管理職向けコーチング研修を失敗させない!4つの基礎と設計ポイント

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「プレイヤーとしては優秀なのに、部下育成となるとうまくいかない…」
「部下の自律性を高めたいけど、管理職が教えすぎてしまう…」
「管理職と部下とのコミュニケーション不足を解消したい…」

そんな“管理職の育成や関わり方の悩み”に課題を感じている方も多いのでは無いでしょうか。

実はいま、管理職には「答えを教える」のではなく、「自ら考え動けるよう支援する」関わり方、つまりコーチング型のマネジメントが強く求められています

コーチングが求められている背景には、大きく2つの時代的な変化があります。

・変化が激しく、正解がない時代へ
従来のように「正解を示し、部下を動かす」マネジメントだけでは対応しきれず、現場で判断・行動できる人材が求められています。コーチングは、その力を引き出すアプローチとして注目されています。

・エンゲージメントと心理的安全性の重視
リモート化や多様化が進む中、「関係の質」「対話の質」が成果に直結するといわれています。経済産業省『人材版伊藤レポート2.0』や、Googleの『プロジェクト・アリストテレス』でも、心理的安全性と対話スキルの重要性が明示されています。

こうした背景から、いま多くの企業が、管理職の“関わり方”をアップデートする手段として、コーチング研修の導入を進めています。

本記事では、
・管理職研修で必ず押さえておくべき4つの基本内容
・現場に根づく研修にするための設計ポイント
・管理職のタイプ別に効果を高めるカスタマイズ方法

を実践例を含めて解説します。

本コラムを読むことで、「自社の管理職研修において、コーチングをどう扱えばいいのか」のイメージが具体的に持てるようになり、企画の検討が一歩前に進みます。

管理職にコーチングスキルを身につけてもらうことで、管理職自身の育成の悩みを軽減するだけでなく、部下・チーム・組織全体に、前向きな変化をもたらしましょう。

執筆者プロフィール
森川 友晴
チェリッシュグロウ(株)代表。業界歴15年以上。大手外食チェーンにて店舗業務、人事部、教育部などを経験した後、アルー(株)に転職。研修教材やコンテンツ開発のマネジメントを行う。 現在は、研修講師、中学高校や企業のカウンセラーとして企業と個人の支援を行っている。

専門性:インタラクショナルデザインコーチング、キャリア開発、メンタルヘルス/レジリエンス

1)管理職向けコーチング研修を失敗させない!4つの基礎

ーチングとは、メンバーの成長を支援するための対話的なコミュニケーションのあり方を指します。特に人材育成の場面で有効とされており、相手の主体性や自発性を引き出す支援的なアプローチが特徴です。

管理職研修でコーチングを取り扱う際には、まず基本的な考え方やスキルをしっかりおさえることが重要です。
基本を理解しないまま実践してしまうと、コーチングの意図がずれてしまい、期待する効果が出ないどころか、メンバーとの信頼関係を損なってしまうリスクもあるためです。最悪の場合、部下の離職につながってしまう恐れもあります。

そこで本章では、管理職研修でコーチングを扱うなら必ずおさえておきたい4つの基本内容をご紹介します。

① コーチングとは何かを理解する
② コーチングのメリットと効果を知る
③ コーチとしての基本スタンスを理解する
④ 実践に必要な3つの基本スキルを身につける

これらの土台を固めることで、研修の効果も高まり、現場での実践にもつながっていきます。

※ 以下、コーチングをする側を「コーチ」、コーチングを受ける側を「コーチイー」と表現します。

① コーチングとは何かを理解する

コーチングの定義を正しく理解していないと、研修の効果が大きく損なわれてしまうため、「コーチングとは何か」を最初にしっかり押さえてもらうことが欠かせません。

特に注意したいのは、「支援的に関わる」というスタイルだけが強調され、「とにかく傾聴すればいい」「やさしく聞けばいい」といった誤解が広がってしまうケースです。

しかし、コーチングとは本来、「コーチイー(相手)の自律的な行動を促す」ことを目的に、支援的に関わるコミュニケーションのあり方を指します。
つまり、「支援的であること」や「傾聴すること」はあくまで手段であり、本質は相手が自ら考え、動けるようになることにあります。

