【事例あり】心理的安全性研修を成功に導く7ステップ

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心理的安全性研修って、一体何のためにやるの?」
「心理的安全性研修で具体的に何をすればいいのかイメージが湧かない…」
「心理的安全性研修で効果なんて出るの?」

心理的安全性研修についてこうした、お悩みの方も多くいらっしゃるのではないかと思います。

心理的安全性は、組織の持続的な成長に欠かすことができません。

事実、Googleが2012年から約4年間をかけて、成功し続けるチームに必要な条件を探る「プロジェクト・アリストテレス」という調査によると、心理的安全性はチームの生産性に最も大きな影響を与えることがわかっています。
心理的安全性の高いチームは、離職率が低く、収益性が高く、マネージャーからの評価も高まるなど、健全な形で成果を上げています

しかし、具体的にどう進めればいいのか、うちの会社で本当に効果が出るのか、不安に感じるかもしれません。

本コラムでは、心理的安全性研修で学びと挑戦を促し組織成果を高めるための準備7ステップを具体例とともに解説します。さらに、心理的安全性研修によって、ハラスメントを脱却した事例や業績がV字回復し事例もご紹介します。

この記事を読んで、貴社の組織にポジティブな効果をもたらす心理的安全性研修を実施し、社員の可能性を最大限に引き出し、持続的な成長を実現しましょう。

執筆者プロフィール
菊地 大翼
組織人事コンサルタント。業界歴15年以上。研修会社に入社し、法人営業で売上トップを達成後、新規商品の開発に従事。現在は人事制度構築支援、成人発達理論に基づいた人材・組織開発のコンサルティングを行っている。

専門性:パフォーマンス・マネジメント、研修開発・ワークショップデザイン、成人発達理論を活用した人材開発・組織開発

目次

1)心理的安全性研修で挑戦と成果を生む関係性をつくる

心理的安全性研修では、仲の良さをゴールにするのではなく、挑戦と学びが促進され、生産性につながる“健全な関係性”を育むことをゴールに研修設計することが重要です。

心理的安全性の研修を検討される企業の方にお話をうかがうと、「まずはお互いをよく知ることが目的」という声を多く耳にします。
相互理解を深めることは、関係の質を高めるうえで有効です。しかし、ただ、分かり合うだけでは、新しい挑戦や行動の変化は生まれません。

本当に大切なのは、心理的安全性によって関係性の土台を整え、そこから“挑戦と成果の循環”が起きる仕組みをつくることです。

心理的安全性によってつくられる【挑戦と成果の循環】

1.メンバー同士の関係の質が高まる
 └ 安心して話し合える土台ができる

2.組織コミュニケーションの質が高まり、メンバー間の学習が促進される
 └ 意見が出やすくなり、フィードバックも活発になる

3.学習が促された結果、新しいチャレンジが生まれる
 └ 現場で新しい行動や試みが始まる

4.チャレンジの結果、成果が生まれ、さらなる学びが促進される
 └ 失敗も前向きに捉えられ、挑戦が文化として根づく

この循環ができると、挑戦が増え、成果が生まれやすくなります。また、挑戦がすぐに成果につながらなくても、「なぜうまくいかなかったのか」を前向きに振り返ることができ、次の学びや行動につながっていきます。

だからこそ、心理的安全性の研修では関係性づくりだけに留まらず、挑戦と学びの連鎖を意図して設計することが重要です。
そうすることで、心理的安全性を高め、成果を出せる組織につながります。

【関連記事】管理職研修の必要性を見極める軸と、実施を妨げる要因への対策を紹介

2)心理的安全性研修の実施前に確認!7つの準備

心理的安全性の研修に向けては、以下の7ステップで進めると良いでしょう。

順番に説明します。

1. チームの状態にあった段階を見極め、ゴールを決定する

心理的安全性研修は、チームの状態に応じた段階とゴールを設定することが最も重要です。

心理的安全性には段階があり、組織やチームの現状によって取り組むべきテーマが異なるためです。現状に合わない目標を設定してしまうと、研修が形骸化し、実践的な効果につながりません。

まずは、自チームが今どの段階にあるのかを正しく見極め、そのうえで次の段階へと進むためのゴールを明確にし、それに沿って心理的安全性研修を設計・実施していくことが求められます

心理的安全性は以下の4つの段階があると言われています。(『4段階で実現する心理的安全性』ティモシー・R・クラーク(著))

