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[ コラム ]
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管理職が能力不足に陥る2つのパターンと解決策
更新日:
管理職の能力不足にまつわるお悩みを、多くの企業で耳にするようになっています。
実は、「管理職の能力不足」と言われる状況の背景には、大きく2つのパターンが存在します。
パターン①:管理職に必要な能力そのものが足りていない
パターン②:管理職に必要な能力はあるのに発揮されていない
この違いを見誤ると、効果の薄い研修や配置のまま時間が過ぎてしまい、組織全体の停滞や離職のリスクを招くことにもなりかねません。
本コラムでは、管理職が能力不足に陥る2パターンの原因整理と、現実的な支援策をわかりやすく解説します。
さらに、管理職の能力が不足している状態が組織に与える影響と、改善に向けてどこから着手すべきかも明らかにしていきます。
管理職一人ひとりの可能性が引き出され、挑戦と安心が共存する組織を、一歩ずつ一緒につくっていきましょう。
専門性:インタラクショナルデザインコーチング、キャリア開発、メンタルヘルス/レジリエンス
目次
1)管理職が能力不足に陥る2つのパターンと5つの原因
管理職として期待されたものの、うまく機能しないケースには、主に2つのパターンがあります。
【パターン①】管理職に必要な能力そのものが足りない
【パターン②】管理職に必要な能力はあるのに発揮されない
2つのパターンで原因と対策は異なるため、まずはパターンを見極めることが重要です。
1-1. 【パターン①】管理職に必要な能力そのものが足りない場合
管理職が十分に機能しない原因のひとつに、「そもそも求められるスキルや経験が足りていない」というケースがあります。
①管理職に必要なスキルの学習・経験が足りない
管理職には、個人としての成果だけでなく、メンバーの成長を支援し、チーム全体の成果を生み出すためのマネジメントスキルが求められます。
しかし、こうしたスキルを学ぶ機会や実践経験が不足していると、結果的に管理職としての能力が足りないように見えてしまいます。
これらのスキルは、意識的に学び、経験を重ねることが必要です。そうでないと以下のようなことが起きてしまいます。
営業で高い実績を上げてきた田中さんは、30代前半で管理職に抜擢されました。しかし、これまで後輩指導やチーム運営の経験はなく、自身の営業スタイルをそのまま部下に伝えようとしました。
結果として、メンバーは思うように成果を出せず、メンバーが「田中さんのもとで働くのが辛い」と感じるようになってしまいました。
田中さんはプレイヤーとしては非常に優秀でしたが、管理職として必要な知識や経験が不足していたことで、チームをまとめることができなかったのです。
管理職としての役割を果たすためには、プレイヤー時代の実績とは別に、部下育成やチームマネジメントに関する学習と経験の積み重ねが欠かせません。
② 管理職として一部の学習・経験に固執している
管理職には、部下一人ひとりの特性に合わせた柔軟な対応力が求められます。
しかし、過去の成功体験や特定の関わり方に固執してしまうと、異なるタイプの部下に対応できず、マネジメントが機能しなくなる可能性があります。
たとえば、鈴木さんは30代後半の営業部の管理職で、営業実績も豊富、さらに後輩指導でも高い成果を上げてきた方です。「部下指導とは、任せること」という信念を持ち、これまで多くの自律的な部下を、支援的なスタイルで育成してきました。
ある日、そんな鈴木さんのチームに、新たに金子さんという中途社員が加わりました。金子さんは、自信がなく、仕事への不安感が大きく、おどおどした様子が目立つタイプでした。
鈴木さんはこれまで通り、支援的なスタイルで金子さんに接し続けましたが、うまくかみ合わず、金子さんの不安はさらに大きくなっていきました。やがて金子さんは出社が難しくなり、最終的には休職に至ってしまいました。
鈴木さんには豊富な経験があったものの、それは「支援的なスタイル」という一方向に偏ったものでした。その結果、異なるタイプの部下には通用せず、学習や経験の幅を広げてこなかったことが、結果的にマネジメントの限界を生んでしまったのです。
このように、管理職として機能するためには、過去の成功体験に固執せず、常に多様な部下に対応するための柔軟な学びと経験を重ねていくことが求められます。
