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[ コラム ]
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管理職の部下放置は誰のせい?4つの原因と「任せる組織」への転換策
「任せてるつもりなんだけど、なぜか部下のやる気が下がっている気がする…」
「必要以上に干渉しないのが、信頼だと思っていた…」
そんな“関わらないマネジメント”に、不安を感じている人事や経営層の方も多いのではないでしょうか。
一見「自律を促す関わり」のように見えても、部下からは「放っておかれている」「何も言ってくれない」と受け取られてしまう。このすれ違いは、単なるコミュニケーション不足ではなく、育成機会の喪失、若手のモチベーション低下、信頼関係の分断、さらには離職など、組織にとって大きなリスクへとつながります。
本記事では、管理職が陥りやすい「任せる」と「放置」の違いを紐解きながら、放置が起きる4つの構造的な原因と、それを防ぐ具体的な対策をご紹介します。
放置のリスクを手放し、育成が根づく仕組みづくりを始めましょう。
大学卒業後、大手通信会社、アルー(株)勤務後、2010年にアーティエンス(株)を設立。業界歴17年。大手企業から、中小企業、ベンチャー企業の人材開発・組織開発の支援を行っている。専門分野は、組織開発、ファシリテーション。
目次
1)管理職が陥りがちな、部下を「任せる」と「放置」の勘違い
管理職が「見守っているつもり」でも、部下は「放置されている」と感じていることが少なくありません。
管理職は「成長のために任せている」「信頼しているから口を出さない」と思っていても、部下側は何も言われないことで「見てもらえていない」「気にかけられていない」と感じています。このギャップは、育成への価値観の違いや、関わり方の不在によって広がっていきます。
たとえば、どちらの上司も同じように「この仕事、任せるね」と言ったとします。ですが、その言葉の裏にある関係性や関わり方によって、部下の受け取り方は大きく変わります。
放置と感じるケース:
「言われただけで終わり。進め方も聞かれず、期待も伝えられない。困っても相談しづらい空気…」
任されたと感じるケース:
「なぜ自分に任せるのかを説明してくれた。信頼されているのが伝わってきたし、定期的に声もかけてくれる」
「任せる」と「放置」は、表面上の行動が似ていても、その本質はまったく違います。以下の表は、両者を見分ける視点を整理したものです。
| 見分けの観点 | 放置 | 任せる |
|---|---|---|
| 目的 | 関与を減らすことが目的化している | 成長のために、あえて手を離している |
| 関係性 | 無関心・断絶 | 信頼・期待が前提 |
| フォロー | 原則なし。困っていても気づかない・見ない | 状況を見守り、必要に応じて支援や声かけがある |
| 伝達 | 「よろしく」で終わり。背景・意図が共有されない | 「なぜ任せるのか」「期待していること」まで伝えている |
| 安心感 | 「見られていない」「任せられているのか不安」 | 「ちゃんと見てくれている」「信頼されている」 |
| 起こる副作用 | 孤立・不信・離職 | 自走・挑戦・成長 |
このように、「任せたつもり」が、部下には「放置された」と映っているケースは少なくありません。そしてこのすれ違いは、単に一対一の信頼関係を崩すだけでなく、組織全体にも大きな影響を及ぼします。
2)なぜ管理職は部下を「放置」してしまうのか?4つの構造的原因
管理職が部下を「放置」してしまう背景には、必ずしも本人の意識や意欲だけがあるわけではありません。
実際には、育成が機能しづらい構造や風土が組織内に存在しており、それが“放置せざるを得ない状態”を生み出しています。
ここでは、そうした構造的な原因を4つの視点から整理します。
① 育て方を知らない
② 育成が“属人化”しており、標準化されていない
③ 忙しすぎて育成する余裕がない
④ 数字重視で育成の必要性が届いていない
① 育て方を知らない
多くの管理職が部下を「放置」してしまう背景には、そもそも育て方を知らない、学んでいないという構造的な問題があります。
