ティール組織から考える人事制度とは?
~withコロナで顕在化した組織課題を解決するために~

更新日:

作成日:2021.9.27

ティール組織の人事制度

コロナ禍を受けて、ビジネスモデルの変化、働き方の見直しにより、人事制度や評価制度など人事マネジメントの見直しやアップデートを行いたいという企業が増えています。特に、コロナ禍によるテレワークの広がりを受け、仕事のプロセスや成長の様子が見えにくくなったことも受け、ジョブ型人事制度の検討を進められている会社も多いと聞きます。

しかし、ジョブ型人事制度は転職や解雇がさほど抵抗なく行われる環境・文化を前提とするものであり、そのまま導入しても日本の労働慣習とはマッチしない面が多くあります。

これまでの人事マネジメントは成果主義、ノーレイティング、OKRなど、時代の流行り廃りの影響を受ける傾向がありましたが、これだけ変化が激しくなると、流行りに乗るというよりは、各社のありたい姿やビジネスモデルに合わせた人事マネジメントを導入・運用していくことが求められる時代となってきています。

コロナ禍はもともとあったマネジメント不全や人事課題を浮き彫りにしたといって過言ではなく、一足飛びに施策に走るのではなく、課題の全体像や構造を見立てた上で、適切に対応することが肝要です。

そこで本コラムでは、組織進化モデルをベースに、自社の現状とありたい姿から、「必要な人事制度や人事マネジメントとは何か?」を考えていきます。

監修者プロフィール

菊地 大翼

組織人事コンサルタント。業界歴15年以上。研修会社に入社し、法人営業で売上トップを達成後、新規商品の開発に従事。現在は人事制度構築支援、成人発達理論に基づいた人材・組織開発のコンサルティングを行っている。

1)前提の整理

内容に入る前に人事評価制度の役割と組織変化モデルの2点を整理してみます。

人事評価制度の役割とは?

人事制度は等級制度・報酬制度・評価制度の3つに分けることができます。
その中で評価制度は「何を認め、伸ばしていきたいのか?」を方向づけるものです。

評価制度の役割には以下の3つがあると言われています。

①報酬決定:各人の報酬を決める
②人材育成:成長・育成の方向づけをする
③役割調整機能:担ってほしい役割を調整する

この3つはどれが正解でどれが間違っているというわけではなく、企業が経営理念や戦略に基づき、どこに重きを置くのか?が問われます。そしてその方針にこそ、会社の人事マネジメントへの考え方が反映されます。

組織進化モデルとは?

続いて、組織進化モデルについてです。
組織進化モデルとは、コンサルタントのフレデリック・ラルーが提唱したモデルであり、組織形態の進化を5つの色で表現したものです。

ティール組織における組織経営の進化形態

5つの組織形態を簡単にご紹介します。

レッド

圧倒的なトップが個人の力で支配することが最重要視される組織のことです。
メタファーとしては「オオカミの群れ」のようだと言われています。オオカミが群れることの最大の目的は、自分たちの生存です。そのために最も力のあるトップが権力を持ち、その力によって集団を支配します。

アンバー

定められた役割や集団の規範に順応していくことが最重要視される組織です。メタファーとしては「軍隊」がよく使われます。
多くの場合、軍隊では各自の判断による勝手な行動は許されません。各人がバラバラな動きをしてしまっては、全体の統率が取れなくなってしまうからです。
そのため、アンバー組織では厳格に規範やルールが設けられ、信賞必罰の中で、属する人も定められた役割や集団の規範に従うことが最優先になりがちになります。

オレンジ

合理的に目的・目標を達成していくことが最重要視される組織です。
あくまで目的・目標の達成が最優先なので、その目的・目標の達成に寄与する人物がリーダーになる、目的・目標のためであれば柔軟に規範やルールを用いるのが、レッドやアンバーとの大きな違いです。
ただし、目的・目標の達成を最優先にするがあまり、そこに属する人々の環境や状態が二の次になる傾向も持ち合わせています。

グリーン

目的・目標の達成を主体性・多様性を育みながら実現していくことが最重要視される組織です。単に目的・目標を達成するだけでなく、その過程やそこに属する人々の満足や充実も同時に追求することを目指します。

ティール

特定の目的・目標に縛られることなく、組織のあり方を柔軟に変化・進化させていくことが最重要視される組織です。生命体のような組織と言われることもあり、ティール段階の組織では組織図がない組織も見受けられます。組織図が創れないぐらい変化が激しい、柔軟性が高いということです。

2)組織の成熟度と評価制度の関係

ここから先は「組織進化モデル」を参照しながら、組織の成熟度と人事マネジメント、特に評価制度を中心に関係について「よくある課題」「課題の背景」「解決の方向性」の3点から、理解を深めていきます。

レッド組織における人事マネジメント・評価制度とは?

