2023/5/10作成ー
「若手社員研修を通して、若手社員の主体性を発揮させたい」
人事・経営者から、よくお聞きする声です。実は、この考え方自体が間違いなのです。
「主体性を発揮させる」という考えを持っていては、主体性が発揮されることはありません。主体性は「発揮させるもの」ではなく、「若手社員本人が発揮するもの」だからです。
このスタート地点で、若手社員研修で、主体性の発揮をテーマに扱ってもうまくいきません。ましてや、研修自体が「受けさせられている」という意識で受講する方のほうが多いという現実があります。ただこのような状況でも、人事・経営者から下記のような声もお聞きします。
「研修現場では、前向きに主体的に受講しているんですよ」
研修会社や講師は、研修の盛り上げ方を知っていますし、見せ方も知っています。一見うまくいったように見えて、実は講師が研修現場をコントロールしているため、主体性ではなく、受動的主体性(決められたルールや枠組みの中で一生懸命頑張る)という状態になっています。これでは、若手社員の主体性の発揮を促すことはできませんし、現場に行っても研修効果は出ないでしょう。
本記事を通して、若手社員の主体性の発揮を促すために必要な研修の内容をお伝えします。本コラムを最後までお読みいただくと、若手社員研修で主体性の発揮をどうのように扱えばいいかが分かります。
例えば、主体性と、受動的主体性の例としては、下記のような内容があります。
対象者 | 受動的主体性の状態 | 主体性を発揮している状態 |
---|---|---|
新入社員 若手社員 |
「テレアポは量をこなしなさい」と言われて、目標よりも多くのテレアポを行う | ・テレアポの量をこなすだけではなく、アポ数が上がるために工夫する ・別の方法を考えて、上司に相談をする |
中堅社員 | 「会議で自分の意見を伝えなさい」と言われ、多くの意見を伝える | ・会議の質が上がるように、事前に資料を用意する ・前提を見直す質問をする |
管理職 | さまざまな役割をアサインされ、愚直にこなしていく | ・重要度の高い役割を全うし、他の役割は部下に任せ部下の成長機会にする ・ただ役割をこなすのではなく、経営者に問題提起をし、自身の役割自体を変更する |
主体性の発揮を促す研修においては、上記内容の理解がとても重要になります。
目次
若手社員が主体性を発揮するために行う研修とは、「主体性を発揮させるもの」ではなく、「主体性の発揮を促していくもの」である必要があります。
無理やり主体性を発揮させようとすると、受動的主体性になります。その思考・行動は現場に行ってからも継続されてしまい、主体性は発揮されなくなります。そのため「主体性を発揮させよう」ではなく、「主体性の発揮を促す」や「主体性を解放する」という考え方が必要です。
例えば、研修名が「主体性発揮研修」というネーミング自体もNGです。この研修名を、若手社員が見た瞬間に「主体性を発揮しないといけないんだ」という枠組みに陥ることになります。研修名から、既に受動的主体性を促進する内容になってしまいます。当社では、「主体性探求ワークショップ」というネーミングにしたり、お客様と共に考えて、全く異なる研修名にしたりします。
このように、若手社員が主体性を発揮するために行う研修とは、「主体性を発揮させる」のではなく、「主体性の発揮を促していく」必要があります。
下記プロセスをもとに、若手社員研修を通して、若手社員が主体性を発揮するための具体的な方法をお伝えしていきます。
まずはじめに、若手社員が主体性を発揮できない状況を把握する必要があります。
「なぜ主体性が発揮できないのか」を知ることができなければ、適切な若手社員研修の実施はできません。
例えば、「上司に対して、自信を持って報連相ができない」というのであれば、「ロジカルシンキング等を用いて、伝える力を強化する」や、「上司の前で緊張しないように、上司との関係性を育む」などが研修内容になってくるかもしれません。「やる気がなく、言われたことしかしない」というのであれば、「仕事に対しての意義付けを見出す」や、「自組織での成長実感・予感を見出す」ための研修内容が必要かもしれません。
