部下の自律を促す!【例文付き】コーチング型1on1実践マニュアル

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「1on1でコーチング的に関わることが大事と学んだものの、実際どう進めればいいのか分からない」
「コーチングしているつもりが、いつの間にかティーチングになってしまう…」
「コーチング的に関わっているけれど、部下に変化が見られない気がする…」

このようなお悩みをお持ちの方が多いらっしゃるのではないでしょうか。

1on1ミーティング(以下1on1)の質を高めるためのスキルを学ぶと、コーチングの手法に出会うことが多いです。コーチングというのは、部下の自律的な行動を促すことを目的とした、コミュニケーションスタイルです。

しかし、コーチングの本質を理解しきれていないと、「ただ話を聴くだけ」で終わってしまい、会話が前に進まないこともあります。また、本人はコーチングしているつもりでも、実際はアドバイス中心のティーチングになっていることも少なくありません。

そこで本コラムでは、コーチング型の1on1の目的や効果を確認した上で、必要なスキルと具体的な実践方法をお伝えします。お読みいただくことで、コーチング型の1on1の基本的な流れを理解し実施できます。

部下の自己実現をサポートできるようになるためにも、コーチング型の1on1を習得していきましょう。

監修者プロフィール

迫間 智彦

X:@tohaza_atc youtube:中小企業の人材育成・組織変革 専門チャンネル
大学卒業後、大手通信会社、アルー(株)勤務後、2010年にアーティエンス(株)を設立。業界歴17年。大手企業から、中小企業、ベンチャー企業の人材開発・組織開発の支援を行っている。専門分野は、組織開発、ファシリテーション。


 

1)コーチング型1on1の目的と効果

コーチング型1on1の目的は、部下の自律的な行動を促すことです。これにより、部下は主体的に仕事に取り組みやすくなり、成果や自身の成長、さらには組織全体の成長へとつながります。

コーチングは「相手の中に答えがある」というスタンスを持つコミュニケーション手法です。上司がアドバイスを与えるのではなく、傾聴や問いかけを通じて部下の内面を引き出し、部下自身が気づきを得て行動に移すことを目的としています。
自分で考えた答えには納得感があるため、自然と行動に移しやすくなるのです。

また、コーチング型1on1を続けることで、上司と部下の間に信頼関係が生まれ、コミュニケーションが円滑になります。この関係性の構築もまた、部下の自律性を後押しする重要な要素です。

例えば、上司が「どうしたら今の課題を乗り越えられると思う?」と問いかけ、部下が自分のアイデアを出し、次のアクションを決める場面が挙げられます。このような1on1では、部下は「言われたことをやる」のではなく、「自分が決めたからやる」という状態になります。

さらに、良質な1on1が行われることで、実際に離職率の低下やエンゲージメント向上につながることが、さまざまな研究でも明らかになっています。

※アーティエンスの無料勉強会資料より

コーチング型1on1は、部下の成長と自律を促し、結果的に組織全体にも良い影響を与える関わり方です。信頼関係を育みながら、部下の内側から変化を引き出すコミュニケーションスタイルとして、積極的に取り入れていきましょう。

【参考】ティーチング型とコーチング型の違い

1on1には大きく2つのスタイルがあります。

スタイル 特徴
ティーチング型 上司が知識や経験を教え、指導するスタイル
コーチング型 部下の気づきと行動を引き出すスタイル


【関連記事】ティーチングとコーチングの違いとは?具体例から学ぶ活用領域と活用方法

2)コーチング型1on1に必要な3つのスキル

コーチング型1on1を効果的に行うためには、次の3つの基本スキルが欠かせません。

・傾聴
・質問
・フィードバック

これらのスキルを身につけることで、部下の内省を促し、自律的な行動を支援できる1on1が可能になります。

それぞれのスキルについて、詳しく解説していきます。

1、傾聴スキル

傾聴は、相手を尊重し、理解しようとする姿勢で話を聴く力です。コーチング型1on1の土台ともいえる重要なスキルで、対話の質や信頼関係を大きく左右します。

傾聴には「受動的傾聴」と「反映的傾聴」の2つのスタイルがあります。

受動的傾聴は、相手の話を否定せず、集中して聴くことで「受け止められている」と感じてもらう関わり方。
反映的傾聴は、相手の言葉や感情、動きを鏡のように映し返すことで、自身でも気づいていなかった思考や感情に気づいてもらう関わり方です。

