的(なぜそれをやるのか)も合わせて伝えることで、やらされ感を防ぎ、納得感とモチベーションを高めることができます。

    目標設定の質を高めるには、あいまいな表現を避け、「具体的な行動」と「目指す状態(基準)」を明確にすることがポイントです。


    目標設定がうまくいかない理由の多くは、目標そのものの設計にあります。

    今回ご紹介した3つの特徴を押さえておくことで、管理職自身もメンバーも「自分が何をすればよいのか」「どのように動けば達成できるのか」がわかり、行動変容と成長につながる目標設定ができるようになります。

    3)目標設定で管理職が意識すべき5つのポイント

    管理職が目標設定において意識すべきポイントは次の5つです。

    ①上位方針からブレイクダウンし、部署目標と一貫する目標を設定する
    ②目標に「目標項目」「達成基準項目」「計画」の3つの要素を入れる
    ③目標設定を通じてメンバーのセルフマネジメント力が高まるプロセスにする
    ④メンバーの納得感を下げる要素を取り除いて、メンバーのやる気を高める
    ⑤目標設定をキャリア形成・成長支援の場にする

    一つずつ解説します。

    ① 上位方針からブレイクダウンし、部署目標と一貫する目標を設定する

    目標は「例年通り」や「場当たり的」に立てるのではなく、必ず上位方針からのブレイクダウンを行い、部署目標と一貫性を持たせましょう。

    部長は自部門の方針を具体的な実行策に落とし込み、課長はその実行策をさらに細分化してメンバー目標につなげます。このように段階的に目標をブレイクダウンすることで、実行可能性の高い目標設定が実現できます。

    また、目標は「意義目標」「成果目標」「行動目標」の3種類を組み合わせることが重要です。

     パワフルな目標設定・管理を行うワークショップのテキスト 目標の種類を理解する※ アーティエンスの「管理職のための目標設定・管理研修」のテキストより抜粋

    よくあるケースは、「意義目標」と「成果目標」だけ、あるいは「成果目標」だけ設定しているケースです。

    例えば、「新規事業を通してお客様により貢献する」という意義目標と、「新規営業で1000万円の実績を達成する」という成果目標があったとします。この場合、目指す方向性は共有できても、1000万円を達成するために「具体的にどんな行動が必要なのか」が人によってバラバラになりやすいのが課題です。

    さらに「成果目標」だけに偏ると、そもそも「なぜこの目標に取り組むのか?」という意義が伝わらず、メンバーのモチベーションが上がりにくくなります。

    だからこそ、意義・成果・行動の3つをセットで考えることが、納得感と実行力を高めるうえで重要です。

    ■ このケースでの3つの目標設定の例

    目標の種類 目標内容
    意義目標(目的) 新規事業を通じて、これまで接点がなかったお客様の課題解決に貢献する
    成果目標(何を) 新規営業で1000万円の実績を達成する
    行動目標(どうやって) ・ターゲット業界の顧客50件に新商品の提案を行う
    ・月2回、上司とロールプレイを実施し提案精度を高める
    ・週1回、提案内容を振り返り改善ポイントをまとめる

    このように、「何のために」「どんな成果を」「どのように実行するか」を一貫して設定することで、メンバーが迷わず行動でき、目標達成に向けた動きがそろいやすくなります

    ② 目標に「目標項目」「達成基準項目」「計画」の3つの要素を入れる

    目標設定には「目標項目(何を)」「達成基準項目(いつまでにどこまで)」「計画(どのように)」の3要素を必ず入れましょう。

    これら3つの要素が明確でないと、目標達成の判断基準が曖昧になり、評価の公平性が保てません。また、具体的な計画がなければ、行動に落とし込むことが難しくなります。

    目標項目(何を)に関して

    まずは「具体的に何を行うのか」を明確にしましょう。

    悪い例 「売上拡大」
    良い例 「〇〇商品の売上拡大」

    「何の売上なのか」「どの商品なのか」といった対象と方向性までしっかり書くことがポイントです。

    達成基準項目(いつまで・どこまで)に関して

    次に、目標が達成できたかどうかを判断する基準を入れます。

    定量目標であれば「指標」と「数値」、定性目標であれば「達成した状態」を具体的に表現します。
    特に定性目標はあいまいになりがちなので注意が必要です。

    悪い例 「〇〇を推進する」「〇〇を実行する」
    良い例 「人事システムを導入することで、20XX年3月までに目標設定に関する時間を年間100時間の短縮を達成する」

