パワハラを知る。パワハラの定義・防止方法・見かけた時の対策まで解説

作成日:

中小企業 若手社員研修

「パワハラを起こさないために、何をしたらいいのだろうか」
このようなお悩みをお持ちの方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。

パワハラが起きると、組織が責任を負わなければならなくなったり、社員が安心して仕事を行えなくなるなど、さまざまなネガティブな影響があります。

そこで本コラムでは職場におけるパワハラについて説明します。パワハラが起きないようにするためにあらかじめ対策を行い、組織の成長を妨げられないようにしましょう。

このコラムで分かること

  • そもそもパワハラとは
  • パワハラが起きる原因
  • パワハラを防ぐ具体的な方法
執筆者プロフィール
森川 友晴
チェリッシュグロウ(株)代表。業界歴15年以上。大手外食チェーンにて店舗業務、人事部、教育部などを経験した後、アルー(株)に転職。研修教材やコンテンツ開発のマネジメントを行う。 現在は、研修講師、中学高校や企業のカウンセラーとして企業と個人の支援を行っている。

専門性:インタラクショナルデザインコーチング、キャリア開発、メンタルヘルス/レジリエンス

目次

1)職場におけるパワハラとは

パワハラとはパワーハラスメントの略で、ハラスメントの一種です。「労働施策総合推進法」では、次の3つの要素を全て満たす言動を「パワーハラスメント」と定義しています。

同じ職場で働く者に対して
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの

客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

上記の定義で使われている言葉についても、具体的に定義されています。

※以下の内容は「ハラスメントの定義|ハラスメント基本情報|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-」より引用

「職場」とは

事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。

勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当しますが、その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意かといったことを考慮して個別に行う必要があります。

「職場」の例:出張先、業務で使用する車中、取引先との打ち合わせの場所(接待の席も含む)等

「労働者」とは

正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する全ての労働者をいいます。

また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者(派遣先事業主)も、自ら雇用する労働者と同様に、措置を講ずる必要がある。

①「優越的な関係を背景とした」言動とは

業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者とされる者(以下「行為者」という。)に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。

例)
・職務上の地位が上位の者による言動
・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの

②「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは

社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指します。

例)
・業務上明らかに必要性のない言動
・業務の目的を大きく逸脱した言動
・業務を遂行するための手段として不適当な言動
・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況(※)、行為者の関係性等)を総合的に考慮することが適当です。

その際には、個別の事案における労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることについても留意が必要です。なお、労働者に問題行動があった場合であっても、人格を否定するような言動など業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動がなされれば、当然、職場におけるパワーハラスメントに当たり得ます。

※ 「属性」・・・・・(例)経験年数や年齢、障害がある、外国人である 等
※ 「心身の状況」・・(例)精神的又は身体的な状況や疾患の有無 等

③「就業環境が害される」とは

当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当です。

なお、言動の頻度や継続性は考慮されますが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合には、1回でも就業環境を害する場合があり得ます。

職場におけるパワハラについてはこのように定義されています。

パワハラで定義されている内容は、当たり前に行われていた時代もあります。その時代に育った社員からすると、パワハラをしている自覚なく、パワハラをしてしまっている可能性が大いにあります。

パワハラについての知識がないために、社員も組織も辛いことを経験してしまうことが無いよう、パワハラについて正しく理解することが重要です。

2)パワハラの代表的な6つの類型

職場におけるパワーハラスメントの状況は多様ですが、代表的な言動の類型として6つの類型があります。

①身体的な攻撃 蹴ったり、殴ったり、体に危害を加えるパワハラ
②精神的な攻撃 脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など精神的な攻撃を加えるパワハラ
③人間関係からの切り離し 隔離や仲間外れ、無視など個人を疎外するパワハラ
④過大な要求 業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務を押し付けるパワハラ
⑤過小な要求 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えないパワハラ
⑥個の侵害 私的なことに過度に立ち入るパワハラ

