ファシリテーターが上手い人は、場を動かす│”場の観察”・”介入”テクニック

更新日:

「ファシリテーターが上手な人と自分は何が違うんだろう…?」
「ファシリテーターが上手い人が実践しているテクニックを知りたい!」

自身のファシリテータースキルをより高めたいと思っている人が多いのではないかと思います。

実は、ファシリテーターの上手い人が必ず行っていることがあります。
それは、場を観察しながら、会議の目的・目標にあわせた適切な介入をすることです。

そこで本コラムでは、ファシリテーターが上手い人が使ってる、場の観察のための4つの観点と、具体的な介入テクニックをお伝えします。

ここで紹介する内容を実践し、振り返りを繰り返すことで、ファシリテーターとしてのスキルを磨いていきましょう。

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    執筆者プロフィール
    迫間 智彦
    X:@tohaza_atc youtube:中小企業の人材育成・組織変革 専門チャンネル
    大学卒業後、大手通信会社、アルー(株)勤務後、2010年にアーティエンス(株)を設立。業界歴17年。大手企業から、中小企業、ベンチャー企業の人材開発・組織開発の支援を行っている。専門分野は、組織開発、ファシリテーション。

    専門性:ファシリテーター管理職組織開発・組織変革

    1. ファシリテーターが上手い人は「場の観察ができ、適切な介入ができる人」

    対話の場・議論の場は常に変化していきます。ファシリテーションの上手い人はその時々で「場を観察しながら、会議の目的・目標にあわせた適切な介入」ができます。

    一方で、ファシリテーターが場を観察できず適切な介入ができないと、一部の人がわだかまりを持ったまま会議が進むこともあります。例えば、

    ・会議の最後の最後に反対意見が出て、「そういうのはもっと早く言ってよ…」と思ってしまう
    ・会議での決定事項を実行せず(無言の抵抗)、「だったら会議で反対してよ…」と感じる

    といった例があげられます。

    このような状況は、「場の観察」と「適切な介入」ができるファシリテーターがいれば、発生することは少なくなります。

    次章以降では、「場の観察」と「適切な介入」に関して、それぞれどのようにしたらいいかを伝えていきます。

    2.ファシリテーターが上手い人は「場の観察」を行う

    ファシリテーターが上手い人は、コミット高くフラットに場に入り、4つの観点で場を観察することができます。前提も含めて、それぞれ説明していきます。

    (前提)コミット高くフラットに場に入る
    (1)言動・行動の観点
    (2)思考の観点
    (3)感情の観点
    (4)関係の観点

    (前提)コミット高くフラットに場に入る

    場を観察する前提として、場(会議・ワークショップ)の目的・目標の達成に強くコミットしながらもフラッであることを意識し、俯瞰して場を観ることが大切です。

    場へのコミットが高くてもフラットに参加できなければ、強引に対話・議論を進めたり、特定の参加者の意見ばかりを尊重し「納得感の低い場」になるかもしれません。フラットに参加していても、コミットが低ければ、参加者から多くの意見は出るけれど「何も決まらず、何も進まない場」になるでしょう。そのため、コミット高くフラットに場に入る必要があります。

    なお「場へのコミットが高いが、フラットに場に入ることが弱い人」は、会議の目的・目標に拘るため、ロジカルシンキングを用いて結論を出すことが多くあります。ロジカルシンキングは、情報量や情報の質が重要になるため、声の大きい人の意見が正しい意見として扱われる傾向があります。結果、声の大きい人の意見のみが反映された結論となり、参加者全体の合意形成が弱くなることが多々あります。
    逆に、「フラットに場には入れるが、場へのコミットが低い人」は、穏やかな場を望む人に置きがちです。穏やかさを求めるがゆえに、建設的な会話が生まれず、結局何も決まらないという状況が生まれる傾向があります。

    コミット高くフラットに場に入り、高い次元で両者のバランスを取りながらファシリテーションしていくことが大切です。

    (1)言動・行動の観点で観察

    「言動・行動の観点」では、具体的な事実をフラットに拾っていくことが必要です。自身の色眼鏡(認知)をできるだけ排除し、起きていることをありのままにまずは受け止めていきます。

    例えば、貧乏ゆすりをしている人がいたら、”ただ貧乏ゆすりをしている人”とだけ捉えます。このとき「イライラしているのではないか?」など、自身の認知を入れてはいけません。自身の認知にとらわれてしまっては、参加者の認知をありのままに把握することはできません。

