
-
[ コラム ]
【事例あり】管理職の役割を最大化!組織力を高める方法を徹底解説
- 「管理職が担っている役割が多く、パフォーマンスが下がっている…」多くの組織で旧来の管理職の役割から新たな役割が追加され、疲弊している状態が起きています。管理職の役割が増え、かつ、不明確になり、組織側も何を優先して育成すべきか見つけられず、適
- 詳細を見る
もう限界!管理職が潰れる4つの原因・2つのシグナルを知る
更新日:
「このままでは管理職が潰れてしまうのではないか…」と考えている人事・経営者の方や、
「もう限界、このままだと潰れる…」と感じている管理職の方が、本コラムにたどり着いたのではないでしょうか。
実は、管理職が潰れてしまう背景には、個人の頑張りや精神論だけではどうにもできない「組織の構造的な問題」が潜んでいます。
本コラムでは、管理職が潰れないために組織として何ができるのかを、具体的なストレス要因とその対処法、実践すべき3つの視点に沿ってお伝えします。
管理職の健康とパフォーマンスを守ることは、本人だけでなく、組織全体の持続的な成長にもつながります。
ぜひ今回の内容を参考に、管理職本人にとっても、組織にとっても無理のない、健全な仕組みづくりに取り組んでいきましょう。
▼管理職が潰れる前の見逃しがちな2つの兆候と、取るべき行動をまとめました
専門性:インタラクショナルデザインコーチング、キャリア開発、メンタルヘルス/レジリエンス
目次
1) 管理職が潰れる4つのストレス要因
「人が潰れる」という状態は、次の3つの要素のバランスが崩れたときに起こります。
・ストレス要因(負荷の大きさ)
・個人のストレス耐性(レジリエンス)
・周囲のサポート体制(支えの有無)
たとえ強いストレスがかかっていたとしても、本人のレジリエンスが高かったり、周囲から十分なサポートが得られていれば、深刻な問題に至ることは少ないものです。
一方で、負荷が過剰であったり、耐性やサポートが不足していると、心身の限界を超え、うつ病などの精神疾患につながってしまうリスクが高まります。
この3要素はどれも重要ですが、まず向き合うべきは「ストレス要因」です。
なぜなら、どんなに本人の耐性を高め、周囲がサポートしても、かかるストレスが過剰であれば限界を超えてしまうからです。
中でも、管理職が抱えるストレス要因は、大きく「仕事上のストレス」と「仕事外のストレス」に分けられます。
日本の管理職は、40~50代の方が多いことを考えると、年齢特有のストレスや家庭内のストレスなども存在しますが、本コラムでは、「仕事上のストレス」に絞ってお伝えします。
管理職が潰れる仕事上のストレス要因は、次の4つに分類できます。
人手不足による過剰な業務量
管理職が潰れる大きな要因の一つが、人手不足による業務量の過多です。
業務量が多すぎると、「自分は価値ある仕事ができていない」と自己肯定感が低下し、強いストレスにつながります。
例えば、パーソル総合研究所が2019年に発表した「中間管理職の就業負担に関する定量調査 結果報告書」によると、働き方改革が進む一方で、管理職は人手不足や多様化への対応、ハラスメント対策などで業務量が増加しており、高負担の状態にあることが明らかになっています。この負担が価値創出業務を妨げ、意欲の低下や、心身の健康状態の不調につながっているという結果が出ています。
また産業能率大学が2021年に調査を行った「第6回上場企業の課長に関する実態調査」によると回答した管理職の99,5%がプレイングマネージャーであり、課長の業務の約半分をプレイヤー業務が占めています。
マネジメント業務とプレイヤー業務を両立することは、かなりの負担になるといえます。
部下の残業規制による“しわ寄せ”が管理職に集中
業務量過多の背景として、もう一つ深刻なのが「部下の残業規制によるしわ寄せ」です。
働き方改革により部下の残業時間は規制されているものの、業務効率化や業務量の見直しが追いつかず、その分の業務が管理職に集中してしまうケースがあります。
