【管理職の残業】放置NG!5つの原因と残業時間削減の対策

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「管理職の残業の多さをなんとかしたい…」
「管理職は残業代を出さなくていいんだよね…」

管理職の残業についてこのようなお悩みをお持ちの方も多いと思います。

独立行政法人労働政策研究 ・ 研修機構が2021年7月に発表した「管理職の働き方に関する調査」によると、管理職の労働時間は月平均177.4時間、残業時間は月平均19.5時間だとされています。管理職が長時間労働を前提に業務を回しているのが現状です。

しかし、管理職の残業は“個人の頑張り”の問題ではなく、組織構造そのものに原因がある場合がほとんどです。

「管理職だから仕方ない」「残業代は出ないから我慢してもらう」といった認識のままでは、組織全体の生産性やマネジメントの質を下げてしまうリスクがあります。

本コラムでは、管理職の残業が多くなる5つの原因とその対策を詳しく解説します。また、「管理職」と「管理監督者」の制度的な違いと残業代の扱いをわかりやすく解説します。

残業を“減らす”ことは、単に働く時間を短くすることではありません。
管理職が本来の役割に集中し、チームがいきいきと成果を出せるようにするために、管理職の残業という見直しから始めましょう。

執筆者プロフィール
迫間 智彦
X:@tohaza_atc youtube:中小企業の人材育成・組織変革 専門チャンネル
大学卒業後、大手通信会社、アルー(株)勤務後、2010年にアーティエンス(株)を設立。業界歴17年。大手企業から、中小企業、ベンチャー企業の人材開発・組織開発の支援を行っている。専門分野は、組織開発、ファシリテーション。

専門性:ファシリテーター管理職組織開発・組織変革

1)管理職の残業が多くなる5つの原因と残業時間削減の対策

管理職の残業が多くなる原因は大きく5つ考えられます。5つの原因とそれぞれの原因に対する残業時間削減の対策をお伝えします。

原因 残業時間削減の対策
① 管理職の役割・責任が多すぎる 権限移譲とシステム化で残業削減
② 部下の人数が多すぎる チーム分割・管理職増員で負担軽減
③ 意思決定に時間がかかる 会議設計見直しとアジャイル型で効率化
④ 部下の仕事を巻き取る 業務調整と部下育成で分担促進
⑤ 労働時間が管理されていない 出退勤ツール導入と定期確認で是正

① 管理職の役割・責任が多すぎる

管理職の残業が多くなる主な原因のひとつは、役割と責任の多さです。

近年の管理職は、「プレイヤー」としての実務に加え、組織運営・人材育成・リスク管理など、幅広い役割を求められています。

具体的には、次のような業務を担うケースが多く見られます。

・チーム・部署における業務遂行
・職務権限に基づく意思決定・決裁
・情報共有とコミュニケーション促進
・メンバーの育成・評価
・チームビルディング・モチベーション管理
・労務・健康管理、コンプライアンス対応
・プレイヤー業務との両立、リーダーシップの発揮

【関連コラム】【事例あり】管理職の役割を最大化!組織力を高める方法を徹底解説

管理職は短期的な成果と中長期的なチームづくりの両立を担う立場であるため、自然と業務負担が増大しやすいです。
その結果、定時内で終えられない仕事が増え、残業が常態化する傾向にあります。

【対策】権限移譲とシステム化で残業削減

管理職の残業を減らすためには、役割の見直しと「権限移譲」「システム化」の推進が効果的です。

権限移譲とシステム化を進めることで、管理職が一人で抱える業務量を減らし、判断や作業を分散できるためです。
これにより、管理職が「自分でやらなければならない仕事」から解放され、より重要な業務に集中できるようになります。結果として、時間外労働が減少し、生産性も向上します。

次のような取り組みを行うことで、業務量を適正化できます。

・仕事を追加(アドオン)する際は、他の業務を削減する
・強化してほしい役割以外の優先度を下げる
・部下に権限を委譲し、自律的に判断・実行できるようにする
・定型業務をシステム化する(例:経営層への定期報告をテンプレート化し、空欄を埋める形式にする)