    「言動・行動の観点」には、具体的な事実をフラットに拾っていくことで、参加者の思考・感情・関係を把握することができます。

    (2)思考の観点で観察

    「思考の観点」は、参加者の思考のプロセスを丁寧に見に行くことが必要です。言動・行動と違い、思考が分かりやすく出てくることは稀ですが、具体的には下記のように「思考」を観に行くことが可能です。

    ・アウトプットを出すまでの言動・行動を観る
    ・言動・行動の背景を聴く

    それぞれ説明します。

    アウトプットを出すまでの言動・行動を観る

    グループワークを行った時の発言や立ち振る舞い、個人ワークで書いているメモを観ると分かるでしょう。例えば、経営会議の場で「○○事業から撤退する」という考えを持った参加者がいたとします。この時に、その参加者のメモに様々なフレームワークの記載があれば、思考プロセスは明確です。そこから思考プロセスに、どのような感情や関係があるのかを紐解いていくことが可能です。

    言動・行動の背景を聴く

    背景を観たいときは、起きたことや事実ベースを伝えて、何が背景にあるのかを聞くといいでしょう。この時に「なぜですか?」「理由は?」などと聴くのではなく、話しやすいような聴き方をしたほうがいいでしょう。例えば

    ・「(発言に対して)よければ、もう少し詳しく背景まで話していただけますか?そのことで、他のみなさんに、より真意や想いが伝わるかもしれません。」
    ・「(行動に対して)みなさん、グループワークのアウトプットの量が少ないようです。どのように時間を使いましたか?」

    などです。背景を聞くことで思考が深まります。なお、アウトプットの品質が悪い場合は、純粋にアウトプットが追いつかないケースもありますし「あくまで研修だし、適当でいいだろう」という認知で取り組んでいる場合もあります。

    このように、参加者の思考のプロセスを、丁寧に観に行くことが必要です。

    (3)感情の観点で観察

    「感情の観点」は、参加者の状態を丁寧に観ることが必要です。感情は、思考よりも捉えどころが難しいため、参加者の状態を丁寧に観ていきます。
    ファシリテーターとして、具体的には下記のように「感情」を観に行くことが可能です。

    ・表情・姿勢・声のトーンなど態度・立ち振る舞いを観る
    ・表情・姿勢・声のトーンと言動・行動の一致・不一致を観る

    それぞれ説明します。

    表情・姿勢・声のトーンなど態度・立ち振る舞いを観る

    どのような感情を抱いているかの見立てを行います。例えば、表情が明るければ、前向きに議論・対話の場に参加しているかもしれません。ずっと下を見ているのであれば、議論・対話の場に対して、居心地が悪いのかもしれません。これらは一次情報として見ておきましょう。

    表情・姿勢・声のトーンと言動・行動の一致・不一致を観る

    とても明るい表情で前向きな発言をしている方がいたとします。ただし、ボールペンのボタンをカチカチと常に押し続けたり、明らかに椅子の座り方が横柄な場合は「前向きに参加しているように見せている」だけかもしれません。言動・行動と感情の不一致を探しながら、本音が出るような働きかけをしていくことが大切です。
    ※ 身体的な理由から姿勢が悪くなるケースもあります。あくまで、決めつけないことを前提に進めましょう。

    このように感情は、思考よりも捉えどころが難しいです。参加者の状態を多方面から丁寧に観て、一致・不一致を観ていくことが必要です。

    (4)関係の観点で観察

    「関係の観点」は、参加者の相互作用を丁寧に観ることが必要です。
    関係は、最も捉えどころが難しいです。参加者の相互作用を丁寧に観て進めましょう。具体的には下記のように「関係」を観に行くことが可能です。

    ・参加者同士のコミュニケーション時の表情・姿勢・声のトーンなど態度・立ち振る舞いを観る
    ・参加者同士のコミュニケーション時の表情・姿勢・声のトーンと言動・行動の一致・不一致を観る
    ・参加者同士のコミュニケーションを観ている他の参加者の表情・姿勢など態度・立ち振る舞いを観る

    それぞれ説明します。

    参加者同士のコミュニケーション時の表情・姿勢・声のトーンなど態度・立ち振る舞いを観る

    参加者の話の聞き方を見ることで、関係性の見立てができます。例えば「経営陣が話しているときには前のめりに聞き、若手社員が話しているときは椅子に深く腰掛けて話を聞く」という状態であれば、上意下達が強い関係性かもしれません。

