2021/5/27作成ー
多くの企業が本格的にテレワークを始めて約1年、一時的にはテレワークがうまくいっていたものの、時間の経過と共にオフィス勤務に戻す会社も出てきています。一方でテレワークを継続し、むしろ生産性を高めている会社もあります。その違いはどこにあるのでしょうか?
管理職研修やセミナーでテレワークでの課題をお伺いすると、以下のようなものが挙がります。
これらの課題は、業種・職種によらず多くの企業から頂くお悩みです。
今回のコラムでは、これらの課題を解決していく切り口として「技術的問題・適応課題」を紹介します。
目次
生きていく中で、私たちには多くの課題が発生します。同様に解決策も世の中にはたくさんあります。例えば、ここ1年でテレワークにおけるマネジメントに関する書籍も多く出版されています。
しかし、目の前のあらゆる課題は減るどころか、時間と共に増え続けている、ないしはずっと同じ課題が残り続けているというのが実感ではないでしょうか?
なぜこのような現象が起きるのでしょうか?ハーバード・ケネディ・スクールのロナルド・ハイフェッツ教授は、そもそも課題には2つの種類があると述べています。
課題 | 特徴 |
---|---|
技術的問題 | 技術があれば解決できること 例:財務分析、評価制度の策定 外部の専門家に課題解決を委ねることができる |
適応課題 | 技術や他者からのサポートがあったにせよ、自分が変わらないとその課題を解決することができないこと 例:人間関係、人事評価において納得感を高める 専門家からの支援は得られるが、課題解決を委ねることはできない |
技術的問題は知識の量や質を高めれば解決できる課題を指します。
例えば、企業における財務分析はやり方が定められていて、財務・分析に関する知識やスキルがあれば、誰でもできるようになります。
また、技術的問題は外部の専門家に分析を委託することもできます。
かえってその方が、質の高い分析ができるかもしれません。
適応課題は、知識の量や質を高めても、それが直接課題解決に結びつくわけではありません。
例えば、部下の人事評価の納得感を高めたいという場合には、どれだけ自分が評価スキルに関する知識を身に着けても、結局のところ部下に納得感を持ってもらえなければ、課題が解決したとは言えません。
そして、何より人事評価の納得感は他者に委ねても解決しない課題です。
課題解決のポイントは自分にあり、他者に委ねて自分を切り離してしまうと、かえって課題が悪化してしまうからです。
目の前に起こっている課題を技術的問題・適応課題に分類して、適切なアプローチを選ぶことはテレワークにおいても有効です。
ここからは、身近な事例としてテレワークにおける技術的問題・適応課題について考えてみましょう。
テレワークにおける技術的問題とは何でしょうか?いくつかありそうですが、代表的なものを挙げてみます。
これらの課題は、いずれも解決策が明確です。
では、テレワークにおける適応課題にはどのようなものが挙げられるでしょうか?
テレワークにおける適応課題で代表的なものは以下のようなテーマです。
上記のような課題に直面した時に、取りがちなアプローチは以下のようなものです。
いかがでしょうか?おそらく
「なんとなく悪くない気はするが、課題が解決される気もしない」
「それで解決するのであれば楽なのだが、実際には解決しないから困っている」
などの感想を抱かれたのではないでしょうか?
その感覚は間違っておらず、いずれも「適応課題であるにも関わらず、技術的問題として解決しようとした」ため、課題解決に至らないのです。
適応課題に直面しても、人はついつい技術的問題として解決しようとしてしまいがちです。技術的問題は自分の考え方や捉え方を変える必要がありません。そのため、適応課題として解決するよりも、心理的な負荷が低いのです。
適応課題は、必ずしも知識やスキルを身に着ける必要はありませんが、その代わりに自分がそれまで正しいと信じてきた信念や価値観を見つめなおす必要があります。
このプロセスに慣れないうちは「自分が正しいと信じてきたことを見直すこと=自分は間違っている」と捉えてしまいがちです。
しかし、実際には「その信念や価値観が課題にはフィットしていなかった」ということに過ぎず、自分がすべて間違っていることは意味しません。
では、具体的に適応課題にはどのように向き合えば良いのでしょうか?
