到来する「個の時代」と、知っておきたい「ダイアログ(対話)」の在り方

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作成日:2019.1.2

2019/1/2作成ー

これからは個の時代」──そんなフレーズをよく耳にするようになりました。

「価値観の多様性が進み、これまでのいわば画一的な物事の進め方より、個々の人たちが持つ『強み』や『特性』を活用したほうが効果的だ」という考えがどんどん広まってきています。一方で、「この人とは合わない」、「チームで険悪な関係の人たちがいて、雰囲気が悪くなる」など、各々の「個」の違いから生じる摩擦や不協和音を日々感じられている方も少なくないでしょう。

さて、これから「個の時代」は本当にやってくるのでしょうか。 そして、その個の時代において、私たちは本当にそれぞれが持つ強みや特性を掛け合わせていくことは可能なのでしょうか。

今回は、そんな「個の時代」の到来について、そしてその際に私たちが組織・チームでどう向き合っていくのが良いかについて、お話していければと思います。

1)本当にこれから「個の時代」がやってくるの?

これから「個の時代」が本当にやってくるかどうか──。 そもそも、その「個の時代」をどう解釈するかにも依りますが、以下のように解釈するとすれば答えは「YES」となるでしょう。

個の時代: ひとりひとりが、今まで以上に「どう生きるか」について考え、自分なりの答え・方針を見出していく時代

もちろん、これまでも多くの人々は「どう生きるか」という課題に向き合ってきました。封建社会の崩壊とともに、世の中はすでに「個の時代」が始まっていたと言うこともできるでしょう。

ですが一方で、近代~現代社会においては「個」と対立するような概念として、「仕組み・システム」も存在しました。 例えば、企業の雇用形態、それに伴う人々の働き方、それ以外にも家族形態や学校等──、それら「仕組み・システム」は人々が持つ「個」を発揮せずとも成り立ち、かつ成長(発展)していけるものでした。

そして、現在それらの多くは自身の形態を維持していくことが難しくなり、新たな変革が求められる気風が高まっています。 個人で見た際にも、既存の仕組みやシステムに併せて生きていくこと(または依存すること)に適切さを感じられなくなり、「自分なり」の生き方、働き方、生活の仕方を模索する必要性が出てきている。──ここに、「個の時代到来」が盛んに謳われる背景があるように感じられます。

つまりは、「個の時代到来」とは、現在になって人々の「個」の多様性が促進された(もちろんそれも多少はあるでしょうが)というよりかは、「個」を発揮せずとも済まされたこれまでの社会の仕組みやシステムの基盤が緩んできており、その為に各々が持つ「個」が注目されてきているということを示しているのではないでしょうか。

2)組織・チーム内で、「個の多様性」はどのように作用されるか

さて、では個人が集まった組織・チームにおいて、その「個」はどのように作用されるでしょうか。

共通のビジョン・目標に向けて推進していく組織・チームでは、前述の通り「個の多様性」が少なからず摩擦や混乱をきたすこともあります。なぜなら、ご存知の通り「他者を理解する」ことは決して容易な作業ではないからです。むしろ、人が「他者」を完全に理解することは不可能と言っても良いでしょう。

片や、組織・チームでの活動においては関わる人々の「相互理解」が不可欠です。 「個々の多様性」と「相互理解」のふたつを同時に促進させていくことは、本当に生産的と言えるのか──。皆さんは、どう思いますでしょうか。

同質性の高い人達の集まった会議での議論はクォリティが低くなる?

ここで、アメリカの心理学者アーヴィング・ジャニスの提唱した「集団思考(グループシンク)」を紹介したいと思います(ご存知の方は、読み飛ばしていただいて構いません)。

「集団思考(グループシンク)」とは、簡単に言うと組織やチーム等の複数人の集まりがその場の空気や団結感を優先してしまい、結果的に非合理的な見解に至ってしまう思考・状態を指します。 興味深いのは、その傾向は(たとえ優秀な人たちの集まりだったとしても)同質性の高い人たちの集まりであるほど顕著になるということです。 アーヴィング・ジャニスは「ピッグス湾事件」「ウォーターゲート事件」「ヴェトナム戦争」などのいわゆる「高学歴エリートの集団」が導き出した浅はかな意思決定の事例を数多く研究し、どんなに個人の知的水準が高くても、同質性の高い人が集まると意思決定の品質は著しく低下してしまうことを明らかにしました。