    参加者同士のコミュニケーション時の表情・姿勢・声のトーンと言動・行動の一致・不一致を観る

    参加者の表情・姿勢・声のトーンと言動・行動の一致・不一致が観られると、どのような関係なのかの見立てが可能になります。
    例えば、経営者と幹部社員の対話の際に常務取締役の方が「もっと○○すべきだと思う」と話したとします。すると、部下のAさんは「確かにそうですよね」とニコニコしながら話を聴きながらも、常務取締役のその発言と同時に、開いていた足が急に閉まりました。つまり、緊張状態が走っているように観えました。お話を聴くと、長い間徒弟制度に近い関係が続いているとのことでした。このように、表情と言動とを見ることで、表情だけでは分からない関係性に気づくこともできます。

    参加者同士のコミュニケーションを観ている他の参加者の表情・姿勢など態度・立ち振る舞いを観る

    コミュニケーションの当事者以外の様子を観察することで、どのような関係なのかの見立てが可能になります。
    例えば、AさんとBさんが議論をし、Cさんがその話を観ている構図だとします。Aさん・Bさんの話をCさん前向きに聞いている様子が観えたら、チームとして良い関係性かもしれません。ただし、Cさんが無関心だったり、斜に構えている場合はチームとして機能していない可能性もあります。
    感情と関係は最も捉えどころが難しいです。参加者の相互作用を丁寧観て行くことが必要です。

    3. ファシリテーターが上手い人は「適切な介入」ができる

    ファシリテーターが上手い人は、会議やワークショップの目的・目標にあわせて適切な介入ができます。会議やワークショップでは、下記のようなケースがよく見られます。

    ・対話や議論が白熱し、本来の目的・目標からずれたり空中戦になる
    ・誰も発言しない。結局、役職の高い人間の考えで意思決定が行われる
    ・参加者が役職の高い人間の答えを探し、本音が出ない

    このような時に、ファシリテーターは会議やワークショップの目的・目標にあわせて介入していく必要があります。具体的には、PullとPushという方法を用います。

    ※ 当社、ファシリテーション研修のテキストより抜粋

    下記にいくつか例を出していきます。

    議論・対話が空中戦になって言う場合】
    ・Pull : 「目的・目標からずれているように見えます。今話している○○は一旦横に置き○○について話しませんか?具体的に、○○はどう思いますか?」
    ・Push : 「なぜ会議の目的・目標からずれるのですか?私からは、みなさんは意思決定から逃げているように見えます」

    【議論・対話が停滞していた時】
    ・Pull : 「今は社内視点の話のみになってはいませんか?顧客視点・競合視点からも考えてみませんか?」
    ・Push : 「みなさん、本気で考えていますか?皆さんが考えている課題意識はその程度ですか?これだけの時間をかけて、3つしか対策案が出ていません。」

    【役職の高い人間の考えで意思決定がされそうな時】
    ・Pull : 「私から見て、部長の話のみで意思決定が行われるように見えます。なぜなら部長の意見がほとんど採用されています。この意思決定で、現場は情熱をもって動きますか?」
    ・Push : 「みなさんは、この意思決定を本気でコミットできますか?例えば、部下全員から嫌われて退職が相次いだとしても、この意思決定にコミットしてやりきれますか?」

    ファシリテーションの上手い人は、会議やワークショップの目的・目標にあわせた適切な介入として、PullとPushを用いていきます。

    (参考)介入の注意点
    介入の注意点として、可能な限りPushは控えたほうがいいでしょう。なぜなら、参加者とファシリテーターの関係性ができていない場合は、起こす必要のない反発や表面的な対応が生まれます。またPushが多いと、参加者が受け身になってしまうことも多いためです。
    Pullをメインで行い、ここぞというときにPushを行うといいでしょう。

    4. 【プロが回答!】ファシリテーションに関するQ&A

    Q1. フラットに会議の場に入るにはどうしたらいいですか?

    A. ファシリテーター自身が、心身の状態を整えるといいでしょう。
    心身の状態が整っていないと余裕がなくなり、フラットに参加できなくなります。会議の場に入る前に、静かな場所でお茶を飲みながら、ゆっくり準備するといいでしょう。それが難しいのであれば、会議に入る前に5分でいいので、深呼吸をするだけでも変わってきます。

    Q2. 観察しても、結局自分の仮説だと思います。どうやったら、観察の質を上げることができますか?