このように管理職に求める役割・責任を調整し、業務の一部を仕組み化することで、残業時間を大幅に削減できます。

「頑張りでカバーする」状態から、「仕組みで支える」状態へ移行することが、持続可能なマネジメントを実現する第一歩です。

② 部下の人数が多すぎる

管理職の残業が多くなる原因として、部下の人数が多すぎることも挙げられます。

部下の人数が多いと、部下一人ひとりのフォロー、マネジメント、育成、面談などに時間がかかり、管理職の業務量が膨らんでしまいます。

研究や企業の取り組みからも、「部下の人数は多くても10人程度が理想」とされています。

【研究内容】
・Amazonでは「ピザ2枚チーム」という考え方を採用しており、ピザ2枚で足りる規模(10名未満)を理想としている。
・スペインのアストゥリアス公立大学の研究では、理想的な部下数は5〜7人としている。
・ダン・ピンク氏の著書『Drive』でも、理想的なマネジメント範囲は5〜9人と示されている。

小規模なチームほどお互いの距離が近く、意思決定がスムーズになります。また、メンバー一人ひとりに与えられる裁量が増え、主体性を発揮しやすくなる傾向があります。

部下を10名以上抱えている管理職がいる場合は、部下の人数を調整する必要があるでしょう。

【対策】チーム分割・管理職増員で負担軽減

管理職の負担を軽減するには、組織構造を見直し、部下の人数を適正化することが有効です。

部下の人数を適正にすることで、管理職が一人で抱えるマネジメント範囲が減り、フォロー・面談・育成などの時間的負担を分散できるためです。

また、コミュニケーションの密度が高まり、意思疎通のロスや確認の手戻りも減少します。これにより、マネジメントの効率が上がり、残業時間の削減につながります。

部下を多く抱えている部署では、次のような取り組みを検討しましょう。

・管理職の人数を増やし、担当範囲を分散する
・大きな部署を2つのチームに分け、小規模単位でのマネジメントを実現する
・チームリーダーやサブマネジャーを設置し、権限を委譲する

部下の人数を適正化することで、管理職は一人ひとりに丁寧なフォローができるようになり、コミュニケーションの質も向上します。

結果として、チームの信頼関係が強まり、マネジメントの効率化・成果向上・残業時間削減を同時に実現できます。

③ 意思決定に時間がかかる

管理職の残業が多くなる3つ目の原因は、意思決定や合意形成に時間がかかることです。

確認や承認に関わる人が多いほど調整が増え、業務が滞りやすくなります。結果として、決定が夜遅くにずれ込み、管理職の残業時間を押し上げてしまいます。

以前は、情報を集めて綿密に計画を立て、上層部に報告し、議論を経て実行する――という段階的な意思決定が一般的でした。

しかし、変化のスピードが速い現在では、そのような慎重な進め方では対応が遅れ、決定時には状況がすでに変化しているケースも少なくありません。

そのため、近年ではアジャイル的な意思決定が注目されています。

※アジャイルとは「すばやい」「俊敏な」という意味で、小さな単位で試し、修正を重ねながら前進する手法です。ソフトウェア開発で生まれた考え方ですが、今では人材開発や組織運営にも広く応用されています。

【対策】会議設計見直しとアジャイル型で効率化

管理職の残業を減らすためには、意思決定・合意形成プロセスを見直し、アジャイル的な進め方を取り入れることが有効です。

意思決定の流れを見直すことで、無駄な待ち時間や確認の手戻りを減らせるためです。
また、情報共有の仕組みを整えることで、必要な判断材料が迅速に集まり、決定までの時間を短縮できます。

「早く決めて、早く試し、修正して学ぶ」というアジャイル型の進め方は、変化の激しい時代に合った柔軟な意思決定を可能にします。

具体的には、次のような取り組みを行いましょう。

・会議体の目的・参加者・判断範囲を明確にする
・合意形成のルートを簡素化し、承認ステップを減らす
・決定に必要な情報をリアルタイムで共有できるツールを活用する
・小さく実行し、短期間で検証・改善を繰り返す「アジャイル型運営」を導入する

