【事例あり】管理職になる前に必要なこと3つ|事前準備で登用後の立ち止まりを防ぐ

「プレイヤーとしては優秀だけれど、管理職として活躍できるかは不安が残る…」
「期待して昇格させたはずなのに、どうも現場でうまく機能していないようだ…」

管理職候補を頭に浮かべた時、そんな不安を感じたことはありませんか?
実際、プレイヤーとして成果を出してきた人材が、昇格後に思うように機能せず、本人も周囲も戸惑うケースは少なくありません。

その背景には、プレイヤーと管理職で求められる視座・役割・スキルが大きく異なるという構造的なギャップがあります。
昇格したその日から即マネジメントを求められる現状では、ギャップに苦しむのも無理はありません。

このギャップを解消し、昇格後の早期立ち上がりを実現するためには、“管理職になる前”からの準備が欠かせません。段階的に必要な視点と行動を育てていくことで、スムーズな役割移行と現場での即戦力化を実現できます。

本コラムでは、管理職になる前に育てておきたい3つの力と、育成アプローチを紹介します。

管理職になる前に、必要な視座・役割認識・関係構築力を段階的に育成しておくことは、個人のスムーズなマネジメント移行を支えるだけでなく、組織全体の生産性・エンゲージメント向上にも直結します。

管理職登用後のつまずきや立ち止まりを未然に防ぎ、即戦力として現場で機能する管理職を育てましょう。

1)管理職になる前に必要なことは3つ

プレイヤーとして成果を出してきた社員が、チームを率いる立場へと移行するには、大きな意識転換と視点の切り替えが必要です。そのためには、昇格してから任せるのではなく、“管理職になる前の段階”で育てておくべき力があります。

具体的には、以下の3つです。

① “任される”から“任せる”へのマインドチェンジ
②「目標」や「成果」への当事者意識と構造的思考
③対人関係の変化とコミュニケーションスキル

これら3つの力は、いずれも“管理職になってから”ではなく、“なる前に”意識的に育てておくべきものです。
なぜなら、管理職登用のタイミングはあくまで“現場に立たせる瞬間”であり、その時点で土台ができていなければ、本人もチームも戸惑い、機能不全を引き起こしかねないからです。

ここからは、この3つの力について順に解説していきます。

① “任される”から“任せる”へのマインドチェンジ

管理職になる前に最も重要なのは、「任される側」から「任せる側」への意識の転換です。

多くの昇格候補者は、プレイヤーとしての成果で評価されてきたため、「自分が手を動かして成果を出す」ことに長けています。しかし、管理職に求められるのは、「チームとして成果を上げること」であり、他者に仕事を任せ、成長を促す役割です。

管理職になっても「成果が不安だから」「自分でやったほうが早いから」といった理由で仕事を抱え込んでしまうと、部下の成長機会を奪い、チーム力も上がりません

たとえば、ある技術リーダー候補は、部下に仕事を任せたつもりでも、進捗や成果が気になり、つい細かく口を出してしまっていました。結果として、部下は「どうせ言われるなら、最初から任せないでほしい」と感じ、自律的に動かなくなってしまったのです。

こうした事態を防ぐには、育成段階で「任せて、見守る」練習が必要です。

たとえば、仕事を一任した上で、「どこで困っている?」「どう進めたい?」と問いかけ、部下自身に考えさせる関わり方を繰り返し実践させることで、任せるマインドとスキルの両方が養われていきます。

プレイヤーから一歩引いて、任せる立場として振る舞えるかどうかは、単なるスキルではなく、視点と価値観の変化を要する“マインドチェンジ”です。だからこそ、管理職になる前にこの視点を育てる機会を意識的につくることが、人材育成の成否を分ける鍵となります。

②「目標」や「成果」への当事者意識と構造的思考

管理職になる前には、「成果をどう生み出すか」を構造的に考える力と、チームの目標に対する当事者意識を育てることが不可欠です。

プレイヤー時代は、「言われたことをこなす」「自分のタスクを終える」ことが中心ですが、管理職には「全体を見て目標を定め、進め方を設計し、成果を生み出す」ことが求められます。つまり、単に与えられた仕事をこなす姿勢から、成果創出の設計者としての視座に切り替える必要があります。

たとえば、プロジェクトのKPIを考える際、「なぜこの目標なのか?」「この数字を達成するために、どんな行動が必要か?」という対話を日頃から積み重ねることが重要です。
日常業務の中でも、「これは何のためにやっているのか?」「どんな成果を出すことが求められているのか?」といった問いを通して、成果と行動を結びつけていく思考訓練が可能です。

