【保存版】アンコンシャス・バイアス研修|「気づく」だけはNG!実践的な手法をご紹介

更新日:

作成日:2023.8.1

アンコンシャス・バイアス研修

近年、アンコンシャス・バイアス研修のニーズはとても高まっています。

その一方で、本研修への理解が薄いため、表面的な知識を知ったのみで、期待した変化が見られたなかったというお声もしばし耳にします。

そこで本コラムでは、筆者が2018年頃から数々のクライアントに支援した事例を通して、本当に効果のあるアンコンシャス・バイアス研修を実施するためのポイントを解説していきます。

【参考】アンコンシャス・バイアスとは
「無意識の偏見」と訳される「アンコンシャス・バイアス」。アンコンシャス・バイアス研修は、一人ひとりが持つ「無意識の偏見」に気付き、それによって引き起こされている問題を改善、防止するための行動変容の促進を目的としています。
アンコンシャス・バイアスは元々、ダイバーシティ&インクルージョン(※)の文脈の中で注目されてきた経緯があります。組織内での多様性が広がる中で、マイノリティが活躍できるようにと様々な施策を打っても、なかなか思うような成果に繋がらない理由として、「アンコンシャス・バイアス」が近年、注目を集めてきています。

※ ダイバーシティ&インクルージョン:ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(受容性)を合わせた言葉で、多様な人材を受け入れ、活かすことを指します。

このコラムで分かること

  • アンコンシャス・バイアス研修の基本概要
  • アンコンシャス・バイアス研修で重要な対象層の選定方法
  • アンコンシャス・バイアス研修を実施する際の注意点
執筆者プロフィール
朝生 容子
大学卒業後、NTT、グロービスに勤務後、キャリアコンサルタント、産業カウンセラーとして独立。働く人の相談に対応する中で感じた働きづらさ、生きづらさを改善するための環境改善のため、ダイバーシティ&インクルージョンをベースにした働き方のコンサルティングにも従事。

専門性:ダイバーシティ&インクルージョン、キャリア開発、女性活躍推進、コミュニケーション

目次


研修成功事例集

1. アンコンシャス・バイアス研修の4つの基本構成

アンコンシャス・バイアス研修の基本構成は、「知る」→「気づく」→「考える」→「対処する」の4ステップです。アンコンシャス・バイアスの重要性への理解を深め、具体的にどのような行動に繋げらよいかを段階的に考えます。各ステップについてそれぞれ説明します。

1-1. アンコンシャス・バイアスを「知る」

1ステップ目「知る」では、「無意識バイアスの存在や、作動の構造を知る」必要があります。アンコンシャス・バイアスがどういうものか、どのようなメカニズムで起こるのかを理解します。この後の研修で学ぶことへの興味を喚起し、行動する上での共通言語をインストールします。

「アンコンシャス(無意識)」なだけに言葉の説明だけではわかりにくいため、実際に受講者がアンコンシャス・バイアスを発動する演習を用い、体感することが非常に重要です。

さらにアンコンシャス・バイアスの種類についても学びます。150種類とも200種類ともいわれていますが、受講者の課題や研修目的とつながりのあるものを選び紹介します。
例えば、DE&I推進においてジェンダーギャップが課題であれば「性別役割認識」を、パワーハラスメントの撲滅が目的であれば「生存者バイアス」といった具合です。

ここでの注意点は、カテゴリーを厳密に覚えることが目的ではないということです。アンコンシャス・バイアスを改善する上での共通認識を作ることが最大の狙いです。アンコンシャス・バイアスの種類名を共通言語とすることで、何か問題が起こった時に、アンコンシャス・バイアスの観点からお互いに検討できるようになります。

(参考)アンコンシャス・バイアスの普及度合いに関して
「アンコンシャス・バイアス」という言葉は普及してきたとはいえ、2021年発表の内閣府の調査結果によると、まだ認知率は21,6%にとどまっています(令和3年度「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査結果」)。
したがって、この言葉がどういう意味か、理解してもらうことから始める必要があります。

1-2.アンコンシャス・バイアスに「気づく」 

2ステップ目「気づく」では、「自分たちや自組織のンコンシャス・バイアスに気づく、向き合う」必要があります。

自分や周囲の言動がアンコンシャス・バイアスによる影響を受けていないか、あるいは自組織の制度や規範がアンコンシャス・バイアスに基づいたものではないか、話し合いを通じて考察します。
その際、ケース(事例)教材を考察材料として用いることが有効です。アンコンシャス・バイアスは、自分にとっては当たり前で無自覚なだけに、気が付くのは難しい場合があります。モデルケースの考察を通じて、同様のことが自分たちにも該当しないか、客観的に把握していきます。

また、自社の事例を用いても、立場の異なる人同士が受講することで、自分のアンコンシャス・バイアスに気づくこともあります。異なる考えや価値観に触れることで、当たり前と思っていた考えが、必ずしも当たり前ではないことに気付くのです。

ケースや話し合いを通じて、徐々に自分や自組織のアンコンシャス・バイアスに気づき、当事者意識を喚起するのがこのパートです。

1-3. アンコンシャス・バイアスを「考える」

3ステップ目「考える」では、「バイアスが起こす問題や影響について考察する」必要があります。日常の中でどのように作動し、周囲や相手にどのような影響を与えているか考えてます。

「知る」「気づく」までは興味深く聞いていた受講者も、中には「自分はアンコンシャス・バイアスはない」と抵抗を示す人も出てきます。これまで“無意識”に行っていた言動が、職場の問題を引き起こしていたことに、多くの人が初めて向き合うことになり、それはなかなかハードなことだからです。だからこそ、講師のもと、一人ではなく、仲間とともに向き合うことが重要なのです。

アンコンシャス・バイアスの起こす問題として取り上げるのが、「マイクロアグレッション」です。「小さな攻撃」と訳すことができますが、相手に嫌な感情を引き起こす日常のちょっとした言動で、アンコンシャス・バイアスが投影されているものです。
さらに、「マイクロアグレッションの背景には、どういったアンコンシャス・バイアスがあるのか?」「メンバーや組織にどんな影響を及ぼしているか」などについて、話し合いを通じて考察します。

なお、マイクロアグレッションについては、後述の「ハラスメント対策」で詳しく説明します。組織のルールや仕組みについて決定権のある管理職や経営層向け研修の場合は、組織的なアンコンシャス・バイアスについても取り上げます。

1-4. アンコンシャス・バイアスの悪影響を無くすために「対処する」

最後の4ステップ目「対処する」では、「コミュケーション改善やバイアスを起こさない仕組み等、具体的な対策を検討、実行する」必要があります。
これまでの学びを研修後の着実な行動につなげていくのがこのパートです。ステップ3「考える」で明らかになったて問題を解決、防止するための対処方法について個人、もしくは組織の観点から考え、実行プランを策定します。

職場の状況を想定したロールプレイなどで実践イメージを描き、実行プランへ落とし込みます。
アンコンシャス・バイアスは長い間の習慣に根差したものが多く、それだけに容易には修正が難しいものです。研修の場でお互いに行動プランを共有することで、事後の継続的な取り組みを支えあう仲間意識を醸成することができます。

個人ベースでは、マイクロアグレッション(小さな攻撃)となる発言について、どのような言い方であれば、自分の言いたいことは伝えつつも「攻撃」にならないか、修正方法を考えます。
ここでは、相手も自分も尊重するとしてアサーティブ・コミュニケーションや感情のコントロール法など、具体的な効果に結び付くコミュニケーション手法を学び、ロールプレイなどで定着を目指します。

組織単位でのアンコンシャス・バイアス改善の取り組みについても、対処方法を考えたほうがよいでしょう。性別や年齢を示さずに行う「ブラインド・オーディション」など、アンコンシャス・バイアスを防止する組織の取り組み事例を紹介したうえで、お互いに話し合います。
話し合いを通じて、組織の課題とその解決の方向性について、受講者の中で共通認識を醸成していきます。