プレイヤーとしての実績があっても、管理職としての役割を果たすには別のスキルと視点が必要です。意識的な学びと経験の幅を広げることが、管理職としての成長に不可欠です。
1-2. 【パターン②】管理職に必要な能力はあるのに発揮されない場合
管理職が十分に機能しない原因のもうひとつに、「スキルや経験はあるのに、それを発揮できていない」というケースがあります。
この場合、問題の本質は能力の有無ではなく、それを活かすための環境や意識、状態にあることが多く見られます。
ここでは、能力は備えているにもかかわらず成果につながらない以下の3つの要因
①職務とのミスマッチ
②意欲・態度の問題
③個人的な事情
について整理していきます。
① 職務とのミスマッチ
管理職には、個人の能力だけでなく、その人の「強み」が職務とどれだけ噛み合っているかも重要な要素です。
どれほど能力があっても、本人の強みと職務の特性が合っていなければ、十分に力を発揮することはできません。強みを活かせない環境ではパフォーマンスが上がりにくく、本人のストレスや負担も増してしまうためです。
これは、右利きの人が左手で文字を書くようなもので、努力によってある程度は対応できたとしても、自然な力の出し方とは異なるため、パフォーマンスの質や持続性に限界が出てきます。
たとえば、自分のペースで計画的に物事を進めるのが得意で、コツコツと実績を重ねてきたAさんがいたとします。
これまでの評価は、その几帳面さや確実性に支えられてきました。ところが、管理職になった途端、部下や関係部署と臨機応変に連携しながらプロジェクトを進める業務が中心となり、Aさんの強みが発揮しづらくなってしまいました。
結果として、対応に追われて計画が乱れたり、意思決定に時間がかかる場面が増え、周囲との連携にも苦労するようになりました。
このように、職務と本人の強みにミスマッチがあると、どれほど真面目に取り組んでいても成果につながりにくく、本人にとっても大きなストレスとなります。
管理職としての力を引き出すためには、「学習や経験を積むかどうか」だけでなく、そもそもその職務が本人の強みや特性と合っているかを見極めることが非常に重要です。
② 意欲・態度の問題
管理職として能力を発揮するためには、「スキル」や「経験」だけでなく、その役割に対する意欲や姿勢も非常に重要です。
意欲や態度は行動量に直結するためです。やる気が持てない仕事には本気で取り組めず、優先順位も下がり、学んだことを現場で実践する機会も失われがちです。
たとえば、ある社員は本来、研究職として専門性を高めていきたいと考えていたものの、組織の方針で管理職に昇格しました。
しかし本人は管理職の仕事に魅力を感じられず、どうしても自分の専門業務に時間を多く使ってしまい、部下育成やチーム運営には消極的なままでした。その結果、チーム内でのフォローが手薄になり、部下からの信頼や期待にも応えられない状態が続いていました。
このように、意欲や態度の問題がある場合、たとえ知識やスキルがあっても、それを活かす行動が伴わず、管理職としての成果に結びつきにくくなります。
したがって、能力開発だけでなく、「本人がその役割にどれだけ前向きか」という意識の部分にも目を向けることが重要です。
③ 個人的な事情
管理職として十分な能力を持っていたとしても、身体的・精神的な不調やプライベートの問題など、個人的な事情によって力を発揮できない場合があります。
身の状態や私生活の負荷は、集中力や判断力、行動力に直接影響を与えるためです。どれだけ意欲やスキルがあっても、それを活かす土台となる「安定したコンディション」が崩れていれば、本来のパフォーマンスを発揮することは難しくなります。
たとえば、以下のような状況が想定できます。
■身体的な理由の例
内臓の疾患を抱えており、毎日体が重く、息切れしやすい状態が続いている。思考もスムーズに回らず、判断力にも不安があるが、体調のことを会社に伝えると降格されるかもしれないという不安から、報告できずに通院を続けながら業務を続けている。
■精神的な理由の例
3ヶ月ほど前から睡眠がうまくとれず、否定的な思考が繰り返し浮かぶようになった。病院ではうつ病と診断されており、仕事に集中したくても、睡眠不足の影響で思考がまとまらず、判断力が鈍る場面がある。会社にはまだ伝えられていない。
■プライベートに問題を抱えている例
