OJTの「仕組み」をつくる -新人が育つ現場の仕組み、どこからつくっていく?―

更新日:

作成日:2019.1.8

2019/1/8作成 2022/5/18更新-

正式名称をOn the Job Trainingという「OJT」が日本で取り入れられるようになったのは、1970年代からです。

当時の日本企業は終身雇用・年功序列が一般的だったので、実際に働く現場で、上司や先輩の指導を受けながら業務を教わり学んでいく教育訓練であるOJTは、理にかなった研修方法でした。

ですが現代では、業務を行いながら人材育成を行うOJTを行っても、思うように新人が成長しないという声が大きくなっています。

そこで今回は、これまでの方法を踏襲するのではなく、新人をより成長させるOJTを行うために何をしたらよいかについて、一緒に考えていきたいと思います。

1)大多数の企業が「OJTに課題がある」と感じている

OJTはもともと、効率よく即戦力を育成するために導入された研修方法です。コストを抑えて新人を育成できるというメリットがある一方、指導社員の負担や育成力のバラつきによる成果の違いといったデメリットも指摘されており、多くの企業がその効果を疑問視している実情があります。その理由について、データに基づいて説明していきましょう。

約70%の企業が「OJTを重視」している

近年は、OJTだけでなく、集合研修や座学、グループワークなどを組み合わせ、業界やビジネスの知識を学ぶ「OFF-JT」を行う企業も増えています。

平成30年3月、厚生労働省は平成29年度「能力開発基本調査」の結果を発表しました。その調査結果を見ると、正社員に対する教育訓練では、企業の71.2%がOJTを重視していると回答しています。平成28年度調査では74.6%、平成27年度調査では74.0%だったことを考えると、多くの企業がOJTを実施するメリットを感じていると考えられます。

それは、OJTの目的が新人教育だけではないからです。OJTを行う際には、先輩社員が新人を指導します。指導の際には業務内容を言語化し、新人に理解させる必要があるため、先輩社員も業務を再確認しながら説明するので理解度がアップし、成長につながるのです。

また、OJTであれば指導社員と新人の能力に合わせて、柔軟に対応することができます。

さらに、業務を通して指導を行うので、社内の生産性が下がりません。社員間のコミュニケーションが活性化するなど、企業側のメリットが多いことが、OJTを重視する理由と考えられます。

一方、OJTを取り巻く環境は…

企業の多くはOJTを重視しているにも関わらず、社員の人材育成や能力開発について、課題を感じているようです。

能力開発基本調査の「人材育成に関する問題点」という設問に対して、平成29年度は75.4%が「問題がある」と回答しています。平成28年度は72.9%、平成27年度は71.6%だったので、年々増加傾向にあることがわかります。企業が考える人材育成の主な問題点は、

・指導する人材が不足している
・人材育成を行う時間がない
・人材を育成しても辞めてしまう

の3つです。

つまり、新人研修を行う際にOJTは取り入れていても、それが適切に行われているとはいえないと考える企業が多いということです。成果を引き出すOJTを行うためには、その内容や方法を見直す必要があります。

2)OJTを行う際に起こりやすい「3つの課題」

OJTは実際に職場で業務を経験しながら、仕事のやり方を覚える方法ですが、企業によってやり方はそれぞれ異なります。

OJTを重視している企業の多くが、実施にあたっての課題があると感じている背景には、やり方に問題がある可能性が高いのです。そうした問題を解決しなければ、OJTに時間を割いても、欲しい成果にはつながりません。

また、管理職や先輩社員、新入社員の仕事に対する考え方や価値観の違いがあることも、OJTを行う際にマイナスに作用する理由になります。  そこで、OJTでよく見られる3つの課題について、お話しします。

 

1.職場ごとにバラバラな育成をしている

まず、職場ごとに行われるOJTがバラバラで、育成の目的や成果にも差が生まれがちなことです

OJTの基本は  

・Show(やってみせる)
・Tell(説明する)
・Do(やってみせる)
・Check(評価と指導を行う)

の4つです。

まず、指導役である先輩は業務をやってみせることで、新人に仕事の全体像を理解させます。そのうえで、仕事全体のなかで担当する業務がどう関わるのかも合わせて、作業内容を説明します。