それぞれ具体的に説明します。

※以下、それぞれの解説は「ハラスメントの類型と種類|ハラスメント基本情報|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-」より引用

①身体的な攻撃

ったり、蹴ったり、社員の体に危害を加える行為や、相手に物を投げつけるような行為によって部下や同僚を威嚇し、従わせようとすることは、「身体的な攻撃」型のパワハラに該当すると考えられます。

例)提案書を上司に提出したところ、「出来が悪い」と怒鳴られ、灰皿を投げつけられて、眉間を割る大けがをしたなど

②精神的な攻撃

労働者を脅迫するような言動や人格を否定するような侮辱、名誉棄損に当たる言葉、ひどい暴言は、「精神的な攻撃」型のパワハラに該当すると考えられます。人格を否定するような言動には、相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動も含まれます。相手の性的指向・性自認の如何は問わず、一見、特定の相手に対する言動ではないように見えても、実際には特定の相手に対して行われていると客観的に認められる言動が含まれます。

なお、性的指向・性自認以外の労働者の属性に関する侮辱的な言動も、職場におけるパワーハラスメントの3つの要素を満たす場合には、これに該当します。

例)職場の同僚の前で上司から人格を否定する言葉を毎日のように大声で浴びせられる、など

③人間関係からの切り離し

特定の労働者に対して、仕事から外したり、別室への隔離・無視や仲間外しなどの行為は、「人間関係からの切り離し」型のパワハラに該当すると考えられます。

例)仕事のやり方を巡って上司と口論してから同僚に話しかけても集団で無視される状態が続いており、職場で孤立している、など

④過大な要求

業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害があった場合、「過大な要求」型のパワハラに該当すると考えられます。

例)新卒で入社したばかりなのに、必要な教育がないまま、到底対応しきれないレベルの業績目標を課され、それを達成できなかったことに対して厳しく叱責された、など

⑤過小な要求

業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないことは、「過小な要求」型のパワハラに該当すると考えられます。

例)管理職であるにも関わらず、誰にでも遂行可能な業務を命じられた、など

⑥個の侵害

労働者を職場外でも継続的に監視したり、個人の私物を写真で撮影したりすること、また、上司との面談等で話した性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、本人の了解を得ずに、他の労働者に暴露することは、「個の侵害」型のパワハラに該当すると考えられます。

例)自身の機微な個人情報について、上司にしか打ち明けていないのに、勝手に他の同僚にも暴露されていた、など

ここまでパワハラとして起きる頻度の高い6つの種型を紹介しましたが、これらに当てはまらなかったらパワハラではない、ということではありません。今回紹介した6つの種型に当てはまらなくても、1章で紹介した定義に当てはまっていたらパワハラです。

社員の状況に対してパワハラの可能性がある場合は、判例を参照したり、専門家に相談することをおすすめします。

【参考】ハラスメントの裁判例の参考サイト
裁判例を見てみよう|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト

【参考】ハラスメントチェックの参考サイト
どんなパワハラかチェック|ハラスメントで悩んでいる方|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-

3)パワハラによるリスク

職場でパワハラが起きると組織としてさまざまなリスクを負うことになります。社員や世間が組織に対して不信感を持つためです。

具体的なパワハラのリスクとして次の6つのことが挙げられます。

①組織に対する法的責任

パワハラが職場で起きた場合、加害者を雇用していた企業も、安全配慮義務違反(労働契約法5条)や使用者責任(民法715条1項)に基づき、被害者に対する損害賠償責任を負う可能性があります。パワハラが刑法上の犯罪に該当する場合は、企業や管理者が刑事罰を受ける可能性もあります。

②世間からのイメージダウン

世間から社会的責任を果たせていない組織だと見なされて組織のイメージが低下し、将来の成長や存続にも影響することとなります。

③組織への不信感の向上

安全で健全な労働環境を提供できない組織に対する信頼感がなくなり、組織への不信感から転職する人が増え、今後の人材獲得が難しくなります。

④離職率の向上

パワハラの被害者はもちろん、従業員も組織に対する不安や不信感を感じ、他社への転職を検討するようになります。

⑤社員への被害

パワハラを受けた社員は心身の体調を崩し休職せざるを得ない場合があります。また、精神疾患を発症してしまうこともあります。
周囲の社員は被害者の休みによって急な職務変更が起きたり、仕事の分量が増えることがあります。

