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[ コラム ]
【管理職が部下育成ですべき5つの行動】長期的な組織の成長を促す
- 「管理職に部下育成を強化してもらいたいが、改善策を提示できない…」「管理職の部下育成の質を高めて、組織をより強めていきたい…」ラーニングイノベーション総合研究所が2023年に実施した「管理職意識調査(部下へのフィードバック実態編)」の調査に
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部下に遠慮する上司を変える。実践!率直に伝え合う関係を促す7つの仕組み
「叱るとハラスメントと言われそうで怖い」
「強く言うと部下が辞めてしまいそう」――そんな不安から、つい部下に踏み込めない。
あなたの現場にも、心当たりはありませんか?
誰も関係を壊したくないし、良い上司でありたい。心理的安全性を大切にする今だからこそ、「言わない優しさ」を選びたくなる瞬間が増えています。
しかし、実は遠慮は、上司個人の性格ではなく、時代の流れ・制度設計・組織文化が生んだ構造的な課題によるものです。上司たちは知らず知らずのうちに、「遠慮」を学習してしまっています。
だからこそ、信頼を壊さずに率直に伝え合える関係を、仕組みとして設計することが必要です。
このコラムでは、遠慮が生まれる背景と悪循環、そして今日から実装できる支援策を具体的にご紹介します。
読み終える頃には、「関係を壊さないために黙る組織」から「信頼と目的で言葉を交わし、成果をつくる組織」になる手がかりが、見つかっているはずです。
“言わないことで守る安心”から、“率直に伝えて高め合う信頼”を促す組織を作りましょう。
1)なぜ上司は部下に遠慮してしまうのか?
遠慮が生まれる背景には、単なる性格や個人の問題ではなく、時代の変化・制度設計・組織文化といった構造的な要因が存在します。
この章では、上司が遠慮してしまう5つの背景を整理しながら、その構造を明らかにしていきます。
背景① ハラスメントを恐れる“過剰な安全志向”
上司が遠慮する最大の要因のひとつは、「ハラスメントを恐れるあまり、指導そのものを避けてしまう」ことです。
パワハラ防止法施行以降、多くの企業が「心理的安全性」や「安心して働ける職場づくり」を推進してきました。この流れ自体は重要ですが、現場では「厳しく言うこと=ハラスメントになるかもしれない」という過剰な安全志向が広がっています。
「叱る=リスク」と感じてしまうと、必要な指摘すらできなくなります。
たとえば、ある上司がミスを繰り返す部下に対して「次は気をつけてね」とだけ伝えるケース。
本当は「なぜミスが起きたのか」「どう改善すればよいか」を具体的に伝えるべきですが、「強く言ったら傷つくかも」と感じ、あえて踏み込まないと、結果として、ミスは再発し、上司の負担だけが増えていきます。
「ハラスメント防止」は“沈黙”を選ぶ理由ではzありません。
上司が安心して指導できるようにするには、「こう伝えれば大丈夫」という伝え方の型を持てるようにすることが大切です。
背景② フラット文化が「立場の責任」をぼかしている
フラットな文化は、働きやすさや意見の出しやすさを生む一方で、上司のリーダーシップ発揮を曖昧にする副作用もあります。「対等であること」と「責任を放棄すること」が混同されているのです。
近年は若手社員の主体性を尊重するあまり、「上下関係をできるだけ感じさせない」文化が広がっています。けれども、組織が成果を上げるには、本来それぞれの役割と責任の違いが適切に機能することが欠かせません。
その線引きがあいまいになると、誰も方向を示さず、全員が互いに遠慮するチームになってしまいます。
たとえば、会議で部下が現実的でない提案をしても、上司が「なるほどね」とだけ返し、軌道修正をしない。その結果、議論が噛み合わず、納期直前に混乱が発生してしまいます。
上司が「部下を尊重すること」と「上司として判断すること」の区別がつかなくなっている状態です。
「フラットであること」は悪ではありません。ただし、役割責任までフラットにしてしまうと、リーダー不在の状態が生まれます。
上司には「対等に尊重しながらも、方向を示す責任」があることを、組織として再定義する必要があります。
