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管理職にパワハラ対策を後回しにされる…行動を促す3つのポイント
更新日:
「管理職のパワハラへの意識が低く、何度伝えても対策をしてくれない…」
「パワハラの問題が起きているようだが、管理職から何の相談もなく対応できない…」
いま、多くの職場で起きているのが、管理職がパワハラに対して無関心だったり、悩みを抱えながらも声を上げられずに沈黙しているという状況です。
たとえば、
・見て見ぬふりをしてしまう管理職
・どう対応すればよいか分からず、悩みを抱え込む管理職
・頑張って関わっているが、なかなか解決できない管理職
──こうした課題が水面下で進行している可能性があります。
実際、Job総研の「2023年 ハラスメント実態調査」によると、ハラスメント経験者のうち81.5%が「パワハラ」を経験し、さらに53.6%が「退職した・退職を考えた」と回答しています。
引用:Job総研 「2023年 ハラスメント実態調査」を実施 | JobQ[ジョブキュー]
社員がパワハラに直接巻き込まれていなくても、“そういう職場だ”と見限って去っていく人も少なくありません。
エンゲージメントや信頼が失われ、組織力がじわじわと低下していく──それがパワハラの本当の怖さです。
だからこそ今、必要なのは、管理職に「意識を変え、行動を起こす力」をつけてもらうこと。そして、そのための支援体制を組織として整えることです。
本コラムでは、管理職のパワハラへの意識を強め、行動を起こしてもらうために必要な3つのパワハラ対策と、管理職を孤立させず支援する行動を支援する仕組みづくりをご紹介します。
パワハラのない職場環境をつくり、社員が不要な悩みなく働ける組織組織をつくっていきましょう。
専門性:インタラクショナルデザインコーチング、キャリア開発、メンタルヘルス/レジリエンス
目次
1)管理職が“当事者意識”を持って動き出すために|パワハラ対策の本質を押さえる3つのポイント
パワハラを本気でなくしていくためには、管理職が「自分も当事者である」という意識を持ち、主体的に行動を起こすことが欠かせません。
そのためには、表面的な対策ではなく、本質をしっかりと押さえておくことが重要です。
ポイントは以下の3つです。
① 意識を変える|「自分ごと化」と「リスク」の理解
② 知識を深める|絶対NG+グレーゾーンまで押さえる実践知識を身につける
③ 技術を高める|パワハラ対応に必要な3つの実践スキルを身につける
それぞれ説明していきます。
① 意識を変える|「自分ごと化」と「リスク」の理解
管理職がパワハラ対策に本気で取り組むには、「これは自分の問題だ」と当事者意識を持ち、「対応しなければ大きな損失を生む」と強く認識することが不可欠です。
そのためには「必要性」と「重要性」の2つの観点で意識を変えることが鍵となります。
「必要性」とは、パワハラを“マネジメントの問題”として捉える視点を持つこと
「重要性」とは、対応を怠れば、自分・会社・社員に深刻な影響が及ぶと認識すること
この2つの認識を持つことで、他の業務と比較してもパワハラ対策の優先順位が自然と上がり、主体的な行動につながっていきます。
それぞれ詳しく説明していきます。
「必要性」を促す|“マネジメントの問題”として捉える視点を持つ
管理職がパワハラの原因を「加害者の性格」や「被害者の態度」に求めるのではなく、「そのような行動が許される職場環境=マネジメントの設計」と認識する必要があります。
たとえば、ある企業の中堅社員Aさんは、部下のBさんには大声で怒鳴る一方で、同僚のEさんには丁寧に接し、上司のFさんにはさらに低姿勢で対応しています。
この行動から見えてくるのは、Aさんが相手によって態度を変えているという事実です。
このような行動は、「相手を選んで攻撃している」ことを示しており、攻撃しても問題にならない空気が職場にあることを意味しています。
しかし、こうした場面に対して次のような見方をしてしまうと、問題の本質を見誤ってしまいます。
▼ありがちな誤った捉え方
・「Aさんの性格がきついから、仕方ない」(=個人の問題として片付けてしまう)
