今職場で起きている問題を、システム思考で捉える
──課題・問題へのリーダーシップの進め方について

更新日:

作成日:2018.10.15

 会社のオフィスの風景 モノクロ
組織・チームが「うまく行っている」とき、または「うまく行っていない」ときに、その「理由」を特定することはなかなか難しいものです。そもそも、理由はひとつとは限りませんし、人によっても見方は異なります。 もう大分前のことですが、知人からこんな組織の悩みを打ち明けられました。

もうしばらく業績が停滞気味で、部下を厳しく指導できる上司もいないんです。
社員は遅刻が多く勤怠が乱れていて、挨拶もなく社会人としての態度も良くない。──なんとかしないと。

 

話を聴きながら、私は「随分と大変な状況なのだろう」と思い、しばらくの間印象に残り続けていました。
そしてあるとき、その方と同じ会社に勤めている方とお会いする機会があり、それとなく組織の様子を尋ねてみたところ、こんな回答が返ってきました。

皆、頑張っていますよ。最近はとくに忙しいですが、今は結果が出ていないので、歯を食いしばりながらですけれど。
だけど、どうも役員陣が良くない。これまでの経営戦略の過ちを認めずに、それらはすべて現場スタッフの業績評価(マイナス評価)に反映されて。正直、しんどいですね。

 

──さて、上記2名の科白を読まれて、皆さんはどう考えるでしょうか。

「見解の大きな相違を感じた」という感想から、更に進んで「きっとこういう状況なんじゃないか」という予測を建てられた方もいらっしゃるでしょう。または、「もっと話を聴いてみないと分からない」と考えた方もいらっしゃることでしょう。

今回は、そんな職場の課題・問題に向き合っていく際に大切となる「構造としての捉え方をするシステム思考」と、その際に取る「リーダーシップ」について、お話していきたいと思います。

監修者プロフィール

迫間 智彦

大学卒業後、大手通信会社、アルー(株)勤務後、2010年にアーティエンス(株)を設立。業界歴17年。大手企業から、中小企業、ベンチャー企業の人材開発・組織開発の支援を行っている。専門分野は、組織開発、ファシリテーション。

1) 組織・チームの課題や問題を解決していくうえで、大切なことは

 組織・チームのイラスト
自身が所属されている組織・チームで何かしらの課題や問題が発生したとき、人はその「原因」を探そうという意識を持ちます。
ですが、冒頭でお話した通り、どれを原因とするかは人それぞれ見方が異なり、また原因は一つとは限らないため、特定が難航することも少なくありません。
そういった状況に直面した際に、私たちが意識したいことは「その『課題や問題』を『システム(構造)』として捉える」ということです。これをシステム思考と言います。

例えば冒頭の組織の例で言うと、以下のようなシステム(構造)があったのかもしれません。 組織のシステム(構造)上記図は、あくまで2人の方のお話を聴いての私の「仮説」になります。もしかしたらこの他にも様々な要素・要因があるかもしれません。
ですが、こうやって一度構造に落としてみると、「どこを改善すれば課題が解決できそうか」のイメージが付きやすくなるものです。

例えば、上記図では「業績の不振」に直接影響を与えているのは「社員のパフォーマンス」としています。そして、その社員のパフォーマンスに影響を与えているのは、「上司先輩の業務指導にかける時間」と、「社員のモチベーション」。更に、「社員モチベーション」は「業務の忙しさ」と「低い業績評価」から影響を受けています。

これら要素が影響し合うシステム(構造)を見て、皆さんでしたらどこが変えられる(改善できる)ポイントだと考えますでしょうか。また、逆に「ここは(すぐには)変えられない」と思えるポイントがあるとしたらどこでしょう。

──きっと、冒頭での二人の会話を読んだ時以上に、明確かつ適切な解決策がイメージできるのではないでしょうか(もちろん、あくまで私の導き出したシステム(構造)の図に不備がなければ、という条件付きではありますが)。

ここで、章のテーマに立ち戻ってみましょう。

「組織・チームの課題や問題を解決していくうえで、大切なこと」

──それは、以下の2つです。

・課題・問題を、構造としての捉え方をするシステム思考を用いること
・導き出したシステム(構造)から、「変えられる(改善できる)ポイント」を見出していくこと


組織・チームの課題や問題が顕在化した際に、短絡的に原因を探ろうとするのではなく、まず今現在がどんな状況・環境になっているのかをイメージしていくこと。

構造としての捉え方をするシステム思考」を用いていきます。。

※ システム思考の詳細に関しては、下記コラムをお読みいただければと思います。
眼前にそびえる「複雑な課題」に向き合える思考法─「システム思考」

そして、導き出したシステム(構造)から、「どこから変えていく(改善していく)と良いか」を見出していくこと
──それらが、効果的かつ効率的に課題解決をしていく手法になるのです。