多くの管理職は、昇進と同時に部下育成を担うことになりますが、その前に十分な学びの機会が与えられていないのが実情です。
そのため、プレイヤーとしての経験や感覚だけを頼りに、育成に取り組んでいるケースが少なくありません。
特に、成果を出してきた優秀なプレイヤーほど、自分のやり方を正解だと信じており、無意識にそれを部下に押しつけてしまいがちです。
さらに、「育成=甘やかし」「手厚く関わるのは過保護」という誤解を持っているケースも多く、“任せること”を“放っておくこと”と混同してしまうことがあります。
たとえば、「新人には自分で考えて動いてほしいから、あえて何も言わない」という方針で部下に接していた管理職がいました。
しかし、その部下は上司に対して「相談しづらい」「評価されていない」と感じ、やる気を失っていました。
上司は“信じて任せている”つもりでも、部下には“何も教えてもらえないまま放り出されている”と映ってしまっていたのです。
このように、「育て方を知らない」といった背景から、管理職が意図せず部下を放置してしまうケースは少なくありません。
② 育成が“属人化”しており、標準化されていない
育成の仕組みややり方が標準化されていないと、管理職ごとに育成の質にばらつきが生じ、結果的に放置が常態化しやすくなります。
多くの企業では、育成の型やフレームが整備されておらず、各管理職が“自己流”で部下と向き合っているのが実情です。
そのうえ「育成はできる人が自らやるもの」といった空気があると、育成の責任が曖昧になり、属人的な対応に委ねられてしまいます。
この状態では、どの部署に配属されるかによって、部下の成長環境が大きく左右されてしまい、組織全体として安定した育成が難しくなります。
ある管理職は定期的に1on1を実施している一方で、別の管理職は「困ったら言ってくるだろう」と一切の関与をしない――そんなように、部下が受ける育成体験に大きな差が生じています。
結果として、ある部署では若手が順調に育つ一方で、別の部署では不満が蓄積し、早期離職が相次ぐなど、「育成の質」が配属ガチャのようになってしまいます。
属人化された育成環境では、部下が意図せず放置されるリスクが高まります。誰が育成しても一定の質を保てるよう、仕組みと共通言語を整備することが、組織としての継続的な育成力の基盤になります。
③ 忙しすぎて育成する余裕がない
プレイングマネージャーとして多忙を極める中、管理職が育成に時間と意識を割けず、結果的に部下との関わりが希薄になりやすい状況が生まれています。
現在、多くの管理職はプレイヤー業務とマネジメント業務の両立を求められています。
そのため、目の前の業務対応や納期、成果目標に追われ、育成のように「緊急ではないが重要なこと」はどうしても後回しにされがちです。
加えて、業務の棚卸しや再設計が十分にされていない企業では、「育成のために何を削るべきか」が見えておらず、手をつけられないまま時間だけが過ぎてしまいます。
たとえば、ある管理職は毎日クライアント対応や資料作成に追われ、部下との1on1や日常の声かけが「やれたらやる」状態に。その結果、部下との関係構築が進まず、「何を見られているのか分からない」「相談するタイミングがない」といった不満が蓄積していきました。
上司自身も「育成は大事だと分かっているけど、時間的にも精神的にも余裕がない」と語っており、育成が後回しになってしまう構造的な背景が浮き彫りになっていました。
育成の時間は“残った時間で行うもの”ではなく、意図的につくるべきマネジメントの一部です。
管理職が育成に集中できるよう、業務の見直しや役割分担を支援することが、放置を防ぐ第一歩となります。
④ 数字重視で育成の必要性が届いていない
育成の重要性が経営層や組織全体で十分に共有されていないと、現場の管理職は「育成より成果を出すことが優先」と判断し、結果的に部下育成が後回しになります。
特に経営メッセージや評価制度がKPIや売上といった“数値成果”に偏っている傾向があると、育成の優先度は下がります。
管理職にとっては「育成に力を入れても評価されない」「成果さえ出せばいい」という空気が生まれ、育成は“やってもやらなくても変わらない業務”と認識されてしまいがちです。
