【経営者必見】自身と組織の未来と今を豊かにするためのおすすめの本25選

更新日:

作成日:2022.12.1

本棚経営者として会社を成長させたい、そして自分自身も経営者として成長していきたい
そんな想いで、本コラムにたどり着かれたのではないでしょうか。

経営者が学ぶべきことは多岐にわたります。財務や会計などの専門的な知識から、人としての器、人間力など、絶対的な正解のないテーマについて学ぶことも経営者にとっては大切です。

本コラムでは、特に「会社を自律的に成長させていきたい、そのために自分も成長していきたい」と考える経営者のために、必ず読んでいただきたい本を選びました。

私たちは経営における成長とは、単に業績の成長だけとは捉えていません。業績に加えて、働いている一人ひとりが成長すること、そして経営者自身も成長すること、その結果として、事業や組織がより望ましい姿に変わっていくこと、これが私たちの考える成長です。

メンバー一人ひとりの内発的動機を元に、メンバーも自律的に考え、行動し、業績と充実感を生み出していきたい、そんな経営者の方に向けて、このコラムを書きました。
そして、経営者も一人の人間であり、会社だけの人生ではなく、人生全体を充実させていくべきだと私たちは考えています。

ご自身が気になるテーマからで構いません。1冊でもよいので手に取り、会社、そして何より皆さんの人生をより良いものにしていただければと思います。

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監修者プロフィール

菊地 大翼

組織人事コンサルタント。業界歴15年以上。研修会社に入社し、法人営業で売上トップを達成後、新規商品の開発に従事。現在は人事制度構築支援、成人発達理論に基づいた人材・組織開発のコンサルティングを行っている。

目次


▼【動画でも解説】12分で分かる|
【必読】人材育成を成功させるために経営者・管理職が読むべき良書9選

1)経営者自身の成長のために読むべき本5選~自身の器を広げるために~

① 成長する組織とリーダーのつくり方:データで解明された持続的成果を生み出す法則

詳細
タイトル 成長する組織とリーダーのつくり方:データで解明された持続的成果を生み出す法則
著者 ロバート・J・アンダーソン、ウィリアム・A・アダムズ
出版年 2021年
出版社 中央経済社

本書は、「今の自分にどのようなリーダーシップが必要なのかがわからない」という状態の経営者から「これから求められるリーダーシップとは何か?が明確になる」状態になれる本です。

本書では、単純に高い業績を実現するリーダーではなく、組織やメンバーの可能性を引き出し、それでいて成果も出す、いわば学習と成果を両立させるリーダーシップのあり方について紹介されています。リストラや事業再編などを行い、短期のうちに高い業績を実現する経営者もいます。しかし、高い業績を実現した上で、組織やメンバーも成長と充実感を感じる組織を創ることができる経営者は、あまり多くありません。そんな、高い業績を実現した上で、成長と充実感も同時に満たすリーダーシップの発揮について書かれているのが本書です。

本書では、従来型の指示や命令を主としたリーダーシップのあり方を「反応的(リアクティブ)なリーダーシップ」、これから求められる、メンバーの主体性を引き出した上で、高い業績を実現するリーダーシップを「創造的(クリエイティブ)リーダーシップ」と定義し、リーダーシップによって、業績がどのように変わっていくのか?を統計的に分析されたデータを元に示しています。

また、データに加えて、リーダーの生々しい変容の様子や、変容に躊躇する姿などを赤裸々に描いています。決して絵に描いた餅や理想論ではなく「どうやって自分のリーダーシップを開発するのか?」をデータも参照しながら、具体的に掘り下げされているのが本書です。

「経営者として目指すべきリーダー像とは何か?」
そんなことに悩まれている経営者に読んでいただきたい本です。

② シンクロニシティ[増補改訂版]――未来をつくるリーダーシップ

詳細
タイトル シンクロニシティ[増補改訂版]――未来をつくるリーダーシップ
著者 ジョセフ・ジャウォースキー、 金井壽宏
出版年 2007年
出版社 英治出版

本書は、「人生の使命を果たして生きるとはどういうことなのか?」についてイメージがつかない状態から「自分の人生の使命に生きるとはどんな生き方なのか?」が掴めるようになる本です。

ウォーターゲート事件を担当することになった弁護士である著者が、仕事や人生に感じる違和感から、それまでの人生を投げうち、自分自身のリーダーシップを模索する旅路について記した本です。

ビジネスパーソンとして成長、成功するだけでなく、人生の使命を果たすためにはどんなリーダーシップが必要なのか?そんな問いを抱えた著者が、経営学者、思想家、哲学者らとの対話を重ね、新たなリーダーシップを探求していきます。

本書はデータなど客観的な材料ではなく、あくまで著者の主観的な体験が綴られています。
しかし、著者が人生全体をかけて掴んだ洞察には、説得力があり、リーダーシップ研究やキャリア研究の日本の第一人者である神戸大学の金井教授も推奨しています。

それだけ重要な1冊ということです。本書は、戦略のつくり方、コミュニケーションとは何か?など具体的なスキルについて書かれた本ではありません。むしろ、「自分とは何か?」「生きるとは何か?」「世界とは何か?」などの哲学的な問いを探求するプロセスが描かれています。

だからこそ、私たちは、本書を経営者の方に読んでいただきたいと思っています。経営者は自分の人生を懸けて会社を経営します。だからこそ、業績を達成したい、高い成果を上げるためのリーダーシップではなく、自分の人生のミッションや使命を実現していくためのリーダーシップを探求していただきたい、と私たちは考えているからです。

一度読んで終わりではなく、人生の節目節目で読み直す経営者の方も多くいらっしゃる本です。読み直す度に、新しい気づきがあるからです。一生ものの数少ない1冊と言えます。ご自身のリーダーシップを探求する際に、ぜひ手に取っていただきたい1冊です。

③ 行動探求―― 個人・チーム・組織の変容をもたらすリーダーシップ

詳細
タイトル 行動探求―― 個人・チーム・組織の変容をもたらすリーダーシップ
著者 ビル・トルバート、 小田理一郎、 中小路佳代子
出版年 2016年
出版社 英治出版

こちらの書籍は、「自分のリーダーシップがどんなプロセスで進化していくのかがわからない、今の自分のリーダーシップの取り方はどんなレベルなのかがわからない」という状態から「自分のリーダーシップの現在地や、これからどんなチャレンジをしていけばリーダーシップが育まれるのかがわかった」となる1冊です。

本書がこれまでの書籍と異なるのは、リーダーシップの成長には段階があるとして、人のリーダーシップはどんなプロセスで変化していくのか?変化のために必要な要素とは何なのか?をハーバード・ビジネス・レビュー誌で最優秀論文に選ばれた論文をベースに論じられていることです。

本書では、リーダーシップを成長させていくために最も重要なのは「自己内省力」として、リーダーシップの段階ごとにどんな内省力が必要とされるのか?について段階ごとにまとめられています。内省力の重要性に触れた本はありますが、リーダーシップの成長・発達と掛け合わせて紹介しているものはあまり多くありません。また、著者の個人的な体験や見解だけではなく、学術的な検証に耐えているレベルのものもあまりありません。
そういった意味で、本書は2つの点(内省力とリーダーシップの成長・学術的な背景がある)で優れていると言えます。

本書では、リーダーシップの成長について以下の7段階が紹介されています。

① 機会獲得型―自己に有利な機会を見出し、結果のために手段を問わず行動する
② 外交官型―周囲の状況・既存の秩序に合わせて調和を重んじて行動する
③ 専門家型―自己の論理・効率を重視し完璧を目指して行動する
④ 達成者型―目標を掲げ、効果を得るのために他者を巻き込んで行動する
⑤ 再定義型―戦略・手段・意図の一貫性を問いながら独創的に行動する
⑥ 変容者型―相互性と自律性を好み、時宜を得て発達を促しながら行動する
⑦ アルケミスト型―意図を察知し直観的・タイムリーに他者の変容を促しながら行動する

「成長する組織とリーダーのつくり方:データで解明された持続的成果を生み出す法則」でのリーダーシップの定義とも関連があり、「反応型(リアクティブ)リーダーシップ」は「機会獲得型~達成者型」、「創造型(クリエイティブ)リーダーシップ」は「再定義型~アルケミスト型」に該当します。