この2つを使い分けることで、対話は深まり、部下が自らの内面を整理しやすくなります。

受動的傾聴

受動的傾聴は、話し手の言葉や感情をそのまま受け止めることに重点を置いた聴き方です。
積極的に質問したり意見を述べたりするのではなく、相手の言葉に静かに耳を傾け、共感的に受け止める姿勢が大切です。
表情や声のトーン、仕草なども観察しながら、相手の感情やニュアンスに丁寧に向き合います。

この姿勢によって、話し手は「受け入れられている」「理解されている」と感じ、自分の思いや感情を安心して表現できるようになります

受動的傾聴の実践ポイントを2つお伝えします。

●相手を見て聴く
話し手の目を見て、表情や体の動き、声のトーンまでしっかり観察しましょう。
「見られていない」「気がそれている」と感じると、話し手は不安になり、心を閉ざしてしまいます。
基本は目を合わせながら、相手の変化に気づく姿勢で接することが大切です。

※目をつむって共感を深めることがある場合もありますが、基本は「相手を見て聴く」が基本です。

●聴いていることを相手に伝える
声や動きで「ちゃんと聴いていますよ」と示しましょう。

たとえば
・「はい」「うん」「なるほど」などの相槌
・頷きや柔らかい表情の変化 などです。

話し手が相手の顔を見ないタイプでも、無音・無反応だと不安になることがあります。
そのため、聴いていることを“伝える”配慮が必要です。

なお、「すごいですね」「惜しかったですね」といった言葉は、相手の話に“評価”を乗せてしまうため避けましょう。代わりに、「そうなんですね」とニュートラルに返すことで、話し手は安心して感情を出せるようになります。

受動的傾聴によって、相手は心を開きやすくなり、対話が深まります。
その結果、より多くの気づきが生まれ、自律的な行動にもつながっていきます。

反映的傾聴

反映的傾聴は、話し手の発言を要約するなど、話し手が出していることをそのまま返す傾聴のスタイルです。相手の無意識の表現に意識を向けて、それを言語化・可視化することで、自分自身を客観視できるようにサポートします。

目的は、話し手の自己理解を深め、内省と行動のきっかけを与えることです。

反映的傾聴のための具体的な方法を3つお伝えします。

●表情を反映する
話し手自身は、自分の表情に気づいていないことがほとんどです。
だからこそ、こちらから「その表情」に気づいて伝えることで、新たな気づきが生まれることがあります。

例えば、「今、〇〇について話しているとき、眉間にしわが寄っていて少し苦しそうに見えました」と伝えることで、「そうなんです…実は結構つらくて」という深い感情が出てくることもあります。

●動きを反映する
手の動き、目線、体の向きなど、無意識の仕草にも意味が隠れています。その動きを拾って言語化することで、話し手が自分の状態を認識できます。

例えば、「今、手で丸を描いていましたが、〇〇って丸いイメージなんですか?」と伝えることで、「あ、たしかに…なんか“まとまってる”感じがあったのかもしれません」という気づきにつながることもあります。

●言葉を反映する
会話の中でふと出てきた“印象的な言葉”を繰り返すことで、話し手がその言葉に込めた感情や意味に気づけることがあります。

例えば、「“どうでもいいや”って言葉に、少し力が入っていましたね」と伝えることで、「たしかに…なんか虚しい気持ちだったんです」などと無意識を言語化することにつながります。