このような環境では、育成に時間や労力を割くインセンティブが働かず、自然と“放置”が生まれてしまいます。
たとえば、ある企業では評価基準がほぼ営業成績のみで構成されており、管理職はメンバーの売上目標を達成することに集中するあまり、新人のフォローや日々の声かけには一切手が回らない状況が続いていました。
結果として、若手社員からは「誰も成長に関心を持ってくれていない」「放っておかれている」と感じる声が上がり、離職率の上昇という形で現場に影響が出ていました。
「育成は成果につながる投資である」という認識を経営層・管理職ともに共有し、その価値が正しく評価される仕組みを整えることが不可欠です。
育成を“やるかどうか”ではなく“やって当然”とする文化が根づいていくことで、放置のリスクを構造的に減らすことができます。
部下を「放置」してしまうのは、決して管理職個人の怠慢や意識不足だけが原因ではありません。その背景には、組織全体に根づく構造的な課題があります。
だからこそ、育成を管理職の個人任せにするのではなく、組織として「意図して育てる」ための仕組みと文化を整えていくことが不可欠です。
3)管理職が「放置」ではなく「任せる」組織に変えるための対策
部下を放置してしまう背景には、育成のスキル不足、属人化、時間のなさ、育成の価値が伝わらないことなど、さまざまな構造的課題が存在します。
これらを放置したままでは、「たまたま育つ」「たまたま辞める」という運任せの育成状態から脱却できません。
だからこそ、組織として仕組みを整え、管理職が“放置せずに任せる”ための土台をつくることが求められます。
4つの課題ごとに有効な対策を紹介します。
| 課題ごとの対策 | 具体的な取り組み例 |
|---|---|
| ①【育て方を知らない】への対策:育成を学ぶ機会をつくる | ・管理職昇格時に研修を実施 ・メンター制度やナレッジ共有 |
| ②【育成が属人化している】への対策:育成を“型化”し、共通言語にする | ・1on1の型を明文化して全社で共通運用 ・フィードバックや育成記録のテンプレート化 ・育成ラウンドテーブルなどの共有の場を設置 |
| ③【忙しすぎる】への対策:育成の“時間”と“余白”を確保する | ・業務棚卸し&タスク再設計支援 ・育成の予定を週単位・月単位でブロックする ・チーム運営サポート人材との分担体制 |
| ④【育成の価値が届かない】への対策:評価とメッセージを変える | ・育成行動を評価項目に組み込む ・経営層からの定期的なメッセージ ・人事からの“見える化”レポートの発信 |
①【育て方を知らない】への対策:育成を学ぶ機会をつくる
育成を任せられる管理職になるためには、知識だけでなく体験を通じた学びの機会が不可欠です。
育成を任された管理職が「何をどう教えればいいのか分からない」という状態では、意図せず放置が起きやすくなるためです。
育成の学びを支援する具体的な取り組み例は次の2つです。
管理職昇格時に研修を実施
管理職が育成の土台を築くためには、昇格のタイミングで育成について体系的に学ぶ機会を設けることが効果的です。
たとえば、アーティエンスの管理職基礎研修では、時代に合った管理職の役割認識と、チーム力を高めるスキルの習得を目的としています。
研修の中では、管理職に求められる役割や責任を再定義し、コーチングをメインとした育成スキルや評価の基本的な考え方・アプローチを学び、メンバーの主体性を高め成果に繋げるための、育成と評価の基本を体験的に学びます。
また、管理職同士の対話の時間を多く取り入れているため、「自分だけが悩んでいるわけではない」と気づけたり、他部署の工夫からヒントを得られるなど、心理的にも学びやすい設計になっています。
このように、“あり方”(マインドセット)と“やり方”(具体スキル)をセットで習得できるのが本研修の特長です。
メンター制度やナレッジ共有
初めて育成を担う管理職には、実務を通じて学べる仕組みの提供が有効です。
たとえば「育成メンター制度」では、経験豊富な先輩管理職がメンターとして月1回の1on1を実施し、部下への関わり方や困りごとの相談に乗ります。
また、「育成ケース集」では、実際の現場で起きた育成の成功事例・失敗事例をテーマごとに整理。たとえば「自信がない若手への声かけ」「任せた仕事が期待通りでなかったときの対応」など、具体的なシチュエーションごとに先輩たちの対応例や振り返りがまとめられており、育成初心者にとって実践のヒントになります。