たとえば、ただ丁寧に話を聞くだけでは、相手の行動が変わらないこともあります。
一方で、傾聴に加えて質問やフィードバックを通じて相手の気づきを促した結果、自ら行動に移すようになった、というケースもあるでしょう。

こうした例を使いながら、傾聴=コーチングではないこと、自律的行動を促すことが目的であることを伝えていくことが大切です。

研修では、以下のようなポイントを意識して構成すると効果的です。

・「コーチングとは、自律的な行動を促すために支援的に関わるスタイルである」と定義を伝える
・傾聴は“目的”ではなく“手段”であることを明確にする
・「傾聴だけで終わる関わり」と「自律的な行動につながる関わり」の違いを、具体的な事例で提示する

こうした視点を持ってコーチングに取り組んでもらうことで、現場での実践や成果にもつながっていきます。

② コーチングのメリットと効果を知る

管理職にコーチングの必要性を理解してもらうには、「管理職自身にとってどんなメリットがあるのか」という視点を持ってもらうことが欠かせません。

なぜなら、コーチングは「これまでのやり方」とは異なる新しい関わり方であり、管理職にとっては、指示命令よりも時間がかかる・手間がかかると感じる場面も少なくないためです。
そのため、「それでもやってみよう」と思えるだけの納得感や動機づけが重要になります。

そこで研修では、「メンバーにとって」「組織にとって」だけでなく、「管理職自身にとって」のメリット・効果を特に強調するようにしましょう。

以下に、3つの視点での主なメリットと効果をまとめます。

【管理職にとってのメリット・効果】

メリット 効果
メンバーの育成が進みやすくなる 組織目標の達成やチーム力の向上につながる
自律的に動ける部下が増え、指示・確認の負担が減る 管理職自身の業務負荷も軽減される
組織の目標達成ができるようになる 管理職自身の評価が高まる

【組織にとってのメリット・効果】

メリット 効果
管理職とメンバー間の関係性が向上する 組織内の風通しの向上やハラスメントなどのコンプライアンス問題の抑制に寄与できる
メンバーの主体的な行動が促されるようになる 意見の多様性が高まり、イノベーションが起きやすくなったり、成果につながる行動が増加したりする
社員の組織に対するコミットメントが高まる 成果につながる行動の増加や離職率の低下が期待できる

【メンバーにとってのメリット・効果】

メリット 効果
自分の考えを整理する時間を持てる 主体的に考える習慣が身につく
話を聞いてもらう機会があることで自分の考えを伝える場面が増える 主体的な行動が強化される
自分を尊重してくれていると実感できる 自己肯定感が醸成される

こうした多角的なメリットを伝えながら、特に「管理職自身にとってどんな良い影響があるのか」を実感してもらうことが、コーチングを前向きに取り入れるための大切なステップです。

③ コーチとしての基本スタンスを理解する

コーチングを行ううえで欠かせないのが、「相手の中に答えがある」というスタンスです。

このスタンスは、コーチングが「相手の自律的な行動を引き出すために、そっと支える関わり方」であるという前提に基づいています。

このスタンスを持つことで、管理職は「自分が答えを与える存在」ではなく、「相手が自ら答えを見つけられるように促す存在」として関われるようになります。その結果、メンバー自身が考える習慣がつき、自発的な行動や成長を引き出すことにつながっていきます。

管理職に求められるのは、「相手の中に答えがある」と信じ、可能性を尊重しながら寄り添う姿勢です。

ただし、管理職研修でコーチングを扱う際には「相手の中に答えがある」というコーチングスタンスを扱うことと同時に「相手の中に答えがない場合にはコーチング以外の対応をする」ということを強調して伝えることが重要です。

なぜなら、現場ではメンバーが情報や知識、経験をまだ十分に持っておらず、「考えたくても考えられない」場面が多々あるからです。
このような場合、コーチングに固執して問いかけを繰り返すと、メンバーにとっては“詰問”のように感じられ、かえって萎縮や混乱を生んでしまいます。