このように意思決定プロセスを見直すことで、管理職が長時間拘束される状況を防ぎ、よりスピーディかつ質の高い判断ができるようになります。

結果として、業務の停滞が減り、残業時間の削減と組織の意思決定力の向上を同時に実現できます。

④ 部下の仕事を巻き取る

管理職の残業が多くなる4つ目の原因は、部下の仕事を巻き取ってしまうことです。

本来は部下に任せるべき業務を管理職が引き受けることで、業務量が膨れ上がり、残業時間が増えてしまいます。

部下の仕事を巻き取る要因としては、主に次の3つが考えられます。

① 働き方改革などで部下の残業が制限されているため
② 部下に任せることが不安で、自分でやった方が確実だと思うため
③ 自分でやった方が早いと感じてしまうため

こうした状況が続くと、管理職の負担が増えるだけでなく、部下の成長機会を奪うことにもつながります。結果として、部下の自律性が育たず、いつまでも管理職が業務を抱え込む悪循環に陥ってしまいます。

このような悪循環を防ぐためには、管理職が安心して仕事を任せられるだけのスキルを、部下が身につけておくことが重要です。

【対策】業務調整と部下育成で分担促進

管理職の残業を減らすには、業務量の適正化と部下育成の強化の両輪で対策することが重要です。

業務を適正に配分できる仕組みを整え、部下が自立して仕事を進められるようにすることで、管理職が抱え込む業務を減らせるためです。
また、管理職が「任せても大丈夫」と感じられる状態をつくることで、心理的負担も軽減されます。

具体的には、原因に応じて次のような対策を講じましょう。

① 部下の残業制限による場合

・業務量や担当範囲を見直し、全体のバランスを再設計する
・業務が過多な部署には人員を追加配置する
・不要な会議や報告業務を削減し、業務時間内で成果を出せる体制をつくる

②③ 任せられない・自分でやった方が早い場合

・部下のスキルを可視化し、足りないスキルを補う育成計画を立てる
・OJTや研修を通じて、任せられるレベルまで引き上げる
・「失敗しても学べる環境」を整え、挑戦を促す文化をつくる

このように、「業務を減らす仕組み」と「任せられる人材」の両方を整えることで、管理職の業務負担を大きく軽減できます。

部下が自律的に行動できるようになることで、管理職は本来のマネジメント業務に集中でき、チーム全体の生産性も向上します。結果として、残業の発生自体を減らすことができます。

部下育成に関しては、下記コラムを参考にしてください。

OJT研修の内容の正解は?トレーナーの行動変容を促す3つの要素
【管理職が部下育成ですべき5つの行動】長期的な組織の成長を促す

⑤ 労働時間が管理されていない

管理職の残業が多くなる5つ目の原因は、労働時間が適切に管理されていないことです。

管理職は「裁量労働制」や「管理監督者」として扱われるケースが多く、勤務時間の把握が曖昧になりがちです。その結果、長時間労働が続いていても気づかれないまま放置されることがあります。

労働時間が見えない状態では、残業の増加を早期に察知できず、慢性的な長時間労働を招く原因になります

特に、管理職が「時間管理の対象外」とみなされている企業では、健康被害や離職につながるケースも少なくありません。

なお、2019年4月からは全社員の労働時間の把握が義務化されており、未管理の状態は法令違反の対象となります。労働安全衛生法第66条の8の3および同規則第52条の7の3では、事業者に「客観的な方法による労働時間の把握と記録保存」を求めています。

【参考条文】
労働安全衛生法第66条の8の3
事業者は第66条の8第1項又は前条第1項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。

労働安全衛生規則第52条の7の3
第1項 法第66条の8の3の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。

第2項 事業者は前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければならない。

このように、管理職の労働時間が不透明な状態は、法令面でもリスクがあるといえます。

【対策】出退勤ツール導入と定期確認で是正

管理職の残業を抑えるには、労働時間を客観的に把握し、定期的にモニタリングする仕組みを整えることが不可欠です。

実際の勤務状況を可視化することで、長時間労働の兆候を早期に発見し、迅速にフォローできるようになるためです。
「気づかないうちに残業が常態化する」という状態を防ぐことが、根本的な対策につながります。

具体的な取り組みとしては、以下が挙げられます。

・出退勤ツールや入退室記録システムを導入し、労働時間を自動で記録する
・記録データをもとに、定期的に管理職の労働時間を確認する
・残業が増えている部署に対して、早期に業務見直しや人員調整を行う
・長時間労働の是正に向け、上司・人事が連携してフォロー体制を整える

