若手社員とのギャップが埋められない。
──そもそも、「ギャップ」とはどんなものか?

更新日:

作成日:2017.7.11

「近頃の若手社員の考えていることが良く分からない」

「そもそも若者と中年以上では価値観が違うから、話が合わない」

「自分の若いころと、今の若い世代とは考え方が全く違う」

インターネットで「世代間のギャップ」というキーワードを検索すると、上記のような意見が綴られたページが、「これでもか」と言わんばかりにたくさん出てきます。──つまり、それだけ多くの方が、世代間のギャップに関心を持ったり、ときに悩んだりされているのでしょう。

たしかに、世代間の価値観・考え方の違いについて「考えたことはまったく無い」という人は、殆どいないくらいかもしれません。

ですが、もし「『世代間のギャップ』とは一言で言うとどういうものか、分かりやすく説明してくれませんか?」と言われたら、果たして皆さんはどう応えますでしょうか。

なんとなく、言いたいことはあるんだけど、端的に説明するのが難しい」──恐らく、そのように思われた方が多いのではないでしょうか。

常にその存在は感じられるものの、「その本質が何か」と意識して目を向けようとすると、かえってぼやけて見えたり、あいまいに見えてしまう──「世代間のギャップ」という言葉には、何かしらそのような、人を煙に巻くような性質をも持ち合わせているように感じられます。

そこで今回は、「世代間のギャップ」ひいては、「人と人との考え方・価値観のギャップ」について、お話していこうと思います。

1) 「考え方、捉え方のギャップ」を簡単に確認する方法は?

「人と人との考え方・価値観のギャップ」を見ていくにあたって、そもそもの「ギャップ」がどういうものかがある程度目に見えて確認していけたほうが、私たちの理解は早めていけるかもしれません。

そこで、人それぞれの「考え方・価値観のギャップ」を炙り出せる、ひとつの「ツール」をご紹介します。

仮説の四段階(論理の梯子)

上記に挙げましたのは、「仮説の四段階」と言って、仮説を立てるときのいわば「思考の道筋」のひとつです。人は、とある「事実」から、一部または複数の事象を「選択」(注目)し「解釈」して、そこから何かしらの「仮説」を立てていく、という流れを表しています。

さて、なぜ「考え方・価値観のギャップ」の話でこの「仮説の四段階」を紹介したのかというと、この論理の梯子を上っていくと、たとえ同じ事実・データをもとにしたとしても、最終段階(四段階目)の「仮説」に辿りついた際にはそれこそ人の数と同じくらいの「違い(ギャップ)」が生じるからです。

どれくらいギャップが生じるのかは、実際に試してみるとすぐに確認できます。 もし時間が許されるようでしたら、お読みになられている皆さんも試しに以下の例題から、仮説の四段階を辿ってみていただけますでしょうか。

仮説の四段階の例題
「Aさんの今後の成長を更に促進していく為には、どうすれば良いか」

記入を終えましたら、続いてとある人の回答例をお見せしますので、ご自身の回答と比較してみてください。

例題の回答パターン(Xさんのケース)

恐らく、「あれ、「選択」の段階から、全然違う」といった感想を抱かれた方が多いのではないでしょうか。ちなみに、Xさんは若い世代(30代前半 男性)の方です。

──さて、例題から導き出した仮説が、ご自身のものとXさんのものとで「どちらが適切か」を検討する前に、出来たらもう一人(または数人)、この例題を試してみていただければと思います。

すると、(ほとんどの場合において)新たにまた全く異なる仮説が出てくることでしょう。そうこうしているうちに、「どの仮説が適切か」という議論の重要性はもはやあまり感じられなくなって、それよりも、そもそもの仮説建て自体が、いかに無限の解釈があるかを身に染みて感じられることになるはずです。

私は、この「人によって導き出される仮説の多様さ」が、「考え方、価値観のギャップ」に通ずるものだと考えています。

そして興味深いことに、この導き出された仮説のギャップは、異世代間だけでなく、同世代間においても強く見られます。ギャップの中から「なんとか類似性や共通点を見出そう」としたときには、多少は同世代間の方が見出しやすい傾向はありそうですが、それでも「似ている」という同世代の二つの仮説を並べ比較した際に、先立って目につくのはやはり「違い」(ギャップ)の方です。