イメージしやすいよう、具体的な場面を提示します。

質問ではなく詰問になってしまったコーチング

コーチングからティーチングへスムーズに移行するコーチング

このように、「相手の中に答えがある」場合はコーチングで、「相手の中に答えがない」場合はコーチング以外の対応をすることをスタンスとして管理職に認識してもらうことが重要です。

④ 実践に必要な3つの基本スキルを身につける

管理職が現場でコーチングを実践するためには、「傾聴」「質問」「話の進め方」の3つの基本スキルを身につけておくことが欠かせません。
これらを身につけていないと、コーチングが機能せず、メンバーの自律的な行動を引き出すことができないためです。

それぞれのスキルには研修で扱うべき重要な観点があるため、詳しく説明します。

傾聴

コーチングにおいて傾聴は、単に「聞く」ことではなく、相手に安心感を与え、自分の内側と向き合ってもらうための大切なスキルです。特に、以下の2つの観点から傾聴を捉えることが重要です。

①「聴いてもらえている」と伝わる態度
効果的な傾聴は、コーチイー(部下)が「自分の話をちゃんと聴いてもらえている」と感じられるかどうかがポイントです。
この安心感があると、コーチイーは自分の中の考えや想いに意識を向けられるようになり、自律的な行動へとつながっていきます。

一方で、「聴いてもらえていない」と感じてしまうと、コーチの意図を気にするようになり、本来向き合うべき“自分の内面”に集中できなくなってしまいます。

②「相手を理解しようとする」聴き方
もう一つ大切なのは、コーチが相手の性格や価値観、背景を理解しようとしながら話を聴く姿勢です。
これにより、どんな質問が有効か、どのような承認の言葉が響くかが見えてきます。結果として、より効果的なコーチングが実現しやすくなります。

傾聴スキルを身につけることで、安心感を育み、相手の内面に意識を向けさせることができ、自律的な行動を促すコーチングを行えます。

質問

コーチングにおいて「質問」は、相手の思考を整理し、自ら答えに気づくための強力な手段です。特に扱うべきは、「整理する質問」と「枠を広げる質問」です。

① 整理する質問
考えが混乱していたり、堂々巡りをしている状態のコーチイーに対して、「整理する質問」は思考を落ち着け、重要なポイントに焦点を当てるサポートになります。

たとえば、以下のような質問が有効です。

「今の話の中で、優先順位をつけるとしたらどうなりますか?」
「この状況を“良いこと”と“課題”に分けると、どう整理できますか?」

こうした質問を通じて、コーチイーの思考に“整理の基準”が生まれ、行動に向けた一歩が踏み出しやすくなります。

② 枠を広げる質問
コーチイーが特定の視点に囚われ、視野が狭くなっているときには、「枠を広げる質問」が効果的です。
これにより、物事を別の角度から捉え直し、新たな気づきを得ることができます。

たとえば、以下のような質問があります。

「もし3年後の自分が今の自分にアドバイスするとしたら、何と言いそうですか?」
「相手の立場からこの状況を見たら、どのように映ると思いますか?」

こうした問いかけは、視点・視座・視野を広げ、柔軟な思考や新しい行動選択を生み出すきっかけになります。

話の進め方

コーチングでは、話し手である部下(コーチイー)が自分の考えや感情を深めていけるよう、「話の進め方をマネジメントすること」と「話す内容は部下に任せること」の両方が重要です。

① 話の進め方のマネジメント
「自由に話していいよ」と伝えるだけでは、単なる雑談で終わってしまう可能性があります。
効果的なコーチングにするためには、話の順序や進め方をコーチがマネジメントし、部下の思考が整理され、自律的な気づきにつながるように支援することが欠かせません。

その代表的な手法が「GROWモデル」です。

Goal(目標):「今の課題は、どうなったら“うまくいった”と言える?」
Reality(現状):「理想に対して、今はどんな状態?」
Options(選択肢):「その差を埋めるために、どんな方法が考えられる?」
Will(意思):「その中で、どれをやってみようと思う?やれそう?不安なことはある?」

