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[ コラム ]
【事例あり】心理的安全性研修を成功に導く7ステップ
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DE&I推進と生産性向上を叶えるアンコンシャス・バイアス研修【事例あり】
更新日:
「職場の空気がどこかギスギスしている」
「多様性推進の施策をしても、なぜか現場に根付かない」
――そんな悩みを抱えている方が多いのではないでしょうか?
実は、意図せず誰かを疎外したり、偏った判断をしてしまう背景には、多くの場合、悪意のない“無意識の思い込み”があります。これこそがアンコンシャス・バイアスです。放置すれば、ハラスメントや離職、イノベーションの停滞など、組織全体に深刻な影響を与えかねません。
しかし、この無意識の思い込みを変えるのは容易ではありません。適切な知識や機会、立ち止まって考える時間があってこそ、はじめて行動や組織文化の変化につながります。
そこで有効なのがアンコンシャス・バイアス研修です。
無意識の偏りを「知る」「気づく」「考える」「対処する」という4ステップで体系的に扱い、個人と組織の両面から行動変容を促します。
本コラムでは、筆者が2018年頃から数々のクライアントに支援した事例を用いながら、成功したと言えるアンコンシャス・バイアス研修を実施するために必要な基本構成・目的・対象層・注意点を解説していきます。
アンコンシャス・バイアス研修を通じて、誰もが安心して意見を交わし、多様な視点が活かされる公平で創造的な職場を実現しましょう。
【参考】アンコンシャス・バイアスとは
アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)とは、自分でも気づかないうちに持っている思い込みや先入観のことです。
アンコンシャス・バイアス研修は、この「無意識の偏見」に気づき、それが引き起こす問題を改善・防止するために行動変容を促すことを目的としています。もともとは、ダイバーシティ&インクルージョン(※)の取り組みの中で注目されてきました。
多様性を広げ、マイノリティが活躍できるよう様々な施策を行っても、思うような成果につながらない――その背景にある理由のひとつとして、近年「アンコンシャス・バイアス」が注目されています。
※ダイバーシティ&インクルージョン:多様性(ダイバーシティ)と受容性(インクルージョン)を合わせた言葉で、多様な人材を受け入れ、活かすことを指します。
専門性:ダイバーシティ&インクルージョン、キャリア開発、女性活躍推進、コミュニケーション
目次
1. 行動変容を促すために必要なアンコンシャス・バイアス研修の4つの基本構成
アンコンシャス・バイアス研修の基本構成は、「知る」→「気づく」→「考える」→「対処する」の4ステップで進めます。
この流れで進めることで、重要性を理解し、行動につなげるための考えを段階的に深められます。各ステップの内容を詳しく解説します。
1-1. アンコンシャス・バイアスを「知る」
アンコンシャス・バイアス研修の最初のステップは「知る」ことです。
無意識の偏りの存在や、それがどのように働くかを理解し、行動のための共通言語を身につけます。
アンコンシャス・バイアスは「無意識」だからこそ、自覚しづらく、言葉で説明されてもピンときにくいです。そのため、実際に受講者がアンコンシャス・バイアスを発動する演習を用い、体感することが非常に重要です。
構造や仕組みを知ることは、この後の研修での学びや行動変容につなげる土台になります。
さらに、種類や特徴を知ることで、職場で起こる出来事を「アンコンシャス・バイアスの視点」で検討できるようになります。
研修では、150~200種類あると言われるバイアスの中から、受講者や組織の課題に合ったものを紹介します。
例えば、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)推進においてジェンダーギャップが課題であれば「性別役割認識」を、パワーハラスメントの撲滅が目的であれば「生存者バイアス」といった具合です。
ただし、重要なのは分類名を覚えることではなく、アンコンシャス・バイアスを改善する上での共通認識を作り共通言語として活用できるようにすることです。
たとえば、会議中に偏った発言が出たときに「それは○○バイアスでは?」とアンコンシャス・バイアスの観点から建設的に指摘できるようになります。
特に、組織を動かす立場にある管理職や経営者がこの知識を持つことは欠かせません。
なぜなら、意思決定権を持つ人が無意識のバイアスを抱えたままだと、制度や文化そのものが偏ったまま温存され、組織は変わらないからです。
ここで重要になるのが「社会モデル※」という考え方です。
社会モデルでは、個人の不利益や困難の原因を、その人自身ではなく、周囲の環境や社会の仕組みにあると考えます。
つまり、昇進やキャリアの妨げになっているのは、当事者の能力不足ではなく、性別役割認識や「女性は謙虚であるべき」といった無意識の規範、そしてそれを前提に作られた制度や慣習にあるという考え方です。
そして、この環境を変える力を持っているのが、まさに管理職や経営層です。
例えば、経営者にアンコンシャス・バイアス研修を行ったことで、「女性社員は、ライフイベントの関係から長時間働くことが無理なので、管理職にすることは難しい」という認知であったものが、「優秀な女性社員が働きやすい環境を創ることで、組織全体の生産性を上げて、採用にも好影響を与える」というに認知に変わると、人事制度なども変わってくる可能性があります。
だからこそ、アンコンシャス・バイアス研修は、まず組織への影響力が大きい層が正しく「知る」ことが重要です。
彼らが自分のバイアスに気づき、是正する視点を持つことこそが、組織全体の変化を生み、DE&I推進を実現するための鍵になります。
「知る」段階でのゴールは、専門用語の暗記ではなく、アンコンシャス・バイアスを理解し、共通認識として使える状態を作ることです。
ちなみに、2021年の内閣府調査(令和3年度「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査結果」)では、この言葉の認知率はまだ21.6%にとどまっています。
だからこそ、意味や仕組みをしっかり理解するところから始めることが大切です。
(※参考)「個人モデル」「社会モデル」
元々は、障害者の権利推進の中で提唱された概念です。
・個人モデル
障害者障害や不利益・困難の原因は目が見えない、足が動かせないなどの個人の心身機能が原因であるという考え方。
・社会モデル
障害や不利益・困難の原因は障害のない人を前提に作られた社会の作りや仕組みに原因があるという考え方。

「ダイバーシティ(多様性)」は、理想的にはお互いの「違い」が対等な関係で尊重されるものです。しかし現実には、その違いの間には有利・不利の不均衡が存在します。
これは、マジョリティ側(多数派)が社会や組織のルール・規範を決める権限を持ち、無自覚に自分たちに有利な方向で物事を決めてしまうからです。
