新入社員のメンターが成長を促すために取るべき4つの行動【事例有】

更新日:

メンター制度を実施している組織から、次のような悩みをよく耳にします。

「メンター制度を導入したものの、実態が見えず人任せになってしまう…」
「メンターから『ただのランチ同伴でしかない』という声が上がる…」

メンター制度は、新入社員の成長を支えるための効果的な方法ですが、適切に活用されていなければ意味がありません。

このコラムでは、メンター制度の役割やメンターが行うべき具体的な内容、そしてメンター制度を取り入れて新入社員の退職率が改善した事例をご紹介します。

自社のメンター制度を見直し、新入社員の成長をしっかりとサポートできる仕組みにしましょう。

監修者プロフィール

近藤 ゆみ

アーティエンス(株)にて、研修講師、組織開発・人材育成のコンサルタント、コラムの監修・執筆などに従事。前職の大手人材紹介会社では、転職希望者のキャリアカウンセリングから転職サポートまでを一貫して担当。
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    1)メンターの目的は組織への安心感をもたらして新入社員の成長を促すこと

    新入社員にメンターをつける最大のメリットは「組織への安心感をもたらして成長を促すこと」です。

    メンターは、新入社員にとって安心して何でも話せる存在として、感情に寄り添いフォローします。この安心感が、成長への土台を築きます。

    例えば、新入社員が電話で相手の名前を聞き忘れ、折り返しができなくなったとします。

    この場合、トレーナーはミスについて指導し、再発防止策を話し合うでしょう。しかし、指導だけでは精神的なフォローが不十分で、新入社員が「またミスするのが怖い」と感じ、次回の電話対応に消極的になるかもしれません。

    ここでメンターの出番です。メンターは新入社員の精神的なサポーターとして、不安や恐れなどの感情を受け止め、寄り添います。メンターが過去の失敗談を交えつつ励ますことで、新入社員も気持ちが楽になり、再び自信を持って電話に出られるようになるでしょう。

    このように、メンターは「何でも話せる安心感を提供する存在」として、新入社員の成長を支える重要な役割を果たします

    【参考】メンターとOJTトレーナーとの違い
    新入社員の「技術的成長」と「精神的成長」の方法を支援するのがOJTトレーナーで、「精神的成長」のみを扱うのがメンターの役割です。
    そのため、メンターは実務と別部署の人が行うこともできます。  技術的成長と精神的成長

    2)新入社員のメンターが取るべき4つの行動

    新入社員のメンターは、新入社員が組織で安心できる状態を作るために、次の4つのことを行いましょう。

    詳しく説明します。

    仕事に関するネガティブ感情のフォロー

    新入社員がミスをした後や、同期との能力の差などで落ち込んでいるなど、ネガティブな感情を抱えている時にフォローします。新入社員が落ち込みすぎず、次の仕事に前向きに取り組めるようにすることが目的です。

    ネガティブな感情を新入社員が一人で抱え込んでしまうと、「自分はダメだ」「この会社で仕事をすることができない」など、深刻な考えに至ってしまうことがあるためです。

    まずは、新入社員が抱えている「どうしよう…」の気持ちを全て吐き出してもらうことを意識しましょう。吐き出して言葉にしていくことで、「そんなに大したことじゃないかも‥」と本人が気づくこともあります。

    そういった機会をつくるためにもまずは傾聴を意識します。全部出しきったら、ネガティブな感情を解消していくために、未来に向けてどういった行動や対策を行えるのか、一緒に考えていきます。

    仕事に関するポジティブ感情のフォロー

    新入社員が、できた!と思える体験や達成した体験に対して、共に成長を喜ぶというフォローを行います。新入社員がポジティブ感情を持てると、自分はもっとできるかもしれない、もっと挑戦したい、と主体的に行動できるようになるためです。

    成功体験に対するフォローとしては、できたことにポジティブフィードバックを行います。このときに、「すごいね!」だけでなく、「先週のミスを活かそうと努力していたからできたことだね」など、今までのプロセスを含めて伝えましょう。
    改善したところを見てくれているという嬉しさも加わり、新入社員自身で成長実感を持つことができます。

    ポジティブな感情を持っているときは、モチベーションが高くなっているタイミングでもあります。そのため、「今回これができたから、次は何をできるようにする?」など、次の成長に繋げてると新入社員の成長を促すことができます。