このように、コーチが対話の流れをマネジメントすることで、部下の内省を深め、行動につなげることができます。

② 話す内容は任せる
話の流れを整えることは大切ですが、話の中身までコーチが誘導してしまうと、コーチングではなく“誘導”や“押しつけ”になってしまいます。

たとえば、GROWモデルの「Goal(目標)」において、部下が考えた目標が自分の理想と違うからといって、「もっとこうすべきでは?」と方向転換を促してしまうと、部下の自律性を損なう結果になります。

部下の考えるGoalが「適切ではない」と感じたときは、場合に合わせて以下のような対応をすることをおすすめします。

●チーム運営に支障をきたす場合(=調整が必要なとき)
部下の目標がチーム全体の方針と大きくずれている、もしくは実行すれば明らかに支障をきたすような内容である場合は、コーチングではなく「合意形成の対話」が必要です。
このときは、上司としての立場でしっかりと方向性をすり合わせましょう。

●ベストではないが、許容できる場合
「もっと良いやり方がある」と思ったとしても、部下の考えがある程度妥当で、組織として許容できるものであれば、あえてその考えを尊重することが大切です。
コーチングで大事なのは、“正解”を教えることではなく、部下が「自分で考え、決め、動いた」経験を積むことです。
そうした体験が、部下の自律性と成長を後押しします。

このように「話の流れは整えるが、何を話すかは本人に委ねる」ことが、相手の主体性を尊重したコーチングの基本です。


管理職がコーチングを実践するうえで大切なのは、「自律的な行動を引き出すために、支援的に関わる」という本質を理解し、そのためのスタンスとスキルを身につけることです。
これらの視点を土台にすることで、コーチングは単なるコミュニケーションスキルではなく、組織の成長やチーム力の向上を支える「実践的なマネジメント手法」として活かせるようになります。

2)現場に根づく!管理職向けコーチング研修3つの設計ポイント

管理職研修でコーチングを扱う際の進め方は、下記の3つのプロセスで行います。

① 目的と課題を明確にし、コーチングの必要性を見極める
② 育成課題やリソースに合わせて、何をどこまで扱うかを設計する
③ 学びを定着させるための組織内フォローを設計する

それぞれ説明していきます。

① 目的と課題を明確にし、コーチングの必要性を見極める

管理職研修でコーチングを扱う際の進め方として、「目的」と「課題」を明確にし、コーチングが本当に必要かどうかを見極めることが重要です。

なぜなら、コーチングはすべての問題を解決する万能なカギではなく、主に“メンバー育成”に効果的なアプローチだからです。目的が曖昧なまま進めてしまうと、研修の効果が出づらく、現場での実践にもつながりにくくなってしまいます。

たとえば、「メンバーの主体的な行動を増やしたい」という課題がある場合、次のような手順で検討してみましょう。

〈具体的な検討ステップ〉
1、解決したい課題と、理想とする状態(=解決像)を定義する
       例 )課題:メンバーの主体的な行動を増加させたい
     解決像:メンバーが会議の場面で自分の意見を発信する回数が増えている
2、どのような状態になれば「解決した」と言えるかを言語化する
3、そのうえで、「この課題と解決像に対して、本当にコーチングが適切か?」を問い直す

コーチングの必要性を見極める際は、以下のような問いが役立ちます。

〈検討するための問い〉
・「管理職がコーチングを学ぶことでこの解決像に向かうことができるのか?」
・「メンバーへのアプローチ(例:メンバーへの研修など)ではなく、コーチングの方が有効だと思うのはなぜ?」
・「心理的安全性などの組織文化の整備が先に必要なのではないか?」 
など