育成は、センスや経験だけに頼るものではなく、組織として「学べるもの」にすることが重要です。管理職が育成に自信を持って取り組むために、昇格時の研修や実践に根ざした支援策を通じて、基本的な視点とスキルを体系的に身につけられる環境を整えましょう。
育成の“型”を共有し、実践の中で安心して試せる土壌があれば、管理職は「どう育てればいいか分からない」という不安から解放され、“放置”を防ぎながら、意図的な育成に一歩踏み出すことができます。
②【育成が属人化している】への対策:育成を“型化”し、共通言語にする
育成を属人化させず、誰でも一定レベルの育成ができるようにするには、育成の「型」を整え、全社で共通言語として運用することが重要です。
育成が一部の管理職の経験や個性に依存している状態では、育成の質にばらつきが出てしまうためです。
育成の基本的なやり方を組織で共有する方法として、以下のような取り組みが有効です。
1on1の型を明文化して全社で共通運用
管理職が“我流”で1on1を行ってしまうと、話の内容が雑談で終わってしまったり、フィードバックが一方的になってしまうことがあります。これを防ぐためには、「1on1の型」を明文化し、全社で共通のやり方として運用することが効果的です。
たとえば以下のような項目をガイドライン化します。
目的の明確化:「信頼関係の構築」「内省と気づきの促進」「成長支援」の3つの目的を提示
頻度の統一:月1回30分など、組織としての基本頻度を設定
進め方のフレーム:たとえば「3フェーズ構成(最近どう?→取り組みの振り返り→今後への支援)」のような具体的な流れを提示
あるIT企業では、1on1の目的と進め方を明文化した「1on1運用マニュアル」を導入し、研修とセットで全管理職に展開していました。その結果、1on1の質が安定し、部下からの満足度も改善したそうです。
フィードバックや育成記録のテンプレート化
育成の記録やフィードバック内容を個人のメモや感覚で管理していると、共有や引き継ぎができず、ノウハウも個人の中に埋もれてしまいます。そこで、フォーマットを統一することで、育成の質を「見える化」し、属人化を防ぐことができます。
テンプレート例
・1on1記録シート:話した内容・気づき・次回までのアクションを簡潔に記録できるフォーマット
・フィードバックログ:いつ・どのような場面で・どんなフィードバックをしたかを記録
・育成振り返りシート:部下の成長段階と今後の関わり方を整理できるもの
これらをGoogleフォームやNotionなどで共有することで、他部署の管理職や人事と連携しやすくなり、「育成ができている/できていない」を感覚ではなくデータで把握できるようになります。
育成ラウンドテーブルなどの共有の場を設置
「うちの部下は育てにくい」「他のチームはどうしてるんだろう?」――そんな管理職の悩みを可視化し、ノウハウを共有するための場として「育成ラウンドテーブル」を定期的に開催するのも有効です。
具体的な実施例
月1回の昼休みにオンライン開催(30分)
テーマ例:「若手のモチベーションが上がらないとき」「任せた仕事の質にムラがあるときの対応」
持ち寄る内容:「最近うまくいった育成対応」「困っている部下との関わり方」
こうした場を設けることで、管理職は“孤独な育成”から解放され、「他部署の成功例」「よくある悩みとその対処法」に触れることができ、属人化の解消に繋がります。また、参加者同士のつながりが育ち、自然と“育成の文化”が組織に根づいていく効果もあります。
育成の“型”を整え、共通言語として運用することで、誰が育てても一定の質を担保できる組織になります。
結果として、育成が個人任せではなく、組織の力として機能するようになり、部下の成長を安定的に支えることが可能になります。
③【忙しすぎる】への対策:育成の“時間”と“余白”を確保する
管理職が育成に向き合うためには、プレイヤー業務に追われる状態から脱し、“育成のための時間と余白”を確保することが重要です。
育成に取り組みたくても、「教える時間がない」「任せる余裕がない」という状況が続けば、結局“自分でやった方が早い”という判断に陥り、育成が後回しになってしまうためです。