本書と「成長する組織とリーダーのつくり方:データで解明された持続的成果を生み出す法則」を合わせて読むと、自分に必要なリーダーシップの要素と、その要素を深く知ることができます。 ぜひ合わせて読まれることをおすすめします。

④ 未来を変えるためにほんとうに必要なこと――最善の道を見出す技術

詳細
タイトル 未来を変えるためにほんとうに必要なこと――最善の道を見出す技術
著者 アダム・カヘン、由佐美加子、東出顕子
出版年 2010年
出版社 英治出版

経営者の方がしばしば悩まれるのが、「メンバーの自発的な変化を待つか?」それとも「トップダウン的に変化を強いるか?」ということだと思います。

本書は、「ボトムアップかトップダウンか」という視点から「ボトムアップとトップダウンを併せて用いていく」という視点に切り替えることのできる本です。

著者は、紛争解決のファシリテーターで、外資系企業の経営幹部のファシリテーションなども行っています。紛争解決や経営など難易度の高い場面では、力を使ってトップダウン的に働きかけても、相手の自発的な変化を待つボトムアップ型のアプローチでも思うような結果が出ません。

著者も、実際のファシリテーションにおいて、数多くの失敗を体験しており、その失敗の中から、力を押し付けるでもなければ、ただ迎合するだけでもない、「Power&Love」というアプローチを創り上げていきます。

本書は「Power&Love」という考え方とは何か?、その考え方にたどり着くまでの過程や、ファシリテーターに抵抗を示す人に対しての失敗や苦悩も赤裸々に書かれており、自分の味方は誰もいないという環境の中であっても、いかに自分の器を拡大させていくのかについても学ぶことができます。

理論もさることながら、「困難な状況にどのように立ち向かっていくのか?」「リーダーが取るべき姿勢とは何か?」について深く気づきを与えてくれる1冊です。

「様々なリーダーシップの本を読んだけれど、なかなか思うようにいかない」
「自分のリーダーシップのスタイルに限界を感じている」
そんな方にぜひ読んでいただきたい本です。

⑤ 論語と算盤

詳細
タイトル 論語と算盤
著者 渋沢栄一
出版年 1916年
出版社 筑摩書房

経営者の方が頭を悩ませることの一つに「目の前の業績を取るか、長期的な成長を取るか」などへのジレンマに対する意思決定があるのではないでしょうか。

本書では、そのようなジレンマに悩まされる状態から「何を軸に意思決定をすればいいのかの観点」がわかる状態に変わることのできる本です。

「論語と算盤」は日本資本主義の父とも呼ばれる渋沢栄一が、その思想の集大成として著した本です。人間性を育むためには「論語」を読むこと、そして、単に利益だけを追い求めるのではなく、社会の利益に貢献することを通じて、利潤を得ることの重要性を論じています。

本書を読むことで、経営観や経営哲学を養うことができます。
例えば、競争一つとっても良い競争と悪い競争があると、本書では述べられています。自らを向上させ、創意工夫を積み重ねることは良い競争、悪い競争は自らを高めることなく、他人の手柄を横取りするような競争である、などです。

また、本書では
「人間性をどのように磨けばいいのか?」
「経営とは何か?」
「江戸時代と明治時代での教育観の変化」
など興味深い内容についても論じられています。経営に携わるのであれば、人生の中で一度は読んでおくべき本だと考えます。

2)組織の成長のために経営者自身が読むべき本5選~世の中に素晴らしい影響を与えるために~

① 場のマネジメント

詳細
タイトル 場のマネジメント
著者 伊丹敬之
出版年 1999年
出版社 NTT出版

本書は、「組織を成長させていくための土台を形成していく上で何がポイントになるのかわからない」という状態から、「組織を成長させていくにあたり持っておくべき観点・哲学」がわかる状態になる1冊です。

本書は、日本を代表する経営学者伊丹啓之氏による著作です。
伊丹氏は経営とは以下のようなものだと論じ、そのためには新しいマネジメントの考え方(パラダイム)が必要だと仰っています。

・経営とは、個人の行動を管理することではなく、人々に協働を促すこと
・適切な状況設定さえできれば,人々は協働を自然に始める
・経営の役割はその状況設定を行うことにある

そして、この状況設定こそが本書のタイトルにもなっている「場」を創ることです。
すなわち経営の役割とは場を創ることであり、場が創られた後は、場から出てくるものに任せるべきだというのが伊丹氏の考えです。

② 学習する組織

詳細
タイトル 学習する組織
著者 センゲ、P.M.
出版年 1990年
出版社 英治出版

本書は、「目の前の出来事や状況に対応する経営」から「長期的な変化が起こる経営」にシフトしていくために重要な1冊です。

「学習する組織」とは、複雑かつスピーディーに変わっていくビジネス環境の中においても、変化に耐えるだけでなく、その変化に自ら適応していく、強さとしなやかさを併せ持つ組織のことです。

こういった組織は、長期的に変化を持続させることができます。経営を取り巻く環境は、年々変化の激しさを増しており、5年先を見通すことも難しいのが実情だと思います。そんな環境下においては、目の前の状況だけに捉われるのではなく、長期的な変化が起こるように組織や経営をデザインしていく必要があります。

学習する組織を創るにあたっては、以下5つの原理(ディシプリン)があります。

① 「自己マスタリー」
② 「メンタル・モデル」
③ 「システム思考」
④ 「チーム学習」
⑤ 「共有ビジョン」

「自己マスタリー」とは、自分のビジョンを描き、そのビジョンに向かって前進を続ける能力のことを指します。また、その過程で自己を深く理解していくことの自己マスタリーにあたります。自分のビジョンは外側から与えられるものではなく、自分の内側から生み出されるものであり、ビジョンは自分を深く理解することから生み出されていきます。

「メンタル・モデル」とは、人が持っている物の見方(認知)や価値観、信念を指します。人はあるがままに状況を見ているのではなく、何らかのフィルターを通して物事を観察しています。そのフィルターを理解し、フィルターによる影響に自覚的になると、物事を柔軟に見られるようになります。

システム思考とは、特定の事象に捉われず、問題の要素における関係性に着目して、全体像とその動きを把握することです。

例えば、機械の故障は原因を分析していけば、何が原因なのかが判明します。一方で、組織風土が悪化しているなどの問題は、外部環境に拠るものかもしれませんし、ビジネスモデルに起因するものかもしれません。また、リモートワークによるコミュニケーション不足によるものかもしれません。このようにある特定の原因があるのではなく、複数の要因が同時に影響を及ぼしていることがあります。
システム思考はこのような際に有効な考え方です。組織における問題は、複数の要素が複雑に絡み合っていることが多く、システム思考を活用して解決していくことが重要です。

【参考コラム】システム思考研修を実施する前に知っておきたいこと│期間や対象層、フォローの決め方

 

「チーム学習」は、お互いのメンタルモデルを共有する過程を通じて、相互理解を深めていくこと、集合知を探求し、個人では到達できなかった考えを見出していくことを指します。
上記のような複雑な課題においては、個人の視野には限界があります。そのため、メンバーでそれぞれの観点を共有し、新しい捉え方を見つけていくことが必要です。

「共有ビジョン」とは、個人のビジョンを起点に、組織のビジョンを探求し、メンバー一人ひとりが、そしてメンバー全員が本当に望むビジョンを描くことを指します。単にお題目としてビジョンを描くのではなく、一人ひとりが、共有ビジョンを自分のビジョンであると捉えられる状態になっていることがポイントです。

以上が、学習する組織をつくるための5つのポイントです。
学習する組織の考え方は、グローバル企業から、スタートアップ企業まで幅広く活用することが可能です。本書の中では、ナイキ社における導入事例などが紹介されています。

③ 実務でつかむティール組織

詳細
タイトル 実務でつかむティール組織
著者 吉原史郎
出版年 2018年
出版社 大和出版

本書は、「メンバーが自律的に動く組織を創っていきたいがどうすればいいのかわからない」という状態から「メンバーが自律的に動いてそれでいて、全体の整合も取れている組織の創り方がわかった」という状態になれる本です。