このように反映的傾聴を行うことで、話し手は自分を客観でき、新たな気づきにつながります

反映した内容に相手が無反応な場合は、「特に引っかかりがなかった」と受け止めて、再び“今この瞬間”に意識を戻しましょう。

反映的傾聴は、相手を深く理解し、内側にある本音や無意識の感情に光を当てる関わり方です。
このスタイルを使いこなせるようになると、対話がより深まり、部下の主体的な気づきと行動を引き出せるようになります。

2、質問スキル

質問スキルは、話し手の話を“広げたり深めたりする”ことで、新たな気づきを促します
問いかけによって、話し手が自分では気づいていなかった考え方や感情にアクセスできるようになります。

たとえば、話し手が「キャリアアップのために資格を取りたいけれど、勉強する気になれない」
と悩んでいたとします。

その場合、次のような問いを投げかけることで、思考が深まり、気づきが得られる可能性があります。

「何が資格を取ることを妨げているのでしょうか?」
「資格を取らないことで得られているものは何だと思いますか?」

こうした問いによって、表面に出ている言葉の裏側にある“本当の感情”や“無意識の選択”に気づけることがあります。

問いを投げるときに意識したいポイントは3つです。

1、簡潔に問いを立てる

問いはできるだけシンプルにしましょう。簡潔な問いの方が、話し手は理解しやすく、考えを深めやすくなります

よくあるNG例
「先ほど“〇〇”とおっしゃっていましたが、それって〜〜という意味ですか?それとも△△ということですか?」

このように補足をたくさん入れた長い問いは、話し手の理解や思考を妨げてしまいます。答えたいのにうまく整理できず、対話のテンポが崩れることもあります。

OK例
「さっきの“〇〇”について、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」

このように、シンプルかつ柔らかい問い方を心がけることで、相手も安心して話しやすくなります。

2、オープンクエスチョンを意識する

質問をするときは、クローズドクエスチョン(Yes/Noで答えられる質問)ではなく、オープンクエスチョン(自由に答えられる質問)を意識しましょう。

NG例(クローズドクエスチョン)
「この業務の優先度は高いですか、低いですか?」

このような質問だと、選択肢に沿った答えしか返ってこないため、話が広がりにくくなります。

OK例(オープンクエスチョン)
「この業務が達成されると、どんなメリットがありますか?」

このように問いかけることで、話し手の視点や想いがより深く引き出され、「その人ならではの考え」に触れることができます。
気づきを促したい1on1では、オープンクエスチョンが効果的です。

3、What・Howの問いを意識する

質問を投げるときは、Why(なぜ)よりも、What(何を)やHow(どうやって)を意識するのがおすすめです。

その理由は、Whyの問いは“課題解決”に寄りがちで、話し手を問い詰めるような印象を与えてしまうことがあるためです。

一方で、What・Howの問いは、話し手の無意識の感情や状況に気づきをもたらしやすくなります。

NG例(Whyの問い)
「なぜ期限を守れないのでしょうか?」
OK例(Whatの問い)
「何が期限内に提出することを妨げているのでしょうか?」

このように問い方を少し変えるだけで、相手に安心感を与えつつ、内省を促すことができます。

これら3つのポイントを意識することで、より深く、相手の考えや感情に寄り添う1on1の対話が可能になります。

3、フィードバックスキル

フィードバックスキルは、相手の話を聴いて感じたことを、「Iメッセージ(私を主語にした表現)」で伝えるスキルです。
フィードバックによって、話し手は他者の視点を得て、自分自身を客観的に見るきっかけになります。

たとえば、話し手が「資格を取りたいけどできない」と繰り返している場面で、聴き手が「できない理由をたくさん話しているな…」と感じたとします。

その場合、こんなふうに伝えてみます。
「今までのお話を聞いていて、私は“〇〇ができない理由”をいくつも伝えてくれているように感じました。これを聞いて、どう感じますか?」

