トヨタの元人事が解説!知っておくべき「トヨタ式問題解決研修」の導入方法と現場フォロー

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「トヨタ式問題解決研修を行いたい」
「トヨタの問題解決研修を行ったけど、現場で活用されない。原因を見つけたい」

このような問題意識を持つ経営者や人事の方が、本コラムにたどり着いたのではないでしょうか。

トヨタの問題解決の考え方は、「当たり前の基準を高める」上で効果的な考え方ですが、実際の成果につなげるには、現場との接続が重要です。

本コラムでは、トヨタで調達部門と人事部門に在籍していた川下氏の監修のもと

・トヨタの問題解決研修で得られる効果は「当たり前の基準を高め続ける」文化創り
・トヨタの問題解決研修で学ぶべき2つの具体的な内容
・トヨタの問題解決研修が、効果に繋がらないケースへの対応
・企業の【問題別】「トヨタの問題解決研修」の導入方法
をお伝えします。

最後までお読みいただくと、「トヨタ式問題解決研修」の理解が進むだけではなく、自組織にとって最適な「トヨタ式問題解決研修」が分かります。

自組織に最適な「トヨタ式問題解決研修」を選択し、その上で組織内で「トヨタ式問題解決」を定着させていきましょう。

監修者プロフィール

川下 俊輔

大学卒業後、トヨタ自動車株式会社に入社、調達本部に配属。二度の中国駐在を経て人事本部に異動し、全社の採用活動を担当。同時に社内講師として全社の若手~中堅社員向けの「問題解決」講座も受け持つ。45歳で早期定年退職制度を活用し退職。パナソニックグループ人事部門を経て、現在はITベンチャー企業の人事及び新規事業推進責任者として、急成長中の組織における人材・組織開発に取り組み中。

1. トヨタの問題解決研修で得られる効果は「当たり前の基準を高め続ける」文化創り

トヨタの問題解決研修で得られる効果は、改善活動を継続する力、つまり、「当たり前の基準を高め続ける力」を養うものです。

変化のスピードの速い今、 組織、そして一人一人の社員が「当たり前の基準を高め続ける力」を養わなければ、市場から見放されます。逆に「当たり前の基準を高め続ける力」を養っていれば、変化のスピードの速い時代においても、適応し続けることが可能です。

実際に、問題が起きた時に瞬時に全員が一団となって動けるのがトヨタの強みです。それは、日常からトヨタ問題解決思考を着実に実践することによって、改善マインドが当たり前に定着しているのでしょう。

こうした個人の力が集団的に高まることで、組織の「当たり前の基準を高め続ける」文化も創られていきます。

 このようにトヨタの問題解決は、ただ問題解決するものではなく、「当たり前の基準を高め続ける力」を養うものであり、「当たり前の基準を高め続ける」文化を創っていくものです。

2. トヨタの問題解決研修で学ぶべき2つの具体的な内容

トヨタの問題解決研修で学ぶべき内容は、下記2つがあります。

①トヨタの問題解決の基本│知識のインプット
②トヨタの問題解決の応用│課題設定への利用

 それぞれ説明していきます。

2-1. 知識のインプット

トヨタの問題解決研修において、知識としてインプットすべきことは、下記3つです。

 ・8ステップ
・どこどこ分析
 ・なぜなぜ分析

 それぞれ説明していきます。

8ステップ

トヨタの問題解決の「8ステップ」は、問題解決の精度を高めるための効果的なプロセスです

8ステップは、問題を一時的に解決するのではなく、根本的な原因を特定し、改善することを目指します。各ステップは論理的に組み立てられており、問題の解決だけでなく、その解決策を現場に定着させます。

 トヨタの問題解決における「8ステップ」について、概要・特に必要なスキル・マインドを記載します。

※こちらからトヨタの問題解決における8ステップ(スプレッドシート)をご覧ください。

ステップはグラデーションになることも多く、また、前のステップに戻ることもあります。

 トヨタの8ステップは、問題解決を単なる一時的な対応で終わらせず、根本原因の解決と組織全体への標準化を通じて、持続可能な改善をもたらすプロセスです。

このステップを実践することで、組織全体の問題解決力が強化され、競争力の向上につながります。そして、何より組織の基準(当り前)が上がっていきます。

どこどこ分析

「どこどこ分析」は、問題が発生している場所を特定するための分析手法です。

 問題の原因を特定する際、原因が「どこで」発生しているのかを明確にすることは非常に重要です。これが明確にならなければ、解決策が的外れになる可能性が高くなります。「どこどこ分析」は問題の発生場所を特定し、次のステップである原因分析や対策立案の精度を高めることに貢献します。

例えば、顧客からクレームがあったとします。その際に、どこでクレームが起きたかを把握することが必要です。下記図のように考えていきます。

どこどこ分析

この時、MECE(※)で考えていくことが必要です。
「どこどこ分析」で、問題を正確に把握しなければ、問題解決はできません。

(参考)MECEとは
MECEとは「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字をとったもので、簡単に訳すと、「お互いが重複することなく、要素に漏れがない状態」という意味です。 下記のように、アプローチしていきます。
※当社ロジカルシンキング研修のテキストより抜粋