これらを徹底することで、管理職自身の健康を守るだけでなく、組織全体で「働きすぎを見過ごさない文化」を醸成できます。

労働時間を“個人の裁量”に任せず、「見える化」してマネジメントすることが、管理職の残業削減と健全な組織運営を両立させます。


管理職の残業は、「個人の努力不足」ではなく、構造的な問題から生じているケースが大半です。
組織としての対策は、「人を増やす」よりも先に、業務の整理・仕組み化・権限移譲から始めることが重要です。

2)「管理職」と「管理監督者」の違いで、労働時間の規制と残業代の扱いが変わる

管理職の残業に関する規制や残業代の支払いを正しく理解するためには、まず「管理職」と「管理監督者」の違いを明確に把握することが重要です。
この2つは同じ意味ではなく、該当する区分によって労働時間の規制や残業代の扱いが大きく変わります。

「管理職」は組織内の役職を指す呼称で、法律上の定義はありません。一方、「管理監督者」は労働基準法で以下のように定義されています。

【管理監督者】
経営者と同じもしくはそれに近い権限をもっており、自分の裁量で就業時間を決定し、給与などの面でその役割にふさわしい、一般社員とは明らかに異なる待遇を受けている労働者

この「管理監督者」に該当するかどうかで、
・労働時間の上限規制が適用されるか
・残業代を支払う必要があるか
が変わります

管理監督者には労働時間の上限規制がなく、残業代の支払いもされません。
しかし管理監督者に該当しない管理職は労働時間の規制と残業代の支払いが発生します。

ただ、管理監督者に労働時間の上限がないからといって無制限に働かせてよいわけではありません。月100時間超、または月平均80時間超の時間外労働は健康障害のリスクが高いとされ、企業には社員の健康を守る責任があります。

また、労働基準法第37条の「深夜労働の場合の割増賃金に関する規定」は管理監督者にも適用されるため、22時~翌5時の深夜の時間帯における勤務には深夜手当の支給が必要です。

管理監督者に該当するかどうかは、次の4つの観点で判断されます。

判断項目 判断基準のポイント
職務内容 経営者と一体的な立場で、労働時間や休日の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務を担っているか
責任と権限 経営に関する意思決定に関与するなど、自らの裁量で大きな責任と権限を行使できるか
勤務形態 休日・勤務時間に関係なく、経営判断や対応を行う必要があるか
賃金・待遇 職務の重要性に応じ、一般社員よりも明確に高い給与・賞与などの待遇を受けているか

① 職務内容

管理監督者とみなされるためには、経営者と一体的な立場で、労働時間や休日の制約を超えて活動せざるを得ないほど重要な職務を担っていることが求められます。

単に「部下を管理している」「部署をまとめている」といったレベルでは不十分で、経営や事業運営に関わる責任を負い、企業の方針や成果に直接影響を与える職務である必要があります。

この点が曖昧な場合、たとえ役職名が「課長」「部長」であっても、法律上は管理監督者とは認められません。

② 責任と権限

管理監督者とは、自らの裁量で意思決定し、経営に関する判断に関与できる立場であることが条件です。

上司の指示を受けて動く立場や、意思決定に際して必ず上長の承認が必要な立場の場合は、形式上の「管理職」であっても実質的には管理監督者とは言えません。

たとえば、部下の人事・評価・採用・予算執行などについて最終判断権を持っているかどうかが重要な判断材料になります。

③ 勤務形態

管理監督者は、経営判断や緊急対応が必要な場合に、勤務時間や休日に関わらず業務を行う立場であることが求められます。

つまり、一般社員のように始業・終業時刻を厳密に管理される立場ではなく、自らの判断で勤務時間をコントロールできる状態が前提となります。

もし勤務時間が厳密に管理され、遅刻・早退などが勤怠規律の対象になっている場合は、
管理監督者とはみなされません。

④ 賃金・待遇

最後に、職務の重要性や責任の大きさに見合った給与・賞与などの待遇を受けているかも重要な判断基準です。

管理監督者は、一般社員に比べて明確に高い報酬や手当を受けている必要があります。
もし、一般社員とほとんど変わらない水準の給与である場合や、残業代が支給されない分だけ実質的に賃金が下がっているようなケースでは、法律上の管理監督者とは認められません。


上記の条件を満たさない場合、その管理職は法律上の「管理監督者」には該当しません。
したがって、通常の社員と同じく労働時間の上限と残業代の支払いが必要です。

<参考事例>管理職の残業についての訴訟”名ばかり管理職”