第1段階 インクルージョン安全性 Inclusion Safety
自分という存在が、組織に受け入れられていと感じられているかを示す安全性です。

能力があるから、資格があるから、などの条件ではなく、その組織に自分が確かに所属していると感じられる安全性のことです。

第2段階 学習者安全性 Learner Safety
学習に向けて積極的にリスクを取れるかを示す安全性です。

学習は、いつも同じことをやっていても起こりません。うまくいくかどうかがわからないことに取り組んでこそ、学習が促進されます。

第3段階 貢献者安全性 Contributor Safety
相手に貢献するために積極的にリスクを取れるかを示す安全性です。

相手への貢献は、必ずしも相手に確実に喜ばれるとわかっていることばかりではありません。「余計なお世話と思われるかもしれない」、「おせっかいと思われるかもしれない」、そんな恐れを乗り越えて、思い切って相手に声を掛けてみることができる、その時に感じている感覚が、貢献者安全性です。

第4段階 挑戦者安全性 Challenger Safety
挑戦する際に失敗を恐れずに取り組めるかを示す安全性です。

新しいことに挑戦するということは、同時に、失敗の可能性があるということです。その際に失敗を恐れることなく挑戦でき、仮に失敗しても、この組織では大丈夫だ、という感覚が挑戦者安全性です。

これらの段階は、一足飛びに進めるものではありません。
たとえば、第1段階が十分に育っていない状態で第4段階を目指した研修を行なっても、現場では「誰も発言しない」「提案が出ない」といった状況が生まれてしまいます。

だからこそ、まずはサーベイやヒアリングを通して、自チームの現在地を正確に把握し、次に目指すべき段階を設定する。そのうえで、研修によってどんな状態を実現したいのか=ゴールを明確にすることが大切です。

心理的安全性の研修においてゴールを具体化するとは、その段階が満たされたときに、実際に現場ではどんな行動が起きているかを言語化することを意味します。
「心理的安全性が高まった」という抽象的な表現ではなく、実際の言動や雰囲気に落とし込んでおくことで、研修の目的が明確になり、日々の行動変容につながりやすくなります。

たとえば、第1段階の「インクルージョン安全性」であれば、「朝の挨拶や雑談が自然に交わされている」「会議で全員に発言の機会がある」といった、職場内での具体的な関わり方の変化がゴールになります。
第2段階の「学習者安全性」では、「失敗談をチーム内で共有できる」「上司が自らのミスを開示する」といった行動が見られるようになることが、研修の成果と言えるでしょう。

このように、各段階に応じて「どんな行動が見られるようになっていれば、段階が高まったと言えるか?」を、チームの実情に即して具体的に言語化しておくことで、受講者自身がゴールをイメージしやすくなり、上司や人事担当者も研修の成果を観察・支援しやすくなります。

さらに、こうした行動ゴールの言語化は、研修後のフォローアップや評価にも活用できます。

「何が変わったか?」「何が足りなかったか?」を振り返るうえでの基準となり、継続的な改善にも役立ちます。

研修設計の段階で「その段階が満たされたとき、現場ではどんな行動が自然に起きているか?」をできる限り具体的に定めておくことが、成果につながる心理的安全性研修を実現するためには欠かせないプロセスです。

2. 対象層を決める

心理的安全性研修の効果を高めるには、対象となる参加者をできるだけ組織の縮図となるように構成することが重要です。

特定の階層だけで研修を実施すると、現場との温度差が生まれたり、取り組みが一過性のものに終わってしまう可能性があるためです。

たとえば、経営層やマネジャー層だけが参加する研修では、トップダウンになり、やらされ感が生まれやすくなります。

一方で、メンバー層だけで研修を始めた場合は、学んだことを実践しようとしても、上司が理解しておらず、「そんなことしなくていい」と止められてしまうなど、行動が継続しづらくなることがあります。

よって、トップだけ、メンバーだけではなく、トップもいればマネージャーもメンバーも含まれている、組織の縮図になる体制でスタートすることが望ましいです。
こうした編成にすることで、組織内での共通認識が生まれやすくなり、現場での実践もスムーズに進みます。

この考え方は「ホールシステムアプローチ」と呼ばれ、組織変革を成功に導く際の重要なポイントとされています。

※ホールシステムアプローチ:アメリカで開発された、組織内の上下や、分野、部署間の壁を取り払い、特定の課題やテーマに関わるできるだけ多くの関係者を一堂に会して行う話し合いの総称です。