中学生の息子が不登校になり、妻は学校対応で心身ともに疲れ切っている。妻の負担を軽減するため、家事全般を担うようにし、毎晩息子との会話の時間も確保するようにしている。家庭の事情をなんとか支えたいという思いから、仕事との両立に苦慮している。
このように、個人的な事情は外からは見えにくいものの、管理職としての行動や判断に深く影響する場合があります。
能力や意欲があっても発揮されていないと感じるときには、本人の置かれている状況や背景を丁寧に確認することが大切です。
能力そのものはあるにもかかわらず、管理職としての力が発揮されていない背景には、職務とのミスマッチ、意欲や態度の問題、個人的な事情といった多様な要因が存在します。
どれも外からは見えにくい要素ですが、本人の強みや価値観、コンディションと職務のあり方が噛み合っていないと、パフォーマンスは著しく低下してしまいます。
「能力不足」に見える状況のすべてがスキルの問題ではありません。管理職としての成果を引き出すためには、学習機会の提供だけでなく、役割との適合性や、意欲・状態・環境など“発揮を妨げる要因”に目を向けることが必要です。
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2)【原因別】管理職の能力が不足している時の2つの対策
管理職の能力不足に対応するには、原因に合わせて「個人の強化」と「環境の強化」の両面から支援策を検討することが重要です。
2-1. 【パターン①】能力そのものが足りない場合:個人の強化
能力そのものが足りない場合には、知識の習得や経験機会の提供といった「個人の強化」が必要です。
たとえば、マネジメント研修やOJT支援、視野を広げるためのアンラーニング研修などが効果的です。
| 分類 | 対策時の方針 | 無意味な対策 |
|---|---|---|
| ① 学習・経験が足りない | 「知識の学習」や「経験の機会」の提供 (例:マネジメント研修、OJT研修) |
行動促進に特化した対策(不足している能力部分を評価へ反映する等) |
| ② 学習・経験が偏っている | 自身の「固執」に気づかせ、視野を広げる (例:アンラーニング研修、アンコンシャス・バイアス研修) |
スキルの付与だけでは不十分 (固執に気付かなければ、自身のやり方を見直さない) |
2-2. 【パターン②】能力はあるのに発揮されない場合:環境の強化
一方、能力はあるのに発揮されない場合には、環境側の要因が大きいため、「環境の強化」が求められます。
たとえば、強みに合った配置の見直しや、意欲を引き出すキャリア支援、健康や家庭状況をふまえた柔軟な働き方の整備などが該当します。
| 分類 | 対策時の方針 | 無意味な対策 |
|---|---|---|
| ① 職務とのミスマッチ | 本人の強みと職務の適合を見直す。必要に応じて配置転換を検討 | 単なる学習・経験の機会提供(根本的なミスマッチは努力で補えない) |
| ② 意欲・態度の問題 | 「やりたい/やるべき」の意識へのアプローチ。キャリアの見直し、対話支援など | 研修や学習機会の提供 (行動促進だけに頼った施策では動かない) |
| ③ 個人的な事情 | 健康状態や家庭状況をふまえた支援 (例:柔軟な働き方、ケア面談、外部相談窓口など) |
スキル研修 (学習機会を与えても、そもそも参加・集中が難しい) |
このように、管理職の能力不足には一律の対策ではなく、「能力のそのものが足りていないのか」か「発揮されていないのか」を見極めたうえで、個人と環境の両面にアプローチすることが、現実的かつ効果的な支援につながります。
【関連記事】管理職研修の必要性を見極める軸と、実施を妨げる要因への対策を紹介
3)管理職の能力不足の現状が組織に与える影響
管理職の能力不足が、組織にどのような影響を与えているのかを捉えるには、「どのような能力が、どの程度不足しているのか」を見極めることが欠かせません。
そのための視点として有効なのが、次の2つの軸です。
●成果が高いか低いか
例:成果目標を達成できているか否かなど
●問題の発生率が高いか低いか
例:パワハラが発生数/残業量/人間関係/ミスの量/隠蔽・報告漏れの量/勤務態度など

この2軸4分類で管理職の状態を分類することで、能力不足がもたらす組織への影響を、より具体的に捉えることができます。
このように分類した上で、それぞれの状態が組織にどのような影響を及ぼすのかを整理していくことで、課題の深刻度や対応の優先順位を明確にできます。
次に、これら4タイプのうち①②③の状態が、組織全体にどのような影響を与えるのかを具体的に見ていきましょう。