2) 組織・チームの問題・課題に直面したときの、リーダーシップの進め方は

 任意の名前組織・チームで働いている以上、問題や課題に直面することはふんだんに起こりえます。

また、その問題・課題を知ってしまった以上、私たちはリーダーシップをとって、それらに立ち向かうことが求められるでしょう。

その際のリーダーシップの「あり方」は様々です。

自ら率先して課題解決をしていくリーダーシップもあれば、メンバーを巻き込みながら引き立てていくサーヴァント型リーダーシップ、その他メンバー全員でリーダーシップをシェアしていくシェアド・リーダーシップなどなど──。

どのリーダーシップが適切かは、その問題・課題の内容や環境、当事者たちの状態や資質によっても変わります。

ですが、リーダーシップの「あり方」ではなく、「進め方」という観点でみると、そこには「あり方」程の多様性はなく、ほとんどの場合以下のプロセスで進めることになります。


1)今何が起きているのか(起きつつあるのか)を見る
2)メンバーと共有し、改善していく為のポイントを見出す
3)アクション(行動)を起こす
4)振り返る

1)の「今何が起きているのか(起きつつあるのか)を見る」については、前章でお伝えした「課題・問題を『システム(構造)』として捉える」に通じます。 そして、2)の「メンバーと共有し、改善していく為のポイントを見出す」は、「導き出したシステム(構造)から、『変えられる(改善できる)ポイント』を見出していく」とほぼ同義です。 「メンバーと共有」という言葉を入れたのは、どんなに熟考してシステム(構造)を考えたとしても、一人の視点ではどうしても偏りが出る為です。より良い改善策を見出していく為には、問題・課題を共有する他者の視点が不可欠です。

ここでお伝えしたかったことは、問題解決および課題解決を進めていく際のリーダーシップにおいては、その「あり方」より先に「進め方」が問われることが多い
──、ということです。

どんなに素晴らしいリーダーシップを発揮できる人でも、その課題・問題の背景を見誤れば期待されるパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。つまり、まずは「今何が起きているのか(起きつつあるのか)」を見極めることが、なによりも重要となるのです。

3) 「今現在、起きていること(起きつつあること)」を見極めるために

 任意の名前
では、組織・チームの「今現在、起きていること(起きつつあること)」をより良く、そして適切に見ていく為には、どうすれば良いでしょうか。

前章で紹介した「課題・問題を『システム(構造)』として捉える」がひとつの打開策になるでしょう。

ですが、そのシステム(構造)自体が適切に描けなかったり、意外な盲点があったとしたらどうでしょうか。きっと、適切な解決策を見出していくことが更に難しくなってしまうこともあるでしょう。

ここで大切となるのは、自身が描いたシステム(構造)を、「他者と共有していくこと」です。
他者と共有し、一緒に考えてもらうことで、一人では気づけずにいた要因や背後の流れに気付きやすくなります。
思うに、一人の人がすぐに原因を特定できたり見極められる程度の課題・問題は、そもそも大きくなる前に解決・改善されているのではないでしょうか。
──つまり、「私たちが悩むべき課題・問題」というものは、「そこに携わる人々が普段意識・認知できていない領域」で生成され、はぐくまれるものでしょう。

問題・課題と向き合う際には、私たちはこれまで以上に視野や認知を広げていくことが求められます。
「課題・問題を『システム(構造)』として捉える」行為は、現時点の私たちの視野・認知を再確認することに繋がります。そして、そのシステム(構造)を「他者と共有し、一緒に考えること」は、その視野・認知を広げることに繋がるでしょう。

4)まとめ「問題・課題と、私たちがより良く、そして適切に向き合っていくために」

 任意の名前ここまでお読みになられて、いかがでしたでしょうか。
ドイツの理論物理学者アインシュタインは、問題解決というテーマで以下のような言葉を残しています。

「いかなる問題も、それがつくりだされた同じ意識によって解決することはできません。」

組織・チームでの問題・課題は、いわば「起きるべきして起きた事象」です。
そして、その事象を解決・改善していくためには、アインシュタインの科白通り、「事象が起きたときのままの私たちの意識」のままでは難しく、より広い意識・認知を持つことが求められるのでしょう。
そう考えると、組織・チームで起きた問題・課題は、私たちの意識・認知の変化や成長を促すきっかけにもなる、そんな捉え方もできそうです。

お力になれることがあるかもしれませんので、ぜひお気軽にご相談ください。

この記事を読まれた方々が、日々の業務をより円滑に進めていくうえで少しでもお役立てできることを、心よりお祈りいたします。