社員の当事者意識を育む研修・ワークショップの創り方 ~企画側が働きかけられることとは?〜

更新日:

作成日:2022.6.7

社内会議中の男性3人 社員の当事者意識を育む研修・ワークショップの創り方 ~人事が働きかけられることとは?〜

2022/6/7作成ー

「研修を実施しても、やらされ感満載で受講している。研修中に仕事をしている」という話を、人事の方から聞きます。「人事・上司に言われたから、研修に参加した」という受講者も少なくありません。前のめりに、積極的に受講をしてほしいにもかかわらず、受け身になるケースが多くみられます。

なぜ人事が想いを持って研修企画を行っても、受講生は自分事として取り組まないのでしょうか。

本コラムでは、受講生が研修内で当事者意識を持つために、できることを考えていきたいと思います。

1)当事者意識とは?

まずそもそも当事者意識とは何でしょうか。 人材開発・組織開発を行っていると、よく聞く言葉ですが、皆さんは、当事者意識を、どのように定義されていますか。

当事者意識を大切にされている人事・経営者の方は多いですが、明確に言語化し、具体的な働きかけを考えている方は少ないように思います。

当事者意識とは、「課題やビジョン・目的・目標に対して、自分事として捉えて、意識・行動していること」とアーティエンスでは定義しています。

研修内では「組織や自身の課題や研修の目的と向き合い、自身・組織の成長につなげるために、他の参加者と共によりよい学び・対話の場を創っている状態」と捉えていただくといいかもしれません。

当事者意識の持ち方により、研修効果は変わってきます。

2)なぜ当事者意識を持てないのか?

では「なぜ当事者意識を持たないで、研修に参加する」のでしょうか?大きな理由としては、当事者意識を持つための機会・導線が創られていないためです。

受講生が当事者意識を持つデザイン(企画)になっていない

人事が当事者意識はもちろん、想いや情熱を持っても、受講生が受け身で、白けて研修受講する場合もあります。その場合は、研修参加への当事者意識がない場合か、もしくは自組織へ諦めやエンゲージメントの低さが見られます。

「研修参加への当事者意識がない場合」のよくある理由としては、「忙しいから、通常業務を優先させたい」、「自分には関係ないテーマだ」、「今まで研修を受けたが、効果などなかった」などが上げられます。

まさに当事者意識を持つための企画をしていく必要があります。具体的な方法として、「3)研修内で、当事者意識をどのように扱えばいいのか?」でご紹介していきます。

また「自組織へ諦めやエンゲージメントの低さ」の場合は、研修現場で表面化した場合は、研修内で対応できる部分と、そうでない部分があります。研修現場でできることとしては、まず受講生が本音をオープンに言える場を創り、どのように対応していくかを、受講生・組織(企画側)共にに考えていく必要があります。

企画段階であれば、研修内容を見直していくことが必要でしょう。 「自組織へ諦めやエンゲージメントの低さ」といっても、さまざまな事象があるためです。例えば、「年功序列で、上層部が絶対で、メンバーの意見は否定される」、「サーベイを取っても、取って終わりで、企画側からのレスポンスもなく、何も変わらない」、「自組織への愛着が感じられず、キャリアイメージが持てない」などはよくあります。起きている事象も違いますし、それぞれ背景も異なることでしょう。企画を再度考えていく必要があります。

3)研修前後で、当事者意識をどのように育めばいいのか?

それでは、研修内で当事者意識をどのように扱えばいいのでしょうか?アーティエンスでは、~「自他非分離が生まれるような場を創り続ける」ことが重要だと考えています。
参考資料 自他非分離とは ※当社、ファシリテーター育成コースのテキストより抜粋

自他非分離の場を作るには、下記のループを回し続けることを、意識する必要があります。
場の中に入る 共創・協働の機会を創るのループ
受講生が「(研修の)場に入っていくこと」で、他の受講者との関りが生まれます。その関りを強化するために、「共創・協働の機会を創る」と、より場に入っていきます。

※「(研修の)場に入っていくこと」とは、研修への参加姿勢・コミット度合いや前向きさと捉えていただくとよいです。

「参加意欲がない受講生は、そもそも場に入らないです。どうしたらいいんですか?」という質問もよくあります。このループ図は、どちらが先ではありません。やる気がなく研修に対して後ろ向きな方でも、「共創・協働の機会を創る」ことで、場の中に入っていきます。

それでは、具体的にこのループをどのように回していけばいいかを考えていきましょう。「研修前」、「研修内」、「研修後」、「注意点」という順番で、具体的な方法をお伝えできればと思います。

1.研修企画での当事者意識を育む方法

よくあるケースとして、一方的且つ事務的に「研修受講のインビテーション(研修の受講連絡)や事前ワークを送る」などがあります。これでは、やらされ感はより強まっていきます。