このように、“私にはこう聴こえた”という形で率直に伝えることで、話し手が「たしかに…言い訳ばかりしていたかも」と、自らの状態に気づける可能性があります。

ただし、「ずっと言い訳していませんか?」など決めつけるような言い方をするのはNGです。
決めつけたような言い方をしてしまうと、相手との信頼関係が崩れてしまい、その後の対話を深めることが難しくなる可能性があります。

あくまでも「私にはそう聴こえた」と伝えるだけにとどめ、話し手がその内容を受け取るかどうかは本人に委ねるというスタンスを持ちましょう。

このようにIメッセージを活用したフィードバックを行うことで、対話が深まり、話し手は無意識にしていた行動や思考のクセに気づけるようになります。
結果として、自律的な行動へとつながっていきます。

3)コーチング型1on1の具体的な実践方法

コーチング型1on1を実際にどう進めていけばよいか、その基本的な流れを紹介します。
全体の流れは以下の通りです。

1、環境の準備
2、コーチングについて説明
3、「評価をする場ではない」ことを意思表示する
4、チェックイン
5、話したいテーマを確認
6、対話
7、今の感情や気づきを確認
8、チェックアウト

このようなステップに沿って進めることで、話し手の内省を促し、気づきと成長につながるコーチング型1on1を実現できます。

具体的に解説します。

1、環境の準備

コーチング型1on1の効果を高めるには、部下が安心して話せる環境づくりが欠かせません。
対話に集中しやすく、リラックスして話せる場を整えるためのポイントを紹介します。

周囲が気にならない場所で行う

話の内容に集中してもらうためには、「人に聞かれていない」と感じられる空間が理想です。
ただし、完全な密室だと緊張感が高まってしまうこともあるため、適度に生活音や人の気配がある個室がおすすめです。

対面ではなくL字で座る

座る位置は真正面よりも、L字型(90度の角度)で座るのが効果的です。
圧迫感が少なく、視線も外しやすいため、お互いにリラックスしやすくなります。

オンラインの場合は、カメラの位置に配慮し、お互いの顔が自然に映るように設定しましょう。

室内の温度を適切にする

「暑い」「寒い」と感じると、どうしても注意が散漫になってしまいます。
集中して話せるように、エアコンや服装で快適な温度環境を調整しましょう。

少しの延長には対応できるようにする

良い対話ができているときに時間切れで中断してしまうのはもったいないです。
予定より少し余裕のあるスケジュールを確保し、必要に応じて延長できるようにしておくのが理想です。


このように、物理的・心理的な“場”を丁寧に整えることで、1on1の深まりや部下の気づきにつながる土台をつくることができます。

2、コーチングについて説明

コーチング型1on1が初めての場合は、「コーチングとは何か」を事前に説明しておくことが大切です。
なぜなら、コーチングに対する理解が曖昧なままだと、部下が受け身の姿勢になってしまい、1on1が本来の効果を発揮できないためです。

参考として伝え方の例文をお伝えします。

コーチングは、対話を通じて〇〇さん自身が自分の中にある答えに気づき、行動につなげるためのコミュニケーションです。

基本的な考え方として、「答えは相手の中にある」と捉えています。私は〇〇さんがその答えに気づけるように問いかけたり、整理をお手伝いする役割です。

ですので、私が答えを持っているわけではありません。〇〇さん自身に考えてもらいながら、一緒にこの場をつくっていければと思っています。

このように伝えることで、部下は「アドバイスをもらう時間」ではなく、「自分で考え、深める時間」だと理解しやすくなります。

コーチングについてお互いが共通認識を持ち、話し手が主体的に関わる必要があることを理解してもらいましょう。そうすることで、意味のある対話と時間をつくることができます。

3、「評価をする場ではない」ことを意思表示する

コーチング型1on1を実施する際は、この場が“評価目的ではない”ことを明言することがとても大切です。
「この話が評価に影響するのでは?」「他の人に伝わるのでは?」といった不安があると、部下は本音を話せなくなり、深い対話に入りづらくなるためです。

