優秀な若手社員の離職防止のカギは「成長予感」【カイラボ井上氏:インタビュー】

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優秀な若手社員が辞める理由と対策について、100社以上の離職対策の支援実績がある株式会社カイラボの井上さんにお伺いしました。

【インタビュイー】
株式会社カイラボ 代表取締役  井上 洋市朗
大学卒業後、(株)日本能率協会コンサルティングにて企業の業務効率化などに従事。ストレスが 原因で入社2年で退職。その後、フリーター生活や商社での営業職などを経験。 2011年に社会人教育のベンチャー企業でマネージャー。 2012年株式会社カイラボを設立。「早期離職白書」を発行。 現在は多くの企業の若手社員定着率向上支援を行うほか、講演、管理職・OJT担当者向け研修、採用 コンサルティングなどを行っている。

HP:https://kailabo.com/ YouTube:https://www.youtube.com/@kailabo

【インタビュアー】
アーティエンス株式会社 代表取締役  迫間 智彦
2010年にアーティエンス(株)を設立。「学習する組織」や「シェアドリーダーシップ」の哲学・方法論をベースに顧客との共創・協働を大切にしている。 自身も組織変革ファシリテーターとして従事。顧客の未来を考えて、今必要なものを共に探求し、実践することをポリシーとして持っている。

1. 優秀な若手社員とは「市場価値が高く、成長意欲が高い」人材

迫間==
「優秀な若手社員」という言葉も、会社によって定義がさまざまですよね。今回はこの場での「優秀な若手社員」の定義を少し整理してお話しできればと思います。井上さんはどのように考えていますか?

井上氏==
そうですね。分かりやすい基準の一つとしては「市場価値が高い」という点が挙げられます。極論を言えば、転職サイトに登録し高年収のオファーがくるような人材は「優秀な若手社員」だと言えます。

もう一つ、若手社員や新入社員に限って言うと、「成長意欲が高い」ことが重要です。自分自身で積極的に学び、成長していく力が求められます。

企業によっては「主体性」「自立性」とも呼ばれますが、今回はこの2つ、すなわち「市場価値が高い」と「成長意欲が高い」若手社員を「優秀な若手社員」と定義して話を進めたいと思います。

迫間==
なるほど。「市場価値が高い」という点について、ある程度の社会人経験があれば実績や経歴から判断ができますが、入社して間もない新人の場合、企業はどのようにしてその市場価値を見極めるのでしょうか?

井上氏==
新人の場合は、特に理系の方、なかでもエンジニアだとスキルのポートフォリオがあり、評価しやすいですね。

逆に文系では少し難しい部分がありますが、最近ではインターンで実績を積んでいる方も多く、たとえば営業のインターンで多くのアポイントを獲得している方は、企業側からも評価が高いです。

特に、知名度のある企業で成果を上げていると、それだけで採用したいと考える企業も増えています。こうした人材は、退職してもすぐに転職先が見つかるため、「市場価値が高い」と評価されます。

迫間==
そのような方々には、主体性や自立性も自然と備わっていることが多いですね。

2. 優秀な若手社員が辞める大きな理由は「成長予感」の不足

迫間==
優秀な若手社員が会社を辞める背景には、どのような要因があるのでしょうか?最近の優秀な層がどのようなことを考えているのか教えていただけますか?

井上氏==
早期退職の要因として、私たちが行ったインタビュー調査では主に次の3つが挙げられます

この3つのうち、1つでも欠けると社員は離職を選びやすくなります。
特に、優秀な層に限って言えば「成長予感」が不足していることが大きな理由で辞めていくことが多いです。企業の人事担当者からも、「成長予感不足で離職が増えている」という話をよく耳にします。

迫間==
確かに、大手企業では「まずは現場で経験を積んでから」という考えが根強く、これをネガティブに受け取ってしまう若手も多いですね。

一方、ベンチャー企業や中小企業などでは「入社後すぐに好きなことができる」と採用時に期待を抱かせて、実際はそうではなかったといったケースもありますよね。

井上氏==
そうですね。ただ、インタビューをしていると、例えばメーカー企業で「最初の半年は工場勤務」と事前に説明しているので「工場に行かされた。辞めます」というのは実際は少ないですね。
多くは、そういった下積み期間を経て違う部署に配属された時、「自分の思っていたのとは違う」と感じるケースですね。特に2~3年目でそのギャップが大きくなり、成長予感がなくなったと感じて辞めるケースが多々見られます。

迫間==
そうなんですね。成長予感を高めるためには、どのような施策が有効だと思いますか?

