管理職研修におけるコーチングの活用方法と、3つのメリット

更新日:

作成日:2023.5.30

タブレットを触っている女性

「管理職に、もっと部下の話を聞いてもらいたい」
「社員がもっと主体的になってほしい。そのためには管理職の関わり方を変えていく必要があるのではないか」
「1on1ミーティングの制度を取り入れるにあたり、管理職のコミュニケーション力をあげたい」

上記コメントは、研修講師として人事部の方々と話す中でよく出てくる内容です。
また、リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2022」によると、

管理職層が認識する「管理職として重要な役割」の第1位 →「メンバーの育成」

それと同時に、

管理職層が「日々の業務で困っていること」の第2位→「メンバーの育成」

という調査結果も出ています。このように、「メンバーの育成」は管理職にとって「求められている役割を大きく」感じているにもかかわらず「困っている」ことでもあるのです。

こういった背景から、「メンバーの育成」の手法としての「コーチング」は、管理職にとって重要なスキルであり、身につけることがより一層求められているといえます。

そこで、本記事では下記について解説していきます。

・管理職研修で扱うべきコーチングの内容
・管理職研修でコーチングを扱う際の進め方

お読みいただくことで、管理職に対して「コーチング研修」を導入しようとしている経営者、人事担当者の方々が、どのような「コーチング研修」の内容を行えば良いかについて提示します。管理職に対して「コーチング研修」を企画する際に参考としていただければと思います。

監修者プロフィール

森川 友晴

チェリッシュグロウ(株)代表。業界歴15年以上。大手外食チェーンにて店舗業務、人事部、教育部などを経験した後、アルー(株)に転職。研修教材やコンテンツ開発のマネジメントを行う。 現在は、研修講師、中学高校や企業のカウンセラーとして企業と個人の支援を行っている。

1)管理職研修で押さえたいコーチングの4つの基本内容

コーチングとは、人材育成の際に使用するコミュニケーションスタイルのことであり、対象となるメンバーに対して「支援的なアプローチ」をすることを指します。

管理職研修でコーチングを扱う際は、まずコーチングの基本的な内容をおさえ、その上で、管理職や組織の課題に応じて+αの工夫を加えていくことをお勧めします。なぜなら、基本を押さえておかないと、管理職がコーチングの考え方や技術を誤った使い方をしてしまう可能性があるからです。効果が出ないばかりか、メンバーの信頼を失ったり、最悪の結果としては退職をしてしまうこともあり得ます。

第1章では、管理職研修でコーチングを扱うのであれば、必ず押さえてほしい下記4つの内容についてご紹介します。

①コーチングとは何かを理解する
②コーチングを行うメリットと効果
③コーチングを行うスタンス
④3つのコーチングスキル

※ 以下、コーチングをする側を「コーチ」、コーチングを受ける側を「コーチイー」と表現します。

①コーチングとは何かを理解する

「コーチングとは、コーチイーの自律的な行動を促すために支援的に関わる」ということを強調することが重要です。特に、「コーチイーの自律的な行動を促すため」という目的のために「支援的に」関わるというコミュニケーションスタイルをとっていくということを分けて伝えることが大事なのです。

なぜなら、「支援的に関わる」というコミュニケーションスタイルだけが強調されてしまうことで、「コーチングはとにかく聞けばいいんだ」という誤解をしてしまう方が多いからです。

コーチングで「傾聴」はとても大事なコミュニケーションスキルですが、あくまで「コーチイーの自律的な行動を促す」ために必要なスキルであることを、認識してもらうことが大事です。

具体的には研修で下記のように扱っていくことができます。

・「コーチングとは、コーチイーの自律的な行動を促すために支援的に関わるコミュニケーションスタイルです」と伝える
・「自律的な行動を促す」ためにコーチングを行うスタンスがあること。また「自律的な行動を促す」ためのコーチングスキルであることを強調する
・例として、「傾聴しても自律的な行動が促されない場面」などを例にとり、傾聴だけではなく、様々な関わり方を通して「自律的な行動が促されていく場面」を提示していく