研修後には、アンコンシャス・バイアスへの意識や行動の変容について、アンケートなどの追跡調査を行います。「意識」を変えるのは一朝一夕では達成できません。継続的な取り組みにするためにも、こうした事後フォロー策は重要です。

このようにアンコンシャス・バイアスを学んで終わりではなく、「アンコンシャス・バイアスの悪影響をなくすため、対処する」までをゴールにします。

2.アンコンシャス・バイアス研修の3つの目的 

アンコンシャス・バイアス研修を導入する目的として代表的なものは、以下の3つです。

・DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進
・ハラスメント防止対策
・コミュニケーション円滑化

それぞれの目的にそって、アンコンシャス・バイアス研修の内容を説明します。

2-1. DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進)

まず、女性活躍推進などのマイノリティ当事者を対象とした研修や、女性社員や障害者や性的マイノリティへの理解促進を狙いとしたものなど、DE&Iに関する目的が挙げられます。

組織メンバーの中にあるアンコンシャス・バイアスに気付けないままでは、DE&I推進施策の成果は上がりません。そのため、まずはDE&I研修で、アンコンシャス・バイアスを取り扱うようになったのは自然なことでしょう。

最近では、管理職などパワーのあるマジョリティに対し、自分自身の持つアンコンシャス・バイアスを理解する研修も増えてきました。なぜならば、DE&Iの本当の実現には、意思決定権を持つマジョリティ側の関与が欠かせないからです。アンコンシャス・バイアス研修も、マジョリティを対象にあわせて行うことが重要なのです。

その詳しい理由を「女性活躍」を例に見ていきましょう。「女性リーダー育成研修」など、マイノリティを対象とした研修でアンコンシャス・バイアスを扱うこともしばしばあります。その場合、自分自身に対するバイアスに焦点を当てます。例えば、女性社員自身が「母親なら子供を優先しなくてはならない」と思い込んでいたり(性別役割認識)、高い成果をあげているにも関わらず、自分の実力ではないと決めつけていたりするため(インポスター症候群)、昇格や責任ある仕事を担うことを避けてしまう人も少なくありません。

こうしたアンコンシャス・バイアスの例を紹介しながら、自分にあてはまることはないか、そのことで本当はやりたいことを押し殺してはいないか、確認していきます。アンコンシャス・バイアスで自分の可能性に制限をかけていたことに気づいたら、どのように言動を変えていったらよいかを考えたり、キャリアについて再考を促したりします。

このように、マイノリティ側に自分の持つアンコンシャス・バイアスへの気づきを促し、意欲喚起を図ることはもちろん重要です。しかし、DE&I推進に、それだけで十分ではありません。「女性リーダー育成研修」のように、マイノリティ側にだけDE&I推進をテーマとする研修を行う背景には、まるでDE&Iが滞る原因は、マイノリティ当事者側にあるという考えが透けて見えます。

実際には、「母親なら仕事はそこそこにして、何より子供を優先すべき」という社会からの圧力や職場の上司からの決めつけによって、割り切れない思いを抱えたまま、キャリアの期待値を下方調整している人も少なからずいます。あるいは「女性は謙虚でいなさい」という規範や高い成果を上げても、女性であるがゆえに自分の成果と認められないといった経験から、「自分には実力がない」と決めつけている場合もあります。

いずれも当事者を取り巻く人や社会環境に原因があります。このようにマイノリティを取り巻く環境に着目する考え方を「社会モデル※」といいます。周囲の環境を左右するキーマンである管理職や経営者に対してのアンコンシャス・バイアス研修が欠かせません

(参考)「個人モデル」「社会モデル」
元々は、障害者の権利推進の中で提唱された概念です。
・個人モデル:障害者障害や不利益・困難の原因は目が見えない、足が動かせないなどの個人の心身機能が原因であるという考え方。
・社会モデル:障害や不利益・困難の原因は障害のない人を前提に作られた社会の作りや仕組みに原因があるという考え方。

「ダイバーシティ(多様性)」を語るときに現実には、お互いの「違い」はフラットな関係ではなく、その間に有利/不利の不均衡な関係が存在します。なぜならば、マジョリティ側が社会や組織のルールや規範を決めるパワーを持っており、無自覚に自分たちに有利に物事を決めているからです、マイノリティはそれが自分にとって不利なものであっても、組織のメンバーでいる以上、従わざるを得ない状況に陥ります。 DE&Iを狙いとするアンコンシャス・バイアス研修では、事例についてのディスカッションなどの演習で「社会モデル」の観点を養います。「個人モデル」の意識が強く、それが自身の成功体験となっている場合は、社会モデル自体を受け入れることがなかなか難しい場合もあります。研修の場以降の継続的な取り組みについて決めるといった取り組みも重要です。

2-2. ハラスメント防止対策

ハラスメント対策が目的の研修においては、行動を変えることが主眼となります。そのためには自分たちのアンコンシャス・バイアスに気づく段階にとどめず、改善の方向性を演習を通じて具体的に理解するところまで取り組むことが重要です。

研修では、まずハラスメントにつながりやすいアンコンシャス・バイアスの例を示します。例えば、「生存者バイアス」というものがあります。失敗したり脱落した対象を見ずに、成功した(≒生存した)対象のみを基準に物事を判断してしまうことです。このアンコンシャス・バイアスがあると、厳しい労働条件の中でも生き残った自分を基準に、部下に接してしまうことにつながります。

さらに、成果を上げられるリーダーの在り方について考察します。近年では、「弱さを見せない」「競い合うことを良しとする」「長時間労働を誇る」などの従来は企業において善とされてきた文化が、むしろ機能不全を招く要因となっているといった研究も発表されています。そうした知見をもとに、自分自身の持つ考えや信念を棚卸し、それが周囲への決めつけや押し付けになっていないかを振り返ります。

筆者が以前に相談にのったパワーハラスメントでは、以下のようケースがありました。部下はワークライフバランスを重視して働きたいと思っているのに対し、上司は「男なら出世すべき。そのためには残業や休日出勤も厭うべきではない」と考え、部下の意図に反して過度に残業を強いてしまったのです。上司は「自分の今のポジションを得られたのは、若い頃から長時間労働を厭わず働いてきたからだ」と考えており、残業を強いたのも部下のためを思ってのことでした。

このようにハラスメント対策では、日常の職場での言動をハラスメントにならないものに改善していくことがカギとなります。
そこで重要なのが、以下の2つの観点です。

・ハラスメントの芽「マイクロアグレッション(※)」に気づく
・パワーの差から生まれるアンコンシャス・バイアス温存の構造に気づく

(※)マイクロアグレッションとは、明確な差別や攻撃の意図がないけれども、相手には、もやっとしたネガティブな感情を引き起こす言動をいいます。

それぞれ説明していきます。

ハラスメントの芽「マイクロアグレッション   」に気づく

アンコンシャス・バイアスは、本人は無自覚であっても、日常のちょっとした言動に表れ、それがハラスメントにつながる可能性があります。例えば「あの人は、男性のわりにきめ細やかだね」「お母さんなのに泊りがけ出張に行くのか」という発言や、若手や女性社員の発言には注意を向けず反応を示さないといった行為などがあげられます。

前者は「男性はきめ細かにすべきではない(きめ細かさは女性のもの)」、後者は「母親は子どもをおいて遠方にいくべきではない」といったアンコンシャス・バイアスが透けて見えます。
マイクロアグレッションは、そのままにしておくと、エスカレートしハラスメントになりえます。研修ではマイクロアグレッションのあらわれたケースや動画などを見て、どこにアンコンシャス・バイアスが表れているかをチェックします。そのうえで、同様のことが自分たちの職場にないか確認します。

重要なのは、自職場のマイクロアグレッションに気づくだけでなく、どのように改善したらよいかを学ぶことです。今まで当たり前のように行ってきた言動なので、改めろと言われても、どう改めたらよいか、すぐにはイメージできないからです。