育成に取り組む“時間”と“余白”を確保するために、以下のような取り組みが効果的です。
業務棚卸し&タスク再設計支援
育成の時間を捻出するには、まずは「やらなくていい仕事」を手放すことが必要です。
たとえば、アーティエンスの管理職基礎研修では、「育成・業務推進・調整・雑務」にタスクを分類し、以下のように整理するワークを行っています。
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やめる:定例の報告資料を月次に変更
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減らす:会議時間を15分短縮し、事前資料で代替
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委ねる:数字集計をメンバーに任せる、問い合わせ対応を分担
こうした棚卸しにより、1週間あたり1〜2時間程度の“育成に使える時間”を生み出した管理職もいます。
育成の予定を週単位・月単位でブロックする
「時間ができたらやる」ではなく、育成をあらかじめ予定に組み込んでおくことがポイントです。たとえば以下のように、育成の時間をスケジュールに入れておくことで、実行率が高まります。
・毎週○曜日の午前に1on1を設定する
・月初に「今月任せたい業務」「育てたいスキル」を整理する
・チーム定例で、部下の育成方針や進捗を共有する
業務の合間にやろうとするのではなく、「育成の時間を先に押さえる」ことがカギです。
チーム運営サポート人材との分担体制
育成をすべて管理職が担うのではなく、チーム内で役割を分担することで負担を軽減できます。たとえば以下のような体制が効果的です。
・副リーダー:新人の業務サポートや質問対応を担当
・OJTトレーナー:専門スキルを育てる指導役として任命
・ペア制度:若手に対して先輩社員をメンターとして設定
このような“育成の共創体制”を整えることで、管理職は全方位に対応する必要がなくなり、限られた時間の中でも育成の質を保つことが可能になります。
管理職が育成に取り組むためには、「時間がないからできない」という悪循環を断ち切り、意図的に“育成のための余白”をつくることが不可欠です。
育成を“余裕があるときにやるもの”ではなく、“日々の業務の中で意図的に取り組むもの”として位置づけることが、放置のない育成文化を根づかせる第一歩です。
④【育成の価値が届かない】への対策:評価とメッセージを変える
いくら「育成が大切」と伝えても、それが管理職にとって実感を伴わない限り、日々の優先順位として上がってこないものです。
特に、評価されるのは「成果」や「数字」ばかりで、「育成しても報われない」と感じてしまうと、育成の取り組みは続きません。
だからこそ、育成に取り組むことが「評価される」「意味がある」と伝わるように、組織全体で“価値の伝え方”を見直すことが必要です。
育成の価値を届けるための具体的な取り組みとして、以下のような方法が有効です。
育成行動を評価項目に組み込む
育成が評価される仕組みを整えることで、管理職が安心して育成に時間を割けるようになります。
たとえば、以下のような育成行動を評価制度に反映することが考えられます。
・部下の目標達成・スキル成長に向けた支援行動(例:1on1、フィードバック、任せ方など)
・チームメンバーのエンゲージメント向上に向けた取り組み(例:動機づけ、適切な役割分担など)
評価制度に育成視点を組み込むことで、「育成は成果を出すための手段であり、自分の評価にもつながる」という意識が醸成されます。
経営層からの定期的なメッセージ
経営層から「育成は経営にとって重要な活動である」と発信してもらうことで、育成の意義が組織全体に浸透しやすくなります。
たとえば、以下のようなメッセージを定期的に発信します。
・社内報や全社朝会で、「育成によって成果を出したチーム」の事例を紹介
・経営メンバーから「育成は成果につながる投資である」といったメッセージを伝達
・マネージャー会議などで、育成に関する取り組みや成功例を称賛・共有