心理的安全性研修を実施する際には、特定の階層に偏らず、できる限り組織全体を反映した構成で対象層を選定することが、研修効果を最大化するポイントです。

3. 手法を決める

心理的安全性研修では、「知識の理解」と「体験による納得感」を両立させるために、知識付与と体験の両方を取り入れることが効果的です。

知識だけを伝えても、頭では理解できても実践にはつながりにくく、逆に体験だけでは「なぜこの学びが必要なのか」という背景理解が薄くなってしまうためです。

そこで、研修構成としては、前半に心理的安全性に関する知識を学ぶパートを設け、後半にワークなどの体験パートを組み込むのが望ましい形です。事前課題として知識インプットを済ませておき、研修当日は体験中心に進めるという設計も効果的です。

知識のパートでは、「心理的安全性とは何か」「なぜそれが職場で重要なのか」といった基礎知識を扱います。研修会社に依頼する場合は、テキスト等にこうした内容が含まれていることが一般的です。内製で行う場合には、以下の書籍を課題図書として活用すると良いでしょう。

■恐れのない組織―「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす/エイミー・C・エドモンドソン (著)
■心理的安全性のつくりかた/石井 遼介 (著)

体験パートでは、「ワークショップ」「ゲーム・アクティビティ」「ダイアログ」といった手法を組み合わせることで、参加者の理解と行動変容を促進できます。

ワークショップ

ワークショップは、心理的安全性を高めるための課題(ワーク)に取り組み、現状の状態を可視化したり、改善のための行動を考えたりします。

目的としては、ワークの体験を通じて、時点でできている点と、できていない点を理解し、実際に心理的安全性を高めるためにはどんなアクションが必要なのか?を理解することです。

たとえば、アーティエンスの心理的安全性研修では、サーベイの結果をもとに自チームの心理的安全性が保たれているかどうかを探求します。
※ アーティエンスの心理的安全性研修のテキストより抜粋

自チームの心理的安全性の強み・課題を言語化し、改善のためのアクションを考えるといったワークも効果的です。

ゲーム・アクティビティ

ゲーム・アクティビティは、関係性の構築や、立場を超えた協働を促す体験型です。
目的としては、普段の仕事や職場環境、立場や能力の違いなどを取り払った上で、スムーズに関係性を構築することが挙げられます。

たとえば、まだお互いに踏み込むことに不安があり、関係性が浅い状態のときには、あえて混乱が起こるようなゲームを行うことで、混乱にどう対処するか、どう乗り越えるかといった気づきを得ることができます。

また、ワークを進めるだけでは深い学びや気づきが得にくい場合や、立場や能力の違う人たちが一緒に参加する際に、その違いを感じさせず、自然に関われる場をつくりたいときにも、ゲームはとても有効です。
役職や能力差を感じさせず、誰もが対等に関われる仕掛けを用いることがポイントです。

※ アーティエンスのチームビルディング研修のテキスト・研修風景より抜粋

ダイアログ

ダイアログとは、特定のワークやアクティビティを行うのではなく、テーマを掲げて(場合によってはあえてテーマを置かないケースもあります)メンバー間で、対話を行うものです。

ダイアログの目的は、特定のテーマについて深くコミュニケーションをすることで、普段は見逃している意見や捉え方のズレに気づく、対立の奥にあるそれぞれの価値観を自己開示して、深い繋がりを創り出す、などが挙げられます。

たとえば
「より良い関係性を築くためにできる最初の一歩は何か?」
「私たちの挑戦を踏みとどまらせているものがあるとすれば、それは何か?」
「お互いがお互いの学習と挑戦を促すためにやってみたいチャレンジは何か?」
などの問いを立てて、内省と共有を行います。

ただ、良いダイアログを行うためには、高度なファシリテーションスキルと経験が必要です。

一見「ただ集まって話すだけ」のように見えるため、誰でもできると思われがちですが、実は多くの注意点があり、ポイントを押さえていないと本音が出てこなかったり、表面的なやり取りだけで終わってしまったりして、研修の目的を果たせなくなるおそれがあります。

そのため、ダイアログを設計・運営する際には、特に慎重な準備と配慮が求められます。


心理的安全性を高めるための取り組みには、数多くの手法があります。知識付与と体験を組み合わせながら、ゴールや目的、参加者、時間などから、適切な手法を選択していくスキルが問われます。

4. 実施形態を決める

心理的安全性研修は、できる限り「対面形式」で実施することをおすすめします。

心理的安全性は“コミュニケーションの質”に深く関わるテーマであり、相手の表情・声のトーン・姿勢といった非言語情報が重要な手がかりとなるためです。対面のほうが、互いの感覚をつかみやすく、安心感の醸成にもつながります。