残業や長時間勤務はうつ病などの精神疾患の原因になりやすいです。また、この場合、管理職は自分の成果には直接結びつかない業務を、長時間かけて対応することになります。この「負担だけが増え、報われない状態」は、強いストレス要因になります。
「中間管理職の就業負担に関する定量調査 結果報告書」(パーソル総合研究所)の調査でも、働き方改革が進むほど現場と管理職の負担感が増大していることが示されています。
部下が帰宅する中で自分だけが残って仕事をするという構図は、管理職にとって大きなストレスです。
上司・部下・他部署との人間関係ストレス
人間関係も、管理職が潰れる大きなストレス要因の一つです。
組織内の人間関係に問題は、心理的にも物理的にも負担を感じやすいです。
特に以下のような場面が該当します。
・部下間でのトラブルやハラスメント対応
・上司との意見不一致
・他部署との連携がうまくいかない
例えば、部下のハラスメント問題が発生した場合、社内対応窓口との連携、加害者・被害者双方へのヒアリング、必要に応じた仲裁など、心理的にも物理的にも大きな負担がかかります。
しかも、これらは直接的な成果には結びつかず、徒労感を生みやすい業務です。
「中間管理職の就業負担に関する定量調査 結果報告書」(パーソル総合研究所)では負担感を感じる業務の調査において最も負担に感じる業務が「組織内のトラブルや障害を解決する」でした。
部下マネジメントにおける負担感の増加
部下マネジメントも、管理職にとって大きなストレス要因のひとつです。
成果に直結しにくい問題への対応が多く、解決にも時間とエネルギーがかかるため、「頑張っても報われない」「どうすればよいかわからない」という無力感や徒労感を生みやすいためです。
特に以下の3つが管理職にとって大きな負担になっています。
・世代間ギャップによる意思疎通の難しさ
・部下のメンタル不調への対応
・部下の離職への対応
例えば、世代間ギャップでは、「お詫びの場面でもメールで済ませたい」という若手と、「直接訪問すべき」という管理職の間で意見が食い違うことがあります。このような価値観の違いをすり合わせるためには、丁寧なコミュニケーションと相互理解が求められます。
こうした課題への対応は、心理的にも時間的にも大きな負担となり、結果として管理職自身が疲弊してしまうケースが少なくありません。
以上の4つが、管理職が潰れる大きなストレス要因です。これらの負担が、個人のストレス耐性や周囲のサポート体制を超えてしまったとき、深刻なメンタル不調につながるリスクが高まります。
▼管理職が潰れる前の見逃しがちな2つの兆候と、取るべき行動をまとめました
2) 管理職が潰れると起きる3つの悪影響
管理職の精神的な負荷が限界を超え、うつ病などの精神疾患を発症し、休職に至るような状態に追い込まれた場合、影響は本人だけにとどまらず、職場や組織全体にも広がっていきます。
ここでは、そのネガティブな影響を【経営】【現場】【本人】の3つの視点でお伝えします。
| 経営 | 管理職が1年間休職した場合、約2,371万円のコストが発生 |
|---|---|
| 現場(組織) | 管理職が抜けると現場が混乱する |
| 本人 | 休職・降格によるキャリアと人生への深刻なダメージ |
経営への影響:管理職が1年間休職するとコストが「2,371万円」
管理職が休職すると、経営にとって非常に大きなコストが発生します。
休職中も人件費は発生し、代替要員の確保・教育、周囲のフォローの負担など、直接的・間接的なコストが積み重なるためです。特に人件費の高い管理職の場合、その金額は一般社員の休職時よりもはるかに大きくなります。
厚生労働省の試算を参考に、年収800万円の管理職が1年間休職した場合のコストを試算すると、以下の通り合計で約2,371万円になります。
| 発症前の人件費損失(3ヶ月) | 200万円 |
| 休業中の休業手当(1年間) | 480万円 |
| リハビリ出勤期間(3ヶ月) | 200万円 |
