25卒新入社員の受け入れ・育成時に意識すべきこと【東京経済大学田村氏:インタビュー】

更新日:

作成日:2024.7.17

東京経済大学で講師を務める田村氏に、25卒(作成時点:大学4年生)の印象や、入社時に受け入れ側が意識すべきことについて、お聞きしました。

インタビュアー:田村 寿浩(たむらとしひろ)氏

東京経済大学 コミュニケーション学部 特命講師
(キャリアデザイン・プログラム ワークショッププログラム担当)
慶応大学湘南藤沢キャンパス 非常勤講師
臨床心理士/公認心理師/1級キャリアコンサルティング技能士
LEGO®︎SERIOUS PLAY®︎メソッドと教材活用トレーニング修了認定ファシリテーター

インタビュイー:山下 絢加(やました あやか)

2013年にアーティエンスに入社。組織開発・人材育成のコンサルタントとして、大手企業から中小企業まで、幅広く研修プログラムの企画・開発・運営を実施。子育てを機に、現在は主にマーケティングプランニングを担当。

25卒に感じる『変化に対する様子見|堅実さ|守り』

山下:
本日はありがとうございます!25卒学生に、感じていることをお聞きできますか?

田村氏:
25卒の学生50名強を、年次を追って見てきました。その中で感じたことは『変化に対する様子見|堅実さ|守り」です。

25卒は多くの人が、高校三年生でコロナによる制限を強く受けました。世の中の閉塞感やこの先どうなるのか分からない不安の中で、受験勉強をしてきた世代です。

高校生活の最終学年という貴重な時期をコロナによって奪われ、大学もどうなっているのか分からない…そんな状態で「どうなるんだろう」と様子見しながら受験勉強を進めてきています。
未曾有なことを経験しているが故に、『物事は変化するからこそ、地に足付いた状態で、堅実に、着実に物事を進めたい。』そんな感覚があるのかもしれません。

山下:
なるほど。変化が前提にあるからこそ『守り』に入る。という側面もあるんですね…。ちなみに、24卒との違いを感じたことはありますか?

田村氏:
そうですね、24卒はコロナによる変化と大学入学の節目が同時にきた世代です。

自由に色々とチャレンジできるようになる、といったタイミングでコロナの影響が大きく発生しました。
そのため、24卒は『コロナを上手く乗りこなしてチャレンジした層』と、『コロナを言い訳にして、色々なことを諦めた層』の二極化が目立った世代の印象があります。

一方、25卒は、変化のあおりを受けた世代で、二極化、というのはあまり感じないかもしれません。

地に足付けて物事に取り組みたい25卒。会社選びも『安定』を求める様子

山下:
24卒の二極化は、多方面から聞きますね…。25卒は『様子見、堅実さ、守り』といったお話がありましたが、就活時期に会社を選ぶポイントはどう思いますか?一時期多く話題に上がった、社会貢献等も重視しているのでしょうか。

田村氏:
「社会貢献」を重要視する印象は、個人的にはあまり強くないように思います。

コロナによる不安定な世の中や、昨今のウクライナの情勢もあり、「物事は継続的に安定していない。何がどう展開していくか分からない」といった感覚を強く持っていると思います。

そうした感覚の中では「安定している」といった、もっと手前の部分に目線がいくと思います。安定していない世の中では「社会貢献」にまで考えを及ばせることはなかなか難しいのかもしれませんね。

『手順が明確な仕事』はスピード感を持って取り組める

山下:
なるほど…。確かに、安定しているからこそ他者に目を向けられる、そうした傾向はありそうですね。25卒の印象や会社選びで重視していることをふまえ、入社後、ポジティブな影響を与えそうなことは何がありそうですか?

田村氏:
先ほどお伝えしたことに通じますが、堅実に、真面目に、着実に、丁寧に仕事を進めていけると思います。

また、ここ数年の傾向と同様に「この仕事は、何のためにやるのか」という点がクリアになっていれば、効率的、効果的に進める力を持っていると思います。

実際に私の授業でも、やる手順が明確な課題は進みが早いし、クオリティも高いです。

『様子見』から『一歩ふみだしてチャレンジする』ことは苦手

山下:
弊社のビジネススキル研修や思考系の研修でも、効率的にワークを進めていく姿はとても印象的でした!一方で、懸念すべき点はありますか?

田村氏:
様子見するが故に、チャレンジできないこと、でしょうかね。

例えば、働く人たちに一日ついてまわり、職場の雰囲気や仕事ぶりを観察できるジョブシャドウウィングという機会を大学内で提供していて、毎年応募者を募るのですが、この学年はなかなか手が上がりませんでした。

大きな失敗を伴うような企画でも無かったのですが、みんな様子見をしていましたね。「やったら良いことはありそうだけど、一歩ふみだせない。」そんな感覚です。

山下:
「やったら良いことはありそうだけど、一歩ふみだせない」ですか。その根底にはどんな感情があるのでしょうか?