    「何がどう変わるのか」を具体的に書きましょう

    計画(どのように)に関して

    最後に、その目標をどのように実行していくのか、計画を具体的に記載します。

    悪い例 「定期的な既存顧客の訪問」「要件定義の実施」
    良い例 「〇〇業界の顧客に50件新商品の提案を行う」「20XX年5月までに要件定義を完了する」

    「やった・やらない」がはっきりわかるレベルまで具体化することが大切です。


    この「何を・いつまでに・どうやって」の3要素は、管理職自身が目標設定をする際にも、メンバーが目標を立てる際にも欠かせません。
    もし管理職の目標があいまいであれば、メンバーの目標もあいまいになり、一貫性が失われてしまいます。

    まずは、自分の目標にこの3つの要素がしっかり含まれているかを確認してみましょう。

    ③ 目標設定をセルフマネジメント力を高めるプロセスにする

    目標設定は、管理職が一方的に与えるものではなく、メンバー自身が自ら考え、納得して設定するプロセスであることが大切です。

    このプロセスを通じて、メンバーが「自分で目標を立て、それに向けて主体的に行動する力=セルフマネジメント力」を身につけられると、受け身ではなく自律的に動けるメンバーへと成長していきます。

    メンバーが納得して目標を設定できるようにするためには、まず「会社や部署の方針」「なぜこの目標が必要なのか」といった背景を理解してもらうことが必要です。

    その際に有効なのが、管理職自身が方針をかみ砕き、わかりやすく説明する「方針咀嚼」です。「方針共有会議」などの場を設け、ただ伝えるだけでなく、「自分はこの方針をこう捉えた」「この目標の意味をこう理解している」といったメンバーとの意見交換(捉え方の共有)まで行うことが重要です。

    また、目標設定のタイミングだけでなく、定期的に方針や目標を振り返る場を持つことも、セルフマネジメント力向上につながります

    方針を咀嚼し、メンバーと双方向の対話をしながら、「なぜこの目標なのか」「どう取り組むのか」を一緒に考えるプロセスを大切にしましょう

    ④ メンバーの納得感を下げる要素を取り除いて、メンバーのやる気を高める

    目標設定の質を高めるうえで大切なのは、メンバーが納得感を持って取り組める状態をつくることです。

    どれだけ適切な目標を設定できていたとしても、納得感が低いままだと、メンバーのモチベーションは上がらず、行動にもつながりにくくなります

    逆に、納得感が高まると、自ら進んで目標達成に向けて動くようになり、管理職が細かく指示をしなくても、自発的な行動が生まれます。

    メンバーの納得感を大きく左右するのは「公正感(フェアネス)」です。人は、公正に扱われていないと感じると、やる気を失いやすくなるものです。

    この公正感には、次の3つの種類があります。

    公正感の種類 内容
    ① 分配的公正 成果や報酬(昇進・昇格・評価)が適切に配分されていると感じられる状態。

    → 目標の達成度に応じた明確な評価基準が必要。

    ② 手続き的公正 目標設定や評価のプロセス・手順が公正だと感じられる状態。

    → メンバーもプロセスに参加でき、意見が反映されていることが大切。

    ③ 相互作用的公正 コミュニケーションの中で、公正に接してもらっていると感じられる状態。
    相互作用的公正には、自分が丁寧に扱っていると感じられる対人的公正と、適切な情報が開示されているときに感じる情報的公正がある。

    → 一人ひとりに丁寧に接し、必要な情報が開示されていることが必要。

    3つの公正感のうち、特に管理職が日々の目標設定プロセスで意識できるのは、「② 手続き的公正」と「③ 相互作用的公正」 です。

    【② 手続き的公正を高めるためにできること】

    ・目標設定の進め方をメンバーと共有する
    ・方針の背景や理由をきちんと説明する
    ・目標設定の場でメンバーの意見を聞き、反映する

    【③ 相互作用的公正を高めるためにできること】

    ・日頃から一人ひとりに合わせた丁寧なコミュニケーションを心がける
    ・目標設定の意図や判断基準をオープンに伝える
    ・「方針咀嚼会議」などで認識のすり合わせを行う(情報的公正の向上につながる)

    一方で、「① 分配的公正」(報酬や昇進など)は、必ずしも管理職だけで決められない領域です。

    ただし、「目標項目(何を)」「達成基準項目(いつまでにどこまで)」「計画(どのように)」の3つの要素を具体的に示すことで、評価に対する納得感を支えることはできます。

    メンバーの納得感が高まれば、モチベーションや自発的な行動も自然と生まれます。
    まずは、「手続き的公正」と「相互作用的公正」を高められているか、今の目標設定プロセスを振り返ってみましょう

    ⑤ 目標設定をキャリア形成・成長支援の場にする

    目標設定は、ただ業績を達成するための指示出しの場ではありません。うまく活用すれば、メンバーの「やる気」と「働きがい」を引き出し、自律的な成長を促す大切なプロセスになります。