そして、ジャニスの研究は同時に以下のことも導き出しています。すなわち、「多様な意見による認知的な不協和は、クォリティの高い意思決定に繋がる」ということです。

3)「個の多様性」をクォリティの高い意思決定に繋げていく為には

ここまでお読みになられて、「言っていることは分かるが、それでも『個の多様性』を組織・チームに活かしていくことは難しいのでは」と思われた方もいらっしゃることでしょう。

たしかに、その通りだと思います。個の多様性を発揮させていくことは、決して簡単なことではないでしょう。

ただし、だからと言って「難しいからできない・やらない」と諦めてしまっては何事も進みません。 そこで、個の多様性をクォリティの高い意思決定に繋げていく為のひとつの有効な手法として、「ダイアログ」についてお話していきます。

チーム・組織で探求を深め、新たな価値を生成する取り組み──「ダイアログ(対話)」について

ダイアログとは、「対話」を意味します。 ただし、ディスカッションのような選択・決定のためのコミュニケーションではなく、ダイアログは、「探求」と「発見」、そして「共有化」に重きを置いたコミュニケーションです。 なぜ、「個の多様性」を発揮していく上でダイアログを取り上げたのかというと、そもそも各々の「個」を理解しあう為にはコミュニケーションが不可欠であるからです。かつ、その際はディスカッション的なコミュニケーションではなく、まさに個の多様性をも「探求」していけるダイアログが望ましい──ということですね。

ダイアログのコミュニケーションの実践は、誰でも行うことができます。

具体的には、以下のポイントを意識すれば、すぐにでも複数人のメンバーでダイアログを開始できるでしょう。

ダイアログ(対話)のポイント

・対等で自由な立場で参加する(肩書きや権威を持ち出さない)
・自分の考えにこだわらない ・断定的な言い方をしない
・自分の考えや背景をオープンにする(思っていることを率直に述べる)
・人の意見の背景を理解しようとする
・相手の話の善し悪しをジャッジするように聞くのではなく、探究する姿勢で聴く

上記のダイアログ(対話)のポイントを見て、おそらく多くの方が、このようなコミュニケーションを実施された経験をお持ちなのではないでしょうか。

真に愛情や信頼関係を持つ相手とは、自然とこういった会話になることも少なくないでしょう。──つまり、ダイアログとは新しい技術・手法というわけではなく、前述の通り「誰もが実践できるもの」なのです。

ただし、ダイアログのコミュニケーションもまた、より深みへと進むためのプロセス(深度)が存在します。

世界的紛争解決ファシリテータとして名高いカナダ人のアダム・カヘン氏は、「対話(ダイアログ)には4つのフェーズがある」と言います。

対話の4つのフェーズ

ダイアログを実践した際には、自分たちの対話が今どのフェーズにいるのかを上記図を参考に適宜振り返ると良いでしょう。

前述の「ダイアログ(対話)のポイント」を忠実に守るだけでは、上記フェーズの「1st 儀礼的会話」の域のままです。そこから次のフェーズと進んでいき、最終的に「生成的ダイアログ」と到達していく為には、ダイアログに関わる人たちの意識と働きかけが必要になるということでしょう。

想像してみてください。もし、今の組織・チームの仲間たちと、上記図で挙げた「生成的ダイアログ」が活性できたとしたら──。きっとそれは、とても刺激的で情熱的な機会・経験になることでしょう。

そして、個々の多様な「個」が良質な融合・反応を繰り返し、クォリティの高い相互理解と意思決定に繋がっていけるのではないでしょうか。

もしかしたら、「そういう機会は、すでに何回も経験している」という方もいらっしゃるかもしれませんね。そうだとしたら、それはとても幸せで恵まれたことだと、私は思います。

まとめ)「個の時代」をより善く生きるために

ここまでお読みになられて、いかがでしたでしょうか。 「個の時代」と聞くと、人はいわば「個人主義」的な、閉鎖的な生き方をイメージしがちです。 ですが実際は、より各々の「個」の存在を感じ合い、影響し合い、成長していくといった「相互支援性」が色濃くなっていくのでしょう。

そのために必要なダイアログの質を高くする方法として、ファシリテーターに入ってもらう、ということがあります。

ファシリテーターの役割とは、ダイアログに参加している人の当事者意識・主体性を最大限に発揮することを促すことです。
ファシリテーターの役割とは?

そうすることによって、ダイアログがより本質的で質の良い内容になっていきます。

そんなファシリテーターを育成するためのコースをアーティエンスでは、ご用意しています。
ファシリテーター研修

よろしければぜひご参加ください。

到来する個の時代をポジティブに受け止め、より実りある人生に繋げていける為に、この記事が皆さまのお役に少しでも立てられることを、心より願っております。