そして、実際に新人に業務を実践してもらい、その評価を行うとともに、できていなかった仕事については指導を行うのが手順です。OJTを行う際には、新人をどの程度のレベルまで仕事ができるように指導するのかの基準や、それを実現するために何をどう実施するのかについて、企業として計画や統制されている必要があります。

しかし実際には、OJTが先輩社員個人の裁量に任されることも多く、企業が思うように新人が育たないという課題が生まれています。

2.職場の育成に関するコミットが低い

次に、OJTを引き受けている現場が、職場の新人育成に関するコミットが低いという課題です。

OJTは、新人の指導を担当する1名の先輩社員がいれば、すぐに始めることができます。しかし、新人育成の目標や成長プロセス、研修計画などの仕組みが確立していなければ、指導役の先輩社員の実ならず、職場のメンバーが人材育成に積極的になるのは難しいのです。

OJTでは先輩社員自身が業務を遂行しながら、新人の指導を担うため、時間がとられます。職場のメンバーがそれを理解してフォローするなどの協力体制がなければ、日常業務が滞る可能性もあるのです。

また、先輩社員が「最低限の業務が行えるようになればいい」「自分の仕事を振ればいい」という短期的な視点で指導を行うことで、アシスタントとしては役立っても、いつまでも社員として自立できないケースもあります。新人を育成することが、自分や職場ひいては会社の利益につながるという意識がなければ、新人の成長を促す指導はできないのです。

 

3.現場任せになっている

OJTは、配属される職場で実施されるものです。

そのため、経営陣や人事部が職場での実務を把握せず、現場に任せきりにするケースが少なくありません。その場合、指導役となる先輩社員の力量や新人育成に対する熱意などにより、研修後の成果にバラつきが出ることが多いのです。

というのも、現場で行うOJTでは、短期的な視点での指導になりがちなうえ、属人的な教育が行われがちだからです。その結果、新人が目の前の業務には対処できるようになっても、中期あるいは長期的な視点で戦力になるように育成するのが難しくなります。指導役を引き受けてくれた先輩社員の負担も考慮しなければなりません。通常業務を行いながらOJTを担当することで、残業や仕事量が増えてしまえば、その役割に対してネガティブなイメージを持つ社員が増える可能性が高まります。

また、指導役の先輩社員と新人の相性が悪かった場合、感情的な行き違いで新人研修に費やした時間がムダになる確率もあがります。反対に、モラルの低い先輩社員の影響を受けて、新人がそれを真似るようになれば、企業としては大きな損失につながります。こうした現場任せの課題を、きちんと認識する必要があるのです。

3)OJTの仕組みづくりに大切な3つのポイント

前章では、OJTで起こることが多い3つの課題について、お話ししました。   OJTを行う習慣があっても、その目標やプロセス、計画が明確でなければ、新人が思うように育たない、あるいは短期で辞めてしまうこともあるでしょう。

とはいえ、紹介した課題を解消し、OJTを仕組み化できれば、成果につながる新人教育が行えるはずです。   そこでこの章では、OJTを仕組み化するうえで大切な3つのポイントについて、詳しく説明していきたいと思います。

 

1.会社で一貫性のある育成を行う

OJTを仕組み化するうえで大事なポイントの筆頭は、会社全体で一貫性のある新人育成を行うことです。

企業規模が大きくなれば、部署も多様化し、業務内容も多岐にわたるものです。ですが、どの部署に配属しても、新人を自社に役立つ人材に育成したいという目的は共通しているはずです。

そこで、会社として新人の育成方針やそのための計画が、一貫している必要があります。新人教育にかける期間にもよりますが、短期的・中期的・長期的にどの程度の仕事ができるようになっていてほしいかを明示し、指導役である先輩社員や直属の上司、人事部などが共通認識をもって、新人を育成できる環境を整えることが重要です。

そのためにはまず、新人の成長プロセスを育成に関わるすべての担当者が理解することです。そのうえで、新人の育成計画をシートに書くなどして可視化し、その結果も記載することで、成長の度合いを客観視できるようになります。育成担当者全員がその結果を共有し、その後の指導方法を見直せば、より成果につながる指導ができるようになるはずです。

 

2.職場ぐるみで育成を行う

次のポイントは、OJTを指導役の先輩社員に任せきりにせず、新人は職場ぐるみで育成するという意識を醸成することです。OJTの指導役には、就業3年目以降の社員が任命されることが多いものです。