・「Bさんにも問題があるのでは?」(=被害者に原因を求めてしまう)
これらの見方では再発防止にはつながりません。なぜなら、Aさんは“怒鳴っても問題にならない環境”があると感じているからこそ、その行動をとっている可能性が高いからです。
つまり、パワハラが生まれる背景には、「そうした行動を黙認する組織風土」や「誰も注意しない職場の空気」など、マネジメントの問題があるのです。
そこで重要なのが、管理職自身に「その職場環境をつくっているのは、自分を含めたマネジメントだ」と自覚してもらうことです。
そのためには、研修や日常の対話の中で、次のような問いを投げかけてみることが効果的です。
「なぜAさんはBさんには怒鳴って、上司には怒鳴らないのでしょうか?」
「このような行動を“黙認してしまう”空気が、職場にあるとしたら?」
「今の職場環境は、部下を守れる設計になっていると言えますか?」
こうした問いかけにより、“パワハラは構造的な問題であり、自分が改善に関わる責任がある”という意識が芽生えていきます。
「重要性」を認識する|“放置すれば深刻なダメージになる”ことを理解する
管理職がパワハラ対策に本気になるには、「これは大きな問題であり、対処を怠れば重大な損失が生まれる」という危機意識を持つことが不可欠です。
影響の大きさを具体的にイメージできるようになることで、日々の業務の中でもパワハラ対策の優先順位が自然と上がっていきます。
パワハラがもたらす法的責任に関しては、3つの観点から把握する必要があります。
・民事上の責任(損害賠償)
・刑事罰(セクハラ・パワハラ)
・懲戒処分(行為者、管理職に対して)
①民事上の責任(損害賠償)
・行為者:民法上の不法行為責任
・管理職:民法上の共同不法行為責任
・会 社:民法上の債務不履行責任(安全配慮義務 違反)
・民法上の使用者責任
・役 員:会社法上の役員の善管注意義務・忠実義務違反
②刑事罰(セクハラ・パワハラ)
・強制性交罪、強制わいせつ罪等 名誉棄損罪、侮辱罪、脅迫罪、暴行罪、傷害罪等
③懲戒処分(行為者、管理職に対して)
・行為者に対する懲戒処分(就業規則に基づく処分)
・管理職・役員に対する懲戒処分(ハラスメントの予防・対処義務違反)
└ パワハラを「見て見ぬふり」していた場合の処分対象化
└ 注意・指導義務の不履行による処分対象化
└ 共同不法行為責任および善管注意義務違反による責任追及
これらが起こると、会社・社員へネガティブな影響が及ぼされます。
平成28年度「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」(厚生労働省)の調査によると、パワハラが会社や社員へ与える影響として下記のことがあるとわかっています。
| 会社への影響 | 社員への影響 |
|---|---|
| ・人材の流出 ・モラールの低下 ・企業イメージの悪化 ・訴訟による賠償 |
・職場の雰囲気が悪化 ・心身の健康を害し、休職等に至る ・本来の能力を発揮できなくなる |
そこで重要なのが、リアルな他社事例を共有し、「自分だったらどうするか?」を管理職同士で対話してもらうことです。
たとえば、ある中堅企業で実際に起きた次のような事例があったとします。
「部下に日常的に強い言葉で叱責していた管理職が、周囲も“あの人はそういう人だから”と放置していた結果、部下がメンタル不調で休職。会社として損害賠償を負い、加害者本人だけでなく、止めなかった直属の上司も懲戒処分を受けた。」
こうした現実の事例を素材にしながら、以下のような問いを立てて、対話してもらいます。
-
「この職場に自分がいたら、どう対応していたか?」
-
「注意しにくい空気があったとしたら、それをどう乗り越えるか?」
-
「自分のチームに同じことが起きたら、どう責任を取ることになるか?」
このような問いを通して、自分の現場にも起こりうること”としてリアルに想像し、腑に落ちる形で「重要性」を実感してもらうことができます。
また、他の管理職の視点や経験に触れることで、気づいていなかったリスクや盲点に気づけるのも大きなメリットです。
管理職がパワハラ対策に本気で取り組むためには、まずは「これは自分に関係のある問題だ」と自覚することが不可欠です。