    A. おっしゃる通り、言動と行動の観察以外は、仮説でしかありません。そのため、複数の目で見るといいでしょう。一人で見える範囲は狭く、どうしても自身の認知に引っ張られてしまいます。

    具体的な対策として、アテンドスタッフや事務局の方などに、今どのように見えるか聞いてみるといいでしょう。

    Q3. 介入するタイミングがよくわかりません

    A. 介入するタイミングは、「会議の目的・目標の質を高めること」と「参加者のコミットを高めること」の2つが大前提を意識しながら、場を観察して適切なタイミングで介入していきます。

    例えば、役職の高い人間の意見で、場が進んでいる会議があるとします。この時に、介入するタイミングは大きく分けて3つあります。会議の始め、会議の中盤、会議の終盤です。どのタイミングかを選ぶかは『「会議の目的・目標の質を高めること」と「参加者のコミットを高めること」』と、場の観察を通して選びます。
    それぞれメリット・デメリットがあります。(あくまで一例になるので、すべてに当てはまるわけではありません。)

    メリット
    デメリット
    会議の始め はじめから、経営者に対しての発言量にストップをかけられる。 自分たちで気づいて、変われるチャンスを逃す。
    会議の中盤 自分たちで気づいて、変われるチャンスを持てる。 「じゃあどうしたらいいか?」という混乱や不満が生まれやすい。
    会議の終盤 自分たちが変わっていないという危機感を持ち、変わりやすい。 会議のスピードが遅くなる

    3つのタイミングの介入例をお伝えします。

    会議の始め : 
    「会議のグランドルール(※)では対等な立場というルールがありますが、経営陣の発言が多く見えます。みなさんは、いかがですか?このままだと、いつも通り経営陣が決めて終わりの会議になると思います。経営陣のみなさんもそれを求めていないと思います」
    会議の中盤 :
    「ここまでの会議ですが、私から見ると経営陣の意見で進んでいるように見えます。このまま進んでも問題ないですか?いつもと違う会議になりますか?」
    会議の終盤 :
    「経営陣の意思のみで決定されているように、私からは見えます。本当にこのままでいいですか?

    (参考)グランドルールとは
    その場における、参加者全員が守るべきルールを指します。ファシリテーターが場をホールドし、場の質を上げやすくなる役割があります。グランドルールがあることで、会議やワークショップに参加される方のマインドセットになりますし、またグランドルールから対話・議論が外れたときにファシリテーターがグランドルールをもとに介入し、場をホールドしやすくなります。より詳しく知りたい方は、下記コラムをご覧ください。
    プロファシリテーターが教える!失敗しないグランドルールの作り方と扱い方

    Q4. Pullでは、どんな観点で問いを投げればよいでしょうか?

    A.2つの観点を持って、問いを投げるといいでしょう。

    ・意見や考えを引き出す
    ・思考や認知を広げる

    それぞれ説明します。

    ・意見や考えを引きだす
    引きだす内容としては、3つのパターンがあります。
    1)参加者の意見・考えを引き出す
    2)参加者の本音を引き出す
    3)参加者の意見・考えを言語化していく

    ・思考や認知を広げる
    下記の2つのパターンがあります。
    1)問いにより、思考を広げる・深める
    2)問いにより、認知を広げ、構造(取り巻く環境)を伝える

    Q5. どんな時にPushの問いを投げればよいでしょうか?

    A.下記の3つのケースの際にPushの問いを投げるといいでしょう。

    ・場が停滞している
    ・アウトプットの質が低い
    ・参加者の背中を押す

    それぞれ説明していきます。

    ・場が停滞している
    停滞している場に刺激を与え、議論・対話を進めるためにPushを用います。Pushを用いることで、参加者に危機感が生まれて会議やワークショップが進んでいきます。

    ・アウトプットの質が低い
    アウトプットの質が低い場合は、アウトプットの質が低いことをPushを用いて伝えます。Pushを用いることで、参加者がアウトプットの質が低いことを強く認識し、アウトプットの質を高めようとします。

    ・参加者のコミットが低い
    参加者のコミットが低い場合は、Pushを用いて参加者の背中を押し、コミットを高めます。Pushを用いることで、参加者はこのままでいけないという認知になります。

    5. まとめ

    本コラムでは、「ファシリテーターが上手い人とはどんな人か?」、「どうすれば上手いファシリテーターになれるか」をお伝えしていきました。

    具体的には

    ・4つの観点で場を観察することができる
    – (前提)コミット高くフラットに場に入る
    – 言動・行動の観点で観察
    – 思考の観点で観察
    – 感情の観点で観察
    – 関係の観点で観察
    ・目的・目標にあわせた適切な介入ができる

    をお伝えしました。

    本コラムを通して、ファシリテーターが上手い人になるための具体的な行動を理解いただけたのではないでしょうか。

    ファシリテーターが上手い人になるためには、自身で学び続ける必要もありますが、研修などのトレーニングも有効です。当社のファシリテーション研修では、本コラムでお伝えした内容を学ぶことができます。

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    ご興味がある方は、お気軽にアーティエンスまでご相談いただければと思います。

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