できる限り、すべての回を対面で実施することですが、どうしても難しい場合は、「初回と最終回だけ対面にする」といったハイブリッド型も有効です。

また、オンラインでの実施が避けられない場合でも、受講者が同じ会議室に集まり、同じ空間で画面を通して参加するようにするだけで、体感は大きく変わります。画面越しでバラバラに参加するよりも、グループとしての一体感や関係性の深まりが生まれやすくなります。

心理的安全性という“関係性”にフォーカスした研修だからこそ、可能な限り、参加者同士の距離感が縮まりやすい対面形式を取り入れることが、研修効果を高めるポイントです。

5. 期間を決める

心理的安全性研修は、単発で終わらせず、3か月〜半年程度の期間をかけて実施するのが効果的です。

なぜなら、心理的安全性は一度の研修で定着するものではなく、実践と振り返りを繰り返す中で、少しずつ組織に浸透していくものだからです。

実際、これまでの研修事例からも、3か月ほど経過すると「上司が変わった」「現場の雰囲気が柔らかくなった」などの声が出始めるケースが多く、一定の時間をかけることで周囲にも変化が見えてくることがわかっています。

効果的な進め方としては、以下の3フェーズに分けて研修を設計するのが望ましいです。

・研修企画・準備
・研修実施
・研修フォロー

研修企画・準備(1~2か月)

心理的安全性という抽象的なテーマだからこそ、企画段階で目的や対象層、実施形式、効果測定方法など「7つのステップ」を丁寧に検討する必要があります。

準備にあたっては、経営者・人事が中心となって方向性を定め、必要に応じて研修会社や外部パートナーの協力を得てもよいでしょう。

並行して、社内サーベイを実施したり、対象層やその上司への事前説明を行うなど、全体の足並みを揃える工夫も重要です。

<準備時に必要な項目例>
・対象層およびその上司への連絡と協力依頼
・必要に応じて事前課題やサーベイの実施
・(内製の場合)研修コンテンツ作成、講師のアサイン
・会議室や備品など、物理的な準備の手配

研修実施(1~2日)

研修は、1〜2日間で実施するのが最も効果的です。これ以上長く行うと、「居心地の良いだけの空間(コンフォートゾーン)」に留まってしまい、学習や挑戦(ラーニングゾーン)に踏み出す動機が弱まる可能性があります。

短期間でも「知識の理解+体験による気づき」を両立させれば、十分にインパクトのある学びが得られます。
より長い期間のプログラムを組む場合は、心理的安全性だけでなく、「問題解決力」「マネジメント」「キャリア」などのテーマも併せて扱うとバランスが取れます。

なお、アーティエンスの心理的安全性向上研修は1日から実施可能です。他のスキル研修と組み合わせての設計にも柔軟に対応できます。

研修フォロー(1~2か月後)

研修直後の熱量を維持し、学びを実践に落とし込むために、1〜2か月後を目安にフォローセッションを行うのが理想的です。
あまりに早すぎると変化が見えず、遅すぎると実践が風化してしまうため、適切なタイミングが求められます。

また、研修後もサーベイや軽い課題などを通じて継続的にリマインドし、「やりっぱなし」にしない仕組みをつくることが、行動定着に直結します。

研修後のフォローワークは、「やらされ感」を極力なくしていく仕組みが必要です。「やらされ感」が高まると、当事者意識・主体性が高まらず受け身になり、研修効果は下がります。たとえば、「本を読みレポートを書く」、「文量の多い研修レポートを書く」などです。

やらされ感を回避するために、アーティエンスでは研修後のフォローワークとして「バトンメール®」を推奨しています。

■バトンメール®
アーティエンスが開発した研修フォローツールです。
受講生4~5名のグループになり、1週間に1回、「研修で学んだことをこんな風に現場で使った」という内容を書いたメールを書いて、次の人に回していくというものです。
受講生の内省と行動変容を促します。

事後課題が多いと管理に関しても、工数が増え、人事(企画側)の手間が増えます。受講生の負担も人事の手間が少ないフォローツールでありながら、研修効果を継続させる内容です。