受講生の参加前の状態でよく起きるのは、

・事務局が伝えた研修の目的・目標を受講生が必要だと思っていない
・実際の仕事に本当に役立つのか、どう活用できるのかイメージできていない
・忙しさなどにより、研修への意識が弱く、無関心になっている

インビテーションや事前課題に関して、工夫することが必要です。受講生が少しでも興味関心を持つ内容として考えていくことが必要です。

下記のようなアプローチも一つの方法です。

「人事・経営者・上司が期待や想いを伝える」インビテーションにする

・参加前に現場上司と1on1を行い、研修参加の目的をすり合わせてもよいかと思います
・必要に応じて、上司用の説明などがあってもよいです

事前ワークは、自身の言葉で参加目的・目標を言語化し、個人ではなく、組織の施策として学ぶ仲間共に学ぶことを理解する

・現場への活用イメージをする機会を創ること
(その時点でネガティブであっても問題ない)
・個人の学習機会だけではなく、組織の取り組みとして認識する

一例として、当社のお客様が受講生にお送りしたインビテーションを、ご紹介いたします。
※ 社内ファシリテーター育成コースのインビテーションになります。一部変更しております。
※ 下記は研修案内文(インビテーション)としてのメール内容になります。

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社内ファシリテーター育成コースを受講される皆さまへ

こんにちは。人事総務部○○です。

先日、みなさんの上司からお伝えした社内ファシリテーター育成コースのご連絡です。
始めに経営陣からのメッセージをお伝えさせてください。
社内ファシリテーター育成コースに参加の皆さまへ 経営陣からのメッセージ
次に研修の詳細ですが、添付ファイルをご覧ください。
事前に課題がありますので、○月○日までに、本メールで全員に返信で、ご提出いただきますようお願いいたします。
※ ご質問があれば、お気軽にご連絡くださいませ。

最後に、私も参加者としても、事務局としても、本プロジェクトに入りますが、正直不安しかありません。頑張ろうという気持ちもありますが、それ以上に不安が多いです。

ただこのプロジェクトが終わった後に、自組織や私たちが成長変化していることは、心から願っています。不安はあっても、一緒に組織変革のための一歩を踏み出していただけませんか?
みなさんと、一緒に素晴らしい組織を創っていきたいです!
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いかがでしょうか。ただ研修内容を事務的に案内した場合とでは、参加者の意識が少しは変化するのではないでしょうか。

次に事前ワークです。こちらも工夫が必要です。「事前ワークなんて、現場で実施する時間がない」という方もいますが、簡単でいいので、事前ワークを行うことを、私たちは推奨しております。その事前ワークで場に入っていくことや、共創・協働の機会を創るきっかけができるためです。

こちらも当社の事前ワークの例をお見せします。公開講座に参加いただいた3年目社員の方の事前ワークと共に、ご説明します。
社内ファシリテーター研修 事前ワーク プレ探求シート
注目してほしいのは、①と⑥の問いです。この二つの問いが、先ほどのループ図を強化しています。
問①は、「場に入る」ための問い、問⑥は「共創・協働の機会を創る」ための問いです。

本サンプルでは、まったく場にも入っていなければ、共創・協働の機会を創られないのではないかと思っている方もいらっしゃると思います。洗脳ではないので、すぐに当事者意識が強くなるわけではありません。ここで無理やり「当事者意識を持ちなさい」というアプローチをするのではなく、このような導線を多く持つことが重要です。その体験を通して、当事者意識を持つループが回り始めていきます。後ほど、本受講生の研修後のアンケートもお見せします。

このように、企画の想いを伝えるインビテーションや、場に入る、共創・協働の機会をつくるための事前課題を行うことで、研修前に受講生に少しでも参加の意識を持ってもらえるようにします。

2.研修内での当事者意識を育む方法

次に研修内で、当事者意識を持つためにできることです。
まず始めに研修の場に入っていくために、チェックインを行うことを推奨しています。チェックインとは、研修やワークショップの始めに「その場に入る」ためのワークになります。アーティエンスでは、下記のルールで行っています。
チェックインのルール
次に、「共創・協働の機会を創る」の体験を多く持ってもらうことです。グループワークの中で、「共創・協働の機会を創る」の品質をいかに高めていくことが必要です。

ただし、そのワーク・セッションがやらされ感になると、なかなか当事者意識を解放できません。当社の研修では、研修の冒頭にダイアログを入れることが多いです。事前ワークをもとに対話をし、テーマをが探求するだけも、「共創・協働の機会を創る」をできていきますし、また「場に入る」も行えます。

分かりやすい具体例としては、3年目社員フォロー研修の内容をお見せします。素晴らしい若手社員を、グループ内で対話していただき、探求します。
3年目社員フォロー研修の内容の一部 素晴らしい若手社員とは 
このようなワークやセッションを設けて、当事者意識を持つためのループ図を強化していきます。なお先ほどの三年目社員の方は、研修への参加姿勢も変わり、研修終了後には下記のように自組織への当事者意識が高まっていたようです。
3年目フォローワークショップアンケート
チェックインでは、必ず何かしら発言することになるため、場に入ることが必然になります。そして、共創・協働の機会を作ることによって、他の参加者との相互作用により、参加度合いが変わり、より場に入っていくことになります。

