【管理職が潰れない組織へ】管理職のメンタルヘルス対策

更新日:

作成日:2023.8.29

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管理職が潰れないためにも、対応をしないと…と考えている人事・経営者の方や、
もう無理だ。限界、このままだと潰れる…と感じている管理職の方が、本コラムにたどり着いたのではないでしょうか。

本コラムでは、管理職を潰さないようにするためには、組織として何をしたらいいかをお伝えいたします。冒頭のお悩みを抱える人事・経営者の方はもちろん、管理職ご本人にとってもご参考になる点があるかと思います。最後まで読んでいただくと、「管理職を潰さないようにするために組織としてできること」への理解が深まります。

このコラムで分かること

  • 管理職が潰れてしまうと生じる3つの悪影響
  • 「いつもと違う」「普通と違う」でわかる管理職が潰れる前のシグナル
  • 潰れそうな管理職に対する「素早く」「でもゆっくり」な対処法
執筆者プロフィール
森川 友晴
チェリッシュグロウ(株)代表。業界歴15年以上。大手外食チェーンにて店舗業務、人事部、教育部などを経験した後、アルー(株)に転職。研修教材やコンテンツ開発のマネジメントを行う。 現在は、研修講師、中学高校や企業のカウンセラーとして企業と個人の支援を行っている。

専門性:インタラクショナルデザインコーチング、キャリア開発、メンタルヘルス/レジリエンス


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1) 管理職が潰れる4つの原因

人が潰れる(※)ストレス要因には、「仕事上のストレス」「仕事外のストレス」の大きく2つに分けられます。日本の管理職は、40~50代の方が多いことを考えると、年齢特有のストレスや家庭内のストレスなども存在しますが、「仕事上のストレス」に絞ります。

「仕事上のストレス」において、管理職が潰れる原因は、次の4つに大きく分類されます。
次項から、一つずつ詳しく解説します。

管理職が潰れる4つの原因
(※)人が潰れるとは?
「人が潰れる」とは、大きく3つの要素が強く影響しています。
一つ目は【ストレス要因】二つ目は【個人のストレス耐性(レジリエンス)】三つ目は【個人を支える周囲のサポート体制】です。

例えば、ある程度ストレスが強くかかっている状況でも、本人のストレス耐性が強い or 周囲のサポートが十分にあり本人が支えられている場合では、精神疾患なのどの問題は起こりません。
しかしながら、ストレス要因が大きすぎることで、ある程度強い個人のストレス耐性と周囲のサポートがあってもダメだった場合や、ストレス要因が大きすぎなくても個人のストレス耐性が低かったり周囲のサポートが不十分だと精神疾患等になる場合があります。

このように「人が潰れる」という状態は、3つの要素がどのようになっているかで考えていくことが必要であることがわかります。

〈対会社〉人手不足による業務量過多により負担が重い

人手不足による業務量過多により負担が重いと管理職が潰れることになってしまいます。
なぜなら業務量の増加や、自分が価値ある仕事ができていないと思うといった自己肯定感の低下は大きなストレスになるからです。

例えば、パーソル総合研究所が2019年に発表した「中間管理職の就業負担に関する定量調査 結果報告書」によると、働き方改革が進んでいるものの、管理職は人手不足・ダイバーシティ・ハラスメント対応などによって業務量が増加しています。それによって高負担になっている管理職は、価値創出につながる業務ができておらず、意欲の減退が見られ、本人の心身の健康状態も悪いという結果が出ています。

また産業能率大学が2021年に調査を行った「第6回上場企業の課長に関する実態調査」によると回答した管理職の99,5%がプレイングマネージャーであり、課長の業務の約半分がプレイヤーとしての業務であるとなっています。

想像してみると人手不足の組織の中で、ダイバーシティやハラスメント対応と確実な業務遂行や高い成果の創出など複合的な要素を統合しながら管理する仕事を持ちながら、毎日毎日の業務の中身は自分がプレイヤーとなっている状態であるということ、そのことによって高い価値を出すことができていないのではないかと思ってしまうことは、かなり負担となるだろうことは想像に固くありません。優秀な管理職の方であっても相当大変な環境にいると言えるのではないでしょうか。

〈対業務〉残業時間の上限規制に対して業務量減少や効率性の改善が遅れている

業務量過多という負担に関しては同じものの、違う要因によって引き起こされているのが、残業時間の上限規制に対して業務量減少や効率性の改善が遅れているために起こる管理職の業務量過多です。