その結果、マイノリティ側(少数派)は、それが自分にとって不利であっても、組織の一員である以上、従わざるを得ない状況に置かれます。
DE&Iを目的としたアンコンシャス・バイアス研修では、このような構造を理解するために、事例を用いたディスカッションなどで「社会モデル」の観点を養います。
ただし、「個人モデル」(困難の原因を本人の能力や特性に求める考え方)の意識が強く、それが成功体験と結びついている場合、社会モデルの発想を受け入れるのが難しいこともあります。
そのため、研修だけで終わらせず、終了後も継続して取り組みの方向性を話し合い、組織の中に定着させていくことが重要です。
1-2.アンコンシャス・バイアスに「気づく」
2ステップ目はアンコンシャス・バイアスに「気づく」ことです。
アンコンシャス・バイアスは、自分にとっては当たり前の感覚に埋もれているため、自分一人ではなかなか気づけません。
また、組織の制度や慣習にも無意識の偏りが入り込みやすく、それが長年見過ごされてしまうこともあります。
だからこそ、意図的に「気づく」場をつくることが必要です。
研修では、ケース(事例)教材を使って話し合いを行います。
モデルケースを検討することで、「これは自分たちにも当てはまるのでは?」と客観的に振り返るきっかけになります。
また、異なる立場や価値観を持つメンバーが一緒に受講することで、思い込みや固定観念に気づきやすくなります。
たとえば、自分にとっては何気ない言葉や当然だと思っていた行動(=マイクロアグレッション)も、他者から見れば不自然に感じられることがあります。
例えば、
・「お母さんなのに泊まりがけ出張?」と言われる
・会議で上位者の意見に反対意見や質問をしない
・送別会などで、花束贈呈の役割はいつも若手女性が担うことになっている
これらの背後には以下のようなバイアスがある可能性があります。
・母親は家庭を優先すべきといった無意識の思い込み
・上位者のことは正しい、もしくは反論すべきではないという思い込みや組織風土の可能性
・「女性は花を添える役」という性別役割認識にとらわれている可能性
マイクロアグレッションは、そのままにしておくと、エスカレートしハラスメントになりえるため注意が必要です。
さらに、気づきを妨げるのがパワー構造です。
役職や権限を持つ側がマイクロアグレッション的な言動をしても、立場の弱い側は抗議しづらく、我慢してしまうケースが多くあります。
抗議すれば評価悪化や「不満分子扱い」されるリスクがあるため、結果としてパワーのある側は有利・不利のアンバランスの関係に気づかず、放置されてしまい、アンコンシャス・バイアスは温存されます。
研修では、こうした事例や動画をもとに、自分たちの職場に同様の状況がないかを確認します。
また、パワーのある側/ない側の心理を体感できる演習も有効で、終了後は「自分がいかにこれまで無自覚にパワーを振り回していたか気づき、ショックだった」といった感想が聞かれます。
「気づく」段階のゴールは、バイアスを見抜く力を高め、当事者意識を芽生えさせることです。
自分や組織の中にあるアンコンシャス・バイアスを自覚し、向き合うことが、行動を変える第一歩になります。
1-3. アンコンシャス・バイアスを「考える」
3ステップ目は「考える」ことです。
自分や組織に存在するアンコンシャス・バイアスが、業務や人間関係にどのような影響を与えているかを具体的に分析することで、課題の本質が見えてきます。
これにより、表面的な対処ではなく、根本からの改善策を導き出せます。
「知る」「気づく」までは興味深く受け止めていた受講者も、中には「自分にはバイアスはない」と抵抗を示す人もいます。
それまで無意識に行ってきた言動が、職場の問題を生んでいた事実に向き合うのは、誰にとっても容易ではありません。だからこそ、講師のサポートのもとで、仲間と一緒に考える場が重要です。
この段階でよく扱うテーマが「マイクロアグレッション」です。
直訳すると「小さな攻撃」となりますが、日常の何気ない言動の中にアンコンシャス・バイアスが投影され、相手に不快感や疎外感を与えてしまうことを指します。
研修では、
・その背後にどんなバイアスがあるのか
・メンバーや組織にどのような影響を及ぼしているのか
を事例や話し合いを通じて掘り下げます。
例えば、
・パワーのない側が発言を控える
・「言っても無駄」というあきらめが広がる
・不利な立場の人が構造的に固定される
これらはやがて、アンコンシャス・バイアスを含んだ価値観が組織の当たり前として定着する危険性をはらみます。
研修では、このメカニズムを理解したうえで、自社内に構造的な不利が存在していないかを振り返ります。
「考える」段階は、バイアスを単なる“気づき”から“解決すべき課題”へと変える重要なプロセスです。
この分析があるからこそ、次の「対処する」で実行性の高いアクションプランを立てることができます。
1-4. アンコンシャス・バイアスの悪影響を無くすために「対処する」
アンコンシャス・バイアス研修の最終ステップは「対処する」ことです。
アンコンシャス・バイアスは長年の習慣に根差しているため、放置すれば容易に元に戻ってしまいます。研修中に研修後に実践できる行動計画を立て、継続的に取り組むことが不可欠です。
また、個人だけでなく組織単位での対策も必要です。仲間とプランを共有することで、互いに支え合える環境が整います。
個人ベースでは、マイクロアグレッション(小さな攻撃)となる発言について、言いたいことは伝えつつも「攻撃」にならない言い方を検討します。
例えば、アサーティブ・コミュニケーションや感情コントロール法など、相手も自分も尊重できる話し方を学びます。
【中立的な表現への言い換え例】
| マイクロアグレッション的表現 | 中立的表現に言い換えたら? |
|---|---|
| いやいや、普通○○だろう。こんな事は常識だ | 「私は○○は常識だと思うが、君は違う意見なんだね」
※自分の考えの方を「普通」と決めつける表現は、相手の考えを否定しているように聞こえかねない。 |
| 「彼女は〇〇とまくしたてた」 | 「彼女は早口に〇〇と言った」
※「まくしたてる」という言葉に否定的なニュアンスが含まれており、相手を避難的に評価している気持ちが垣間見える。 |
その後、職場を想定したロールプレイを行い、実践イメージを描きながら実行プランに落とし込みます。
組織単位でのアンコンシャス・バイアス改善の取り組みについても、対処方法を考える必要があります。性別や年齢を示さずに行う「ブラインド・オーディション」など、アンコンシャス・バイアスを防止する取り組み事例を紹介します。
そのうえで、お互いに話し合い、自社の課題や解決策について受講者同士で共通認識を醸成します。
研修後には、アンコンシャス・バイアスへの意識や行動の変容について、アンケートなどの追跡調査を行います。
「意識」を変えるのは一朝一夕では達成できません。悪影響をなくすために「対処する」までを明確なゴールとし、個人と組織の両面から継続的に改善を進めていくことが重要です。