参考として伝え方の例文をお伝えします。

これから話すことは、評価には一切関係ありません。
また、この場での話を私から他の人に共有することもありませんので、安心して自由に話してもらえたらと思います。

このように伝えることで、部下は「評価される場ではない」と理解し、安心して自分の気持ちや考えを表現しやすくなります

評価の場ではないことに加え、必要に応じて事前に簡単なルール(グランドルール)を共有しておくのもおすすめです。
ルールを明文化しておくことで、「守られている」という安心感が生まれ、より話しやすくなります。

例として、アーティエンスがグループで対話を行う際に共有しているルールを紹介します。

1on1の場合も、「お互いが安心して話せるために、こんなルールで進めたい」と事前に共有するだけで、場の質が大きく変わります。

このように、「評価につながらない」「自由に話せる場である」ということをしっかり伝えることで、部下は心を開きやすくなり、対話が自然と深まっていきます。

4、チェックイン

チェックインとは、本題に入る前に“今の自分の状態”を言葉にすることで、その場に自然と集中できるようにする導入ワークです。
気がかりなことや体調、気分を一度口にすることで、安心して対話に入る準備が整います。

参考としてチェックインの声かけ例をお伝えします。

● チェックインに慣れている場合
「それでは、チェックインから始めましょう。どちらからでも大丈夫です。準備ができた方からお願いします。」

●チェックインに慣れていない場合
「まずチェックインから始めたいと思います。
これは、本題に入る前に「今思っていること」や「頭の中にあること」を軽く話して、気持ちよくこの場に入るための時間です。

たとえば…「風邪気味で咳が出るかもしれません」「さっきの業務がちょっと気になっています」…のようなことでもOKです。
話したくなった方から、順番は気にせずどうぞ。」

チェックインはあくまで“雑談”とは違い、本題に入る準備運動のようなものです。
緊張をやわらげ、気持ちを整えることで、1on1がより深く、安心できる時間になります。

5、話したいテーマを確認

1on1は、部下が話したいことを話す時間です。
そのため、はじめに「どんなことを話したいか」を確認し、対話の方向性を共有しましょう。

参考として伝え方の例文をお伝えします。

「早速本題に入っていけたらと思いますが、〇〇さんが今話したいことは何かありますか?」

テーマがあいまいだったり、漠然としている場合は、以下のような問いかけで内容を明確にしていきましょう。

「△△について気になっているんですね。もう少し詳しく教えてもらえますか?」
「△△のどんなところが気になっているんですか?」
「そのテーマを選んだ背景には、どんな想いがあるんでしょう?」

こうした問いを重ねることで、部下の中にある“本当に話したいこと”が見えてきます。

以下は話したいテーマを確認する際の会話のイメージです。

■上司:そしたら早速入っていけたらと思いますが、〇〇さんが今話したいことは何かありますか?

▶︎部下:なんか最近、A社との打ち合わせがあると嫌だなって思うようになってきてしまって…。でもA社はウチにとって大切なお客さんなので、丁寧に対応しないといけないし…。なんかこの状態であることが嫌だなって思います。

■上司:A社を大切にしないといけないけど、なんか嫌だなって思うことがあるんだね。何で今、このことが気になっているんだろうね。

▶︎部下:うーん、何ででしょう。嫌だなって思いながら仕事をしたくないからかな。いい仕事をするためには、ネガティブな思いを持っていたらダメな気がする。

■上司:そっか。いい仕事をするためには、ネガティブな思いを持っていたらダメだと思っているんだね。そしたら、今の時間はそのことについて話してみる?もし他に話したいことがあれば教えて欲しいけど。

