新入社員が挨拶しない5つの背景と自然に挨拶が生まれる職場の作り方

更新日:

朝のオフィスに入ると、どこか静まり返った空気を感じることはありませんか。
新入社員が出社しても、こちらから声をかけるまで挨拶がない――。

そんな場面に、寂しさや違和感を覚える人事・上司の方も多いでしょう。

「最近の新入社員は挨拶をしない」と嘆く声も聞かれますが、実はその背景には、単なるマナー不足ではない“理由”が隠れています。
年上や上司への気づかい、自分らしさを重んじる価値観、反応が得られない気まずさなど、心理的なハードルが複雑に絡み合っているのです。

けれども、挨拶は職場の信頼関係や安心感、そしてチームの生産性を支える“組織の土台”です。一人ひとりが自然に挨拶できる環境を整えることで、職場の空気は確実に変わります。

この記事では、新入社員が挨拶をしない背景と、その根底にある心理をひも解きながら、「無理なく・自分らしく・自然に挨拶が生まれる職場」をつくるための具体策を紹介します。

新入社員の小さな声かけや行動が、やがて組織全体の大きな変化を生み出します。その可能性を信じて、日々のコミュニケーションを育てていきましょう。

執筆者プロフィール
迫間 智彦
X:@tohaza_atc youtube:中小企業の人材育成・組織変革 専門チャンネル
大学卒業後、大手通信会社、アルー(株)勤務後、2010年にアーティエンス(株)を設立。業界歴17年。大手企業から、中小企業、ベンチャー企業の人材開発・組織開発の支援を行っている。専門分野は、組織開発、ファシリテーション。

専門性:ファシリテーター管理職組織開発・組織変革

1. 新入社員が挨拶をしない背景

新入社員が挨拶をしない理由は、単なる「やる気のなさ」や「怠慢」ではなく、さまざまな心理的・環境的要因が複雑に絡み合っています。

ここでは、主な背景要因を5つに分類して詳しく見ていきます。

1-1. 年上や上司に気をつかいすぎて緊張している

新入社員が挨拶をしない背景には、上司や先輩に気をつかいすぎて声をかけづらくなっている場合もあります。

新しい環境に入ったばかりの新入社員は、年齢や経験の差を意識しすぎるあまり、「どう接してよいか分からない」「失礼な印象を与えたくない」と感じてしまい、結果的に言葉を発すること自体に躊躇してしまいます。

たとえば、研修直後に先輩から「もっと元気に挨拶しなさい」と注意を受けた新入社員が、「自分の挨拶の仕方は間違っていたのか」と不安を感じ、以降さらに声を出せなくなったという事例もあります。善意の指導であっても、緊張を助長してしまうことがあるのです。

新入社員の沈黙の背景には、「失礼になりたくない」「間違えたくない」という防衛的な心理が潜んでいる場合があります。

1-2. 形式よりも、自分らしい関わりを大切にしたい

新入社員が挨拶を控えるのは、「型にはまった挨拶」よりも「自分らしい関わり方」を大切にする傾向があるためです。

近年は「自分らしさ」や「多様な働き方」が尊重される風潮が強く、形式的な行動よりも自然体であることを重視する若手が増えています。決まり文句のような挨拶を求められると、「自分らしくない」と感じ、抵抗感を抱くことがあります。

ある企業では、画一的な挨拶を求めず、社員が自然に声をかけ合う文化を重視しています。このような風土では、新入社員が無理に「元気さ」を演出する必要がなく、挨拶の形はバラバラでも、結果的に自然なコミュニケーションが生まれています。

上下関係よりも対等な関係を望む価値観の変化や、「型より本音」を重視する文化的潮流が、挨拶をしないことに影響していると考えられます。

1-3. いつ、誰に声をかければいいか分からない

新入社員が挨拶をためらうのは、「いつ・どこで挨拶すればよいか」が曖昧だからです。

出社スタイルの多様化やオフィスレイアウトの変化により、以前のように「全員で朝に顔を合わせる」機会が減少しています。その結果、挨拶のタイミングや相手が見えづらくなっています