研修後に着実な行動変容を起こすことが、このステップのゴールです。
アンコンシャス・バイアス研修は、単に知識を学ぶ場ではありません。
最初にバイアスの存在と仕組みを理解し(知る)、自分や組織に潜む偏りを認識し(気づく)、その影響や課題を掘り下げ(考える)、実際の行動や仕組みとして改善を進める(対処する)――この流れがあるからこそ、研修の学びは現場で生きた変化を生みます。
2.アンコンシャス・バイアス研修:代表的な3つの目的と内容
アンコンシャス・バイアス研修を導入する目的として代表的なものは、以下の3つです。
・DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進
・ハラスメント防止対策
・コミュニケーション円滑化
それぞれの目的にそって、アンコンシャス・バイアス研修の内容を説明します。
2-1. DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進)
アンコンシャス・バイアス研修を導入する目的のひとつが、DE&Iの推進です。
具体的には、女性活躍推進などマイノリティ当事者を対象にした研修や、女性社員・障害者・性的マイノリティへの理解促進を目的とした取り組みが挙げられます。
組織メンバーが自分の中のアンコンシャス・バイアスに気づけないままでは、DE&I推進施策の成果は上がりません。
例えば「女性リーダー育成研修」では、参加者が自分に向けられたバイアスに気づくことを目的とする内容を扱います。
女性社員自身が「母親なら子供を優先しなくてはならない」(性別役割認識)、「成果は自分の実力ではない」(インポスター症候群)、という思い込みから、昇格や責任ある仕事を担うことを避けてしまう人も少なくありません。
研修ではこれらの事例を示し、「自分にも当てはまることはないか」「そのことで本当にやりたいことをあきらめていないか」を振り返ります。
そして、もしバイアスに縛られていたと気づいたら、どのように言動やキャリアの選択を見直すかを考えます。
ただし、こうした取り組みをマイノリティ側だけに行うと、「DE&Iが進まないのは当事者の問題」という誤った印象を与えかねません。
実際には、職場や社会に根づく無意識の規範や慣習――例えば「母親は家庭を優先すべき」「女性は謙虚であるべき」など――が、本人の意思や行動を制限している場合が多いです。
特に制度や文化を作る立場にある管理職や経営層(マジョリティ側)が偏った認識を持っていると、そのバイアスが組織全体に影響し、現状が固定化されてしまいます。
そのため、DE&Iの推進を目的とする場合は、マイノリティ本人の気づきを促すだけでなく、環境を変える力を持つ管理職や経営層への意識改革を含めて行うこと不可欠です。
2-2. ハラスメント防止対策
アンコンシャス・バイアス研修の目的の2つ目は、ハラスメント防止対策です。
アンコンシャス・バイアスは無自覚のうちに職場でのやり取りに表れ、放置するとマイクロアグレッション(小さな攻撃)として蓄積され、ハラスメントに発展する可能性があるためです。
多くの場合、ハラスメントは権限や立場のある側から生じます。弱い立場の人は抗議しにくく、その結果、偏った価値観や行動が組織文化として温存されてしまいます。
ハラスメントにつながりやすいアンコンシャス・バイアスの例として「生存者バイアス」があります。失敗や脱落の事例を無視し、成功(=生存)した事例だけを基準に物事を判断してしまう傾向を指します。
このバイアスがあると、過酷な環境で成果を出した自分を基準に、部下にも同じ働き方を求めてしまうためパワハラが起きやすいです。
さらに、従来「優れたリーダー像」とされてきた、「弱さを見せない」「競争を良しとする」「長時間労働を誇る」といった文化が、むしろ組織の機能不全を招く可能性があるという研究結果も出ています。
研修では、こうした価値観や信念を棚卸しし、それが他者への押し付けや決めつけになっていないかを振り返ります。
筆者が相談を受けたパワハラ事例では、部下がワークライフバランスを重視していたにもかかわらず、上司が「男なら出世を目指すべき。そのためには残業や休日出勤も厭うべきではない」と考え、過度な残業を強要していました。
上司は「自分もそうして今の地位を得た」と信じており、行為自体を“部下のため”と思ってのことでした。しかし、このような押し付けはバイアスによるハラスメント行為です。
ハラスメント防止を目的としたアンコンシャス・バイアス研修では、気づきを行動に変えることが最大のゴールであり、特にマイクロアグレッションへの気づきと改善策の習得、そしてパワー構造の理解と是正が重要です。
「マイクロアグレッション」の影響は、決して“マイクロ”ではなく、見過ごせば組織文化を悪化させます。
研修を通じてこうした構造や言動の問題を可視化し、心理的安全性を担保できる組織文化づくりにつなげていくことが求められます。
2-3. コミュケーションの円滑化
アンコンシャス・バイアス研修は、コミュニケーションを円滑にするためにも有効です。
コミュニケーションが滞る問題の背景には、無意識に相手や組織に対する思い込みや誤解が存在することが多いためです。
相手や組織に対する無意識のバイアスは本人が気づきにくいため、研修でそれらを可視化し、解消するきっかけを作ることが重要です。
ただし、単に問題点を認識するだけでは行動は変わりません。改善の方向性を具体的に学び、実践に移せる設計にする必要があります。
ハラスメント対策研修との違いは、パワーのない側(多くの場合役職のない社員)に焦点を当て、その立場でも活用できるスキル習得を重視する点です。
具体的には、まず自分たちが持っているアンコンシャス・バイアス、特にコミュニケーションを阻害するものについて振り返りを行います。
役職のない場合、年齢も若いことが多いため、比較的考え方が柔軟です。ただ「上司に逆らうべきではない」、「話しても無駄」といったマイノリティとして不利な経験に根差した無意識の思い込みはあります。
そうしたバイアスにどう対処するか、話し合いを通じて自分の固定した見方とは異なる視点を取り入れていきます。
そのうえで、アサーションやロジカル・コミュニケーションといったコミュニケーション技法を使った演習を行います。
重要なのは、こうした技法が単なる知識に終わらず、実際の職場で活かせる状態になることです。そのため、研修中に自分の考えが偏っていないかを多角的に検討し、必要に応じて修正する機会を設けます。
バイアスの可視化から改善策の習得までを一貫して行い、役職を持たない社員でも活用できる実践的なスキルを身につけることが、コミュニケーション円滑化を目的としたアンコンシャス・バイアス研修では大切です。
アンコンシャス・バイアス研修の目的は、大きく分けて3つあります。
1. DE&Iの推進:マイノリティ本人の気づきと意欲喚起だけでなく、環境を変える力を持つ管理職や経営層の意識改革を含めることで、組織全体の変化を促します。
2. ハラスメント防止:マイクロアグレッションやパワー構造による偏りを可視化し、行動改善に結びつけることで、心理的安全性の高い職場文化をつくります。