このように、目的と課題を具体化した上で、「コーチング」という手段が最適かを冷静に見極めることが、成果につながる研修設計の第一歩です。

【参考コラム】
もう迷わない!管理職研修は4種類!おすすめ研修内容一覧表付き

② 育成課題やリソースに合わせて、何をどこまで扱うかを設計する

管理職研修でコーチングを扱うと決めた後に重要なのが、「どこまで、どのように扱うか」を設計することです。

なぜなら、時間や人手、予算といったリソースには限りがあり、それらを最大限に活かすには“扱う内容とボリューム”を戦略的に決める必要があるからです。

目的に対して効果的な範囲を見極めることで、研修の納得感と実行可能性が大きく変わってきます。

〈具体的な検討ステップ〉
1、基本内容をベースに、目的・ゴールに応じた内容を検討する
1章で解説したコーチングの基本項目を確認した上で、研修の目的・ゴールに合わせて、扱うテーマを検討します。

2、程度の深さ・範囲で扱うか(=ボリューム)を検討する
コーチングに使える研修時間や、他のプログラムとの兼ね合い、受講者の経験レベルに応じて、重点的に扱う内容と、簡単に触れる程度にとどめる内容を整理

1、基本内容をベースに、目的・ゴールに応じた内容を検討する

コーチング研修の設計では、研修の目的やゴールに合わせて、「基本の中からどの内容を扱うか」を選ぶことが大切です。
コーチングには、傾聴・承認・問いかけなど複数の要素がありますが、すべてを同じ深さで扱うのは現実的ではありません。限られた時間の中で、目的に直結するテーマに絞ることで、研修の効果が高まります

たとえば、「社員の主体性を育てたい」という課題があるなら、スキルの前に、「コーチングを通じてなぜ主体性が育つのか?」という考え方や効果の理解(=メリットの整理)を丁寧に扱う方が良いでしょう。

一方で、管理職間の信頼関係が課題なら、「承認」や「対話の質を高める問いかけ」に時間をかける設計が有効です。

このように、同じコーチングでも、目的によって重視する内容は変わります。

目的や課題に合わせて「どの項目を深く扱うか」を見極めることが、研修の効果を最大化するために欠かせません

2、程度の深さ・範囲で扱うか(=ボリューム)を検討する

扱う内容が決まったら、それをどの程度の深さ・広さで扱うかを検討し、目的に対して最適な“時間のかけ方”を設計することが重要です。

コーチングを含む研修テーマは、限られた時間で行われることが多いため、すべてを均等に扱うと「広く浅く」になりがちです。目的に直結するテーマに時間をかけ、その他の要素は絞ることで、理解と実践につながる設計になります。

たとえば、「社員の主体性を育てたい」という目的に対しては、基本スキルに入る前にコーチングを扱うメリットと効果を、管理職・組織・メンバーという3つの視点から丁寧に扱う時間を確保する設計が有効でしょう。

このように内容と構成を検討することで、必要な時間やワークの量が明確になります
扱うボリュームを考える際は、以下のような問いが役立ちます。

〈検討するための問い〉
・「管理職研修でコーチングを扱う時間は最大で5時間が限界である。そうであるなら事前事後で何かできることはあるだろうか」
・「研修の効果を上げるために研修以外のアプローチ(例えばプロのコーチにコーチングを受けるなど)は何が良いだろうか?」
・「管理職以外の変化を促す必要はあるだろうか。あるとすると、どの対象にどういった対策が妥当だろうか?」 
など

すべてを一度に盛り込むのではなく、限られた時間やリソースの中で、どのテーマに重点を置くかを明確にすることが、研修の納得感と実効性を左右します。

③組織によるフォロー体制を整える

最後に大切なのが、研修後のフォロー体制を組織としてどう整えるかを決めることです。
コーチングは、一度の研修で身につくようなスキルではありません。実際に現場で実践し、試行錯誤を重ねながら少しずつ自分のものにしていく、時間のかかるスキルです。

筆者自身も、傾聴だけでも3ヶ月くらい練習を続けてようやく「なんとなく相手に集中して聴くことができたかも」と感じられた程度で、それだけ実践と継続が必要な領域だと実感しています。

だからこそ、コーチングを継続的に実践してもらうための仕組みを、組織として用意しておくことが欠かせません。具体的には、以下の2つの観点でフォローを検討すると効果的です。