特にこの場合は部下を残業させられない代わりに管理職が残業や長時間勤務をするというものです。

残業や長時間勤務はうつ病などの精神疾患の原因になりやすいということ、また部下の代わりに仕事を引き受けるからといって自分個人の成果には関係ないなど自分への報酬がないのに負担だけがある場合、人は多くのストレスを感じるのです。

このことも前述の「中間管理職の就業負担に関する定量調査 結果報告書」(パーソル総合研究所)の中に記載されています。調査によると、働き方改革が推進されるほど、業務量負荷が高くなっています。働き方改革が「残業時間の上限規制」中心に進みながら、業務量減少や効率性の工場が遅れているために現場・管理職の負担感が増大しているということなのです。

これも管理職がみている景色を想像するとそのストレスがわかるのではないでしょうか。残業規制があるために部下に仕事を振りづらくなり、結局管理職が巻き取って対応してしまう、部下が帰る中自分だけ残って仕事をしているといった景色です。管理職の労働時間が抜け落ちているかもしれない、ということは注目すべきこととなります。

〈対上司・部下〉組織内の人間関係に問題がある

対上司・部下に対するストレス要因の一つ目は組織内の人間関係に問題があることです。

なぜ組織内の人間関係に問題があるとストレス要因になるのかというと、それは心理的負担と物理的負担の大きさです。人間関係の問題では対象者と話をしたりするなど調整業務が発生します。対立した人たちを調整するという行為は大きな心理的負担になります。また各所と連携していくための連絡が発生するなど物理的負担も大きくなるということです。

「中間管理職の就業負担に関する定量調査 結果報告書」(パーソル総合研究所)では負担感を感じる業務の調査において最も負担に感じる業務が「組織内のトラブルや障害を解決する」でした。

具的的な場面を書き出すと「部下の1人が他の部下に対してハラスメントを行った」などといったトラブルが起こったことを想像してみます。その場合上司を含めハラスメント対応をする社内組織への連絡が必要になり、またハラスメントの加害者と告発された部下、被害者の部下双方から話を聞き、場合によっては仲裁に立ち会ったりと時間も取られるなど心理的負担も高い業務です。それでいてそのことは業務遂行にも成果にも全く寄与するものではない。確かに強いストレスとなるといえます。

〈対部下〉部下をマネジメントする実力不足の状態から脱却できない

部下マネジメントで特に負担に感じている項目として3つあります。

①部下との世代間ギャップによる意思疎通の困難
②部下のメンタル問題への対応
③部下の離職の増加

この3つがなぜストレス要因になるかは下記の理由によります。

②と③に関しては組織内のトラブルと同様です。この問題が発生した時には心理的負担と業務的負担が双方発生している、それでも解決したとしても業務の軽減や成果に結びつかない内容であり、徒労感を強く感じる内容です。
また①に関しては本調査では詳細は明らかになっていませんが、仮説としては相手を理解しなければいけないという心理的負担と実際に理解するための時間をとる業務的負担の双方が大きい状態にあるのではないかと考えます。

①の部下との世代間ギャップに夜意思疎通の困難で、私が管理職の方に聞いた話によると、営業部の40代後半の管理職の方が顧客のクレームに対してお詫びのために顧客先に訪問することを提案すると20代の営業メンバーからメールでいいではないかと返答があったとのこと。
管理職は「それでは誠意が伝わらない」と話すと「クレームになった上に業務を中断させられたら、それこそ自分なら迷惑だと思うのですが・・・」と言われた、という話を思い出しました。これは世代間だけの問題ではないかもしれませんが、対面での営業がオンラインで営業かなどの考え方の違いなどはありそうだと思います。

このように部下にうまく対応できていない、ということが大きなストレス要因になっているということです。

上記4つの原因を見てきました。このようなストレス要因が大きくなり、それが管理職個人の許容量と周囲のサポート力を超えてしまった時に管理職は「潰れる」ということが起きるのです。

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2) 管理職が潰れると起きる3つの悪影響

実際に管理職が潰れてしまった時、具体的にはもしうつ病など精神疾患になり休職をするなどの事態になった時、どのような影響があるかを(経営)(現場)(本人)に分けて考えます。