②コーチングを扱うメリットと効果

「メンバーにとって」「組織にとって」…と多角的な視点でメリットと効果を提示することが必要ですが、研修では特に、「管理職自身にとって」のコーチングがどのようなメリットがあって、どのような効果があるのかを強調することが重要です。

なぜなら、コーチングを行うということは、管理職からすると「これまでとは違うことを行うという負荷」や「指示命令するよりも時間や効果に時間がかかるコミュニケーション」が発生することになるため、コーチングを行うメリットと効果を十分認識することで、コーチングを行う動機を高める必要があるからです。

例として、それぞれの視点でのメリットと効果を上げます。

管理職にとっては…

・メンバーの育成を効果的に進めることができる
┗組織の成果目標達成や組織力向上につながる

・メンバーの自律的な行動の増加により上司の指示命令などを行う負荷が減少する
管理職の仕事全体の負荷が減少する

・組織の目標達成ができるようになる
管理職自身の評価が向上する

組織にとっては…

・管理職とメンバー間の関係性が向上する
組織内の風通しの向上やハラスメントなどのコンプライアンス問題の抑制につながる

・メンバーの主体的な行動が促されるようになる
社内の多様な意見が増加することによって、イノベーションの可能性が高まることや、成果につながる行動が増加する

・社員の組織に対するコミットメントが高まる
成果につながる行動の増加や離職率の低下などが期待される

メンバーにとっては…

・自分の考え、想いを整理することができる
自律的に考える習慣が身についていく

・話を聞いてもらう機会があることで自分の考えを伝える場面が増える
主体的な行動が強化される

・自分を尊重してくれていると感じることができる
自己肯定感が醸成される

上記のような内容を提示しつつ、管理職自身にも「自分にとって」どのようなメリットや効果があるかを十分に考えてもらうことが大事です。

③コーチングを行うスタンス

「コーチングを行うスタンス」としては、「相手の中に答えがある」ということを大事にしています。
コーチングは「相手の自律性を促す」ために行うので、コーチングを行うスタンスとしては、「相手の中に答えがある」とし、「コーチングを行う側は、相手の中に答えがあると信じて関わっていく」ことが大事だと言われています。

上記はコーチングを行うスタンスとして大事な考えですが、管理職研修としてコーチングを扱う際には、「相手の中に答えがある」というコーチングスタンスを扱うことと同時に「相手の中に答えがない場合にはコーチング以外の対応をする」ということを強調して伝えることが重要です。

なぜなら、管理職が実際にメンバーの育成を行う場面では、情報や知識、技術、経験が足りないためにメンバー自身が情報や知識、技術、経験が足りないために考えることや思いつくことができないことは数多くあり、管理職がコーチングを行おうとして「メンバーの中に答えがある」という前提で質問をしていく中で、メンバー自身はいくら考えても思い付かず考えられないのに、管理職が「何かあるでしょ」と質問を繰り返してしまうことがあるからです。

イメージしやすいよう、具体的な場面を提示します。

質問ではなく詰問になってしまったコーチング

■上司:「今回の問題に対してどうやって対応しようと思っている?」
■メンバー:「・・・(どうやって対応しようと思っているも何も、考える情報が不十分でどこから考えて良いかわからないなぁ)」
■上司:「なんでもいいよ。思いつくことから話してね」
■メンバー:「・・・(思いつくも何も、どこから考えれば良いかもわからない内容なんだよ…!)」