▶︎部下:そうですね。そのことについて話してみようと思います。

もし、部下から話したいテーマがなかなか出てこない場合は、次のように問いかけてテーマを決めるサポートをしましょう。

●話すことを戸惑っている場合
「この場は何を話しても大丈夫なので、もし頭に浮かんでいることがあれば、どんなことでもOKです。」

●話したいテーマがなさそうな場合
「仕事でもプライベートでも、“こうなったらいいな”と思っていることはありますか?」
「今の状態って、〇〇さんの中で10点満点中何点くらいですか?」(その点数を選んだ理由を深掘っていくと、自然とテーマが見えてくることがあります。)

テーマの認識がずれたまま進んでしまうと、上司は寄り添いにくく、部下もモヤモヤが残ります。
だからこそ、対話の出発点としてテーマを“お互いに明確にする”ことが、1on1の質を左右する鍵となります。

6、対話

コーチング型1on1の核心は、部下との「対話」です。傾聴・質問・フィードバックのスキルを活かしながら、部下が自分自身の内面に向き合い、新たな気づきを得られるようサポートします。

対話のときによく使う例文をお伝えします。

●傾聴
・相槌の言葉「そうなんですね」「はい」「へー」「うん」「なるほど」など
・△△だと思ったんですね(話し手の言葉を繰り返す内容)
・△△の時に□□になるんですね(話し手の言葉を繰り返す内容)

●質問
・何が〇〇さんをそうさせるのでしょうか
・その時どのように感じますか
・△△すると、〇〇さんはどうなってしまうのですか
・そのことを考えてみると、どう感じますか
・〇〇さんにとって△△ってどのようなものですか

●フィードバック
・今まで話しを聞いていて私は〇〇さんが△△ように感じましたが、これを聞いてみてどう感じますか?
・私は〇〇さんが△△を大切にする人なんだと感じました
・私は〇〇さんから△△な思いを感じました

以下が会話のイメージです。

■上司:いい仕事をするためには、ネガティブな思いを持っていたらダメだと思っているという話が出てきたけど、それについてもう少し詳しく教えてもらえる?

▶︎部下:そうですね。なぜそう思っているのかと言われると、今すぐには出てこないですが…。なんでしょう。

■上司:(沈黙が続くかもしれないが、部下の思考を止めないように一旦待ってみよう)

▶︎部下:なんか、自分が全力で取り組めていないから、ちょっと自信のなさとか不安があるのかもしれないなって今思いました。

■上司:(もっと話したいことがありそうだなと感じたため受動的反映で対応しよう)そうなんだね

▶︎部下:はい。自分の提案に自信がないと自信を持って成長できないから、さらにその時間が怖くなるっていうか…。

■上司:うん、うん

▶︎部下:なんかちょっと話が変わるかもしれないんですけど、高校の部活をなんか思い出しました。自信がないと試合に出たいけど怖いと感じていて、その状態で試合に出てもあんまりいい結果が出なかったなって。

■上司:良いパフォーマンスをするためには、自分に自信を持てている必要があるって思っているんだね。

▶︎部下:はい。

■上司:自信を持てていない時って、〇〇さんはどんな感情なの?

▶︎部下:なんだろ。怖い、不安、その場から逃げたくなるような感じですかね。

■上司:そうなんだ。それは何がそうさせるんだろう?

▶︎部下:何が?

■上司:うん。わからないけど、例えば、怒られるのが怖いのか、自分の価値がわからなくなってしまうのか…

▶︎部下:あー、なるほど。そうですね。なんだろう?貢献できないことが辛いのかもしれないです。

■上司:貢献できないと辛く感じるんだ

▶︎部下:そうですね。自分がいる意味ってなんなんだろうって思ってしまうかもしれないです。

■上司:なるほどね。そうなんだね。〇〇さんは、周りの人に感謝してもらうことに喜びを感じるのかなって感じたんだけど、これを聞いてみてどう感じる?