背景③ 育成行動が評価されない仕組み
上司が遠慮するのは、育成や支援の行動が評価に反映されないという仕組みの問題でもあります。「やっても報われない」構造が、指導意欲を奪っています。
「結果を出した人だけが評価される」文化では、上司はリスクを避け、部下への関与や指摘を控える“遠慮型マネジメント”に陥りがちです。
つまり、“言わない方が安全”という仕組みが、上司の遠慮を組織的に助長しています。
たとえば、ある上司が部下のミスを時間をかけてサポートしたとしても、評価面談では「管理職自身の成果が伸びていない」として減点されると、次第に「育成に時間を割くよりも自分の成果を優先しよう」と学習してしまいます。
上司の行動を変えるには、意識改革だけでなく、「育成に関わる行動が正当に評価される」仕組みづくりが不可欠です。
人を育てようとする姿勢が報われる環境でなければ、どんなに研修をしても、“遠慮する上司”はなくなりません。
背景④ コミュニケーション経験不足による自信の欠如
上司が遠慮してしまう背景には、「どう伝えればいいか分からない」という経験不足と自信のなさがあります。
管理職の多くは、プレイヤーとして高い成果を上げて昇進しています。そのため、「人を育てる」「感情を扱う」といった対人スキルを体系的に学んだ経験が少ないのが現実です。
「伝えたいことはあるが、どう伝えるのが正解か分からない」と感じた瞬間に、遠慮が生まれます。
たとえば、部下が報連相を怠っていても、上司が「どう伝えれば角が立たないだろう」と迷い、結局は曖昧な言葉で済ませてしまうことがあります。
部下は上司からの曖昧な言葉について「特に問題ないのだろう」と受け取り、行動が変わらないと、上司は「言っても変わらない」と感じて次第に伝える意欲を失い、やがて両者の間には、“言わない・伝わらない関係”が定着してしまいます。
“遠慮”を解消する第一歩は、「自信を持って伝えられる技術」を身につけることです。
つまり、上司個人の性格を責めるのではなく、伝える力を育てる学びの場を設計することが重要です。
背景⑤ 組織として“関係性”をテーマにしてこなかった
そもそも多くの企業では、「関係性」や「信頼づくり」を明示的に扱う文化がありません。
そのため、上司が“どう部下と関わるべきか”を学ぶ機会がほとんどないのです。
研修や制度の多くは「スキル」「目標管理」「成果創出」に焦点を当てています。しかし、組織が円滑に機能するための土台は、信頼と対話です。
このテーマを避け続けてきた結果、上司たちは「人間関係は個人の性格や相性で決まるもの」と誤解しています。
たとえば、1on1を導入しても、目的や進め方が共有されていないと、上司は「雑談でいいのか?」「どこまで踏み込んでいいのか?」が分からず、結局“当たり障りのない会話”で終わってしまいます。その結果、「1on1=形だけの制度」となり、遠慮の文化が温存されます。
“関係性”は属人的なスキルではなく、組織が意図的に育てるテーマです。
対話の設計・フィードバックの型・学び合いの場など、「関係性を学ぶ仕組み」を制度として整えることが求められます。
つまり、「上司の遠慮」は、時代・制度・文化が生み出した構造的な副作用とも言えます。
これを解消するには「叱れる上司を育てる」よりも、“信頼を壊さずに伝え合える関係”をどう設計するかという観点が大切です。
2)上司が安心して伝え合える職場をつくるための7つの支援策
上司が安心して率直に伝え合える職場をつくるための7つの支援策を提示します。
| 施策カテゴリ | 具体的な取り組み |
|---|---|
| ① 成長を促すフィードバックの伝え方を学ぶ機会を設ける | 目的を共有する事実を共有する意図を確認する影響を伝え、望ましい行動を提案する成長を認め、次の行動を後押しする |
| ② 相互コミュニケーションを学ぶ機会を設ける | 受け止める伝えるすり合わせる |
| ③ アサーティブ・コミュニケーションを学ぶ機会を設ける | 主張と配慮のバランスを学び、率直かつ建設的に意見交換できる関係性をつくる |
| ④ 育成行動を評価する仕組みをつくる | フィードバック実施・1on1実施・部下の成長実感などをKPI化 |
| ⑤ 上司同士が学び合う「ピアミーティング」を定期開催する | 他部署の上司同士が実践共有や悩み相談を行う |