⑥生産性の低下

パワハラによるストレスや不安が業務に影響を与え、仕事のパフォーマンスが落ちます。また、職場の雰囲気が悪化し、協力やチームワークが崩れることもあります。

組織がこのようなリスクを負わないようにするためにも、事前にパワハラ対策を行い、パワハラが起きない組織にする必要があります。

4)パワハラが起こる10の原因|組織の問題・社員の問題

パワハラが起こる原因として、次のことが考えられます。

組織の問題 ①権力構造
②心理社会的に安全な職場風土がない
③ハラスメントについての教育不足
④日々の社員へのフォロー制度不足
社員の問題 ①役割の誤認
②コミュニケーション不足
③個人の価値観の理解不足
④感情コントロール力の不足
⑤強い固定概念
⑥不安定な精神状態

順番に説明します。

組織の問題① 権力構造

パワハラが起きる原因として権力構造があります。組織内で特定の個人やグループが支配的な地位にある場合、その権力を濫用し、弱者を対象にパワハラが発生する可能性が高まるためです。

また、不平等な権力構造が組織内で浸透していると、被害者は報復を恐れてパワハラを受けたと報告しづらくなります。そうすると不正規な権力の行使が容易に行われやすくなり、組織内の信頼関係や公正感が崩れ、パワハラの温床となります。

組織の中に権力格差があると権力の強いものに弱いものは対抗できない状態が作られるためパワハラが起きやすくなります。

組織の問題② 心理社会的に安全な職場風土がない

心理社会的に安全な職場風土がないことは、パワハラの原因の一つです。心理的な安全性がないと、職場で個人が自分の意見や考えを述べることに不安や恐れを感じるためです。

オープンなコミュニケーションが取れないと信頼関係は築かれず、問題が解決されずに放置される可能性が高まります。そうするとパワハラが起きても自分の声を上げず、不適切な行動に対しても黙認してしまい、パワハラ問題が常習化します。

職場に心理的安全性がなく、オープンなコミュニケーションができないことでパワハラが起きやすくなります。

組織の問題③ ハラスメントについての教育不足

パワハラが起きる原因として、ハラスメントについての教育不足があります。従業員や管理職がハラスメントについて正確な理解を持っていない場合、適切な対応や予防が難しくなるためです。

ハラスメントの知識やリスクを理解していないと、自身の言動がハラスメント視点で問題がないかを考えてもらう時間を作れません。
また、教育不足は差別や嫌がらせの認識を低くし、問題を未然に防げない状況を招きます。

このように、ハラスメントの知識や認識がないと、自身の言動についてわざわざ振り返ろうとしないためパワハラが起きやすくなります。

組織の問題④ 日々の社員へのフォロー制度不足

パワハラが起きる原因として、日々の社員へのフォロー制度不足があります。社員への十分なサポートやフォローアップがない状況では、ストレスや問題が積み重なりやすくなるためです。

定期的に不満や不安を伝えられる場所を設けておけば、違和感を感じた時点で伝えやすくなり、大きな問題になる前にフォローできる可能性が高まります。

なお、パワハラについての問題について誰かに伝えるためには、報告することで自分が標的にされるかもしれないなどのさまざまな不安を乗り越えて勇気を出す必要があります。そのため、その不安を乗り越えられない場合は、告発されることがありません。伝えるハードルを下げるためにも、定期的に社員の不安や悩みに寄り添う場を設けておく必要があります。

このように、不安や悩みなどを定期的に話せる場を設けていないと、ストレスや問題が増えていき、ハラスメントとして現れてしまうようになります。

社員の問題① 役割の誤認

自身の職場での役割を誤認している場合もパワハラの原因となります。パワハラの定義になっている「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」となってしまっている可能性が高いためです。