日本マクドナルドが直営店の店長を管理職とみなし残業代を支払っていないことに対して、埼玉県内の男性店長が未払い残業代の支払いを求めた訴訟です。


【結果】
埼玉県内の男性店長が未払い残業代など約1,350万円の支払いを求めていた訴訟において、東京地裁は「店長の職務内容から管理職とはいえない」として同社に約755万円の支払いを命じる判決を下しました。

チェーン店展開で同じような経営形態をとるファストフード店やコンビニエンスストアにも影響を与え、大きな話題となりました。


【判決の要因】
直営店店長について、

・アルバイトの採用権限はあるが、将来、店長などに昇格する社員を採用する権限がない
・一部の店長の年収は、部下よりも低額
・労働時間に自由がない

などを指摘し、「経営方針などの決定に関与せず、経営者と一体的立場とは言えない」と述べています。管理監督者とは言えないということから、残業代の支払いを命じる判決となりました。


このように、管理職と管理監督者の認識が組織の中でズレていると、このような訴訟に発展してしまう可能性があります。組織として、組織としての”管理職=管理監督者”なのかを確認することから始めましょう。

そして、管理職の残業が多すぎる場合は、残業をせざるを得ないようにしている要因を見つけ、適切な対策を実施することが大切です。

3)管理職の残業が多いことで起きる3つの問題

管理職の残業が多いことで起こる問題として3つのことが挙げられます。

仕事の質の低下

管理職の残業が多くなると、仕事の質と生産性が大きく低下します。
長時間の労働は疲労や集中力の低下を引き起こし、判断の精度や業務のパフォーマンスに悪影響を及ぼすためです。

人間の集中力や判断力には限界があり、長時間労働によって疲労が蓄積すると、業務効率が落ちるだけでなく、誤った判断やミスの発生リスクが高まります

また、疲労やストレスの増加により、心理的な余裕が失われ、創造性やチームへの配慮といった「マネジメントに必要な要素」も低下していきます。

たとえば、判断の遅れや伝達ミスが増えることで、チーム全体の仕事も停滞します。
その結果、成果が出にくくなり、評価が下がる――。
すると、管理職本人は「もっと頑張らなければ」と自分を追い込み、さらに残業が増えるという悪循環に陥りやすくなります。

このような状態では、努力すればするほどパフォーマンスが下がるため、本人のモチベーションも次第に失われてしまいます。

管理職の長時間労働は、一時的な頑張りで補えるものではありません。

疲労による判断力・集中力の低下 → 成果の悪化 → モチベーション低下 → 残業増加という負のサイクルに陥る前に、組織として適切な業務量の管理と休息の確保を行うことが重要です。

管理職のメンタルヘルスの悪化

管理職の残業が多いと、メンタルヘルスの悪化につながるリスクが非常に高くなります。
長時間労働や多忙なスケジュールによってストレスやプレッシャーが蓄積し、心身のバランスを崩しやすくなるためです。

管理職は日々、成果責任と人材マネジメントの両方を担う立場にあります。
そのため、残業が続くと十分な休息を取れず、慢性的な疲労がたまりやすくなります

睡眠不足による集中力の低下や、プライベートの時間が取れないことによる気分転換の欠如が続くと、「何のために働いているのか」という目的意識を見失いやすくなり、心のエネルギーが消耗していきます。

さらに、過度なストレスや疲労は睡眠障害・うつ病・不安障害などの精神疾患を引き起こすリスクを高めます
特に真面目で責任感の強い管理職ほど、「頑張らなければ」という意識から限界まで働いてしまう傾向があります。

もし管理職がメンタル不調により休職した場合、その影響は本人だけでなく、組織にも大きなコストとして跳ね返ります。
厚生労働省労働基準局の試算をもとに、年収800万円の管理職が1年間休職した場合のコストを計算すると、以下のようになります。

費用項目 内容 概算コスト
発症前の人件費損失(3ヶ月) 業務パフォーマンス低下による損失 約200万円
休業中の休業手当(1年) 基本給の60%支払い 約480万円
リハビリ出勤期間(3ヶ月) 復帰前の段階的勤務 約200万円
代替要員の人件費 新たな担当者の採用・配置 約800万円
上司のフォローコスト 面談・サポート対応 約25万円
既存社員の残業代・教育費 業務引き継ぎ・指導にかかる追加コスト 約666万円
合計 約2,371万円