経営への影響:管理職が1年間休職するとコストが「2,371万円」

管理職が1年間休職した場合、経営に与えるコストは甚大です。
なぜなら人が休職するということはただその人が休む、ということだけではなく、休職している間に支払う手当やその代替えとなる人員を補充するための費用などが発生するからです。
その上、人件費が高い管理職にかかる手当やその代替えは一般の社員が休職をすることと比べるとより高い費用となります。

管理職で試算した調査はありませんが、厚生労働省労働基準局資料として年収500万円の社員が1人、1年間休職した場合のコストを算出しています。これを仮に年収800万円で計算してみましょう。

1.発症前の人件費損失(3ヶ月)
・66,6万円✖️3ヶ月=200万円

2.休業中の休業手当(1年間)
・66.6万円✖️•0.6×12ヶ月=480万円

3.リハビリ出勤期間(3ヶ月)
・66.6万円×3ヶ月=200万円

4.代替要員の人件費
・66.6万円×12ヶ月=800万円

5.上司のフォローに要する人件費
・2.1万円×12ヶ月=25万円

6.既存社員の残業代+代替要員の教育費
・66.6万円×1.25×8ヶ月=約666万円

合計2,371万円

あくまで仮の算出ではあるものの、いかがでしょうか。中々インパクトのある数字です。 こういったコストがかかることを考えると経営への影響は大きいと言わざるをえません。

組織への影響:現場の混乱

組織への影響としては現場の混乱です。
なぜなら管理職が抜けるということは、人員が減少する物理的負担とリーダーがいなくなる心理的負担が現場に一気にかかります。そのため現場に混乱が起こるのです。

具体的な混乱材料を下記に挙げておきます。

〈物理的負担〉
・優秀なプレイヤーが抜けたこと業務量の調整
・職務の穴を埋める代替えができないこと

〈心理的負担〉
・指示系統の乱れ、切り替え
・責任者の不在による不安感の増大

管理職が精神疾患を発症した場面では、次の日から会社に来れなくなるということがよくあります。
上記のような混乱材料が1日で起きるということを想像してみるとその混乱がイメージできるのではないかと思います。

本人への影響:休職・降格

これは管理職に限ることではありません。こういった精神疾患などの問題が発生し、職務遂行に大きな影響が出る場合には休職という対応をすることになります。また休職が長期化することや、精神疾患などの状態により職務が制限される状態が続くと管理職としての職務遂行が難しいという理由で降格といった対応も取らざるをえないことは会社としてもあることだろうと思います。

しかしながら休職や降格といったことは個人のキャリア、また個人を取り巻く家族や関係者に大きな影響を与えうる事態です。しかも、管理職になっている方が通常30代から50代の働き盛りであり、家族を持っている場合はその家族もお金のかかる状態のことも少なくありません。 このように休職、降格まで至る事態になることは個人の人生に大きな負の影響を与えることになります。

経営、現場、本人と見てきましが、改めてその影響の大きさがわかっていただけたのではないかと思います。だからこそ「潰れる」前である「潰れそうな」時に気づきフォローに繋げることが企業には求められるのです。

3) 管理職が潰れる前に気づく2つのシグナル

潰れそうなシグナルの見方は大きく二つです。
一つは「いつもと違う」、もう一つは「普通と違う」です。
大体の潰れる前のシグナルは「いつもと違う」です。「普通と違う」は少し特殊な内容となります。

「いつもと違う」を見つける

いつもと違うを見つけるということは「通常のその人と違うことに気づくこと」です。
なぜなら人は精神疾患の状態に陥り始めるとその兆候は日常生活に影響が出てきます。
そのため日常生活における「違い」を見つけることがとても大事なのです。

大事な点は「いつものその人」との違いです。元々時間にルーズでだらしがない人が始業時間ギリギリに来るからといって、それは問題ある行動かもしれませんが精神疾患などの問題がある可能性は低いでしょう。
あくまで「いつもと違う」が重要です。

たとえば 特に朝の出勤は要注意です。うつ病の場合、朝起きることができないことや起きても判断力が低下しているため、あまり機敏に動くことができずにいつもよりも時間がかかってしまうことがあります。またパニック障害を持っている方は出勤時に過呼吸の発作が起きてしまうことによって何度も電車を降りて落ち着いてからまた電車に乗って出勤するなどといった場合があります。