同世代間においても、「考え方・価値観」は「類似性」より「違い(ギャップ)」の方が大きく存在する

「考え方、価値観のギャップ」を確認するうえで、この「仮説の四段階」の例題を持ち出して伝えたかったことは、つまり、こういうことです。

人はそれぞれ独自の考え方、価値観を有しており、同じ事実・データからひとつの仮説を立てていく際にも多種多様な差異が顕れるものである。「世代間の考え方、価値観のギャップ」は確かに存在するが、同世代間でもギャップは大きく存在している。

こういう風に考えていくと、なんだか「世代間のギャップ」自体を論じること自体が無意味に感じてきそうです。

むしろ、そこで「世代間」というグルーピングを多用に持ち出してしまうことによって、人々の意識として「世代間ギャップ」の溝を更に深めてしまっていることもあるのではないでしょうか。

とは言え、だからといって多くの人が現に感じられている「世代間のギャップ」を「当然のものとして扱いましょう」で議論を済ませてしまうのは、やや乱暴な感もあります。

そこで、次の章では、「なぜ私たちは、世代間のギャップを強く感じるのか」というテーマでお話していきましょう。


2) なぜ私たちは、世代間のギャップを強く感じるのか

「なぜ私たちは、世代間のギャップを強く感じるのか」──このようなテーマを扱うと、「世の中の変化の速度が増してきている」であったり、「グローバル化に伴う、価値観の多様化の促進」、または「(国内の)教育制度云々」といったキーワードが頭に浮かんでくる方も多いかもしれませんね。

確かにそれら要素も一因としてあるでしょうが、今回は少し違った観点で見ていきたいと思います。

組織・チームが辿るステップ「タックマン・モデル」から、「世代間のギャップ」を読み解いてみる

上記図は「タックマン・モデル」と言って、組織・チームが「必ず通る」と言われるプロセスを表しています。

組織・チームを構築していく上での基本の考えは、「1人では成しえないことを実践していく」ことです。

ですが、個々の人が持っている考え方や価値観は違うため、チーム・組織に人が集まった当初の段階では、すぐにチームが効果的・効率的に作用することはありません。   そこで、チーム・組織は、ビジョンや目標に向けて以下のプロセスを進むことになるのです。    

  1. お互いの理解を深め、関係を気づいていく形成期(Forming)
  2. 互いの考え方や感情がぶつかって対立する混乱期(Storming)
  3. 混乱期を乗り越えた後、共通の規範や役割分担ができあがっていく統一期(Norming)
  4. 組織・チームとして成果を生み出す機能期(Performing)

ここで注目したいのは、2つ目の段階、「混乱期」です。混乱期は、「互いの考え方や感情がぶつかって対立する」時期とされていますが、まさにここが今回のテーマである「考え方や価値観のギャップ」が【顕在化】される時期と言えるでしょう。

つまり、世代間のみならず「考え方や価値観のギャップ」に悩む時期というのは、組織・チームが形成していくプロセスの、第2段階(混乱期)にあるのではないでしょうか。

そして、現代社会において「世代間のギャップ」がクローズアップされやすくなっているのは、現代の組織・チームの構成が多様化・複雑化されてきているなかで、以前よりも幅広い世代層が密接に構成されるケースが多くなってきていることにも、大きく起因しているのではないでしょうか。

そう考えると、私たちが強く感じている「世代間のギャップ」の正体は、実は「組織・チーム形成における【混乱期】による苦しみから生じているもの」と捉えたほうが良いのかもしれません。そして、意識すべきは世代間のギャップの「解決」よりも、最終段階である「機能期」を目指していくことなのでしょう。

タックマン・モデルの重要なポイントは、「形成期・混乱期・統一期・機能期」の4つの段階は「必ず通過する(避けて通れない)」ということです。つまり、「世代間のギャップ」を内包した「混乱期」は、「ない方が望ましいの」ではなく、いわば「必然」のものです。

章の冒頭の、「なぜ私たちは、世代間のギャップを強く感じるのか」の問いに立ち戻ってみましょう。 問いに対して、以下のような解の導き方も出来るでしょう。    

多くの組織・チームは社会や市場の変化に伴い、新興・再編に向けての「混乱期」にある。そして、その組織・チームは世代を超えて編成されており、互いの考え方や価値観のギャップが(これまでの「混乱期」でそうであった以上に)顕在化されやすい状況にある。