なぜなぜ分析(5why)

「なぜなぜ分析」は、問題の根本原因を追究するための手法です。表面的な原因ではなく、深層にある真の原因を特定することを目的としています。

 表面的な原因を解決するだけでは、問題は再発してしまいます。「なぜなぜ分析」は、同じ問題が再発しないよう、問題の本質的な原因を明らかにするために、なぜこの問題が起こったのかを繰り返し問い、深く掘り下げていきます。この時、5回のなぜを繰り返すことから、5whyともいわれます

例えば「開発部門への引継ぎがうまくできなかった」という事象が発生した場合に、その原因を下記のように掘り下げています。
 ※掘り下げなかった場合と、そうでない場合の例を提示します。

このように「なぜなぜ分析」は、根本的な原因を突き止めて、効果が高い解決策を考えることが可能です。

2-2. トヨタの問題解決の応用│課題設定への利用

トヨタの問題解決手法は、問題が発生した場合だけでなく、課題設定においてもとても有効です。組織が目指す目標に向かって、的確に課題を設定するプロセスを行うことも可能です。

例えば、新製品の開発プロジェクトを成功させるために、どの課題を優先すべきかを明確にします。目標設定を行った後に、現状のデータを基に「現状把握」を行います。次に「原因分析」を行い、どの要因がプロジェクト成功の妨げとなる可能性があるかを特定していきます。

このように、トヨタの問題解決研修を実施する際は、未来志向をふくめた課題設定まで、実施することが大切です。

3.トヨタの問題解決研修が、効果に繋がらないケースへの対応

トヨタの問題解決研修を行っても、効果に繋がらないケースは、主に下記6点があります。

現場での工数不足
ロジカルシンキングができず、活用できない
適切な観点・フレームワークが思いつかず、分析が進まない
現場で活用しない
資料を創ることが目的になっている
問題が起きたときに、すぐに対応できない

 それぞれ説明していきます。

3-1. 現場での工数不足

「トヨタの問題解決手法は、工数がかかりすぎて実施できない」とよく言われます。

この場合、まずは、仕事の一部に入れ込むことが重要です。

スケジュールを引き、管理を徹底します。そして、日常業務の中に組み込んでいきます。導入時期は時間を要するかもしれませんが、次第に、工数を計算しコントロールしやすくなります。

習慣化されることで、組織文化として当り前の取り組みとなり、むしろトラブル発生が減り、効率化も進みます。

結果、工数が削減されていきます。

3-2. ロジカルシンキングができず、活用できない

この場合は、ロジカルシンキングの「問い」を投げられるファシリテーターを準備しましょう。

具体的には、問題解決の会議にファシリテーターをアサインするといいでしょう。 ファシリテーターに、ロジカルシンキングを意識した問いかけをしてもらい、参加者が問いに答えることで、ロジカルシンキングの構造化が進みます。

※ 当社、組織が動く会議術シリーズ|会議での合意形成力 向上研修のテキストより抜粋

 そして、チーム学習を通して、チームで論理構成を創っていきます。

参考: 一人で考えることの危険性
一人で考えるだけでは、リスクが伴います。なぜなら、一人で得られる情報や視点には限界があるからです。そのため、チームで意見を出し合うことが重要です。

ただし、チームで議論をすると、声の大きい人の意見だけが通ったり、全員の意見を無理に取り入れて結局何も決まらず終わることがあります。そうした懸念がある場合は、ファシリテーターを活用すると、議論や対話の質を高め、より良い結論を導き出せるようになります。

3-3. 適切な観点・フレームワークが思いつかず、分析が進まない

「トヨタの問題解決手法を活用する際に、適切な観点やフレームワークが思いつかない」とも言われますが、いくつかパターンを知っておけば対応が可能です。

 具体的には、MECEを行う際の5つのポイントを知っておくといいでしょう。この5つの観点を持つだけで、思考の幅が広がります。

3-4. 現場で活用しない

「トヨタの問題解決手法は学んでも、現場で実際に活用されない」という問題がよく指摘されます。もちろんただ研修を行っただけでは、上手くいきません。現場での活用を促進するためには、アクションラーニング(※)を用いることをお薦めします。

 具体的には、研修内で自組織内の課題を設定し、ケーススタディとして扱います。『「研修」→「現場での実践」→「振り返り」』というプロセスを踏むといいでしょう。

 その際に、個人で実践するよりも、チームで行うことをお薦めします。チーム学習を通して、現場での実践度合いが高まります。

参考:アクションラーニングとは
アクションラーニングとは、現場での実際の課題を題材にして、グループで原因を解明し、研修で学んだスキルによって解決を図ったり、次の研修でその結果を振り返るものです。

3-5. 資料を創ることが目的になっている

「トヨタの問題解決手法を実践する中で、資料を作成が目的化してしまい、本来の問題解決が進まない」という話もよくお聞きします。「後付けで成果が出たように見せる」などもよくあるケースです。