| 代替要員の人件費(1年間) | 800万円 |
| 上司のフォローに要する人件費 | 25万円 |
| 既存社員の残業代+代替要員の教育費 | 約666万円 |
| 合計 | 約2,371万円 |
このように、管理職1名の休職でこれほどのコストがかかることを考えると、経営への影響は大きいと言わざるをえません。
組織への影響:管理職が抜けると現場が混乱する
組織への影響としては現場の混乱です。
リーダー不在によって、業務調整や意思決定が滞るだけでなく、心理的な不安感も現場全体に広がるためです。特に管理職は、業務推進だけでなく、チームの精神的な支えでもあるため、その不在は深刻な影響をもたらします。
具体的な混乱は以下の通りです。
| 物理的負担 | ・優秀なプレイヤーが抜ける ・業務量の調整が必要 ・代替要員が確保できない |
|---|---|
| 心理的負担 | ・指示系統の乱れ ・責任者不在による不安感の増大 |
精神疾患を発症した場合、突然「翌日から出社できない」という状況が発生することも少なくありません。そのため、現場には即座に大きな負荷がのしかかります。
管理職の不在による現場の混乱は、業務停滞だけでなくチームの士気低下にもつながります。
本人への影響:休職・降格によるキャリアと人生への深刻なダメージ
管理職が潰れることは、当たり前ですが自身にも大きなダメージが及びます。
休職が長期化した場合や、職務制限が続く場合には、管理職としての職務を続けることが難しくなり、降格といった判断が必要になるケースもあるためです。これはキャリアだけでなく、本人の生活や家族にも影響します。
管理職層は多くが30〜50代。家族を持ち、生活費や教育費など経済的負担も大きい時期です。そのタイミングで休職や降格が起こると、本人だけでなく家族にも経済的・心理的な負担がのしかかります。キャリアの停滞や喪失感は、復帰後も長く影響を残します。
こうした深刻な影響を避けるためにも、「潰れてしまった後」ではなく、「潰れそうなタイミング」での早期発見とフォローが欠かせません。
管理職が「潰れてしまう」状態は、本人だけの問題にとどまらず、経営・現場・本人すべてに深刻な悪影響を及ぼします。
これらは、休職や降格といった「事が起きてしまってから」では遅く、取り返しがつかない状況に発展しかねません。
だからこそ大切なのは、 「潰れる前」に気づき、支えることです。
早期発見と適切なフォロー体制を整えることが、管理職本人の健康を守るだけでなく、組織全体を守ることにもつながります。
3) 管理職が潰れる前に気づく2つのシグナル
管理職が「潰れてしまう」前に、いかに早くその兆候(シグナル)に気づけるが、本人・組織・経営すべてにとって非常に重要なポイントです。
潰れそうなサインを見つける視点は、大きく2つに分けられます。
一つは「いつもと違う」、もう一つは「普通と違う」です。
多くの場合は「いつもと違う」に現れますが、精神疾患の種類によっては「普通と違う」という形で表れることもあります。具体的に解説します。
「いつもと違う」に気づく
「いつもと違う」とは、その人の普段の状態と違う様子に気づくことです。
精神疾患の初期には、日常のちょっとした行動や態度に変化が表れます。
だからこそ、「その人の普段」を知っておくことが、早期発見のカギになります。
【よくある変化の例】
・出勤時間が遅れるようになった(特に朝の遅刻)
・身だしなみが乱れている(ネクタイが曲がっている、髪がぼさぼさ)
・書類ミスが増えた
・表情が硬い、笑顔が減った
特に朝の出勤時は要注意です。
うつ病の症状には「朝起きられない」「判断力が落ちる」という特徴があるため、出勤が遅れたり、動きが鈍くなることがあります。
また、パニック障害を抱える人は、通勤中に過呼吸を起こし、電車を途中で何度も降りることもあります。
【実際の例】
管理職Aさんはとても真面目で時間にきっちりとしている人です。
