新入社員の意識と行動が変わるマニュアルの作り方│一つ上の活用方法も説明

更新日:

作成日:2022.11.1

 男性と女性の社員が何かを確認している 

「新入社員の立ち上がりが悪い。マニュアルを作らないと」
「新入社員への指導の際に、マニュアルがあると楽なんだけどな」
「新入社員のミスが多い。同じミスがあるので、マニュアルで何とかしたい」

という問題意識を持っている経営者・人事・管理職の方は、多いのではないでしょうか。
さらに、新入社員からすると、

「人によって言っていることが違う。マニュアルを作ってほしい」
「上司やトレーナーと、『言った言わない』になって嫌だ。マニュアルが欲しい」
「同じことを聞いているようで、何度も質問しづらい。マニュアルがあれば・・・」

と考えているケースも多く見られます。

守破離(※)という言葉がありますが、守を徹底するためにも、まずはマニュアルを整備することで、新入社員の成長も促せますし、上司・トレーナーが効率的に指導やOJTが可能になります。

守破離・・・剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。
「守」は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。
「破」は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。
「離」は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階。

(出典)goo国語辞書

本コラムを最後まで読んでいただくと、新入社員に必要なマニュアルの理解から、マニュアルを通して新入社員の成長を促す内容が分かります。
そして、自組織の新入社員にとって、用意したほうがよいマニュアルやアップデートしたほうがよいマニュアルが見つけられます。

監修者プロフィール

山下 絢加

2013年にアーティエンスに入社。組織開発・人材育成のコンサルタントとして、大手企業から中小企業まで、幅広く研修プログラムの企画・開発・運営を実施。子育てを機に、現在は主にマーケティングプランニングを担当。



新入社員研修成功事例集

1)これだけは必ず押さえておきたい!新入社員に必要なマニュアルとは何か?

新入社員に必要なマニュアルとは、社内ルールのマニュアルと、業務遂行に必要なマニュアルです。この2つに関しては、それぞれ説明していきます

①社内ルールのマニュアル

社内ルールのマニュアルとは、新入社員に対して組織のルール・常識を渡していくものです。
組織のルール・常識が分からないと、仕事をする上で戸惑うことも出てきますし、また組織の一員という意識が持てなかったりもします。

具体的には、下記の内容をまずはルール化するのが良いでしょう。

・各ツールの使い方
・備品の扱い方
・コンプライアンス
・マナー

「各ツールの使い方」に関しては、「勤怠管理、スケジュール管理、会議室の予約、残業申請、経費精算、有給休暇取得申請」などが上げられます。

「備品の扱い方」に関しては、「ノートPC・USBメモリ・携帯」の活用方法(外への持ち出しルール)や、備品の使用方法・発注方法などが上げられます。

「コンプライアンス」に関しては、情報の取り扱い、SNSの利用方法、ハラスメント内容の理解、および窓口の提示などが上げられます。

「マナー」に関しては、自組織の特有のマナーに関しては、言語化し、マニュアルに落としていく必要があります。

例えば、ある家電量販店では、目上の人に対しても「お疲れ様です」ではなく「ご苦労様です」を用いるそうです。理由は、「お疲れ様です」は疲れていないにもかかわらず、疲れていることが前提になっているから、表現として避けたいとのことでした。他にも、当社が聞いた特殊なルールは、「ノートPCは顧客先では開かない(理由は失礼にあたるから)」や、「役職・性別・年齢にかかわらず、全員に”さん付け”と敬語を使う」、「異性の社員を食事などに誘った場合、2回断られたら3回目以降は誘ってはいけない」などが上げられます。