この金額はあくまで一例ですが、非常にインパクトのある数字です。
管理職一人のメンタル不調が、組織にとってどれほどの経営リスクになるかが分かります。

管理職のメンタルヘルス悪化は、個人の問題ではなく組織のリスクマネジメント課題です。
「頑張り続けることが評価される文化」ではなく、適切に休み、健全に成果を出せる環境づくりが求められます。経営への損失を防ぐためにも、管理職を「支える仕組み」を整えること大切です。

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管理職希望者の減少

管理職の残業が多いと、管理職を目指す社員が減少します。
長時間労働によって管理職の仕事に魅力を感じられなくなり、昇進への意欲やモチベーションが下がるためです。

残業が常態化している職場では、管理職の姿が「責任ばかり重く、時間の余裕がない」ものとして映ります。
その結果、社員は「管理職になるとプライベートの時間がなくなる」「今よりストレスが増える」と感じ、キャリアアップよりも現状維持を選ぶ傾向が強まります。

特に近年の若手世代は、ワークライフバランスを重視し、無理なく働ける環境を大切にする価値観を持っています。そのため、長時間労働や過剰な負担が当たり前になっている職場では、「管理職になりたい」と考える人が減るのは自然な流れです。

例えば、職場で常に残業している管理職を見ていると、「自分があの立場になったら家庭や趣味の時間を犠牲にすることになる」と社員は感じます。
報酬や裁量などのメリットが十分に伝わらなければ、「責任ばかり増える仕事」としてネガティブな印象だけが残ります。

こうした状況が続くと、
・管理職候補となる中堅社員が育たない
・昇進希望者が減少し、後任がいない
・組織の中でリーダー層が不足する

といった問題が生じ、組織の持続的な成長を妨げることになります。

管理職の残業は、本人の健康やパフォーマンスだけでなく、次世代のリーダー育成や組織の将来性にも深刻な影響を与えます。

組織として、管理職が健全に働ける環境を整えることが、「管理職になりたい」と思える魅力的なキャリアパスをつくる第一歩です。

【関連コラム】管理職になりたくない理由は「管理職になっても希望が見出せず、負担ばかり増える」から


管理職の残業問題は、“一部の人の働き方”ではなく、組織全体の未来の働き方そのものです。

管理職が健全に力を発揮できる環境を整えることは、組織の成長と働く人の幸せを両立させるための基盤です。
現状を「仕方ない」とせず、組織として意識的に取り組むことで、持続的に成果を生み出すマネジメント体制を築いていきましょう。

4)まとめ│管理職の残業を減らし、組織のパフォーマンスを上げよう

本コラムを通じてお伝えしたかったのは、管理職の残業は“個人の努力不足”ではなく、“組織全体の構造的な課題”であるということです。

①役割過多/②部下数の過多/③意思決定の遅さ/④巻き取り/⑤労働時間の不透明さ――こうした原因が積み重なることで、管理職の時間と心の余裕が失われていきます。
結果として、仕事の質の低下、メンタルヘルスの悪化、管理職希望者の減少といった、組織全体に関わる深刻な問題を引き起こします。

しかし、見方を変えればこれは“改善できるサイン”でもあります。

役割と業務の整理、権限移譲の推進、意思決定のスリム化、そして労働時間の見える化――これらを一つずつ整えていくことで、管理職は本来のマネジメント業務に集中できるようになります。
結果として、チームの生産性が上がり、組織全体のエネルギーが循環し始めます。

アーティエンスでは、こうした構造的な課題を「現場と経営の両面から」整理し、組織に合った管理職研修や解決策を共に設計しています

「まず何から始めればいいのかわからない」「今の状況を客観的に見直したい」――そんな段階でも大丈夫です。
ぜひ無料相談フォームからお気軽にお問い合わせください
貴社の現状に合わせて、すぐに活用できる情報や改善のヒントをお渡しいたします。

管理職の残業を減らすことは、“働きすぎを防ぐこと”ではなく、“より良い働き方を取り戻すこと”です。
残業という小さな見直しから始め、管理職もメンバーも、いきいきと働ける未来へと確実に近づけていきましょう。

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