例えば、自分は上司だから、部下が自分のいうことを聞くのは当たり前と考えてしまっている人もいます。
しかし、そのように考えている人は、自分が組織から何を求められているのかを誤認している可能性が高いです。
上司だからといって自分のコマのように使ってもいいと組織から言われているのではなく、部下の仕事をサポートしたり、部下の仕事の質を高めるための育成を行なってほしいと言われていることがほとんどでしょう。しかし、なぜか自分の中で勝手に上司は部下に対して何をしても良い人という認識になってしまっているのです。

このような役割の誤認が起きていると業務範囲を超えた言動が出やすく、ハラスメントになってしまう可能性が高くなります。

社員の問題② コミュニケーション不足

パワハラが起きる原因として、コミュニケーション不足があります。コミュニケーションが不足している職場ではお互いを理解しあえず、誤解や不満が蓄積しやすいためです。

特に近年はリモートワークが普及し、対面でのコミュニケーションが減少しているため雑談が生まれづらくなっています。また、ハラスメントやコロナの影響で飲み会の開催も少なくなり、お互いを知るためのコミュニケーションができていない組織も多いです。
すると、「あの人は自分を見下しているようだ」とか「あの人は仕事を舐めてるんじゃないか?」などと自分の憶測のみで相手を判断しやすくなってしまいます。

コミュニケーションが不足のせいで、お互いにストレスや不満を抱えやすくなったり、認識の違いが起こりやすくなり、パワハラとして表面化することがあります。

社員の問題③ 個人の価値観の理解不足

パワハラが起きる原因として、個人の価値観の理解不足があります。職場にはさまざまな価値観を持った人がいるためです。多様性を尊重せず、個人の異なる価値観に理解を示さないと、パワハラの原因となります。

例えば、自分と同じように仕事を最優先して残業して働いていない人は怠け者だ、と判断して、嫌がらせをしてしまうのは価値観が異なることを理解しきれていないために起こります。人によって仕事のスピードや、大切にしたい価値観は異なるためです。

このように自身の価値観の押し付けるようになるとパワハラとなってしまう場合があります。

社員の問題④ 感情コントロール力の不足

感情コントロール力が不足していることもパワハラが起きる原因の一つです。怒りや嫉妬、不満などの感情が不適切な形で外に出やすくなるためです。

感情のコントロールが不足している人は冷静な判断力が欠如し、感情に左右された行動が増えます。それが怒りやイライラなどのネガティブな感情だと、他者に攻撃的な態度を取ることがあります。

このように感情のコントロールができていないと、ネガティブな感情を感じたときにそれが不適切な形の言動として出やすく、パワハラが生まれてしまいます。

社員の問題⑤ 偏見や固定概念が強い

パワハラが起きる原因として、偏見や固定概念が強いことも挙げられます。偏見や固定概念が強い人は、他者の状況や背景を理解せずに、自分の固定観念に基づいて行動する傾向があるためです。

偏見や固定概念に基づいて、特定のグループや個人に対する差別的な行動が正当化されることもあります。
例えば女性はリーダーには向かない、という固定概念を持っている人は、女性がリーダーになった際に、その立場から落とすために女性の評価を落とすような言動をわざとするようになるかもしれません。

偏見や固定概念が強いと適切でない言動が自分の中で正当化されてしまい、パワハラが起きる原因となります。

社員の問題⑥ 不安定な精神状態

社員が不安定な精神状態だと、パワハラが起きやすくなります。不安定な精神状態の人は、感情の起伏が激しく、ストレスや不安に対する耐性が低い傾向があるためです。

仕事でストレスを感じたときに他者に対して攻撃的な言動を取ったり、過剰な反応を示すことがあり、それがパワーハラスメントの一因となります。

特に近年はインターネットやSNSの発達により、精神状態が不安定になる人が増えているため、パワハラの問題も起きやすくなっていると言えます。

このようなことが原因でパワハラが起きることを理解した上でパワハラへの対策を行う必要があります。

5)パワハラを防ぐ方法

パワハラを防ぐ方法を7つ紹介します。

パワハラを防ぐ方法①組織のハラスメント方針等の明確化・周知

パワハラが起きないようにする対策として、組織のハラスメント方針等を明確にし周知する方法があります。明確な方針がないと、従業員や関係者は望ましい行動基準を理解できないためです。また、方針があっても社員が認識できていなければ意味がありません