ティール組織とは、「社長や上司が業務を管理するために介入しなくても、組織の目的実現に向けてメンバーが進むことができるような独自の仕組みや工夫にあふれている組織」のことです。そもそもティールとは日本では青緑色を指し、本書では組織の段階を色で表現しています。全体としては以下のように定義されています。

【参考】組織段階の図

ティール組織は、学習する組織と似ていますが、ティール組織には基本的に管理という考え方はありません。具体的には、売上目標を敢えて置かない、中期経営計画などはつくらない、などのマネジメントスタイルを取る組織のことです。

具体的には以下の3つすべてを実現している組織がティール組織だと本書では言われています。

進化する目的(エボリューショナリーパーパス)

組織を生命体と捉えると、組織の存在目的自体も進化していくべき
それを「進化する目的」と呼ぶ

自主経営(セルフマネジメント)

指揮命令系統がない中で仕事するための仕組みや工夫
情報の透明化、権限移譲、人事プロセスの明確化、など

全体性(ホールネス)

一人が様々なロールを担えるチャンスの付与(マルチロール前提)
色々なタイプの仕事にチャレンジするための工夫、トレーニングも含まれる

とはいえ、いきなりこの状態を目指すのは難しいと感じた方もいるかもしれません。

そこで、オレンジ組織からティール組織にはどんなプロセスがあるのか?を実例を元に紹介している本が「実務でつかむティール組織」です。日本企業における事例も紹介されていて、類書と比較すると、実践するイメージがつきやすいのが本書の優れたポイントです。より自律的な組織を目指したいという場合に、本書を参考に取り入れられるところから取り入れてみると良いでしょう。

④ 偉大な組織の最小抵抗経路 リーダーのための組織デザイン法則

詳細
タイトル 偉大な組織の最小抵抗経路 リーダーのための組織デザイン法則
著者 ロバート・フリッツ、 田村洋一
出版年 2019年
出版社 Evolving

本書を読むことで、「いろいろ手を尽くしているはずなのに、なぜか同じ問題が繰り返される」という状態から、「問題が繰り返される構造が明らかになり、構造を変えるためのアプローチがわかる」という状態になれる本です。

人を入れ替えても、戦略を変えても、なぜか同じ課題が繰り返し発生する、そんなことに悩まれたことのある経営者は少なくないのではないでしょうか。

「本書では組織の振る舞いは根底にある構造が決める。だからこそ、根底にある構造を変えなければ、同じ問題が繰り返し発生する」という原理をもとに、どんなメカニズムで同じ問題が繰り返し発生するのか?について、様々な事例も交えながら紹介しています。

例えば、よくある例として、業績が上がらないから危機感を醸成して、モチベーションを上げようという考え方があります。危機感によって、一時的に業績は上がるかもしれませんが、その危機が去れば、元の状態に戻り、そして、再び同じようなことが起きる、ということがしばしば起きます。

まだ、危機感を醸成するたびにモチベーションが上がればよいですが、言われる方も慣れてしまい、あまり効果を成さなくなるのが一般的です。そうなると、さらに危機感を煽ろうとして、また別の手段を取る、この繰り返しになります。

「構造」を変えずに表面的な行動だけを変えても、その成果は一時的なもので、問題は繰り返されるのです。

では、どのように構造に働きかければよいのでしょうか。それは「根底にある構造を変える」ことが必要です。

本書の著者ロバート・フリッツは「健全な構造」こそが重要であると述べています。健全な構造とは、目の前の問題に対して反応するのではなく、その前に「何を創り出したいのか?」に焦点を合わせた「創り出す思考」によって作られた構造です。

「創り出す思考」によって作られた構造は「緊張構造」と呼ばれ、成功が成功を呼ぶようになります。組織において構造にアプローチしやすいのは組織のトップ、つまり経営者です。ボトムアップでできることも数多くありますが、組織の構造自体の変革は、ボトムアップだけでできることではありません。その意味では、経営者が組織を支配する構造に気づき、変えようとしない限り、組織全体の変革は難しいと言えます。構造に働きかけられる存在である経営者にこそ、本書を読んでいただきたい、そんな思いで本書を紹介しました。

⑤ すべては1人から始まる――ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力

詳細
タイトル すべては1人から始まる――ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力
著者 トム・ニクソン
出版年 2022年
出版社 英治出版

本書を読むことで、「なぜ自分の想いは組織やメンバーに伝わらないのだろう?自分の想いを共有するためにはどうすればいいのか?」という状態から「自分の想いを組織に広げていくにはこうすればいいのか!」と気づきが生まれます。

本書は、人がアイディアを思いつき、それを実現するプロセスを解説した「ソース原理」に関する本です。「ソース」とは、「アイデアを実現するためにリスクを負って最初の一歩を踏み出した個人」を指します。

企業経営においては、創業者や社長がソースを担っていることが多いはずです。とはいえ、実際の経営においては、自分の想いやアイディアが思うように組織の中に広がっていかない、実現されないことにお悩みの経営者の方も多いと思います。

「ソース原理」は、多様な人が集う組織において、アイディアを実現するためには、どんな要素が必要で、そのために「ソース」は何をしなければならないのか、について詳しく触れられています。

例えば、ソースが担う役割の一つとして、ソースが創り出した「クリエイティブ・フィールド」という境界を守る役割があります。
「クリエイティブ・フィールド」とは、ソースがアイディアを実現しようとする場のことです。その場に何がふさわしく、何がふさわしくないのかを決めるのが、ソースの役割です。

例えば、これまでの自社の方針を変えて、新しい商品を創ることはクリエイティブ・フィールドの中に入る活動なのか?そうでないのか?を判断する役割にあたる、ということです。フィールドの境界線を守ることは、ソースの重要な役割のひとつです。そういった意味では、経営者がソースの役割を果たす場合、何がフィールドに含まれて、何はフィールドに含まれないのか?といった境界線をメンバーに示し続ける、つまり、ビジョンや方針を示し続けるといったことが重要になります。

「自分だけが孤軍奮闘しているように感じる」
「事業を継いだものの、自分の会社だという感覚がない。先代の影響が色濃く残っている」
「自分だけではなく、組織のメンバーが自律的にアイディアを実現できる組織を創りたい」
そんなことをお考えの経営者の方にぜひ読んでいただきたい本です。

3)管理職の成長のために経営者自身が読むべき本5選~管理職が憧れの存在になるために~

①シェアド・リーダーシップ-チーム全員の影響力が職場を強くする

詳細
タイトル シェアド・リーダーシップ-チーム全員の影響力が職場を強くする
著者 石川 淳
出版年 2016年
出版社 中央経済社

本書を読むことで、「自分だけがリーダーシップを発揮して孤軍奮闘している」という状態から「自分だけがリーダーシップを発揮するのではなく、管理職やメンバーもリーダーシップを発揮している」という状態にシフトするためのポイントを理解することができます。

本書は、最新のリーダーシップ論である「シェアド・リーダーシップ」に関する書籍です。
シェアド・リーダーシップとは、最新のリーダーシップ研究の成果として「優れたチームは、特定の人物がリーダーシップを発揮するのではなく、チーム全員がそれぞれのリーダーシップを発揮することである」という考え方です。

今の世の中はVUCAワールドと言われ、誰かが特定の正解を持っていることはなく、多様な視点を持ちより、解を探求していくことが求められています。このような時代においては、経営者がひとりで解決策を見つけ出し、意思決定をし、組織をリードすることは極めて困難です。

経営者の役割も、自分が率先してリーダーシップを発揮するあり方から、メンバー全員がリーダーシップを発揮できる環境を創ること、に変わりつつあります。

では、シェアド・リーダーシップを経営者が発揮していくためには、何が求められるのでしょうか。
まず重要なことは、共有ビジョン(シェアド・ビジョン)を創ることです。こちらは経営者が創ったビジョンを共有するということではありません。

