なぜ「OJTは意味がない」と言われるのか?うまくいかない企業が見落としているポイント

更新日:

作成日:2022.12.12

 OJT  「OJT(※)っていうけど、これって放置と何が違うの?OJTに意味はあるのか?」
「新人が期待していた成長や成果を出せていない。OJTってやっても意味がないんじゃない?」

新入社員や中途社員に対する教育手法の一つとして、多くの企業で取り入れられているOJT(On the Job Training)。その必要性は高まっている一方で、「OJTは意味がない」と言われ、課題を感じている人事担当者もいらっしゃるのではないでしょうか?

そこで本コラムでは、「OJTは意味がない」と言われてしまう要因を紐解きながら、「意味のないOJT」から脱却するための施策について、具体的に解説をしていきます。お読みいただくことで、効果的にOJTを行っていくためのポイントを理解することができますので、自社のOJTについて見直すきっかけにしていただければ幸いです。

OJTとは:組織の上司や先輩が、新入社員や部下に対して具体的な仕事を与え、その仕事を通して、業務に必要な知識・技術・考え方などを指導し、修得させることを指します。
※ 本コラムでは、OJTで育成する側(上司や先輩)をトレーナー、OJTで育成される側(新入社員や部下)をOJT対象者、と統一してお伝えします。
監修者プロフィール

近藤 ゆみ

アーティエンス(株)にて、研修講師、組織開発・人材育成のコンサルタント、コラムの監修・執筆などに従事。前職の大手人材紹介会社では、転職希望者のキャリアカウンセリングから転職サポートまでを一貫して担当。

1)「OJTは意味がない」と言われる3つの要因

「OJTは意味がない」と言われる要因は、次の3つです。

・OJT制度が整備されていないから
・時代や環境の変化に適応できていないから
・トレーナーの育成スキルが不足しているから

一つずつ解説していきます。

OJT制度が整備されていないから

一つ目は、「OJT制度が整備されていないから」という要因です。OJT制度自体が整備されていなければ、「とりあえず、今日はこれやっといて」というような場当たり的な指導が多くなり、OJT対象者としては、OJTの目的を見出せず効果も感じにくくなり、「OJTは意味がない」と捉えるようになります。

例えば、次の6つの観点で一つでも不充分な点があれば、OJT制度が十分整備されているとは言えません。

詳細
育成のコンセプトは明確になっているか?
OJT終了後の目指す姿・目標が明確になっているか?
Off-JT(※)と連動性があり、目指す姿・目標から逆算された育成スケジュールがあるか?
基本的なOJTの指導ガイドやマニュアル等が用意されているか?
トレーナーに対して定期的なフィードバックやサポート体制があるか?
OJTに対して周囲(トレーナー以外)の協力体制は構築できているか?
※ Off-JT: Off-the-Job Trainingの略称。職場や通常の業務から離れ、特別に時間や場所を取って行う教育・学習を指します。

上記6つの観点で不充分な点があった場合は、OJT制度の整備が必要となります。整備の考え方・進め方については、次章で詳しく解説いたします。

【参考】OJT制度が整っていないと、OJT対象者は「自分は放置されている」と感じやすくなります。その状態が続くと、早期離職やパフォーマンスの低下など、組織に対して様々な悪影響を及ぼす可能性が高まります。詳細は下記コラムをご覧下さい。
新入社員の放置は今すぐ止めるべき!その理由と対処方法5選

時代や環境の変化に適応できていないから

二つ目は、自社のOJTが、時代や環境の変化に適応できていないという要因です。 「昔はちゃんとOJTが機能していたのに、最近はあまり機能していないように感じる」というお悩みを抱えている組織や職場は、この要因が当てはまるでしょう。

その要因の背景として、社会心理学者ジョナセンによる「知識習得の3段階モデル」という考え方を基に、解説します。ジョナセンよると、人の知識習得には次の3段階があると言われています。  知識習得の3段階モデル