3-1. 成長が停滞し、挑戦しない組織になる
成果が低く、問題の発生率が低い場合、一見安定しているように見えますが、実は組織の成長が停滞している兆候です。放置すると、挑戦や達成の機会が減り、メンバーの成長意欲が低下していきます。
成果が出にくい状態が続くと、メンバーは成功体験を得ることができず、「できる気がしない」という感覚(自己効力感の低下)に陥りやすくなるためです。
自己効力感が失われると、挑戦する意欲や新しい仕事への前向きな姿勢も損なわれていきます。
例えば、残業や人間関係のトラブルなど大きな問題は起きていないけれど、成果が出ず、社内に停滞した空気が漂っている組織では、社員が「やりがい」や「達成感」を感じにくくなっています。安定しているようで、実際は組織が挑戦をやめてしまう“ぬるま湯状態”に陥っている可能性があります。
この状態では「安心して働ける職場」であることは強みですが、それが「挑戦しない職場」に変わってしまわないよう、成果を出すための具体的な仕掛けが必要です。安定を維持しつつ、少しずつ挑戦を促す支援を検討しましょう。
3-2. 一見好調だが、組織が崩れる予兆を抱える
成果は出ているものの、職場で問題が多発している状態は、将来的な崩壊リスクをはらんでいます。組織の中で“目に見えないひずみ”が積み重なっている状態です。
短期的には成果が出ていても、やがて人的資源の損失や顧客トラブルの増加などに発展し、長期的には成果の維持すら困難になります。
たとえば、成果は上がっているが、部下が毎日遅くまで働いていたり、強いプレッシャーを感じていたりする状況です。一見「頑張っている」と評価されがちですが、実際は無理が重なり、誰かが限界を迎えている状態かもしれません。クレームや人間関係のトラブルも多く、負の連鎖が始まりかけている可能性があります。
このような状態は、「成果が出ているから問題なし」とは決して言えません。問題がどの程度深刻かを見極め、必要に応じてマネジメントスタイルの見直しや職場環境の改善に早急に着手することが重要です。
管理職のパワハラ対応に関して興味がある方は、下記コラムを参考にしてください。
管理職にパワハラ対策を後回しにされる…行動を促す3つのポイント
3-3. 機能不全に陥り、早急な立て直しが求められる
成果も上がらず、問題も多発している状態は、すでに組織が機能不全に陥っている可能性が高く、早急な対応が必要です。
この状態を放置すると、さらに深刻な問題へと発展し、メンバーの大量離職や顧客との信頼関係の崩壊、企業全体の信頼失墜など、甚大なダメージにつながりかねません。
たとえば、売上は伸びず、クレームが絶えず、メンバー同士のトラブルや怠慢な勤務も目立つといった状況です。管理職一人の力では対応しきれず、組織全体が疲弊している状態です。
不正のリスクが高まり、経営リスクに直結するような事態を招く可能性もあります。
このような状態では、管理職の交代や上層部の直接的な介入が求められます。部分的な改善では追いつかないため、組織構造やマネジメント体制の抜本的な見直しが必要です。
管理職の能力不足は、単に「成果が出ない」「問題が多い」といった表面的な課題にとどまらず、組織の成長力・持続力に直結する重大なリスクです。
「いま、どの状態にあるか」を見極めたうえで、対処すべき課題の本質を捉え、必要な対策に優先順位をつけて取り組むことが大切です。
4)まとめ|管理職の“能力不足”の本質を見極め、現実的な支援を
管理職が機能しない背景には、「スキルが足りない」だけでなく、「スキルを発揮できない」環境や状態も大きく関係しています。
本コラムでは、2つのパターンと5つの原因に分けて、具体的な対策や支援の方向性をご紹介しました。
重要なのは、表面的な行動だけで判断せず、本人の能力・意欲・状態と職務の適合性を丁寧に見極めることです。そして、必要に応じて「学びの機会」を設けたり、「環境の見直し」や「対話支援」を行うことで、管理職本来の力を引き出していくことが可能になります。
管理職の“力の発揮”は、組織の成果と土台を支える鍵です。もし現在、管理職に関して以下のような兆候が見られるようでしたら、今が見直しのタイミングかもしれません。
・成果は出ているが、問題が絶えない
・安定しているが、挑戦する動きが乏しい
・管理職の負荷が高く、機能不全の兆しがある
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