1、モチベーションを維持するためのフォロー

管理職が研修で学んだことを実践し続けるには、「やっても意味がある」と思える環境づくりが必要です。

・組織として、短期的な成果ばかりを求めない姿勢を示す
・目標管理の中に「部下育成」や「関係構築」などの項目を盛り込む

こうした工夫により、管理職がコーチングに取り組むことが、評価や成果にもつながるという感覚を持てるようになります。

2、実践を支える環境をつくる

学んだことを現場で使い続けられるよう、日常的にコーチングが活かせる場や仕組みを整えることも重要です。

・1on1ミーティングなど、メンバーと対話する機会を定期的に設ける
・勉強会や実践共有の場をつくり、他の管理職と学び合う文化を育てる

一人で黙々と続けるのではなく、仲間と支え合える環境があることで、実践は継続しやすくなります。


このように、モチベーションと実践環境の両面からフォローを行うことで、コーチング研修は“学びっぱなし”で終わらず、実践を通じて定着していきます。

コーチングは、非常に有効なコミュニケーションスキルである一方、研修だけで身につけるのは難しく、組織の継続的な支援が必要です。


コーチングは一度の研修で完結するものではなく、実践と継続を通じて少しずつ身についていくスキルです。そのため、組織として継続的に実践できる環境や仕組みを整えることが、管理職の行動変容と定着に欠かせません。

コーチング研修を一過性のイベントで終わらせず、成果につながる継続的な取り組みにしていくためにも、「組織としてどう支えるか」を丁寧に設計していくことが重要です。

【参考コラム】管理職研修の必要性を見極める軸と、実施を妨げる要因への対策を紹介

▼動画でもじっくり解説中!

3)管理職の課題別|コーチング研修カスタマイズ方法

コーチングは人材育成に有効な手法ですが、それだけで課題をすべて解決できるわけではありません。だからこそ、管理職や組織が抱える課題に応じて、研修内容をカスタマイズすることが大切です。

以下に、課題別に取り入れたい工夫をご紹介します。

課題 コーチング研修でのカスタマイズ内容
育成の基本が身についていない 人材育成全体の基本スキルの整理と実践練習を取り入れる
支援的なコミュニケーションに慣れていない 支援的に関わられる体験を通じて、コーチングの価値に気づくきっかけをつくる
1on1が形骸化している 管理職自身が「関わられた感覚」を体験し、具体的な実践方法を学べるようにする
メンバーの主体性を引き出せない 主体性を育てることの意義に気づくワークを取り入れる

① 育成に悩む初級管理職には|基本スキルの整理と実践練習を

まだ経験の浅い管理職に対しては、コーチング単体ではなく、人材育成全体を扱う設計が効果的です。
なぜなら、コーチングは育成手法の一つでしかなく、ティーチングやフィードバックなどとのバランスを理解しないままでは、現場での対応に迷いや偏りが生じやすいためです。

具体的には、以下のような工夫が有効です。

・「教える(ティーチング)」「フィードバック」「コーチング」の違いや、それぞれを活用すべき場面を整理して伝える

・管理職が状況に応じた関わり方を選べるようになるためのケーススタディやロールプレイを実施する

こうした設計により、初級管理職でも“その場に合った育成行動”を取れるようになり、現場の育成力が底上げされます。

② 支援的関わりができない管理職には|関わられる体験を通じた気づきを

支援的なコミュニケーションに慣れていない管理職には、まず研修内での体感を通じて支援的な関わりの価値を実感してもらうことが重要です。

なぜなら、これまで支援的に接してもらった経験が少ない管理職にとっては、「支援的に関わる」という行動がイメージしづらく、必要性も実感しにくいからです。
人は、自分が体感したことのないものを実践することは難しく、その価値も伝わりにくいものです。