| ⑥ 部下から上司へのフィードバックを促す仕掛けをつくる | アンケートや1on1の双方向設計など |
| ⑦ 経営・上層部が率直な対話を体現する | 対話型ミーティングやメッセージ発信 |
| (参考) 上司だけでなく部下へのアプローチも必要 | 部下側の受け取り力・学び方も育成 |
① 成長を促すフィードバックの伝え方を学ぶ機会を設ける
上司が安心して部下にフィードバックできるようにするには、「注意」や「叱責」ではなく、“成長を支援するコミュニケーション”として伝えるスキルを身につけることが欠かせません。
言葉の選び方ひとつで、相手の受け取り方も行動の変化も大きく変わるためです。
成長を促すフィードバックの流れは次の通りです。
① 目的を共有する
まずは、「このフィードバックは成長を支援するためのもの」であることを明確に伝えます。
相手に“評価される場”ではなく“成長のための対話”と感じてもらうことで、防御的にならず話を受け入れやすくなります。
例:「今日は成果を振り返って、次にもっと良くするためのヒントを一緒に考えたいと思っています。」
② 事実を共有する
感情や主観ではなく、観察した事実を伝えます。
「〇〇だったと思う」ではなく、「〇〇の場面で△△という行動があった」という形で、行動を具体的に言語化することがポイントです。
例:「昨日の打ち合わせで、顧客の質問に少し答えづらそうにしていましたね。」
(×「反応が悪かった」ではなく、見た事実を伝える)
③ 意図を確認する
相手の行動の背景を理解するために、まず質問する・聴くことが重要です。
「なぜそうしたのか?」を一緒に考えることで、上司の一方的な指摘にならず、共に改善を探る姿勢を示せます。
例:「あの時、どんな意図でその対応をしたのか教えてもらえますか?」
④ 影響を伝え、望ましい行動を提案する
相手の行動がチームや成果にどう影響したのかを伝えたうえで、「次はこうしてみよう」という具体的な行動提案を行います。
このときも“責める”のではなく、“改善の選択肢を一緒に考える”姿勢を保つことが大切です。
例:「対応に少し時間がかかったことで、お客様が不安そうでした。次回は回答が難しい時は『確認して改めてご連絡します』と伝えると良いかもしれませんね。」
⑤ 成長を認め、次の行動を後押しする
最後に、相手の努力や改善の意欲をきちんと承認します。
“できていない点”だけで終えると、次の行動が止まってしまうため、「成長している点+次のチャレンジ」を必ずセットで伝えるのがコツです。
例:「前回よりも顧客の話を丁寧に聴けていましたね。次は、少し自信を持って自分の考えを伝える練習をしていきましょう。」
この5ステップは、上司と部下の関係を「評価する側とされる側」から「成長を共に考えるパートナー関係」に変える流れです。
単なる言葉遣いのテクニックではなく、“支援の姿勢”と“行動変容を促す設計”を学ぶことが、遠慮を減らす第一歩になります。
アーティエンスの育成担当者・OJTトレーナー研修では、実践的なロールプレイング形式でシミュレーションワークを行い、「どのようにフィードバックすると部下の行動を促せるのか?」を実践を通して学びます。
効果的なフィードバックを身につけるには、座学よりも体験的な学びが有効です。
ワークを通じて、「タイミングや言葉選びの重要性」や「本人に考えさせるフィードバックの価値」など、さまざまな気づきを得ています。
“自信を持って伝えられる技術”と“支援としてのフィードバックの型”を学ぶ機会を設けることで、ハラスメントを恐れることなく伝えらるようになるため、上司の遠慮を改善できます。
② 相互コミュニケーションを学ぶ機会を設ける
上司が部下と率直に話し合える職場をつくるためには、「伝える力」だけでなく、「聴く力」や「受け止める力」も含めた双方向のコミュニケーションスキルが欠かせません。
一方通行の対話では、上司の意図が正しく伝わらず、部下も「言っても聞いてもらえない」と感じてしまうからです。
職場でありがちな誤解は、「意見の食い違い=関係悪化」と捉えてしまうことです。しかし実際には、立場の違いがあるからこそ、健全な対話が生まれます。
問題は、意見のぶつかり合いではなく、それを「どう受け止め、どう活かすか」です。