コーチングからティーチングへスムーズに移行するコーチング

■上司:「今回の問題に対してどうやって対応しようと思っている?」
■メンバー:「・・・(どうやって対応しようと思っているも何も、考える情報が不十分でどこから考えて良いかわからないなぁ)」
■上司:「どこから考えれば良いかわからない状態かな?」
■メンバー:「はい、そうですね…」
■上司:「ではちょっと今回のような問題を考える際の基本的な情報を教えるね」
■上司:「****といった情報を聞いた上で、何か考えることができることはある?」
■メンバー:「今の情報からすると、○○と考えるのかな、と思いました」

このように、「相手の中に答えがある」場合はコーチングであり、「相手の中に答えがない」場合はコーチング以外の対応をすることをスタンスとして管理職に認識してもらうことが重要なのです。

④3つのコーチングスキル

主要なコーチングスキルとして、「傾聴」「質問」「話しの進め方」の3つがあります。
各スキルの押さえておくべき内容があります。

傾聴

傾聴は、「相手に聴いていることがわかる態度」「相手を理解する聴き方」の2つを扱うことが重要です。

・「相手に聴いていることがわかる態度」
効果的な傾聴はコーチイーが「聴いてもらえている」という感覚を持つことによって、安心感を得ることが大事だからです。安心感を得たコーチイーは、自分の中にある考えや想いに目を向けることができるようになります。そうすることで「自律的な行動」に繋がっていくのです。
逆に「聴いてもらえていない」と感じると、コーチに対して安心することができないので、自分の中の考えや想いではなく、コーチの考えや想いに目が向いてしまうのです。

・「相手を理解する聴き方」
コーチがコーチイーの性格や価値観などの相手自身の理解と、相手が話したい内容を理解していくことで、コーチングを進める方向性を決めることができたり、コーチイーに何を質問すると良いのか、どのようなことを承認していくと良いのかがわかってきます。そうすることで効果的なコーチングの進め方ができるようになるのです。

質問

質問は、「整理する質問」と「枠を広げる質問」の2つを扱うことが重要です。

・「整理する質問」
コーチイーの考えや想いが混乱していたり、ぐるぐると考えてしまうような悪循環に陥っていくときにコーチングをする側が「整理する質問」によってコーチイーが落ち着きを取り戻し、最も大事なことにフォーカスしていくことができる助けになります。
具体的には、「今の話の中で優先度をつけるとするとどのような順番になりますか?」「改めて今の状況で良いことと悪いことを分けるとするとどのような分類になりますか?」など、コーチイーの話に考える基準ができるような質問が「整理する質問」として効果的です。

・「枠を広げる質問」
コーチイーがある考えに囚われていたりすることで視野が狭くなっている状態などを解消することができるからです。
具体的には、「例えば3年後の自分から今の自分を見たとしたら、どんな声がけをしそうですか?」「今、あなたが問題と思っている人の視点で語るとしたら、今回の出来事をどのように話すと思いますか?」などコーチイーの視点や視座、視野の枠の外側から見た質問が「枠を広げる質問」として効果的です。

話の進め方

話の進め方は、「話の進め方のマネジメント」と「話す内容は任せる」の2つを扱うことが重要です。

・「話の進め方のマネジメント」
コーチがコーチイーに「さあ、自由に話して」とだけ伝えて、コーチイーが話すのを聞くだけでは単なる雑談と代わりがありません。どのような順番でどのような話をしていくのかは、コーチが「話の進め方のマネジメント」を行い、効果的にコーチイーが考えたり自分自身の想いに触れることを支援することが大事です。

具体的な話の進め方で代表的なものとして「GROWモデル」があります。以下のような進め方をコーチがマネジメントすることで効果の高いコーチングになります。

Goal:「今考えている課題はどのようになったらうまくいった、解決したと言えそうか?」
Reality:「解決したい状態に対して、現在はどうなっているのかな?」
Options:「現状を解決に向かわせるためにどのような方法があると思うか?」
Will(解決していこうという意思といった意味):「今、決めた方法をやろうと思えますか?(実はやることが難しいなどの思いはありませんか?」

・「話す内容は任せる」
コーチが「話の進め方のマネジメント」を行うことは重要なものの、話す内容までマネジメントをしてしまうと、それはコーチングではなく「誘導」だったり、「強制」になってしまうからです。具体的にはGROWモデルで話を進めている時に、Goalがコーチにとっては間違っている、と思ってしまう時に「それよりはこういったGoalがいいのではないか?」などと言ってしまっては、コーチイーの自律性を損なう結果になってしまうのです。

【参考】管理職がコーチングをしている場面で「部下の考えるGoalが間違っている」と思った時にどうすると良いのか?