管理職としての視点は、タスクを“こなす”から、成果を“つくる”へのシフトです。当事者意識と構造的思考は、計画的に育てなければ自然には身につきません。管理職になる前の準備段階でこそ、日常業務を通じてこうした視座を育てていくことが必要です。

③対人関係の変化とコミュニケーションスキル

管理職になる前に、関係性を築く力、特にコミュニケーションの質を高めることが重要です。

管理職になると、上司・部下・他部門の責任者など、多様なステークホルダーと信頼関係を築きながら業務を進める必要があるためです。
部下への指導、フィードバック、上司への報告・提案、いずれも高度なコミュニケーションスキルが求められます

特に重要なのは、「伝えにくいことをきちんと伝える」フィードバックスキルです。育成段階では、ロールプレイや1on1を活用し、「どんな言い方なら伝わるか」「相手の反応をどう受け止めるか」といった練習を積むことが有効です。

たとえば、ある新任のチームリーダーが、納期遅れを繰り返すメンバーに何も言えず改善されない場合、他のメンバーの不満が溜まり、プロジェクトの空気がギスギスしてしまったというケースが起こりえます。
本人は「怒りたくない」「関係を壊したくない」と悩み、様子を見ることを選んでいたものの、結果としてチーム全体の信頼を損ねてしまったのです。

実務の現場では、このように“言えないこと”が積もって、チームの風土や成果に影響することがあります。

だからこそ、管理職になる前に、「相手の立場を尊重しながらも伝えるべきことは伝える」という関わり方を、日常の中で少しずつ体得していくことが不可欠です。

コミュニケーションは単なるスキルではなく、「どう関係性をつくりたいか」の姿勢が問われます。管理職になる前の準備段階で、安心して練習できる場を設けることは、現場に出たときの自信と行動の質に直結します。


管理職になる前に3つの力を育てておくことで、自ら考え動ける管理職が育っていきます。

2)“管理職になる前”に効果的な3つの育成アプローチ

管理職としての意識とスキルは、昇格後に突然身につくものではありません。だからこそ「なる前」にどのような育成機会を作れるかが、その後の活躍を大きく左右します。

ここでは、管理職に必要な力を“事前に”育てるための3つの効果的な育成アプローチをご紹介します。

① 日常業務での“問いかけ”と“任せ方”を工夫する
② 管理職になる前の準備プログラムを設計する
③ 昇格前後をつなぐ育成パスを設ける

① 日常業務での“問いかけ”と“任せ方”を工夫する

管理職になる前の育成は、特別な研修に頼らなくても、日々の業務の中で十分に仕掛けることができます。

カギは、「任せ方」「問いかけ」「振り返り」の3つを意識することです。

管理職になる前に業務の中で自然に、“考えさせる・任せる・振り返らせる”という関わりを繰り返すことで、必要な視点とスキルを少しずつ育てていくことが効果的です。

たとえば、タスクを依頼するときに、上司が「この仕事、どう進めたら成果につながると思う?」と問いかけてみましょう
この一言だけで、“言われたことをやる”から“成果を考えて動く”へと、相手の意識を切り替えるきっかけになります。

また、1on1などの振り返りの場では、「なぜそう判断したの?」「他にどんな選択肢があった?」と問いかけ、自分の考えを言語化させることが効果的です。経験を内省し、自分なりの判断軸を磨くためのトレーニングになります。

さらに、部下やメンバーに仕事を任せる際は、「目的」「期待する成果」「期限」の3点を明確に伝えるように意識してみてください。これを繰り返すことで、単なる“指示出し”ではなく、“任せる力”を育てる実践の場になります。

こうした日常のやりとり一つひとつが、昇格前の実践的な育成につながっていきます。

日常業務での、ちょっとした問いかけや振り返りの場づくり、任せ方の工夫が、プレイヤーから管理職への橋渡しになります。
特別な仕組みを整える前に、まずは現場でできる関わり方から始めてみましょう。

② 管理職になる前の準備プログラムを設計する

管理職になる前に、実務の中で身につけることが難しいテーマについて、準備プログラムを設けることが重要です。

現場業務に追われる日常の中では、「役割理解」「判断力」「関係性構築力」といった抽象度の高いテーマは、後回しになりがちです。

しかしこれらは、管理職として機能するための土台であり、昇格後に一気に身につけるのは困難です。だからこそ、実務から一歩引いた環境で、意識と行動の転換を促す体験が必要になります。

具体的には以下の方法があります。

社内プロジェクトへの参加
部門横断のプロジェクトにリーダーとして関わることで、普段の業務では経験しにくい「全体調整」や「他者を動かす力」を実践的に学びます。

次世代研修の実施
リアルなケースをもとに「自分ならどう判断・行動するか」を考えるワークを通じて、役割理解と状況判断力を深めます。他社事例の共有も加えることで、視野を広げる効果も期待できます。