具体的には、以下のような工夫が有効です。

・研修講師が、受講者に対して支援的に関わることで、その“関わられ方”を体感してもらう

・研修とは別に、管理職自身がプロのコーチングを受け、支援的関わりを受ける体験をする

こうした体験を通して、支援的な関わりの効果を実感できるようになることで、管理職自身がコーチングの必要性と実践の意義を自然に受け入れられるようになります。

③ 1on1が形骸化している管理職には|対話の質を高める実践設計を

メンバーとの信頼関係を築くためには、日常的な対話の質を高める支援的なコミュニケーションの習得が欠かせません。
メンバーとの信頼関係を深め、日常的な対話の質を高めるうえで、「1on1ミーティング制度」をうまく活用することは非常に有効です。

しかし実際には、「何を話せばいいか分からない」「結局、雑談で終わってしまう」といった悩みを抱える管理職も少なくありません。

その背景には、1on1の目的や進め方に対する理解が不十分なまま運用していることや、支援的な対話のスキルが習得できていないことが挙げられます。

そこで研修では、以下のような工夫が有効です。

・講師が支援的な姿勢で接することで、管理職自身が「関わられた感覚」を体験する

1on1ミーティングの目的(信頼構築・成長支援・キャリア対話など)に応じた問いかけや聴き方を実践形式で学ぶ

1on1でよくあるシーン(悩みの引き出し・フィードバック・モチベーション低下時の対応など)を使ったロールプレイで実践力を高める

こうした設計によって、管理職が「話を聞く側のスタンス」や「問いかけの意味・効果」を体感し、日常のコミュニケーションの質が自然と高まっていきます。

結果として、1on1ミーティングが単なる定例面談ではなく、メンバーの内側から意欲や主体性を引き出す場として機能するようになります。

④ メンバーの主体性を引き出せない管理職には|育成の意味づけと促進設計を

社員の主体性を育むためには、管理職自身が“主体性を育てることの意義”を深く理解することが必要です。

そのためには、コーチングの基本スキルだけでなく、「コーチングによってどんな効果が生まれるのか」を、管理職・組織・メンバーの3つの視点から丁寧に伝えることが重要です。
なぜなら、管理職の置かれている状況によっては、「主体性を育てることが本当に必要なのか?」と感じにくいことがあるからです。

たとえば、短期的な成果が強く求められる現場や、新人・未経験者が多い職場では、「指示命令で動いてもらった方が早い」と考える管理職も少なくありません。
そのような状態の中で、「コーチングは主体性を高めるために効果的です」と伝えても、ピンとこないのが現実です。

そのため、以下のような工夫が有効です。

・「主体性が高まると、管理職・組織・メンバーにどんな良い変化があるのか」をワークなどを通じて自ら考えてもらう

・長期的な視点から、「任せて育てる」ことの意義をストーリーとして伝える

・現場のリアルに即した「あるある課題」と「コーチングの効果」の接続点を言語化する

こうした設計により、管理職は“なぜ主体性を育てる必要があるのか”を納得した上で、コーチングに前向きに取り組む姿勢を育んでいくことができます。

4)まとめ|管理職向けコーチング研修なら、アーティエンスにご相談を

本コラムでは、
管理職研修で扱うべきコーチングの基本内容
・現場に根づく研修にするための3つの設計ポイント
・管理職の課題に応じたカスタマイズの方法
について、具体的にご紹介しました。

コーチングは、メンバーの自律性や主体性を引き出すための有効なアプローチです。しかし、「基本的な知識やスキルを押さえずに取り組んでも効果が出ない」「一度の研修では定着しない」といった声があるのも事実です。

だからこそ、管理職の課題や現場の状況に合わせて、丁寧に設計された研修が必要です。

アーティエンスでは、貴社の現状や課題を丁寧にヒアリングしながら、今必要な内容を見極め、制度設計から管理職研修の実施・定着支援までを一貫してご支援しています。

「うちの管理職に、今コーチングは必要なのか?」
「限られたリソースでも成果につながる研修にしたい」
そんなお悩みがありましたら、ぜひ一度ご相談ください

管理職の変化が、組織を大きく前進させます。その変化を後押しするできるコーチング研修を、ぜひ一緒に設計しましょう。

参考:コーチングのスキルアップトレーニング(初心者向きの方法と手順)