このように若手社員が主体性を発揮できない状況を把握することが、まずは必要です。
研修の準備として、若手社員が主体的に研修を受講するための働きかけを行っていきます。
研修は、受け身になりがちです。そのため、まずは研修に対して、少しでも興味関心が向くようにしていきます。それが、若手社員が主体性を発揮するためのきっかけになっていきます。
具体的には、ただ研修の案内メールを送るのではなく、人事や経営者からの想いを込めた案内メールを送るのもよいでしょう。また簡単な事前ワークを行うのもよいでしょう。ここで重要なのは、「いつもと違う」という認識や、「なんか面白そうだ」という認識を持ってもらうことが必要です。
案内文に関しては、ある会社様の事例をお見せします。当社の公開講座を受講されたお客様です。
次に事前ワークの事例に関しても、お見せします。
上記のようなネガティブなコメントがあったとしても、焦る必要はありません。この若手社員は、すでに主体性の発揮をしています。「自分の意志で判断を行い、責任を持って行動すること」が主体性であるのであれば、上記のAさんは、主体性を発揮して、自分の意思を伝えています。
このように研修の準備として、若手社員が主体的に研修を受講するための働きかけを行っていきます。
なお下記コラムの事例で、本事前ワークの受講生が、主体性を持って変容していったストーリーも見ることができますので、こちらもよければご覧ください。
研修への参加意欲がとても強い参加者への実施や、何か特別な事情がない限りは、事前ワークの負担は少なくしたほうがいいでしょう。
研修内で、少しでも多くの若手社員が主体性を発揮できる場を創り続ける必要があります。主体性を発揮する経験を持つことで、その経験・体験を通して、現場でも主体性の発揮が促されるためです。これは、研修がロジカルシンキングであっても、キャリア研修であっても、同じです。
研修内で主体性を解放・発揮を促す手法を6つお伝えします。
それぞれ説明していきます。
コントロールにつながるオペレーションやメッセージが多くなると、言われたからやるという受け身の姿勢や、受動的主体性が強化されます。具体例をあげると、「発言をした後に必ず拍手を求める」、「発言を求める際に、指名ばかりする」などがあります。
拍手があると一見盛り上がっているように見えますが、拍手をするという枠組みが強くなり、まさに言われたからやるなどの受動的主体性が強化されます。指名ばかりすると、受け身が強くなります。コントロールにつながるオペレーションやメッセージは、極力控えていくのがいいでしょう。
本音が言える場でないと、「間違ってはいけない。正解を言わないといけない」、「いいことを言わないといけない」という文脈になり、主体性は解放されません。安心安全の場を創るためにチェックインを行ったり、対話(ダイアログ)のルールなど設けることが必要です。
若手社員研修の目的・目標が明確になっていないと、何のためにこの場にいるのかが分からなくなります。目的・目標を提示することで、主体性を発揮していきます。ただし、時には目的・目標自体も、受講者と一緒に考えていくことが必要になる場合もあります
目的に対して、若手社員が違和感を発信した時は、まさに主体性を発揮しているので、その機会を可能な限り大切に扱うことが必要です。目的・目標に対して、若手社員が違和感を感じた際に、そのまま研修を進めると、予定調和になり、枠組みの中で進めようとするため、主体性は発揮されません。そのため、若手社員と共に、目的・目標を考えたり、提示されている目的・目標自体に関して、探求するのもいいでしょう。
若手社員研修の目的・目標を明確にしたり、時には若手社員研修の目的を参加者で創ることも必要です。
ワークの説明を丁寧にしすぎると、受け身を助長します。そのため、講師・ファシリテーターからの説明に関してですが、少し乱暴なくらいでもかまいません。そうすると、自分たちで進め方を考えることになりますし、分からなければ講師やファシリテーターに対して自発的に質問も出てきます。主体性の発揮のきっかけを与えるものになります。