▶︎部下:うん、そう思います。感謝してもらえると嬉しいです。あー、だからもしかしたら、嫌だなって思いながら仕事をしていると感謝してもらえないかもしれない、っていうことに不安を感じて、やりたくなくなるっていうループが起きているのかもしれないですね。

■上司:なるほど、そうなんだね。今自分の中で気づきがあったようだけど、ここまで話してみて今何を感じる?

▶︎部下:…続く

気づきを与えようとすると、答えに導くような形になってしまいがちです。
無理やり答えを見つけにいこうとしなくても、自然と答えにたどり着くという心を持って、今相手が話している話に好奇心を向けて向き合うことを大切にしましょう。

7、今の感情や気づきを確認

対話の後は、部下が自分の中に起きた変化を自覚できるように、今の感情や気づきを確認しましょう。これにより、対話前との違いに気づきやすくなり、気づきが「実感」として残ります

参考として伝え方の例文をお伝えします。

「今まで話してみて、どんなことを感じましたか?」
「改めて、さっきの△△(最初のテーマ)についてはどう思いますか?」
「今、〇〇さんの中ではどんな感覚があるでしょうか?」

このように対話した後の状態を確認することで、対話の前と違う認識や感覚などに何かした変化が見えます。今答えに辿りつかなくても、ここで得た変化によってその後の日常生活の中でふと答えが見えることもあります。そのため、答えが出なかったとしても、そのことに落ち込まなくて大丈夫です。
最後は、部下が答えを見つけられることを信じて送りだすことも必要です。

8、チェックアウト

最後はチェックアウトをして終了します。チェックアウトでは、面談の感想や、今感じていることなどを伝えます。これにより、部下自身も気持ちの整理がしやすくなります

参考として伝え方の例文をお伝えします。

●チェックアウトに慣れている場合
「それでは最後にチェックアウトして終わりましょう。どちらからでも、準備ができた人からお願いします。」

●チェックアウトに慣れていない場合
「それでは最後にチェックアウトして終わりましょう。今ある感情や思いなど何でも構いません。順番は特に決めませんので、話したいと思った人から話しましょう。」

チェックアウトが終わったら1on1を終了し、片付けをして現場に戻ります。

このような流れで進めることで、雑談や無意味に感じる時間になることなく、コーチング型1on1を進めることができます。
初めは例文を参考にしながら実施することから始めてみましょう。

4)まとめ|アーティエンスではOJT研修でコーチングの学びをサポート

本コラムでは、コ本コラムでは、コーチング型の1on1の目的や効果を確認した上で、必要なスキルと具体的な実践方法をお伝えしました。

コーチング型1on1の目的は、部下の自律的な行動を促すことです。
部下が自分の意思で主体的に仕事に取り組めるようになれば、自然と成果が出やすくなり、その結果、個人の成長と組織の成長の両方につながります。

1on1をコーチング型で行うためには、以下の3つのスキルが欠かせません。

・傾聴スキル:相手の話に耳を傾け、気持ちに寄り添う
・質問スキル:気づきを促す問いを投げる
・フィードバックスキル:感じたことをIメッセージで伝える

これらのスキルを活かすことで、部下の内省と行動を支援できます。

コーチング型1on1の基本ステップの流れに沿って進めることで、「ただ話すだけの時間」ではなく、部下の内面に変化が起きる意味ある対話の時間を生み出すことができます。
まずは例文を参考にしながら、少しずつ実践してみましょう。

アーティエンスでは、育成担当者・OJTトレーナー研修を通して、1on1にも活かせる育成スキルの向上を支援しています。

「コーチング型の1on1をどう設計すればいいか分からない」
「うちの育成担当にどんなスキルが必要か整理したい」
「自律型人材を育てる土台を作りたい」

そんなお悩みがある方は、ぜひお気軽にご相談ください
ご状況に応じた最適な進め方や他社事例、導入パターンなどもご紹介できます。

部下の自己実現をサポートできるようになるためにも、コーチング型の1on1を習得していきましょう。