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管理職研修で扱うべきメンタルヘルス6大必須テーマ【専門家が解説】
更新日:
「管理職向けにメンタルヘルス研修を実施したいけれど、何を教えるべきか、どこまで踏み込めばいいのか分からない」
「若手のメンタル不調が気になる。でも、管理職にどう関わらせればいいのか分からない…」
――そんなお悩みを抱えていませんか?
多くの人事・経営者から「メンタル不調者が出てからでは遅い。でも、どうすればメンタル不調の予防につながる研修にできるのか分からない」という声を伺います。
実際、メンタルヘルスの問題は、早期対応が極めて重要です。
現場社員と日常的に接している管理職に、適切な知識と対応スキルを持たせることは、予防や早期発見に非常に効果的であり、管理職向けのメンタルヘルス研修はそのための有効な手段といえます。
しかし同時に、メンタルヘルスは人の「心」に深く関わる繊細なテーマ。
ただ知識を教えれば良い、というものではなく、研修の設計や伝え方には十分な慎重さが求められます。
そこで本コラムでは、公認心理師・産業カウンセラーであり、企業の研修設計に携わってきた筆者が、専門家の視点から以下のポイントを詳しく解説します。
・管理職研修でメンタルヘルスを扱う際に欠かせない6つのテーマ
・管理職が“自分ごと”として学べるようにする研修前の仕掛け
・メンタルヘルス研修を実施する際の注意点と配慮のポイント
管理職がメンタルヘルスに関わることは、特別なことではなく、日々のマネジメントの延長線上にあります。管理職に正しいメンタルヘルスの知識とスキルを身につけてもらい、社員のメンタルヘルス不調を防止しましょう。
専門性:インタラクショナルデザインコーチング、キャリア開発、メンタルヘルス/レジリエンス
1)管理職研修で扱うべきメンタルヘルスの6つのテーマ
メンタルヘルスに関する研修を管理職に実施する際は、次の6つのテーマをすべてカバーすることが重要です。
【管理職研修で扱うべきメンタルヘルスの6つのテーマ】
① 管理職がメンタルヘルスを扱う必要性への理解
② ラインケアの基本
③ 主なメンタルヘルスの問題の基礎知識
④ メンタルヘルス問題の早期発見と適切な対処法
⑤ 部下とのコミュニケーションの取り方
⑥ 管理職自身のメンタルヘルスケア
これらのテーマのうち、いくつかだけを取り上げた研修では、「理解した」で終わってしまい、行動の変化につながらない恐れがあります。
管理職がメンタルヘルスを“自分ごと”として捉え、現場で具体的な行動につなげるためには、6つのテーマすべてをバランスよく押さえることが重要です。
なぜこの6つのテーマが必要なのか、理由とあわせて説明していきます。
① 管理職がメンタルヘルスを扱う必要性への理解
管理職研修でメンタルヘルスを扱う際に、最も重視すべきなのが「なぜ自分がメンタルヘルスに関わる必要があるのか」という“必要性の理解”です。
必要性を感じられなければ、研修内容に興味を持つことも、自分ごととして受け止めることもできず、行動変容にはつながりません。
そのため、少なくとも以下の3つの観点を研修で扱うことが重要です。
・管理職の「役割」として必要であること
・管理職は「従業員に影響を与える立場」であること
・メンタル不調は「部署全体や経営にも悪影響を及ぼす」こと
管理職の「役割」として必要であること
管理職には法令として部下の心身の健康に配慮する「安全配慮義務」を担う必要があります。
また、厚生労働省が定める「労働者の心の健康の保持増進のための指針」においても、ラインケアの担い手として、メンタルヘルス推進に重要な役割を果たすことが求められています。
つまり、メンタルヘルスへの関わりは「できればやること」ではなく、「管理職として果たすべき当然の役割」なのです。
管理職は「従業員に影響を与える立場」であること
管理職は日々の業務において、部下に仕事の量・質・期限などを指示しており、その仕事の与え方ひとつで、部下の心理的なストレスレベルは大きく変わります。
たとえば、
・長時間労働が続く
・責任が重く自由度のない業務が多い
・周囲のサポートが得られにくい
といった環境では、部下がメンタル不調に陥るリスクが高まります。
そのため、管理職には「自分の関わり方が部下の健康に影響を及ぼす」ことを自覚してもらう必要があります。
メンタル不調は「部署全体や経営にも悪影響を及ぼす」こと
一人のメンタル不調によって、以下のような組織的影響が生じることがあります。
・休職に伴う人員不足や引き継ぎの負担
・新たな採用・教育コストの発生
・チーム内の業務バランスの崩れや士気の低下
メンタル不調の発生は、本人だけでなく部署運営や経営全体にも大きなコストと負荷を与えます。今は問題がなくても、いざという時の影響が大きいからこそ、「未然に防ぐ」視点での対応が必要です。