    例えば、打ち合わせの中で、新入社員が発言したことに対して、参加者から「その視点も大事かもしれないね。貴重な意見をありがとう」と言ってもらえたとします。新入社員は、今まで打ち合わせに参加しているだけで自分がいる意味はないのではないか、と考えていたため、自分の意見が意味のあるものとして受け入れてもらえたことが嬉しく感じています。

    このような状態の時は、メンターがその出来事にポジティブフィードバックをします。例えば「自分も打ち合わせに出ている以上、何か発言したいと考えていたもんね。自分なりの考えをいつも考えていたから、今回のことができたんだと思うよ」などです。

    このような声をかけてもらえると、新入社員は結果だけではなく、そのプロセスにおいてもポジティブな評価をしてもらえたという感覚を得られます。そのことで、自分の長所にも気づきやすくなり、それを次も活かしていこうと思えるようになります。
    そして、ポジティブフィードバックの後に、「次は何をやってみる?」などと次の挑戦を考えて言語化してもらうと、次の成長に繋げていくことができます。

    新入社員がポジティブな感情を抱えているときは、それまでのプロセスを振り返って、自身の強みを見出し、次の挑戦を言語化してもらうことで、新入社員の成長を促していきます。

    生活全体に関する悩みのフォロー

    新入社員が悩んでいることに対してフォローを行います。悩みを抱えている状態では、仕事に集中しきれないことがあるためです。

    悩みの内容は人それぞれで、仕事の人間関係やこれからのキャリア、もしくは自分の家族やライフスタイルの話かもしれません。悩みを自分から伝えてくれる新入社員の場合は、悩みを聞き、相手が答えを持っているという前提で問いを投げたり、必要に応じて提案をしていきます。

    新入社員が悩みを伝えてくれるタイプではない場合は、メンターが最近感じている悩みを伝えて、新入社員に「あなたはどう?」と聞いてみることも一つの方法です。

    また、何か落ち込んで見える場合は、「落ち込んでように見えたけど、最近どう?」と聞いてみると、新入社員は悩みを話しやすくなります。

    悩みを聞く際は、コーチングのスキルを意識してもらえると良いです。コーチングは、メンターから新入社員への一方通行ではなく、双方向でのコミュニケーションから課題を見出し、解決していく手法です。

    例えば、ある新入社員の家族が体調を崩していて、もしかしたら休まないといけないことが多くなるかもしれない、という悩みを持っているとします。この話を受けて、メンターは、「そうなったときに何が心配としてある?」などの問いを投げ、心配に感じていることを確認します。

    新入社員は、「そのときに周りの人に迷惑をかけてしまうし、自分だけ遅れを取るかもしれない。あとは他の人から休んでばっかりと嫌味を言われてしまうかもしれない。」などの不安を感じていることがわかりました。
    新入社員は、この時点で、この状況を理解している人がいることに安心感を感じられるかもしれません。不安の原因がわかったら、次に不安に感じているそれぞれについて、そうなったときにどうしたらいいかと考えていきます。

    例えば、周りに迷惑をかけてしまうかもしれない、という不安に対して、「もしあなたが逆の立場だったらどう感じる?」と問うと、新入社員の意識の変化が起こるかもしれません。
    このように、不安に感じていることを、それぞれコーチングのスキルを使って確認していくことで、解決していけます。

    悩みがあると、その分脳内を占領されてしまい、仕事への集中度合いにも関わってくるため、できる限り悩みを軽くすることで、新入社員の成長を促すことに繋がります。

    関係性を深めるためのコミュニケーション

    新入社員とメンターの関係性が良い状態であることがとても大切です。そのため、2人の関係性を深めるためのコミュニケーションを取ることを意識しましょう。

    関係性を深めるためにどのようなコミュニケーションとして、例えば次のようなことが考えられます。

    ・相手と姿勢や視線を合わせる
    ・人を決めつけたりせず、多様性があることを前提にコミュニケーションをとる
    ・自己開示をする
    ・相手に関心を持って接する
    ・約束を守る

    それぞれ説明します。

    相手と姿勢や視線を合わせる

    相手のことを理解しようとしていることを、行動で表します。
    例えば、頷いたり、「そうなんだ、〇〇なんだね」などの声があると、聞いてくれていると感じられます。
    特に気をつけなければいけないのは、オンラインで話すときです。話し手としては、視線が合っていないだけで、聞いてくれている感覚は低くなります。意識してカメラの方向を見るようにしましょう。