上記のように朝の出勤の不調は、その影に精神疾患が隠れている時があるのです。

実際にあった例で解説しますと
管理職Aさんはとても真面目で時間にきっちりとしている人です。ただこの1週間ほどいつも始業時間ギリギリに駆け込んでいるようです。いつもはビシッとネクタイを締めているのですがネクタイが曲がっていたり緩んでいるところも見かけます。また書類のミスも多くあるようです。

これは「いつもと違う」状態です。このような事象がある場合は、シグナルとして認識し、対策を考える必要があります。

「普通と違う」を見つける

普通と違うを見つけるということは「あれ?普通の人はこんな反応しないよな」ということに気づくことです。精神疾患の種類によっては周囲からすると奇異に映る行動をする症状を呈するものがあります。その奇異な行動が起こりやすい症状を把握しておくか、症状まで把握していなくても奇異な行動は何かの精神疾患を抱えている場合があるのだ、と認識しておくことで気づきやすくなります。

例えばちょっとしたことですごく興奮して怒り始めるとか、急に喋り始めたと思ったらいつまでも喋り続けて止まらないなどです。興奮とかハイテンションすぎる状態というのは双極性障害の躁状態の場合があるのです。

また統合失調症だと妄想や幻聴が症状としてありますので急に「今、私の悪口を言いましたよね」と話しかけてくるなど奇異な行動があります。

実際にあった例で解説しますと、管理職Bさんが就業時間が終わったと同時に部下数人を連れてクラブに飲みに飲みにいきました。そのクラブで急にお店にいる人全員の代金を代わりに支払うと言い出し財布から100万円くらいの札束を出して配り始めました。そのことを部下が次の日に管理職の上司に伝えたため、上司が管理職と話したところ熱に浮かされているかのような話し方で1時間も2時間も話し続けたため、これはおかしいと心療内科に連れていったところ双極性障害で即日入院となったということです。

双極性障害の躁状態や統合失調症といった精神疾患は本人が問題があると思っていないが周囲からみると「普通と違う」を見える行動や態度です。いかに周りの人が気づき、できるだけ早く病院に繋げるかが重要となるのです。

定期的なチェックと観察体制を持っていく

上記の二つのポイントともに重要なことは「気づく」ということです。ということは観察やお互いの関わりが大事になることはいうまでもありません。 また、セルフケアとして「自分で自分の状態に気づく」ことも大事なことです。 まずは、「気づく」ことが最も重要です。気づくことができなければ対応することができないからです。早く兆候を見つけることができればできるほど「潰れる」前に対応することができるようになります。

具的的には対応として 一つ目として定期的なチェックです。これは多くの組織で実施しているストレスチェックが該当します。 しかしながらこのストレスチェックの意義や使い方が十分に運用されていない会社が時々見受けられます。全ての従業員が自分の状態に一年に一度は気にかけること、この意義をぜひ共通認識として持ってほしいと思います。

二つ目は観察体制としては従業員を管理職が管理しているように管理職の働き方をより上位職が観察をすることです。

特に長時間労働などの隠れがちな業務量を上位職が把握することです。また横の繋がりとしては組織横断的な関わりを管理職同士が持つことを自然発生的に委ねるのではなく、組織として仕掛けをしていくことをお勧めしたいと思います。

このように定期的なチェックと観察体制早く気づく、そして対処していくことです。

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4) 管理職が潰れそうな時の対処法

潰れそうな時の対処法としては大きくは二つの対処が必要です。

一つ目は「本人」に、二つ目は現場です。
本人は当然ですが、2章でお伝えしたように管理職の問題は現場・部下に大きな影響を与えます、現場への対処ができていないと今度は現場の人たちが潰れてしまう可能性もあるのです。

本人へのケアは「素早く」対処を行い「でもゆっくりと」対話を行う

表題にある通り、基本的な考え方は「素早く」「でもゆっくりと」ということです。

〈素早く〉対処を行う
管理職が潰れそうな時にはできるだけ素早い対処が必要です。
なぜなら精神疾患になりかけてしまうと適切な判断ができなくなることが多くあり、放っておけばおくほど悪化する可能性が高いためです。だからこそ素早く対処することが大事なのです。

