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人は、何歳まで『成長』できる?──「大人になると脳の成長は止まる」は本当?

コラム :人材・育成について


 
 
皆さんは、以下の諺(ことわざ)をお聞きになったことはありますでしょうか。
 

 
「十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人」
 

 
直訳すれば、10歳の頃に「この子は天才!」ともてはやされ、15歳になっては「才能あふれる逸材」と言われてきたような子供でも、成長するにつれてごく平凡な人間になってしまうことはよくありますよ──ということですね。
 
そもそもこの諺は、「身内の子供に対して過当な評価をしている人への戒め」の意が強かったのですが、現在ではいわゆる「人の成長の限界(成人以降の加齢による能力退化?)」に向けて使われることが増えてきているように感じられます。
 
例えば、「若いうちは頭が柔らかい」であったり、「若い人のセンス(才覚)には敵わない」といったフレーズは、おそらく皆さんも良く耳にしたことがあるでしょう。
 
 
ところで、それら諺・フレーズにはどれだけの信ぴょう性があるのでしょうか。
──本当に、人はだれでも「二十歳過ぎれば只の人(凡人)」となってしまうのでしょうか。
 
 
今回は、そんな「大人になってからの成長」をテーマに、お話をしていきたいと思います。
 
 
 

1) 「大人になると脳の成長は止まる」は、真実ではない。

 
 
結論から先にお伝えしますと、「大人になると脳の成長は止まる」という概念は、真実ではありません。
事実、人は60歳、70歳になってもなおその知能を高めていける傾向が確認されています。※1
 
そう聞いて、「でも、歳とると暗記が苦手になるであったり、記憶力が落ちるっていうけれど、それも嘘なの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。
 
暗記力や記憶力という観点で言うと、確かに人のその手の能力のピークは比較的早いタイミング(20代頃)に辿りつき、その後緩やかに低下していく傾向があります。※2
 
ですが、「はたして暗記力や記憶力だけで人の知能を語れるか」というと、決してそんなことはありませんよね。
 
続いては、人の「知能」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
 
 
※1、※2 米国の心理学者レイモンド・キャッテル教授らが提唱した、「精神測定知能のモデル」を参考にしています。
参考:Theory of fluid and crystallized intelligence: A critical experiment.

 

大人になってからも、知能は積み上げ、伸ばしていくことができる

 
 
人の知能には大きく「流動性知能」と「結晶性知能」という2つの知能があると言われています。
 
流動性知能」とは計算力や暗記力、集中力、IQといったタイプの知能で、「結晶性知能」は知識や知恵、経験値、判断力といった知能を指します。
 
 

 
 
ポイントは、「知能とはひとくくりの概念でおさまるようなものではなく、複数の特徴・側面を有している」ということです。
 
年老いて低下する知能もあれば、逆に上昇していける知能もある──ということですね。
 
そして、普段の生活を振り返ってみて、私たちが日々必要とする知能は、「流動性知能」と「結晶性知能」のどちらが活用されることが多くなりそうでしょうか。
 
恐らく多くの方々が、年齢の経過や組織内のステップアップ等に伴って、段々と「結晶性知能」のウェイトが高まってきている状況にあるのではないかと思います。※3
 
 
 
人は一定の年齢を超えたあたりから、「加齢=衰退」というイメージを描きがちです。
ですが、そのイメージを持つこと自体、未来への可能性を自ら狭めてしまうものになりかねないことは、意識しておくべきでしょう。
 
 
※3 厳密には、流動性知能と結晶性知能は独立した存在ではなく機能的に補完し合います。
 

2) 一方で、すべての大人の知能が成長し続けるわけではない?

 
 
ここでまた、新たな疑問(または反論)として、「そうは言っても、大人になってからまったく成長しない人も現にいる」であったり、「自分自身、成人してから知能(知性)の成長を感じられていない」という見解を示される方も中にはいらっしゃることでしょう。
 
それら疑問にアプローチしていく際に、(ここからは少しだけ視点も変えて)「大人の知能の発達プロセス」についてお話していきたいと思います。
 
 
 

人の知能の発達プロセスには、大きく3つの段階がある

 
 
書籍『なぜ人と組織は変われないのか』(ロバート・キーガン著 英治出版)では、「大人の知能の発達プロセス」について、以下のようなグラフで表しています。

 
(以下、書籍『なぜ人と組織は変われないのか』(ロバート・キーガン著 英治出版)からの抜粋)