研修後に行動変容を促す仕組みを整えることで、フォローセッション時に、「自分たちは変わった」という感覚を持ち、組織の心理的安全性が高まっていきます。

このように、心理的安全性の研修は「一度きり」ではなく、「準備→実施→フォロー」を一つの流れとして設計することで、初めて現場の変化や行動につながっていきます。

成果を出すためには、最低でも3か月〜半年の視点でプログラムを考えましょう。

6. 効果測定の方法を決める

心理的安全性研修の効果を確認するには、数値と声の両面から変化を測定する仕組みを設けることが大切です。

心理的安全性は数値だけでは変化を捉えきれない領域も多くあります。だからこそ、定量と定性の両方から変化を可視化することで、効果を正しく判断できるようになります。

定量的な測定の代表例としては、エイミー・C・エドモンドソン氏が提唱した「心理的安全性を定量化する7つの質問」があります。

研修の前後に、この7つの質問に答えてもらうことで、心理的安全性がどのように変化したのかを数字として把握することができます。

・チーム内でミスを起こすと、よく批判をされる
・チームのメンバー内で、課題やネガティブなことを言い合うことができる
・チーム内のメンバーは、異質なものを受け入れない傾向にある
・チームに対して、リスクが考えられるアクションを取っても安心感がある
・チーム内のメンバーにヘルプを出しづらい
・チーム内で自分を騙すようなメンバーはいない
・現在のチームで業務を進める際、自分のスキルが発揮されていると感じる

ただし、これらの数値化だけでは十分とは言えません。実際の変化をより深く捉えるには、参加者の声(自由記述や対話の記録)や、受講者の部下・メンバーからのフィードバックなど、定性的な情報をアンケートや面談を通して集めることも重要です。

心理的安全性という“見えにくい変化”を確かに捉えるためには、「数値」と「声」の両方から研修効果を測定する仕組みを用意しておくことが大切です。

なお、数値と社員の声の効果は定期的に実施し、組織の心理的安全性の状態を把握するようにしましょう。その結果から、改善に向けた具体的なアクションを促し、PDCAサイクルを回すことができます。

7. 現場でのフォローを決める

心理的安全性を高めるには、現場での継続的なフォローアップが不可欠です。
なぜなら、心理的安全性はすぐに高まるものではなく、継続した取り組みをしていかないと低下してしまうものだからです。

具体的には以下のような取り組みがおすすめです。

1.研修をシリーズにして複数回行う
単発の研修で終わらせるのではなく、例えば「3時間の研修を1か月に1回」といった形で複数回にわたって実施することで、継続的な学びと実践を促し、効果の定着をサポートします。

2.事後課題を設ける

研修や話し合いの後に、職場での実践を促すための具体的な課題を設定することも効果的です。これにより、学んだ内容を実際の業務に落とし込み、行動変容を促進することができます。

これらの取り組みに加え、社内ファシリテーターを育成し、メンバー同士の対話の場を定期的に設けることも非常に有効です。ファシリテーターが質の高い対話を促進することで、メンバーが安心して意見を出しやすい環境が醸成され、心理的安全性の向上に大きく貢献します。

社内ファシリテーター育成の詳しい内容は、 ファシリテーターになるには?~何を目指し、身に付ければいいのか~ をご覧下さい。

このように、研修の継続的な実施、事後課題による実践の促進を通じて、現場での継続的な取り組みをサポートすることが、心理的安全性の向上に繋がります。


効果的な心理的安全性研修を実施するためには、以上の7つのステップを計画的に進めることが重要です。
これらのステップを踏むことで、心理的安全性研修は形骸化することなく、組織文化の変革とパフォーマンス向上につながります。

3)心理的安全性研修を実施する際の注意点3つ

心理的安全性研修を実施する際に注意すべきことが3つあります。

1.心理的安全性の醸成は、長期的に取り組むこと
2.本音のぶつかり合いによる一時的な関係性悪化を理解しておくこと
3.講師やファシリテーターの選定が心理的安全性研修の質を左右すること

それぞれ説明します。

1.心理的安全性の醸成は、長期的に取り組むこと

心理的安全性は、すぐに高まるものではありません。組織文化や個人の行動を変えるには時間が必要だからです。

例えば、これまで意見を言えなかった人が積極的に発言するようになるには、安心感が醸成されるだけでなく、実際に発言してみて「大丈夫だった」という経験を積み重ねる必要があります。

そのため、研修を実施したらすぐに効果が出る、と期待するのではなく、長期的な視点を持って継続的に取り組むことが重要です。

2.本音のぶつかり合いによる一時的な関係性悪化を理解しておくこと

心理的安全性が高まり、メンバーが本音で話し合えるようになると、これまで隠れていた意見の対立や、関係性の摩擦が一時的に生じることがあります。
これは、チームがより成熟していく過程で避けられない「成長痛」のようなものです。

【参考】アーティエンスの「メンバー向けチームビルディング研修」より抜粋

たとえば、今まで言えなかった不満が表面化したり、意見の食い違いがはっきりしたりすることもあるでしょう。

しかし、これは心理的安全性が確保され始め、問題が可視化された証拠でもあります。
この一時的な悪化を恐れず、乗り越えることで、より強固な関係性を築くことができると理解しておくことが大切です。