3. コミュニケーションの円滑化:無意識の思い込みを取り除き、アサーションやロジカル・コミュニケーションといった具体的スキルを身につけることで、円滑で建設的なやり取りを可能にします。
いずれの目的も共通しているのは、「気づき」で終わらせず、具体的な改善行動につなげることです。
これにより、個人と組織の両面でアンコンシャス・バイアスを減らし、持続的な変化を実現することができます。
3.【事例で解説】対象層ごとのアンコンシャス・バイアス研修
ここからは4つの研修事例を交えながら、対象ごとに留意すべきポイントを詳しく解説します。
3-1. 経営者対象のアンコンシャス・バイアス研修~DE&Iを目的としたもの
3-2. 管理職対象のアンコンシャス・バイアス研修~ハラスメント防止を目的としたもの
3-3. 一般社員対象のアンコンシャス・バイアス研修~コミュニケーション円滑化を目的としたもの
3-4. 対象層を広く設けたアンコンシャス・バイアス研修
企業研修全般に共通することですが、アンコンシャス・バイアス研修においても、「誰を対象とするか」を明確にすることが非常に重要です。組織文化や行動変容を促すうえで、対象者によって投げかけるべきメッセージやアプローチが変わってくるためです。
中には、アンコンシャス・バイアスを共通の基礎知識として全社員に身につけさせたいと考える企業もあるでしょう。ただし、その場合も、一斉に同じ内容で実施するよりも、期待する行動や役割、階層別に応じて受講対象層を分け、研修を設計するほうが効果的です。
一方で、あえて対象層を混在させるケースもあります。異なる立場や価値観を持つ人同士が交流することで、「自分の考えが当たり前ではない」という気づきを得やすくなるためです。
このコラムでは、そうした対象混在型でDE&Iの推進を狙った事例についてもご紹介します。
※研修名は必ずしもアンコンシャス・バイアス研修とは限りませんが、主な内容としてバイアスを扱った事例です。
3-1. 経営者向け:DE&I推進の旗振り役を育てるアンコンシャス・バイアス研修
経営層を対象とした、DE&I推進の旗振り役を育成することを目的としたアンコンシャス・バイアス研修の事例です。
大手精密機械メーカーでは、かつて女性活躍や障害者雇用といった施策を「福利厚生=コスト」として捉える風潮が根強く残っていました。しかし、近年はSDGsやESG投資の影響もあり、DE&Iは企業価値向上のための「投資」と位置づけられるようになりつつあります。
一方で、経営層の中には時代背景や外部評価の変化を十分に理解していないケースも見られました。
そこで研修では、DE&Iを経営戦略として位置づける重要性を、自社事例や最新の評価指標を交えて解説。さらに、経営者の不用意な発言や不適切対応がSNSで拡散されるリスク事例を取り上げ、リスクマネジメントの観点からも意識を高めました。
また、自社の心理的安全性アンケート結果や、価値観の対立を体感できるゲームを通じて、自らのアンコンシャス・バイアスを自覚する機会を提供しました。
その中で、社の歴史的成り立ちや自らの言動が影響していることに気づき、「挑戦を後押しするために経営層がどのような振る舞いをすべきか」というテーマでの議論で活発な意見交換が行われた場面もありました。
結果として、経営層はDE&Iを単なる人事施策ではなく、組織の持続的成長を左右する経営課題として認識し、旗振り役としての役割と責任を具体的に描けるようになりました。
研修プログラムの流れ(約3時間)
| テーマ | 内容 |
|---|---|
| オリエンテーション | 自己紹介等 |
| 1.【知る】DE&I経営が企業に与える効果 | DE&Iが企業の評判や業績を左右することを理解(レクチャー&ディスカッション) |
| 2.【知る】多様性を活かすには | 成功しているD&I経営の特徴や施策遂行の視点を理解(レクチャー&ディスカッション) |
| 3.【気づく】インクルージョンと心理的安全性 | ・心理的安全性とDE&I、アンコンシャス・バイアスの関係を理解 ・社員アンケート結果を共有し、自社の傾向を把握 ・ゲーム形式で心理的安全性の要素を体感 ・アンケート結果についてグループディスカッション→全体共有 |
| 4.【考える】アンコンシャス・バイアスと心理的安全性 | アンケート結果から心理的安全性への影響を考察し、自らの影響力を振り返る(レクチャー→ディスカッション) |
| 5. 【対処する】コミュニケーションスキルを身につける | 中立的・肯定的表現や効果的な質問方法など、コミュニケーションについて演習を通じて習得 |
| 6.【対処する】行動宣言シート | 学びを行動宣言として可視化し、意識・行動変容を促進 |
ポイント①【知る】:DE&I経営が企業に与える効果を理解する
経営陣を対象にする場合、欠かしてはならないのは組織の代表としてDE&Iを経営戦略の一環として位置づける視点が不可欠です。
かつては女性活躍や障害者雇用といった施策を「福利厚生=コスト」と見なす企業が多くありましたが、今やDE&Iは企業価値向上のための「投資」となっていますす。SDGsやESG投資の影響で、取り組み状況が外部評価や採用活動にも直結します。研修ではこうした時代背景を、経営者自身の経験や外部評価の変化を交えて学びます。
また、リスクマネジメント観点からも、アンコンシャス・バイアスについて考えてもらいます。
トップの不用意な発言や不適切な対応がSNSで拡散されるリスクを事例とともに共有します。多くの経営者はこうしたトレンドをメディアなど通じで知ってはいますが、理解の程度はばらつきがあります。「知る」部分では、データや事例で説明しながら、更なる理解を促します。
ポイント➁【気づく】:インクルージョンと心理的安全性に気づく
この研修では、アンコンシャス・バイアスへの改善への当事者意識を高めるために、2つの独自の工夫を行いました。
一つ目は、心理的安全性に関する自社アンケート結果の共有です。心理的安全性はDE&Iの基盤であり、数値化された現状は参加者に強い印象を与えます。
特に「失敗を恐れてチャレンジできない」というアンケート結果は衝撃を与え、その背景として企業合併の歴史や力関係の偏りが指摘されました。
二つ目は、価値観の対立やジレンマを疑似体験できるゲームの実施です。これにより、自分が当然「正しい」と思っている行動が他者には異なる意味を持つことを体感しました。
ポイント③【考える】:アンコンシャス・バイアスと心理的安全性めの具体策を描く
このパートでは、アンコンシャス・バイアスがもたらすネガティブな影響を防ぐために、どのような取り組みが必要かを話し合い、研修後の実践につなげました。
まず講師から、履歴書に性別などのバイアスを生じやすい情報を記載しない「ブラインド・オーディション」などの事例を紹介。その後、自社の社員アンケートで浮かび上がった課題について、バイアスの影響をどのように解決していくかをグループで検討しました。
議論の中で特徴的だったのは、制度面の改善よりも、自分たちの言動の見直しに焦点を当てた意見が多く出たことです。