このように、「役割」「影響力」「組織への影響」という3つの視点から“なぜ必要なのか”を伝えることで、管理職がメンタルヘルスに興味を持ち、当事者意識を持って取り組むきっかけをつくることが重要です。
② ラインケアの基本
管理職研修でメンタルヘルスを扱う際に、「ラインケア」の基本を扱うことが欠かせません。
ここでのポイントは、管理職が“どこまでやるべきか”という役割の範囲を明確にすることです。
(参考)ラインケアとは
厚生労働省が定めた「労働者の心の健康の保持増進のための指針」のなかに出てくる以下の4つのケアの中の一つのことです。
・労働者自身によるセルフケア
・管理監督者におけるラインケア
・事業場内の健康管理担当者による「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」
・事業場外の専門家による「事業場外資源によるケア」
このうち「ラインケア」とは、職場の管理監督者(=ライン)によるケアのことを指します。部署単位やチーム単位で、部下と日々接している管理職が担うメンタルヘルス対応です。
ラインケアの範囲を理解することで、「自分はここまでやればいい。他の部分は専門家に任せればいい」と安心して役割を果たせるようになります。
この“安心感”が、「自分にもできそう」という感覚につながり、行動を後押しします。具体的に、ラインケアで管理職が実践すべき代表的な2つの取り組みを紹介します。
管理監督者による部下への接し方
ラインケアの実践において、管理監督者が意識すべき接し方のポイントは大きく3つあります。
●「いつもと違う」部下の変化に気づき、対応する
たとえば、遅刻が増える、口数が減る、表情が乏しくなるなど、これまでと違う様子にいち早く気づくことが大切です。違和感を見逃さず、早めに声をかけて対応します。
●部下からの相談に適切に対応する
日常のちょっとした相談にも丁寧に向き合いましょう。特に長時間労働や業務負荷が高い部下には、こちらから積極的に声をかけ、傾聴や産業医の受診を促すなどの対応が求められます。
●メンタル不調からの職場復帰を支援する
メンタル不調からの復職の際には、本人の不安をしっかり受け止め、段階的に職場に戻れるよう配慮しましょう。無理のないステップで支援することが、再発予防にもつながります。
これらの3つの接し方は、特別なスキルを必要とするものではなく、日々の観察力とちょっとした声かけ、そして相手の立場に立った対応が基本です。
管理職がこうした姿勢を持つことで、部下は「見てもらえている」「気にかけてもらえている」と感じ、メンタル不調の予防や早期対応につながります。
ラインケアは、日常のコミュニケーションの延長線上にある“実践可能なケア”であることを理解し、安心して取り組めるようにすることが大切です。
職場環境等の改善を通じたストレスの軽減
アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の提言に基づき、以下のような職場環境づくりが推奨されます。
①過大あるいは過小な仕事量を避け、仕事量に合わせた作業ペースの調整ができること
②労働者の社会生活に合わせて勤務形態の配慮がなされていること
③仕事の役割や責任が明確であること
④仕事の将来や昇進・昇級の機会が明確であること
⑤職場でよい人間関係が保たれていること
⑥仕事の意義が明確にされ、やる気を刺激し、労働者の技術を活用するようにデザインされること
⑦職場での意志決定への参加の機会があること
これら7つの視点は、職場環境を整えることでストレスを未然に防ぐための具体的なヒントです。
管理職が日常的に職場の状態に目を配り、業務量や人間関係、役割の明確さなどに気を配ることで、部下のストレスを軽減しやすい職場が生まれます。
ストレスの多くは、本人の性格や能力ではなく、環境とのミスマッチによって生じるもの。だからこそ、環境づくりは管理職が取り組める“予防的ラインケア”の一つです。
③ 主なメンタルヘルスの問題の基礎知識
管理職には、職場で発生しやすいメンタルヘルスの問題や精神疾患について、基本的な知識を持ってもらうことが大切です。
知識があることで、部下の状態の違和感に気づくことや、休職時の対応や復職時の対応ができるようになるからです。
主なメンタルヘルスの問題の基礎知識を学ぶことは、初めて聞く用語や症状も多く、理解のハードルが高く感じられがちです。
そのため、どれだけわかりやすく、身近な例を出しながら講師が伝えることができるかが、メンタルヘルスを「理解しやすく」するポイントです。
■ 管理職として押さえておきたい主なメンタルヘルスの問題
・うつ病
・双極性障害(躁うつ病)
・統合失調症
・パニック障害・不安障害
・適応障害
・睡眠障害
・依存症(例:アルコール依存症)
・発達障害(自閉スペクトラム症、ADHDなど)