たとえば、社員が個別に出社するオフィスでは、「全員に声をかけるべきか」「会議前に声をかけていいか」といった迷いが生まれ、結果として無言で着席する新入社員が増えています。

つまり、挨拶をしないのではなく、場面やルールが曖昧な中で「どうするのが正しいか判断できない」という戸惑いが根底にあります。

1-4. 挨拶しても反応がなく、気まずさを感じる

新入社員が挨拶をやめてしまう背景には、「挨拶しても反応が返ってこない」という経験の積み重ねがあります。

挨拶は相互的な行為であり、反応が得られないと孤独感や不満を感じやすいです。特に職場に慣れていない段階では、その沈黙が心理的な壁になります。

実際に、ある新入社員は「おはようございます」と言っても相手がスマートフォンを見たまま無反応だった経験をきっかけに、次第に声を出さなくなっていったと話しています。

この背景には、コミュニケーションの省略化や他者への関心の希薄化といった、現代の職場環境の特徴が反映されています。

1-5. 明るく挨拶すると“浮く”気がしてしまう

新入社員が「元気な挨拶」を避けるのは、その明るさが場の空気と合わず、誤解を招くリスクを感じているためです。

職場ごとに文化や雰囲気が異なり、「控えめな態度が良し」とされる環境では、明るい挨拶が浮いてしまうこともあります。新入社員は「場を乱したくない」という意識からトーンを抑えがちになります。

実際に、序盤は元気に挨拶していた新入社員が、「元気すぎてうるさいかも…」と、積極的な挨拶を控えるようになった事例も存在します。

つまり、挨拶の抑制の背景には、職場の「空気」や「同調圧力」を敏感に察知し、適応しようとする防衛的な心理が働いているといえます。


新入社員が挨拶をしないのは、決して「やる気がない」からではなく、さまざまな心理的・環境的な要因が存在しています。

新入社員の行動を表面だけで判断するのではなく、言動の背景に目を向けることで、適切な対策を行えるようになります。

2. 挨拶をしない新入社員を変える5つの改善案

新入社員が挨拶をしない背景を踏まえ、新入社員が無理なく、自分らしく挨拶できるようになるための5つのアプローチを紹介します。

2-1. 上司・先輩からの安心を生む声かけの習慣化

新入社員が緊張せずに挨拶できるようにするためには、上司や先輩が先に声をかけ、「安心して話しかけていい」という空気をつくることが大切です。

新入社員が挨拶をためらう大きな理由は、上司や先輩に気をつかいすぎて緊張してしまうためです。「どう思われるか」「間違えたくない」という不安があると、声をかけること自体が心理的負担になってしまいます。

たとえば、出社時に上司から「おはよう、昨日の研修どうだった?」と先に声をかけるだけで、新入社員は「話しかけていい相手だ」と感じます。
また、「元気に挨拶して」と指導するよりも、「声をかけてくれて嬉しいよ」と受け止める言葉の方が、緊張を和らげ、自然な挨拶を促します。

上司や先輩からの一言が、挨拶していい安心感をつくります。新入社員が安心して声を出せる関係ができると、挨拶は自然に生まれる行動に変わっていきます。

2-2. 「自分らしい挨拶」と共通の目的をつなぐ文化づくり

新入社員の“自分らしさ”を尊重しながら、挨拶の本来の目的や意味を共有することが大切です。

多くの新入社員は、「元気に挨拶すること」よりも「自分らしく関わること」に価値を感じています。そのため、形式的な挨拶を強要されると、“自分らしさを否定された”と受け止め、かえって距離を取ってしまうことがあります。

「なぜ挨拶をするのか」「挨拶がどんな信頼関係をつくるのか」を丁寧に伝えることで、自然な行動につながります

アーティエンスのビジネスマナー研修では、「素晴らしいマナーを身につけながらも、自分らしさを大切にするにはどうしたらいいのだろう?」という問いをテーマに、参加者同士で対話を行います。
その中で、「マナー=型を守ること」ではなく、「相手を思いやる行動」だと気づく瞬間が生まれます。

