2022/9/28作成ー
「管理職のあるべき姿とは何ですか?」
経営者、人事、そして管理職の方から、質問されることがあります。 実は、「管理職のあるべき姿」という考え方自体が、そもそも古いのです。 目指す世界や情報量が少ないシンプルだった時代では、物を作れば売れるなど比較的に物事をコントロールしやすかったです。最適解を創ることもできました。だから、「管理職のあるべき姿」も提示することもできました。
今のような不確実で、情報量が多いVUCAと言われる時代では、世の中の変わるスピードが変わり、物事のコントロールが難しくなっています。最適解は創ることができなくなりました。「管理職のあるべき姿」を提示できなくなりました。
下記の写真は、ロンドン、香港、横浜の写真です。IT革命前後の写真になります。
【IT革命前】
【IT革命後】 IT革命以降急速に情報量が多くなり、世の中の変化が大きく早くなりました。 そのため、「管理職のあるべき姿」を提示することはできないのです。 これからの時代は、管理職のあるべき姿を提示するのではなく、組織と管理職で目指したい管理職像を、共創していく必要があります。本コラムを通して、「自組織にあった管理職像とは何か?」を考えていただければと思います。
目次
まずはじめに、前提として「管理職のあるべき姿」は、時代・地域・組織によって異なります。 その時々で、求められる事が変わるためです。管理職の歴史を紐解くと、理解が進みます。
管理職の歴史 | マネジメントの あるべき姿 |
マネジメントの あるべき姿の背景 |
その時代の代表的な クライシス |
---|---|---|---|
1900~1920年 | ● 組織の活動を計画し、実行に向けて指揮・調整・統制する | 効率化・大量生産の時代 ※ フランスの経済学者 アンリ・ファヨール(1841ー1925年)が初めて「管理職・マネージャー」を定義 |
● 日露戦争 ● 第一次世界大戦勃発 |
1921~1940年 | ● 利益の最大化・効率化を(トップと共に考え)実行する | 組織論が熱を持ち出す時代 ● 化学的管理法 ● ライン生産方式 |
● 世界恐慌 ● 第二次世界大戦勃発 |
1941~1960年 | ● 現場労働力の自律・自走にも意識しながら、利益の最大化・効率化を(トップと共に考え)実行する ● 現場のモチベーション管理を行う |
「やる気」「モチベーション」の時代 ● 人間科学論 ● 行動科学 |
● 第二次世界大戦(太平洋戦争)終戦 ● 冷戦の構造化 |
1951~1970年 | ● 企業の目標・戦略を現場に伝える ● 現場に目標を設定する ● 現場を育成する、評価する ● 専門的な知識・ノウハウを提供する |
「予測できる未来」目標管理の時代 ● ドラッカーの目標による管理(MBO) ● マーケティングとの連動 |
● ベトナム戦争 ● オイルショック |
1971~1990年 | ● 品質管理 ● ビジネス効率を向上させるためのマネジメントの14の原則(ウィリアム・エドワーズ・デミング) |
品質管理の時代 ● ジャパンクオリティ |
● チェルノブイリ原子力発電所事故発生 ● 天安門事件 |
1990~現代 | ● 経験学習・チーム学習を行い常に学び続ける体制を構築する ● 情報管理(情報資産の運用)を行う |
「VUCA World」――先の見えない時代へ ● 学習する組織 ● ティール組織 |
● リーマンショック ● コロナ禍 |
時代や地域、そして組織のフェーズによって、求められる管理職像は変わります。特に今の時代は激動です。 そのため管理職にあるべき姿を押し付けては、ならないのです。 管理職にあるべき姿を押し付けてはいけない理由は、次の章でご紹介していきます。
管理職にあるべき姿を押し付けてはいけない理由は、3つあります。
上記の内容を、それぞれ詳しく各項目で具体的にお伝えしていきます。
こちらは、冒頭で説明したので、ある程度ご理解いただいているかと思いますが、具体例を交えてお伝えします。 日本を代表する大手電機メーカーで起きた事例です。
このように管理職のあるべき姿は、状況によって変わるため提示をすると、悪影響を生むことがあります。