田村氏:
少しディープな話になってしまいますが、無常観に近いものがあるのかもしれませんね。

世の中、どんどん変わっていく。変わっていくなら、何かにチャレンジしても意味がない…みたいな…これは、個人的見解ですけどね。

『一歩ふみだしてチャレンジする』ためには、上司と共に成長イメージを描くことが大切

山下:
無常観ですか。なかなかディープですね…。とはいえ、一歩ふみだす働きかけは、仕事でも大切なことだと感じています。どのようなフォローができると良いのでしょうか。

田村氏:
本人が未来の成長イメージを持てると、前に踏み出せる感じがあります。
出だしの見えないことに不安を持ち、様子見はしますが、先のイメージが持てたら、前に進んでいけると感じています。

山下:
一緒に成長イメージを持つ、というのは、難易度も少し高いように感じます。実施する際に上司側が意識すると良いポイントはありますか?

田村氏:
本人と上司が先にある未来を『共にみながら話し合っている』といったイメージを持って臨めると良いと思います。

同じ「未来」を見ながら、「未来」をより具体化したり、すり合わせる感覚を持って話せると、お互いに言葉がでやすいのではないかなと。

山下:
それは良さそうですね!新入社員も、自分を深掘りされている、答えを求められている感覚が少なくなり、安心感を持って話せる感じがしました。

仕事の依頼時には、やる意味・やり方・コミュニケーションの重視+流れを一通り経験することが大切

山下:
では、少し目線を近くにして、日々の業務では、どのようなサポートができると良いでしょうか?

田村氏:
「何のために行うか」「どうやって進めるのか」そして、仕事を渡した後の「こまめなコミュニケーション」を行うことで、恐々している所から前にでて進めていけると思います。

「何のためにやるのか知りたい、効率よく生きたい、FBがないことにはネガティブ」 こうした部分は、直近の世代と変わらないと思いますよ。

上記に加えるとすると、25卒は上司や先輩に放置されると、不安な状態から脱却できず、動けなくなる人が多くなりそうに思います。

「自ら動いて解決できるようになる」までの一通りの手順を、まずはサポートしながら経験できる機会を渡すことが大切だと思います。一通りの手順を身に付けられたら、その後はある程度自分で進めていけるかなと。

山下:
なるほど。一度パターンが分かれば、その後は堅実に進めていけそうですね。ありがとうございます!では、最後に、メッセージをお願いします。

3年頑張る経験は、社会人人生を歩むうえでの足腰を強くする

田村氏:
私は、入社して初期の転職は、本人にとって得策ではないと感じています。

想像と異なることがあったり、苦手なことがあったとしても、その経験をどう自分の成長につなげるかを考えて、3年は頑張って前に進む、という経験はその後の社会人人生を歩むうえでの足腰を強くします

そのためにも、まずは新入社員と上司とで、寄り道をしながらも、先のキャリア像・イメージを一緒に見ていく、そんな視点を持ってもらえたらと思います。

若年層のリアリティショックは、スーパーの「ライフ・ステージ論」(※)でも言われているように、探索期と確立期の両方の課題に直面することもその一因と言われています。

つまり、この先続けていく自分の仕事・キャリアを探索する一方、職場において他者との関わりを学び地固めを行う、組織社会化の間でもがく。
そのもがく時期に、上司は、新入社員と共に描いた先のイメージをもとに、今の大変さをどうやって血肉にできるかを考え、サポートすることは、キャリア発達の視点でもとても有効なアプローチだと考えます。

新入社員はぜひ、様子見している状態から一歩踏み出し、様々な経験を自身の成長に繋げてもらえたらと思います。

山下:
「社会人人生を歩む上での足腰を強くする」は、とても力強く、そして優しいメッセージですね!田村さん、本日はありがとうございました!

参考
ライフ・ステージ論|スーパーは人生を5つの発達段階に整理し、段階毎の発達課題に取り組むことを通じて人間的な成長を遂げてゆくと考えました。

発達段階※1 年齢※2 発達課題
成長段階 0〜14歳 家庭や学校での経験を通じて、仕事に対する空想や欲求が高まり、職業への関心をよせる。
探索段階 15〜24歳 学校教育・レジャー活動・アルバイト・就職などから、試行錯誤をともなう現実的な探索を通じて職業が選択されていく。
確立段階 25〜44歳 前半は、キャリアの初期であり、自分の適性や能力について現実の仕事のかかわりの中で試行錯誤を繰り返す時期。後半は、職業的専門性が高まり、自分の能力・適正を生かすことに関心を持ち、キャリアを確立する。
維持段階 45〜64歳 自己実現の段階となり、安定志向が高まり、既存のキャリアを維持することに関心をもつ。
解放段階 65歳〜 職業世界から引退する時期。セカンドライフ(新しい役割の開発)が新たな課題となる。

※1 スーパーは、今後は確立段階を経たのちに、再び探索段階に戻って新たな職業選択をおこなう人が増えてゆくと指摘しています。
※2 あくまでモデルであり、個人差が相当あることに注意が必要です。

参考:日本キャリア・コーチング株式会社(JACCAⓇ)