2024年卒新入社員育成は最難関の予感|カギを握る入社後3ヵ月の育成のコツ【東京経済大学准教授 小山氏インタビュー】

更新日:

作成日:2023.8.25

今回は東京経済大学の准教授、小山さんに来年の新入社員である24年卒の学生の傾向についてお伺いしました。
東京経済大学コミュニケーション学部 准教授 小山健太
小山 健太(こやま けんた)
専門は組織心理学、キャリア心理学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教、東京経済大学コミュニケーション学部専任講師を経て、2018年4月より准教授。慶応大学と上智大学大学院でも非常勤講師。一般社団法人グローバルタレントデベロップメント協議会代表理事。人材育成学会常任理事。

インタビュアー:アーティエンス株式会社 山下 絢加
2013年にアーティエンスに入社。組織開発・人材育成のコンサルタントとして、大手企業から中小企業まで、幅広く研修プログラムの企画・開発・運営を実施。子育てを機に、現在は主にマーケティングプランニングを担当。

東京経済大学コミュニケーション学部 小山氏、以下、小)
弊社山下、以下、山) 

24年卒新入社員は「大学入学」というコミュニティ創りの機会を経験できなかった

山)本日はインタビューのご協力ありがとうございます。早速本題ですが、23年卒と24年卒の学生の違いを感じることはありますか

小)
大いにあります!正直、24年卒はコロナの影響をもろに受けていて、育成においては最難関だと思っています。

山)最難関ですか…!具体的に教えてください。

小)
比較する上で、先に一つ上の学年である23卒のお話しをしますね。

23卒は通常通り大学に入学できました。入学式も有りましたし、新歓やサークルの勧誘もありました。大学生同士の関係性づくりの機会はあったんです。
2年次からコロナ禍になりましたけど、緊急事態宣言下でも初期に関係性をつくれた友人とは、会ったりしていた学生も多くいたようです。

ですから、23卒としては、ある程度の自由もあったんだと思います。世の中の制限はあれど、学校に行かなくて良いオンラインでの授業が多かったですから、自分の自由に使える時間が多かったといった感覚もあったと思います。

そして、就活のタイミングでは、一つ上の22卒が急きょのオンライン就活を経験して得た知見を、23卒は活かすことができました。23卒の時には、企業側もオンライン選考に慣れてきている状況で、進めやすかったと思います。

山)なるほど。一方で、24年卒はどうですか?

小)24年卒は、大学に入学した直後からコロナ禍だったんです。入学式が急きょ取りやめになって、オンライン授業で大学生活が始まりました。ですから、サークルの新歓もなかったので、サークルに入っていない人も多いです。

3年次の中盤から対面授業が少しずつ再開しましたが、3年次から新たに友達をつくることは難しい場合が多いようです。3年次からサークルに入るのも…って感じで。
4年次になってから対面授業が主体になった大学が多いと思いますが、順調に単位修得をしている4年生の場合はそもそも履修授業の数が少ないので、4年間の授業で議論やワークショップをほとんど経験しなかったという学生も少なくありません。

結果、人とコミュニケーションを取る、という経験がコロナ禍前の学生と比べると圧倒的に少なくなってしまったんです。自ずと、人とのコミュニケーションを通じて育まれるスキルを得る機会も逸してしまっているんです。

24年卒新入社員育成で懸念される「フィードバックへの耐性」と「ストレス耐性」
|企業は社会問題として認識すべき

山)学生時代の経験が圧倒的に不足しているというのは、今後、会社に入ってから苦戦することもあるかもしれませんね…。その辺りはいかがですか?

小)
会社に入ると、人とコミュニケーションを取らずに仕事を進めることはできないですよね。先述した通り、24年卒は基本的にコミュニケーションに慣れていない人が多い。もちろん、全員とは言いませんが、全体的に。

特に不足しているのは、フィードバックへの耐性です。厳しいフィードバックにまったく慣れていないと思います。
全体的な傾向で見ると、学生コミュニティに参加していない人も多いですから、部活やサークルで先輩から強く言われる、という経験をしていない人も多いのではないでしょうか。

オンライン上でフィードバックを受ける機会はあったかもしれませんが、フィードバックする方も画面を通してでは言い切れない部分が多いです。また、フィードバックを受ける側は、オンラインですから、逃げようと思えば逃げられる状況でした。オンラインでは、基本学生側は家にいますから、文字通りホームにいる状況なんです。嫌だと思ったらカメラをOFFにして、表情が分からないようにする、という話も聞きます。

山)では、企業側は育成において、どんなことを意識すべきだと思いますか?

小)
企業側がまず意識すべきことは、この状況は「社会問題」であると認識することです。24年卒の新入社員が学生時代に様々な経験ができなかったことを、「個人の問題」として捉えるべきではありません。

個人の問題として捉えると、育成側は「個人の責任」にしてしまったり、個人にあわせて対応することに「不満や負担」を感じてしまいます。しかし、「社会が引き起こした問題で、みんなで取り組む社会問題なんだ」という認識を持つことで対応が変わってきます。

山)確かに、学生自身がコントロールできることでは無かったですもんね…。ストレスへの耐性は低いように感じますか?

小)
ストレス耐性は極めて低いと思います。

それは、先述した通り、ストレスがかかる経験がほとんどできなかったことと、逃げられる環境が多かったことが関係していると思います。

経験については、アルバイト一つとっても、たとえば居酒屋で働いていたら、社員やお客さんから強く言われる、といった経験もあるじゃないですか。でも、コロナ禍だったので、そういう経験が無いんですよね。
そして、先述した通りオンラインという「逃げようと思えば、いかようにでも逃げられる」という状況で過ごしてきたこともあると思います。

24年卒新入社員の育成のコツは「細分化」「状況確認」「初期の関係性構築」

山)オンラインの負の側面ですね。入社後の受け入れ側として、マネジメントの側面でアドバイスはありますか?