高品質を追求する企業文化の中で、ミスを「悪いもの」として扱う風土が根づいており、それが無意識のうちに「間違えてはいけない」というプレッシャーを生み、社員のチャレンジを阻んでいた可能性が指摘されました。
そこから、「挑戦を後押しするために経営層がどのような振る舞いをすべきか」というテーマに議論が発展し、活発な意見交換が行われました。
3-2. 管理職向け:ハラスメント防止の意識と行動を育てるアンコンシャス・バイアス研修
管理職を対象とした、ハラスメント防止を目的としたアンコンシャス・バイアス研修の事例です。
メイン工場で初めて地元から女性工員を採用するにあたり、セクシャルハラスメント防止を目的として実施されました。対象は工場の管理職全員で、2回に分けて実施され、管理職のうち女性は労務課長1名のみで、他は全員男性でした。
この企業では、管理職が自分の経験則や過去の指導スタイルを当然視し、それが時代の変化とともにハラスメントと捉えられかねない場面が生じていました。また、無意識のうちに部下の行動や役割を性別や慣習で決めつけてしまう傾向も課題となっていました。
そこで研修では、まず参加者同士の対話を通じて職場の価値観の違いを可視化し、その後、ミニドラマ動画を用いてハラスメントに該当する可能性のあるシーンを議論。さらに、自組織のアンコンシャス・バイアスを洗い出し、改善の方向性を共有しました。
最後に、非言語も含めた傾聴や言葉遣いなど、相手に配慮したコミュニケーション技術を習得するロールプレイで総仕上げを行いました。
結果として、参加者は「自分の当たり前」が必ずしも普遍ではないことを理解し、ハラスメントを未然に防ぐための意識と具体的な行動イメージを持つことができました。
研修プログラムの流れ(約7時間)
| テーマ | 内容 |
|---|---|
| 1.【知る】女性部下マネジメントの注意点 | ・「女性部下のマネジメントで困っていること」を共有(グループディスカッション&全体共有) ・女性活躍推進の時代背景と、マネジメント上の注意点を理解(レクチャー&ディスカッション) |
| 2.【知る】ハラスメントの基礎知識 | ハラスメントの定義、関連法令の解説(レクチャー) |
| 3.【気づく】アンコンシャス・バイアスとマイクロアグレッション | ・動画を見て、ハラスメントに当たると思われる部分を指摘 ・演習や事例をもとにグループで話し合い |
| 4.【考える】自組織にある無意識の偏見とその影響 | ・自組織のバイアスを個人で考察 → 共有 → グループディスカッション ・組織全体のバイアス構造をさらに深掘り |
| 5.【対処する】女性部下とのコミュニケーションスキルを身につける | ・中立的・肯定的表現、傾聴、非言語の注意点などを演習 ・ロールプレイで総仕上げ |
| 6.【対処する】行動宣言シート | ・学びを行動宣言として書き出し、職場での実践を促す |
ポイント①【オリエンテーション】:場を温める&意識をそろえる
1日を共に学ぶ仲間意識を高め、ハラスメントを“自分事”として学ぶマインドセットを行いました。
自己紹介を兼ね、「女性部下のマネジメントで困っていること」をテーマにディスカッションを実施。ここで、自部署では当たり前と思っていたことが他部署から「おかしい」と指摘される場面もありました。
例えば「女性部下が育休に入ると来客時にお茶を入れる人がいなくなる」という悩みに対し、別部署からは「うちはすでにお茶汲みをやめている」と即答があり、参加者は価値観の違いを実感しました。
こうした対話を通じて、「悩んでいるのは自分だけではない」という安心感と連帯感が生まれました。
ポイント②【知る】:ハラスメントの基礎知識を学ぶ
管理職の多くは、自分が受けてきた指導を肯定的にとらえ、そのやり方を踏襲しています。しかし、時代が変われば「当たり前」がハラスメントになることもあります。
研修ではミニドラマ動画を見て、どの場面がハラスメントに該当する可能性があるかを話し合いました。取引先からのハラスメントを部下が言い出せない事例や、関係悪化を恐れる上司が間接的に加担してしまう危険性なども共有。
このワークを通じて、自分の職場や自身の行動を振り返り、多くの具体的な問題事例がグループから挙がりました。
ポイント③【考える】:自組織にある無意識の偏見とその影響を考える
前段の気づきをもとに、自組織にあるアンコンシャス・バイアスを洗い出しました。
例として「送別会で花束を渡す役は必ず女性」が挙がり、それが当然視されてきた理由や影響を検討。「自分たちが変えなければならない」という認識が共有されました。
お互いの気づきを話し合うことで、さらに新たな発見が生まれる好循環が見られました。
ポイント④【対処する】:行動宣言シートをつくる
最後に、具体的な行動改善方法としてコミュニケーションを学びます。相手の受け取り方や感情などを体感するための時間を十分にとって演習に取り組めるようにしました。
言葉遣いに加え、「傾聴」の方法や非言語コミュニケーションでの注意点なども学び、最終的に、職場で問題が起こった場合という状況でのロールプレイで総仕上げを行いました。
頭でわかっていても実践が難しいのが現実です。ロールプレイによって、自分のコミュニケーション上の課題が明らかになり、より実践のイメージを抱くことができたようです。
3-3. 一般社員向け:コミュニケーション力を高めるアンコンシャス・バイアス研修
アシスタント業務(主に総合職からの指示を受けて業務を行う)に従事する社員を対象としたアンコンシャス・バイアス研修の事例です。
従業員満足度調査の結果、アシスタント業務の従業員満足度が低く、その理由として「断れずに本来必要ない業務まで引き受け、不満が募る」「他部署とのコミュニケーションがうまくいかない」といった声が多く寄せられていました。
これらの課題を解消するため、まず具体的な対処策としてアサーティブ・コミュニケーションを学び、その後にアンコンシャス・バイアスを取り上げる構成で研修を設計。心理的安全性を確保したうえで、自分のバイアスを言語化・共有し、背景や原因を振り返るワークや、固定観念を反転させる演習を行いました。
受講者は「相手に配慮しつつ自分の考えを伝える」方法を具体的に学び、日常のコミュニケーション改善に向けた一歩を踏み出すきっかけとなりました。
研修プログラムの流れ(約3.5時間)
| テーマ | 内容 |
|---|---|
| 【前段】コミュニケーション上の課題と言いにくいことを伝える技術 | ・職場コミュニケーションに関する意識調査結果を紹介し、自分たちの現状を話し合う(レクチャー&ディスカッション) ・アサーティブ・コミュニケーションの基礎を学び、演習で練習 |
| 1.【知る】アンコンシャス・バイアスとは | アンコンシャス・バイアスを演習で体感し、種類や発生メカニズムを学ぶ(演習&レクチャー) |
| 2.【気づく】アンコンシャス・バイアスの及ぼす影響 | ・日常業務の中に表れるアンコンシャス・バイアスを振り返り、事例を共有(演習&グループディスカッション) ・パワーの違いから生じるバイアスについて理解(レクチャー) |