初期レベル

習得したい知識が構造化されている、いわゆるマニュアル化されているため、練習を繰り返すことで習得が可能となります。

アドバンスレベル

本レベルで習得を目指す内容は、全て明確に構造化されているわけではありません。そのため、上司・先輩等からティーチングやフィードバックを受けながら、習得していきます。徒弟関係をイメージいただくとよいかもしれません。

エキスパートレベル

本レベルで習得を目指す内容は、上司・先輩等でさえも正解を持っていない知識を扱うレベルとなります。そのため、お互いの経験を共有し対話を通して、最適解を目指して取り組みながら、習得していくことになります。

この3段階モデルを日本企業のOJTで考えます。
まず、日本企業のOJTは、高度経済成長期の製造業を中心に浸透していったと言われています。その当時、OJTで指導される知識やスキルは、時代の変化にあまり左右されにくくマニュアル化されている内容が多く、まさに「初期レベル」の学習内容が中心であったと言えます。そこから時代は移り変わり、バブルが崩壊し、IT革命が訪れます。IT革命によってもたらされた、膨大な情報量の処理や変化スピードに適応していくため、上司・先輩からのティーチングやフィードバック指導が中心となる「アドバンスレベル」のOJTも並行して行われていきました。

そして、2020年以降コロナというクライシスが訪れ、ビジネス環境の変化はさらに激しさを増しています。コロナ前からも言われていた「正解がない時代」というものを、一人ひとりがより強く実感しているのではないでしょうか。現在のOJTでは、トレーナーとOJT対象者が共に学習し続ける「エキスパートレベル」での育成が不可欠になっています。

※ もちろん、上記は一例ですので、以前から「エキスパートレベル」でのOJTを実践している企業もあると思います。その取り組みは素晴らしいと思いますので、継続しつつ、今後はより一層、意識してOJTをデザインしていただけると良いかもしれません。

また、知識習得の側面だけではなく、働く人の価値観や働き方も大きく様変わりしているため、そこに適応したOJTを行っていくことが必要です。
例えば、テレワークで働いているOJT対象者に対して、トレーナーが「背中をみて学べ」という価値観を持って接していたり、従来のOJT制度のみで育成を行い続けるだけでは効果が出にくいのは目に見えています。

このように、時代や環境の変化に適応できていないOJTを続けている場合、「OJTは意味がない」と捉えられてしまいます。

【参考】テレワーク環境下で、OJTに課題に感じている方向けのお役立ち資料
下記より無料ダウンロードいただけます。
テレワークであっても、OJTを活性化させる3つのポイント

トレーナーの育成スキルが不足しているから

三つ目は、トレーナーの育成スキルが不足しているために適切な指導ができず、「OJTは意味がない」と考えられるケースです。会社や業務の知識やスキルは、勤続年数と共に自然と身に付くことも多いかもしれませんが、育成スキルは自然と身に付くものではありません。OJT実施前に、予めトレーナーに育成スキルを付与・訓練し、育成担当者として育てていかなければ、当然適切な指導はできず、期待したOJTの効果を得ることは難しくなります。

また、前章でも触れた、時代やビジネス環境の変化によって指導する内容も、複雑さや曖昧さを増しています。そのため、指導方法も従来の方法から変化させていく必要があります。
例えば、従来のOJTは、「見せる・説明する・やらせる・チェックする」という4ステップが基本であり中心でした。  従来のOJT 見せる・説明する・やらせる・チェックするという4ステップ この方法はもちろん現在でも基本となりますが、それに加え「育成的コーチング行動」がOJTでは必要であると考えています。育成コーチング行動とは、部下の職務パフォーマンスを向上させるために1対1のフィードバックやアドバイスを行う活動を指します。 【育成的コーチング行動】  育成的コーチング行動 【出典】:人材開発研究大全「第10章 OJTとマネジャーによる育成行動(松尾睦)」を基に、アーティエンス作成

図からもわかるように、育成的コーチング行動は「基盤形成・内省支援・問題解決支援・挑戦支援」の大きく4つのプロセスに分けられます。ただ、4つのプロセスが順番に行われるわけではなく、相互に作用しながら実施されます。