しかし最近は始業ギリギリに駆け込むようになり、いつもはビシッと締めているネクタイも曲がっていることが増えました。さらに、また書類のミスも多くあります。
これはまさに「いつもと違う」サインです。このような事象がある場合は、シグナルとして認識し、対策を考える必要があります。
「普通と違う」に気づく
「普通と違う」とは、その人の普段に関係なく、一般的に見てもおかしい行動が出ている状態です。
精神疾患の種類によっては、周囲から見て奇異に映る言動が現れることがあります。
本人は「自分がおかしい」とは思っていないケースも多く、周囲の気づきが何より重要です。
【よくある変化の例】
・些細なことで突然激昂する
・急に話し続けて止まらなくなる
・妄想や幻聴がある(例:「今、悪口を言いましたよね?」と突然言い出す)
これは、例えば双極性障害(躁状態)や統合失調症の典型的な症状です。
【実際の例】
Bさんは就業後、部下を連れてクラブに行き、そこで「店全員の代金を自分が払う」と言い出しました。さらに100万円ほどの現金を配り始めるという行動に。
翌日、様子がおかしいことを部下が上司に相談し、受診した結果、双極性障害(躁状態)と診断され、即日入院となりました。
このような「普通と違う」行動は、周囲の観察と気づきが早期対応のカギとなります。
「シグナル」に気づく体制をつくる
潰れる前にシグナルに気づくために大切なのは、「観察」と「関わり」です。
そのために、組織として仕組みを持つことが必要です。
具体的な方法を2つ紹介します。
① 定期的なセルフチェック
多くの企業で実施されているストレスチェックは、有効に活用すれば「自分自身の変化に気づく」ための重要な手段となります。
しかし現状では、単なる義務として実施されているケースも少なくありません。
大切なのは、
・「ストレスチェックは“会社のため”ではなく“自分のため”」
・「自分の心身の状態を振り返る大切な機会」
こうした意義を、従業員一人ひとりが理解し、共通認識として持つことです。
年1回のチェックでも、自分自身の異変に気づくきっかけになります。
この意識づけこそが、セルフケアの第一歩です。
② 観察と対話の体制づくり
セルフチェックに加えて、他者からの気づきも大きな支えになります。
特に、管理職自身の状態を見守る仕組みが必要です。
ポイントは以下の2つの視点です。
●上位職による「管理職への観察と把握」
・長時間労働が隠れていないか
・業務量が過度になっていないか
・最近様子に変化はないか
これらを、形式的な報告だけに頼らず、直接の観察や対話によって把握することが大切です。
●管理職同士の「横のつながり」を組織的に設ける
管理職同士が悩みや負担を共有し合える場を、「自然発生に任せる」のではなく、仕組みとして用意することが有効です。
具体例:
・定期的な他部署管理職との対話の場
・管理職向けのピアサポート・ネットワーク
・情報交換や相談の場を設ける
こうしたつながりがあることで、孤立を防ぎ、「気づける機会」が増えていきます。
「潰れてしまう前」に気づくためには、「いつもと違う」「普通と違う」この2つの視点で日ごろから変化をキャッチすることが重要です。
気づける環境・仕組みを組織として整えることで、管理職を守り、組織全体を守ることにつながります。
【参考コラム】
【専門家が徹底解説】管理職へのメンタルヘルス研修の正しい内容
【管理職が部下育成ですべき5つの行動】長期的な組織の成長を促す
4) 管理職が潰れそうな時の対処法
管理職が潰れそうな時の対処法は、「本人への迅速なケア」と「現場への明確な対応」の両輪で進めることです。
具体的には、
本人には「素早く気づき、でも焦らずゆっくり対話する」こと。
現場には「素早く、明確に体制と方針を伝える」こと。
この2つを適切に行うことで、本人の回復を支えるだけでなく、周囲への影響や二次被害を防ぐことができます。
ここでは、「本人へのケア」と「現場へのケア」、それぞれのポイントを解説します。
本人へのケアは「素早く」対処を行い「でもゆっくりと」対話を行う