株式会社ラーニングエージェンシーの調査(2023)によると、フィードバック時に「意見を傾聴する」「納得感を醸成する」ことを意識している上司ほど、部下の成長を実感しているという結果も出ています。
つまり、上司が意見を傾聴することは、自身の育成成果を感じやすくさせてくれる効果もあるのです。
上司が相互コミュニケーションを実践するうえで大切なのは、次の3つのステップです。
① 受け止める
相手の話を最後まで遮らずに聴き、まずは「理解しようとする姿勢」を示します。
このとき重要なのは、「相手の主張を認めること」と「同意すること」を混同しないことです。
たとえば、「なるほど、そう感じたのですね」といった“共感のクッション”を入れるだけで、相手は安心して次の対話に進めます。
② 伝える
相手の意見を受け止めたうえで、自分の立場や考えを率直に伝えます。
「あなたは間違っている」ではなく、「私はこう考えている」と“Iメッセージ”で伝えるのがポイントです。これにより、対立ではなく「立場の違いをすり合わせる対話」へと変わります。
例:「あなたの意見も理解できます。一方で、私はこういう理由でこの方向が良いと思っています。」
③ すり合わせる
最後に、お互いの意見をもとに、共通の目的(ゴール)を確認します。
「どちらが正しいか」ではなく、「チームとしてどんな成果を出したいか」という視点を持つことで、対話が建設的に進みます。
例:「最終的には顧客満足度を上げるのが目的だから、その視点で整理してみよう。」
この3ステップを意識することで、上司と部下の会話が「一方的な指導」から「協働的な議論」に変わり、遠慮のない信頼関係が築かれていきます。
相互コミュニケーションを学ぶ機会を設けることで、上司は“言いづらさ”を抱えたまま黙るのではなく、「対立しても信頼を損なわない」対話スキルを身につけられるようになります。
その積み重ねが、率直に意見を交わせるチームづくりにつながります。
③ アサーティブ・コミュニケーションを学ぶ機会を設ける
上司が部下に率直に意見を伝えるためには、「強く言う」か「我慢する」かの二択ではなく、相手を尊重しながらも自分の意見を正直に伝える“アサーティブ・コミュニケーション”のスキルを身につけることが重要です。
アサーティブな伝え方を身につけることで、相手の尊厳を守りながら、自分の立場と意見を明確に伝えることができるようになります。
たとえば、相手の言動に改善を求めたいときでも、次のように表現を変えるだけで印象は大きく変わります。
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NG例:「なんでちゃんとやらないの?」
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OK例:「期日が守られないと、チーム全体の調整が難しくなります。次回はどんな工夫ができそうですか?」
このように、「相手の行動による影響」と「今後どうしたいか」に焦点を当てて話すことで、相手を責めずに前向きな対話が生まれます。
アサーティブ・コミュニケーションを学ぶには、体験型のワークショップが効果的です。
たとえば、次のような流れで実施します。
理論理解:
アサーティブ・ノンアサーティブ・アグレッシブの違いを整理し、自分の傾向を把握する。
シーン別ロールプレイ:
部下のミス指摘、上司への進言、同僚との調整など、実際の業務場面をもとにロールプレイを行う。
振り返りとフィードバック:
第三者視点で「どの言葉が相手に伝わりやすかったか」「どの表現が防御反応を引き起こしたか」を分析し、自分の伝え方の癖を可視化する。
このようなプロセスを通じて、「相手に伝わる伝え方」と「自分の主張を恐れず伝える勇気」の両方を磨いていきます。
アーティエンスの関係性構築力研修では、アサーティブ・コミュニケーションの必要性を理解してもらうために、上司と部下がお互いの不満を伝える状況を設定し、受講生に上司と部下になりきって話をしてもらうワークを取り入れています。

※アーティエンス 関係性構築力研修のテキストの一部
アサーティブ・コミュニケーションを学ぶ機会を設けることで、上司は“我慢”でも“押し付け”でもない「率直に伝え、信頼を深める関わり方」を身につけることができます。