たとえば、以下のような演習を使って具体的な改善方法まで理解することが必要です。また、ロールプレイを通じて自分たちが行いやすいマイクロアグレッションに気づき、どのように改善したらよいかを学びます。

演習例①:【中立的な表現への言い換え】

マイクロアグレッション的表現 中立的表現に言い換えたら?
いやいや、普通○○だろう。こんな事は常識だ 「私は○○は常識だと思うが、君は違う意見なんだね」
※自分の考えの方を「普通」と決めつける表現は、相手の考えを否定しているように聞こえかねない。
「彼女は〇〇とまくしたてた」 「彼女は早口に〇〇と言った」
※「まくしたてる」という言葉に否定的なニュアンスが含まれており、相手を避難的に評価している気持ちが垣間見える。

演習例②:【行動チェック】

マイクロアグレッション的ふるまい 解説
会議で上位者の意見に反対意見や質問をしない。 上位者のことは正しい、もしくは反論すべきではないという思い込みや組織風土の可能性がある
送別会などで、花束贈呈の役割はいつも若手女性が担うことになっている。 「女性は花を添える役」という性別役割認識にとらわれている可能性がある。なぜ男子ではないか、論理的に説明できるか考える必要がある。 

ロールプレイングを通して、ハラスメントの芽「マイクロアグレッション」に気づく必要があります。

パワーの差から生まれるアンコンシャス・バイアス温存の構造に気づく

組織の中に根付いているアンコンシャス・バイアスが、ハラスメントの許容につながる可能性もあります
ハラスメント対策を目的としている場合、多くは行為者側になんらかの「パワー」があります。典型的なのものは、役職の高い者と低い者で、一般的には役職者は様々な権限を持っており、そのこと自体が低いほうの行動を規制します。メンバー同士の「差異」はフラットな状態に存在するのではなく、そこにはパワーの有無による有利・不利の差が生じています。
パワーのある人がパワーのない側に対してマイクロアグレッション的な言動を行った場合、パワーのない側から「理不尽だ」と抗議することは、難しいです。口をつぐんで我慢してしまうことが場面が多く見られます。そこには相手のパワーへの恐れがあるからです。抗議することで相手の心証を害すと、評価を悪化させてしまうかもしれません。

たとえ抗議しても、行った側には「差別」の認識がないため、「そんなことを気にするほうがおかしい」と、マイクロアグレッションを受けたほうの意識が悪いと考えがちです。下手すると、「文句言いだ」「不満分子」等と、主張した当事者を低く評価することにもなりかねません。
こうしたことが続くと、パワーのないマイノリティ側は、「言っても無駄だ」と言わなくなったり、「気にする自分のほうが悪い」と思い込んでしまったりすることになります。
その結果、パワーのある側は有利・不利のアンバランスの関係に気づかず、放置されてしまいます。アンコンシャス・バイアスの問題があっても、それは改善されないまま維持・継続してしまい、それは組織における価値観として定着してしまいます。

研修ではこうしたメカニズムについて必ず触れ、説明します。時間が許せば、ゲーム形式の演習などで、パワーのある側/ない側の心理を体感してもらいます。この体感の効果は高く、終了後は「自分がいかにこれまで無自覚にパワーを振り回していたか気づき、ショックだった」といった感想が聞かれます。

それを受けて、自社の中に構造的な不利な状況の人はいないかを振り返り、改善方法について考察します。この改善方法については、前述の「社会モデル」の発想で行います。

アンコンシャス・バイアスに対する対策としては、個人一人一人が意識し行動を改善していくことが第一歩です。しかし、残念ながらそれだけでは限界があります。組織の中にアンコンシャス・バイアスが根付いてしまっていると、メンバーの言動はどうしてもその価値観に影響を受けるからです。

「マイクロアグレッション」の影響は、決して「マイクロ(小さい)」ではありません。下手をすると組織の文化を悪化させます。こうしたメカニズムをアンコンシャス・バイアス研修で扱うことで、心理的安全性を担保する組織文化につなげることができるのです。

このようにハラスメント対策が目的の研修においては、行動を変えることが主眼となります。事例のように、自分たちのアンコンシャス・バイアスに気づく段階にとどめず、改善の方向性を具体的に理解するところまで取り組むことが重要です。

2-3. コミュケーションの円滑化

コミュニケーションの円滑化のためにもアンコンシャス・バイアス研修を行います。
コミュニケーションが滞る問題の背景には、無意識に相手や組織に対する思い込みや誤解が存在することが多く、研修でそれらをあぶりだすことができるからです。

アンコンシャス・バイアス研修を行う場合、重要なことは、ハラスメント対策と同様に、コミュニケーションの具体的な改善方法まで学ぶよう設計することです。コミュニケーションの取り方に問題があるとわかっても、それをどのように直していけばよいかがわからなければ、行動を改めることはできません。
ただし、ハラスメント対策と異なるのは、パワーのない側に立ったコミュニケーションに力点を置くことです。コミュニケーション円滑化の研修の場合、役職についていない社員の参加率が多くなる傾向があり、彼ら彼女らが活用できるスキルを伝える必要があるからです。

具体的には、まず自分たちが持っているアンコンシャス・バイアス、特にコミュニケーションを阻害するものについて振り返りを行います。役職のない場合、年齢も若いことが多いため、比較的考え方が柔軟です。とはいえ、「上司に逆らうべきではない」とか、「話しても無駄」といったマイノリティとして不利な経験に根差した無意識の思い込みはあります。そうしたバイアスにどう対処するか、話し合いを通じて自分の固定した見方とは異なる視点を取り入れていきます。そのうえで、アサーションやロジカル・コミュニケーションといったコミュニケーション技法を使った演習を行います。

コミュニケーションの技法を学んでも、組織や上司に対するネガティブなアンコンシャス・バイアスがあってはそれを活かしようがありません。もちろん、その不信感が事実に根差したものという可能性もあります。いずれにしても、研修の場で自分の考えが偏っているか否か、多角的に考え直す機会を設けることは意味があるといえるでしょう。

研修成功事例集

3.【事例あり】アンコンシャス・バイアス研修の対象層

ここからは、4つの研修事例を中心に、対象ごとに留意すべき点を詳しくお伝えします。

企業研修の例にもれず、アンコンシャス・バイアス研修においても「誰を対象とするか」を明確にすることが重要です。組織文化や行動変容を促すにあたって、どういったメッセージを投げかけるか、対象者によって異なるからです。

アンコンシャス・バイアスを、共通の基礎的知識として全社員に付与しようとされる会社もあるかと思います。その場合でも、一斉に行うよりは、期待する行動ごとに受講対象層を分けて研修を設計することをお勧めします。典型的なものは、階層別に分ける方法です。

ただし、あえて対象層を混在させることもあります。受講者のお互いの考えや価値観の違いを際立たせることで、自分の考えが「当たり前」ではないことに気づくことを狙いとする場合です。このコラムでは対象混在「DE&I」を狙いとした事例についてもご紹介します。 

※事例でお伝えする研修の研修名は「アンコンシャス・バイアス研修」と銘打ったものではなく、目的を前面に出したものもありますが、アンコンシャス・バイアスを主な内容として取り扱ったものとしてご紹介しています。

3-1. 経営者対象のアンコンシャス・バイアス研修~DE&Iを目的としたもの

大手精密機械メーカーの経営層を対象とした事例をご紹介します。
経営者として、DE&Iの重要性についての理解をいっそう深め、旗振り役として自覚を促し取り組みを推進してもらうことを狙いとして企画されました。
研修では、事前に行った社員アンケートで見えた心理的安全性についての問題から自社のアンコンシャス・バイアスについて話し合いました。その結果、社の歴史的成り立ちや自分たちの言動に原因があることに気づきました。

研修プログラムの流れ(約3時間)