必要性と重要性2つの観点を通じて、パワハラを“自分ごと”として捉えられるようになることで、管理職の行動は変わり始めます。
② 知識を深める|絶対NG+グレーゾーンまで押さえる実践知識を身につける
パワハラを防ぐためには、管理職が「明らかなハラスメント」だけでなく、判断が難しい“グレーゾーン”にも対応できる実践的な知識を持っていることが重要です。
知識がなければ、管理職はパワハラかどうかの判断基準を持てないためです。誤った対応は、被害の拡大、組織の信頼低下、法的リスクなど大きなトラブルを招きます。
中でもグレーゾーンは見過ごされやすく、放置されれば職場の不満や不信がじわじわと蓄積されていくリスクが高い領域です。
だからこそ、まず押さえておくべきは次の2つです。
・パワハラの基本定義と6分類(=明らかなNGの理解)
・価値観のズレから起こる“グレーゾーン”への対応力
この2点をしっかりと理解することが、適切な判断と早期対応の土台になります。
パワハラの基本定義と6分類(=明らかなNGの理解)
パワハラ対策を効果的に進めるには、まず管理職全員が「パワハラの定義」と「6つの典型的な行動分類」を正しく理解し、共通認識を持つことが不可欠です。
もしこれらが十分に共有されていない場合は、まずここから丁寧に取り組む必要があります。
〈ハラスメントの定義〉
職場などの身近な場面で上司などの「力関係で優位にある者」が他者に対して精神的・身体的苦痛を与える行為のこと。ハラスメントの定義はセクハラなど他のハラスメントを含めた定義です。
ここで重要なのは、「上司」や「役職が上の人」といった表現ではなく、「力関係で優位にある者」という定義になっている点です。
つまり、職位に関係なく、相手より立場的・心理的に優位な状況にある人がハラスメント行為を行った場合、それはパワハラに該当する可能性があります。
たとえば、ある部署に長年勤めているベテラン社員が、新しく異動してきた課長を他の課員とともに無視したり、侮辱的な言葉を浴びせたりしていた場合、たとえ“部下”であっても、そのような言動はパワハラにあたる可能性があるのです。
部下かどうかに関係なく、「力関係がどう働いているか」で判断することが重要です。
パワーハラスメントとは職場におけるパワーハラスメントとは、改正労働施策総合推進法(令和元年6月5日公布)により、以下の3つの要素
① 優越的な関係を背景とした言動であって
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③ 労働者の就業環境が害されること
をすべて満たすものとし、パワーハラスメント防止のため、相談体制の整備等の雇 用管理上必要な措置を講じることを事業主に義務付けています。
※パワハラの定義は厚生労働省の「パワーハラスメント対策導入マニュアル(令和3年度版)から抜粋
ここで特に重要なのは、「業務の適正な範囲を超えているかどうか」という判断軸です。
パワハラに該当するか否かは、この基準を満たしているかどうかで決まります。
よく「相手がハラスメントだと感じたら、それはハラスメントだ」といった声を聞くことがありますが、これは正確ではありません。
〈パワハラの6分類〉
① 暴行・傷害
(上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする)
② 精神的な攻撃
(上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする)
③ 人間関係からの切り離し
(自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離 したり、自宅研修させたりする)
④ 過大な要求
(上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤 務に直接関係のない作業を命ずる)
⑤ 過小な要求
(上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる)
⑥ 個の侵害