それは、遠慮ではなく、誠実さに基づくコミュニケーション文化を育てる第一歩です。
④ 育成行動を評価する仕組みをつくる
上司が部下に関わる姿勢を変えるには、意識改革だけでなく、「育成行動が正当に評価される仕組み」を整えることが欠かせません。
いくら研修で学びや気づきを得ても、「結局、結果を出した人だけが評価される」と思われている組織では、上司の行動は変わらないためです。
具体的には、次のような方法が効果的です。
評価項目に「育成行動」を明示的に組み込む
例:「フィードバックの実施頻度」「部下の成長支援への取り組み」「チームの育成成果」などをKPI化し、数値・行動の両面から評価する。
360度評価やピアレビューを活用する
部下や同僚からの声を反映し、「支援的な関わり」「チーム全体への貢献」を可視化することで、“人を育てる姿勢”そのものを評価する文化を育てる。
このように、育成行動を「定量+定性」で評価することで、上司は“関わること自体が評価される”という安心感を持てるようになります。
育成行動を評価する仕組みを整えることは、単なる制度変更ではなく、「育てる上司を誇れる文化」を育てることでもあります。
⑤ 上司同士が学び合う「ピアミーティング」を定期開催する
上司が遠慮を手放すためには、個々の努力だけでなく、“同じ立場同士で学び合う環境”も必要です。
自分の関わり方に迷ったとき、孤立したまま悩むのではなく、「他の上司はどうしているのか?」を安心して話せる場があるだけで、行動のハードルは大きく下がります。
同じ立場のマネジャー同士が率直に話し合うことで、「自分だけではなかった」と安心し、他者の工夫や考え方から多くの気づきを得られる“横の学び”こそが、上司の育成行動を支えます。
ピアミーティング(Peer Meeting)を効果的に機能させるには、次のような設計が有効です。
目的を明確にする
「部下との関係づくり」「1on1の進め方」「指導時の迷い」など、テーマを明確に設定しておくことで、話が深まります。
安心して話せる環境を整える
評価者や上位者が同席しないクローズドな場にすることで、上司同士が本音を出しやすくなります。
成功と失敗を対等に共有する
「うまくいった関わり方」だけでなく、「難しかった経験」も共有できる雰囲気をつくることがポイントです。失敗事例を通してこそ、より現実的な学びが生まれます。
学びを持ち帰り、実践につなげる
最後に、「次回までに試してみたいこと」を共有することで、日常業務への実装が促進されます。
ピアミーティングは、単なる情報交換の場ではなく、「上司が上司を育てる文化」を醸成する場です。
人事がすべてを指導・介入しなくても、現場のマネジャー同士が支え合い、学び合うことで、遠慮ではなく“信頼と挑戦”を軸にしたチーム文化が少しずつ根づいていきます。
⑥ 部下から上司へのフィードバックを促す仕掛けをつくる
上司の“遠慮”をなくすためには、上司だけが努力するのではなく、部下側からも意見を伝えられる仕組みをつくることが重要です。
一方通行の関係では、上司は常に「どう受け止められるか」を気にしてしまい、関わりが消極的になってしまうためです。
部下から「こう関わってもらえると助かる」「こう伝えてもらえると分かりやすい」といった声が上がるようになると、上司も“完璧であろうとするプレッシャー”から解放され、「共に成長する関係」へと変化します。
部下から上司へのフィードバックを促すためには、以下のような仕掛けが効果的です。
匿名アンケートを定期的に実施する
半年に1回などのペースで、「上司のサポート行動」「対話のしやすさ」「指導のわかりやすさ」などを尋ねる簡易アンケートを実施します。
匿名形式にすることで、部下が安心して率直な意見を出しやすくなります。
1on1の中で“逆フィードバック”の時間を設ける
毎回の1on1の終盤に、「私(上司)の関わり方で改善した方が良い点はある?」と上司から聞くようにします。
この一言があるだけで、部下は「自分の意見を伝えてもいい」と感じるようになります。
部下からの声を“責め”ではなく“改善の材料”として扱う
フィードバック内容を評価や査定に結びつけないことを明言し、「関係を良くするための前向きな意見交換」であることを周知しておくことが大切です。