しかし、OJTを任される社員は得てして優秀なため、新人に教える業務以外を担当していることもあります。その場合、新人に教える必要のない業務を遂行する時間が必要であり、その間の指導をほかの職場のメンバーに任せた方が効率がよいです。

また、先輩社員と新人のマンツーマン指導だと、何か問題が起こった時に感情論に発展して収拾がつかなくなることもあります。そんな時に、ほかのメンバーがフォローできるよう、職場全体で新人を育てるという意識が大事なのです。そのためには、上司がメンバー全員に、新人を育成する目標や方針をきちんと伝え、職場全体でフォローする環境を整える役割を担うとよいでしょう。

3.OJTリーダーの実行を支援する体制を整える

新人教育は、企業が自社の発展のために行うことです。OJTの実務は現場の先輩社員に任せることになりますが、それを支援する体制が職場や会社になければ、うまくいくはずがないのです。

経営陣は、採用した新人がより早く会社に貢献できる人材になることを望むものです。その評価が、個人や部署による業績によって行われる企業も珍しくありません。しかし、大切な新人教育を先輩社員に任せている割に、その仕事に対する役職や報酬が盛り込まれるケースは少ないようです。それでは、指導役を引き受ける先輩社員のモチベーションがあがるわけありません。

また、通常業務を行いながらのOJTは社員の負担になりますし、新人を育成する過程で悩みを抱えることもあります。そんな時に、相談できる場や指導方法を学べる機会を設けるなど、会社が先輩社員をサポートする体制を整えることが重要です。そうした配慮があれば、指導役を担う先輩社員の成長にもつなげることができます。

4)より良いOJTを実施するために意識したい「70/20/10の法則」

みなさんは、「70/20/10の法則」を知っていますか?これは、OJTが新人教育のうえで注目されるきっかけになったもので、アメリカでリーダーシップ研究の調査を行っているロミンガー社のマイケル・ロンバルド氏とロバート・アイチンガー氏が提唱しました。より良いOJTを行うためには、70/20/10の法則を意識することが大切です。そこで、その内容について、詳しく説明します。

 

学習の70%は実務における経験・20%はフィードバックから得られる

70/20/10の法則とは、人間の能力を成長させるうえで、必要な要素の割合のことです。その比率は経験が70%、薫陶が20%、教育が10%といわれています。

 

直接学習の場である「経験」

まず、実務を通して経験することです。

先輩社員にレクチャーを受けたからと言って、それと同じことをすぐに実践できるとは限りません。

また、接客業の場合などはお客さまとの対応を通して、マニュアル通りに行かない事態に直面するものです。良いことも悪いことも、当事者として自分で経験しなければ、考えたり改善を加えることでのスキルアップにはつながりません。新人を成長させるために、あえて失敗をさせることが大事な場面もあるのです。

上司や先輩から得られる「薫陶」

新人が失敗をした時に、自分の考えだけでは乗り越えられないことがあります。

本人が原因や改善点を考えるのはとても大事なことですが、同じ失敗を繰り返さないために、先輩や上司がフィードバックをする必要があります。

そこで新人に考えさせるだけでは足りないと感じた時には、アドバイスを与えてあげればよいのです。ただし、先輩や上司がきちんと仕事ができ、新人が憧れや尊敬の念を持っていればよい方向に導けますが、そうでない場合は逆効果になるリスクがあることも覚えておきましょう。

学びに気づく機会である「教育」

職場でさまざまなことを経験し、先輩や上司にいろいろな言葉をかけてもらったとしても、それが新人のなかで定着するとは限りません。自分がそこで何を得ているのかに、気が付かない人も多いからです。

仕事で自分が学んだことに気づく場として有効なのが、セミナーや研修といった教育です。学びを通して、ほかの人の視点や知識を学ぶことで、考えを広げるきっかけをつかむこともできます。OJTを行う際には、70/20/10の法則を意識することをおすすめします。

まとめ 新人が育つOJTの仕組みをつくろう!

今回は、新人をより成長させるOJTの仕組みについて、一緒に考えてみました。この記事をまとめると

・OJTを重視しつつも、課題もあると考える企業が多い
・成果のあがるOJTにするためには、企業が意識すべき3つのポイントがある
・OJTを実践する際には、70/20/10の法則を意識するのがおすすめ

があげられます。 新人研修を行うにあたり、この記事を参考にして、OJTのやり方を見直し、より成果のあがる仕組みを検討していただけたら幸いです。