具体的な対処の基本は「見る、聞く、つなげる」です。

「見る」というのは3章で触れました兆候を見つけることです。なのでここでは割愛します。
「見る」ことで兆候を発見しました。そうしましたらできるだけ早く本人から状態を「聞く」ことです。
そして問題がある、ということがわかってきた場合、関連部署や医師やカウンセラーにつなげるということです。

例えば下記のように考えるのはいかがでしょうか。

・緊急性のある場合:
例えばすでに2週間以上ほとんど寝ることができていないとか食事をする気になれないとか、会社にくるたびに実は吐いているなどなど。この場合は心療内科などの病院にすぐに予約を入れる場合や会社で契約をしている産業医にあってもらうなど、できるだけ早く「医療に繋げることが大事です。

・緊急性が低い場合:
例えば何か身体的なことは起きていない、また睡眠とかに問題があるわけではないが、調子が出ないなどの状態であれば産業医や社内や社外カウンセラーにあってもらうなどの判断ができるかと思います。ただこちらは会社でどういう基準でどういうルートの判断をするのかを決めておくことをお勧めします。

一例として、私がカウンセラーとして関わっている場合の基準をお伝えします。基準は2つです。

①本人が不調を訴えた場合や周囲があまり調子が良くないのではないかと感じた場合→カウンセラーへ繋げること

②本人が不調を訴えたりしているわけではなく、調子が悪く見えていることもないが、残業時間に懸念がある場合や大きなプロジェクト中でストレスが高いだろうと思える場合→産業医面談に繋げること

私がこの方針にしている理由は、

①の場合は潰れそうな場合もあれば、話を聞いてみると何らか精神疾患などの問題ではなく、人間関係で困っていることがあるなど話すだけで解決に向かえそうな場合など幅広い問題であることが多いためです。そのためカウンセラーが最初に面談を行い、必要に応じて産業医や心療内科に繋げることを行います。

②の場合はカウンセラーが面談をしても本人に認識がないため有効な面談にはなりづらいため、産業医が身体的なチェックをしていくことで予防としていくということです。もちろん産業医が診察の結果、カウンセラーが必要だということや、すぐに心療内科が必要だと診断した場合はそちらに繋げることになります。

上記はあくまで1例ですが参考にしてみてください。

〈でもゆっくりと〉対話を行う
一方、「素早く」対処することは重要なのですが、本人との対話は「でもゆっくりと」進めてほしいのです。心身の健康度合いが悪くなっている状態というのは、当たり前ですが、とてもネガティブな考えが頭を駆け巡っています。
またうつ病などの症状がある人は判断力が鈍っていて、うまく考えがまとまりません。そういう時に周りが急かすように話したり、バタバタと動いてしまうと本人がもっと焦ってしまい、ネガティブな考えが強化されてしまうのです。

具体例として一つの事例を紹介します。

管理職Cの状態があまりよくない、という情報が管理職Cの上司に入ってきました。細かいミスが増え、業務中もぼーっとしていることが多くなっているそうです。
上司はこれはうつ病などの症状なのではないか、とピンときました。そこで上司は管理職Cのところに行きました。管理職Cに話しかけるといつもより明らかに返答が遅く、反応がよくありません。これはすぐに対処しなければと思ったCは管理職Cにすぐに帰宅し病院に行くこと、仕事は全て自分が割り振って請け負うことなど全てのCの負担をなくしました。その話をしたところCは呆然とした顔をし、次にぐったりと動けなくなってしまいました。
後のヒアリングでCはどうにか張り詰めて、ギリギリだけど調整しながら頑張ろうと思っていたところに上司から仕事を取り上げられ、全ての力が抜けた感覚になってしまった、とのことでした。

素早く対処しようとした上司の対応は悪いものではありません。しかしながらゆっくりと対話していくことで潰れそうな人を支えながら進めていくことが重要なのです。

対処は急ぎながら、でもゆっくりと対話をしていくことが大事なケアとなるのです。

現場へのケアは「素早く」「明確に」対策を発表する

管理職が休職とまではいかなかったとしても業務量を抑えるなどがあれば現場への影響は必ず出てきます。そうでなくても自分達に影響を与える人が不在になったり、関わりが減少する可能性があります。現場のケアのポイントは「素早く」「明確に」です。

