部下のマネジメントに悩んだときに役立つ 「モチベーション×スキルのマトリックス」って?

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作成日:2019.1.8

終身雇用・年功序列が当たり前だった時代の日本企業は、部下にとって上司のいうことは絶対でしたし、会社にロールモデルがいるので仕事のスタイルを見つけるのも難しくありませんでした。  しかし、能力主義で年齢に関係なく管理職に登用される現代、若者の仕事に対する価値観も多様化しており、マネジメントのアプローチ方法は同じでも、部下の受け止め方が異なり戸惑う人が増えているようです。   そこで今回は、マネジメントに役立つ「モチベーション×スキルのマトリックス」について、お話ししたいと思います。

    

1)よくある悩みの一つ「部下をどう育てれば良いかわからない…」

リーダー職になって初めて部下を持つ社員だけでなく、経験を積んだ管理職のなかにも、「部下をどう育てたらよいのかわからない」と悩んでいる人は少なくありません。  とはいえ、部下をマネジメントできなければ、部署や会社の業績を上げるのは難しく、改善策を見つける必要があります。   そこで、部下のマネジメントに悩む理由や、それを改善するためにやるべきことについて、一緒に考えてみましょう。

    

部下の育成に悩む上司は、増加傾向にある

学校法人産業能率大学が、2016年3月に「第3回上場企業の課長に関する実態調査」で、職場環境や課長自身の意識などについて調査した結果をまとめて発表しました。  そのなかで「課長の悩み」について質問したところ、トップになったのは「部下がなかなか育たない」ことで、42.7%を占めていました。  これは、2013年に行われた前回調査の41.8%を上回っています。   その背景には、マネジメント環境の変化があるようです。  2013年の調査時と比べると、  

・業務量が増加している  ・成長に対するプレッシャーが強まっている  ・コンプライアンスのための制約が厳しくなっている  

と感じている人が多いという結果でした。   部下のマネジメントに関する項目を抽出してみると  

・職場の人間関係が希薄化  ・部下のモチベーションが低下  ・メンタル不調を訴える社員の増加  ・非正規社員の増加  ・外国人社員の増加  ・家庭の事情で労働時間・場所に制約がある社員の増加  

などが、職場に影響を与えていることが見て取れます。   さらに、自分より年上または在籍経験が長い、自分より専門性が高い部下がいることで、マネジメントしにくいと感じるなど、管理職が配慮すべき事柄が増えている現状があるようです。

    

まずやるべきは、部下のスキルとモチベーションの把握

終身雇用が一般的だった時代は、会社から与えられたミッションを達成するため、管理職が経験の浅い部下に細かな指示をして、報告・連絡・相談を受けて軌道修正をするというマネジメントが行われていました。  部下の成長に伴い、指示ではなく委任することで権限を与えるという、人の習熟度に合わせたマネジメントが行われていたということです。   しかし現代では、社員は常に複数のミッションを担うのが当たり前で、仕事の進め方や質も多様化しています。  さらに、管理職の専門外の業務を部下が担当することも増えています。  そう考えると、個人の習熟度ではなく、ミッションを達成するためのマネジメントが不可欠です。   そして、ワークライフバランスが多様化する今、部下の仕事に対するモチベーションやスキルも異なります。  そのため、適切なマネジメントを行うためには、管理職が部下一人ひとりのモチベーションやスキルを把握したうえで、どのようなマネジメントスタイルが適切なのかを考え、実践する必要があるのです。

    

2)スキル・モチベーションの把握に役立つ「マトリックス」とは?

マネジメントとは、さまざまな資源や資産、リスクを管理しながら、効果を最大化するための手法のことをいいます。   部下を管理することがマネジメントだと勘違いしている人も多いですが、実は評価や分析、選択、改善、回避、統合、計画、調整、指揮、統制、組織化など、いろいろな要素が含まれています。 そのため、コーチング(関与する)とアドバイス(指示)のバランスをとることが重要です。   そのために役立ててほしいのが、「マトリックス」です。  その内容について、詳しく説明していきましょう。

    

部下のマネジメントに悩んだら取り入れたい「モチベーション×スキルのマトリックス」

モチベーションとスキルの指標とは

まず、モチベーションとスキルの指標について、お話しします。  どちらも高い方がよいとされますが、その指標は異なります。   モチベーションが高いといわれるのは、  

・成果を重視する  ・失敗を恐れることなく、いつも前向きで、チャレンジ精神がある  ・自分が得意じゃないことにも、前向きに取り組む  ・どんな業務にも自発的に取り組む  

ことです。   一方のスキルが高いといわれるのは、  

・コミュニケーションスキルが高い  ・深い専門知識を持つ  ・アイデアを形にできる  ・正確に遂行できる  ・成果を出すまでのスピードが速い  

ことです。   このモチベーションとスキルの高さには個人差があり、マネジメントするにあたってはそこを配慮する必要があります。

    