本人へのケアで大切なのは、「素早く対応すること」と「焦らず丁寧に対話すること」この2つのバランスです。
〈素早く〉対処する
精神疾患が進行すると、自分自身で適切な判断ができなくなることが多く、放置すればするほど悪化してしまいます。
だからこそ、できるだけ早い段階で対応を始めることが重要です。
具体的な対処の基本は「見る、聞く、つなげる」です。
【見る】:兆候をキャッチする(「いつもと違う」に気づく、「普通と違う」に気づく)
↓
【聞く】:できるだけ早く本人と対話し、状況を確認する
↓
【つなげる】:必要に応じて、医療機関や産業医、カウンセラーへつなげる
状況別の対処の例は以下の通りです。
| 状況 | 優先する対応 |
|---|---|
| 緊急性のある場合 例:睡眠障害が続く、食事が取れない、出勤時に体調不良(吐き気など) |
できるだけ早く心療内科や産業医と連携し、医療につなげる |
| 緊急性が低い場合 例:明確な体調不良はないが、調子が出ない・不安が強い |
産業医やカウンセラーとの面談を検討する |
一例として、私がカウンセラーとして関わっている際の基準をお伝えします。基準は2つです。
① 本人や周囲から「不調」のサインがある場合 → カウンセラーへ
② 明確な不調はないが、負荷が高いと予測できる場合 → 産業医面談へ
① 本人や周囲から「不調」のサインがある場合 → カウンセラーへ
本人が「調子が悪い」と訴えていたり、周囲から「最近様子がおかしい」「元気がない」と感じられる場合は、まずはカウンセラーが話を聞き、不調の原因が何なのか(精神的な問題なのか、人間関係の悩みなのかなど)を整理します。
その後、必要に応じて産業医や医療機関につなぎます。
本人が自分の不調を自覚している場合は、悩みの背景が多様であることが多いため、まずはカウンセラーが対話を通じて状況を整理し、適切な支援につなぐことが有効です。
② 明確な不調はないが、負荷が高いと予測できる場合 → 産業医面談へ
本人も周囲も不調を感じていないが、長時間残業が続いていたり、大きなプロジェクト中で強いストレスがかかっていそうと感じる場合は、本人の自覚がなくても体に影響が出ている可能性があるため、産業医による健康チェックを優先します。
産業医の判断で、カウンセリングや医療受診が必要と判断された場合は、そこにつなげます。
負荷が高いときほど本人に自覚がないため有効な面談になりづらいです。そのため、産業医が身体的なチェックをしていくことで予防をする流れが有効です。
上記はあくまで一例ですが参考にしてみてください。
〈でもゆっくりと〉対話を重ねる
迅速な対応が必要とはいえ、本人への対話は焦らず、ゆっくりと行うことが大切です。
精神的に追い込まれている状態の人は、判断力や思考力が落ちています。急かしたり、一方的に指示を出したりすると、さらに不安を煽り、状況が悪化することもあります。
実際の事例をもとに、潰れそうな管理職への対応について考えてみましょう。
【事例】管理職Cさんのケース
ある日、管理職Cさんの上司のもとに、次のような声が届きました。
「最近Cさん、細かいミスが増えている」
「業務中もぼーっとしていることが多い」
それを聞いた上司は、「もしかすると、うつ病などの精神疾患の兆候かもしれない」と感じ、すぐにCさんと直接話すことにしました。
実際にCさんと話してみると、いつもより明らかに返答が遅く、反応も鈍い状態でした。
上司は「これはすぐに対処しなければ」と考え、次のような対応を取りました。
・今すぐ帰宅して休養するよう伝える
・病院(心療内科など)に行くことを勧める
・現在抱えている仕事はすべて自分が引き受けると伝える
しかしその話を聞いたCさんは、呆然とした表情を浮かべ、その後ぐったりと動けなくなってしまったのです。
本人は「ギリギリの中でどうにか頑張ろうとしていたところに、すべて奪われてしまった」と感じ、心が折れてしまったのです。
このケースでの上司の対応は、決して悪いものではありません。