外(経営者や研修会社)からあるべき姿を提示されると、その正解に応えようとはしますが、正解に応えた後に、さらに水準が上がりそれに応えるということが続いていきます。 「あるべき姿の提示」→「管理職が応える」→「水準が上がる」→「管理職が応える」→「あるべき姿の提示」・・・と続いていきます。学術的には、ギャップアプローチと言われる構造で陥ります。 例えば、管理職は、「管理を徹底し、目標を達成しろ」と言われます。その点を達成していると、離職などの問題が起き、「離職を無くすために、部下のモチベーションを上げろ」とあるべき姿が提示され続けると、管理職は言われることしかしなくなります。これでは、管理職・チームの成長は停滞し、組織の発展も鈍化するでしょう。
管理職のあるべき姿の提示は、組織からの正解の提示です。次世代リーダー候補である管理職は、正解を与えられるという習慣が芽生え、経営者になってからも正解を探すようになります。
経営環境や事業環境は常に変化、進化し、時には答えがない中突き進む必要があったり、自分で正解を導きだす必要があります。
経営環境には正解が常にない世界なのです。経営者が正解を探しているようでは、今の時代生き残っていけません。当社のお客様の経営者の方から、次世代リーダーを担う管理職が頼りないという話をお聞きしました。ただ、お話を聴くと、「全部経営陣が答えを持っているから、それを実行するのが管理職だ」と話をされていました。管理職のあるべき姿を提示し続けた事例と言っていいでしょう。これでは、自分たちで正解を創るという経験ができないため、次世代リーダーの育成ができているとは言えません。
管理職のあるべき姿ではなく「目指したい管理職像」が重要な理由は、先ほどのギャップアプローチではなく、ポジティブアプローチという考えを用いるためです。
ポジティブアプローチを用いることで、自身想いを持って「目指した管理職像」を探していきます。
「目指した管理職像を見つける」→「管理職のモチベーションが上がり、行動する」→「目指した管理職像に近づく」→「さらに発展させようとする」という循環が生まれます。 例えば、管理職が、「部下が当事者意識と主体性持つための支援を行い、そのこと売上達成と、チーム力の向上」を促すと考えます。自身の想いが強まるので、想いと行動が一致し、自身の目指したい管理職像に近づいていきます。そして、目指したい管理職像に近づくことによって、さらによりよくしようと意識が生まれて、好循環が生まれていきます。
管理職のあるべき姿を提示するではなく「目指したい管理職像」を、管理職自身が創っていくことが重要です。
下記プロセスで進めていくことで、組織が「目指したい管理職像」を共創することが可能です。
※ 注意点
管理職が勝手に決めるだと、組織との方向性の違いが出るため、経営陣と管理職が、「目指したい管理職像」を共創することが必要です。
イメージが付きやすいように、ある会社様(中小メーカー、社員数200名程度)の事例を通して、説明していきたいと思います。本事例は、「管理職のあるべき姿は、次世代リーダーの育成に悪影響がある」でお伝えした会社になります。まずは前提として、本お客様の背景をお伝えします。
経営陣からのプレッシャーがとても強い組織です。管理職は、経営陣の考えを実行すること、それが管理職のあるべき姿でした。ただコロナ禍になり、今までのやり方が通用しなくなります。
下記のような多くの課題も出てきました。
・インバウンドが崩壊して、売上が大幅に減少
・原料確保に対して、輸入先の状況の先読みが不可
・コスト削減のために、派遣社員の契約を終了
・社員の業務負担の増加
・テレワークになり、社員の状況が見えない
これらの課題を乗り越えなければなりませんが、経営陣もパニックになっていました。この状況を整理し、一旦、経営陣の指示のもと、困難を乗り越えました。
※ 当社と一緒に状況を整理し、今何ができるかを考えていきました。 ただここで、経営陣は、今まで以上に管理職への物足りなさを感じていました。どうすればいいかを、一緒に考えていくことになりました。そして、管理職として、より素晴らしいパフォーマンスを上げていくにはどうしたらいいかを考えていくことになりました。「管理職のあるべき姿を提示するのではなく、目指したい管理職像を共創しましょう」とお伝えしました。
経営陣と管理職の勉強会を起点に「目指したい管理職像」を共創することになりました。
管理職と経営陣の関係の質が高くないと、結局「経営陣の考えのみになってしまう」こともあります。ここでいう関係の質は、ただ表面上の仲がいいということではありません。お互いにオープンに考えや、背景などを伝えることができる関係です。耳障りのいい言葉を伝えるのではなく、耳が痛いこともお互い伝えていく関係なので、建設的な衝突も起きます。