テーマ 内容
オリエンテーション 自己紹介等
1.【知る】DE&I経営が企業に与える効果 DE&Iが企業の評判や業績を左右することを理解する【レクチャー&ディスカッション】
2.【知る】多様性を活かすには D&I経営が成功している組織とはどのような組織なのか、またどのような視点からD&I施策を遂行していけばいいのかを理解する【レクチャー&ディスカッション】
3.【気づく】インクルージョンと心理的安全性 ・心理的安全性とDE&I、アンコンシャス・バイアスの関係を理解
・社員対象の心理的安全性のアンケート結果により自社の傾向を把握【演習]:ゲームで心理的安全性に必要な要素を実感自社アンケート結果発表→結果について話し合い【グループディスカッション→全体共有]
4.【考える】アンコンシャス・バイアスと心理的安全性 ・アンケート結果から、アンコンシャス・バイアスの心理的安全性への影響を考察する
・パワーのある自分たちが組織文化に与える影響を振り返る【レクチャー→グループディスカッション】
5. 【対処する】コミュニケーションスキルを身につける ・DE&Iを推進するのに必要な変化を生み出すコミュニケーション要素を理解する・演習を通じて実践につなげる【演習】
・中立的/肯定的表現・効果的な質問方法
6.【対処する】行動宣言シート ・本日の学びを行動宣言シートに書き込ことで、自身の行動を見えるかし、意識することで行動促進する 

研修プログラムの詳しい内容・ポイント

①「知る」
経営陣を対象にする場合、欠かしてはならないのは「組織の代表」として、自社と外部との関係を意識し、DE&Iを経営戦略の一環として位置付ける視点です。集合研修で共に学ぶことで、それが経営者の共通言語となります。

多くの企業では、女性活躍推進や障害者雇用といったDE&I施策は、長年、福利厚生施策としてコストの一つとみなされてきました。

しかし、今やDE&Iの推進は企業価値の向上させる重要な要素として「投資」と認識を改める必要になってきているのです。最近では、SDGsやESG投資の高まりなどで、DE&Iの取り組みが外部からの企業評価に直結するケースが増えています。また、志望企業の選択においてDE&Iの進捗度合を優先する学生が増えており、採用の成否にも大きく影響します。

研修では、こうした時代の変化について、レクチャーやディスカッションにより認識を促します。特に経営者自身が経験した外部からの評価の変化などの事例をとりあげます。

リスクマネジメント観点からも、アンコンシャス・バイアスについて考えてもらいます。

アンコンシャス・バイアスに基づいた組織トップの失言や企業の対応のまずさがSNSを通じて拡散され、評判を大きく棄損した事件などを例に、その影響の大きさについて考察します。

多くの経営者はこうしたトレンドをメディアなど通じで知ってはいますが、理解の程度はばらつきがあります。「知る」部分では、データや事例で説明しながら、更なる理解を促します。「知る」パートでは、その後の研修での話し合のの共通基盤を形成していきます。

 ➁「気づく」
この研修では、アンコンシャス・バイアスへの改善への当事者意識を高めるために、2つの独自の工夫を行いました。
一つ目は、自社の心理的安全性に対する社員アンケートを実施し、結果をこの研修の場で共有しました。「どんな人でも安心してものがいえる」心理的安全性は、DE&Iの基盤となる概念だからです。二つ目は簡単なゲームを行い、多様な人が集まる中で価値観の対立やジレンマを疑似体験することです。自分が当然のように「正しい」と思って行っていることが、他の人には必ずしもそうではないことを体感するためです。

社員アンケートでは、特に「失敗を恐れてチャレンジできない」という結果については少々、ショックであったようです。原因についての話し合いでは、どのグループも真っ先にとりあげて話し合っていました。

話し合いでは、様々な会社が合併されてきた自社の歴史について言及があり、「吸収した側とされた側との間で、おのずと力関係へのアンコンシャス・バイアスが生まれ、それがチャレンジできるか否かの差が生じていたのではないか」という指摘がありました。さらに、自分たちもそうした雰囲気を看過してきた責任について自省する意見も出されました。

③「考える」
ここでは、アンコンシャス・バイアスのネガティブな影響を防ぐために、どんな取り組みが必要かを話し合い、事後の取り組みにつなげます。

まず、講師から、履歴書に性別などのアンコンシャス・バイアスが生じやすい事項を記載しない「ブラインド・オーディション」などの事例を紹介しました。そのうえで、自社社員のアンケートで見られた課題について、アンコンシャス・バイアスの影響をどのように解決していけばよいか、話し合いました。

この研修では、制度など以上に、自分たちの言動について改善案が多く出されたのが特徴的でした。高品質を目指す企業の常として、おのずとミスを「悪いもの」として日々、事業に取り組んでいます。しかし、そうした経営の姿勢が、もしかすると「間違えてはいけない」というメッセージとなり、チャレンジを阻害していたのではないかと声が上がりました。チャレンジを促すにはどんな振る舞いをすればよいか…など話が展開していきました。

3-2. 管理職対象のアンコンシャス・バイアス研修~ハラスメント防止を目的としたもの

管理職向けの内容について説明します。
メイン工場に初めて地元から女性の工員を採用するにあたって、セクシャルハラスメント対策として企画され、工場の管理職全員が2回に分けて受講されました。ちなみに管理職は労務課長一人が女性で、それ以外は全員、男性でした。

研修プログラムの流れ(約7時間)

テーマ 内容
1.【知る】女性部下マネジメントの注意点 ・女性の部下で悩んでいることの共有【グループディスカッション&全体共有】
・女性活躍推進が求められる時代背景の理解とともに、マネジメント上の注意点を話し合いを通じて学ぶ【レクチャー&ディスカッション】
2.【知る】ハラスメントの基礎知識 ハラスメントの定義、関連する法律【レクチャー】
3.【気づく】アンコンシャス・バイアスとマイクロアグレッション ・動画を見てハラスメントに当たると思われる部分を 指摘【レクチャー】
・アンコンシャス・バイアスとマイクロアグレッションケース【演習&グループディスカッション】
・演習動画について話し合い
4.【考える】自組織にある無意識の偏見とその影響 ・自分の組織についてアンコンシャス・バイアスの可能性を各自で考察
・各自の考察についてお互いに共有、組織全体のアンコンシャス
・バイアスをさらに考察【個人演習→グループディスカッション→全体共有】
5.【対処する】女性部下とのコミュニケーションスキルを身につける ・ハラスメントにならないコミュニケーションを学び、演習でその幼帝を把握します[演習]中立的・/肯定的表現[演習]ロールプレイ
6.【対処する】行動宣言シート ・本日の学びを行動宣言シートに書き込ことで、自身の行動を見えるかし、意識させることで行動促進する 【行動宣言シート】

研修プログラムの詳しい内容・ポイント

①「オリエンテーション」
ここでは、1日をかけて共に学ぶ仲間としての意識を醸成することと、ハラスメントについて当事者意識をもって学ぶためのマインドセットを行いました。

講師の紹介や研修目的の確認などに加え、受講者同士で「女性部下のマネジメントについて困っていること」をテーマに、お互いの自己紹介を兼ねて話し合いました。この話し合いをすることで、自分の持つアンコンシャス・バイアスについての課題意識が高まり、後段の研修に当事者意識をもって臨んでいただくことができました。

研修に対する当事者意識が特に喚起されたのは、自分の部署で当たり前に行われていたことが、他の部署から「それはおかしい」と指摘を受けた瞬間でした。

「困っていること」として、あるグループから「自部署の女性部下が育休に入ると、来客時にお茶を入れる人がいなくて困る」という話が出てきました。すると、間髪入れず他の参加者から「やめてしまえばよい。お茶汲みなんて、うちでは既にやめている」という意見が出てきたのです。

同じ工場勤務とはいえ、大人数が働く工場です。仕事のことを話すことはあっても、日ごろの悩みを語ることはまずありません。その背景には、管理職として「弱音を吐くべきではない」、「自分で考えて解決すべき」といった思い込みもあるように感じます。研修での課題として取り組むことで、お互いの日頃の悩みを吐き出し、「悩んでいるのは自分だけではない」という連帯感を醸成できます。