研修会社によっては、発達障害についてあまり触れないこともあるかもしれませんが、発達障害は企業の中でしばしば周囲から問題行動として見なされるケースが多いです。
発達障害の特性により、周囲とのコミュニケーションや業務の進め方にギャップが生じ、それがストレスとなって精神疾患を引き起こすこともあります。評価が不当に下がったり、職場内で孤立してしまうケースも少なくありません。
そのため、メンタルヘルスの研修では、発達障害についても含めて学ぶことをおすすめします。管理職が正しい理解を持つことで、誤解や偏見によるトラブルの防止や、支援のきっかけづくりにつながります。
④ メンタルヘルス問題の早期発見と適切な対処法
管理職研修でメンタルヘルスを扱う際には、ラインケアの中でも特に重要な「いつもと違う」部下の変化に気づき、状態の見極め方や声のかけ方などを具体的に学び、練習しておくことが重要です。
「違和感に気づくことが大切」と頭ではわかっていても、実際にどんな行動を取ればよいかが明確でないと、現場で動けないためです。
具体的には、「いつもと違う」部下の様子とはどのような状態かを提示します。
「いつもと違う」部下の様子の一例
・遅刻、早退、欠勤が増える
・休みの連絡がない(無断欠勤がある)
・残業、休日出勤が不釣合いに増える
・仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する
・業務の結果がなかなかでてこない
・報告や相談、職場での会話がなくなる(あるいはその逆)
・表情に活気がなく、動作にも元気がない(あるいはその逆)
・不自然な言動が目立つ
・ミスや事故が目立つ
・服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする
これらはあくまで「一例」ですが、普段との違いに早く気づくことが、早期対応のカギとなります。
変化に気づいたときに管理職がとるべき対応は、大きく2つのステップに分かれます。
「いつもと違う部下の様子」に気づいた時の対策
① 聞くこと(状況を把握する)
まずは本人の話をじっくりと聴く姿勢が大切です。
決めつけやアドバイスではなく、「どうしたの?」「何か気になっていることある?」といった対話を通じて状況を理解します。
② 繋げること(適切な支援先へつなぐ)
産業医や医師、または社内のカウンセラー・保健師・看護師などにつなぐ対応が必要です。企業によっては一次対応を社内の保健スタッフが担い、その後専門医へつなぐ体制が整っている場合もあります。
現場では、「どこまで自分が関わるべきか」「専門的な対応はどうすればよいか」に迷うことも多くあります。
だからこそ、研修内で見極めの視点と基本対応の流れをあらかじめ身につけておくことで、いざという時にも落ち着いて対応できるようになります。
⑤ 部下とのコミュニケーションの取り方
普段から行っておくとよいコミュニケーションのあり方についても扱いましょう。
日常的に信頼関係が築かれていれば、部下は管理職に自分の状態を相談しやすくなり、安心して働くことができるからです。
特に、実践しやすいスキルとして効果的なのが「ストローク」です。
ストロークとは、「私はあなたを気にかけていますよ」というサインを相手に送る行為のことです。
人は誰しも、「自分を認識してほしい」「気にかけてほしい」という基本的な欲求を持っています。その欲求が満たされることで、安心感や信頼が生まれ、相手への好意や協力的な態度にもつながります。
日常の中で、以下のようなちょっとした行動がストロークになります。
(参考)ストロークの例
・相手の顔を見て挨拶する
・メールやチャットにできるだけ早く返信する
・声をかけられたら、パソコン画面を見たままではなく、顔を向けて応じる
・相談を受けるときは、相手のほうに身体を向け、しっかり聴く姿勢をとる
・話を聞いている最中に、うなずきや相づちで反応を返す
こうした小さなやりとりの積み重ねが、「この人は自分に関心を持ってくれている」「何かあっても話せそう」という安心感を生み出します。
その安心感こそが、部下のメンタルヘルスを守るための土台となります。
⑥ 管理職自身のメンタルヘルスケア
管理職研修でメンタルヘルスを扱う際には、管理職自身がメンタル不調にならないようにセルフケアについて学ぶことも大切です。
管理職は部下を支える立場であると同時に、自身も強いストレスにさらされやすい存在です。だからこそ、自分自身の心と体の状態に目を向け、適切にケアすることが必要不可欠です。
具体的なセルフケアとして、「自分の状態に気付く」ことと「4つのRを取り入れる」ことをおすすめします。
自分の状態に気づく
まずは、自分の心身の変化に敏感になることがセルフケアの第一歩です。以下のような視点から、自分の状態を定期的に振り返ってみましょう。
・睡眠:よく眠れているか? 寝つきや途中覚醒はどうか?