井上氏==
まず、成長実感と成長予感の違いについてお話しします。

成長実感は現在の自分が成長しているかどうかを感じるものです。成長予感は未来に対する期待感です。

例えば、若手社員が「営業で成果を上げられるようになった」と成長実感が持てているとする。その一方で、自分の上司たちを見て、将来の自分を想像し、「自分はこうなりたくない」と感じてしまう。

加えて、SNSなどで輝かしいキャリアを持つ人と、自社の上司らを比較してしまうと、そのネガティブな感情はどんどん大きくなっていきます。

それが成長予感不足となり、離職へとつながります。

3. 「成長予感」不足解消のカギはリーダー層向けのキャリア教育

迫間==
今までのお話から、成長予感不足解消には、若手社員の上司先輩にあたる方々へのアプローチが重要であると感じました。

井上氏==
そうですね。弊社でも離職対策として、リーダー層向けの教育研修に取り組むことが非常に多く、特に40~50代のミドル層を再生し、若手社員が憧れを持てる存在にすることがテーマになっています。

人事が「大丈夫、成長しているよ」と伝えても、実際のロールモデルを見て「憧れない」と思われてしまうと、気持ちの問題で拒絶されるようになります。

成長予感を高めるには、管理職やリーダークラスが憧れられる存在に変わる必要があります。そこに手を付けない限り、成長予感を高めるのは非常に難しいと感じます。

迫間==
全く同感です。新入社員や若手社員にいくら何かを教えても、管理職や経営者が変わらないと無理だという意見はよく聞きます。もちろん、新入社員や若手社員を起点にできることもありますが、全体的な取り組みが必要だと思います。

リーダー層向けの教育研修とは、具体的にどのような内容になりますか?

井上氏==

マネジメントスキルはもちろんですが、『リーダー層向けのキャリア教育』も重要であると考えます。
最近のとある調査結果でも、中間管理職に期待する能力として「職場の未来を描く力」や「戦略を立てる力」が、以前よりも上位に上がってきています。
そういった「職場の未来を描く力」や「戦略を立てる力」を高めるために、キャリア教育は必要になってきます。

また、ここ最近のトレンドとして、大手企業よりもベンチャーに魅力を感じる若手社員が増えつつあります。

大手企業はそれなりの歴史と実績があるため、過去の話もすることができますが、ベンチャーはそれが難しいです。そのため、採用では、会社の未来、将来的なキャリアパスをアピールします。
若手・新入社員は、そういった未来の話に魅力を感じる傾向が高まっています。

若手社員にとって魅力的なリーダーは、未来を語れる人です。そのため、リーダー層が未来を見据えたキャリアパスを描けるよう、研修やサポートが不可欠です。

迫間==
私たちも同じ意見です。「ありたい姿」を思い描くことは本当に重要ですよね。

会社の目指すビジョンと個々のキャリアパスを融合させることで、若手社員が将来を見据えて成長できる環境を整えることが重要ですね。

4. 若手社員とのコミュニケーションスタイルや価値観の違いを乗り越えるには?

迫間==
コロナ禍以降、リモートなど働き方の自由度も高まり、特に若手社員とのコミュニケーションに難しさを感じている上司が多いように感じます。

井上氏==
そうですね。オンラインには「オンラインのコミュニケーション」というものがあります。

企業側は、「リアルのコミュニケーション」をオンラインで実施しようとして上手くいっていないように思います。オンラインは導入していたとしても、完全にアップデートできていないのが現状です。

例えば、私たちの会社では全員がフルリモートで業務を行っていますが、その中で大事にしているのは「カメラをオンにする」ことと「テンションを上げる」ことです。

前者に関しては、セキュリティの問題などで難しい場合もありますが、オンラインコミュニケーションの悩みを解決するためには、カメラオンは基本です。

後者に関しては、3倍くらいを目安にテンションを上げます

迫間==
3倍ってすごいですね(笑)

井上氏==
そうですね(笑)
実は、私たちのオンライン研修、受講生からはよく『YouTubeっぽい』と言われています。これは良い意味だと考えています。
最近のYouTuberのような高いテンションで話しつつ、内容は真面目でためになることを伝えるスタイルが、若い世代に共感されているのだと思います。

迫間==
なるほど。そういった細かい部分への意識が、若手社員とのコミュニケーション課題を解決するきっかけになりますね。

あと、良くご相談いただくのが「若手社員との価値観の違い」です。価値観の違いを乗り越えるための施策などはありますか?

井上氏==
何よりも大事なのは、信頼関係の構築だと思います。信頼があって初めて、コミュニケーションが効果を持つと考えています。

その上で結構大切であると感じるのは、上司が楽しそうに仕事をしているかどうかということ。部下は、上司がどう仕事に向き合っているのかをよく見ています。上司が仕事を楽しみながら主体性を持って取り組むことで、部下にもポジティブに伝わると考えています。

迫間==
本当にその通りだと思います。信頼関係構築のためには、新入社員研修もオンボーディングも丁寧に実施していかないといけないですよね。

あと、上司の仕事への取り組み姿勢は本当に大事ですよね。仕事に熱意やポジティブな感情がないと、上司から部下へ何をいっても「いや…あなたには言われたくない」と思われ、残念な関係性になりかねませんよね。

5. 若手社員の離職防止に取り組む企業へのアドバイスとメッセージ

迫間==
最後に、優秀な若手社員の離職を防ぐために、企業が今後取り組むべきことについてアドバイスをお願いします。

井上氏==

リーダー層が未来を描けるようにすることが不可欠です。

経営層だけでなく、中間管理職も自分のキャリアを見据えながら未来を語れる力が求められます。また、採用から育成まで一貫して同じメッセージを伝え続けることが重要です。

優秀な社員の離職防止は、全社一丸となって取り組むべき経営課題だと考えます。

迫間==
経営課題、本当にその通りですね。井上さん、本日はありがとうございました!

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