| 3.【考える】自分の持つアンコンシャス・バイアスとコミュニケーション | ・言いたいことが言えない状況を中心に、自分のバイアスを考察・共有 ・アンコンシャス・バイアス反転ワークで新しい可能性を探る(個人演習→グループディスカッション→全体共有) |
| 4.【対処する】自分のアンコンシャス・バイアスを反転させる | ・見出した新たな選択肢を実践に移すためのプランを立案・共有(個人演習→グループ共有) |
ポイント①【気づく】:アンコンシャス・バイアスの及ぼす影響に気づく
日常の業務で感じている総合職や他部署へのアンコンシャス・バイアスを言語化し、共有することでお互いの気づきを深めます。
他者の事例を聞くことで、自分の中にも似た思いがあると気づくこともあれば、逆に自分には当てはまらないと発見することもあります。
ただ、場合によっては善悪の判断を伴い、相手に対する批判や評価にもつながりかねません。そのため、安心して開示できるよう、講師は、「批判や判断をしない」「この場以外では口外しない」といったルールを設けて事前に共有する必要があります。また、もし非難するような気配が見られたら介入も必要です。
安心して自分のアンコンシャス・バイアスを開示できることが、自らのバイアスに向き合う第一歩です。非難や批判を受けると、その対象者を防御的にしてバイアスに向き合うことを難しくしてしまいます。そのため、講師はその点について万全の注意を払わなくてはなりません。
ポイント②【考える】:自分の持つアンコンシャス・バイアスを考察し、コミュニケーション法方を探る
コミュニケーションにおけるバイアスの影響を深く理解するため、この研修では「アンコンシャス・バイアス反転ワーク」というワークシートを使った演習を行いました。
まず、自分のアンコンシャス・バイアスを書き出し、次に「もしそれが当てはまらないとしたら?」という前提で、考えられる別の可能性を挙げます。さらに、その可能性を検証するためにどんな行動ができるかを書き出します。検証自体は研修中には行わず、事後課題として取り組みます。
演習の中で、他部署への申し入れについて「言っても無駄」と思い込んでいた理由を、ある受講者が発表しました。それは、上司が繰り返し同じ発言をしていたことや、自分自身も過去に同様の経験をしていたことが影響していたそうです。そのうえで、「もしかすると相手にも事情があったのかもしれない」という新たな可能性にも触れました。
さらに、この場には偶然、その「相手の部署」に所属する受講者も参加しており、「そう思われていたとは知らなかった」「実は当時はこちらにもこうした事情があって…」と説明。思わぬ種明かしに繋がったのも集合研修の妙味です。
ポイント③【対処する】:自分のアンコンシャス・バイアスを反転させる
権限の弱い立場にある人にとって、権限を持つ相手は「本音を言えば心情を害し、厳しい対応をされるかもしれない」という不安の対象になりがちです。だからこそ、相手を傷つけずに自分の考えや気持ちを伝える技術が必要です。
この研修では、まずアンガーマネジメントを通じて、自分の感情に流されずに対応する方法を学びました。さらに、アサーティブ・コミュニケーションの技術を習得し、相手に配慮しながらも自分の意見をしっかり伝える練習を行いました。
一足飛びに考えを伝えることは難しいですが、少しずつでも「やってみよう」という思いを抱いてもらえたのが、講師としても大変印象的でした。
3-4. 全社員向け:多様な視点を理解し対話を促すアンコンシャス・バイアス研修
特定の層に限定せず、幅広い層を混在させて実施したアンコンシャス・バイアス研修の事例です。
対象は、継続的にDE&I研修を行っている大手商社。今回の目的は、アンコンシャス・バイアスが職場に与える影響をリアルに体感してもらうことでした。
多様性推進への理解を深める一方で、受講者の中に根強く残る固定観念や価値観が、対話や意思決定の場で摩擦を生んでいることを課題と感じていました。そのため、職場で起こりやすいジレンマ事例を使った「クロスロード・ダイバーシティ編」ゲームを行い、メンバー同士が異なる立場や視点を共有する研修内容を設計。
副次的な目的として、コロナの影響で希薄化している職場コミュニケーションを活性化するということもあり、ゲームは職場のメンバー同士で取り組みました。
結果として、相手の背景や考え方の多様性を認め合うきっかけが生まれ、対話の重要性を再確認する機会となりました。
研修プログラムの流れ(約2時間(オンライン))
| テーマ | 内容 |
|---|---|
| 1.オリエンテーション | お互いの知らない一面を含め自己紹介(レクチャー) |
| 2 .【気づく】お互いの考えの違いに気づく | ・「クロスロードゲーム・ダイバーシティ編」を実施。職場で起こりやすいDE&I関連の事例について、賛否を選択し理由を共有 ・各人の考えや価値観の違い(深層的ダイバーシティ)を認識 ・どちらかが正しいと言い切れないジレンマを体感 |
| 3.【考える】アンコンシャス・バイアスの影響を考える | ・ゲームで気づいたことを共有 例えば①自分の中のアンコンシャス・バイアスとその影響、②反対意見を尊重する中で生じるジレンマ ・①、➁について、職場での対応策を話し合い(グループディスカッション→全体共有) |
| 4.【対処する】アンコンシャス・バイアスによる問題を防ぐコミュニケーションとは | ・DE&I推進上のジレンマやアンコンシャス・バイアスへの対処方法を議論 ・日常のコミュニケーション改善方法を検討 ・「対話」の効用を理解(グループディスカッション→レクチャー) |
※この企業では、継続的にDE&Iの研修を実施しおり、「アンコンシャス・バイアス」については、先立つ研修ですでに学んでいたため、今回の研修では「知る」パートは割愛しました。
ポイント① 【気づく】:お互いの考えの違いに気づく
このパートでは、職場の多様なメンバー間で生じる軋轢や摩擦といった問題を題材にしたゲームを通して、日常の中に潜むアンコンシャス・バイアスへの気づきを促しました。
使用したのは「クロスロード・ダイバーシティ編」というカードゲームです。ダイバーシティに関するジレンマ事例が書かれたカードを順番に引き、その事例に対して各メンバーが賛成か反対かを選び、理由を説明します。
例えば、「子どものお迎えに行く日に、上司から緊急トラブル対応の残業を頼まれた」という事例では、「当然残業する」という人もいれば、「お迎えに行く」と答える人もいます。ここで、自分にとっての「あたりまえ」が、他の人にとっては必ずしも同じではないことに気づきます。
さらに理由を語り合うことで、対立しているように見える相手の中にも、自分と共通する思いがあると知ることもあります。
たとえば「お迎えには行くが、その後トラブルの状況を確認し、必要であれば職場に戻る」という答えを出した人がいました。一見すると残業を拒否しているようですが、「何とかトラブルを解決したい」という思いは、残業を選んだ人と同じです。
結論だけでは見えない共通点に気づけるのも、この演習の大きな効果です。