「何とか助けたい」という思いがあったからこその行動です。
ただ、潰れそうな人は「まだ頑張りたい」「できることはしたい」という気持ちも抱えていることが多くあります。
本人の気持ちを確認せずに急いで仕事を取り上げてしまうと、「自分はもうダメなんだ」と感じ、かえって無力感や喪失感を深めてしまうこともあります。
だからこそ、対処は「素早く」動きながらも、本人との対話は「ゆっくり」「丁寧に」進めることが大切です。
「あなたは今どう感じている?」「何が一番負担になっている?」と、本人の思いを確認しながら、一緒にペースを合わせて支援していくことが必要です。
「迅速な対応」と「丁寧な対話」のバランスをとることは、決して相反するものではなく、どちらも欠かせない大切な視点です。
本人の「まだできる」「こうしたい」という気持ちも大切にしながら、必要に応じて医療機関やカウンセラーにつなぐことで、潰れそうな管理職を早期に支え、無理を重ねてしまう前に救うことができます。
現場へのケアは「素早く」「明確に」対策を発表する
現場への対応は「素早く状況を伝えること」、「明確に今後の体制を示すこと」の2点が重要です。
〈素早く〉現場に対策を伝える
管理職の不調による対応は、「できるだけ早く現場に方針を示す」ことが重要です。
精神疾患や心身の不調は回復までの期間が読めず、対処が後手に回ると現場は不安と混乱を抱えたまま日々の業務を続けることになってしまうためです。
例えば、緊急対応として課長代理や代替の管理職が配置された場合でも、「この体制がいつまで続くのか」「今後どうなるのか」が不透明なままだと、現場の負担感や不安は日に日に増していきます。
だからこそ大切なのは、状況を把握した時点でできる限り早く、「今後の体制」や「次の判断タイミング」について現場に説明することです。
避けたいのは、「何となく業務を回しているが、本人は休みがち」「誰が何を担うのか曖昧なまま」という状態です。これは不調者本人にとっても現場にとってもよい結果を生みません。
もちろん、病状などの個人情報は開示できないケースがほとんどです。
しかし「どこまで情報を伝えるか」を当人としっかり協議し、少なくとも「体制」と「今後の方針」については明確に伝えることが大切です。
この「素早い方針提示」が、現場の混乱を防ぎ、安心して次の一歩を踏み出すための土台となります。
〈明確に〉体制と方針を伝える
今後の体制や方針については、下記の項目について明確にし、できるだけ早い段階で現場に伝達しましょう。
①体制をどうするか(指示系統など)
②業務負担をどうするか
③いつまでこの状態でいくのか、またいつになったらまた新たな対策を提示するのか
例えば、
「当面の間、○○さんが代行する」
「△の案件は〇〇さんと□□さんで対応してほしい」
「3か月後に改めて体制を見直す」など
「本人がいない間、誰が何を担うのか」「次の見直しはいつか」という情報をクリアにすることで、不安や混乱を最小限に抑え、現場が安心して動ける環境を整えることができます。
本人へのケアと同様に、現場へのケアも早めの対応を行うことで、安心して働ける組織づくりにつながります。
5) 管理職を潰さない!会社が実践すべき3つの対策
冒頭でお伝えした通り、「人が潰れる」背景には次の3つの要素があります。
・ストレス要因(負荷の大きさ)
・個人のストレス耐性(レジリエンス)
・周囲のサポート体制(支えの有無)
ここでは、この3つの視点で、組織としてどのような施策が必要かをお伝えします。
| ストレス要因への対策 | 環境を見直し続ける「モニタリング」と「改善力」を持つ |
|---|---|
| 本人のストレス耐性への対策 | レジリエンスを強化し、セルフケアできる管理職を増やす |
| サポート体制の整備 | 潰れる前に気づける「予防システム」を作る |
ストレス要因への対策:環境を見直し続ける「モニタリング」と「改善力」を持つ
適切な目標設定、業務量、人員配置を見直し続けることが、最初の一歩です。