    人を決めつけたりせず、多様性があることを前提にコミュニケーションをとる

    コミュニケーションの中で、他の人のことを悪く言ったり、「〇〇する人はダメだと思う」など決めつけの発言はしないようにしましょう。新入社員は自分もそのようなことを言われているのではないだろうかと感じてしまい、安心して話すことができません。

    そのため、普段の会話から人を決めつけて話すことはせず、その人らしさを受け入れる姿勢でいるようにしましょう。

    自己開示をする

    新入社員の成長を促すためのメンターなので、どうしてもメンター自身の話をする機会が少なくなりがちです。しかし、返報性の原理(※)があるように、新入社員としては、メンターが共有してくれた情報と同程度の情報を伝えようとします。

    そのため、まずはメンター自身の情報を開示するようにしましょう。そうすると、メンターが開示した程度の情報を新入社員も開示しやすくなります。

    ※ 返報性の原理:相手から何かを受け取ったときに「こちらも同じようにお返しをしないと申し訳ない」という気持ちになる心理効果のこと

    相手に関心を持って接する

    メンターになったから仕方なくやっている、というスタンスでいては良い関係性を築くことはできません。新入社員はメンターのことを信用できず、自分の話をしたがらなくなるためです。

    メンターは、新入社員の支援をしたいという思いを持ち、新入社員に関心を持って接するようにしましょう。

    約束を守る

    良い関係性を築くためには、約束は守りましょう。例えば、メンターには話してもいいけど、他の人には共有されたくない話もあります。そのような話を、メンターが勝手に他の人に共有してしまうと、自分が話したことは、全て他の人にも共有されてしまうという怖さを感じ、共有する内容に制限がかかり始めます。
    すると、シェアしてくれる情報が少なくなるため、フォローがしづらくなってしまいます。

    そうならないためにも、誰かに共有した方がいいと思ったことは、新入社員に許可を取ってから伝えるようにするなどして、新入社員との関係性を壊さないように気をつけましょう。

    新入社員が素直に不安や悩みを話せるのは、メンターが安心できる存在になってからです。メンターとしての役割を果たすためにも、コミュニケーションは大切に扱うようにしましょう。

    このように新入社員のメンターは、新入社員が組織で安心できる状態を作るために、

    1、​​仕事に関するネガティブ感情のフォロー
    2、仕事に関するポジティブ感情のフォロー
    3、生活全体に関する悩みのフォロー
    4、関係性を深めるためのコミュニケーション

    という4つのことを行う必要があります。

    3)新入社員にメンターをつけて退職率が改善した事例

    とある美容器具メーカーさんが、退職率の改善にメンター制度を導入し、導入から3年後には退職者の割合が大幅に減った事例をお伝えします。

    【企業情報】
    業種:美容器具メーカー
    規模:300名程度

    課題

    採用では優秀層と言われる新入社員が入社するものの、現場のメンバーを見て幻滅し、3年~5年で退職してしまうとのことでした。

    当社の見立て

    お客様の人事や経営陣と共に課題を探る中で、「孤独感」と「成長機会」が大きなポイントであることが明らかになりました。

    若手や新入社員が次々と退職する原因として、成長機会の不足が関係していたのです。退職が続くことで、組織は「どうせ若手が辞めるなら、育成しても意味がない」と考えるようになり、新入社員や若手に成長の機会を与えなくなっていました。

    このような状況が続くと、やがて組織全体に「新入社員や若手はどうせ辞める」という認識が広がり、新入社員や若手はますます孤立してしまう…といった悪循環に陥っていました。

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    対策案

    「孤独感」と「成長する機会の無さ」を解決するために次の2つの対策案を実施しました。

    1、孤独感をなくすために、メンターと成長できる機会をつくる→メンター制度の導入
    2、成長している実感を持たせる機会をつくる→他社との合同研修
    課題 対策 ポイント
    孤独感 メンター制度 ・メンター制度により、組織とのつながりを強化する

    ・メンターが、OJT研修により育成マインドを醸成し、育成スキルを学ぶ

    ・人事がメンターとの月1の面談を行い、後方支援を行う

    ・メンターになることをステータスとする

    成長する機会の無さ 他社と合同の階層別研修 ・定期的な研修実施をすることで、成長実感・予感を促す

    ・他社との合同研修により、自己認知を広げ、成長実感と成長意欲を上げる

    ・スキル・人としての成長の両側面にアプローチする

    結果

    メンター制度を導入し、他社との合同研修を行うようになってから3年後には、新入社員・若手社員の退職割合が大幅に減少し、自組織にいることに誇りを持って仕事をできるようになリました。