「学習する組織」で紹介した内容とも重なりますが、組織の一人ひとりがビジョンを持ち、そのビジョンを組織で共有していくことによって創られるビジョンを「共有ビジョン」(シェアド・ビジョン)と言います。よって、経営者自身がビジョンを持つことは当然として、組織のメンバー一人ひとりがビジョンを育める環境を創っていくことが必要です。

この仕事を、経営者が一人で担うには大変かもしれません。その際は、経営陣のメンバーと協働する、組織から意欲のあるメンバーを募ってプロジェクト型で進めるなどが良いでしょう。プロジェクトを推進すること自体が、組織にシェアド・リーダーシップを広めていく活動になるはずです。

「メンバーが動かなくて困っている」
「自分だけがいつもリーダーシップを発揮している」
「次世代リーダーが育たない」

そんなことにお悩みの経営者の方におすすめの1冊です。

② 最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと

詳細
タイトル 最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと
著者 マーカス・バッキンガム
出版年 2006年
出版社 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版)

本書を読むことで、「優れたリーダーシップとは何か?優れたマネジメントとは何か?」が曖昧な状態から「優れたリーダーシップ・マネジメントにはこの要素が不可欠だ」と理解がクリアな状態になります。

本書は「優れたマネジャー、優れたリーダーが行っている中で、最も重要なことは何か?」について記されています。具体的には、マネジャー・リーダーにおいて大事なことは以下の2つとされています。

・優れたマネジャー:部下の才能を業績に結び付けること
・優れたリーダー:未来を示して、不安を取り除くこと

そして、本書と類書の最大の違いとして、単なる著者の経験則や事例ではなく、膨大なデータから上記の結論を導き出しており、信頼性が高いことが挙げられます。

マネジメントとリーダーシップに関する本を1冊だけ選べと言われたら、この本を選びます。優れたマネジメントを行うためには、部下一人ひとりの才能やスキル、経験などを観察した上で、一人ひとりが成功できるプランを立てることが必要です。決して、部下全員をひとまとめにして考えたり、自分の持論を押し付けるということはしません。

そして、そのプランをもとに、部下への期待をはっきりと伝えることです。ここを苦手としているマネジャーは多いのではないでしょうか。本書によれば、職場で何を期待されているかを理解している従業員は50%にも満たないそうです。また、優れたリーダーシップを発揮するには、明確さが重要です。

未来は不透明なものですが、そんな中でも自分はどんな未来を創り出したいと思っているのか、そのために自社はどうなっていくことが必要なのか?これらのビジョンをありありと描くことがリーダーに求められることです。自分のやり方に迷いがある、リーダーやマネジャーの育成に悩んでいる、そんな時にこそ、手に取っていただきたい1冊です。

③ 組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学

詳細
タイトル 組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学
著者 加藤洋平
出版年 2016年
出版社 日本能率協会マネジメントセンター

本書を読むと、「自分のこだわりが強くて、ついマイクロマネジメントをしてしまう」「自分の仕事を進めるスキルには長けているが、部下育成は苦手」など、経営者の方の手を焼いてしまう管理職がおり、そういった管理職にどう対応していいかわからないという状態から「手を焼く管理職の方が、どのポイントで躓いており、どうすればそれを乗り越えられるのか」がわかる状態になります。

本書は、「成人発達理論」の知見を応用し、人の物事の捉え方がどのように成長していくのかが紹介されています。成人発達理論とは、人の内面の意識が、一生を通じて成長・発達を遂げるという考えに基づいていて、人や組織の成長や変容に活用することのできる理論です。

上記のような手を焼くマネジャーの方は、知識やスキルが足りないのではなく、意識や捉え方に問題を抱えているケースが多くあります。本書は、そういった意識や捉え方がどのように形成されるのか、どのように変容していくのか?について触れています。

具体的には成人以降の発達段階は、

「道具主義的段階」
「他者依存段階」
「自己主導段階」
「自己変容・相互発達段階」

の4つがあると言われています。

「道具主義的段階」とは、人を道具のように捉え、自分の欲求を満たす存在として扱う人のことを言います。この段階にいる人は、世界は自分にとって危険な場所だ、という認知のもと、自分の欲求を満たしてくれる人は味方、そうでない人は敵と見てしまいます。

そのため、利己的な振る舞いや印象が目立つのが特徴です。この段階にいるマネジャーの方は、さほど多くないと思いますが、自分の出世第一主義で、周りのことはどうでもいいと考えているような方は、道具主義的段階の可能性があります。

「他者依存段階」は「道具主義的段階」とは異なり、相手の視点を想像したり、イメージすることができるようになります。そのため、集団の中にうまく溶け込んだり、チームの一員として動くことができるようになります。一方で、チームから出て、独自性を発揮するという点には抵抗が残ります。

よって、リーダーシップを発揮したり、これまでの枠組みを大きく変えるというようなことは難しいことがあります。ビジョンがない、上からの指示はしっかりこなすが、リーダーシップには欠けるといった管理職の方は、他者依存段階の可能性があります。

「自己主導段階」は、独自の考えやビジョンを打ち出して、リーダーシップを発揮することができるようになります。一方で、リーダーシップが強すぎるあまりに、周りが誰もついてこれない、疲弊する、などの現象も見られるようになります。個人としてのパフォーマンスは高いが、部下がついてこない、辞めてしまうなどの場合は、自己主導段階にあるのかもしれません。

最後の「自己変容・相互発達段階」は、大きくものの捉え方が変わる段階で、例えば、一見自分には関係のないように思われるトラブルや問題が起こった際にも、それは自分の変容にどう影響するのか?と、自分と繋げて考えることのできる段階です。また、相手を変えようとするのではなく、自分の変化を通じて、周りに変化をもたらすことのできるようになるコミュニケーションができる段階でもあります。

この段階にいる人は、全人口の1%未満と言われており、決して多くいるわけではありませんが、高度なリーダーシップやマネジメントが行える人の意識や捉え方を学ぶ上では、理解を深めておきたいところです。

本書では、それぞれの段階が持つ、可能性と限界、次の段階に向かうために必要なことなどがわかりやすく紹介されています。マネジャーが育たない、リーダー候補となる人材が出てこないなどでお悩みの経営者に読んでいただきたいです。

④ なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践

詳細
タイトル なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践
著者 池村千秋
出版年 2013年
出版社 英治出版

本書を読むことで、「スムーズに変われる人や組織とそうでない人や組織に分かれる理由がよくわからない」という状態から「スムーズに変化を遂げていく人と組織にはどんな特徴があるのか」を理解できる状態になります。

本書も「成人発達理論」における知見を元に書かれています。
管理職は、成長のプロセスで知識やスキルだけでなく、自分の価値観の転換が迫られることがあります。

「ずっと自分のスキルで成果を出していたところを、敢えて自分を抑えて、部下を通して成果を上げなければならない」
「短期的には苦しい思いをしても、仕組みを整えることを優先させなければならない」
など、これまでは成功してきた考え方を変えざるを得ない場面があります。

しかし、人や組織には、現状を維持したいというメカニズムがあると言われています。そのため「変わりたい」「変わろう」と思っても、思うように変わっていかないことが起こります。特に、自分の価値観や信念に触れるテーマになると、その抵抗はより大きくなります。

では、なぜ現状を維持したくなるのか?それは変化することへの恐れがあるからだと言われています。

本書では、人が現状を維持し、行動を起こさなくなるメカニズムを「免疫マップ」としてまとめ、「免疫マップ」を作ることで、なぜ自分が現状を維持したくなるのかを深く理解することで、動けなくなる原因や解決方法を見つけ出すことができます。

「免疫マップ」はこのように活用します。

① 自分が達成したいと思う目標
② 目標を達成するのを止めてしまう自分が取っている行動
③ ②の行動が止められない理由や本音(裏の目標)

具体的には
① 今期の目標を達成したい
② ついつい、部下にこうするべきだと指図してしまって、部下のやる気を奪っている
③ なんだかんだいって、自分の考えが正しいと思っているから

というようなものです。

このケースの際には、「今期の目標を達成したい」ということと「自分の考えが正しくありたい」を両方とも実現したいと思っているということになります。目標を達成するには、部下のやる気をもっと引き出してあげたい、でも、自分の考えが正しいことも示したい、この両者の葛藤が、物事を前進させないのです。