ビジネス環境の不確実性が増し、OJTの4ステップのように「まずはやることを見せて、説明して、その通りに体験させる」というステップで指導することが難しく、仕事の流れや内容が明確に定まっていない業務も多くなっています。そのような業務をOJTを通して指導していくには、「部下との関係を構築した上で、部下の内省を促し、自律的に問題を解決できるように支援し、さらなる挑戦をサポートする」という特徴を持った育成的コーチング行動が有効であると言えます。

しかしながら、育成的コーチング行動の必要性が増す一方で、OJTの4ステップに比較するとトレーナー自身が実施する難易度が高いため、OJTで適切に実施できていない場合が少なくありません。そのため、トレーナーの育成スキルが不足していると受け止められ、「OJTは意味がない」と捉えられてしまうのです。

2)「意味がないOJT」脱却に向けて検討したい3つの観点

前章では、「OJTが意味がない」と思われてしまう3つの要因についてお伝えしてきました。では、「意味がないOJT」を脱却するためには、どのような対策を講じていけばよいのか、3つの観点から詳しくお伝えします。

施策 詳細
OJT制度を構築する・見直す ①育成コンセプト
②OJT対象者の選定基準
③トレーナーの選定基準
④OJT実施期間
⑤OJT終了後
⑥OJT制度の検証方法
⑦OJTで指導する業務内容
⑧OJTの基本スケジュール
⑨育成マニュアル・ガイド等
⑩OJT期間中のフォロー体制
トレーナーへのサポート体制を強化する ・育成に対する想い・当事者意識の醸成
・育成知識・スキルの向上
・仲間同士で学び合い、フォローし合える場の構築
OJT対象者へのサポート体制を強化する ・定期的なサーベイ実施とフォロー
・トレーナーとの合同研修
・仲間同士が気軽に相談し合える場の構築

一つずつ解説いたします。

OJT制度を構築する・見直す

一つ目は、「OJT制度を構築する・見直す」ことです。OJT制度が既にある場合には、改めて内容の見直しを、OJT制度が構築されていない場合には、下記10の項目をご参考に自組織に合ったOJT制度を検討してみてください。

【OJT制度設計にあたっての検討項目】

①育成コンセプト

自社における「育成コンセプト」を明確化します。育成コンセプトは、OJT実施有無に関わらず、人材育成において重要な項目となりますので、もし自社で設定されていなければ、これを機に設定いただくことを推奨します。コンセプトを設定する理由は下記の通りです。

・軸がぶれにくくなり、考え方に一貫性を持ちやすくなるため
・OJTだけでなく、Off-JTの企画も検討しやすく連動性を考えやすくなるため
・現場社員への展開時、育成コンセプトがあるとイメージがしやすくなるため

例えば、下記は、あるクライアント様とご一緒に考えた育成のコンセプトです。(文言の一部を変更しています)

【育成コンセプト】自ら考えて、周囲と学び合い続け、成長を楽しむ人材へ

そのクライアント様とは、この育成コンセプトを上位概念として、新入社員育成のOJTやOff-JTの全体設計を行っていきました。

②OJT対象者の選定基準

新入社員、中途入社者、部門異動者など、OJTの対象となる基準を具体的にしておくことで、その都度迷わずにOJT実施が可能となります。

③トレーナーの選定基準

OJTで育成担当となるトレーナーの選出基準を設定します。ポイントは、次の2点です。

・「トレーナーとして成長してほしい人」を選出すること
・トレーナーに任命した理由を丁寧に説明できること

OJTはトレーナーにとっても成長できる機会になります。また、トレーナー経験を積むことは、管理職に求められるスキルを磨くことにも繋がりますので、将来的に管理職としての活躍を期待する社員を選出するのもよいでしょう。
その一方で、トレーナーとして一定の業務負担も発生するので、そのあたりの調整が現実的に可能かどうかも選定時に考慮すべき点になります。そのため、業務状況をふまえた判断が可能な直属の上司が選出することが望ましいです。