自組織にとっては当たり前のことであっても、新入社員にとっては当たり前ではありません。
新入社員に対して組織のルール・常識を渡していくことが必要です。

②業務遂行のためのマニュアル

業務遂行のためのマニュアルとは、新入社員がスムーズに業務が行え、新入社員の立ち上がりを早めていくものです。

基本的な業務を行うための手順や知識が分からないと、新入社員は何をしていいかもわかりませんし、上司やトレーナーに何度も同じことを聞く可能性も出てきます。また抜け漏れや理解不足の観点から、ミスが発生し、顧客に迷惑をかけたり、会社への損害になるケースも出てきます。

具体的に、業務遂行のためのマニュアルとしては、下記を押さえておくとよいでしょう。

・業務の目的・全体像の把握
・具体的な業務の進め方

「業務の目的・全体像の把握」に関しては、業務自体の目的(位置付け)や、全体像の把握が必要です。

業務自体の目的(位置付け)が分からないと、何のためにこの仕事をしているか理解できていないため、機械的に仕事を進めてしまい、言われたことしかできない社員になってしまいます。

全体像に関しては、プロセスなどに沿って、全体像を見せ、どの部分を行っているかを理解できるといいでしょう。前後の仕事の流れが分かるので、自身の仕事とかかわる人への配慮などもできるようになりますし、配慮がない場合はそのマニュアルをもとに指導も可能です。

【参考】当社、案件受注の際のフロー全体像

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「具体的な業務の進め方」に関しては、「通常業務」、「イレギュラー対応」、「よくある質問」などをまとめていくとよいでしょう。

「通常業務・イレギュラー対応」に関しては、オペレーションを細かく分解して、具体的に何を行うかを明確にします。

【参考】当社、受注時の連絡方法に関して

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「よくある質問」に関しては、現場の社員に聞いてまとめるといいでしょう。こちらは常にアップデートしていく意識を持っておくことが必要です。

業務遂行のためのマニュアルを整備すると、新入社員がスムーズに業務を行えて、新入社員の立ち上がりを早めていくことが可能です。

2)新入社員の意識と行動が変わるマニュアルの作り方

新入社員の意識と行動が変わることを考えて、マニュアルを作ることが必要です。
マニュアルを通して、新入社員を自組織に対して迎え入れて、そして新入社員の成長を促していくことが重要です。

下記の4つのプロセスで新入社員のマニュアルを作っていきます。

①マニュアルの前提・目的のすり合わせ(MVVや、戦略・方針など)
②マニュアルのゴール設定と、具体的な項目の洗い出し
③マニュアルの作成
④マニュアルのチェック

「マニュアルの前提・目的のすり合わせ(MVV(※)や、戦略・方針など)」に関しては、経営者や事業責任者などとすり合わせていくことが必要です。
MVV・・・ミッション・ビジョン・バリューの略

ここがずれてしまうと、ただの手順書になってしまい、新入社員は機械的にマニュアルを扱ってしまいます。マニュアル以外はしないという受け身の新入社員になりかねません。

「1)これだけは必ず押さえておきたい!新入社員に必要なマニュアルとは何か?」の「②業務遂行のためのマニュアル」の「業務の目的・全体像の把握」で必要になるので、しっかり押さえていきましょう。
具体的には、MVVなどの経営理念の内容が入るだけでも、MVVが育まれていき、新入社員も当事者意識を持っていきます。

【参考】当社は、「PurposeとValue」をマニュアルなどの資料の始めに入れるようにしています。  MVV アーティエンス株式会社

「マニュアルのゴール設定と、具体的な項目の洗い出し」に関しては、「用意するマニュアルを通して、新入社員の意識と行動がどのように変わるのか?」、「そしてそのために必要な項目は何か」を考えていく必要があります。

「マニュアルの前提・目的」は抽象的になるので、それを具体化していくために「マニュアルのゴール設定と、具体的な項目の洗い出し」が必要になります。

これは、現場の社員に聞きながら進めていくとよいでしょう。まずは粗い案を作って、それをもとに現場社員とすり合わせていくことが必要です。ここでの注意点としては、作り込んでからではなく、粗い案で持っていくことが必要です。そのほうが、現場の社員と共に作っているので、現場も受け入れやすくなります。