経営からの“公式な後押し”があることで、管理職にとって育成が「単なる人事の言葉」ではなく、「会社としての本気の姿勢」であることが伝わります。
人事からの“見える化”レポートの発信
育成が実際にどう行われているのかを、数値やデータとして可視化することも有効です。
たとえば、人事部が以下のようなレポートを定期的に発信します。
・1on1実施率や育成面談の回数
・離職率と育成実施状況の相関
・部下からの満足度やエンゲージメントの推移
こうしたレポートによって、「育成の質と組織成果が連動している」という気づきを促し、管理職の行動変容にもつながります。
育成の価値を本当に浸透させるためには、「育成することが当たり前」「育成が評価される」という状態を制度・メッセージ・データの3つの面から整えることがカギです。
そうすることで、管理職が育成を“善意”や“余裕のあるときにやること”ではなく、“担うべき役割”として主体的に取り組む土壌が育っていきます。
今回紹介した対策を組み合わせることで、管理職は「放置」ではなく「任せる」育成に取り組めるようになります。
育成は、組織の未来をつくる“戦略的な投資”です。管理職一人ひとりの努力に任せるのではなく、組織全体で育成が機能する仕組みを整えましょう。
4)管理職の部下放置が組織にもたらす5つのリスク
「放置された」と感じる部下が存在することは、個々の関係性の問題にとどまらず、組織全体の健全性や成果にも大きな影響を及ぼします。
特に若手社員にとって、管理職からの関与や支援が薄いことは、エンゲージメントや成長意欲を大きく左右します。
ここでは、管理職の部下放置が引き起こす5つの主なリスクを紹介します。
① 若手の不安・モチベーション低下
② 成長実感・評価実感の喪失
③ 管理職への不信とチームの分断
④ 育成機会の逸失と学習コストの増加
⑤ 離職・採用難の連鎖が始まる
① 若手の不安・モチベーション低下
管理職の関与が不足すると、若手は「放置されている」と感じ、不安とモチベーションの低下を招きます。
若手社員にとって、上司からの声かけやフィードバックは、「自分は見てもらえている」「期待されている」という安心感につながるためです。その関わりがないと、「このままでいいのか分からない」「自分は気にされていないのでは?」という不安が募り、徐々にやる気や主体性を失っていきます。
実際に、ある企業で実施した面談では、若手社員がこう語っていたようです。
「1on1がほとんどなくて、自分の仕事ぶりがどう評価されているのか分からない」「上司と話すのは業務連絡ばかりで、困っていても相談しづらい」。
管理職側には悪気がなくても、関わりの少なさは“無関心”として伝わり、若手の心理的安全性を損なっているのです。
放置は「あなたに関心がない」という無言のメッセージを若手に与えてしまいます。
② 成長実感・評価実感の喪失
管理職から放置され、フィードバックがない状態では、部下は「自分が成長しているのか」「どう評価されているのか」が分からず、不安定な状態に陥ります。
人は成長や貢献を実感することでモチベーションが高まるためです。
特に若手社員は、まだ自分で手応えをつかみにくいため、上司からの一言が重要な指標になります。
しかし、何も言われない・関わりがないという状況が続くと、「放置されている=評価されていない」と受け取ってしまい、自己肯定感も成長意欲も下がっていきます。
ある若手社員は、「何を頑張っても上司から何も言われないので、自分のやり方が合っているのか不安です」と話していました。
「褒めてほしい」わけではなく、「見てもらっている」「気づいてもらえている」という感覚がないことに、モヤモヤしているのです。
結果として、「どうせ何も言われないから、最低限だけやろう」といった守りの姿勢に変化していくケースも少なくありません。
「成長しているかどうか分からない」「評価されている実感がない」という状態は、若手のやる気を奪う最大の要因のひとつです。
③ 管理職への不信とチームの分断
管理職が部下と十分に関わらないことで、不信感が生まれ、チームの一体感が崩れていきます。
部下にとって、上司との関係は職場での安心感や信頼感を左右する大きな要素だからです。
日常的な対話やフィードバックがなければ、「自分のことを理解しようとしてくれていない」「関心を持たれていない」と感じ、不信感が生まれます。