上記2つのポイントをふまえ、「なぜトレーナーに任命されたのか?」を本人が前向きに受け止められるように丁寧に説明することが重要です。

④OJT実施期間

半年~1年間などのOJTを実施する期間を検討します。対象者や職種によって、期間を設定している企業が多いです。

⑤OJT終了後に目指す姿・目標

OJT終了後、「何を、どの程度身に付け、どのような状態を目指すのか」という目標を設定します。目標を設定しなければ、OJT終了後に正しく振り返りができませんので、丁寧に検討する必要があります。

⑥OJT制度の検証方法

OJT制度を検証する方法を検討します。定性的・定量的の両側面で考えられるとよいでしょう。一例として、下記が挙げられます。

・OJT対象者の入社3年間の離職率の推移
・OJT対象者の入社1年後のパフォーマンスの推移
・パルスサーベイやエンゲージメントサーベイの推移
・トレーナーやOJT対象者向けのアンケートやヒアリング

仮に、OJT制度導入後3年で離職率が低下していた等のデータが現場に共有され、OJT制度が人材の定着に一定の成果を出せているとなると、現場社員の育成に対する意識・意欲向上にも繋がっていきます。

⑦OJTで指導する業務内容

OJTで指導する業務内容を検討します。なぜならば、OJTには「体系的に学習しづらい」という特性があり、OJTを導入して成果を出しやすい業務と、そうではない業務があるためです。

例えば、OJT対象者が新入社員であれば、ビジネスマナーやITスキルなどをOJTのみで習得を目指すのは不向きと言えます。職種やトレーナーによって指導内容にバラつきが大きく、体系的に学習しづらいためです。その他、プロジェクトごとに進め方が変動したり、突発的な対応が多い業務は、教える側も教わる側も負担が大きく、OJTには不向きでしょう。

上記のようなOJTに不向きな業務に関しては、いきなりOJTを行うのではなく、研修(Off-JT)で基本的な考え方やスキルなどを習得してもらうことがポイントです。基礎的な力を養った上でOJTに臨み、定期的に振り返りをしながら体系的に学習していくことで、OJTの効果が高まります。

OJTは万能な育成方法ではありません。OJT制度設計にあたって、今一度「この業務は本当にOJTに向いているのか?Off-JTの方が効果的ではないか?」と検討していただくことを推奨します。

⑧OJTの基本スケジュール

OJT終了後に目指す姿・目標や指導内容が定まったら、そこから逆算して、「いつまでに・何を・どの程度まで・どのように教え、どのような状態を目指すか?」といったスケジュールを検討します。検討に向けてのポイントは次の通りです。

◆スケジュールは、余裕を持たせて調整する
現場ではトラブルやイレギュラー対応が発生することが往々にしてあります。バッファを持たせて、最初から余裕を持ったスケジュール設計にしておきましょう。

◆Off-JTとの連動を意識しながら、スケジュールを検討する
各研修の教育内容と一貫性を持たせ、インプット・アウトプットのバランスを鑑みながら検討します。

※ 詳細のスケジュールは、基本的には、配属先の管理職やトレーナーらで検討しますが、スケジュールの大枠は人事側で設定し、現場のOJTをサポートしていけるとよいかと思います。(テンプレートを用意しておくこともおすすめです。)

【参考】
新入社員研修のスケジュールの立て方・ポイントについては、下記コラムにて詳しく解説しています。
新入社員が最大限の学びを得るための新入社員研修のスケジュールの作り方

⑨育成マニュアル・ガイド等

基礎となる指導内容はマニュアルやガイドに落とし込み、育成の標準化・時間短縮を図ります。

【参考】
新入社員の育成マニュアルの作成・運用方法については、下記コラムにて詳しく解説しています。
新入社員の意識と行動が変わるマニュアルの作り方と運用方法~一つ上のマニュアルを作る~

⑩OJT期間中のフォロー体制

直属の上司や人事担当が、トレーナー・OJT対象者とそれぞれ定期的に面談を行い、OJT期間に第三者としてフォローできる体制を整えます。具体的な取り組み例は、次章以降で詳しくお伝えします。