「マニュアルの作成」に関しては、可能な限り可視化していくことが必要です。
また下記のような順番で作ることをお勧めします。

【マニュアルの順番に関して】
1. 想い・・・マニュアルの前提・目的や、MVVなどを伝えていきます
2. 更新日時・・・いつ何が変わったのか分かるようにします
3. ゴール・・・マニュアルのゴールを明確にすることで意識と行動の変化を明確にします
4. 全体像・・・マニュアルの全体像を見せることで、理解しやすくします
5. 具体的な内容・・・具体的なオペレーションを記載します
6. 問い合わせ窓口・・・何かあった時の連絡先を記載します

※ 上記 3.と4.に関しては、一緒に扱うこともあります。

「マニュアルのチェック」に関しては、現場の社員にチェックを依頼します。
チェックの観点としては、下記3点になります。

・抜け漏れがないか
・新入社員にとって分かりやすく、意識と行動が変わるか
・現場社員が新入社員に指導をする際に扱いやすいか

チェックの時に、実際に何人か使ってもらうといいでしょう。
※ チェックを依頼する前に、マニュアルの作成者がチェックすることも必要です。

新入社員の意識と行動が変わることを考えて、マニュアルを作っていくとよいでしょう。

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3)新入社員でもわかるためのマニュアルの注意点

新入社員でもわかるためのマニュアルには、下記4つの注意点がありますので、それぞれ説明していきます。

①5W2Hを活用し、何のためのマニュアルかを明確にする
②専門用語・社内用語の場合は、補足を必ずつける
③可視化により活用時のイメージを持たせる
④マニュアルを渡して終わりではなく、レクチャーする

①5W2Hを活用し、何のためのマニュアルかを明確にする

「2)新入社員の意識と行動が変わるマニュアルの作り方」の「マニュアルの作成」の「3.ゴール、4.全体像」で用いることが多く、一目瞭然で把握することが可能になります。

【参考】当社、勉強会のマニュアル

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このように、5W2Hを活用し、何のためのマニュアルかを明確にしていくことが必要です。

②専門用語・社内用語の場合は、補足を必ずつける

専門用語・社内用語は、新入社員は理解できない場合が多いため、専門用語・社内用語の説明がないと、マニュアルがあっても、質問は多く発生します。

例えば、社内ツールの名称などもこれに当てはまります。一覧表などを作ることもお勧めします。専門用語・社内用語の場合は、必ず補足をつけていくことが必要です。

③可視化により活用時のイメージを持たせる

文章だけではなく、可能な限り可視化することで、実際の活用イメージができます。

【参考】当社、Twitterの運用(一部抜粋)

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可視化により活用時のイメージを持たせることで、マニュアルの理解が進みます。

④マニュアルを渡して終わりではなく、レクチャーする

マニュアルを渡して終わりだと、理解が進まない場合があります。マニュアルだけだとどうしても理解が進まない部分もあるので、しっかり説明します。

レクチャーをする際には、「教えて、やって見せ、やらせて見せ、フィードバックを行う」というフローを、可能な限り取るとよいでしょう。また内容によっては、新入社員が何度もマニュアルの手順を行うことで、理解や操作ミスがないようにします。内容によっては、ロープレなども行うとよいでしょう。

【参考】必要な情報を必要なタイミングで渡すことが必要
マニュアルのレクチャーですが、起こりがちなミスとしては、入社・配属してすぐに多くの内容をレクチャーするケースです。一度に多くのインプットがあると、新入社員がパンクするケースがあります。

例えば、経費精算などのレクチャーは、簡単に申請ルールなどの説明にとどめ、具体的な内容は経費精算を行う際に実施すればよいでしょう。必要なタイミングに必要な情報を渡していきましょう。