(思想・信条を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内外で継続的に監視し たり、他の社員に接触しないよう働きかけたり、私物の写真撮影をしたりする)
※同じく厚生労働省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会 報告書」から6分類の定義と具体例を抜粋
ここで大切なのは、この6分類が典型的なパワハラの具体例として示されているという点です。
これらに該当する行動はパワハラと認定される可能性が非常に高いため、こういった行動はすぐに止める必要があります。
ただし注意したいのは、この6分類がすべてのパワハラ行為を網羅しているわけではないということです。実際の職場では、ここに当てはまらないグレーなケースも多く存在します。
そのような場合、パワハラに該当するかどうかは、行為が行われた状況や行為が継続的かなど、詳細な事実関係を丁寧に確認する必要があります。
他には、厚生労働省の「あかるい職場応援団」などに掲載されている裁判例や、職場ごとの共通認識も参考にしながら、慎重に判断していくことが求められます。
これらの基本的な知識は、全管理職が正しく理解し、共通認識を持つことが重要です。
そのためにも、研修などの機会を通じて、わかりやすく丁寧に伝える場を設けることが効果的です。
価値観のズレから起こる“グレーゾーン”への対応力
管理職がパワハラ防止に適切に対応するためには、明らかなパワハラだけでなく、判断が難しい「グレーゾーン」の存在を理解しておくことが重要です。
グレーゾーンは、管理職自身が見逃しやすく、また気づいても対応せずにそのまま放置してしまいがちな領域です。しかし、そこで生まれる「小さな不満」や「違和感」が、やがて大きなトラブルにつながる可能性があります。
グレーゾーンには明確な定義があるわけではありませんが、筆者はハラスメントの3要素である下記のうち②が曖昧であり、業務上必要かつ相当な範囲を超えたと言えるかどうか微妙なものを指すと理解しています。
① 優越的な関係を背景とした言動であって
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③ 労働者の就業環境が害されること
次に、2つの事例を通じて「グレーゾーン」の実際のイメージを見てみましょう。
事例① パワハラに該当する可能性が高いケース
主任のAさんが若手社員のBさんに1時間にわたり大声で怒鳴っている。理由はBさんが昨日の報告を怠っていたことが原因だった。Bさんがパワハラではないかと訴えてきた。
このような行動が継続的に繰り返されていれば、明らかな精神的攻撃(パワハラ)に該当する可能性が高いケースです。
事例② グレーゾーンのケース
主任のCさんが若手社員のDさんに一日3回の報告を求めており、Dさんからパワハラではないかと訴えがあった。CさんはDさんの営業成績が下がっているので指導を強化しているからだという話だった。
このケースは判断が分かれるグレーゾーンです。
報告回数が1日3回というのは、「多すぎる」と感じる人もいれば、「状況次第では妥当」と考える人もいるでしょう。1日10回や20分おきの報告であればパワハラ性が明確になりますが、3回程度では業務指導の範囲内と見ることも可能です。
グレーゾーンは、多くの場合、「業務上必要かつ相当な範囲」に対する価値観の違いから生まれます。
たとえば
上司:「部下の変化に早く気づくために、食事の場で話した方が本音を聞けるかもしれない」
部下:「業務外の時間に誘われるのは不快。業務と関係ない」
このように、「業務上必要かつ相当な範囲」における価値観が異なることで、ハラスメントかどうかの線引きが難しくなるのです。
グレーゾーンは、価値観の違いから生まれるため、明確に処罰の対象になるとは限りません。
しかし、ここで大切なのは「被害を感じている人」が存在しているという事実です。
たとえ法的な違反や懲戒対象にならなかったとしても、被害を訴えている本人のモチベーションは下がり、周囲にも不信感やストレスが広がる可能性があります。
このような状態を放置すれば、職場全体が不安定になるリスクが高まります。
だからこそ、管理職には明らかなハラスメンだけでなく、グレーゾーンに対する知識と対応力も求められます。