さらに、上司が特定のメンバーとだけ関わっているように見えたり、対応にばらつきがあったりすると、チーム内に“温度差”や“壁”ができてしまいます。
ある企業では、若手社員が「上司には気軽に相談できない」「一部のメンバーとだけよく話している」と感じており、チーム内での連携が悪化していました。
話しかけづらい空気や、上司との距離感によって、本来ならチームで解決できる課題も個人に閉じてしまい、結果的にパフォーマンスの低下や、周囲との関係性の悪化につながっていたのです。
管理職の関与不足は、個人のモチベーション低下だけでなく、チーム全体の信頼と協働を損なうリスクをはらんでいます。
④ 育成機会の逸失と学習コストの増加
管理職による放置は、部下の成長機会を奪うだけでなく、結果として“学習コスト”を押し上げる原因にもなります。
本来であれば、部下がつまずいたときにすぐに声をかけたり、共に振り返ったりすることで、その経験を「学び」に変えることができます。
しかし、必要なタイミングでの関わりがないまま業務が進んでしまうと、ミスや非効率な手順に気づけず、誤ったやり方が定着してしまいます。
改善の機会を逃すことで、結果的に成長スピードが落ち、後から修正にかかる時間や労力が大きくなるのです。
たとえば、ある企業では、若手社員に業務の引き継ぎを任せたものの、上司は「自由にやっていい」と伝えただけで、進捗や理解度を確認する場を設けていませんでした。
その結果、初歩的なミスや手戻りが相次ぎ、修正対応に多くの時間を要する事態に。上司も後になって「もっと早くフォローすべきだった」と振り返っていました。
これは、初期の小さな関わりを惜しんだことで、後からより大きなサポートが必要になる典型的なケースです。
必要な関わりを怠れば、本来早期に得られるはずだった学習成果を逃し、後になって多大な工数や再教育の時間を要することになります。
⑤ 離職・採用難の連鎖が始まる
管理職による放置が続くと、若手はやがて離職を選び、採用や育成の負担がさらに増すという“負の連鎖”が始まります。
若手社員にとって、「見てもらえていない」「成長できる環境ではない」と感じることは、離職を決断する大きな理由になるためです。
しかも、組織として何も変えないまま新しい人材を採用しても、同じ構造が続く限り、またすぐに辞めてしまい、採っては辞められる“悪循環”に陥りやすくなります。
採用市場が厳しさを増す中、こうした「内側の課題」に手をつけずにいることは、大きな組織リスクだと言えるでしょう。
「上司との関係性に悩んでいる」「成長している実感が持てない」といった理由で若手社員の離職が起き、人が辞めるたびに、現場では引き継ぎや採用対応に追われ、ますます余裕がなくなる。そして、忙しさゆえにまた部下との関わりが減り、新たな若手が「自分も見てもらえていない」と感じて辞めていく――。そんな“放置が放置を生む”悪循環に陥ってしまいます。
放置は一見リスクが目立たないものの、確実に若手社員の離職リスクを高める要因となります。
今回紹介したリスクは互いに連鎖し、組織の生産性や人材確保力を長期的に弱体化させてしまいます。
部下への関わりが不足した「放置」状態は、個人の成長を妨げるだけでなく、チームや組織全体に深刻な影響を及ぼすため、適切な対策をとりましょう。
5)まとめ|「任せる」と「放置」の違いを見極め、意図的な育成へ踏み出そう
部下に仕事を任せたつもりが、いつの間にか「放置」になっていた——。
そんなすれ違いは、管理職の育成スキル不足や多忙な業務環境、育成が評価されにくい風土など、さまざまな構造的課題から生まれています。
「見ているつもり」と「見られていないと感じる部下」——このギャップを埋める第一歩は、管理職一人の努力ではなく、組織全体で育成を“仕組み化”することです。
環境づくりが、管理職の不安や負担を軽減し、「任せる育成」へと一歩踏み出す土台になります。
アーティエンスでは、管理職が“育てられる人”になるための管理職研修や仕組みづくりの支援を行っています。
「うちの管理職、なんだか放置気味かも…」「仕組みとして育成を整えたい」そんな方は、ぜひ一度ご相談ください。
放置のリスクを手放し、育成が根づく仕組みづくりを始めましょう。