    メンターとして新入社員の悩みを聞いたり、フォローしてくれる人をつくったことで、孤独感が解消され、退職を選ぶのではなく、まだこの会社で頑張ってみようと思えるようになった、ようです。

    このように、新入社員にとってメンターの存在は大きく、退職者の削減にも効果を与えます。

    4)新入社員へのメンター制度を取り入れるときに出てくるQ&A

    新入社員へのメンター制度を取り入れるときによくいただく質問にお答えします。

    質問①:新入社員にメンターをつけるとしたらどんな人がいいですか
    質問②:新入社員のメンターをつけるタイミングはどうすればいいですか
    質問③:新入社員、メンターから相手の変更があったらどうしたらいいか
    質問④:メンターは、トレーナーと兼任でも構わないですか

    質問①:新入社員にメンターをつけるとしたらどんな人がいいですか

    新入社員と年齢が近い方で、新入社員のことを大切に扱ってくれる方が良いです。 年齢が近い方が悩みを話しやすい方が多いためです。

    また、新入社員のことを大切にしてくれないと、メンターとして新入社員に安心感を与えることができません。 自分のことばかり考えている利己的な人でなく、利他的な考えを持っている人に依頼しましょう。

    質問②:新入社員のメンターをつけるタイミングはどうすればいいですか

    おすすめは、内定式後です。新入社員は内定後からすでに、さまざまな不安や心配事を抱えています。その時期からネガティブ感情に寄り添って解消していける方がいると安心できます。

    また、早い段階からコミュニケーションをとっていた方が、関係性を築くこともできます。

    そのためにも、内定式やその前の段階で、内定段階の新入社員とメンター候補が交流を持つ機会を設けて、お互いの相性を見れると良いです。

    質問③:新入社員、メンターから相手の変更があったらどうしたらいいか

    新入社員・メンター共に、ヒアリングを丁寧に行います。そして、変更が必要と判断した時のみ、メンターの変更に進みます。
    新入社員のわがままなど社会人の自覚が弱い部分が見られる場合は、もう1人メンターを増やし、2名体制などで行うのもよいでしょう。

    変更が必要な時は、

    ・パワハラやセクハラなどなんらかのハラスメントが起きている場合
    ・新入社員、メンターのどちらかが、その人と話すことで精神的にすごく追い詰められてしまっていたり、身体的な症状に出るくらい話をすることが難しい場合

    などです。それ以外の、

    ・新入社員やメンターがやる気がない
    ・人の好み

    などは、具体的にどのようなことが起きているのかを丁寧にヒアリングした上で人事が仲介に入るなどして解決していきましょう。

    組織によっては、始めから新入社員2名・トレーナ兼メンター2名の体制を取っている事例もあります。

    質問④:メンターは、トレーナーと兼任でも構わないですか

    可能な限り分けることをおすすめします。どうしてもトレーナー・メンターの業務量など負担が大きくなりますし、新入社員との相性が合わなかった場合は、新入社員・メンターの負担感が大きくなるためです。

    「1人の新入社員に対してトレーナー2名体制にする」や、人事が月に1度メンター兼トレーナーと面談をするなど、支援する体制や機会を作るといいでしょう。

    5)まとめ

    今回は、新入社員にとってメンターはどんな存在であればいいのか、そして、新入社員のメンターが行うべき具体的な4つの行動についてお伝えしました。

    メンターは「何でも話せる安心感を提供する存在」として、新入社員の成長を支える必要があります。新入社員にメンターをつけることで、組織への安心感をもたらして成長を促すことにつながるためです。

    新入社員のメンターは、新入社員が組織に安心できる状態を作るために、次の4つのことを行います。

    1、​​仕事に関するネガティブ感情のフォロー
    2、仕事に関するポジティブ感情のフォロー
    3、生活全体に関する悩みのフォロー
    4、関係性を深めるためのコミュニケーション

    このコラムを参考に、自社のメンター制度を見直し、新入社員の成長をしっかりとサポートできる仕組みにしましょう。

    自組織のメンターについて、より具体的に相談したい場合はお気軽にお問合せください
     

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