たとえば、「お辞儀の角度」や「声のトーン」といった形だけでなく、「どんな伝え方なら誠実に届くか」「相手が気持ちよく感じる関わり方とは何か」という視点で行動を考えるようになります。

こうした対話を通じて、挨拶は“ルール”ではなく“信頼を築く手段”として再定義され、新入社員も自分らしい表現で関われるようになります。

「元気に挨拶する」ことを目的にするのではなく、「相手を思いやる気持ちをどう伝えるか」を共通の軸として共有することが重要です。

形式にとらわれず、思いを届ける手段として挨拶を位置づけることで、新入社員が自分らしいスタイルのまま実行しやすくなります。

2-3. 「自分らしい挨拶」を尊重しながら共通目的を育む設計

職場内で挨拶の基本ルールやタイミングについて、明確なガイドラインを設けましょう

挨拶が定着しない背景の一つは、タイミングやルールが曖昧であることだからです。新入社員は「今声をかけていいのか」「誰に挨拶すればいいのか」が分からず、結果として黙ってしまうケースが多く見られます。

朝礼や定例ミーティングの場で、挨拶のタイミングや意義について共有する取り組みを行うと効果的です。

たとえば、朝の朝礼や定例ミーティングで「出社時には部署全体に一声かける」「会議室に入るときは近くの人に軽く会釈をする」など、具体的なルールを共有しておくと、新入社員も安心して行動に移せます。

また、上司が率先して挨拶を交わすことで、職場全体に“挨拶していい雰囲気”が広がります

明確なルールは、形式的な縛りではなく行動の安心材料になります。新入社員が迷わず挨拶できる職場では、自然なコミュニケーションが生まれ、日々の人間関係も円滑になります。

2-4. 挨拶の反応に左右されない自信を育てるサポート

新入社員が相手の反応に過敏にならず、安心して挨拶できるようにするためには、挨拶の目的や意味を理解させ、自信を持って行動できるよう支援することが大切です。

新入社員が挨拶をやめてしまうのは、挨拶しても反応が返ってこないと「自分が無視された」と感じてしまうためです。反応の有無を「評価」として受け取る傾向が強いため、挨拶そのものが不安の原因になってしまうのです。

そのため、「挨拶は相手の反応を引き出すためではなく、自分から関係をつくる行為である」と理解させることが重要です。

OJTやメンター制度の中で、先輩社員が「他のことに集中していて声が聞こえないこともある」「返事がなくても見ている人はちゃんといる」といった言葉をかけてあげることで、新入社員の受け止め方が変わります。

挨拶は相手の反応で評価されるものではなく、自分から信頼を築くための一歩です。新入社員がその意義を理解し、自分の行動に自信を持てるようになることで、反応の有無に関係なく、自然と笑顔や声かけができるようになります。

2-5. “浮かない安心感”をつくるコミュニケーション文化の定着

「明るく挨拶したら浮くかもしれない」という不安をなくすためには、トーンよりも“気持ちが伝わる挨拶”を尊重する文化を育てましょう

新入社員が元気な挨拶を避けるのは、場の空気を乱したくないと感じているためです。多くの場合、明るさが求められていないのではなく、「周囲に合わせたい」という配慮が働いているのです。

上司や先輩が「伝わっているよ」と言葉で伝えることで、新入社員は安心します。
また、職場全体で「笑顔や会釈も立派な挨拶」と共通認識を持つと、テンションの高低に関係なく、誰もが自分らしく挨拶できるようになります。

大切なのは「明るさの統一」ではなく、「思いの共有」です。それぞれのスタイルを受け入れ合う文化が、“浮かない安心感”を生み、自然な挨拶と温かい関係を育てます


新入社員にとって挨拶は、単なるマナーではなく「組織の一員としての最初のコミュニケーション」です。
行動を「教える」のではなく、安心・納得・共感の3要素を通じて、自然に挨拶が生まれる環境を整えることが重要です。