①「部下の考えるGoal」を実行した場合に、管理職の立場として困る事態になってしまう時
例えば、部下が「自分のチームをこうしていきたい」という考えが管理職としては自分の部署運営にとって良い方向ではない時などは、コーチングではなく、管理職として部下とチームの方向性について合意形成をしていく必要があります。コーチングは「相手に任せることができる」という項目を扱うことが大事です。

②「部下の考えるGoal」が管理職の目からみると「もっと良いやり方がある」と思った時
こういった場合は管理職の思う「ベストなやり方」ではなく部下の考える「管理職からするとベターに見えるやり方」を認めていくことが大事です。
管理職の考える正解をやってもらうことはコーチングではなく、管理職の考える正解ではなくとも部下が「自分で考え、自分で行動していく」自律性を促していくことです。

ここまで「管理職研修で扱うコーチングの基本的な内容」を提示してきました。管理職研修でコーチングを扱うのであれば、必ず押さえておいてほしい内容です。

2)【課題別】コーチング研修におけるプラスαの工夫

前章のコーチングの基本を押さえた上で研修で扱いたい「管理職や組織の課題に応じたプラスαの工夫」を、具体例を挙げてご紹介します。

管理職に対する課題に対して

①初級管理職のメンバー育成に対する課題

初級管理職向けの課題には、「コーチングを含む人材育成全体を扱う」ことが重要です。
なぜなら、コーチングはあくまで人材育成の中の1つの手法にしかすぎないためです。コーチングは効果的な手法ですが、これだけでは人材育成を完成させることはできません。

具体的にはコーチング以外にティーチングやフィードバックなどと合わせてコーチングを扱うことをお勧めします。

②メンバー育成においてより支援的な対応が必要(現在が支援的ではないためにメンバーの育成がうまくいっていないと思える時)

支援的ではない管理職に対しては、「研修を受講する管理職に支援的な関わりを体感してもらう」ことが重要です。なぜなら自分が体感したり体験したことがないこと、メリットや効果を感じないことをやろうとはしないからです。

具体的には、

・講師が研修中に支援的に関わることで支援的関わりを体感、体験する
・研修とは別に個人個人がコーチングを受けることでコーチングの体感、体験をする

こういった対応をすることで、支援的な関わりをコーチングによって強化していくようにします。

組織に対する課題に対して

①社員の主体性を育みたいという組織課題に対して管理職の対応を強化したい時

社員の主体性を育みたいという組織課題に対しては、コーチングの基本的内容の中の「②コーチングを扱うメリットと効果」のメンバー・組織・管理職の3つの観点から丁寧に扱うことが重要です。なぜなら社員の主体性を育むということが、それぞれの管理職の状態によってはメリットや効果がある状態になるとは限らないからです。

例えば、「短期的な成果を強く求められる職場」の場合や「新人や未経験者が多い職場」の場合などでは、主体性よりも指示命令にしたがってもらった方が管理職にとっては楽なのです。その状態の管理職に対して「コーチングはメンバーの主体性を高めるのに効果的だ」といった伝え方をしても管理職がコーチングを学ぼうという動機を高めることができません。