3.講師やファシリテーターの選定が心理的安全性研修の質を左右すること

心理的安全性研修では、参加者から本音や時にはネガティブな意見が飛び出すなど、予想外の展開になることがあります。このような状況で、場を適切にコントロールし、参加者が安心して学びを深められるかどうかは、講師やファシリテーターのスキルに大きく依存します。

たとえば、意見の対立が起きた際に、それを建設的な議論へと導けるか、あるいは参加者全員が安心して発言できる雰囲気を作り出せるか、といった点が重要になります。

そのため、研修の質を最大限に高めるためには、高い専門性と経験を持つ講師やファシリテーターを選ぶことが非常に重要です。


これらの注意点を踏まえ、戦略的に研修を計画・実行することで、心理的安全性研修の質と効果を高められます。

4)心理的安全性の研修によって課題を解決した2つの事例

アーティエンスにて心理的安全性の研修を実施した2つの組織の事例をお伝えします。

事例1)パワハラ工場長が栄転し、職場の心理的安全性も向上

項目 詳細内容
業種 食品メーカー
企業規模 80名程度
実施方法 全社員でのワークショップ
課題意識 ・パワハラがある
・社員の縄張り意識が強く、陰口が多い
心理的安全性研修の実施理由 ・パワハラを無くしたい
・社員での一体感を持ってほしい
得られた効果 ・パワハラ・セクハラ減少
・社員同士の助け合い

抱えていた課題

社員約80名の食品メーカーは、以下の深刻な課題を抱えていました。

・パワハラの蔓延
特に工場長によるパワハラが常態化しており、ハラスメント窓口も機能不全に陥っていました。

・強い縄張り意識と陰口
社員間の縄張り意識が強く、陰口や不満が蔓延し、社内の人間関係が悪化していました。

・人材流出
ハラスメントや人間関係の悪化が原因で、社員の離職が相次いでいました。

・一体感の欠如
組織としての一体感がなく、社員が協力し合える環境ではありませんでした。

  • 研修内容と実施アプローチ

これらの課題を解決し、パワハラをなくして社員の一体感を醸成するため、全社員を対象とした心理的安全性研修が実施されました。

まず、会社の縮図となるよう、役職、年齢、性別、ハイパフォーマー・ローパフォーマーなど、多様な社員でチームを構成しました。最もパワハラをしていた工場長もこのチームに参加しました。

企画段階では、若手社員や契約社員のメンバーが、「みんな、文句ばかり。何かあっても、上司も見て見ぬふりをしている。私たちもそう」という勇気ある発言をしました。さらに探求を深めていくと、多くの社員も本当は目の前にある課題を解決したいと思っていました。このような社員の声を丁寧に聞きながら企画を進め、当日を迎えました。

研修当日は、お互いのことを知るためのワークと、OST(オープンスペーステクノロジー)という手法を用いました。

※ OST (オープンシステムテクノロジー):ハリソン・オーエン(Harrison Owen)氏が1985年に提唱。数人から数百人全員が一堂に会して話し合い、人々のコミットメントを引き出し、主体的な話し合いを通して垣根を超えた問題解決への取り組みを促すファシリテーションのプロセスです。 

お互いのことを知るためのワークは問題なく進み、OSTでも積極的に議論と対話が重ねられました。そして、社員全員で「心理的安全性を創るための施策」を一つコミットしようと試みました。
しかし、さまざまなアイデアが出る中で、最後の最後までパワハラをする工場長一人だけが反対し、そのワークショップは終わりました。企画チームのメンバーの一人は、工場長が許せないという言葉を最後に言っていました。

このワークショップ中にパワハラ工場長に目に見える変化はありませんでしたが、この時間が彼にとって何かしらの「気づき」や「変化のきっかけ」となっていました。

研修中に劇的な変化が見られなくても、その後で大きな変容が起きることはよくあるため、焦らずにその後の経過を見守ることも大切です。

得られた効果と変化

研修直後から継続的なフォローを通じて、以下のような目覚ましい効果と変化が見られました。

工場長の行動変容と栄転
研修の翌朝、連絡事項しか話さなかった工場長が自ら「本日もよろしくお願いします」と挨拶し、多くの社員を驚かせました。また、その日以降パワハラもすっかりなくなりました。
その後、企画チームが積極的に挨拶やフォローを行ったことで、工場長の振る舞いは大きく改善。1年後には、親会社への栄転という形で、その変革が認められました。