モチベーション×スキルのマトリックスとは

モチベーション×スキルのマトリックスは、「Will-Skill Matrix」と呼ばれるものです。   縦の座標が能力(Skill)、横の座標がやる気(Will)を示し、その2つの側面を高低で分類し、人材を4つのタイプに分類する方法です。  

A分類:能力もやる気も高く、申し分ない人材  B分類:やる気があって前向きに取り組むが、力不足の人材  C分類:能力が高いにも関わらず、やる気がない人材  D分類:能力、やる気ともに低い人材  

の4つに分類され、どこにあたる人材かで、マネジメント方法を変える必要があるのです。

    

より効果のあるマネジメントを行うために

Will-Skill Matrixでは人材を4つに分類しますが、職場で活用する際には、もう少し細分化した方法にすることをおすすめします。   具体的には、能力・やる気ともに「高い」「中程度」「低い」の3つで分類する、3×3のマトリックスを用いることです。   部下の能力は経験や習熟度、配置転換による業務内容の変化などによって、高低が変化するものです。  汎用性と専門性の両面から能力を判断するうえでも、このマトリックスの方が活用しやすいはずです。

    

「モチベーション×スキルのマトリックス」を活用することで得られる効果

モチベーション×スキルのマトリックスについて理解したものの、なぜ活用することで効果が得られるのか、疑問視する人もいることでしょう。  実は、9つの分類によって、適したマネジメントスタイルが異なるのです。   マネジメントスタイルには、「指示型」「コーチ型」「援助型」「委任型」の4つがあります。  

・指示型とは、上司が細かくやり方を示したうえで監督し、部下は確実に実行するのみ  ・コーチ型とは、上司が指示・監督するが部下の意見を傾聴し、意思決定の一端に部下を参加させることで、成長を促す  ・援助型とは、細かい指示は不必要だが、目標達成には部下へのサポートが必要で、意思決定は上司も一緒に分かち合う  ・委任型とは、部下が困った時に相談にのるが、意思決定や問題解決の責任は基本的に部下に任せる  

部下のマネジメントを行うにあたり、マトリクスに合わせた方法を選択することで、より効果を引き出しやすくなるのです。  というのも、部下のタイプが分かれば、成長を促すサポート方法を実践できるからです。   マトリクスに基づいて、人間が行動を起こす際に適した方法を考えてみると  

・能力もやる気も高ければ、自分の価値を発揮できる  ・やる気はあるが能力が低い場合は、スキルをあげることに注力する  ・能力はあるがやる気が低い場合は、モチベーションが上がる方法ややり方を考える  ・能力もやる気も低い場合は、そのどちらかをあげる努力をするか、諦める  

などがあげられます。   また管理職自身が、自己分析をするうえでも役立ちそうです。

    

3)マトリックスの活用方法

モチベーション×スキルのマトリックスは、部下の現状を把握したうえで、その後のパフォーマンス向上につながる方法を考える際に役立つフレームワークです。   モチベーション×スキルのマトリックスを活用することで、部下一人ひとりのマネジメントスタイルを見つけやすくなることはわかっていただけたと思います。   次に考えるのは、それを職場でどう活用するかですよね。  そこで次章以降では、モチベーション×スキルのマトリックスの具体的な活用方法をご紹介します。

    

まずは、自分の育成スタイルを振り返る

部下を抱える管理職やリーダー職には、部下に適したマネジメントスタイルを考える前に、やってほしいことがあります。  それは、自分のマネジメントスタイルを振り返ることです。   自分が部下に接する時、指示型・コーチ型・援助型・委任型のどのマネジメントスタイルを行っているのかを把握することから始めます。   管理職の経験が長くなると、得意なマネジメントスタイルが見つかり、それをくり返す人が多いものです。  ですが、そのマネジメントスタイルが部下に適しているとは限りません。   また、マネジメントスタイルによって、部下との対話の際の話し方や言葉の選び方、伝え方、サポート方法が異なりますし、自分が認識しているやり方と部下の受け止め方に乖離があるケースも少なくないようです。   さらに、管理職と部下とのコミュニケーションに問題があれば、マネジメントスタイルを変えても、相手に届くのは難しいものです。   マネジメントする際には、部下個人の資質だけでなく、業務や与えるミッションによっても、やり方を変える必要があります。  そのためにも管理職である自分の課題を客観視し、それを改善する方法を探して実践することが、部下のマネジメントをするうえで大切だと認識し、実践することをおすすめします。

    

部下の業務をマトリックスに当てはめる

では、実際に部下の業務にモチベーション×スキルのマトリックスを当てはめる方法を、整理しておきましょう。   まず、能力とやる気を正しく把握するために、与えるミッションに特化して、9つの分類のどこにあたるのかを考えます。  その際には、管理職と部下それぞれが、図を使って準備しておくのがおすすめです。   能力とやる気それぞれを、高・中・低のどこにあたるかを指し示すと、自ずと分類が見えてきます。   ミッションが複数ある場合は、それぞれがどの分類に当たるのかを理解する必要があります。   管理職と部下の認識が同じであれば問題はありませんが、そこに違いがある時には話し合いが必要です。   やる気は部下本人が感じるものなので尊重して構いませんが、能力は管理職が客観的に判断した方がスムーズに合意できるでしょう。  そのうえで、管理職・部下ともにマトリックスの分類を理解しましょう。