メンバーにとっても、組織にとっても、管理職にとってもといった多角的な視点や長期的な視点でメリットや効果を認識してもらうことが重要なのです。

②1on1ミーティング制度を導入するにあたって管理職のコミュニケーションを強化したい時

1on1ミーティング制度の導入に合わせて、支援的なコミュニケーションとしてコーチングを管理職に学んでもらうことに対しては「1on1ミーティング制度に合わせた話の進め方」を扱うことが重要です。なぜなら、コーチングの基本的な話の進め方であるGROWモデルは、主に問題解決を進めるためのものであり、1on1ミーティングは問題解決の対話をするとは限らないからです。

各組織における1on1ミーティングの目的に即してコーチングをどのように1on1ミーティングの中で使っていくのかを定義して扱うことが重要です。

3)管理職研修でコーチングを扱う際の3ステップ

管理職研修でコーチングを扱う際の進め方は、下記の3つのプロセスで行います。

①管理職研修の目的・ゴールを設定し、コーチングが必要かを考える
②管理職研修でコーチングを扱う際の内容・ボリュームを決める
③組織でのフォローを決める

それぞれ説明していきます。

①管理職研修の目的・ゴールを設定し、コーチングが必要かを考える

管理職研修でコーチングを扱う際の進め方として、最初に「管理職研修の目的・ゴールを設定し、コーチングが必要かを考える」ことが重要です。なぜなら、コーチングは全ての問題を解決する万能カギではないからです。

コーチングは、メンバー育成の支援的コミュニケーションスキルとして、とても効果的なスキルではありますが、逆にいえば、あくまでメンバー育成のためのスキルである、ということもいえます。そのため、目的・ゴールを設定した上で、その目的・ゴールを達成するのにコーチング研修が適切かを検討する必要があるのです。

〈具体的な検討イメージ〉
1、解決したい課題とその解決像を定義する
       例 )
       課題:メンバーの主体的な行動を増加させたい
       解決像:メンバーが会議の場面で自分の意見を発信する回数が増えている
2、どのような状態が解決した状態かを定義する
3、その上で課題と解決像に対してコーチングが適切かを問い直す

〈検討するための問い〉
「管理職がコーチングを学ぶことでこの解決像に向かうことができるのか?」
「メンバー側からアプローチすることはどうなのだろうか?」
「心理的安全性など、他の考え方や、研修内容ではどのような効果になるだろうか?」
など

【参考コラム】
効果的な管理職研修の内容とは?失敗しないポイントを事例で徹底解説!
本当におすすめの管理職研修とは│研修選びで必ず押さたい3つのポイント

②管理職研修でコーチングを扱う際の内容・ボリュームを決める

管理職研修の目的・ゴールに対してコーチングが適切だと判断した後は、「管理職研修でコーチングを扱う際の内容・ボリュームを決める」ことが重要です。
なぜなら、資源は有限であり、利用可能な資源(時間・お金・人材など)を最適な方法で使用することが求められるからです。

〈具体的な検討イメージ〉
1、「管理職研修で扱うコーチングの基本的な内容」を押さえた上で、「①管理職研修の目的・ゴールを設定し、コーチングが必要かを考える」において検討した目的・ゴールに応じて+αの内容を検討する
2、その上で研修以外の方法も含めて最善の方法を問い直す

前章で述べた「①社員の主体性を育みたいという組織課題に対して管理職の対応を強化したい時」を例に挙げて、内容・ボリュームについて解説します。

内容を決める

社員の主体性を育みたいという組織課題に対しては、コーチングの基本的内容の中の「②コーチングを扱うメリットと効果」の管理職・組織・メンバーの3つの観点から丁寧に扱うことが重要です。なぜなら、社員の主体性を育むということが、それぞれの管理職の状態によってはメリットや効果がある状態になるとは限らないからです。

例えば、「短期的な成果を強く求められる職場」の場合や「新人や未経験者が多い職場」の場合などでは、主体性よりも指示命令にしたがってもらった方が管理職にとっては楽なのです。その状態の管理職に対して「コーチングはメンバーの主体性を高めるのに効果的だ」といった伝え方をしても管理職がコーチングを学ぼうという動機を高めることができません。