ポイント②【考える】:アンコンシャス・バイアスの影響を考える
このパートでは、ゲームを通して感じたことや気づきをグループ内で共有し、さらに理解を深めました。話し合ったことを全体シェアしてもらう際に、ある受講者が講師や事務局に対して挑発的な態度をとりました。
その受講者は発表の場で、「選択結果を見ると、女性は育児やプライベートを重視し、男性は仕事を重視していた」とコメント。
しかし実際には、女性でも仕事を優先した人がいた一方、男性でも家庭を重視する発言をした人がいました。事実と異なる、典型的なアンコンシャス・バイアス的な見方です。
私は講師として、この発言が単なる誤解ではなく、あえてバイアス的な発言をして反応を試そうとする挑発だと感じました。なぜなら、この受講者がグループ内で「これってアンコンシャス・バイアスだよね」と話しているのを事前に聞いていたからです。
こうした場面で、講師が直接「それはバイアスです」と指摘してしまうと、相手は素直に受け入れず、「多様性と言いながら、自分の考えを否定するのか」と反発を招くリスクがあります。
そこで私は、まず「そう感じられたのですね」と受け止めた上で、他のグループからも発言を促しました。
その結果、最初の発言者以外にも多様な意見があることが示され、「カードの事例ごとの判断も多様ですし、結果の捉え方もさまざまですね。自分の見方が必ずしも正解ではないことに気づかれたと思います」と全体に向けてコメントしました。
アンコンシャス・バイアス研修では、このように反発や挑発的態度が出ることがあります。中には「自分にはバイアスはない」と断言する受講者もいますが、これは自分が正しいと信じてきた価値観や規範が否定されたと感じ、防衛的になる心理が働くためです。
こうした場合、指摘を繰り返すよりも、一度受け止め、相手の状況を理解する姿勢が効果的です。今回もその対応により、この場の対話自体が研修の目的――アンコンシャス・バイアスの影響をリアルに認識してもらう――を果たすことができました。
受講者の中には「明確な答えが出なかった」とモヤモヤを感じた人もいたかもしれません。
しかし、DE&Iの本質は、どちらか一方を正しいと決められない現実にあります。異なる考えが組織に入れば摩擦や抵抗は避けられません。
今回の研修は、そのプロセスを実際に体験し、DE&I推進の種を植える機会となりました。
ポイント③【対処する】:アンコンシャス・バイアスによる問題を防ぐコミュニケーションで未来をつくる
このパートでは、前段で得た気づきをもとに、今後の職場でどのような行動を取っていくべきかを議論しました。時間が限られていたため、特に「コミュニケーション」に焦点を絞って検討しています。
受講者からは、
「相手と自分が同じ考えだと決めつけない」
「一見、意見が異なる相手でも、実は同じ問題意識を持っている場合がある。そのためには、じっくり話を聞くことが大切」
といった意見が挙がりました。
これらを受け、講師からは「合併後の混乱を、対話を通じて乗り越えた企業」の事例を紹介しながら、対話の重要性を解説しました。
また、マジョリティとマイノリティの間に大きな力の不均衡が残っている場合、本当の意味での「対話」は成立しにくいという現実についても触れています。
アンコンシャス・バイアスの多くは、長年の慣習や価値観に根差しており、短期間で変わるものではありません。そのため、「研修」という一度きりの場で全てを解決しようとせず、会社全体の取り組みの中で研修をどう位置づけるかが重要であることを、改めて確認する機会となっていました。
4. アンコンシャス・バイアス研修の実施で注意すべき3つのポイント
アンコンシャス・バイアス研修を行う上で、ポイントは3つあります。
・自身のアンコンシャス・バイアスと向き合う抵抗を適切に扱うこと
・アンコンシャス・バイアスを、ただの「気づき」で終わらせないこと
・アンコンシャス・バイアス研修後のフォローを丁寧に行うこと
それぞれ具体的な方法をそれぞれ解説します。
4-1. 自身のアンコンシャス・バイアスと向き合う抵抗を適切に扱うこと
アンコンシャス・バイアス研修では、受講者から抵抗が生じることが少なくありません。
その理由は、研修を通じて「自分が無意識のうちに差別や偏見に加担してきた」ことに気づき、そのネガティブな側面と向き合うきっかけになるからです。
人は、自分を「差別する側」と認めたくありません。しかし、アンコンシャス・バイアスに気づく瞬間、知らず知らずのうちにそうした立場にいた自分に直面します。この不快感から逃れようとし、向き合うことを避ける人も少なくありません。
そのままでは行動変容につながらないため、講師は受講者の心理的負担を軽減する工夫が必要です。3つの工夫を紹介します。
① 悩みを共有し、安心して話せる場をつくる
② 相手の背景を尊重し、頭ごなしに否定しない
③ ゲーム形式で楽しく気づきを促す
① 悩みを共有し、安心して話せる場をつくる
アンコンシャス・バイアス研修では、受講者が悩みや失敗を安心して共有できる場づくりが不可欠です。
受講者同士の考えや価値観の違いが、自分のバイアスに気づく大きなきっかけになるためです。
しかし、違いを「間違い」と受け止める恐れや否定される不安があると、本音が出にくく、気づきを得られにくいです。
特に経営者や管理職は、「悩みは口にすべきでない」「自分で解決すべき」と思い込みが強いため、安心の土台づくりがより重要です。
効果的な方法としては、以下が挙げられます。
・研修冒頭に「悩みや困っていること」を話し合う時間を設ける(自己紹介に含める場合もあり)
・グループで出た悩みや課題を全体で共有し、多様な意見を知る
・講師が他社管理職の悩みを紹介し、共感や新たな視点を促す
研修のはじめに悩みや失敗談を共有することで、その後のディスカッションも活発になり、安心して意見交換できる雰囲気が生ます。
このように、事前の雰囲気づくりは一見コンテンツとは無関係に見えますが、学びの深さを左右します。研修効果を最大化するために、場の安心感を醸成する時間は欠かせません。
② 相手の背景を尊重し、頭ごなしに否定しない
受講者がアンコンシャス・バイアスを受け入れられないときは、頭ごなしに否定せず、その背景にある価値観や経験を尊重しながら向き合うことが重要です。
強く否定されると、人は防衛的になり、ますます自分の意見に固執します。逆に、まず受け止める姿勢を示し、対話を通じて内省を促すことで、自ら気づき、態度や考え方を変えるきっかけになります。
具体的な対応方法は大きく2つあります。
1、受講者の認知を受け止め、他の受講者と対話する方法
スタートアップ企業の経営者が「女性は子どもを産んだら仕事内容や報酬が変わって当然」と発言した事例では、講師が否定せず受け止め、他の参加者との対話を促しました。
その結果、「子育てをしている女性が活躍できる環境を整えるのは経営者の責任」という新たな認知が生まれ、本人は過去の考えを恥ずかしいと振り返りました。
2、受講者の言動をその場で提示し、背景を紐解く方法
あるベンチャー企業の事業責任者が、軽口やボディタッチを「親しみ」と捉えていた事例では、女性社員から強いセクハラ・パワハラと認識されていました。