    

部下の業務をマトリックスに当てはめる

では、3×3マトリックスの9つの分類に対し、どのマネジメントスタイルが適しているかを、整理しておきましょう。   まず、スキルもモチベーションも高い場合は、委任型のマネジメントを行ってください。  裁量を与えることで考えが広がりますし、上司がいてくれるという安心感で部下は前向きなチャレンジが可能です。   次にスキルが高く、モチベーションが中または低の部下に対しては、援助型のマネジメントがおすすめです。  部下に細かく指示出しする必要はありませんが、やる気を引き出すようにサポートすることを意識しましょう。   スキルが中程度な場合は、モチベーションの高低に関わらず、コーチ型のマネジメントが適しています。  その際は、部下の話を傾聴し、気持ちに寄り添いながら、仕事を進める方法を指南していきます。   スキルは低いものの、モチベーションが高い部下には、指示型のマネジメントが最適です。  業務を具体的に指示し、細かくチェックすることで、スキルの向上を目指します。   スキルもモチベーションも中程度以下の場合は、ミッションを通して成長させるのは難しいかもしれません。  働きかけてもスキルもモチベーションも上がらない場合は、諦めるという選択肢もあります。

    

4)マトリックス活用の3つのポイント

モチベーション×スキルのマトリックスは、活用方法を間違うと、望む効果にはつながりません。  そこで、マネジメントに役立つモチベーション×スキルのマトリックスの活用方法をご紹介します。   3つのポイントについて詳述しますので、理解したうえで正しく実践してください。  そうすればきっと、部下の成長につながるマネジメントが実現するはずです。

    

①人ではなく、業務ごとに分けて考える

近年は、1人の社員が複数のミッションを同時進行するのが珍しくないことは前述しました。  その場合、同じ人であっても、ミッションの内容によって、モチベーションやスキルは異なります。  そのため、部下個人ではなく、与えたミッションごとにモチベーション×スキルのマトリックスを考える必要があります。   まず、与えられたミッションごとに、その業務に必要なスキルがどの程度かを、管理職である上司が見極めます。   初めて取り組むミッションの場合は、知識はあっても実務のスキルが低いケースが考えられることを忘れないでください。   また、部下本人にミッションごとのモチベーションをヒアリングします。   新たなミッションであっても、自分の成長につながると感じれば、モチベーションが高くなることがあります。   上司としては部下の成長を促すために、それぞれのモチベーション×スキルのマトリックスによって、マネジメント方法を変えるのです。

    

②マトリックスの位置について部下と認識をすり合わせる

部下の成長を促すために、上司がモチベーション×スキルのマトリックスに合ったマネジメント方法を行う際に、必ず実践してほしいことがあります。  それは、モチベーション×スキルのマトリックスを管理職が決めるのではなく、部下本人とすり合わせながら作成することです。  なぜなら、モチベーション×スキルのマトリックスを共通認識として持っていなければ、部下は上司が業務ごとに対応が変わることに戸惑い、混乱してしまうからです。   また、一緒にモチベーション×スキルのマトリックスを作成していると、上司と部下の間でミッションに対する認識が異なっていることに気づきやすいというメリットがあります。  その認識をすり合わせる作業のなかで、部下の本音を知ることができたり、上司が客観視できない部分が明らかになることも多く、相互理解を深める良い機会になるのです。   そのうえで、ミッションごとにどのようなマネジメントを行う予定かを話しておけば、部下自身の裁量で進められるのか、指示を仰ぎながら進めるべきかを理解することもできます。

    

③都度見直しを図る

上司が部下とモチベーション×スキルのマトリックスを作成するのは、査定に絡む半期や通年で行われることが多いものです。  そうしたタイミングで業務が終わるとは限りませんし、ミッションを遂行する過程で、部下が大きく成長を遂げることがあります。   毎日同じ仕事をしていても、業務効率をあげることはできますし、日々の仕事がとどまることはありません。  そのため、モチベーションやスキルが上がっていると感じたら、査定や面談のタイミングじゃなくても、部下とマトリックスを見直しましょう。   自分の成長を上司が見ていてくれると感じた部下は、より前向きに仕事に取り組むようになりそうです。

    

まとめ モチベーション×スキルのマトリックスをマネジメントに取り入れよう!

今回は、マネジメントに役立つ「モチベーション×スキルのマトリックス」について、お話ししました。   この記事をまとめると  

・マネジメントには、部下のモチベーションとスキルを把握することが大切  ・モチベーション×スキルのマトリックスは、上司と部下で共通認識を持つ  ・部下のモチベーションとスキルを理解したうえで、マネジメント方法を変える  

という3つのポイントがあることがわかります。   マトリックスに基づいて適切なマネジメントを行えば、部下の成長を促すことにつながります。   この記事を参考に、自分の部下のマネジメント方法について考え、より良い方法を探して実践していただけたらうれしいです。