 
「人間の知性は、大人になってからも年齢を重ねるにつれて向上していく。そのプロセスは高齢になるまで続く。人間の知性の発達は、20歳代で終わるものでは決してない。」
 
「(上記グラフのように)曲線がほぼ横ばいになっている「台地」上の箇所がいくつかあることから明らかなように、人間の知性はいくつかの段階を経て高まっていく。それぞれの段階ごとに、世界認識の仕方が明らかに違う。」
 
「知性の発達プロセスは、つねに均一のペースで進むわけではない。発達が急速に進む変革期と、発達がほぼ止まる安定期が交互に訪れる。変革期をへて新しい「台地」に達すると、ある程度の期間底にとどまる場合が多い。」
 

 
 
──つまりは、「大人の知性の成長」においては、段階(ステップ)があるということですね。
そして、その段階を超えたタイミングで大きな成長がみられるのです。
 
 
ではその「段階(ステップ)」はどのようなものかというと、同書では以下のように表わしています。
 
 

大人の知能(知性)成長の3つの段階

 
 
一段階目の「環境適応型」は、その名の通り環境に適応する為に大切(必要)となる知能を有した状態です。
 
職場で、同僚やお客さま等周囲の人たちに対して適切な行動が取れる──という場合の方は、この「環境適応型」の段階には達していられるということでしょう。
 
 
続いて二段目の「自己主導型」は、現状に対して課題を設定し、解決にむけて行動できる、いわゆる「リーダー」としての思考・行動を持てる段階です。
 
 
最後の「自己変容型」は、「メタリーダー」とも呼ばれ、「自身も学び続け、かつ周囲との良質な相互依存が行える」段階です。
組織での活動シーンで言えば、「リーダーとしての価値を発揮しながらも、その『リーダー』としてのあり方を環境や状況に応じて柔軟に変化、成長していける人」──といったイメージでしょうか。
(なかなか難しそうですね)

 
 
さて、ここで重要となることは、「各段階に到達する為に必要なものは、何か」ということです。
 
時の経過とともに自然と段階を乗り越えていければそれで良いのですが、もちろん誰しも年齢の経過だけで「リーダー」や「メタリーダー」になれるわけではありません(現に、第三段階の「自己変容型(メタリーダー)」に辿りつく人は、全体の数パーセントほどだと言われています)。
 
では、どうすればこの「大人の知性の階段」を登っていくことができるのか。30代、40代、50代になっても成長し続けることができるのか。──次の章では、それらの解決方法について、紹介していきたいと思います。
 
 
 

3) 「大人の成長」で大切になってくるのは、「自己変革の実践」

 
 
大人の知性の段階(ステップ)を進めていくために大切なものは、「自己変革」です。
 
自己変革とは、言葉のとおり自分自身を変革していくことですが、それよりも「良い状態に向けて、自己を変革し続けること」という風に、継続性のあるものとして捉えた方がしっくりくるかもしれません。
 
 
子供の頃の「知性の成長」では、いわば「学習」の要素が強まります。授業を受けたり、書籍を読んだりといった「インプット型」の学習によって、知性を高めていかれた方が殆どでしょう。
 
ですが、大人の知性の成長においては、価値観(ものの見方や考え方)自体も変えていく必要があるのです。
その価値観の変革は、まさに「自己変革」に他なりません。
 
 
 
──では、その「自己変革」を実践するためにはどうすれば良いでしょうか。
 
 
前述の著書『人と組織はなぜ変われないか』では、自己変革を阻害するのは、その人の固定観念であったり、潜在意識下にある「変革と対立する思考や変化への恐れ」にあると伝えています。
 
例えば、ある人が「他の人たちの様々な価値観・考えを受け入れられる、広い心を持つ人間になろう」と思い変革を目指した場合、その実現を妨げるのはその人の「そうは言ってもこれまで自分が培った価値観はとても大切だ」という感情であったり、「同じような価値観を持つ人には心地よい共感を持てる」「自身の考えを否定されるのが怖い」といった感情になるでしょう。
 
つまり、自己変革を阻害するものは、周囲の人々や外部環境からの影響ではなく、その人自身の内面である(ことが多い)ということですね。
 
 
ですが、これらを解決することは、とても容易ではありません。自分自身の内面(固定観念や価値観を含め)は、誰にとってもその時期においてはとても大切なものです。実際、それらは「悪いもの」と言い切れるものではないでしょうし、無理に変えようとして変えられるものでもないでしょう。
または、自己変革をしようと自身の内面を省みるあまり、却って周囲(外界)への意識がおろそかになってしまうこともあるかもしれません。
 