この際に有効なのは、「自分が正しくありたい」という本音を認め、許すことです。この本音に気づいていないと、本音が暴走し、自分でコントロールできなくなります。

しかし、本音があることに気づき、「そんな自分もいるんだ。いてもいいんだ」と自分を許せると、本音の暴走が止まり、「あ、いま正しくあろうとした!」と気づけるようになってきて、だんだんと裏の目標に支配されにくくなります。

これが、自分の捉え方や信念を変えていくことになり、結果として、変わりたい方向に変わりやすくなっていきます。

「自分でも良くないこととわかっていてもついやってしまう」
「管理職にはずっとフィードバックをしているが、なかなか変化が見られない」
などでお悩みの経営者の方に読んでいただきたい本です。

⑤ 他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論

詳細
タイトル 他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論
著者 宇田川元一
出版年 2019年
出版社 ニューズピックス

本書を読むことで、「いつも人の問題で悩まされる」という状態から「人の問題を解決していくための秘訣がわかった」という状態に変わることができます。

管理職には「人を通して成果を出す」ことが求められ、管理職としてパフォーマンスを出すには、上司、他部署のメンバー、自部署の部下など、多様な価値観を持つ人との協働や、人と人との間に起きる問題を解決するスキルが必要になります。

しかし、このような人や組織との関係性の中で起きる問題を解決する方法を学んできている管理職の方は、あまり多くいません。そのため「結局わかりあえない」として、問題が複雑化してしまいやすいのです。

本書は、上記のような複雑化した問題を解決するには「対話」が必要だと述べています。対話とは、「新しい関係性を構築すること」であり、そのためにはお互いのナラティブ(解釈の枠組み)に橋を架けていくことが重要だと述べています。

この「橋を架けていくプロセス」には

①準備
②観察
③解釈
④介入

の4つがあると紹介されています。

①準備は「溝があることに気づく」ことです。この時点ではまず気づくことが重要です。

②観察は「相手の行動や言動を観る」ことです。この時点でもまだ相手に働きかけるのではなく、相手を観察することに留めます。

③解釈は「相手から見たら自分がどう見えるのか?」を想像し、自分と相手の捉え方に橋を架けていきます。ここでのポイントは、自分から相手がどう見えるか、ではなく、相手から自分を見たらどう見えるのか?と向ける矢印を逆にすることです。

④介入は、③の解釈を相手に伝えると共に、相手からの反応を受け取ることです。ここでのポイントは、自分の正しさを押し付けるのではなく、自分からはこう見えるが、それについてはどう感じるか?と自分の正しさを脇において、共通して見えることを見つけていくことです。

このプロセスを重ねていくと、自分一人でも、相手だけでも見つからなかった解にたどり着き、問題が解決していくことが起こりやすくなります。また、このプロセスの中で、多様な視点が身に付き、物事の捉え方を広げることにも繋がります。

「管理職に自分の考えが伝わらない」
「管理職が人の問題でいつも悩んでいる」
そんな経営者の方におすすめの本です。

4)社員の成長のために経営者自身が読むべき本5選~社員が仕事に対してワクワクするために~

①フロー体験 喜びの現象学

詳細
タイトル フロー体験 喜びの現象学
著者 M.チクセントミハイ
出版年 1996年
出版社 世界思想社

本書を読むことで、「みんながイキイキと働く組織をつくるための方法がわからない」という状態から「みんながイキイキと働き、業績も高まる組織のつくり方がわかった」という状態になることができます。

経営者の仕事は、業績を上げることもさることながら、そこで働く一人ひとりが、健全かつ、最大限にパフォーマンスを発揮できる環境を作ることだとも言えます。

本書は、人が充実感に満ち溢れていて、パフォーマンスも高い状態を「フロー状態」として、どうすればフロー状態が作れるのかを紹介しています。

具体的には、フロー状態に入るには、以下の5つの条件が整うことが必要です。

① 目標を設定するとともに、その目標を達成するための具体的な目標を設定する
② 目標に向けた変化が見えるようにすること
③ 目標に向かいたくなる、やりたくなるちょうど良いレベルのアクションを考え、実行する
④ 同じアクションを繰り返すのではなく、日々アクションを調整していく
⑤ 取り組みに飽きが出てきたら、難易度を上げる、取り組み内容を変えるなど、変化を持たせる

あくまでフロー状態は結果であり、フローを起こすことだけに捉われるのではなく、フロー状態が起こりやすくなる環境を整えることが大切です。また、フロー状態に必要なのは、外から条件を整えることではなく、自分で環境を整えていくことだと言われています。

そういった意味では、経営者だけがフロー状態を作るというより、メンバー一人ひとりが、それぞれのフロー状態を作れるような環境を創ることが、フロー状態を組織の中で広げていくには重要となります。業績向上だけではなく、社員の成長、働きがいも高めていきたい、さらに、社員一人ひとりがそんな環境を自ら創れるようになってほしい、そんな想いや願いのある経営者の方には、強くおすすめしたい本です。

② 恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす

詳細
タイトル 恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
著者 エイミー・C・エドモンドソン
出版年 2021年
出版社 英治出版

本書を読むことで、「メンバーが自発的に学習、成長を遂げる組織のつくり方がわからない」という状態から「メンバーが自発的に学習する、成長する組織をどのようにつくればいいのかがわかった」という状態になれます。

社員が成長するためには、失敗を恐れず、新たな機会に挑戦していくことが必要ですが、組織の中に恐れが蔓延していると
「失敗したらどうしよう」
「周りから批判されたらどうしよう」
など、挑戦が止まってしまうことがあります。

本書では「リスクを取って、新しい挑戦ができる環境」のことを「心理的安全性の高い環境」とし、心理的安全性を高めるための要素が紹介されています。

心理的安全性を高めるためには、以下の3つが重要だとされています。

① 土台をつくる
② 参加を求める
③ 生産的に対応する

「①土台をつくる」とは、仕事環境や価値観を整えることを指します。例えば、何をやれば良いのか、手順やポイントが明確になっていない仕事は、何が正しくて何が間違っているのかの判断ができず、挑戦する気持ちを削いでしまいます。

また、価値観を整えるとは、例えば「失敗」を何と考えるか、などに関する認識をそろえることです。本書の中では「高い業績を残す人は失敗しない」を「高い業績を挙げる人は失敗をして、失敗を活かす」と捉えなおすことを推奨しています。どれだけ心理的安全性を高めようとしても、基礎がしっかりしていないと、何をやってもうまくいきません。

「②参加を求める」は、ただ、リーダーがメンバーに一方的に指示命令するのではなく、メンバーが活動に参加するように促したり、環境を整えることです。

例えば、指示をするのではなく、ゴールを示した上で「そのゴールに向かうためにはどうするのが良いと思う?」と問いかけるなどが「参加を求める」のイメージです。

「③生産的に対応する」は良いこと・望ましいことは評価する、望ましくない場合はフィードバックをするなど、何が組織にとって望ましくて、何が望ましくないのか?を誰でもわかるようにすることです。人や状況によって言うことを変える、などではなく、この時はこの基準と統一できれば、誰でもそこに向かって行動することができます。しかし、この基準が曖昧だと、状況や人によって言うことが変わり、安心して仕事に取り組むことができなくなってしまいます。

そして、組織の心理的安全性にとって影響力が高いのが、その組織のトップであると言われています。 だからこそ、経営者こそ誰かに心理的安全性を高めてもらうことを期待するのではなく、率先して心理的安全性を高めるように働きかけることが必要なのです。

いきなり会社全体の心理的安全性を扱うのではなく、経営チームの中から心理的安全性を高めても良いでしょう。経営チームの中で心理的安全性が育まれれば、その影響はメンバーにも広がっていきます。

【参考コラム】心理的安全性研修のゴールは何?|企画から実施方法まで詳しく解説!