OJT研修の具体的な内容やポイントについては、下記コラムにて詳しく解説しています。
OJT研修の内容によって「人が育つ組織をつくる」ための3つのポイント

トレーナーへのサポート体制を強化する

OJT制度が整備されたら、トレーナーに対するサポート体制について検討していく必要があります。具体的に検討すべき項目は、次の3点です。

1)育成に対する想い・当事者意識の醸成
2)育成知識・スキルの向上
3)定期的なフォロー・サポート

一つずつ、解説します。

1)育成に対する想い・当事者意識の醸成

「トレーナーとしての育成に対する想い・当事者意識」を醸成することは、OJTを意味ある施策にしていくためには、欠かせないステップであると考えています。

なぜならば、想いや当事者意識を持てず、やらされ感を抱いたままに育成に取り組んでいる状態は、トレーナー自身が「OJTは意味がない」という考えになりやすく、そして、それはOJT対象者にも伝播しやすくなるからです。

「育成に対する想い・当事者意識の醸成」に向けては、トレーナーを対象に研修を実施することが効果的です。人事への提出課題として個人で取り組むことも可能ですが、研修を通してトレーナーの仲間同士で対話を重ねることで、自身の枠組みや視野が広がり、より多様な観点から育成への想いを醸成することができるためです。

研修では、例えば次の問いについて整理できる簡単なフォーマットを用意し、“想い”の言語化の手助けを行うことも一つの方法です。

・自身は日々どのような想いをもって行動しているのか
・会社からの育成方針を受けて、自分なりにどのような育成を行おうと考えているのか

OJTは、OJT対象者の成長支援が大きな目的ではありますが、それだけではありません。OJTの遂行は、トレーナーにとっても大きな成長のきっかけとなる素晴らしい経験になるはずです。そのための下準備として、トレーナーの想い・当事者意識の醸成は、より意識して取り組んでいただければと思います。

2)育成知識・スキルの向上

育成への想い・当事者意識が醸成されたら、実際に指導していく上で必要な知識・スキルの習得を目指します。前述しましたが、育成知識・スキルは自然と身に付くものではなく、体系的に知識やスキルを付与・習得することで、より効果の高いOJTが期待できます。

こちらも、トレーナー向けに研修を実施いただくことを推奨します。研修では、下記項目を基礎的な育成スキルとして取り扱っていただくことをおすすめします。

・育成計画作成スキル
・ティーチングスキル
・フィードバックスキル
・コーチングスキル

弊社では、上記スキルを習得するための トレーナー研修を提供しています。
OJTトレーナー養成研修の詳細を見る

3)定期的なフォロー・サポート

OJT期間中、定期的にトレーナーをサポートする仕組み構築も必要です。 「事前にトレーナー向け研修を実施したら、もう大丈夫」というわけではなく、実際に現場で育成を経験すると、日々さまざまな悩みやモヤモヤが生じてくるはずです。それらを解消せずに放置したままでは、期待した成長や成果には結びつきにくいでしょう。定期的なフォローやサポートの一例としては下記があります。

・トレーナー同士での勉強会
・現場管理職との定期的な1on1
・人事担当者との定期面談

例えば、「トレーナー同士での勉強会」では、トレーナー同士が育成に関する悩みや工夫していることなどを共有し合い、トレーナー同士で学び合える環境の醸成を支援します。勉強会開催にあたっては、下記点を抑えておくとより良い学びの場になるかと思います。

・愚痴を発散するだけの場にならないよう、人事や第三者がファシリテーターとして介入する
・勉強会の目的・目標・アジェンダ・参加者の役割・グランドルールは明確に設定する
・Google jamboardなどを用いて、事前に悩みやモヤモヤを書き出しておいてもらう
(匿名性がある方が共有しやすい)

※「組織の学び合う風土創り」に向けてサポート体制を強化したい場合は、社内ファシリテーターの育成が重要であり、最も効果的です。弊社では、社内ファシリテーター育成コースを開講しています。研修の内製化や社内ワークショップ実施の際に役立つスキル・知識をお伝えしています。
社内ファシリテーター育成コースの詳細を見る