ハラスメントの減少
パワハラやセクハラが目に見えて減少し、社員が安心して働ける環境に近づきました。

社員間の助け合いと関係性改善
1ヶ月強後のフォローセッションでは、「笑顔が増え、ちょっとした気遣いや手伝いが増えた」「不満があった場合は、お互いちゃんと伝え合っている」といった声が聞かれるようになり、社員同士の良好な関係性が構築されました。

組織全体への波及
企画チームの積極的な働きかけが他の社員にも伝播し、組織全体で心理的安全性を高める動きが広がりました。

この事例は、単発の研修で終わらず、多様なメンバーを巻き込み、継続的な働きかけを行うことで、組織文化の深い部分にまで変革を促し、劇的な成果を生み出すことを示しています。

事例2)売挑戦風土が生まれ、売上・利益がV字回復

項目 詳細内容
業種 人材紹介会社
企業規模 30名程度
実施方法 経営陣と幹部社員対象のワークショップ
課題意識 ・売上・利益の大幅な減少
・挑戦しない風土
心理的安全性研修の実施理由 ・売上・利益を回復するために、新規事業に挑戦するような風土を創りたい
得られた効果 ・売上・利益のV字回復
・現場への権限移譲

抱えていた課題

この企業(人材紹介会社、社員約30名)は、以下の課題に直面していました。

・売上・利益の大幅な減少
業績が低迷し、回復に向けた打開策が求められていました。

・挑戦しない風土
幹部社員が受け身で、新しいことへの挑戦が見られない状態でした。専務は「私と社長だけが頑張っている!」と感じるほど、経営陣だけが孤立している状況でした。

研修内容と実施アプローチ

売上・利益を回復し、新規事業に挑戦するような風土を創ることを目的に、経営陣と幹部社員を対象としたワークショップが実施されました。

まず、経営陣と幹部社員が現状をどのように見ているかを把握するためのミーティングが行われました。
安心安全に話せる場を創るワークを通じて、ファシリテーターが「本当に皆さんは変わりたいか」と問いかけたところ、全員が「変わりたい」という意思を示したため、プロセスワークという心理学的なアプローチが導入されました。

このワークの途中、営業部長が自組織の問題点と解決策を理論整然と語り始めました。しかし、営業部長が話し終える前に、専務が「なんで、そんなにいいことを考えていて、いつものミーティングだと言わないんだ!」と怒り出してしまいます。これに対し、営業部長は静寂の中、勇気を出して「専務がそのような言い方なので、私たちは何も言えないんですよ」と伝えました。

この言葉の後、専務は顔を真っ赤にして、ドアを叩きつけるように部屋を出て行ってしまいました。
その後、残ったメンバーで今後の進め方について対話を行い、ワークショップは終了しました。

得られた効果と変化

研修後のフォローセッションは実施されなかったものの、専務との打ち合わせで以下のような劇的なアフターストーリーが語られました。

現場への権限移譲と挑戦する風土の醸成
専務は研修での出来事を反省し、「私が問題だったんですね」と自身の行動を見つめ直しました。そして、自らが現場から一歩引く決断を下した結果、現場社員が新しい施策を自ら考え、主体的に動くようになりました。
これは、組織の挑戦しない風土が変化し、現場への権限移譲が進んだ証拠と言えます。

売上・利益のV字回復
業績が劇的に回復し、当初の目標であった売上・利益の回復が実現しました。

この事例は、研修中に専務が感情的に場を離れるという厳しい場面があったにもかかわらず、その経験が専務自身の深い内省と行動変容に繋がり、組織全体の心理的安全性を推進し、生産性を向上させたケースです。

心理的安全性は、ただ話し合ったり理論を学ぶだけでは高まりません。本当に大切なのは、安心して本音を話せる場を作り、普段は避けがちな深い対話を実際に経験することです。こうした場を設けることで、組織は健全になり、生産性も上がっていきます。

5)心理的安全性の研修の実施の際に、よくある質問

本章では、心理的安全性研修をご検討中の企業様からよくいただく質問に回答していきます。

Q1. 心理的安全性の研修を行う際に大切なポイントは何ですか?

組織の現状を正確に見極め、無理のないゴールを設定することが最も重要です。

組織の状態は急には変わりません。現状とかけ離れた目標を設定すると、研修の計画自体が難しくなったり、参加者に過度な負担を強いることになり、結果として効果的な研修になりません。

たとえば、本音を言えていない段階で、いきなり「お互いにサポートし合ってほしい」と求めても、限界があるでしょう。

そのため、組織の「今」の段階を理解し、それに合った現実的なゴールを設定することが成功の鍵となります。

Q2. 心理的安全性の研修の対象者はどのように決めるとよいですか?