〈素早く〉対策を発表する
なぜ素早くが大事なのかというと精神疾患や心身の不調は先が読めません。
そうしますとずるずると同じ状態で進めてしまいがちです。しかしながら、現場からすると緊急対応だと思って3ヶ月は課長代理や管理職の代替えを行っているとしても、それがいつまで続くのかわからないとなると不安が高まるのです。
だからこそ「いつまでがこの状態で進める」「いつから新しく体制を決めていく」ことを現場に伝えていくことが大事である、ということです。

「素早く」はできるだけ早くとしか言えません。管理職が不調になった時によくあるけれどあまり良い対策とは言えないものは、何がどうなったかはわからないまま一部の人に業務の置き換えをして、管理職がいないままとか休みがちのまま通常業務を行っっていくことは避けた方が良いでしょう。

そうではなく、不調になった当人と協議の上情報開示部分を明確にしていきます。病状など個人の情報は公開できないことが多いですが、少なくとも今後どういう体制でいくかは決めていく必要があります。

〈明確に〉対策を発表する
「明確に」下記の項目を現場に伝達していきます。

①体制をどうするか(指示系統など)
②業務負担をどうするか
③いつまでこの状態でいくのか、またいつになったらまた新たな対策を提示するのか

本人に対しても現場に対しても「素早く」は共通しています。 早く見つけること、見つけたら早く対処することと覚えていただけると良いかと思います。

5) 管理職を潰さない会社になるための3つのこと

冒頭の文章の通りストレスは3つの要素でできていました。 ストレス要因、本人のストレス耐性(レジリエンス)、サポート体制の充実でした。3つの順番で提示していきます。

ストレス要因:環境を見直し続けるモニタリングと改善力をもつこと

適切な目標設定や業務量、人の分配などの見直しです。
なぜなら、突発的なトラブルによる人手不足や、業務の逼迫はあり得ることであり、避けることも難しいことは多々あります。しかしながらそれが当たり前になっていることや、誰かが無理しているから回っている状態を通常で良いものとしないこと、そういったことを改めてモニタリングする仕組みを持つことが重要なのです。

例えば、ずっと人手不足の部署を残業をものともしない管理職に頼る形で回し続けていないでしょうか。メンタルヘルスの基本は適切な業務の質と量をいかに調整できるかになるのです。

本人のストレス耐性:レジリエンスを強化しセルフケアができる管理職を増やす

レジリエンスとは回復力です。 管理職一人一人が自分の状態に気づき、危なくなる前に休むことができたり、誰かの力を借りる事ができたりと、自分の状態を安定させることができる事によってセルフケアの力が高まります。そうすることによって高い負担があったとしても上手に乗り越えていくことができます。
これは、資質ではなく訓練によって身につけることができる事です。この力は管理職に限らず全ての従業員に必要な力になりますので、会社としてどのように強化するか検討することをお勧めします。

【参考コラム】レジリエンス研修の内容は、専門家と決めるべき│安易な実施は危険

サポート体制の充実:予防システムを見直し潰れる前に気づく会社になる

再度提示しますが、「見る・聞く・つなぐ」ということができる体制をいかに作るかということです。 ストレス要因と本人のストレス耐性の対策を進めることは大事ですが、それでもストレス要因を全てコントロールすることも全員が何が起きても大丈夫なストレス耐性にすることは不可能です。

予防できる状況を作ることで早く見つけ潰れる前に対処できる会社にしていくことが大事なのです。例えば、下記の対策などはいかがでしょうか。

・ストレスチェックの実施方法、意義の伝え方の見直し
・管理職の縦の繋がりの強化;1on1などの実施
・管理職の横の繋がりの強化:組織横断的なプロジェクト、コミュニティの充実
・社内、社外への相談機能の充実:社内、社外カウンセラーの設置

6) まとめ

ここまでお読みいただきありがとうございます。 ぜひ上記の内容を参考にしてくださり、会社にとっても個人にとっても良い方法が取れるようになることを願っています。

とはいえ、上記の内容を全て読み込んでいただいても実際には困難な状況が発生するのではないか思います。
なぜなら会社の状況はすべ1社1社違うものであり、しかも判断が難しいことが多い内容となることが多いからです。
もしもっとより詳しく知りたい、自分の会社の対策を具体的に考えたいと思った方はご相談ください。 各会社に状況や状態に応じた対策を一緒に考えていきます。

本コラムが皆さんの助けになれば幸いです。 お読みいただきありがとうございました。

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