先ほどの事例をもとに考えてみましょう。
技術的問題を解決するアプローチと大きく異なる点は「課題解決の矛先を相手や外側ではなく、まずは自分に向ける」点です。
こうすると、自分のどんな信念や価値観が起こっている出来事とズレているのか?が分かってきます。
適応課題の解決に向けた第一歩は、このような自分の内面と、実際に起こっている出来事のズレに気づくことにあります。このズレが課題を引き起こしているので、ズレに向き合わないまま知識やスキル・ツールで課題を解決しようとしても、いっこうに課題は解決せず、むしろ時間が経つことで課題は悪化するばかりです。
ここから先は適応課題の解決に向けて、さらに深掘っていきます。
その前に、目の前の課題が適応課題か否か?を表すサインがありますので、ご紹介します。
■ 適応課題を表すサイン
課題 | 特徴 |
---|---|
希望と現実のギャップが埋まらない | 現在の状況に対して不満の声が高まっている |
問題対応のレパートリーが不十分である | 以前は成功したが、外部専門家や内部の権威者では問題を解決できない |
難しい学習が必要である | フラストレーションとストレスが溜まり、いつもより失敗が多い。従来の問題解決手法を何度も試したが、うまくいかない |
垣根を越えて新しい関係者が関わらなければならない | 問題に取り組むために、いつものメンバーをかき集めても進展がない |
より長い期間が必要である | 短期的な処置をした後に、問題が悪化する、あるいは再び問題が生じる |
危機感が募り始め、不均衡が生じている | 対立とフラストレーションが高まり、緊張感があり、混沌としている。切迫感が広がり、何か新しいことを始めようという雰囲気が広がり始めている |
上記のサインが多ければ多いほど、その課題は適応課題だと言えます。
そして、適応課題は大きく4つに分類することができます。
■ 適応課題の4タイプ
タイプ | 特徴 |
---|---|
ギャップ型 | 大切にしている価値観と実際の行動にギャップが生じるケース 例:どんどん相談してと言うが「自分で考えてみたら?」と返答してしまう |
対立型 | 互いのコミットメントが対立するケース 例:訪問したい営業パーソンと極力訪問を減らしてほしい顧客 |
抑圧型 | 「言いにくいことを言わない」ケース 例:テレワークで家族の関係性が悪化しているが、プライベートのことなので、上司には明かせないで悩んでいる部下 |
回避型 | 痛みや恐れを伴う本質的な問題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替えた利するケース 例:本当は会社を辞めたいが、今よりも収入が減るのが不安なので、とりあえず腰かけ程度に働く |
今、皆さんが直面している課題は、4つのうちどれに当てはまるでしょうか?