 この場合は、「3-4. 現場で活用しない」と同様にアクションラーニングで学んでいくことが必要です。
アクションラーニングを用いる際の注意点は、「問題解決すること」を目的にするのではなく、あくまで「トヨタの問題解決」を学ぶことを目的にします。

 問題解決自体が、成功しても、失敗しても、そこから学ぶことが多くあり、それが次の実践で活用されていきます。

3-6.問題が起きたときに、すぐに対応できない

「問題が起きたときに、すぐに対応できない」という話もよくお聞きします。これは、必要なデータが取れていないときによく発生します。

まず始めに先を見越して、何を用意するのかを考えておく必要があります。仮説思考をもって、必要なデータや情報を集めておく・記録しておくといいでしょう。

4. 企業の【問題別】トヨタの「問題解決研修」導入方法

トヨタの問題解決を研修で導入する方法を、3パターンお伝えします。

・目の前の緊急対応に追われて、根本的な問題解決ができていない
・分析力が弱く、問題の本質にたどり着く深堀ができていない
・問題設定が弱く、経営レベル・事業レベルの問題解決になっていない

 それぞれ説明していきます。

4-1.目の前の緊急対応に追われて、根本的な問題解決ができていない

「目の前の緊急対応に追われて、根本的な問題解決ができていない」に対しては、まずは「基本的な問題解決のプロセスややり方を知る」研修を行うといいでしょう。

なぜなら、今まで力技の緊急対応で目の前の問題を処理しており、問題解決の有効性を体感・理解していないためです。

下記の二点を徹底し、問題解決の文化を創っていきましょう。

①施策至上主義からの脱却
(問題が起きた時に、緊急対応的に応急処置を思いついただけ実施することが多い)

②8Stepの概要を把握する
特に最初の「問題の明確化」を重点的に実施する文化をつくると、自然と次の「どこどこ分析」「なぜなぜ分析」に移りやすい

まずはこの2つを徹底的に習慣化していくといいでしょう。研修実施の対象層としては、下記を推奨します。

【推奨される研修実施の対象層】
・キーパーソン(管理職やリーダー層):問題解決の文化がない組織の場合
・若手社員:リーダー・中堅社員になるステップとして問題解決能力を習得する場合

4-2. 分析力が弱く、問題の本質にたどり着く深堀ができていない

「分析力が弱く、問題の本質にたどり着く深堀ができていない」に対しては、「どこどこ分析」や「なぜなぜ分析(5why)」を中心とした研修を行うといいでしょう。

分析力を高める際に、「どこどこ分析」や「なぜなぜ分析(5why)」は即効性があるためです。

トヨタの問題解決といえば、「なぜなぜ分析(5why)」が有名ですが、それ以上に「どこどこ分析」も同じように重点を置いて学んでいく必要があります。

そもそも「どこどこ分析」ができていないと、「なぜなぜ分析(5why)」のインパクトが小さくなるためです。

具体的には、研修内でも事後課題でも、「どこどこ分析」を意識的に、時間をかけていくことを推奨します

研修実施の対象層としては、下記を推奨します。

【推奨される研修実施の対象層】
・キーパーソン(管理職やリーダー層):分析力が弱い組織の場合

4-3. 問題設定が弱く、経営レベル・事業レベルの問題解決になっていない

「問題設定が弱く、経営レベル・事業レベルの問題解決になっていない」に対しては、実際起きている事業課題・経営課題をもとにした研修を行うといいでしょう。

問題解決を通して、経営レベルの視座を高めていきます。

ただ問題解決の手法を学ぶのではなく、事業インパクトや組織力向上へのコミットを求めます。
具体的なやり方としては、アクションラーニング(※)を取り入れながら、進めていきます。

研修実施の対象層としては、下記を推奨します。

【推奨される研修実施の対象層】
・経営者・事業部長・次世代リーダー(管理職含む):組織として問題解決力を高めていく場合

(参考)アクションラーニングとは
アクションラーニングは、現場での実際の課題を題材にたいして、グループで原因を解明し、研修で学んだスキルによって解決を図ったり、次の研修でその結果を振り返るものです。

5.まとめ

本コラムでは、下記の内容をお伝えしました。

・トヨタの問題解決研修で得られる効果は「当たり前の基準を高め続ける」文化創り
・トヨタの問題解決研修で学ぶべき2つの具体的な内容
・トヨタの問題解決研修が、効果に繋がらないケースへの対応
・企業の【問題別】「トヨタの問題解決研修」の導入方法

最後までお読みいただき、「トヨタ式問題解決研修」の理解が進んだだけではなく、最適な「トヨタ式問題解決研修」が理解できたはずです。

自組織にとって、最適な「トヨタ式問題解決研修」を導入し、自組織の課題を解決していきましょう。

本コラムでご紹介した問題解決研修を提供しておりますので、ご興味があればぜひご連絡ください。貴社にあわせた内容にて、ご提案することも可能です。