3.研修後での当事者意識を持ち続ける方法

研修をおこなって終わりではありません。研修後も、組織に所属する一人として、研修現場で学んだ内容を現場で活用し続けるために、当事者意識を育んでいくことが重要です。当社では、バトンメール🄬というフォローツールや、パルスサーベイによる対話を推奨しております。

(参考) バトンメール🄬

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「内省を促しながら、本研修の仲間と共に学び続けることを目的としているバトンメール🄬」を行うことで、現場展開で学びを継続化し続けることが可能です。

(参考) パルスサーベイGrowth・Oar

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パルスサーベイで、内省を促すだけでも、当事者意識を刺激し続けます。パルスサーベイの内容をもとに、対話をするとより効果は高まります。

メールでも対面でも、研修内容で学んだことについてどれだけ意識してその後を過ごしているかを確認することによって、研修後も組織課題や自身の成長と向き合うことが可能になります。

4.当事者意識を育まないNGポイント

企画をする側として、人事が知っておきたいNGポイントが、2つあります。

・”あるべき論”を押し付ける
・分離が生まれる構造になっている

はじめに「”あるべき論”を押し付ける」でよく起きる内容をお伝えしていきます。
例えば「管理職とはこういうものだ!」、「新入社員はまず量が必要だ」、「うちのミッション・バリューだから、これに従って」というメッセージの伝え方では、当事者意識を持つことが難しくなります。アウトサイドイン(外発的動機づけ)と言われ、外からの働きかけになるため、受け身が強くなり、前向きなエネルギーは出てこないばかりか、時には壊れてしまう可能性もあります。

(参考) アウトサイドインのメタファーとしてよく用いられる破れた卵
参考 アウトサイドインのメタファーとしてよく用いられる破れた卵

それでは、組織が持っている問題意識をどのように扱っていけばいいのでしょうか? 受講生に必要な知識などを渡しながら、受講生自身で対話などを通して、意味づけしていくことが必要です。それがインサイドアウトを促し、当事者意識を育んでいきます。自組織の課題意識と、現場の課題意識に違いがあったり、時には対立なども見られることがあります。そこを無理やり抑え込もうとするのではなく、組織も参加者も変われるチャンスととらえて、向き合っていくことが必要です。その際、ファシリテーターが、場をホールドしていくことが重要です。

次に「分離が生まれる構造になっている」ケースです。例えば、「営業部と開発部」や、「上司と部下」、「企画(人事)と、受講者」というものがよく見られます。この状況が生まれると、他責傾向なども見られるケースも出てきます。「営業部と開発部」、「上司と部下」、「企画(人事)と、受講者」での例を見ていきましょう。

・「営業部と開発部」の分離では
営業は「いい商品がないから仕方ない」、開発は「営業が昔のやり方で機能していないから」と考えます。

・「上司と部下」の分離では
上司は「任せられないから、自分が全部やらないと」、部下は「マイクロマネジメントでやり気が起きない」と考えます。

・「企画(人事)と、受講者」の分離では
企画側は「前向きに受講してほしい」、受講者は「言われたから受けているだけ」と考えます。

この状態が起きていると、当事者意識は育まれず、研修などの施策の効果は下がります。分離を無くしていくには、まさに研修の企画を、どのようにデザインするかが重要です。一例としてある会社の管理職研修の例を見ていきましょう。下記のように、研修後のビフォーアフターを企画の段階で創ることをお勧めします。
ある会社の管理職研修の例

上記のように企画(デザイン)することで、上司と部下の分離を無くし、自他非分離の状態を創っていきます。「企画(人事)と、受講者」との分離に関してですが、企画から現場のメンバーに入ってもらうこともいいですが、難しいことが多いと思います。簡単なものですが、研修の一部でも企画側が参加すると、分離が少なくなります。まさに場に入って、共創・協働の機会を創ることになります。

4)まとめ

「当事者意識を持ちなさい!」と伝えても、人は当事者意識を持ちません。当事者意識を育むための仕掛けが必要になります。アウトサイドインのメタファーとしての割れた卵をお伝えしましたが、当事者意識を持つためにはインサイドアウト(内発的動機づけ)が必要になります。

インサイドアウト(内発的動機づけ)のメタファーを卵で例えると、自ら殻を破り、前向きな力強いエネルギーといったところでしょうか。
インサイドアウト(内発的動機づけ)のメタファーを卵で例えている図
当事者意識を持つための働きかけをすることで、間違いなく組織も人も変わります。当事者意識を持つ社員が多くなれば、それが企業文化になっていきます。

本コラムが、研修内の設計で当事者意識を持つにはどうしたらいいかを考えていくための参考になればうれしいです。