1on1の設計・実践
仮想部下との1on1を自ら設計し、実施・フィードバックを受けるプロセスを通じて、対話力や関係構築力を客観的に見直すことができます。

実務経験だけでは届かないテーマにこそ、準備プログラムで先に触れておくことが大切です。

③ 昇格前後をつなぐ育成パスを設ける

管理職登用はゴールではなくスタートです。多くの企業では、昇格のタイミングで一度研修を行って終わり、というケースが少なくありません。

しかし、「登用して終わり」にしないために、昇格前後を一貫して支援する“育成パス”を明確に設計することが重要です。

管理職としての役割や視点は、1回の研修で定着するものではなく、実務を通じて何度も試行錯誤しながら身につけていく必要があるためです。

具体的には以下の方法があります。

半年〜1年の育成ステップを明文化する
たとえば、「事前研修 → 実務OJT → フォローアップ研修」という3段階の流れを設計することで、学びと実践が連動しやすくなります。
特に、フォローアップ研修では「登用後のリアルな悩み」を題材にすることで、学び直しの効果が高まります。

月1回の対話の場を取り入れる
同じ立場のリーダー候補同士で、月に一度の対話の場を設けることで、「自分だけじゃなかった」という安心感や、他者からの学びが得られます。
悩みを共有し合う中で、前向きな試行錯誤の意欲も育まれていきます。

伴走コーチ(内製メンター)を配置する
登用直後は、不安や失敗がつきものです。そんなとき、相談できる内製メンターがそばにいるだけで、心理的安全性が高まり、前向きにチャレンジしやすくなります。
単なるフォロー役ではなく、“信頼できる先輩”としての立ち位置が、長期的な成長を後押しします。

昇格前後をまたぐ“育成パス”を設計することで、「登用してからが本番」という実感を持って、安心して新たな役割に挑戦できる環境が整います。


これら3つの育成アプローチは、それぞれが単独で機能するのではなく、組み合わせて活用することで相乗効果を発揮します。
日常業務での小さな問いかけが視点を育み、準備プログラムでの体験が自信を生み、育成パスの継続支援が行動を定着させていきます。

「管理職になる前に、どこまで育てられるか」が、その後のマネジメントの質を決めるため、早い段階で準備を行いましょう。

3)管理職になる前に育成が必要な7つの理由

管理職は、プレイヤーの延長線では務まりません。求められる役割も、視座も、スキルも根本的に異なるためです。

だからこそ、「昇格してから考える」ではなく、「管理職になる前に整える」ことが、本人の成功にも、組織の安定にもつながります。

ここでは、「なぜ管理職になる前に育成が必要なのか」を、7つの観点から解説します。

① プレイヤーと管理職では、必要なスキルが根本的に異なるから

プレイヤーは「自分で成果を出す人」、一方、管理職は「他者に成果を出させる人」です。
そのため、プレイヤー時代に評価された「早く正確にこなす力」よりも、「人に任せる」「人を導く」「周囲を巻き込む」といった力が求められるようになります

この切り替えができていないまま昇格すると、自分で抱え込んでしまい、周囲との連携がうまくいかず、孤立や混乱を招くリスクが高まります。

② 組織からの“期待される役割”が大きく変わるから

これまでは「自分の成果をどう出すか」が主なミッションだった方も、管理職になると「チームの成果」「部門としての貢献」へと、期待される役割が一気に広がります。
自分だけでなく、部下の行動や成果にも責任を持ち、部門目標の達成に向けて戦略的に動く必要があります

こうした変化を受け入れ、自覚を持つためには、管理職になる前から役割の違いを理解し、認識のアップデートを行うことが不可欠です。

③ プレイヤーとしての成功体験が、変化を妨げることが多いから

「自分がやったほうが早い」「これまでこれで通用してきた」といった、過去の成功体験が、変化へのブレーキになることはよくあります。
特に、自分のやり方に強いこだわりがある方ほど、任せること・関わり方を変えることに対して抵抗感を持ちやすくなります

だからこそ、管理職になる前にあえて「任せる」「手放す」体験を通じて、新しい役割にふさわしいマインドと関わり方を身につけておくことが大切です。

④ 管理職には“視座の転換”が求められるから

管理職になると、目の前の仕事だけでなく、「組織の方向性」「経営の方針」「社会への影響」など、もっと広い視点で物事を考える力が求められます

これは単に知識や情報が増えればよい、という話ではありません。
「何を優先すべきか」「どのように判断すべきか」といった、“考え方の軸”そのものを切り替える必要があります。