 
──このままでは「人は自己変革をしたくても、自己変革できないじゃないか」となってしまいそうですよね。でも、私はその見解はある意味正しいのかもしれない、と思います。
 
 
もう少し正確に表現すると、「自己変革がなされるとき」とは以下のように説明できるのではないかと、私は考えています。
 

 
自己変革は、その人が単に「実践しよう」と思えばできるものではない。
 
その人の自己変革が強く「必要」とされたときに、自ずと成されていくものである。

 

どういうことか、次の章で見ていきましょう。
 
 
 

4) 自己変革(成長)は、その人の意識と必要性が組み合わさって、成し遂げられるもの

 
 
そもそも自己変革は、「誰の為に行うもの」でしょうか。
 
 
──「自分の為」と表現することもできなくはありませんが、「あまりしっくり来ない」と感じる方のほうが多そうですよね。
前述の通り、自己変革は「これまでの自身の価値観や考え方を否定する」という側面を持ちます。その行為は、決して簡単なものではありませんし、時に少なからずの苦しみを持つこともあるでしょう。
 
そんな自己変革を「自分の為に行うものだ」と言いきってしまうのは、やや強引に過ぎるのかもしれません。
 
 
──つまりは、自己変革とは「周囲(他者)への価値提供の為になされれるもの」と考えたほうが(より)自然なのでしょう(もちろん、「めぐり巡ってそれは自分の為になる」という考え方もありますし、それも大切な見解だと思います)。
 
 
そして、「周囲(他者)が何かしらの変化(成長)を私に求めており、そしてそのことに私が深く認識できている」──その「周囲の求める度合い」と「自身の認識の度合い」の双方が高まっている状態こそが、「自己変革が強く必要とされるタイミング」と言えるのではないでしょうか。
 
 
 
深く認識する」ことは、それだけ周囲(外界)への意識・関心が向けられているからこそできることです。
 
 
例えば、あなたの親しい人があなたに対して「成長してほしい(変わってほしい)」と言ってきたとします。そして、どうもその人の言っていることは正しいらしい。──でも、あなたは、あなた自身がその人の言葉を表面的に受け止めている限りは、「強い必要性」は訪れません。
 
その人の「成長してほしい」というリクエストの背後にある、その人の想いやあなたへの真の願いについてまで意識を向け、そしてその想いや願いは偽りのないかけがえのないものだとあなたが理解して、はじめてそのリクエストは「強い必要性」に昇華されるのでしょう。
 
 
そして、その「強い必要性」は、成長(自己変革)のタイミングを創ります。
 
 
強い必要性を創るのは、もちろんあなたの親しい人とばかりとは限りません。職場のパートナーかもしれませんし、もしくはその環境自体からかもしれません。
 
 
大切なことは、それら周囲(外界)に対して、私たち自身が心を開いて、関心を持てている状態であることです。
 
 
「強い必要性」とは、外から自然と降ってくる(やってくる)ものではなく、外界と私たち内面との両方の働きから、いわば「中庸」的に創出されるものだと、私は考えます。
 
 
 
もし今、この記事をお読みになられている方々のなかで、「そうは言っても、周囲は自分自身に成長を求めていない」または「周囲はそれほど自分に関心を持っていない」と感じた方もいるかもしれません。
 
その際は、一度あなた自身が、周囲(外界)に対して、より一層の意識・関心を向けてみることをお勧めします。
その意識・関心を保ち続けることによって、きっと、(はじめは小さなものだったとしても)「必要性」は新たに芽生え、育まれてくるのではないでしょうか。
 
 
 
 
◇ ◇ ◇
 
 
 
「大人になっても、人は成長するのか」という問いから、「流動性知能」と「結晶性知能」について、そして「大人の知性の発達段階」、「自己変革」と話を進めてきました。
 
 
思うに、ひとりの成人の成長というものは「その人の為にある」というよりは、「皆(世の中全体)の為にあるもの」と考えたほうが適切なのでしょう。
 
 
つまりは、大人の成長は「周囲から求められ、自身がそのことに深く認識できたときに、初めて実現しうる」。
 
──そう考えると、「成長」が二十歳を超えた大人にも訪れるものだという考えは、より深い意味を持ちだすような、そんな気がします(皆さんはいかがでしょうか)。
 
 
 
本記事が、皆様の日々の生活に少しでもお役立てできることを、心より願っております。
 
 
 
 


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