部下から上司へのフィードバックを促す仕掛けを設けることは、単に上司を評価するためではなく、「お互いに成長を支え合う関係をつくる」ための仕組みです。
上司も部下も、「伝える・受け取る」双方の経験を積み重ねることで、組織全体に“率直に言い合える風土”が育ち、遠慮の壁は自然と薄れていきます。
⑦ 経営・上層部が率直な対話を体現する
上司が安心して部下に率直に関われるようにするためには、経営・上層部が「率直に伝え合う姿勢」を自ら体現することも大切です。
上が変わらなければ、「言ったら波風が立つ」「本音は言わない方が安全だ」という空気は、いつまでも消えません。
たとえば経営会議や全社ミーティングで、「意見がぶつかることを恐れず、より良い結論を探る姿」を意識的に見せたり、経営層からのメッセージとして「立場に関係なく率直に意見を交わし合うことを歓迎する」と伝えるなどです。
経営・上層部が率直な対話を体現することは、単に“お手本を見せる”ことではなく、組織全体の心理的安全性を底上げする行為です。
「違いを受け止め、言葉にする」姿勢が上から浸透していくことで、現場の上司も遠慮することなく安心して意見を伝え、部下もそれを受け止めるコミュニケーション文化が、組織に根づいていきます。
(参考)上司だけでなく部下へのアプローチも必要
上司の“遠慮”を解消するには、上司側だけに焦点を当てるのではなく、部下側の意識と受け止め方を変えていく支援も欠かせません。
コミュニケーションは一方通行ではなく、「伝える側」と「受け取る側」の相互作用で成り立つものだからです。
どれほど上司が丁寧に伝えても、部下が「注意された=否定された」と感じてしまえば、信頼関係はすぐに揺らいでしまいます。
一方で、部下が「フィードバックは自分を成長させるための機会だ」と理解していれば、多少厳しい言葉でも前向きに受け止められるようになります。
つまり、部下の“受け止める力”を育てることが、上司の“伝える勇気”を支える土台になるのです。
部下へのアプローチとしては、次の3つの支援が効果的です。
フィードバックの受け止め方を伝える
新入社員研修や若手向け育成の中で、「フィードバックは成長支援の一部」という前提を明確にします。
「指摘を受けた=失敗ではなく、期待されている証拠」と捉え直すマインドを育てることが大切です。
協働意識を持ってもらう
上司との関係を「教える/教わる」ではなく、「一緒に成果をつくる協働関係」として位置づけます。
部下自身も“チームの一員として上司に働きかける”意識を持つことで、上下ではなく“目的でつながる関係”が生まれます。
組織の期待を共有する
「組織が求めているのは“波風を立てない関係”ではなく、“成果と成長を生む対話”である」ことを明確に伝えます。
人事から全社メッセージとして発信するだけでも、上司・部下双方の意識が変わりやすくなります。
アーティエンスの上司との協働体感研修では、まず「フィードバック=嫌なもの」という思い込みを見直すことから始めます。
フィードバックの本来の目的や、受け取る際のポイント・テクニックをわかりやすくお伝えし、“成長のチャンスとして受け取る姿勢”を育てます。
さらに、自分が上司の立場だったら「どんな受け止め方をしてもらえると嬉しいか」を考えてもらうことで、部下としてどのように関われば建設的な対話ができるのかを体感的に学べる設計になっています。
上司の遠慮を減らすためには、「上司が変わる」だけでなく、「部下も育つ」ことが不可欠です。
双方が“信頼と目的”を共有できるように、上司と部下を同時に支援する設計を行うことで、組織全体のコミュニケーションの質は一段と高まります。
7つの支援策を行うことで、「関係を壊さないために黙る組織」から、「信頼を前提に言葉で成果をつくる組織」へと転換できます。
3)“遠慮”が生む悪循環 ― 組織に起きる5つの影響
上司や部下の間に“遠慮”が生まれると、一見、職場が穏やかで人間関係が良好に見えることがあります。
しかし、その裏では「本音を避ける」「言わないでおこう」という空気が少しずつ広がり、組織の機能が静かに低下していきます。
遠慮が組織にもたらす5つの影響を整理します。
① 成長支援が止まり、部下の伸びしろを奪う
遠慮によって必要なフィードバックが減ると、部下の学習サイクルが止まり、成長余地を自ら狭めてしまいます。