小)
業務内容を変える必要はあまりないと思います。業務内容ではなく、コミュニケーションやフォローを個別に丁寧にして、関係性を築いたり、経験値を増やしていくことが大切です。特に、最初の3ヵ月は「24年卒の問題は社会問題だ!」と割り切って、しっかりと取り組むことが大切だと思います。

具体的には、タスクのステップを細分化したり、依頼した後も、都度状況を確認することはこれまで以上に重要です。先述しましたが、24年卒は多方面の経験値が圧倒的に少ないので、指示側が「当たり前に分かるだろう」と思っていることも、分かっていない場合が多くあります。

ですから、指示出しの段階で「なにをすればいいか分かった?」と確認する、途中で「進捗確認」をするというように丁寧な対応を心がけることが大切です。

山)ありがとうございます。では、コミュニケーションは、どのようなことを意識すると良いのでしょうか。

小)
24年卒は、フィードバックを怖がる一方で、人との関係構築を強く欲している面もあると感じています。24年卒は、凄く寂しい4年間、一人ぼっちの4年間を過ごして生きた人も多いので、色々な人と繋がり合って、楽しく過ごしたいという基本的な欲求が強いと感じることがあります。

会社に入ってから、飲み会とか、対面で会うという機会は、24年卒とコミュニケーションを取るうえで非常に有効だと思います。
「コロナジェネレーションは新人類で、飲み会はいらない」というような意見ももありますけど、私はまったくそう思っていません。むしろ、24年卒は飲み会の価値をすごく分かっているジェネレーションだと思いますよ。ただ、人と繋がることの意義は理解しているのですが、経験が少なすぎるので関係構築に苦手意識を持っている24年卒も多いと思います。ですから、周囲が丁寧にコミュニケーションをとっていくと24年卒と良好な関係を構築できると思います。

山)初期に良質なコミュニケーションを取れると、関係性は築きやすいかもしれませんね。


小)
そう思います。

人と人の関係性を欲している世代でもあるので、初期の関係性はこれまでよりも築きやすいと思いますよ!そして、関係性が築けたらその後はある程度スムーズに進むのではないかと思っています。

まずは、頻度高く対面でのコミュニケーションや個別のコミュニケーションを取り、人と関わり合いながらチームで仕事を進めていくことの経験値を増やしていくことが大切です。

山)とはいえ、今の世代は上司や先輩と深い話をしたり、悩みを相談することが苦手な印象があるのですが、その辺りはいかがですか?

小)
その点でお勧めしたいのはチャットツールですかね。


24年卒は対面のコミュニケーションを欲しているけれども、集団の中で相談する、アラートを出すというのは確かに苦手だと思います。

また、定期的な1on1を実施しても、対面だとすぐには率直に言えない場合が多いかもしれまん。私自身の経験では、ゼミの学生が私に相談したいときはチャットツールを使って個別メッセージを送ってくることが多いんです。言い出しは、口頭よりもチャットツールのほうが慣れている感じがしますね。もしくは、TeamsやZoom等での定期的なオンライン面談でも良いかもしれません。

メンタル面でのフォローにおいては、1対1で繋がっている、ということが大切です。

山)個別フォローまで丁寧に行うのは、マネジメントへの負担は多くなりそうですね。

小)
まさにそうです。今、かなり高度なマネジメントが求められていると思いますね。

ただ、ストレス耐性が総じて低い若者を生んだのは社会のほうに問題があったわけです。ですから、本人だけでなく職場で受け入れる皆で解決していくべきだと思います。

24年卒の活躍のためには、入社後の3ヵ月間、オンボーディング期間を良いものにすることがカギになると思います。

山)入社後の3ヵ月は、受け入れ側も「解決すべき社会問題として、意識新たに育成に取り組む!」という覚悟が大切になりそうですね。

小)
そうです。

一方で、出だしでこけてしまうと、全てが上手くいかなくなることを懸念しています
オンラインに慣れていることもあって、残念ながら逃げることにはすごく慣れています。そして、ストレス耐性も弱い。その背景をふまえると、24年卒は転職や休職のリスクはかなり高いと思います。

山)「出だしでこけてしまうと、全てが上手くいかなくなることを懸念」という言葉はとても重要なキーワードだと感じました。24年卒に長く活躍してもらうためにも、ぜひ、良い形でスタートを切ってほしいですね

小)
私は、若者のキャリアとして、早期の転職は好ましくないと考えています。初職でのハードな経験を成長につなげることはとても重要ですから。

今日は24年卒のことを中心に話しましたが、今後は高校時代や中学時代にコロナ禍を経験した世代が大学生になります。学校行事や部活に大きな制限がかかった世代ですから、大学生になったときに主体的に行動できる人とできない人との差が大きく開く可能性が考えられます。
主体性の高い学生を多く採用できている企業は良いと思います。
しかし、そうでない企業は、育成への投資を増やす方向に舵を切ることを検討すべき時だと思います。

山)24年卒の初期教育を担う研修会社として、24年卒本人だけでなく、受け入れ側への支援もより一層重要視すべきだと感じました。
また、未来の新入社員に対しても、できることを考えていかなければと強く感じました。
小山さん、本日はありがとうございました。

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