そのためオンライン研修の場合は、丁寧にワークの説明を行ったうえで、考えてほしい余白も提示しながら、研修を進めていく必要があります。
小さくてもいいので、自分で決めるということが重要になります。それが、主体性を発揮していることになります。例えば、席を自由に決めるなども一つの方法です。当社では、付箋の色を変えて、付箋を自身で選ぶなども行います。
ポジティブフィードバックを行うことで、主体性をより発揮しようと意識と行動が強まります。また振り返り(リフレクション)を行う場合は、改善点ばかり考えるのではなく、自身の良かった点もしっかり振り返ること(リフレクション)で、主体性的に物事を捉えるようになります。このように、研修内で、少しでも多くの若手社員が主体性を発揮できる場を創り続ける必要があります。
研修後は、刺激を与え続けなければ、研修内で主体性を発揮していても、すぐに元に戻ってしまいます。刺激し続けるための具体的におすすめな方法は、バトンメール🄬とフォローセッションです。
バトンメール🄬とは、当社が開発したツールです。研修後に、4~6名程度のグループを決めて、一週間に一度グループメンバーから、他のメンバーに対して、研修で学んだことを現場でどう活かしているかなどを伝えます。さらに、メールの最後に同じグループのメンバー一人に対して、バトンを渡します。翌週はそのメンバーがメールをグループに送ることになります。メールを送る本人はしっかり内省ができますし、グループメンバーもメールを見ることで小さな内省ができます。メールを送り合うことでチーム学習が促せ、さらに負担が少ない方法でもあります。とてもお薦めのツールです。
次にフォローセッションですが、半日でもいいですし、難しければ数時間でもいいので、実施することを当社はお薦めしています。人は変化していても、日々の忙しさに追われると、変わっていないと思うことも多いです。フォローセッションでは、仲間とのチーム学習を通して質の良い内省(リフレクション)を行うことが可能です。変化に気付き、主体性の発揮が強化されます。
このように、若手社員研修を打ち上げ花火として終わらせずに、行動変容を止めないためにも内省とチーム学習が必要です。
主体性を解放・発揮する際には、組織人としての当事者意識を育むことが重要です。なぜなら、当事者意識を持たなければ、主体性はただのわがままと捉えられてしまうこともあります。
当社では、当事者意識を「課題やビジョン・目的・目標に対して、自分事として捉えて、意識・行動していること」と定義しています。当事者意識を持つことで、主体性が発揮されていきます。
※当社、人事勉強会の資料より抜粋
当事者意識は、「自他非分離が生まれるような場を創り続ける」を行うことで、醸成されていきます。下記のループを回していくことが重要です。
「当事者意識の育み方」に関しては、詳しくは下記コラムでご紹介していますので、こちらを参考にしていただければと思います。
社員の当事者意識を育む研修・ワークショップの創り方 ~人事が働きかけられることとは?〜
主体性の発揮を解放するためにも、当事者意識を持つための働きかけが必要です。
本コラムでは、若手社員研修での主体性の発揮の扱い方に関して、お伝えしました。
下記3点をお伝えしました。
若手社員研修を通して、若手社員が主体性を発揮するためには、「主体性を発揮させるもの」ではなく、「主体性の発揮を促していくもの」であると捉える必要があります。
若手社員研修を通して、若手社員が主体性を発揮するための具体的な方法として、下記の4つのプロセスを丁寧に扱うことが重要です。
最後に大前提として、主体性の発揮を解放するには、当事者意識を育むことが必要です。そのためには、研修の場に入り、共創・協働を促進していくことで、当事者意識は強まっていきます。
本コラムを通して、若手社員が主体性の発揮を促すために必要な研修の内容をご理解いただけたら、嬉しく思います。若手社員が主体性を発揮するためにも、素晴らしい若手社員研修を実施していただければと思います。
若手社員研修の企画や実施でご相談があれば、ぜひ当社アーティエンスまでご連絡ください。