組織としてパワハラをどのように扱うかや、組織が独自に退職処分などの罰を下す場合は、そのことについても明確に提示しておく必要があります。この内容は年に1回は見直し、時代にあった内容になっているか確認した上で、社員へ周知しましょう。

周知の方法としては、社内の掲示板や社内報、会社のウェブサイトなどでの掲載や、入社時の説明会、ハラスメント研修などの機会を活用して伝える方法もあります。

ただ、一方的に伝えるだけでは内容を読まない社員もいるため、アンケートフォームなどで組織の方向性について理解し同意してもらうと、組織として安心できます。また、組織の方向性について質問があれば受付、答える体制も整えておきましょう。

このように社員全員に対して組織のハラスメントの方針などを理解してもらうことで、パワハラの発生を抑えることにつながります。

パワハラを防ぐ方法②評価や昇進基準の明確化

パワハラが起きないようにする対策として、評価や昇進基準を明確にする必要があります。透明性を高めて、歪な権力を排除するためです。

ポジションに求められるスキルや知識、人間力など組織が求める条件を言語化し、評価や昇進の基準として社員に公開しましょう。基準がわかりやすく、明確であれば、ポジションにおける不公正な差別が生じにくくなります。
また基準を明確にすることで、コネなど権力の行使によって昇進してきた人の役職が見直されるきっかけにもなります。

評価や昇進の基準が明確でオープンになることで、権力によるポジションの優遇や意図的な昇進の妨害を防げます。

パワハラを防ぐ方法③パワハラについて教育する機会の設置

パワハラが起きないようにする対策として、ハラスメントについて教育する機会を設ける方法があります。ハラスメントの知識があることで第三者が早い段階でフォローできたり、ハラスメントのリスクを知ることで自身の言動がハラスメントとなっていないか確認しようとするためです。

ハラスメントについての教育の方法としては、研修や動画学習、指定図書などがあります。一人で学ぶ動画学習や読書は知識のインプットには向いていますが、インプットだけで終わってしまうと行動として活かしにくいため、各自で学んだ後に対話の機会を設けることをお勧めします。ハラスメントについての気づきやよくわからなかったことをシェアしあったり、学んだことから、どのようなアクションを取るかを話し合うことで、知識を活かせるようになります。研修でも、知識のインプットのみだけでなく、参加者同士で対話を行う時間があると理解が深まります。

ハラスメントについての知識を身につけ、社員それぞれがハラスメントを意識することで、パワハラが起きない職場にしましょう

パワハラを防ぐ方法④ストレスチェックの実施

ストレスチェックを行うことも対策の一つです。
ストレスチェックとは、ストレスに関する質問に社員が回答し、自分のストレス状態を確認する検査です。「労働安全衛生法」という法律が改正されて、労働者が 50 人以上いる事業所では、2015 年 12 月から、毎年1回、この検査を全ての労働者※に対して実施することが義務付けられました。(※ 契約期間が1年未満の労働者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は義務の対象外です。)

組織としては、職場のストレス状態を確認して、水面下でパワハラが起きていないかなど、フォローすべき課題のヒントを得るために活用できます

社員は、ストレスチェックに答えることで自分のストレス状態を認識し、セルフケアとして自分のストレス状態をコントロールしようと意識しやすくなります
セルフケアとしてストレスコントロールを行えることもパワハラ防止になります。