②「知る」
さらに、「ハラスメント」や「アンコンシャス・バイアス」がどういったものか、基本的な知識をレクチャーを通して学びます。「ハラスメント」については、最近、炎上や裁判になった事例などを紹介しながら、関連する法令についても紹介し、受講者の考えをアップデートしていきます。

③「気づく」
具体的に、職場のどんな言動がハラスメントに当たるのかという点について、自分たちの言動についての気づきを促します。

管理職の多くは、自分たちの受けてきた指導やマネジメント方法が「あたりまえ」であり、その指導を受けてきたからこそ今の自分があると肯定的にとらえています。しかし、時代の変化によって、それらは「ハラスメント」と見なされるようになっていることもあります。具体的な言動に照らして考えることで、意識面でのアップデートにもなるのです。

自分たちのふるまいを考えるに先立ち、この研修ではミニドラマ形式にした動画を見て、その中で何が「ハラスメント」に当たる可能性があるのかを話し合いました。それをもとに、自分たちの職場で起こっていることや自分の振る舞いについて、ハラスメントに当たることがないかを振り返りました。動画の事例では、取引先からハラスメントを受けても上司にそれを言い出せない例や、上司がそうした取引先との関係悪化を恐れることで、間接的に部下へのハラスメントに加担してしまう危険性なども取り上げました。

管理職としては、会社のために良かれと思い、今まで当たり前のように行っていたことがハラスメントの可能性があるということに気づき、そのこと自体が自身のアンコンシャス・バイアスの発見につながったようです。

その後の自社についての話し合いでは、まるで競うかのように積極的に、「問題となりうる事例」が各グループから挙げられました。お互いの悩みを共有したり、動画で具体的な事例を学んだ効果であったと思われます。

④「考える」
前段の気づきをもとに、自分たちがどういったアンコンシャス・バイアスを持っているかについて考察します。すでに自社の問題点について共通認識ができているため、より具体的な話し合い自分の持つ「アンコンシャス・バイアス」について具体例を挙げ、それに対して「他の考え方を挙げてみる」という演習を行い、その内容について話し合いを行いました。

自社で当たり前のように行われていた事例について、ハラスメントの可能性が多々、指摘されました。組織の中でのアンコンシャス・バイアスの例として、たとえば「送別会などでの花束贈呈の渡す役は女性」などが挙げられました。
さらに、そうした組織の中に存在するアンコンシャス・バイアスは、自分たちが変えていかなければならないことも言及されていました。

アンコンシャス・バイアスをお互いの気づきを話し合いを通じて共有し、それが更なる気づきを生むサイクルが生まれました。

⑤「対処する」
ここでは、どのように行動を変えていったらよいかを学びます。コミュニケーションは、相手の受け取り方や感情などを体感するための時間を十分にとって演習に取り組みます。

言葉遣いに加え、「傾聴」の方法や非言語コミュニケーションでの注意点なども学び、最終的に、職場で問題が起こった場合という状況でのロールプレイで総仕上げを行いました。頭でわかっていても実践が難しいのが現実です。ロールプレイによって、自分のコミュニケーション上の課題が明らかになり、より実践のイメージを抱くことができたようです。

3-3. 一般社員対象のアンコンシャス・バイアス研修~コミュニケーション円滑化を目的としたもの

この研修は、アシスタント業務(主に総合職からの指示を受けて業務を行う)に従事している社員を対象に実施されました。この層の従業員満足度の結果が思わしくなく、理由を彼らにヒアリングすると「断れずに本来は必要ないことまで引き受けてしまい、結果として不満を募らせている」、「他部署とのコミュニケーションが円滑に進められない」といった声があげられたことから企画されました。

そうした経緯もあり、この研修では、先に具体的な対処策としてアサーティブ・コミュニケションを学び、そのあとにアンコンシャス・バイアスを取り上げる構成になっています。

コミュニケーション技術を学んでも、アンコンシャス・バイアスの存在によって学んだことを十分に活かせないことがあります。そうした心理のメカニズムを理解することで、学んだことをフルに生かせるようになります。

研修プログラムの流れ(約3.5時間)

テーマ 内容
【前段】コミュニケーション上の課題と言いにくいことを伝える技術 ・職場でのコミュニケーションについての意識調査結果を紹介自分たちに照らして現状の意識について話し合い【レクチャー&ディスカッション】
・アサーティブ・コミュニケーションの基礎技術を学ぶ【レクチャ&ー演習】
1.【知る】アンコンシャス・バイアスとは アンコンシャス・バイアスがどういうものか、演習で体感。種類や発生のメカニズムを説明。アンコンシャス・バイアスの種類を理解する。【演習&レクチャー】
2.【気づく】アンコンシャス・バイアスの及ぼす影響 ・日常生活においてアンコンシャス・バイアスが表れていると思われる部分をお互いに振り返る【演習&グループディスカッション】
・各人からアンコンシャス・バイアスではないか、と思う事例について共有
・パワーの違いから生じるアンコンシャス・バイアス【レクチャー】
3.【考える】自分の持つアンコンシャス・バイアスとコミュニケーション ・自分の持つアンコンシャス・バイアスについて各自で考察。特に「言いたいことが言えない状況」について考察
・各自の考察についてお互いに共有
・アンコンシャス・バイアス反転ワーク【個人演習→グループディスカッション→全体共有】
4.【対処する】自分のアンコンシャス・バイアスを反転させる ・アンコンシャス・バイアスを深堀し、他の選択肢の可能性を見出す
・見出した可能性について実践検証するプランを立てる
・お互いにプランを共有【個人演習→グループ共有】

研修プログラムの詳しい内容・ポイント

①「知る」
アンコンシャス・バイアスを取り扱う前段に学んだコミュニケーション技法を引き合いに出しながら、「その技法を生かせない場合があるとしたらどんな時か?」と問いかけます。

「こんなこと言っちゃだめなのでは?」「どうせ言っても聞いてもらえないだろう…」といった声をとりあげ、それが「アンコンシャス・バイアス」であることを説明します。

➁「気づく」
日常の業務で感じている総合職や他部署へのアンコンシャス・バイアスを言語化し、共有することでお互いの気づきを深めます。

言語化した自分のアンコンシャス・バイアスについて、グループや全体で共有します。他の人がアンコンシャス・バイアスをしてあげたものを聞くことで、自分自身の中にも同様の思いがあることや、あるいは、自分にはあてはまらないことを発見します。

そうした違いは、場合によっては善悪の判断を伴い、相手に対する批判や評価にもつながりかねません。そうなっては、安心して自分のアンコンシャス・バイアスを開示することはできなくなります。

講師は、そのような状況にならないよう、「どんなアンコンシャス・バイアスも『そういうものもあるのか』と受け入れる」、「批判や判断はしない」、「この場所以外では出てきた内容を口外しない」といったルールを設けて事前に共有する必要があります。
また、もし開示されたアンコンシャス・バイアスを、別の誰かが非難するような気配が見られたら、介入も必要です。

安心して自分のアンコンシャス・バイアスを開示できることが、自らのバイアスに向き合う第一歩なのです。非難や批判を受けると、その対象者を防御的にしてバイアスに向き合うことを難しくしてしまいます。そうならぬよう、講師は万全の注意を払わなくてはなりません。

③「考える」
コミュニケーションにおけるアンコンシャス・バイアスの影響を考えます。人間関係や仕事の進め方に焦点を当てて考えました。バイアスが生まれた原因や背景についても振りかえりながら、行動変容につなげるのがこのパートです。

このセッションでは、「アンコンシャス・バイアス反転ワーク」をいうワークシートを使った演習を行いました。これは、自分のアンコンシャス・バイアスを書き出し、次に「それがあてはまらないとしたら」という前提に立ち、どんな他の可能性があるかを書き出します。