OJT対象者へのサポート体制を強化する

トレーナーへのサポート体制だけでなく、OJT対象者に対しても定期的なフォローを施策として検討していく必要があります。具体的に検討すべき項目は、次の3点です。

1)定期的なサーベイ実施とフォロー
2)トレーナーとの合同研修
3)仲間同士が気軽に相談し合える場の構築

一つずつ解説いたします。

1)定期的なサーベイ実施とフォロー

パルスサーベイなど短スパンで回答するサーベイを導入し、OJT対象者の状態を定期的に把握しておくことはオススメです。その理由は、次の通りです。

・サーベイ結果を基に、適切なタイミングでフォローを行いやすくなる
(特にテレワーク等で普段の仕事振りが見えにくい状況下であればなお効果的です)
・トレーナーには、直接言いにくいこと等をサーベイ回答を通して伝えやすくなる
(サーベイの内容やフリーコメントの有無により異なります)

例えば、弊社ではGrowthという若手・新入社員向けのパルスサーベイを提供しています。Growthは、計10の設問から成る月1回実施しているサーベイです。回答者の仕事に対する意欲や状態が可視化され、状態に応じて適切にフォローを行うことが可能です。

【参考】Growthを導入している人事担当者様からの声
・Growthサーベイの導入を機に、新入社員と月1回の1on1を行うようになった。サーベイ結果を見ながら新入社員と対話をしているので、「何を話せばいいのか?」という戸惑いも減り、普段だと聞きにくいことも話しやすくなったと感じる。

・配属後は、3か月に1度の人事面談でしか接点が持てなかったが、月1回サーベイによって新入社員の状況が見える化されるようになり安心感が持てた。コメントでモチベーションが下がっている子を見つけた時は、現場上長やトレーナーにも共有し、タイムリーにフォローしやすくなった。

【参考】パルスサーベイ Growth 計10の設問
若手・新入社員に必要とされるセルフマネジメント力の醸成とリーダーシップ発揮の意識醸成を目的とした設問を設定しています。

クリックで拡大

Growthに関するお問合せはこちら

2)トレーナーとの合同研修

OJT期間が数か月経過したタイミングで、トレーナーとOJT対象者との両者合同で研修を行うことも「意味のないOJT」からの脱却には効果的です。なぜならば、「意味がない」と感じる理由として、「OJTを通じた成長実感」を持てないこともあるためです。合同研修を行うことで、OJT対象者やトレーナーが自分たちの成長を実感する機会を持つことで、「OJTは効果的で、意味のあるものだ」という認識に繋がります。

ご参考までに、弊社で実施している「新入社員・OJTトレーナー合同研修」の研修内容をご紹介します。(OJT開始後、2~3ヵ月以上経ったタイミングでの実施を推奨しています。)

時間 形態 内容 目的
午前 トレーナー・新入社員が、それぞれ別のクラスで研修を受講 ・5~6人のグループになり、自身の仕事での近況をフォーマットに沿って共有
・聴き手は話し手に、ポジティブフィードバックと感想を伝える
・安心・安全な場づくり
・成長実感/不安の解消
午後/前半 トレーナー・新入社員が、同一クラスで研修を受講 ・トレーナーと新入社員を混ぜたグループ(4~5人程度)をつくり、ワールド・カフェという対話を実施
・双方にとってどのような未来を描けるとよいのかを探求
・多様な観点に触れ、視野を広げる
・相互理解の促進
午後/後半 ・トレーナーと新入社員とでペアワークを行い、下記を共有し合う  
*これまでの感謝の気持ち
*これまで言えていなかったこと
*今後の自身の成長の展望
(トレーナーは、新入社員への期待)
*成長に向けての具体的なリクエスト
・関係性の向上
・成長イメージのすり合わせ

研修開始直後の午前中は、トレーナー・新入社員は別クラスで研修を行います。
その理由として、まずは同じ立場のメンバーが集まり、安心・安全な環境の下で成長の実感や近しい立場ならではの不安の解消を図るためです。