組織は職場のストレス状態を確認し、社員は自身のストレス状態を確認することで、状態が視覚化され、フォローに向けて動きやすくなります

パワハラを防ぐ方法⑤コミュニケーション機会の設置

パワハラが起きないようにする対策として、コミュニケーション機会を設ける方法があります。日常的にコミュニケーションを取れていれば、相手の価値観の理解や、信頼性を築けて誤解から生じるハラスメントを防げるためです。

具体的な方法としては、例えば次のような方法があります。

1on1

1on1とは、上司と部下が1対1で行う定期的な面談のことです。1on1は部下の成長のための時間で、部下が抱えている悩みや不安を解消したり、これから頑張りたいことができるように一緒に考えたりします
実施タイミングは組織によってさまざまで、毎日15分程度行う場合もあれば、週1回、月に1回という場合もあります。
ただ回数を多く実施すればいいというわけではなく、上司と部下で信頼関係があり、お互いが素直に話せる環境であることが大切です。

【あわせて読みたい】
【Q&A付】1on1のやり方は目的別の使い分けが重要!効果的に進める9ステップ

ランチ補助

社員同士でランチする際に会社から1人1,000円程度補助を出すという福利厚生をつけることも方法のひとつです。そうすることで、積極的に社員同士のコミュニケーションが生まれやすくなります

同じ人とばかり行かないように、同じ人との場合は月に1回まででしか支給しないようにしている組織もあります。そのほか、部署間のコミュニケーション機会を作るために、部署メンバーが全員参加のときのみ支給するルールにしている組織もあります。

ランチは仕事から離れてリラックスしやすいため、お互いを知るコミュニケーションがとれることを期待できます

部活

社内で部活をつくり、上下や部署に関係ないコミュニケーション機会をつくる方法もあります。自分の好きなことや興味のあることを通して会話をするため、話題に困ることなく会話を楽しめます。

部活によっては部下のほうが得意で上の立場の人に教えるような場面も考えられるため、よりフラットなコミュニケーションが生まれやすいです。

このように定期的にコミュニケーションをとる機会を作ると、お互いの性格や特徴を知れるため関係性が築かれ、パワハラを抑制できます

パワハラを防ぐ方法⑥価値観の違いを知る機会の設置

パワハラが起きないようにする対策として、価値観の違いを知る機会の設置という方法があります。自分の言動に対して相手はどのように感じるかを考えきれていないことによってパワハラが生まれるためです。

具体的な方法を2つ紹介します。

自身の価値観を知る

自分がどんな価値観を大切にしているのかを理解するための内省ワークをおこないます。アーティエンスの関係性構築力研修ではオリジナルのワークシートを用いながら自分が大切にしている価値観と向き合い、その後グループでシェアしてもらいます。
そうすることで、それぞれに異なる価値観を持っていることを知り、その価値観を土台にした言動をしていることに気が付きます。

インタビュー

お互いの価値観を知るためにインタビューする機会を作ることも一つの方法です。普段の会話の中で価値観に触れる話をするのが難しいためです。

例えば、アーティエンスではお互いに大切にしている想いや背景を理解し合うことを目的として相互インタビューを行っています。価値観を知るための質問をあらかじめ用意しておいて、インタビュー者はその内容をそのまま尋ねます。そのようなルールにしておくことで、個人的には聞けないような質問もしやすくなります。

【参考:相互インタビューシート】

弊社新入社員研修を導入いただいたお客様にオンボーディング支援ツールとしてお渡ししています。

インタビューという形式を取るだけで、普段質問しにくいことを聞けるようになり、お互いの理解が深まるためお勧めです。

このように価値観の違いを知る機会を作ることで相手の立場になって考えることの大切さを実感し、意識できるようになるとパワハラの抑制につながります

パワハラを防ぐ方法⑦相談・苦情に応じる体制の整備

パワハラが起きないようにする対策として、相談・苦情に応じる体制を整備する方法があります。相談しづらい状況がフォローを遅らせ、パワハラを起こし続けるためです。

例えば、組織内に相談窓口につながるメールアドレスを用意して相談のハードルを下げて連絡しやすくする方法があります。このときに必ず守秘義務を約束しましょう。相談内容が漏れてしまうのではないかという不安があると相談できないためです。また、相談窓口以外の社員はメール内容を見られない設定にしておくことも必要です。