4)新入社員が、マニュアルを有効活用するための一つ上の使い方

新入社員が、マニュアルを有効活用するための一つ上の使い方として、下記3点を意識するといいでしょう。

①経営理念や、戦略との連動を行い、意識付けと行動を強化する
②報連相時に活用し、上司・トレーナーとのスムーズなコミュニケーションをとる
③運用上問題が出てきたり、方針が変わったときに随時アップデートする

①経営理念や、戦略との連動を行い、意識付けと行動を強化する

マニュアルをただの手順書・作業書にするのではなく、経営理念などをマニュアルと連動させると組織文化の醸成ができますし、戦略と連動すると目標達成を促すものになっていきます。

こちらは、「2)新入社員の意識と行動が変わるマニュアルの作り方」の「マニュアルの前提・目的のすり合わせ(MVVや、戦略・方針など)」で説明していますが、マニュアルにこの観点があるのとないのとでは、新入社員の意識・行動への影響が変わります。

例えば、「経営理念や、戦略との連動」がない場合は、何のためにこの仕事を行っているか分かりません。「経営理念や、戦略との連動」がある場合は、何のためにこの仕事を行っているか分かるので、想いも入っていきますし、マニュアルに不都合が出ている場合などは、新入社員からの意見も出やすくなります。そして何より、組織への理解が高まり、エンゲージメントの向上も考えられます。

そのため、経営理念や、戦略との連動を行い、意識付けと行動を強化することは、とても重要です。

②報連相時に活用し、上司・トレーナーとのスムーズなコミュニケーションをとる

上司・トレーナーとの報連相時に活用すると、スムーズにコミュニケーションが取れますし、誤認識が起こりづらいです。そして、お互いの負担も減るでしょう。

例えば、マニュアルを持たないで一から説明を行うより、マニュアルを持っていって「この部分で質問があります」のほうがスムーズではないでしょうか。上司・トレーナーとの報連相時に活用することを、新入社員に意識させるとよいでしょう。

③運用上問題が出てきたり、方針が変わったときに随時アップデートする

マニュアルを作ったとしても、状況などは変わっていきます。特に会社の戦略や方針が変わると、変更点は出てきますし、実際にマニュアルを作った後にアップデートの箇所が必要にもなってくるでしょう。
せっかくのマニュアルがもとでトラブルが起きたり、品質の低いサービスを顧客に提供することにもなりかねません。マニュアルは随時アップデートしていくことが必要です。

【参考】マニュアルの作成やアップデートは新入社員が行うのも一つ方法
マニュアル作成ですが、とても手間がかかりますので、工数の捻出ができない企業は、仕事を覚えるためにも新入社員がマニュアルを作るという方法もあります。
新入社員研修の際に、マニュアルの作成プロジェクトを行うなども一つの方法です。

この際の注意点としては、必ず会社が全面バックアップで行うことと、フォローする役割を人事や上長が担うことです。そうすれば、現場も協力的になります。蛇足ですが、マニュアル作成のプロジェクトを通して、現場社員とのコミュニケーションが取れるというメリットもあります。毎年、新入社員が学びながら、アップデートしていくというのも一つの方法です。

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5)まとめ

本コラムを通して、下記内容を理解していただいたかと思います

①新入社員に必要なマニュアルとして、社内ルール・業務遂行のためのマニュアル
②新入社員の意識と行動が変わるマニュアルの作り方
③新入社員でもわかるためのマニュアルの注意点
④新入社員が、マニュアルを有効活用するための一つ上の使い方

マニュアルを作ることには、多くのメリットがありますが、よりよいマニュアルにしていくとよいでしょう。
ただの手順書・作業書にするのではなく、経営理念などをマニュアルと連動させると組織文化の醸成ができますし、戦略と連動すると目標達成を促すマニュアルにしていくとよいのではないでしょうか。

本コラムを通して、みなさんの組織のマニュアルが素晴らしいものになることを、願っております。新入社員育成や、組織文化の醸成などのご相談があれば、ぜひご連絡いただければと思います。