そのための具体的な方法として、研修で「判断が分かれるグレーな場面」に対するワークを取り入れることです。
例えば「1on1の時間にプライベートな話題はどこまで踏み込んでよいのか?」
「飲み会に誘うとき、どのような言い方なら負担に感じさせないか?」など、
白黒つけづらい場面を取り上げて、複数の管理職で意見を出し合いながら、自分の基準と職場としての基準の違いに気づく場をつくることが大切です。
パワハラ防止において重要なのは、「これは明らかにアウト」というNG行動だけでなく、グレーゾーンの判断と対応にも自信を持てることです。
とくにグレーゾーンについては、個人の価値観や経験の違いによって判断が分かれやすく、対話や共通認識の形成が不可欠です。
③ 技術を高める|パワハラ対応に必要な3つの実践スキルを身につける
パワハラ対策を組織として機能させるためには、管理職が以下の3つのスキルを身につける必要があります。
① 〈対組織〉組織を頼る技術
② 〈対対象者〉公平に両者の言い分を聞く技術
③ 〈対自分〉自分をコントロールする技術(アンコンシャスバイアス)
なぜなら、いくら「意識」や「知識」があっても、それを現場で適切に“実行”できるスキルがなければ、成果にはつながらないためです。
管理職に必要な3つの実践スキルをそれぞれご紹介します。
①〈対組織〉組織を頼る技術
管理職は、「問題が起きたら“組織”として対応する」ことを前提に行動する必要があります。
パワハラは、決して一部署や個人だけの問題ではなく、組織全体の問題だからです。
実際、パワハラが発生した場合、加害者だけでなく、会社側も損害賠償責任を問われるケースが多くあります。法的にも、ハラスメント対策は企業の義務とされています。
管理職は、具体的に次の2つを意識しましょう。
・小さな兆候でも、最初から窓口に相談する
・ハラスメントか迷うようなケースでも、自分だけで判断しない
「これは自分で解決できるかも」と考えてしまうと、問題が見過ごされてしまい、後々取り返しのつかない事態に発展することがあります。
管理職が相談をためらってしまう心理としては次のようなものがあります。
・自分が頼ることで、「できない管理職」だと思われたくない
・告発者の言い分が大げさに感じられる
・行為者が処分されることで、組織として不都合になるのではと心配になる
こうした“迷い”が、問題を放置する原因になります。
だからこそ、「どのような問題も自分で判断せず、相談してしまう」ことが重要です。
管理職自身を守るためにも、会社の仕組みをしっかり活用していきましょう。組織を頼ることで、会社の問題としてパワハラを扱うことができるようになります。
② 〈対対象者〉公平に両者の言い分を聞く技術
パワハラの多くは、「行為者と被害者の認識のズレ」によって起きます。
行為者は「指導のつもりだった」と言い、被害者は「精神的に追い込まれた」と訴える。このような食い違いは、どちらか一方の意見だけを聞いて判断することの危うさを示しています。
だからこそ、管理職には両者の価値観を尊重しながら、丁寧に話を聞く力が求められます。
ポイントは、「価値観を否定せず、行動を客観的に評価する」ことです。
・なぜその行動をとったのか(行為者)
・なぜそれをパワハラと感じたのか(被害者)
この2つをしっかり聴き、どちらの声も軽視しない態度が、信頼関係の構築と公正な判断につながります。
※なお、ヒアリング内容やフローは、企業で整備されているマニュアルを参照するのが望ましいです。無い場合は、顧問社労士・弁護士に相談して整備しましょう。
③ 〈対自分〉自分をコントロールする技術(アンコンシャスバイアス)
組織を頼ったり、公平に両者の話を聞いたりすることは、頭では理解できていても、実際にその通りに行動するのは簡単ではありません。原因のひとつが、自分でも気づいていない“考え方のクセ(=アンコンシャス・バイアス)です。
だからこそ、管理職自身が「自分の考え方の癖(=アンコンシャス・バイアス)」を理解しておくことが重要です。
まず大切なのは、「自分にもバイアスがある」という前提を持つことです。バイアスは誰もが持っている自然な反応であり、悪いことではありません。