③ 組織は変われるか――経営トップから始まる「組織開発」

詳細
タイトル 組織は変われるか――経営トップから始まる「組織開発」
著者 加藤雅則
出版年 2017年
出版社 英治出版

本書を読むことで、「組織が大きくなっていく中で、組織のポテンシャルを最大限引き出すための方法がわからない」という状態から「組織がたとえ大きくなっていったとしても、組織のポテンシャルを引き出し続ける方法がわかった」という状態になります。

会社が大きくなるに従って、経営トップの頑張りだけでは、会社を成長させることは困難です。組織にいる一人ひとりの力を結集させ、出せる能力を最大化していくことが求められます。その取り組みのことを、本書では「組織開発」として、推進役となるリーダーが経営トップに働きかけ、現場の管理職に至る各層と対話を重ね、一人ひとりのコミットメントを生み出す活動と定義しています。

本書は、組織開発を推進するリーダー向けに書かれています。そのため、必ずしも経営者が読むべき本ではないかもしれません。しかし、もし組織の変革を起こしたいと経営者が考えているのであれば、本書を読むとそのスピードはさらに高められると考えています。なぜなら、経営者だけで会社を変えることは極めて困難だからです。

では、どうすれば一人ひとりの力を結集することができるのか、その進め方や方法が、本書では詳しく紹介されています。「組織開発」のプロセスでは、無意識のうちに信じている前提や習慣にメスを入れ、見直していくことが大切です。そのために、以下の3つの要素が重要だと、本書では述べています。

① 経営トップから始める
② 各層のコンセンサス
③ 当事者主体

「①経営トップから始める」は、組織開発の最初のポイントです。組織の無意識下にある前提や習慣を見直す際には、現状の否定が必要なことがあります。その際には、トップ自らが、現状を否定することにリーダーシップを示さないと、周りもリスクを取ることができません。トップは本気なんだと周りに示すことが、組織開発のエンジンにもなります。

「②各層のコンセンサス」は経営トップのコミットメントが、役員、部長層、課長層など、下の層にも広がっていくことを指します。本書ではコミットメントを広げていくとして「対話」を推奨しており「智慧の車座」として体系化しています。

「③当事者主体」は①、②の取り組みを重ねていくことで育まれてくるものです。組織を変えていくことは現状を変えていくことと等しく、当初は痛みが伴ったり、現状否定の要素が含まれたりします。そのような環境の中では「言われたからやる」という受け身の態度ではなく「誰にどう言われても自分がやりたいからやる」と当事者意識を持った関わりが求められます。この姿勢を組織全体に育んでいけるかが、組織開発の成否を分けます。

既存の組織の慣習を変えていきたい、自社を大きく変えていくことが望まれている、そんなタイミングで手に取っていただきたい1冊です。

④ なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる

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タイトル なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる
著者 ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー
出版年 2017年
出版社 英治出版

本書を読むことで、「組織の一人ひとりが成果を出しつつ、人間的にも成長していける組織をどのように作っていけばよいかわからない」という状態から「業績と人間的な成長を両立させていける組織のつくり方がわかった」という状態になれます。

確実な正解を見つけることが難しくなった今、組織全員でトライ&エラーを繰り返しながら、会社を経営していく重要性が高まっています。その際には、成功している姿だけを見せるのではなく、経営者自らがチャレンジしている姿や、時には失敗している姿を見せることが、メンバーの挑戦への意欲を引き出したり、失敗への恐れを軽減することにつながります。そういった意味でも「弱さを見せあえる組織」がつくれると、自然と社員が成長する環境となっていきます。

本書はその名の通り「弱さを見せあえる組織」がなぜ、いま重要なのか?どうやって「弱さを見せあえる組織」をつくっていくのか?を紹介しています。
また、この本は「なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践」の続編にあたり、内容にも関連があるので、併せて読んで、理解を深めることをおすすめしています。

さて、では「弱さを見せあえる組織」をつくるにはどうしたら良いのでしょうか? ポイントは大きく3つあります。

①ホーム
②エッジ
③グルーヴ

「①ホーム」とは、成長をサポートする場や環境のことです。成長するためには、新しいことへの挑戦が不可欠です。その際には失敗も伴います。失敗した時に、ただ非難するのではなく、挑戦を賞賛したうえで、次に繋げるための新しい挑戦や捉え方を生み出す場のことです。心理的安全性の高い組織とも言い換えられるかもしれません。

「②エッジ」とは、成長への意欲を生み出す組織風土を指します。現状維持ではなく、さらなる成長を目指す風土や考え方を浸透させていくことが「エッジ」に繋がっていきます。組織においては、魅力的なビジョンや目標をつくることも、「エッジ」として機能します。

「③グルーヴ」とは、成長を促す習慣のことです。例えば、心理的安全性を高めるための1on1を行う、一人ひとりのビジョンを育むための対話を行う、成長課題を定めるなどの習慣や仕組みがグルーヴになります。グルーヴにおいて大切なことは、能力やスキルだけでなく、捉え方やマインドセットなど、人の内面も含めてマネジメントすることです。

一人ひとりの内面の成長を、組織全体の成長に繋げていきたいとお考えの経営者の方にとって大きなヒントが得られる1冊です。

⑤ ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件

詳細
タイトル ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件
著者 楠木建
出版年 2011年
出版社 東洋経済新報社

本書を読むことで、「常に頑張り続けないと今のビジネスや組織が維持できない」状態から「やればやるほど成長していき、かつメンバーのベクトルも一つになっていく」状態へと変えるための方法を理解することができます。

先ほど「エッジ」として魅力的なビジョンや目標を作ることが機能するとご紹介しました。その魅力的なビジョンや目標を作るために参考となるのが「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」です。

本書では「優れた戦略というものは、ストーリー(物語)のように作られていて、思わず人に話したくなるような魅力的なものである」という主張がされています。本書によれば、優れた戦略は、SP(Strategic Positioning)とOC(Organizational Capability)の2つを巧みに結び付けているものです。

・SP(Strategic Positioning)とは

「ポジショニング」になります。どの業界を選ぶのか?高品質高価格戦略を選ぶのか?低コスト低価格戦略を選ぶのか?などの選択の違いを指します。

・OC(Organizational Capability)とは
「組織能力」のことで、組織のパフォーマンスを生み出す能力やスキルのことです。OCで有名なのは「トヨタ生産方式」です。

この2つの意味合いや違いを理解して、両者のつながりを意識して戦略ストーリーを組み立てることが重要だ、というのが本書の主張です。

では、戦略ストーリーをつくるためには何が必要なのでしょうか? 本書によれば5つの要素(5C)が重要であると言われています。

① 競争優位(Competitive Advantage)
② コンセプト(Concept)
③ 構成要素(Components)
④ クリティカル・コア(Critical Core)
⑤ 一貫性(Consistency)

「①競争優位(Competitive Advantage)」は競争優位を生み出す最終的な論理のことです。いわば、ストーリーの骨子と言い換えられるかもしれません。

「②コンセプト(Concept)」は顧客価値を表すワンワードのことです。本書では、スターバックスの「サードプレイス(第三の場所)」がコンセプトの例として紹介されています。

「③構成要素(Components)」は特に、競合他社とのSPやOC上の違いを表す要素です。例えば高級車を扱うのか?大衆車を扱うのか?というような違いです。

「④クリティカル・コア(Critical Core)」は構成要素をつないだ結果、生み出される中核となる要素です。本書では「キラーパス」という言葉で紹介されています。スターバックスでは「直営方式による店舗運営」がクリティカル・コアとして紹介されています。

クリティカル・コアで重要なことは、一見非合理であるが、実は価値に繋がる要素の有無です。例えば、直営形式は、手間とコストが掛かる形式であり、スターバックスの競合他社の多くはフランチャイズ形式を採用しています。しかし、他の要素と組み合わせていくと、実は直営形式こそが価値に結びつくことがわかるのです。他社からすると、マネをしようとそもそも思わない、そんな風に感じさせるものがクリティカル・コアです。

このように謎解きのような要素も含まれるのが、ストーリーとしての競争戦略の面白さにもなります。

「⑤一貫性(Consistency)」は①~④の要素をつなぐ因果論理(~だから、こうなる)です。各要素が因果で繋がっているとき、それはストーリーになっていると言えます。逆に繋がりが曖昧なときはストーリーになっておらず、ビジネスの結果は偶然の産物であるとも言えます。