そして書き出した他の可能性を検証するために、どんなことができるかをさらに書き出します。研修の場でその検証を行うことは難しいので、事後の課題とします。
他の部署への申し入れについて「言っても無駄」と思いこんでいた理由として、上司がそうした発言を繰り返していたこと、自分も同様の経験をしたことを思い出したことを発表した人もいました。そのうえで「相手にもこんな事情があったのかもしれない」との可能性に言及しました。

実は相手の部署所属の受講者も参加しており「そう思われていたとは知らなかった」「その時、こちらはこんな事情があって…」と思わぬ種明かしに繋がったのも集合研修の妙味でしょう。

さらに、パワーの差がある場合に、そうしたアンコンシャス・バイアスが助長されることについて理解を促します。多くの場合、指示を受ける側はパワーの少ない立場に置かれることが多く、「言いたいことが言えない」あるいは「何か言うと、相手の心情を概してかえって厳しい状況に陥るかもしれない」「思っていることを言うできではない」ということが起こります。そして、新たなアンコンシャス・バイアスが生まれることになります。

今回の受講者は、どちらかというと上司から指示されて業務を行う立場に立つことが多いため、まさにこうしたメンタリティに陥っていたことが、研修を通じてわかってきました。

④「対処する」
権限の弱い立場の人間にとって、権限のある人は、「心情を害すると思っていることを言うと、自分に対し厳しい対応をしてくるかもしれない」という恐れや不安があります。そこで、相手の心情を害すことなく、自分の考えや思いを伝える技術が必要になります。

この研修では、アンガーマネジメントで自分の感情に流されない対応方法を学び、アサーティブ・コミュニケーションの技術を学んで、思っていることを伝える方法を学びました。

一足飛びに考えを伝えることは難しいですが、少しずつでも「やってみよう」という思いを抱いてもらえたのが、講師としても大変印象的でした。

3-4. 対象層を広く設けたアンコンシャス・バイアス研修 

最後に、特定の層を対象者とせず、幅広い層を混在させた研修例をご紹介します。ここでは特に、アンコンシャス・バイアス研修に特有の問題が発生したものを取り上げます。

アンコンシャス・バイアスは、気づいた場合にインパクトが大きいだけに、反動もあります。受講者にとっては、これまで自分が信じてきたものが否定されたように感じる場合もあるからです。研修では、受講者が思考停止したり、強い抵抗をするといったことが起こります。この研修では、まさにそうした事態に陥りました。

ここで取り上げる研修事例は、大手商社を対象としたものでした。継続的にDE&Iについての研修を実施されており、この年はアンコンシャス・バイアスの影響を、リアリティをもって認識してもらうことが目的でした。

職場でDE&Iに関連してよく起こる問題の事例を扱ったゲームで、その事例の当事者の立場に立って考える設定にしました。副次的な目的として、コロナの影響で希薄化している職場コミュニケーションを活性化するということもあり、職場単位で参加を募りました。ゲームも職場のメンバー同士で取り組みます。

研修プログラムの流れ(約2時間(オンライン))

テーマ 内容
1.オリエンテーション ・お互いの知らないところを含めて自己紹介[レクチャー]
2 .【気づく】お互いの考えの違いに気づく [演習]
ゲーム実施:DE&I推進の中でよくある状況での意思決定において、両極の案のどちらかを選択。グループ内で多数が原則として得点獲得。(例外もあり)
・各人の考えや価値観の違い(深層的ダイバーシティ)を認識する・どちらかが正しいと言い切れないジレンマを味わう[演習」「クロスロードゲーム・ダイバーシティ編」
3.【考える】アンコンシャス・バイアスの影響を考える ・ゲームを通じて気づいたことを共有
<例> ①自分の中の「アンコンシャス・バイアス」とその影響 ②反対の意見も尊重しようとすることで生じるジレンマ
①、➁について、職場でどう対応したらよいか、話し合う[グループディスカッション→全体共有]
4.【対処する】アンコンシャス・バイアスによる問題を防ぐコミュニケーションとは ・DE&I推進上のジレンマやアンコンシャス・バイアスに対処するにはどうしたらよいかを話し合う
・日常のコミュニケーションの改善方法
・「対話」の効用を理解する[グループディスカッション→レクチャー]

※この企業では、継続的にDE&Iの研修を実施していました。そのため、「アンコンシャス・バイアス」については、先立つ研修ですでに学んでいました。そのため、今回の研修では「知る」パートは割愛しました。

研修プログラムの詳しい内容・ポイント

① 「気づく」
ここでは、職場の多様なメンバー間で起こる軋轢や摩擦といった問題を取り扱うゲームを使い、日常抱いているアンコンシャス・バイアスへの気づきを促すことが狙いです。
使用したのは、「クロスロード・ダイバーシティ編」というカードゲームです。ダイバーシティをめぐるジレンマの事例を記載されたカードをメンバーが順番にひき、その事例に対し、各メンバーが賛成か反対かを選択、表明します。さらに選んだ結果に対し、その理由を説明します。

一例をあげると、「子どものお迎えに行く日に、上司から緊急のトラブル対応のための残業を頼まれた」といったケースがあります。「当然、残業をする」という人もいれば「お迎えに行く」という人もいます。自分が「あたりまえ」と思っていることが、他の人からみるとそうではないということに気づかされます。
また、選択の理由を述べ合うことで、「対立している」と思われる相手の主張の背景に、自分と共通点があることに気づくこともあります。前述の「残業か、お迎えか?」の事例では、「お迎えには行くが、その後、トラブルの状況を確認し、場合によっては職場に戻る」と答えた人もいました。一見、残業を拒否されているように見ますが、何とかトラブルを解決しようとする真摯な気持ちは、残業を選んだ人と共通であることに気づくことができます。「お迎えに行く」という結論からだけでは気づけなかったでしょう。

②「考える」
ゲームを通じて感じたことや、気づいたことをグループ内で共有し、さらに気づきを深めていきます。しかし、ここで思いがけないことが起こりました。講師や事務局に対し挑発的な態度をとる受講者が現れたのです 。あるグループの代表者が、「選択結果を見ると、女性は育児やプライベートを重視、男性は仕事を重視していた」と、まさにアンコンシャス・バイアスに満ちた発表をしたのです。実際には、そのグループでは女性でも仕事を優先する結論を出した人もいましたし、男性でも家庭重視の発言をしていた人もいたにもかかわらず、です。

著者である私は、この時に講師として、この受講者の発言を、DE&Iの施策を進める会社や講師への反発と感じました。というのも、この発表者は、グループの中で発表者を決めたところで、自らの発表内容を確認しつつ、「これってアンコンシャス・バイアスだよね」と言ったのを聞いていたからです。こうした経緯から、あえてアンコンシャス・バイアス的な発言を行い、講師や事務局の反応をみようと挑発しているように私には感じられました。

講師としては、ここで挑発にのるわけにはいきません。かといって、「あなたの発言はアンコンシャス・バイアスによるものだ」と指摘したとしても、おそらく素直に受け入れないでしょう。下手をすると、かえって「多様性といいながら、自分の考えを否定するのか」と反発を招く危険性もあります。

そこで、いったん「そんなふうに感じられたんですね」と受け入れ、他のグループのメンバーからの発言を促し、最初の発言者以外の考えがあることを確認しました。                                                                                                                                                                              そのうえで、「カードの事例の一つ一つの判断も多様であると同時に、ゲームの結果についても様々なとらえ方がありますね。自分のとらえ方が必ずしも“正解”というわけではないことも気づかれたと思います」と、コメントしました。

このように、アンコンシャス・バイアス研修では、時に受講者から反発や挑発的な態度をとられることがあります。今回のように、あえてバイアスに根差した発言をする場合もあれば、「自分にはアンコンシャス・バイアスはない」と、断言して聞かない受講者もいました。その人は、演習で偏った判断をしていたにもかかわず、自分のバイアスを受け入れようとしませんでした。