この視座の転換は、すぐにできるものではないため、段階を踏んだ育成が必要です。

⑤ 現場・部下との関係性構築は、昇格後に一気にできるものではないから

部下やチームとの信頼関係は、日々のやり取りや関わりの中で、少しずつ育まれるものです。

管理職になったからといって、いきなり信頼されるわけではありません
むしろ、これまでと接し方が変わらないままだと、部下から「何も変わらない」「頼りにならない」と感じられてしまうこともあります。

だからこそ、管理職になる前から“関係性を築く姿勢”を育てておく必要があります。

⑥ 管理職になってから「つまずいてしまう」と、手遅れになるケースが多いから

管理職に昇格してから初めてのつまずきで、「自分には向いていないかもしれない」と自信をなくしてしまう方は少なくありません
早期に孤立したり、判断ミスで信頼を失ったりすると、取り返しがつかなくなることもあります。
そうならないために、管理職になる前の段階で安全に失敗できる場や試行錯誤の余白を用意しておくことが重要です。

⑦ 「育成されている実感」が本人のモチベーションと自覚を育てるから

「自分は期待されている」「任されている」と感じることで、人は責任感とやる気を持ちます。
逆に、何の準備も支援もなくいきなり役職だけ与えられると、「丸投げされた」「自分ごととして捉えられない」といった受け身の姿勢になりがちです。

だからこそ、「育成されている実感」を持たせる仕掛けが、本人のモチベーションと当事者意識を高めるうえで欠かせません。


このように、管理職としての成長を支えるには、“なる前”の丁寧な準備と育成が欠かせません。
昇格は単なるポジションの変化ではなく、役割や視点の変化に対応できるよう支援するプロセスなのです。

4)事例:アクションラーニング型で管理職候補の判断力・当事者意識を強化

ある中堅IT企業では、部長層の高齢化や中間層の退職増加により、次世代管理職の不足が課題となっていました。そこで、管理職登用後の活躍スピードを早めるために、昇格前に必要な視座・役割認識を身につける仕組みづくりが急務でした。

取り組み概要

選抜した管理職候補者を対象に、アクションラーニング型の育成プログラムを導入。特徴は、座学だけでなく「実際の業務課題を題材にチームで解決策を導く」プロセスを組み込んだ点です。

リアル課題をテーマに設定

参加者自らが現場の課題を持ち寄り、他部門メンバーや経営層と議論。課題解決を通じて、任せる立場としての判断・調整力を養いました。

経営層との対話セッション

意図的に経営層と距離を縮める場を設定し、組織全体の視座や意思決定の背景を理解。関係構築力と視野の拡大を同時に実現しました。

行動→振り返りのサイクル

実行後は必ず振り返りを行い、「なぜその判断をしたのか」「他にどんな選択肢があったか」を言語化。構造的思考と当事者意識を定着させました。

成果と変化

「正解を教わる研修」ではなく、「実務の中で判断・行動し、振り返る」経験により、参加者が自発的に行動パターンを変えるようになりました。また、経営層との直接の対話経験や自身の組織とのかかわりを見直す機会を経て、「自分も組織の方向性に関わっている」という当事者意識が高まりました。

結果、受講者から、飛び級・エース部署への異動や、チームを率いる発言が見られるようになりました。

このように、「管理職になる前」に効果的な育成を行うことで、単なる知識習得にとどまらず、管理職への役割転換に必要なマインド・スキル・関係性を一体的に強化できる有効なアプローチができます。

5)まとめ|「管理職になる前」の育成が、組織の未来を変える

管理職としての役割は、プレイヤー時代とはまったく異なる視点とスキルが求められます。
その変化に戸惑わずに対応できるかどうかは、実は「昇格してから」ではなく「管理職になる前」にどれだけ準備できているかにかかっています。

・“任される側”から“任せる側”への意識の転換
・成果を生み出すための構造的思考と当事者意識
・信頼関係を築くためのコミュニケーションスキル

これらは実務の中では身につけにくいため、意図的に育てる仕組みや機会が必要です。

アーティエンスでは、管理職になる前の方にもおすすめの管理職基礎研修や、アクションラーニングをベースとした研修も実施しています
研修を軸とした、業務の中での関わり方の工夫から、昇格後を見据えた育成プランまで、組織に合わせた支援が可能です。

「任せても安心できる管理職を育てたい」とお考えの方は、ぜひ一度、アーティエンスにご相談ください

管理職になる前に、必要な視座・役割認識・関係構築力を段階的に育成しておくことは、個人のスムーズなマネジメント移行を支えるだけでなく、組織全体の生産性・エンゲージメント向上にも直結します。

管理職登用後のつまずきや立ち止まりを未然に防ぎ、即戦力として現場で機能する管理職を育てましょう。