経営者の重要な役割は「魅力的な戦略ストーリーをつくること」であるとも考えています。魅力的なストーリーがあれば、社員は自発的に動き出しますし、事業も成長していきます。

社員の自発性を引き出したい、社員に楽しく仕事をしてほしい、そんなことをお考えの経営者の方におすすめしたい1冊です。

5)【参考】経営者が自身の人生を豊かにするための本5選~ワークライフインテグレーションの実現のために~

① 幸福の習慣

詳細
タイトル 幸福の習慣
著者 トム・ラス , ジム・ハーター
出版年 2011年
出版社 ディスカヴァー・トゥエンティワン

本書を読むことで、「経済的な幸福は達成した。でも、人生全体での幸福感はあまり感じられていない」状態から「経済的な面に加えて、人生全体の充実感・幸せを高めていくための方法がわかった」という状態になることができます。

経営者は会社をより良くすることだけが人生の目的ではないと私たちは考えています。会社が良くなっていく前提として、経営者の人生全体がより良くなっていくことが重要であると考えています。

では、人生全体が良くなるには、どんな要素が大切なのでしょうか?本書では、世界150か国に渡る、地域や人種の違いを超えた普遍的な要素として、以下の5つの要素が挙げられています。

① 仕事の幸福
② 人間関係の幸福
③ 経済的な幸福
④ 身体的な幸福
⑤ 地域社会の幸福

「①仕事の幸福」は情熱を持ったことに取り組んでいるか?を指します。収入が高い仕事、社会的意義が高い仕事が、直接的に仕事の幸福に結び付くわけではなく、自分が情熱が持てる仕事に取り組んでいるかが大事だということです。

なお、仕事の幸福を高めるには以下の3つが有効だと本書では紹介されています。

・自分の強みを毎日活かせるように仕事を組み立てる
・自分の成長を応援してくれる人を見つけ、その人に自分の目標を伝えて、サポートしてもらう
・職場の仲間、チームメンバーと一緒に楽しむ時間を持ち、お互いに相手に関心を持って知ろうと努める

「②人間関係の幸福」は、周囲の人を幸福にするような働きかけをすると高まると言われています。また、毎日6時間以上、他者とコミュニケーションを取ると、人間関係における幸福度が高まると言われています。これにはメールなどのコミュニケーションも含まれるので、必ずしも対面で6時間以上、人と接しなければならないというわけではありません。

「③経済的な幸福」は自分の収入と支出を自分で決めてコントロールできており、「何か欲しいものがあったら買えるし、やりたいことがあったらできる」と感じていることを指します。必ずしも収入が高いことを指すものではないことには注意が必要です。

「④身体的な幸福」は心身が健康であることです。具体的には食事と定期的な運動、睡眠がとても大切な役割を担っていると書かれています。

「⑤地域社会の幸福」は、自分が所属するコミュニティや人のためになることを行い、繋がりをつくることです。①~④が高くとも、それが幸福に必ずしも繋がらないことが本書によって明らかになり、それがなぜか?を調査した結果、判明したのが、この地域社会の幸福だったのです。

私たちは経営者自身の幸福度は、会社の幸福度にも強く関係していると考えています。ぜひ皆さん自身の幸福を高めるために何ができるのか?という観点で本書を読んでいただきたいです。

② ゆっくり、いそげ 〜カフェからはじめる人を手段化しない経済

詳細
タイトル ゆっくり、いそげ 〜カフェからはじめる人を手段化しない経済
著者 影山知明
出版年 2015年
出版社 大和書房

本書を読むことで、「単に経済的な利益を追い求めるだけの経営を行う」という状態から「経済的な利益も実現しつつ、人と人としての繋がりも育んでいくビジネスや組織のつくり方がわかった」という状態になることができます。

常に会社を成長させないといけない、成長させるもの、でも、どこかに虚しさや焦燥感を感じる、そのような経営者の方もいらっしゃるのではないかと思います。本書の著者である影山氏は、マッキンゼー出身でありながら、ビジネスの最前線にいた時の違和感をきっかけに東京の西国分寺駅の近くに「クルミドコーヒー」というカフェを経営している方です。

成長を模索しないわけではない、でも、成長だけに捉われるわけでもない、そのような経営哲学がファンを生み、独自のポジションを築くに至っています。本書では、そんな影山氏が育んできた経営哲学を体験を元に紹介されています。

影山氏のビジネスにおける考えとして「消費者的な人格」を刺激すると、消費者的な利用する・されるという反応が返ってくる、逆に「受贈者的な人格」を刺激すると、受贈者として、お互いにギブしあう反応が返ってくると述べています。そして、いまの多くのビジネスは「消費者的な人格」を刺激するものが多く、いま求められているのは「受贈者的な人格」を呼び起こすビジネスであるとし、その実践の場として「クルミドコーヒー」を経営しています。

例えば、クルミドコーヒーの中では、お金を支払うことなく、くるみを自由に食べられます。お金を支払う必要はないので、お客さんは食べようと思えばいくらでもくるみを食べられます。

しかし、影山氏が言うには、想定以上にくるみが減ることはあまりないそうです。逆にくるみの減りが激しい時には「消費者的な人格」を刺激しているのかも?と経営を振り返る材料にしているそうです。ここまで紹介したことをキレイごとだと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、クルミドコーヒーはコロナ禍も乗り越え、いまも経営を続けています。

「ビジネスの本質とは何か?」
「本当に会社に必要な成長とは何か?」
など、経営について改めて考えてみたいと感じた際にぜひ手に取っていただきたい本です。

③ ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

詳細
タイトル ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す
著者 山口周
出版年 2020年
出版社 プレジデント社

本書を読むことで、「今のビジネスのあり方にはどこか違和感を感じているけれど、どこを変えていけばいいのかわからない」という状態から「感じていた違和感がクリアになり、何にアプローチすればいいのかがわかった」という状態になります。

本書は「ビジネスのミッションは既に達成されたのではないか?」との問題意識から書かれている本です。
「物質的欲求を満たすこと」「経済的成長を実現すること」は既に大部分が達成されており、その2つを使命とするビジネスは終焉を迎えている、というのが著者である山口氏の主張です。

これから求められるのは「物質的欲求を満たすこと」「経済的成長」ではなく、これまでのビジネスでは解決の難しかった社会課題を解決すること、意味の充足を満たすことだと筆者は言います。そのためには、「便利で快適な世界」を「生きるに値する世界」へと変えていくことが必要で、そのためには「経済性」を基軸にした価値観から、「人間性」を基軸にした価値観が求められる、それが本書のメッセージです。

山口氏は、こういった転換を生み出すためには以下の3つが必要だと述べています。

① 成長ではなく「衝動」を軸に生きる
② 応援したいモノ・コトを応援することにリソース(お金・時間)を使う
③ ユニバーサル・ベーシック・インカムの導入

この中で③は経営者が変えることは難しいと思いますが、①・②に取り組むことはできると思います。経済的価値も重要である、しかし、それだけがビジネスの価値ではないと思う、そんなことをお考えの経営者の方にとって、本書は経営そのものだけでなく、ご自身の生き方を見つめなおす1冊になるはずです。

④ 本当の自分を生きる: 人生の新しい可能性をひらく8つのキーメッセージ

詳細
タイトル 本当の自分を生きる: 人生の新しい可能性をひらく8つのキーメッセージ
著者 榎本英剛
出版年 2017年
出版社 春秋社

本書を読むことで、「ビジネスパーソンとしては一定の成功を収めた。でも、どこか満たされない思いを感じる」状態から「真に自分を生きて、人生を充実させるためには何が必要かがわかった」という状態になります。

本書は、日本のコーチングの第1人者である榎本英剛氏が、真の自分らしい人生を生きるために必要なことを、自身の経験をもとに紹介しています。

仕事や会社だけに捉われるのではなく、人生全体に充実させるために大切なメッセージが数多く紹介されています。仕事や会社はうまく行っているけれど、人生に充実感が感じられない、もっと自分はやれると思うが、どこに情熱を向けていいかわからない、そんな方に読んでいただきたい本です。