代表的なバイアスには、以下のようなものがあります。
・正常性バイアス:危機的状況になっても、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりする
・集団同調性バイアス:集団に所属することで、同調傾向・圧力が強まり周囲に合わせてしまう
・アインシュテルング効果:慣れ親しんだ考え方やものの見方に固執してしまい、他の視点に気づかないか無視してしまう
・ステレオタイプバイアス:あるグループに所属するものには特定の特徴があると判断する
・確証バイアス:仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視、または集めようとしない
次に、そのバイアスに「気づける自分」になることが重要です。
日々のコミュニケーションや意思決定の中で、「これは事実に基づいて判断しているか?」「自分の価値観や過去の経験に引っ張られていないか?」と自分自身に問い直す習慣を持つことで、無意識の偏りにブレーキをかけることができます。
さらに効果的なのは、自分とは異なる価値観や背景を持つ人と意識的に対話することです。
たとえば他部署の社員や年齢の離れたメンバーと話すことで、自分では見えていなかった視点に気づくきっかけになります。
また、アンコンシャス・バイアスをテーマにした研修やワークショップに参加することで、体系的に学ぶことも有効です。
自分の認識の偏りに気づき、それを調整できる力がある管理職は、相手の立場や感情に配慮した対応ができるようになり、ハラスメントの芽を早期に摘むことができるようになります。
パワハラ対策を組織として機能させていくためには、管理職が意識を変え、知識を深め、技術を高めることが必要です。
これらは、どれも適切な機会やトレーニングによって誰でも磨くことができるスキルです。
管理職一人ひとりがこれらの技術を身につけることで、ハラスメントの芽を早期に発見し、適切に対処する力が高まります。
その積み重ねが、「安心して働ける職場」「信頼されるマネジメント」へとつながっていくのです。
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パワハラはセンシティブな問題であるからこそ、管理職一人に背負わせるのではなく、組織としての支援体制を整えることが重要です。
組織として取り組むべき2つの具体策をご紹介します。
① 管理職を孤立させない体制づくり
② 部下側の“受け取る力”の育成
① 管理職を孤立させない体制づくり
パワハラ対策を現場で機能させるためには、管理職を孤立させず、会社として一緒に解決していく姿勢を示すことが不可欠です。
なぜなら、管理職が行動をためらう最大の要因は「行動することへの恐れ」だからです。
「こんなことで相談していいのか…」「対応が間違っていたらどうしよう…」という不安があると、適切な対応が遅れ、結果として問題が悪化してしまうこともあります。
この“ためらい”を取り除くには、会社側が次の2つのアプローチを意識して行うことが重要です。
① 行動の「きっかけ作り」:管理職が行動に移せるように、最初の一歩を後押しするメッセージを明確に伝えること
② 行動の「強化」:行動した結果がポジティブな体験として管理職に残るよう、丁寧に対応・支援すること
それぞれ、以下のように仕組み化することができます。
・行動の「きっかけ作り」
管理職研修など下記を伝えたり、マニュアルに下記のような呼びかけを記載することで、「まず相談してみよう」と思える一歩を後押しします。
「少しでもパワハラの可能性のある行動を発見した場合、すぐにハラスメント相談室にご連絡ください。必ず一緒に解決に向かえるよう対策を考えていきます。」
・行動の「強化」
実際に管理職から相談があった場合には、相談しやすい環境で、下記のような言葉がけを行います。
「相談ありがとうございます。どんな小さく思えても相談してくれることが大事です。ぜひ一緒に考えたいので具体的な状況を教えてください」
こうした対応により、管理職自身が「相談してよかった」と実感できる体験を積み重ねることができます。