他には、外部カウンセリングと契約してカウンセラーに相談できるようにする方法もあります。第三者だからこそ安心して話せる場合もあります。また、プロのカウンセラーのため受け入れてくれるだろうという安心感もあるでしょう。

このようにパワハラにあった時に安心して相談できる場所を設けておくことで、パワハラを阻止しやすくなります

このような対策を行い、パワハラを未然に防ぐことが大切です。

6)第三者としてパワハラを見かけた時にできる5つのこと

パワハラの現場に遭遇した場合、できる範囲で次のことを行えるとパワハラの被害を最小限に抑えることにつながります。

①加害者と被害者の接点を減らす

加害者と被害者の接点をできる限り減らせるように動きましょう。接点があると再度パワハラが起きやすく、また被害者は一緒にいることだけで辛さを感じるためです。

一緒の会議に参加するときは隣同士にならないようにしたり、プロジェクトの担当を分けたりして接触機会を減らしましょう。

②被害者に孤独を感じさせない

被害者が孤立しないようサポートすることも重要です。自分を助けてくれる人がいないことを感じると組織にいれなくなるためです。

被害者に挨拶をしたり、お昼に誘ったりして孤独を感じさせないようにしましょう。話す内容はパワハラとは全く関係のない雑談で大丈夫です。

③被害者が相談してきたら話を聞く

被害者が相談してきたら話を聞いてあげましょう。話を聞いてほしいというサインだからです。

話を聞く際は自分の意見やアドバイスを伝えることは避けて、相手の話をただ受け止めることが大切です。一度全部受け入れた後に、今後パワハラについてどのように扱っていきたいかを確認し、できる限りの協力をしてあげると、被害者は安心感を感じられます。

④記録をつける

パワハラが行われている場面に遭遇した場合は、記憶が鮮明なうちにその時の状態を記録しておきましょう。できるだけ具体的に記録をつけます。証拠となりそうな写真や音声を取れるようであれば撮っておくと、専門家などに状況が伝わりやすいです。

記録は、以下のことを意識して行いましょう。

・ハラスメントだと感じたことが起こった日時
・どこで起こったのか
・どのようなことを言われたのか、強要されたのか
・誰に言われたのか、強要されたのか
・そのとき、誰か見ていたか

⑤専門の相談窓口でフォロー方法のアドバイスを聞く

パワハラの加害者・被害者と自分の関係によっては、上記の言動を行うのが難しいかもしれません。その際は、ハラスメントに関する相談窓口に連絡して、自分なりにできるフォローについてアドバイスをもらうのも一つの方法です。
アーティエンスや下記のような場所を利用しましょう。

これらの内容を参考に、自分のできる範囲のフォローを行い、パワハラの被害を最小限に留められるようにしましょう。

7)パワハラが起きた時の組織としての対応方法

パワハラが起きた時は、次のプロセスで対応しましょう。

①事実確認を行う

ハラスメントの疑いが浮上した場合、まず組織は公平で客観的な立場から事実を確認することが重要です。
被害者や行為者からの話だけでなく、証人からの証言や関連する文書や電子メッセージの調査、監視カメラ映像の確認などを通じて、事件の全体像を正確に理解します。

事実確認は公平かつ中立的なプロセスで行い、透明性を確保する必要があります。

②処分やフォローを講じる

事実確認の結果、ハラスメントが確認された場合、組織は適切な措置を講じます。

加害者には懲戒処分や教育プログラムの参加を求めるなど、ハラスメントの内容に応じた懲戒処分を科すことになります。この処分については、法律も関わることのため、専門家と相談しながら慎重に行う必要があります。