榎本氏が本当の自分を生きるうえで大切にされてきたことを、以下の8つのメッセージにまとめ、エピソードと共に紹介しています。

① 理由なく自分の中から湧いてくる「内なる声」は天からの贈りもの
② シンクロニシティはその人が進むべき道を指し示す道しるべ
③ 流れに乗ると、思いがけない形で人生の扉が開かれる
④ 人生で起こることには、すべて意味がある
⑤ 正しい答えを求めるより、正しい問いを持つことが人生を豊かにする
⑥ 人は誰しも、何らかの目的を持って生まれてくる
⑦ 理由があるから行動するのではなく、行動するから理由がわかる
⑧ これまでやってきたことは、すべてこれからやることの準備である

その中でも、榎本氏が本当の自分を生きるうえで大切にしてきたことの一つに「問い」があります。
榎本氏の人生の節目の中で、自分の内側から「問い」が湧いてくることがあると著書の中で話されています。

著書の中でも紹介されていますが、榎本氏はコーチングを日本に持ち込んだ第1人者であり、経営者でありながら、湧きあがる「問い」から来るインスピレーションにより、その地位を手放し、新たな活動を立ち上げられました。

「問い」が自分の人生に何をもたらすのか?何のためにあるのか?最初はわからないこともあるそうです。しかし、その「問い」に導かされるように生き方を選択していくと、あとからその意味がわかってくる、という体験を何度もされています。収入、安定、地位など、わかっていても手放すのが惜しいものを、榎本氏は何度も自分の意思で手放す体験をされています。

ビジネスに成功するための本は数多くありますが、自分が真に自分らしい人生を生きるために必要なことを紹介している良質な本はさほど多くありません。本書はその数少ない1冊と言えます。社員だけでなく、自身の人生を充実させるという観点において、ぜひ読んでいただきたいです。

⑤ 英雄の旅 ヒーローズ・ジャーニー 12のアーキタイプを知り、人生と世界を変える

詳細
タイトル 英雄の旅 ヒーローズ・ジャーニー 12のアーキタイプを知り、人生と世界を変える
著者 キャロル・S. ピアソン、 鏡リュウジ
出版年 2013年
出版社 実務教育出版

本書を読むことで、「何だか自分の人生が停滞しているように感じるが、どうすればいいのかがわからない」という状態から「自分が今いる人生のフェーズが理解でき、人生に次の展開を呼び込むために必要なことがわかった」という状態になります。

最後にご紹介するのは「英雄の旅 ヒーローズ・ジャーニー 12のアーキタイプを知り、人生と世界を変える」です。この本はビジネス書ではありません。人が大きく変容していく際にはどんなことが起こり、どんな変容を遂げるのか?そのプロセスには普遍的な共通項があるとして、各プロセスで何が起こるのか?を数多くの事例や物語を通じて、解説されています。

経営コンサルタントの神田昌典氏が、一定の成功を収めた後、今後のキャリアを再考するために参考にした書籍として有名です。本書の土台となっている「ヒーローズ・ジャーニー」とは、アメリカの神話学者であるジョーゼフ・キャンベルが、世界中のあらゆる文明の神話を研究した結果、共通項となる流れを発見し、その一連の流れを体系化したものです。

本研究は、ハリウッド映画や数多くの小説にも応用され、世界中で活用されています。
この共通した流れは大きく8つのパートに分かれます。

① 天命に出会う
② 旅が始まる
③ 引き返せない地点にたどり着く
④ メンターとの出会い
⑤ 敵との対決
⑥ 進化・変容
⑦ 旅を完了する
⑧ 故郷へ帰る

「①天命に出会う」は、何らかの予期せぬ啓示を受けたり、使命を与えられることを意味します。人生の中ではあまり実感がないかもしれませんが、予期せぬ出会いや、想定外に訪れた機会などに遭遇された体験のある方は少なくないのではと思います。

「②旅が始まる」は、その啓示や使命に従い、歩み始めることです。ただしこの時点では、何のための旅なのか?何がゴールなのか?は曖昧なことも多く、まず、一歩を歩み始めるぐらいの感覚です。

「③引き返せない地点にたどり着く」は、物語などでは「橋が落ちる」など、引き返したくても引き返せなくなることを指します。人生の中でも例えば、入学する学校を決める、会社に入る、留学を決める、など、もうあとには引けないという体験があると思います。

「④メンターとの出会い」は苦難の旅を続ける中で、知恵を授けてくれる存在との出会いを指します。物語では、賢者との出会いなどで描かれます。スターウォーズにおけるヨーダが、メンターにあたります。人生の中では、人に限らず、本などの場合もあるかもしれません。いずれにせよ、困難な状況を切り開くための知恵となる存在です。

「⑤敵との対決」は旅を続ける中で、対峙しなければならない敵が現れることを指します。この敵は、何か目に見える具体的な事象である場合もありますし、自分の内面に巣くう敵(これまで培ってきた信念や思い込み)であることもあります。ここまでの旅、メンターとの出会いは、すべてこの敵との対決のために用意されたものでもあります。

「⑥進化・変容」は敵との対決の末、敵に打ち勝ち、その結果として、それまでの自分から大きく変容を遂げることを指します。映画や物語の中では、聖杯などのキーアイテムを手に入れるなどとして描かれることがあります。

「⑦旅を完了する」とは、旅の目的を実現し、旅を終えることを指します。

「⑧故郷へ帰る」とは、主人公がもといた場所に帰ることを意味します。しかし、帰る場所は同じでも、主人公の内面は大きく変容を遂げています。そのため、一見同じ景色を見ながらも、内面では大きな変化が起きています。物語のエンディングでもよく描かれます。

ここまで読んで頂いた中で、ご自身の人生にも似たような体験があると思われた方はいらっしゃるのではないでしょうか。「ヒーローズ・ジャーニー」は変化の普遍的なプロセスを描いたものなので、自分の人生に当てはめても、何らか共通点が見つかることは珍しくありません。

ご自身の人生の中で、今どんなフェーズにいるのか?この次にはどんな展開が待っているのか?本書を読むと、これからの人生の流れが見えてくるかもしれません。

6)まとめ

以上、経営者が自分と組織を成長させたいと思った時にオススメの本25選を紹介しました。 【経営者が自分と組織を成長させたいと思った時にオススメの25選】

テーマ 書籍
経営者自身の成長のために読むべき本5選 成長する組織とリーダーのつくり方
シンクロニシティ[増補改訂版]――未来をつくるリーダーシップ
行動探求―― 個人・チーム・組織の変容をもたらすリーダーシップ
未来を変えるためにほんとうに必要なこと――最善の道を見出す技術
論語と算盤
組織の成長のために経営者自身が読むべき本5選 場のマネジメント
学習する組織
実務でつかむティール組織
偉大な組織の最小抵抗経路 リーダーのための組織デザイン法則
すべては1人から始まる――ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力
管理職の成長のために経営者自身が読むべき本5選 シェアド・リーダーシップ-チーム全員の影響力が職場を強くする
最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと
組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学
なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践
他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論
社員の成長のために経営者自身が読むべき本5選 フロー体験 喜びの現象学
恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
組織は変われるか――経営トップから始まる「組織開発」
なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる
ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件
【参考】経営者が自身の人生を豊かにするための本5選 幸福の習慣
ゆっくり、いそげ 〜カフェからはじめる人を手段化しない経済
ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す
本当の自分を生きる: 人生の新しい可能性をひらく8つのキーメッセージ
英雄の旅 ヒーローズ・ジャーニー 12のアーキタイプを知り、人生と世界を変える

私たちは、単に会社をより良くする経営者になることではなく、ご自身の人生を充実させた上で、その結果の一つとして会社がより良くなっていくことが大切だと考えています。それが、経営者としての人生も豊かになっていくと考えています。

そのため、ビジネスを成長させる、利益を出すためだけの本ではなく、自分の人生といかに向き合うか、真に自分の生きたい人生を探求し、それを実現するにはどんなことが大事なのか?を深く考えられる本をあえて選びました。どの本も、人生を変えるだけのインパクトを持った本だと自信を持って言えます。

まずは、1冊でもいいので、手に取っていただき、皆さんのより充実した人生、そして経営の一助となれば幸いです。