改善のために必要な「何が・どの場面で・どう影響したか」という具体的な情報が届かず、行動を修正するきっかけを失うからです。
たとえば、上司が「次は気をつけてね」とだけ伝えると、部下は“何をどう直せばいいのか”が分かりません。結果、同じミスを繰り返し、「頑張っても成長できない」という無力感が積み重なっていきます。
“遠慮”は短期的には平穏を守りますが、長期的には成長の機会を奪います。部下の成長を支えるには、具体的な行動レベルでのフィードバックが欠かせません。
② チームの意思決定が遅くなり、曖昧さが残る
遠慮が生まれると、率直な意見交換が減り、チームの意思決定がどんどん遅くなります。
「波風を立てたくない」という心理から、重要な論点に踏み込めず、結論が曖昧なまま進んでしまうためです。
たとえば、会議で方向性の違いが出ても、「一旦この方針で様子を見ましょう」と先送りにするケースが出てきます。
一見、穏やかにまとまったように見えても、実際には認識のズレが残り、後になってトラブルややり直しが発生します。
「言わないほうが安全」という空気が広がると、決定が先送りされ、チーム全体の動きが鈍くなります。率直に意見を交わし合える関係性を築くことで、意思決定のスピードと質も高まります。
③ 社員同士の関係が希薄になり、孤立が進む
遠慮が当たり前になると、社員同士の関係が表面的になり、気軽に声をかけ合えなくなります。
「余計なことかもしれない」「相手を不快にさせたくない」という思いから、助け合いや相談の機会が減っていくのです。
たとえば、メンバーが業務で困っていても、周囲が「自分から言うのを待とう」と様子を見る、などです。その結果、問題が大きくなってからしか共有されず、周囲もサポートのタイミングを逃してしまいます。
遠慮が蔓延すると「迷惑をかけたくない」「自分だけができていないと思われたくない」という気持ちから、問題を抱え込んでしまいます。
小さな声を拾い合う文化をつくることで、チームの一体感と協働の力が取り戻せます。
④ 現場の自走力が下がる
上司も部下も「関係を壊したくない」と思うあまり、話し合いを避けて人事や他部署に判断を委ねるケースが増えます。
すると、現場での対話や調整の機会が失われ、結果として“自分たちで解決する力”が育たなくなります。
たとえば、上司と部下の意見がすれ違ったとき、「人事に確認してもらおう」で終わってしまう、などです。その積み重ねが、現場の判断力や合意形成力を奪い、組織のスピードを下げてしまいます。
遠慮が根づいた職場では、現場が「上の判断を待つ」状態に陥りやすくなります。
自分たちで考え、話し合い、決めていくプロセスを積み重ねることが、現場の自走力を取り戻す鍵です。
⑤ 問題が表面化しにくくなり、現場での改善が止まる
「言わないほうが安全」「波風を立てないほうが良い」という空気が広がると、問題は見えにくくなります。
結果として、課題が放置され、気づいたときには手遅れになることも少なくありません。
たとえば、トラブルの兆候を察知しても、「上司に伝えたら責められるかも」と報告を控えるケースが出てきます。
その沈黙が積み重なり、気づいたときには取引先との信頼が損なわれているということも起きかねません。
“遠慮”は、衝突を避けているようで、実は前進を止めるブレーキになります。
組織が成長し続けるためには、課題を早期に共有し、「言える仕組み」と「受け止める姿勢」を整えることが不可欠です。
このような悪循環に陥らないためにも、早めの対策が必要です。
4)まとめ|“遠慮”から“信頼と目的”へ
上司の遠慮は性格の問題ではなく、時代・制度・文化が生み出す構造課題です。
放置すれば、成長の停滞・意思決定の遅延・関係の希薄化・自走力の低下・改善の停止という悪循環を招きます。
一方で、仕組みづくりと学習機会を設計すれば、現場は率直に伝え合いながら成果を上げる組織に変わります。
アーティエンスでは、
育成担当者・OJTトレーナー研修
関係性構築力研修
上司との協働体感研修
など、御社の現場に合わせて“遠慮”を“信頼と目的”へ変える研修をご提供しています。
効果的な対策方法や、具体的な研修内容について知りたい方はこちらからお問い合わせください。
“言わないことで守る安心”から、“率直に伝えて高め合う信頼”を促す組織を作りましょう。