これらの課題がある時には、相手や環境を変えても課題解決はできません。いったん、課題解決しようとはやる気持ちを抑えて、まずは自分の内面で何が起こっているのか?を紐解いていきましょう。
適応課題を扱うには4つのプロセスがあります。
まず、「準備」です。ここでは起きている課題が技術的問題なのか?適応課題なのか?の区別を行います。ついつい自分の課題は技術的問題と認識してしまいがちですが、よくよく見ていくと「実は適応課題だった」ということがよくあります。
先に挙げた「適応課題を表すサイン」や「適応課題の4タイプ」も参考になると思います。
次は「観察」です。課題が分かると、解決策に飛びつきたくなりますが、その気持ちを抑えつつ「そもそも自分は何をしているから/何をしていないから適応課題が起こっているのか?」を明確にしていきます。
この場合は、イライラが元で「もっと考えてみて」とフィードバックしてしまうことが阻害行動に当たります。
実際に自分の言動を振り返っていくと、あまりにも大人げない言動を取っていたり、自分の信念と真逆の行動を取っていることに自己嫌悪が生じたりしますが、ここではそのような感情的な反応をいったん脇に置いて、自分の行動を写真や映画のようにはっきりと観察していくことが重要です。
また、どうしても自分の阻害行動が分からない場合には、信頼できる人に状況を明かし、「自分の行動のどこがこの問題を生んでいると思う?」と聞いてみると良いでしょう。
自分では分からないことも、他者からすると、すぐにわかることがよくあります。これは上司や部下の阻害行動は、本人ではなかなか気づきにくいものの、周囲の人からすれば丸見えであることなどからも、わかると思います。
続いて「理解」のフェーズです。改めてケースに戻ってみましょう。
そもそも「どんどん相談して」という言動と「もっと考えてから相談してほしい」という言動に矛盾が生じているとも言えます。この矛盾がどこから起こっているのか?に気づくのが「理解」のゴールです。
多くの場合、阻害行動には、その阻害行動を引き起こす「隠れた目的」があると言われています。しかし、それは世間体からするとカッコ悪いものであったり、世間の常識や周りの期待に反するものであったりすることが多いので、自分でも知らず知らずのうちに隠していることが大半です。
そこで、そんな世間体や評価・判断の声を保留しながら、自分の本音を見つめていきます。
このように自問自答を繰り返して、自分の本音を見つめます。慣れるまでは少し苦しさを感じますが、慣れていくと、部屋の掃除のような感覚で気楽にできるようになります。このステップも難しいようであれば、信頼できる他者やコーチ・カウンセラーなどの専門家からサポートを得ても良いでしょう。
ここまで来ると、自分の価値観と実際の行動のギャップがなぜ起こっているのか?について理解できるようになります。
と言ってしまう、という構造です。
最後に「選択」です。ここまで構造を紐解くことで起こった気づきを元に、行動を選択します。ここでのカギは「好き勝手にやりたい自分もいる」ということを受け入れることです。この自分をダメな存在、マネジャーとしてふさわしくないとしてしまうと、一時的に課題は解決しても、時が経つとまた同じことが繰り返されます。
受け入れる方法はいくつかありますが、最も効果的なのは「隠れた目的」を他者に明かすことです。
そうすると、部下の方も「それは薄々感じていました。私の方でも、つい助けてほしくて甘えてしまっていました。自分なりにもう少し考えてから相談するようにします。」というような変化が起こりやすくなります。
これは心理学では「自己開示の返報性」とも言われており、自分に起こっていることをありのまま相手に伝えると、相手もありのままを返しやすくなるという法則です。
適応課題に直面した際には、反応的に課題解決しようとするのではなく「準備」→「観察」→「理解」→「選択」のステップで、起こっていることを紐解き、その理解から行動を選択することです。
ここまで適応課題とは何か?適応課題を解決するためには?等についてご紹介しました。
最後に「そもそも適応課題が解決できることでどんなメリットがあるのか?」に触れてみたいと思います。
適応課題が解決できるようになることで得られる最大のメリットは、自身や自社の弱みや痛みがあればあるほど、その機会を変化に繋げ、強くなれることです。
弱みや痛みは、ついつい真正面からぶつかるのを避けてしまいがちです。
しかし、避けてばかりいると、いつまで経っても弱みや痛みのまま残り続けます。
少しずつでも粘り強く弱みや痛みと向き合うことで、それまでは弱み・痛みだったものが、弱みや痛みで無くなっていきます。そうなると、また同じ事象や似た出来事が起きたときに、今度は向き合った時の気づきを元に、新たな行動を選択できるようになります。
これを繰り返していくことで、実は弱みや痛みは最大の機会であることがわかってきます。
そして、このプロセスを繰り返していくことは「変化しやすくなる」「柔軟性が上がる」ことも意味します。
適応課題はそれまでの考え方や信念をアップデートしていくための強力なツールです。
しかし自分一人で向き合うことは難しいかもしれません。
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