・食事:食欲はあるか? 美味しく食べられているか? 食事を楽しめているか?
・活動性:以前楽しんでいた趣味を続けられているか? やる気が出ているか?
ちょっとした違和感に早めに気づけることが、不調の予防につながります。
4つのRを取り入れる
セルフケアを実践するうえで、以下の「4つのR」を意識するのがおすすめです。
・リラクゼーション(Relaxation)
心と体のバランスを整えるリラックス法を取り入れる
例:腹式呼吸、アロマセラピー、瞑想など
・レスト(Rest)
体をしっかりと休め、疲労を回復させる
例:十分な睡眠、マッサージ、昼寝など
・レクリエーション(Recreation)
楽しさや笑いを通じて心をリフレッシュする
例:スポーツ、カラオケ、キャンプ、映画鑑賞など
・リトリート(Retreat)
日常から離れ、静かな環境で過ごす
例:旅行、森林浴、温泉など
管理職が自分自身を大切にできてこそ、周囲への配慮やサポートも余裕を持って行えるようになります。
「まずは自分を整えること」も、マネジメントの大切な一部であることを、研修を通じてしっかり伝えていきましょう。
管理職自身のメンタルヘルスに関しては、弊社コラム「もう限界!管理職が潰れる4つの原因・2つのシグナルを知る」にて記載しています。あわせてお読みいただけますとより深く理解できます。
また、以下のホワイトペーパーでは、管理職が潰れる前の2つの兆候と取るべき行動についてまとめています。
管理職向けメンタルヘルス研修で扱うべき6つの内容をご紹介してきました。
実際に研修を実施する際は、これらをベースにしながら、自社の管理職の現状や課題に応じて、「どのテーマを重点的に扱うか」「どう伝えると効果的か」などを丁寧に検討することが重要です。
2)管理職研修前に行う3つの仕掛け|メンタルヘルスを前向きに学べる環境をつくる
管理職研修でメンタルヘルスを扱う際には、研修前の準備が非常に重要です。
「メンタルヘルス」というテーマは管理職にとって必ずしも身近なものではなく、関心を持ちづらかったり、実践イメージが湧かないことも少なくないからです。
そのため、管理職が前向きに学べる状態を整えるための“仕掛け”を事前に用意しておくことが研修の成功につながります。
具体的には、以下の3つの準備をおすすめします。
・経営層からのメッセージを発信する
・「他人事にしない」ためのリアルな事例を紹介する
・責任を一方的に押し付けない姿勢を伝える
これらについて説明します。
経営層からのメッセージを発信する
経営層からのメッセージを発信することは、管理職がメンタルヘルス研修に前向きに取り組むための有効な手段の一つです。
社長や役員など上位者の言葉があることで、「これは会社として本気で取り組むべき重要なテーマなのだ」と実感し、管理職自身の学ぶ姿勢にもスイッチが入ります。
具体的には、研修前に経営層からのメッセージを共有する方法があります。
対面での講話が難しい場合でも、メールや社内ポータルでのメッセージ、動画配信などの手段を活用することで、十分にメッセージを伝えることが可能です。
さらに、直属の上司や部長クラスから「この研修で何を学び、現場にどう活かしてほしいか」といった期待を個別に伝えることで、受講者は自分に向けられたメッセージとして受け取りやすくなります。
このように、経営層からの働きかけによって、会社としての方針や期待が明確に伝われば、管理職の納得感と参加意欲を高める強力な後押しになります。
「他人事にしない」ためのリアルな事例を紹介する
管理職がメンタルヘルスを「自分ごと」として捉えるためには、リアルな事例を用意することが効果的です。
研修で知識だけを伝えても、実際の現場との結びつきが弱ければ「これは自分には関係ない」と感じられてしまい、行動変容につながりません。詳細なストーリーを交えた事例を提示することで、具体的な状況をイメージしやすくなり、「自分の周りでも起こりうること」として受け止めやすくなります。
たとえば、次の事例は実際にあった話です。