現場では突発的なトラブルや急な人手不足が発生することは避けられません。しかし「誰かが無理をしているから何とか回っている」という状態を放置してしまうと、それが“当たり前”になり、いずれ破綻を招きます。
例えば、慢性的な人手不足の部署を、残業を厭わない管理職に頼りきりで回していないでしょうか。
メンタルヘルス対策の基本は、「業務の質と量を適切に調整すること」です。
そのためにも、定期的に現場の状況を可視化し、負担が偏っていないかをモニタリングできる仕組みが必要です。
本人のストレス耐性への対策:レジリエンスを強化し、セルフケアできる管理職を増やす
レジリエンスとは、ストレスや困難から回復する力のことです。
管理職一人ひとりが「自分の状態に気づき、必要な時に休む」「誰かの力を借りる」といったセルフケアの力を持つことで、負荷が高い状況でも潰れずに乗り越えていくことができます。
この力は生まれつきの資質ではなく、トレーニングによって身につけられるスキルです。
管理職に限らず、全従業員に必要な力ともいえるため、会社として計画的に強化する仕組みを持つことをおすすめします。
【参考コラム】レジリエンス研修の内容は、専門家と決めるべき│安易な実施は危険
サポート体制の整備:潰れる前に気づける「予防システム」を作る
ストレス要因や本人の耐性を整えることは大切ですが、すべての負荷を取り除くことも、全員が完璧にセルフケアできることも現実的ではありません。
だからこそ重要なのが、「見る・聞く・つなぐ」の体制を会社として整えておくことです。
早期に気づき、潰れる前に対処できる組織づくりがカギとなります。
具体的な取り組み例:
・ストレスチェックの実施方法、意義の伝え方の見直し
・管理職の縦の繋がりの強化;1on1などの実施
・管理職の横の繋がりの強化:組織横断的なプロジェクト、コミュニティの充実
・社内、社外への相談機能の充実:社内、社外カウンセラーの設置
これらの取り組みを通じて、問題が表面化する前に「気づく」力を高め、組織全体で支え合える体制をつくっていきましょう。
管理職を「潰さない」ために企業ができることは、特別なことではありません。「気づいていない負荷」に目を向け、仕組みとして対策を講じることが何より重要です。
そのためには、環境、本人、周囲の支えという3方向からアプローチすることが必要です。
こうした取り組みは、管理職を守るだけでなく、現場で働くすべての人の「安心して働ける環境づくり」につながります。
▼管理職が潰れる前の見逃しがちな2つの兆候と、取るべき行動をまとめました。
6) まとめ
本コラムでは、管理職が潰れてしまう原因と、その予防・対処法についてお伝えしてきました。
事例や具体的な施策などもお伝えしましたが、ここでご紹介した施策も「これをやれば必ずうまくいく」という単純なものではありません。
なぜなら、企業ごとに組織の状況や課題は異なり、何が最適かの判断が難しい場面も多いためです。
「自社ではどう取り組めばいいのか具体的に考えたい」
「いまの対策で本当に足りているのだろうか」
そんな疑問やお悩みがある場合は、ぜひお気軽にアーティエンスへご相談ください。
アーティエンスでは、各社の状況に合わせて、現実的かつ実効性のある対策をご一緒に考えるお手伝いをしています。
今回の内容を参考に、管理職本人にとっても、組織にとっても無理のない、健全な仕組みづくりに取り組んでいきましょう。
\ 人事責任者・社員研修担当者のあなたへ /
メルマガ登録(無料)のご案内
週に4回、人材育成・組織開発に関するお役立ち情報を発信しています。
社員のスキルアップと業績向上を目指す方に、役立つメルマガです。
- 登録者数は約2,000名
- 育成に役立つコラム/動画情報が届く
- ウェビナー情報がいち早く届く
今メルマガ登録いただいた方には、【企業研修の教科書|58ページ】【企業研修Q&A|27ページ】【研修からはじめる組織開発|40ページ】をプレゼントしています。