本人は否定しましたが、講師は経営者と相談し、研修の予定を全て変更して徹底的に事実と背景を対話で掘り下げました。一時は激高し研修から退席しましたが、後に本人は非を認め反省し、経営者との面談を経て降格となりました。
(※この方法は組織への影響が大きいため、入念な準備と経験豊富なファシリテーターが不可欠です)
アンコンシャス・バイアスを変えるには、相手の価値観や経験を踏まえたアプローチが欠かせません。受け止めと対話を通じて、自らの内省と変化を引き出すことが、持続的な意識改革への近道です。
③ ゲーム形式で楽しく気づきを促す
アンコンシャス・バイアス研修では、ゲーム形式などの参加型手法を取り入れることで、受講者の抵抗感を和らげ、楽しみながら気づきを促すことができます。
研修に対して「抵抗」とまではいかなくても、構えてしまう受講者は少なくありません。ゲームやワークショップの形式を取り入れることで場が和み、自然な対話や多様な視点の共有が生まれ、内省が深まります。
具体例を2つ紹介します。
1、カードゲームの活用例
これは、DE&I推進の現場でよくあるジレンマ事例(例:「娘のお迎え日に、突発トラブルで残業を依頼されたらどうするか」)に対して、賛成か反対かを選び、その多数派で得点を競うカードゲームです。
経験がある人は自身の体験から、経験がない人は主人公の立場に立って考えることが促されます。理由を語り合うプロセスで対話が生まれ、自分のバイアスへの気づきにつながります。
2、ワークショップの活用例
東京大学の学生向けワークショップを企業向けにアレンジした「組織開発のためのダイバーシティ・ワークショップ(OTDワークショップ)」を活用することがあります。
これは、アンコンシャス・バイアスによって、本当は存在しているのに見落としてしまっているマイノリティの存在に気づき、社会モデルの発想から解決策を考えるのに有効です。
ゲームやワークショップなど、楽しみながら考える仕組みを研修に組み込むことで、受講者の心理的ハードルを下げ、気づきや学びを深めることができます。
4-2. アンコンシャス・バイアスを「気づき」で終わらせず「対処」まで踏み込むこと
アンコンシャス・バイアス研修では、「気づく」だけで終わらせず、具体的な対処方法まで学ぶことが不可欠です。
アンコンシャス・バイアスは個人の言動だけでなく、組織の慣習や仕組みにも深く根付いており、単なる気づきだけでは行動改善に結びつきにくいからです。
例えば会議の場で、中年男性の発言は最後まで遮られない一方、若手や女性の発言は途中で口を挟まれることがあります。この背後には、「若者や女性は大した意見を言わない」という無意識の思い込みが潜んでいる可能性があります。
こうしたバイアスに気づくことは、行動を改める第一歩ですが、自分にとって“当たり前”であった行動は、どこをどう変えればよいのかが分かりにくく、自然に修正されることはほとんどありません。
だからこそ、研修では「気づき」から一歩進み、バイアスを修正するための具体的な行動例や対処スキルまで盛り込むことが必要です。
そこで、是非取り入れていただきたい2つのアプローチをご紹介します。
①アウトプットを伴う演習に取り組む
たとえば、アンコンシャス・バイアスに基づく言動を中立的な表現に言い換える演習は効果的です。
また、バイアスが含まれた言動の動画を視聴し、「どこが問題か」「どう修正できるか」を受講者同士で話し合う方法も有効です。
さらに、アンコンシャス・バイアスが発生しやすい状況を想定したロールプレイを行い、その場での対応を確認することもおすすめです。実際に演じることで、自分の行動にバイアスが現れていないかを客観的に把握でき、改善点を具体的に見つけやすくなります。
②対処方法について、他の受講者と話し合う
受講者同士で意見交換を行い、他者の考えを聞くことで、自分にとっては何でもない言動が、他の人には強く不快に感じられる場合があることに気づけます。
この発見こそが、アンコンシャス・バイアスに気づく大きなきっかけになります。
また、「どのような言い方であれば受け入れられるのか」は、自分一人で考えても限界があります。他の人の視点や経験を知ることで、改善のための選択肢を広げることができます。
4-3. アンコンシャス・バイアス研修後のフォローを丁寧に行うこと
アンコンシャス・バイアス研修は、単発で終わらせず、研修後のフォローを継続的に行うことで、初めて行動変容につながります。
残念ながら、一度の研修で気づきを得ても、時間が経つと元の行動や考え方に戻ってしまう傾向があります。特に、それが組織的に強く浸透している場合、改善には長期的な取り組みが必要です。
企業側としては、変化の度合いをアンコンシャス・バイアス診断などでモニタリングしていくといった取り組みが有効ですが、研修の場でも、次のような取り組みを組み込むことで、変化を定着させやすくなります。
・アンコンシャス・バイアスの負の影響を防ぐため、組織的な仕組みや制度を検討するワークを行う
・受講者が研修中に行動目標を立て、全員で共有する
・研修で作成した「アンコンシャス・バイアス克服プラン」を一定期間フォローし、実施状況を確認する
これらをアンコンシャス・バイアス診断の結果と照らし合わせれば、DE&I推進の進捗確認や新たな施策立案にも活用できます。
研修後の丁寧なフォローこそが、アンコンシャス・バイアス克服の行動を定着させ、組織全体の変革を後押しします。
5. まとめ|アンコンシャス・バイアス研修はアーティエンスにお任せ!
本コラムでは、アンコンシャス・バイアス研修について以下の4点をご紹介しました。
・研修の基本構成(知る→気づく→考える→対処するの4ステップ)
・研修の目的(DE&I推進、ハラスメント防止、コミュニケーション円滑化)
・対象層別のポイント(経営層・管理職・一般社員・全社員)
・実施上の留意点(抵抗への対応、気づきで終わらせない工夫、フォロー体制)
アンコンシャス・バイアスはここ数年で注目度が急速に高まり、バズワードとして広まった一方で、その本質は現代の企業が抱える課題解決のカギに直結しています。
組織の制度や文化に深く根付く無意識の偏りに働きかけることで、DE&Iの推進、心理的安全性の向上、生産性の底上げなど、多方面に効果をもたらします。
しかし、この研修は比較的新しく、「無意識の偏見」という人の認知領域を扱うため、企画・進行には高度な専門性と細やかな配慮が求められます。安易に実施すると、受講者の反発や誤解を招き、逆効果となるリスクもあります。
そのため、アンコンシャス・バイアス研修の導入や改善をご検討中の方は、ぜひアーティエンスにお気軽にご相談ください。
アーティエンスでは、経営層から現場社員まで階層・目的に合わせたプログラム設計と、研修後の行動定着まで見据えたフォローを行っています。
アンコンシャス・バイアス研修を通じて、誰もが安心して意見を交わし、多様な視点が活かされる公平で創造的な職場を実現しましょう。
参考:digireka!HR / アンガーマネジメントとは?怒りのコントロール方法や企業におけるアンガーマネジメント研修