被害者に対しては被害者の意向や安全を最優先に考慮し、適切にフォローアップします。精神的なフォローが必要な場合は産業医と連携して専門家の力も借りましょう。

そのほかの社員がハラスメント問題のことを認識している場合は、社員全体へのフォローも必要です。余計な不安を感じさせず、安心して業務に取り組める状態にすることを意識してフォローしましょう。

加害者と被害者、そしてほかの社員にとって、適切な処分とフォローすることで業務を遂行できる状態にします。

③再発防止策を検討し実施する

今後同様の問題が再発しないようにするために、組織は再発防止策を検討し実施します。
ハラスメントが起きたことで社員や世間からネガティブな印象を持たれていることが多いため、事実と対策を明確に提示し、再発防止と共に信頼を取り戻していくことが必要です。
具体的なハラスメントの対策方法については次の章で紹介します。

これらのプロセスで対応し、パワハラの被害を最小限に抑えた上で、再発防止に努めましょう。

【参考】パワハラの裁判例

パワハラの裁判例については下記のサイトに詳しく掲載されています。
裁判例を見てみよう|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-

8)まとめ

本コラムでは職場におけるパワハラについて説明しました。


そもそもパワハラとはパワーハラスメントの略で、ハラスメントの一種です。同じ職場で働く者に対して優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものがパワハラとして定義されています。

職場におけるパワーハラスメントの状況は多様ですが、代表的な言動の類型として6つの類型があります。

①身体的な攻撃 蹴ったり、殴ったり、体に危害を加えるパワハラ
②精神的な攻撃 脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など精神的な攻撃を加えるパワハラ
③人間関係からの切り離し 隔離や仲間外れ、無視など個人を疎外するパワハラ
④過大な要求 業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務を押し付けるパワハラ
⑤過小な要求 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えないパワハラ
⑥個の侵害 私的なことに過度に立ち入るパワハラ

パワハラとして起きる頻度の高い6つの種型を紹介しましたが、これらに当てはまらなかったらパワハラではない、ということは十分に注意してください。

職場でパワハラが起きると組織としてさまざまなリスクを負うことになります。社員や世間が組織に対して不信感を持つためです。組織がリスクを負わないようにするためにも、事前にパワハラ対策を行い、パワハラが起きない組織にする必要があります。

パワハラが起こる原因として、次のことが考えられます。

組織の問題 権力構造
心理社会的に安全な職場風土がない
ハラスメントについての教育不足
日々の社員へのフォロー制度不足
社員の問題 役割の誤認
コミュニケーション不足
個人の価値観の理解不足
感情コントロール力の不足
強い固定概念
不安定な精神状態

このようなことが原因でパワハラが起きることを理解した上でパワハラへの対策を行う必要があります。

本コラムではパワハラを防ぐ方法を7つ紹介しました。
●組織のハラスメント方針等の明確化・周知
●評価や昇進基準の明確化
●職場の環境改善
●パワハラについて教育する機会の設置
●ストレスチェックの実施
●コミュニケーション機会の設置
●価値観の違いを知る機会の設置
●相談・苦情に応じる体制の整備

このような対策を行い、パワハラを未然に防ぐことが大切です。

なお、パワハラの現場に遭遇した場合やパワハラが起きた時は、パワハラの被害を最小限に抑え、再発防止に努めることが意識して取り組みましょう。

アーティエンスでもパワハラをはじめ、ハラスメントに関連するサービスを実施しています
貴社のお悩みに合わせて適切な対応・対策を行えるようにサポートしますので、お気軽にお問い合わせください

パワハラが起きないようにするためにあらかじめ対策を行い、組織の成長を妨げられないようにしましょう。

研修でお悩みの方へ

研修は、内容次第で成果が大きく変わります。もしも現在、自社の課題を解決できる最適な研修を探しているのであれば、アーティエンスまでご相談ください。

新入社員研修から管理職研修、組織開発まで、お客様の課題解決にこだわり、多くの実績を生み出してきたプロフェッショナルが、貴社の課題にあわせた最適なプランをご提案させていただきます。

アーティエンスに相談する