メンバーにとっても、組織にとっても、管理職にとってもといった多角的な視点や長期的な視点でメリットや効果を認識してもらうことが重要なのです。

ボリュームを決める

内容が決定した後にリソースと照らし合わせて、ボリュームを決定していきます。社員の主体性を育みたいという組織課題に対して、コーチングの基本に加えて「②コーチングを扱うメリットと効果」の管理職・組織・メンバーの3つの観点を丁寧に扱う時間を加えます。

例えば、

① 社員の主体性についての課題感を管理職に話し合ってもらう(個人ワーク+グループ共有)
② 主体性が増していくことで管理職・組織・メンバーにとってどのような良い変化が生まれそうかを話し合う(個人ワーク+グループ共有)
③ ①と②の議論の解説として「主体性を育むために必要な管理職の関わりとしてコーチングが有効である」といったことを行う
④ コーチングの研修に入る

このように内容をどのようなワークなどで研修内で実施していくかを検討することで、必要な時間や講義の量を決めることができます。最後にリソースを照らし合わせることでワークに実際に取れる時間などが決まっていきます。

〈検討するための問い〉
・「管理職研修でコーチングを扱う時間は最大で5時間が限界である。そうであるなら事前事後で何かできることはあるだろうか」
・「研修の効果を上げるために研修以外のアプローチ(例えばプロのコーチにコーチングを受けるなど)は何が良いだろうか?」
・「管理職以外の変化を促す必要はあるだろうか。あるとすると、どの対象にどういった対策が妥当だろうか?」
など

③組織でのフォローを決める

最後に、組織でのフォローを決めます。コーチングは研修を一日やれば身につくといったものではなく、継続的に取り組み続けることで身についてきます。
筆者自身も、傾聴だけでも3ヶ月くらい練習を続けてようやく「なんとなく相手に集中して聴くことができたかも」といった状態でした。それくらい難しいという実感があります。

具体的には、組織としては次の2つの観点でフォローを検討していけると良いでしょう。それぞれにフォロー施策例も提示します。

1)コーチングを実践するためのモチベーションを維持してもらう

・上層部が短期的な成果のみを求めない
・目標設定に部下育成などの項目を入れる

2)コーチングを実践できる環境をつくる

・1on1ミーティングなどメンバーと話すような環境を用意する
・勉強会など他者と学ぶ環境を用意する

このようなフォローを行うことで、コーチングの実践が継続され、管理職がコーチングを身につけることができるようになっていくのです。コーチングは効果的なコミュニケーションスキルであるものの、研修を行うにはリソースも必要ですし、研修だけではない継続的な実践も必要になります。

今回ご提示した企画の検討をしていくことで、効果的なコーチング研修の実践が期待できるようになるのです。

【参考コラム】管理職研修の必要性を経営者・管理職に理解してもらうためのアプローチ

3)まとめ~管理職向けコーチング研修ならアーティエンスにおまかせ~

ここまでお読みいただきありがとうございます。本コラムでは、下記内容を説明していきました。

・管理職研修で扱うべきコーチングの内容とは?
・管理職研修でコーチングを扱う際の進め方

コーチングは効果が高いコミュニケーションスキルである一方、身につけるのに多くの知識・技術などのインプットと継続的な実践が必要です。そのために、効果的な管理職研修に向けて丁寧な検討が大事になります。

今回のコラムを参考に自社にとっても最も効果的な「管理職研修としてのコーチング研修」を構築してくださると嬉しいです。

私たちアーティエンスでは企業の方の特性や状態を元に制度設計から研修までを設計していきます。もし、もっとより詳しく知りたい、一緒に考えてみたいと思った方はこちらからご相談ください。

本コラムが皆さんの助けになれば幸いです。お読みいただきありがとうございました。