3. 挨拶がもたらす組織へのプラス効果

日々の挨拶は、組織内の信頼や安心感を育み、円滑なコミュニケーションを生み出す土台となります。

古くは孔子も「礼(あいさつ)は秩序を保つ根本」と説いたように、挨拶は単なる形式的行為ではなく、人と人との関係を整える重要な行動です。

ここでは、挨拶がもたらす3つの具体的な効果を解説します。

3-1. 信頼と連帯感の形成

挨拶の習慣は、社員同士の信頼関係を深め、チームの連帯感を育てます

日常的に顔を合わせて挨拶を交わすことで、互いの存在を認め合う習慣が生まれるためです。「おはよう」「お疲れさま」といった短い言葉のやりとりが積み重なることで、職場全体に“つながり”の感覚が醸成されていきます。

ある企業では、毎朝の「おはよう」を習慣化したところ、自然と情報共有が促進され、チーム全体の連帯感が高まっているとの報告があります。社員同士が顔を合わせ、笑顔で挨拶することで、コミュニケーションの活性化が実感されています。

たった一言の挨拶でも、積み重なることで信頼と協力体制を生み出し、組織全体の結束力を高める効果があります。

3-2. 心理的安心感と職場環境の向上

挨拶のある職場は、社員の心理的安全性が高まり、安心して意見を交わせる環境が育ちます

挨拶を交わすことで、「自分はここにいていい」「受け入れられている」という感覚が生まれるためです。
この“承認のサイン”が、心の余裕やポジティブな感情を生み、職場全体の雰囲気を安定させます。

ある企業では、上司が出社時に必ず部下全員へ一声かけるようにしたところ、職場内の相談件数が増え、チームミーティングでも発言が活発になりました。
「挨拶をきっかけに声をかけやすくなった」という声も多く、心理的な壁が下がったことが確認されています。

挨拶の積み重ねが安心感を生み、職場のコミュニケーションと創造性を高める基盤になります。

3-3. コミュニケーションの円滑化と業務効率の向上

日常の挨拶は、部門間・個人間のコミュニケーションを円滑にし、業務効率を高めます

挨拶は、相手との距離を縮める“最初の一歩”だからです。言葉を交わすことで心理的なハードルが下がり、報連相や情報共有がスムーズになります。

毎日、顔を合わせて「おはようございます」と声をかけ合うことで、会議前のちょっとした相談や進捗確認が自然に行われるようになります。

毎日の声かけが小さなきっかけとなり、情報共有・意思決定・協働の質を高め、チーム全体の成果を押し上げる原動力になります。


挨拶は、一見小さな行動ですが、チーム内の心理的距離を縮め、協働の基盤を築きます。

4. まとめ

新入社員が挨拶をしない理由は、単なる「やる気のなさ」や「怠慢」ではなく、さまざまな心理的・環境的要因が複雑に絡み合っています

年上への畏敬や緊張、「自分らしさ」を大切にする価値観、タイミングの曖昧さ、反応の希薄さ、そして「明るさが浮く」ことへの配慮――こうした背景が重なると、声が小さくなります。

一方で、日々の「おはよう」「ありがとう」は、信頼と連帯感を育て、心理的安全性を高め、報連相や意思決定のスピードを押し上げます。

挨拶は行為ではなく、相手を思いやる“メッセージ”であることが理解できると、組織は変わっていきます

なお、アーティエンスのビジネスマナー研修では、型を伝えつつも「マナー=相手を思いやる行動」へと再定義する対話型プログラムをご提供しています

「自社に合う進め方は?」「新入社員と先輩の関わりをどう設計する?」といったご相談から、現場実装までサポートいたします。お気軽にお問い合わせください

新入社員の小さな声かけや行動が、やがて組織全体の大きな変化を生み出します。その可能性を信じて、日々のコミュニケーションを育てていきましょう。