こうした反発は、自分がこれまで「正しい」と信じていた規範や価値観が、アンコンシャス・バイアスに基づいたと気づいたことから生まれると考えられます。その価値観や規範が自分の支えになっていた場合、バイアスといわれることは、自分自身が否定されたように感じられるのでしょう。自らを守ろうとする防衛心が、講師や事務局に攻撃的な態度に現れるのでしょう。

こうした場合、講師から相手のアンコンシャス・バイアスを指摘し続けるのは、かえって防衛的になり逆効果になるケースが多く、扱いは困難です。今回の研修は時間的な制約もあり、筆者は講師として、防衛的な状況を認め、受け入れることにしました。それは、アンコンシャス・バイアスへの理解を促すことを断念するのではありません。研修の目的である「アンコンシャス・バイアスの影響を、リアリティをもって認識してもらうこと」を達成するためには、まずは発言者の状況を受け止めることが必要だと考えたからです。

そして、この場での対話を通して、本研修の目的をすでに達成しているといえます。

講師が明確に、最初の発言を「アンコンシャス・バイアスにとらわれた間違い」と指摘しなかったことに、最初の発言者を含め受講者は、「明確な答えが出なかった」と、もやもやとフラストレーションを感じているかもしれません。実際、会社側の研修事務局から講師に対し、「間違っていたら厳しく指摘してほしい」と期待することもあります。

しかし、DE&Iは、どちらの側が正しいといえないこと自体がその現実です。
これまでに存在しなかった異質なものや考えが組織の中に入ってくる過程で、抵抗や摩擦は必ず生じます。この研修では、そうした抵抗にどう対処するか、そのプロセス自体を体験する場であったといえます。

この場の体験は、受講者の中に植えられたDE&Iを推進する種となって、今後芽吹いていくことが期待されます。ただし、受講者からのネガティブな言動が出た時の対処を誤ると、逆効果になります、どのような対処をしたらよいか、さらに詳しい解説を後段の「アンコンシャス・バイアス研修実施上のポイント」にまとめたのでご参考になさってください。

③対処する
ここでは、前段で気づいたことを、今後の職場でのアクションにつなげるべく、どのように行動を変えていったらよいかをで話し合いました。今回の研修は、時間が短いこともあり、打ち手の中でもコミュニケーションに絞って考えてもらいました。

受講生からは、「相手と自分が同じ考えと決めつけない」という意見や、逆に「一見考えが違うと思える相手でも、同じ問題意識を持っていることもあるので、じっくり相手の話を聞くことが必要」という意見もありました。

その内容を受け、講師からは、合併後の混乱を、対話を通じて解決していった企業の事例などを紹介しながら「対話」の効用をお伝えしました。同時に、マジョリティ・マイノリティ間の不均衡が強く残っていると本当の意味での「対話」は成立しないという点も申し添えました

アンコンシャス・バイアスの多くは、長い年月かけて培われた慣習や価値観に根差しています。一朝一夕には改まりません。そこは無理をせず、「研修」という一時的な場ですべてを解決するのではなく、会社全体の取り組みの中で研修をどう位置づけるか、その重要性を再認識する案件となりました。

(参考)アンコンシャス・バイアス研修を実施する際に優先的に行ったほうがよい対象層
アンコンシャス・バイアス研修を優先的に行う対象層は、組織への影響力が大きい経営者・管理職にするとよいでしょう。アンコンシャス・バイアスが強く影響する企業の制度やルール、規範は、意思決定の権限ある層によって規定されるためです。
例えば、経営者にアンコンシャス・バイアス研修を行ったことで、「女性社員は、ライフイベントの関係から長時間働くことが無理なので、管理職にすることは難しい」という認知であったものが、「優秀な女性社員が働きやすい環境を創ることで、組織全体の生産性を上げて、採用にも好影響を与える」というに認知に変わると、人事制度なども変わってくる可能性があります。
アンコンシャス・バイアス研修の効果を最大化するには、意思決定権限があり、組織への影響力が大きい経営者・管理職を最優先にすることをお勧めします。
研修成功事例集

4. アンコンシャス・バイアス研修の実施に向けて意識すべき3つのポイント

アンコンシャス・バイアス研修を行う上で、ポイントは3つあります。

・自身のアンコンシャス・バイアスと向き合う抵抗を適切に扱うこと
・アンコンシャス・バイアスを、ただの「気づき」で終わらせないこと
・アンコンシャス・バイアス研修後のフォローを丁寧に行うこと

それぞれ具体的な方法をそれぞれ解説します。

4-1. 自身のアンコンシャス・バイアスと向き合う抵抗を適切に扱うこと

前述の「3-4 対象層を広く設けたアンコンシャス・バイアス研修 :大手総合商社」でもお伝えしたように、受講者から抵抗が起こることがしばしばあります。そうした抵抗が出るのは、アンコンシャス・バイアス研修を通じて、自分が意識せずに差別や偏見に加担していたということにのネガティブな面に向き合うきっかけとなるからです。
ここでは、講師としての適切な対応方法について詳しく説明します。

人は自分のことを「差別する側の人間」と思いたくはないものです。しかし、アンコンシャス・バイアスに気づくと、知らず知らずのうちに差別する側の立場にいることに気づきます。そのことは、決して心地よいものではありません。その不快感から逃れたくなり、自分のアンコンシャス・バイアスから向き合うことが難しいと見受けられることも少なからずあります。 

しかし、そのままでは受講者の行動変容にはつながらないので、受講者の困難さを軽減するために、以下のような工夫を行っています。

① 参加者同士の悩みを共有する時間を設ける。悩み戸惑っているのは自分だけではないと気づき、自分の弱さや至らなさを受け入れる準備を整える

「アンコンシャス・バイアス研修」では、自分の悩みや失敗を安心して吐露できる場づくりが重要です。他の受講者同士の考えや価値観の違い自体が、自分のアンコンシャス・バイアスへの気づきにつながります。
お互いの違いを「間違い」と受け止めないためには、「これは間違っているのではないか」「低く評価されるのでは」という不安や恐れを払拭する必要があります。

特に、経営者や管理職は、自分が悩んでいることを誰かに相談することはおろか、「口にすべきでさえない」、「自分一人で解決すべきである」と思い込んでいる傾向があるので、安心の素地はより重要性が高いといえるでしょう。
具体的には、以下のような方法を、時には組み合わせて行います。

・研修の初期段階で、「悩みや困っていること」を話し合う時間を設ける。受講者の相互の自己紹介の項目に含む場合もある
・グループで出てきた「悩み・困っていること」を、全体で共有し、より多様な考えや意見をを共有する
・講師から、研修のテーマに即して、他社の管理職の悩みを紹介する

3-2. 管理職対象のアンコンシャス・バイアス研修~ハラスメント防止を目的としたもの」では、すべてを組み合わせて実施しました。研修の早い段階で、悩みや失敗談までをもお互いに共有することで、そのあとの研修の時間でも、間違いや、お互いの悩みを安心して話し合える雰囲気となりました。
こうした場の雰囲気作りは、研修で学ぶコンテンツと直接関係がないため割愛されがちです。しかし、学びを深めるためにも、事前の場の雰囲気づくりの時間は、思っている以上に重要です。

②相手のバイアスの背景にある価値観や経験を尊重し、頭ごなしに否定しない。否定することで相手が防衛的になってしまうことを避ける

受講者が、アンコンシャス・バイアスを受け入れず抵抗を示すことがしばしばあることは、「3-4. 対象層を広く設けたアンコンシャス・バイアス研修 」でご紹介しました。
そういった時の対応方法をさらに2点ご紹介します。

① 受講者の認知を受け止めて、他の受講者と共に対話する
受講者がアンコンシャス・バイアスを受け入れられず、反発・挑発があったときに、一旦受け止めて対話を行うのは、スタンダードなやり方です。講師が説得するのではなく、受講者同士で対話をすることで、内省が深まり自身のアンコンシャス・バイアスに気付くケースがあります。