本お客様では、まずはじめにポジティブインタビューという手法を用いて、お互いの素晴らしさや強みを理解するワークを行いました。お互いの意外な一面や、想いを知り、より相手を理解しようという状況が生まれました。管理職と、経営陣の関係の質が一定レベルまで上がっていきました。経営陣の前で基本無言で、「YES」という状態でしたが、「自分たちの意見や、経営陣に対して質問する」等の変化が見られ始めました。
目指したい管理職像を考えるには、まず自組織の課題や、取り巻く環境を知ることが必要です。ただしここで、「自組織の課題は何か?」というアプローチをすると、失敗する可能性があるので、慎重に扱うことが必要です。
本お客様では、「学習する組織入門」という書籍を用いながら、勉強会を行い、自組織と照らしあわせていきました。システム思考という内容を学ぶ段階になり、自組織の課題と向き合うことになります。まずは他社の事例を通して、システム思考の優位性を学び、その上で自組織のシステムを描いていきました。そして自組織の課題や、取り巻く環境を理解していきました。
【大手メーカー様の事例】
課題意識 | 詳細 |
---|---|
若手の挑戦を抑制し、成長機会を奪っている | 過去の成功体験をマネージャーが大切にしているため、若手社員からの提案などへの理解が薄い。 そのため、若手社員の挑戦する気持ちを抑制し、成長の機会を奪っている。 |
マネージャー層が戦略を、現場にフィットできていない | VUCAといわれる変化の激しい現代社会では、経営陣のみが戦略を考える方法は、対応ができない。 そのため、マネージャーが現場から顧客の声を拾い、経営陣へ提言をすることや戦略と現場のギャップをアジャストすることが求められる。ただし、過去の指示命令の方法が習慣化され、今求められている戦略へのアプローチが行えていない。 |
時代にあった営業が行えていない | 足で稼ぐ営業スタイルに捕らわれ、ソリューション営業・インサイト営業ができていない。 顧客ニーズの変化などから競合との差別化が難しくなっているため、ソリューション営業・インサイト営業が求められるが、理解も実践もされていない可能性がある。 |
課題や取り巻く環境が見えたときに、自分たちはどうしていきたいのかを考えていきます。「本当はどうしたいか?どのような未来を望んでいるのか?課題を乗り越えるにはどうしたらいいのか?自分たちができることは何か?」ということを、お互いオープンに話していくことが必要です。
本お客様では、「学習する組織入門」の共有ビジョンという内容を学びながら、目指したい管理職像をそれぞれ探求していきました。
目指したい管理職像を創っても、それを実際に実行しなければなりません。後は管理職にお任せではなく、管理職と経営陣が、実行するためのワンチームになることが必要です。
本お客様では、最後に一人ひとり期待とリクエストを伝えていきました。
本プロセスを踏み、アフターストーリーとして、下記のような変化がありました。 勉強会の実施後、ある管理職の方が、全員に改めてお礼メールを送っていました。
相手に通じていない、理解されていないのは、私自身の中に正しいことを言っている、している、だからいいじゃないかという驕りがあり、解りやすさ、丁寧さ、優しさに欠けていたのではないか。また、多面的な見方が不足していたものもあったのではないかと今感じています。
話を聴くと、素直な気持ちで見て、考えること、学び続けること・・・勉強会から多くの大切なものをいただきました。これからもみなさんと学び続けたいと考えています。 また、全社員の学びの場をみなさんと共に創りあげていきたいと強く願っています。
そして、管理職と経営陣のミーティングでは、ぎこちないようではありますが、管理職から提案があったり、経営者への反論もあるようです。 ここで解説してきたことを、管理職のあるべき姿とは何か?を考えたあなたが次にすべきことは何かを見つけるためにぜひお役立てください。
これからの時代は、管理職のあるべき姿を提示するのではなく、組織と管理職で目指したい管理職像を、共創していく必要があります。
管理職のあるべき姿を提示することは、組織の今にも、未来にも悪影響を与えます。組織の文化を壊したり、管理職は成長せず、次世代リーダーの育成にもつながりません。 「目指したい管理職像」を、管理職と経営陣で共創していくことこそが必要です。 下記プロセスで、ぜひ自組織にあった「目指したい管理職像」を創っていただければと思います。
目指したい管理職像を創りたいということがありましたら、お気軽にご相談いただければと思います。 「目指したい管理職像」ができることで、みなさんの組織の未来と今が素晴らしいものであることを願っております。