──このように考えると、今目の前にある「世代間のギャップ」をどう捉えどう対処していくか、取りうる判断や選択肢は今までとも変わってくるのではないでしょうか。

3) 「考え方、価値観のギャップ」を乗り越え、組織・チームで「共創関係」を築いていく為に

「考え方、価値観のギャップ」ひいては組織・チームを形成していくプロセス上の第二段階の「混乱期」を乗り越えていく為には、どのような行動や対策が望ましいか──。

その解自体は、組織・チームの環境や状況によっても変わってくるでしょう。ですが、どんな環境・状況においても共通して言えることは、組織・チーム内の【対話】が大切になるということです。

組織・チーム間における考え方・価値観のギャップを受け止め、集団的思考を高めていく為の「対話(ダイアログ)」

「組織・チーム内の対話」と聞いて、皆さんが思い浮かべるのはどのようなものでしょうか。

もしかしたら、日々の会議やディスカッションをイメージされた方もいらっしゃるかもしれませんね。 ですが、通常の会議・ディスカッションで「考え方、価値観のギャップ」を乗り越えられるかというと、それはやや難しいでしょう。     ディスカッションとはまた別の集団コミュニケーションとして、「ダイアログ」というものがあります。

ダイアログとは、端的に言うと「特定のテーマを話し合いながら、お互いの理解を深めるための対話・コミュニケーション」のことです。

例えば、「私たちのチームは、これからどんな風に成長していくと良いだろう」というテーマで、チーム間で自由に話し合う──そんなイメージです。そこでは、チーム内のひとりひとりが異なる考えや価値観があって、それを否定せずに受け止め、「自分たちのチームでは、このように様々な考えを持った人たちがいて、そしてそんな私たちのチームはきっと、これからこうなっていくのだろう(または、こういう風になっていくと良いだろう)。」という風に、集団的思考を深めていきます。

明確に議題を示し、最終決定事項を決めて(判断して)いくディスカッションと比べると、ダイアログはやや曖昧性の強い、不確かさも感じられるかもしれませんね。ですが、ダイアログは対話の中で同時に「相互理解」を強力に進めていくことが出来るのです。

ディスカッションでは、参加メンバーで一番適切な提案が出来るもの(もしくは一番権限のあるもの)がイニシアティブをとることになりがちですので、考えや価値観の相違がある状態で行われた際は、そのギャップは更に浮き立ってしまうリスクがあります。

二つのコミュニケーション形式 ディスカッションとダイアログの違い

ダイアログを進めるときのルール

  • 対等で自由な立場で参加し、相手の話の善し悪しをジャッジするように聞くのではなく、人の意見の背景を理解し、探求する姿勢で聴く
  • 自分の考えにこだわらない。断定的な言い方をしない
  • 自分の考えや背景をオープンにし、思っていることを率直に述べる
  • 一人の人が話しすぎるのではなく、皆が話せる環境・場を、皆で創る

上記「ディスカッションとダイアログの違い」および「ダイアログを進めるときのルール」をご覧になられて、同じ話題を扱うにしても、ディスカッション形式にするかダイアログ形式にするかで大きく結果は変わってくることはイメージ付かれたのではないでしょうか。     ダイアログ、ディスカッションどちらも「こちらの方が優れている」というものではなく、用途・目的に合わせて使い分けていくことによってそれぞれの会話形式のメリットを活かせていけるツールです。   ただ、「考え方、価値観のギャップ」を乗り越えていく為の会話形式としては、ダイアログの方が目的を適えやすくなることでしょう。同時に、組織・チーム形成における「混乱期」を収束させていく上でも、同様のことが言えそうです。

4) まとめ「世代間を含めた、考え方、価値観のギャップ」を乗り越えていく為に

考え方、価値観のギャップはなにも世代間でのみ存在するものではなく、すべての人々の間で存在する

──このことについて、私たちはまず意識しておくべきでしょう。

組織・チーム内にて「考え方・価値観のギャップ」が顕在化している状況は、その組織・チームが成長の段階として「混乱期」である可能性が高く、その場合それは不可避的なものです。

そして私たちは、「考え方・価値観のギャップ」を完全に埋めることは出来ませんが、それを「受け止めて、乗り越える」ことは出来るはずです。

関係者間での対話を深めていくこと、そして信頼関係を構築していくことは、現代社会においてますます求められてきているのではないでしょうか。

皆さんが自組織・自チームにおいて「考え方・価値観のギャップ」と対面された際に、この記事の内容が少しでもお役に立てることを、心より願っております。