例えば、あるスタートアップの経営者は、「女性は、子供産んだら、仕事内容は変わって当たり前だし、報酬も変わるのが当然だ」と考えていました。ただし、対話を通して「日本の生産性を考えたら、子育てをしている女性が活躍できる環境を作っていくことが、経営者の責任だ」と認知が変わり、その場で自身の今までの考えが恥ずかしいと話していたことがありました。 

このように参加者同士の対話を通して、アンコンシャス・バイアスに気付き、受け入れることがあります。

② 受講者の認知に対して、その場で起きている言動・行動を伝え、認知を紐解く
受講者がアンコンシャス・バイアスを受け入れられず、反発・挑発があったときに、受講者自身の認知を目の前に提示する方法があります。提示をすることで、逃げ道を無くし、否が応でもアンコンシャス・バイアスに気づくことになります。

例えば、あるベンチャー企業での研修の事例です。ある事業責任者は、親しみを込めて、軽口を叩いたり、ボディタッチをしていました。ただし、これは女性社員から強烈なセクハラ・パワハラだと捉えていました。本人は、セクハラ・パワハラだとは認めません。その時に、講師は経営者と相談をして、研修の予定をすべて変えて、このセクハラに関して徹底して対話をしました。事実を洗い出し、その上でその背景にどのような思考や感情があるかを紐解いていきました。事業部長は、怒りだし、研修途中であったにもかかわらず、研修会場から、暴言を吐いて出ていきました。研修の後日談として、事業部長自身もセクハラ・パワハラを認め、とても反省したそうです。経営者と面談を行い、降格になりました。 

このように時には、腹をくくって、アンコンシャス・バイアスを扱うことで、組織としての課題を解決していくことにもつながります。

(※)「受講者の認知に対して、その場で起きている言動・行動を伝え、認知を紐解く」に関しては、組織への影響も大きいため、入念な準備や企画者の覚悟、そして経験豊富なファシリテーターではないと、対応ができないケースが多いです。

③ゲームなどの形式をとり、楽しみながら気づきを促す

ゲーム形式の演習などを取り入れ、受講者が楽しみながら参加する形態も有効です。
アンコンシャス・バイアス研修に対して「抵抗」とまではいかずとも、どこか固く構える受講者が多いこともあり、ゲームはそうした雰囲気を和らげるのに非常に有効だからです。

例えば、「3-4. 対象層を広く設けたアンコンシャス・バイアス研修 」では、株式会社クオリア社が開発した「クロスロードゲーム・ダイバーシティ編」から一部の設問を採用しました。本ゲームは、DE&I推進の現場でよく起こるジレンマを取り上げたカードゲームです(例:娘のお迎え日に突発的なトラブルで残業を依頼されたらどうするか)。受講者は、それぞれのケースで、賛成/反対の立場をとり、その多少で勝敗を競います。

設問と似たような経験がある人は、その時の自分の経験から判断します。経験がない場合は、おのずと設問の主人公の立場に立って考えることが促されます。それぞれの立場から判断の理由を述べるプロセスで、対話が促されます。その対話を通じて、自分のアンコンシャス・バイアスに気づくことができます。

そのほかにも、東京大学の学生向けに行っていたワークショップを企業向けに翻案した「組織開発のためのダイバーシティ・ワークショップ(OTDワークショップ)」なども活用することがあります。これは、アンコンシャス・バイアスによって、本当は存在しているのに見落としてしまっているマイノリティの存在に気づき、社会モデルの発想から解決策を考えるのに有効です。

このように、アンコンシャス・バイアス研修では、ゲームなどの形式を活用することによって、受講者の抵抗感をやわらげ、気づきや学びを深めることができます。

4-2. アンコンシャス・バイアスを、ただの「気づき」で終わらせないこと

アンコンシャス・バイアス研修では、自分のそれに気づくだけにとどまらず、具体的にどのように対処したらよいかまで盛り込むことが必要です。

アンコンシャス・バイアスは、自分の言動や組織の慣習、仕組みに現れます。たとえば、会議などで、中年の男性の発言は閉ざされることがない一方、若い人や女性の発言は容易に口を挟まれたりするケースがあります。その背景には、「若者や女性や大した意見を言わない」というアンコンシャス・バイアスが隠れているかもしれません。自分の言動の背景にあるアンコンシャス・バイアスに気づくことは、言動を改めていく第一歩として重要なことは確かです。

しかし、気づけば行動がおのずと変わっていくかというと、それだけでは難しいのが現実です。自分にとっては「あたりまえ」であるアンコンシャス・バイアスが表れた言動も、自分にとっては当然のことなので、改めたらよいか、わからないのが通常だからです。

そこで、是非取り入れていただきたい2つのアプローチをご紹介します。

①アウトプットを伴う演習に取り組む

たとえば、マイクロアグレッションについて説明した項で紹介したように、アンコンシャス・バイアスに基づくような言動について、中立的なものに言い換える演習を行います。あるいは、アンコンシャス・バイアスに基づいた言動の動画を見て、どこが問題か、どう直したらよいかを受講者同士で話し合いすることも有効です。
アンコンシャス・バイアスの起こりやすい状況設定でのロールプレイを行い、その場の俊二の対応でアンコンシャス・バイアスが発動しないかなどまで確かめることができれば、より効果が高まります。

②対処方法について、他の受講者と話し合う

受講者同士で話し合い、他者の考えを聞くことで、自分では何とも思わない言動が、他の人にとっては非常に気になるものであるといったことに気づくことができます。それこそが、アンコンシャス・バイアスへの気づきなのです。さらに、どういった言い方であれば許容できるのか、自分で考えるだけでは限界があります。他の人の考えを聞くことで、改善の選択肢が広げることができます。

4-3. アンコンシャス・バイアス研修後のフォローを丁寧に行うこと

残念ながら、単発の研修だけでは、アンコンシャス・バイアスによる行動を変えていくには限界があります。アンコンシャス・バイアスは、長年の慣習で培われてきており、それが組織的なものになっていればなっているほど、変えようと思っても容易にもともに戻ってしまい、改めるには時間がかかるからです。

企業側としては、変化の度合いをアンコンシャス・バイアス診断などでモニタリングしていくといった取り組みが有効ですが、ここでは「研修」でできることをご紹介します。

・アンコンシャス・バイアスのマイナスの影響が起こらないよう、組織的な取り組みや仕組みを考察する
・研修中に、受講者の行動目標を策定し、それをお互いに共有する

研修の中で作ったアンコンシャス・バイアス克服のプランについては、各職場での実施状況を一定期間、フォローすることをおすすめします。アンコンシャス・バイアス診断の数値などと合わせて把握することで、会社全体のDE&Iの進捗の参考としたり、新たな施策の展開に生かしていくことができるでしょう。

5. まとめ ~アンコンシャス・バイアス研修はアーティエンスにお任せ!~

本コラムでは、アンコンシャス・バイアス研修に関して、下記の4つをお伝えしてました。

1.    アンコンシャス・バイアス研修の基本構成
2.    アンコンシャス・バイアス研修の目的
3.    アンコンシャス・バイアス研修の対象層
4.    アンコンシャス・バイアス研修実施上のポイント

アンコンシャス・バイアスは、短期間のうちに、多くから関心を持たれ、ここ数年でバズワードになりました。今の企業が直面する課題に対する解決の本質が含まれていると考えた人が多いことから、関心が広がったのでしょう。そして、アンコンシャス・バイアスを扱うことは、今の企業が直面する課題に対する解決の本質が含まれています。今の世の中に求められている研修には間違いないです。     

ただし、「アンコンシャス・バイアス研修」は、比較的新しい企業研修です。そのため専門家が多いかというと、そこまで専門家が多いとは言えないでしょう。アンコンシャス・バイアスは、「無意識の偏見」という人の認知を扱うものになり、細心の注意を払って、企画・実施することをお勧め致します。

アンコンシャス・バイアス研修に関するご相談は、ぜひ当社までお問い合わせください。

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参考:digireka!HR / アンガーマネジメントとは?怒りのコントロール方法や企業におけるアンガーマネジメント研修