入社5年目の社員。仕事のスピードも早く、コミュニケーション力も高く、周囲からの信頼も厚い。明るく前向きな発言が多く、「あの人なら大丈夫」と思われていた存在です。
ところが最近、出社時間がぎりぎりになる日が増えてきました。遅刻はしないものの、以前のような余裕は感じられません。「大丈夫?」と声をかけても、「大丈夫です!」と明るく返され、それ以上踏み込むこともありませんでした。
深刻には受け止めていなかった――そんなある日、突然出社しなくなり、連絡もつかなくなります。
数日後、本人から「しばらく休ませてください」とだけ連絡があり、そのまま休職へ。最終的には退職となりました。
このようなストーリーは、決して珍しいものではありません。だからこそ、「まさか、あの人が」とならないために、日頃からの観察や違和感への感度が求められます。
管理職自身が「これは自分の現場でも起こりうることだ」と実感できるような事例を提示することで、研修の現実味と納得感が格段に高まります。
責任を一方的に押し付けない姿勢を伝える
メンタルヘルス対応において、管理職に責任を一方的に押し付けない姿勢を伝えることも大切です。
「全部自分で何とかしなければ」と感じさせてしまうと、管理職はプレッシャーを感じて萎縮してしまったり、研修の内容を受け入れにくくなることがあります。
サポート体制が整っていることを事前に示しておくことで、「必要なときは相談していい」「一人で抱えなくていい」と安心感を持ってもらえます。
たとえば、厚生労働省が示す「4つのケア」における他の3つ(セルフケア、産業保健スタッフによるケア、外部資源によるケア)を制度として整備しておき、それを研修内で説明します。
また、ガイドブックの配布や、カウンセラー・産業医など相談先の明示を通じて、「困ったときにはここを見ればいい」「相談してもいいんだ」という意識づけを行います。
このように、管理職が「自分だけで何とかしなければならない」と思い込まないような環境とメッセージを用意しておくことで、安心して学び、行動に移せる状態をつくることができます。
メンタルヘルス研修を管理職にとって意味あるものにするためには、「何を教えるか」だけでなく、「どんな状態で受けてもらうか」を丁寧に設計することが不可欠です。
ご紹介した3つの仕掛けを研修前に仕込んでおくことで、管理職は内容を自分ごととして受け止め、前向きに学びやすくなります。
メンタルヘルスのような繊細なテーマこそ、「関心を持ってもらえる土台づくり」が、研修の成果を大きく左右します。ぜひ、自社の風土や管理職の現状に合わせて、前提づくりから丁寧に設計してみてください。
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3)管理職研修でメンタルヘルスを扱う際の注意点
メンタルヘルスは、人の「心」に関わる繊細なテーマです。だからこそ、通常のスキル研修やマネジメント研修とは異なる配慮が求められます。
ここでは、管理職研修でメンタルヘルスを扱う際に特に注意したい3つのポイントをご紹介します。
・個人情報の扱い方には細心の注意を払うこと
・受講者にメンタル不調者がいる可能性を考慮すること
・研修後の実践・定着の仕組みを整えること
個人情報の扱い方には細心の注意を払うこと
メンタルヘルス研修では、個人情報の取り扱いに細心の注意を払うことが必要です。
メンタルヘルスは非常にデリケートなテーマであるため、研修中の何気ない発言が、特定の個人や精神疾患の話に結びついてしまうことがあります。本人の同意なしにこうした情報が共有されると、不信感や不安を生むだけでなく、職場での人間関係にも影響を及ぼしかねません。
たとえば、グループワークの中で「○○さん、最近元気ないよね」といった発言が出たり、「うちの部署の△△さん、うつ病で休職してたけど…」と話題になることがあります。こうした発言は、研修の場として非常に不適切です。