    そのためのポイントが、業績目標だけでなく「成長目標」(将来ありたい姿と現状の差を埋めるための目標)をセットで考えることです。

    業績目標だけの設定では、「やらされ感」が強くなり、モチベーションが上がりにくいものです。逆に、成長目標があれば「なぜこの行動をするのか?」「どんな力を身につけるのか?」が明確になり、納得感が生まれます。結果として、行動目標や業績目標にも主体的に取り組むようになります。

    例えば、ありたい姿が「商談をヒアリングからクロージングまで一人でできる」ことで、
    現状が「ヒアリングはできるが、クロージングは上司が同席している」場合、成長目標は「クロージングを一人でできるようになる」となります。

    この成長目標に基づいて、具体的な行動目標(どうやって)と成果目標(何を)を考えていくことで、目標設定の納得感と実行力が高まります

    目標設定をキャリア形成・成長支援の場にするためには、成長目標を起点に考え、それを達成するために必要な行動目標を立て、最終的にどんな成果につながるのかを業績目標として設定します。この順番が、メンバーの主体性を引き出す鍵です。

    さらに、設定した目標を行動につなげていくためには、「目標を共有すること」も重要です。お互いの目標を共有し合うことで、役立つ情報が集まり、チームとして協力しやすい雰囲気が生まれます。

    できる限りチーム内で各メンバーの目標を共有し、お互いの目標達成に向けて役立つ情報はないか?を、定例会議などで確認する時間を設けましょう。 

    また、メンバーが成長目標を達成し、キャリア形成を進めていくためには、管理職からのサポートも重要です。具体的には、以下の4つのポイントを意識しましょう。

    ① 目標を立てるサポートする
    「自分がどのようなキャリアを歩みたいのか?」「自分のロールモデルはどんな人か?」を一緒に考え、言語化を支援します。
    一人で考えることが難しい場合は、会社が用意しているキャリアパスや、他の上司・先輩の事例を紹介するとよいでしょう。

    ② 支援を与える
    キャリア実現のために必要な情報や人脈、ネットワークを紹介します。
    また、「応援している」という心理的な支援も大切です。

    ③ 自己効力感を高める

    自己効力感とは「これであれば自分はできる」という感覚を持つことです。
    成功事例や身近なロールモデルの紹介、ポジティブなフィードバックなどを通じて自己効力感を高めることが有効です。

    ④ 学び続ける機会をつくる
    学習の機会を提示しします。何を学べばいいか迷いがちな若手には、具体的な学習機会を提示することが効果的です。

    「成長目標を持ち、キャリア自律が高まると、優秀な人材が離職してしまうのでは?」と心配されることがあります。しかし、上司や同僚からの十分なサポートがあれば、会社への愛着が高まり、組織内でのキャリア形成もしやすくなります。結果として、離職を抑制できると言われています。

    目標設定は「業績のため」だけでなく、「成長」と「キャリア形成」のための場として位置づけることで、メンバーのやる気とやりがいを大きく引き出すことができます。


    目標設定は、単に業績を達成するための手段ではありません。
    成長目標をセットで考え、キャリア形成を意識することで、メンバー自身が「自分の未来」に納得し、主体的に行動できるようになります。

    4)まとめ

    今回は管理職が押さえておきたい、納得感と行動につながる目標設定の仕方やポイントについてお伝えしました。

    目標設定で大切なのは、方針をしっかり咀嚼し、ありたい姿を描き、そのうえで納得感のある目標をメンバーと一緒に作っていくことです。

    今回お伝えしたことを押さえて取り組むことで、メンバー一人ひとりが「自分の目標」として目標に向き合い、自律的に行動し、成長していく土台が作られます。

    ただし、いきなり状況が変わるわけではありません。
    目標設定の質は、日々のコミュニケーションの積み重ねによって高まっていきます。だからこそ、まずはできることから一歩ずつ、丁寧に進めていきましょう。

    アーティエンスでは、このコラムでご紹介した内容を体系的に学び、実践につなげていただくための「管理職のための目標設定・管理研修」をご提供しています

    「メンバーの納得感を高める目標設定ができていない気がする」
    「目標設定が評価だけのための作業になってしまっている」
    「管理職自身が目標設定に苦手意識を持っている」

    そんなお悩みがありましたら、ぜひ一度ご相談ください
    組織やチームの状況に合わせて、具体的な進め方をご提案いたします。

    管理職の皆さん自身が納得し、メンバーも「やってみよう」と前向きに挑戦できる、そんな目標設定を実践し、チームで成長と成果を生み出していきましょう。

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