組織の縮図となるよう、多様な階層のメンバーを含めることが理想的です。

トップやマネージャー層だけ、あるいは部下やメンバークラスだけを対象にすると、それぞれの階層で認識のズレが生じ、「やらされ感」が生まれたり、現場での実践が進みにくくなったりします。

たとえば、トップ層だけの研修ではトップダウンになりがちで、メンバー層だけの研修では、学んだことを実践しようとしても上司の理解が得られずブレーキがかかることがあります。

そのため、経営層、マネージャー、メンバーがバランス良く参加する体制で始めるのが望ましいです。

Q3. 心理的安全性の研修の講師はどのように選ぶとよいですか?

参加者が本音を明かしやすい、経験豊富なプロ講師を選ぶことが望ましいです。

心理的安全性研修では、普段は口にしないような本音も含めて語り合うことが求められます。
そのため、気兼ねなく意見を言える環境を作れるかが重要です。

気兼ねなく意見を言い合えるといった観点では、外部のプロ講師に依頼をするのがよいでしょう。
プロ講師は、多様な知見と経験を持っており、意見が対立したり沈黙が続いたりする場でも柔軟に対応し、建設的な対話へと導くことができます。

もし社内講師が担当する場合でも、「場の心理的安全性を高く保てるか」という観点で選定することが非常に重要です。

Q4. 心理的安全性の研修の効果はどのように測定すればいいですか?

定量的な指標と定性的な情報の両方で測定するのが効果的です。
定量的な効果測定には、エイミー・C・エドモンドソン氏が提唱する「心理的安全性を定量化する7つの質問」などの尺度を活用し、研修の前後で変化を把握すると良いでしょう。

1.チーム内でミスを起こすと、よく批判をされる
2.チームのメンバー内で、課題やネガティブなことを言い合うことができる
3.チーム内のメンバーは、異質なものを受け入れない傾向にある
4.チームに対して、リスクが考えられるアクションを取っても安心感がある
5.チーム内のメンバーにヘルプを出しづらい
6.チーム内で自分を騙すようなメンバーはいない
7.現在のチームで業務を進める際、自分のスキルが発揮されていると感じる

しかし、数値だけでは捉えきれない部分も多いため、参加者の自由記述アンケートや、部下・メンバーからのフィードバックといった定性的な情報も合わせて集めることで、より深く多角的に効果を検証できます。

Q5. 心理的安全性の研修の研修を行ってから、どの程度で研修効果が出ますか?

参加者本人が効果を体感するには1ヶ月程度、周囲が体感するには3ヶ月〜半年程度が目安です。

実際に研修を行った多くの事例から、参加者自身が変化を感じ始めるのは約1ヶ月後、そしてその変化が周囲にも伝わり、組織全体で効果が感じられるようになるには3ヶ月から半年程度かかることが多いです。

この期間を考慮し、研修の企画やフォローアップの計画を立てることで、効果的な心理的安全性向上の取り組みを進めましょう。

Q6. 心理的安全性の研修は、メンタルヘルスの問題にも対応できますか?

心理的安全性とメンタルヘルスは重なる領域もあるとは思いますが、心理的安全性研修は、基本的にメンタルヘルスの専門知識や法令を扱うものではないため、別途専門家による対応を検討することをおすすめします。

心理的安全性研修の主な目的は組織内のコミュニケーションや風土の改善にあります。もし研修内容にメンタルヘルスの要素を組み込みたい場合は、カウンセラーなどの専門家による監修のもとで実施することが重要です。

6)まとめ|心理的安全性研修はアーティエンスにおまかせ

心理的安全性研修は正しいプロセスに沿って、企画・実施することで、より高い成果を生むことができます。

特に以下のような状況で、その効果は絶大です。

・人間関係が悪化し、業務や組織運営に支障が出ている
・新しい挑戦が求められているのに、組織が保守的になっている
・新しいビジョンや戦略が発表され、従来の常識を変えて大きく方向転換する必要がある

しかし、安易に研修を実施してしまうと、「研修は良かったけれど、現場は何も変わらない」という結果に終わりがちです。
心理的安全性には様々な理論的背景や考え方があり、研修の目的やゴールから逆算して手法を検討しなければ、期待する効果は得られません

アーティエンスでは、心理的安全性向上研修や関係性向上のための研修を提供しています。心理的安全性でお困りのことがあれば、まずはお気軽にご相談ください。無料で貴社の現場から考えられる課題や対策についてお伝えいたします。

心理的安全性研修によって、誰もが安心して発言し、挑戦できる、活気ある組織を共に築き上げましょう。