そのため、事前に「個人を特定できる発言は控えるように」というアナウンスを繰り返し行いましょう。また、個人情報に触れずに学べるよう、実名ではないケーススタディやシナリオ教材を活用するなど、設計段階での工夫も必要です。
個人情報を守るためのルールや工夫を事前に徹底しておくことが、参加者が安心して学べる場づくりの基本となります。
受講者にメンタル不調者がいる可能性を考慮すること
メンタルヘルス研修では、受講者の中にメンタル不調の経験者がいる可能性を考慮する必要があります。
管理職であっても、過去または現在進行形でメンタル不調を抱えている人は珍しくありません。研修で扱う内容や言葉の選び方によっては、当時のつらい記憶が呼び起こされ、精神的に不安定になるリスクがあります。安心して学べる環境づくりのためには、配慮が不可欠です。
たとえば、精神疾患に関する説明や事例紹介の中で、過度に断定的な言い回しや偏見を含む表現があると、過去に同様の経験をした受講者が強いストレスを感じることがあります。
こうしたリスクを避けるために、研修前に人事担当者や研修担当者が、精神疾患の既往歴がある方が参加している可能性を講師に共有し、表現や言葉選びについて事前に打ち合わせをしておくことが重要です。
受講者の背景を尊重し、配慮ある設計と言葉づかいを心がけることで、すべての管理職が安心して参加できる研修環境を整えることができます。
研修後の実践・定着の仕組みを整えること
メンタルヘルス研修は、研修後の実践や定着まで見据えて設計することが重要です。
特にメンタルヘルス対応は、自発的に試すきっかけがつかみにくいテーマです。研修を一度受けただけでは、学んだことを実際に使うタイミングがいつ来るのか分からず、知識がそのまま風化してしまうことがあります。
そうならないためにも、学んだ知識を適切なタイミングで活かせるような仕組みを整えておくことが必要です。
たとえば、研修直後に「上司・部下の1on1の場でストロークを意識して使ってみる」「部下の様子を意図的に観察してみる」といったすぐに実践できる小さなアクションを設定することで、管理職が「やってみたらこう感じた」「意外と反応があった」といった体験を得やすくなります。
そうした体験が、「これは現場で使える」と感じる自信と納得感につながります。
このように、研修後すぐに「小さく試せる」「効果を実感できる」環境や行動目標を用意しておくことで、管理職の行動定着を大きく後押しできます。
メンタルヘルス研修は、単に知識を伝える場ではなく、デリケートなテーマを安心して学べる環境を整えること、参加者一人ひとりに配慮を行き届かせること、そして学びを現場での行動につなげる実践設計が成功のカギを握ります。
これらを丁寧に整えることで、管理職が安心して学び、現場での実践へとつなげやすくなります。
4)まとめ
管理職がメンタルヘルスに関わることは、特別なことではなく、日々のマネジメントの延長線上にあります。
部下のちょっとした変化に気づくこと、普段の関わり方を少し意識すること、自分自身の状態を大切にすること――。こうした小さな積み重ねこそが、職場全体の健やかな土台を築く第一歩となります。
本コラムでご紹介した6つのテーマをバランスよく押さえたうえで、受講者の状況に配慮した前提づくりを丁寧に行うことで、管理職は「安心して学べる」「現場で活かせる」と実感しやすくなります。
その結果、研修での学びが組織文化として定着し、職場に確かな変化をもたらします。
アーティエンスでは、貴社の状況や課題に応じた最適な管理職研修やメンタルヘルス研修をご提案しています。管理職の意識変容から行動定着までを見据えた、実践的かつ丁寧な設計にこだわってご支援しております。
「自社に合った内容で実施したい」「現場で活かせる研修にしたい」など、お悩みがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
メンタルヘルスへの理解と実践を広げるために、管理職研修の中でしっかりと扱っていくことが、組織全体の健やかな成長につながります。