管理職が1人で抱え込まず、会社に相談しやすくなるような仕組みを整えることが、管理職を孤立させず、パワハラ対策を現場で実行できる組織づくりにつながります。
② 部下側の“受け取る力”の育成
パワハラ対策というと管理職ばかりに注目しがちですが、部下側にも「受け取る力」を育てる教育が不可欠です。
ハラスメントは「受け取り方」のズレから生まれることが多く、同じ指導でも、ある人には“厳しくも誠実なアドバイス”と受け取られ、別の人には“攻撃された”と感じられてしまうことがあるためです。
パワハラを“しない”だけでなく、“起きにくい関係性”をつくるには、部下の側の受け取る力を育てることが大切です。
たとえば、次のような観点を新入社員研修や若手向け研修の中に組み込むことが有効です。
・「期待」と「圧」の違いを理解するワーク
上司のフィードバックが厳しく感じるとき、それが“叱責”なのか“期待の表現”なのかを分解して考える力をつける
・上司の立場・視点を体験するロールプレイ
管理職の視点で部下に伝える場面を演じることで、「伝える側の難しさ」に気づき、相手の意図を慮る感性を育てる
・感情と事実を切り分けるトレーニング
「自分がどう感じたか」だけでなく、「何が起きたのか」を整理する力を育てる
こうした教育を通して、部下自身が感情を整理し、過剰に反応せずに対話しようとする姿勢を持てるようになります。
他にも、部下と管理職が相互理解を行うために、合同研修で下記のような内容を取り入れることも一つの方法です。
・メンバーの取扱説明書作り
動物占いやネットでできる性格診断などいくつかのツールを使いながら、お互いに自分のことを話していくワーク
※この時個人情報として人によっては言いたくないような内容は扱わないようにします。信憑性が高いとか低いではなく、盛り上がるものを中心に行います。ゲーム性を持ちながらお互いのことを理解していくことができますし、そういったワークからメンバーの価値観も見えてきます。
・テーマ別“まじめな雑談”
「仕事で重要だと思うこと」「褒められるならどんな言い方をしてほしい」「モチベーションが上がる瞬間」など、あるテーマを決めて自分の思うことを話し合うワーク
このワークを行うことによってメンバー個人の考え方や価値観が見えてくるということと「お互い違う考え方、価値観を持っているんだ」という「お互いが違う」ということを理解することにも繋がります。
こういった活動を部署ごとや組織横断的に行っていくことが管理職と部下の相互理解のために有効な会社の取り組みとなります。
パワハラを“しない”だけでなく、“起きにくい関係性”をつくるには、部下の側にも「感じた違和感を整理して対話につなげる力」を育てることが大切です。
パワハラ防止を実効性のあるものにするためには、「管理職の対応力を高める」だけでは不十分で、管理職が一人で抱え込まないための支援体制と、部下が受け取り方を整えられる力という、両輪のアプローチが必要です。
組織としてパワハラを起こさせない体制を整えることが、未然防止につながり、誰もが安心して働ける職場づくりの土台になります。
3)まとめ|“管理職任せ”ではなく、“組織全体で取り組む”パワハラ対策を
パワハラをなくしていくには、管理職が「これは自分の問題だ」と自覚し、意識・知識・技術の3つを備えて行動に移すことが欠かせません。
しかし、それだけでは不十分です。行動を支えるには、組織としての支援体制と、部下側の受け取る力の育成の取り組みが必要です。
これらが組み合わさることで、初めて「安心して働ける職場」「信頼されるマネジメント」が実現していきます。
パワハラに困っている管理職が
「見て見ぬふりをして、諦めてしまう。隠ぺいしてしまう…」
「一生懸命関わっているが、なかなか解決の糸口がみつからない…」ではなく、
管理職がパワハラ対策に本気で動けるように、会社として支援をしていきましょう。
パワハラとはとても根気のいる問題ですが、丁寧に対応していけば、必ず解決できます。
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【関連記事】パワハラとは|3つの定義・6つの行為類型と具体的な対処法
参考:企業の成長に伴走する社会保険労務士法人とうかい