次に、午後/前半では、できるだけ現状をフラットに且つ多様な視点から見て、視野を広げられるように、様々な社員と対話ができるワークの時間を設定しています。そして、午後/後半では、相互に率直な気持ちを伝え合います。終日研修を通して仕事上のコミュニケーションから外れ、非日常的な機会を設けると、普段気付けていないことに気付けることも多くあります。

実際、研修に参加したトレーナーからは下記のような感想をいただいています。

・新入社員側の目線を改めて思い出すことができました。そして、自分と新入社員では見ている世界が異なっていることに気付きました…もっと日々の業務ですり合わせたり、フォローしていく重要性を感じました。

・新入社員が自律・自走できるようになるためには、トレーナー1人だけではなく、チーム全体でのサポートもより強化していきたいと感じた。チーム全体で、新入社員にフィードバックができるような体制作りを考えていきたい。

※上記合同研修に関する詳細・資料請求は下記からご覧いただけます。
新入社員・OJTトレーナー合同研修 ~内省と対話を通じて関係の質を高め、現場育成の成長サイクルを加速させる~

3)仲間同士が気軽に相談し合える場の構築

OJT対象者同士が気軽に相談し合える場を定期的に創り、OJT対象者が、社内で気軽に相談できる人や場を創っておくことも重要です。なぜなら、仮にOJT対象者がトレーナーに対して何らかの問題を感じている場合、すぐに誰かに相談ができれば、問題を早期に解決しやすくなるためです。例えば、下記のような施策があります。

・定期的にフォロー研修を実施する
・同期同士の社内チャットグループをつくる
※ 中途社員のOJTの場合も、入社時期や年齢の近い社員同士で、交流を持たせると良いでしょう。

弊社で行っている新入社員向けフォロー研修では、「同期と話せて、現場で同じことで悩んでいることが分かって、安心した」「同期の取り組みを聞いて、自分も取り入れてみようと思った」といったコメントが、受講生からよく出ています。同時期に入社し、同じ経験をしている立場だからこそ分かり合える悩みや不安があり、それらを互いに話すだけでも悩みが解消されたり、安心できることもあるのでしょう。

人事担当として、OJT対象者と定期的に面談や1on1を行い、問題を把握・解決していくことももちろん重要ですが、OJT期間中にフォロー研修などで同期同士が交流する機会を定期的につくっていくことも、OJTの効果を高めていくためには大切な取り組みです。

3)まとめ

本コラムでは、「OJTは意味がない」と思われる3つの要因と「意味がないOJT」から脱却するための施策について、お伝えしてまいりました。改めて、本コラムの要点をまとめます。

【「OJTは意味がない」と言われる3つの要因】
・OJT制度が整備されていないから
・時代や環境の変化に適応できていないから
・トレーナーの育成スキルが不足しているから

【「意味がないOJT」脱却に向けて検討したい3つの観点】

施策 詳細
OJT制度を構築する・見直す ①育成コンセプト
②OJT対象者の選定基準
③トレーナーの選定基準
④OJT実施期間
⑤OJT終了後
⑥OJT制度の検証方法
⑦OJTで指導する業務内容
⑧OJTの基本スケジュール
⑨育成マニュアル・ガイド等
⑩OJT期間中のフォロー体制
トレーナーへのサポート体制を強化する ・育成に対する想い・当事者意識の醸成
・育成知識・スキルの向上
・仲間同士で学び合い、フォローし合える場の構築
OJT対象者へのサポート体制を強化する ・定期的なサーベイ実施とフォロー
・トレーナーとの合同研修
・仲間同士が気軽に相談し合える場の構築

アーティエンスでは、「クライアントの組織の育成文化を共に醸成していきたい」という想いを持って、OJTトレーナー向け研修や新入社員研修など、各種研修サービスや組織開発を提供しております。

一つとして同じ会社がないように、育成のやり方・アプローチも会社によってそれぞれ違ってきます。
クライアント企業様が抱えている課題感や特性や状態を基に、OJTの制度設計から研修までをサポートいたしますので、もう少し詳しく知りたい、一緒に考えてみたいと思った方は、下記ボタンよりお気軽にご相談くださいませ。

参考:新人で放置される・OJTで教えてもらえない時の対処法