よくある課題 ・そもそも評価制度が導入されていない
・評価制度が導入されていたとしても実態として、トップや経営陣の一存で評価が決まっている
・環境変化に対応できないと、大局観を失い、朝令暮改が繰り返され、迷走しやすくなる
課題の
背景
・業績や能力の評価=評価結果ではなく、経営陣の評価(場合によっては直感)=評価結果という構造になっている
・トップの意識段階(自己の生存が最優先になっているケースがほとんど)
解決の
方向性
・全員の納得感が高ければ特に変える必要はない
・経営陣の評価が妥当なのであれば、むしろ評価制度は無くてもよい
・これから会社を拡大していきたいという意向があれば、経営陣の評価を言語化し、評価制度に落とし込んでいった方がよい。ただしこの時点では過度に作りこまない方がよい
・経営者が決めるではなく、制度が決めるとした方がいい(トップの意識段階や意識状態にだけで決定が左右されないようにする)

レッド組織では、制度による評価ではなく、トップが自ら直接評価し「トップの判断が全て」となっていることが多くあります。そのためレッド組織では、仮に評価制度が導入されていても、トップや経営陣の一存でその評価が変更されることが前提であったり、制度自体がトップによる変更を認めるものであったりします。

トップの判断が常に的確、また、メンバーもその判断に特に抵抗なく従うようであれば問題はないのですが、コロナ禍のように過去の前例があまり参照できない、変化のスピードが激しい状況下において、常に正しい判断を行うことは極めて困難です。

環境変化にトップが対応できなくなると、その場しのぎの指示や命令が繰り返され、徐々に方向性を見失っていきます。そうなると事業や組織が迷走すると共に、トップの判断に対する信頼性も低下し、メンバーからの求心力、組織力も低下していきます。

良くも悪くもトップ頼りなのが、レッド組織の強さであり、脆さです。

レッド組織における評価は「業績や能力」を観るものではなく、トップからの評価が全てです。業績や能力を出していてもトップから嫌われていれば評価されませんし、逆に業績や能力をさほど出していなくともトップから好かれていれば評価されます。そのため、レッド組織では、業績や能力を追い求めることではなく、トップに好かれることが最重要事項になりやすいです。

そして、レッド組織におけるトップは自分の生き残りを最も優先させる傾向があります。逆に、その傾向にある人が創りやすい組織がレッド組織とも言えます。

自分の生き残りを最優先させるからこそ、自分に好意的な人を近づけ、自分に対して害を及ぼす人を遠ざけるのです。この形態に全員が納得・満足していれば、変える必要は必ずしもありません。

しかし、組織が拡大していくことを考えると、トップが全員を適切に評価することにはどこかの段階で限界が来ます。そうすると、トップに近い人は評価され、そうでない人は評価されない構造になり、組織が一枚岩になりにくくなります。

組織が拡大していく前に、トップが全員を適切に見切れなくなる前に、トップが評価している内容を言語化し、制度に落とし込んでいくことが必要になります。またいつかトップが交代するタイミングが来ます。その際に指針となるものがないと、継続的に事業や組織を維持することも難しくなります。

アンバー組織における人事マネジメント・評価制度とは?

よくある課題 ・評価制度はあるもののあいまいに運用されている
・何をすれば評価されるのかがわからない
・評価のフィードバックがない。ないし形骸化している
・環境変化に対応するより、既にある決まりや制度を守ることを優先する傾向がある(変化が必要なことは頭ではわかっているが、実際には行動しない)

課題の
背景
・評価項目や基準が明確になっておらず、上司によって評価が変わりやすい
・変化に対応するよりも、現状維持を選択してしまいやすい

解決の
方向性
・成果によって何らかのフィードバックを受ける仕組みを導入する
・目標管理と達成度と報酬を連動
・中期経営計画・年度計画の策定・展開
・目標設定面談・フィードバック面談の導入
・評価者研修の導入

アンバー組織では、規範やルールとなる評価制度は存在していることが多いです。

しかし、それが制度の狙いに沿って運用されているというより、現場の管理職などの意向や目の前の事業に状況に合わせて、本来の意図とは異なる運用がなされているケースが多くあります。

それは、評価制度本来の主旨に立ち返って運用するよりも、管理職の意向や事業の方向性を優先して運用してしまうからです。よくあるケースは、「管理職が部下に嫌われたくない、厳しいフィードバックはしたくないとの理由で、多くのメンバーに対してA評価を付けてしまう」、「事業に大きな影響を及ぼしている特定の部署や、声の大きい所属長がいる部署はいつも評価が高くなりやすいが、そうでない部署は評価が低い傾向にある」などのケースです。

制度があり、運用されていることはレッド組織と比べると進化と言えますが、制度の主旨や目的といった観点も含み、適切に運用されているというより、評価基準や項目が曖昧なことや主旨や目的どおり運用されているかのチェックが行われていないことなどから、上司の采配や印象によって評価が行われやすいといった点はアンバー組織における課題と言えそうです。

アンバー組織では、確かに役割や期待は存在しているのですが、それは「中長期的な経営戦略実現や、将来の成長のためといった視点ではなく、現在にどう対応するか?」という今の視点のみにおけるものであることがほとんどです。

そのため、将来のためにこんな経験を担ってもらうというよりは、今期の目標達成が大切だから現業をとにかく頑張ってもらう、などの育成方針になりやすかったり、将来のために必要な失敗を正しく評価できず、失敗は失敗として評価を下げてしまうなど、単眼的な評価になりやすかったりします。

アンバー組織のもう一つの特徴に、変化が必要なタイミングであっても、現状維持を選んでしまいやすいというものがあります。その理由は二つあり、一つは先ほど挙げた視点の話です。未来に視点を向けることがなかなかできず、現在に捉われた意思決定をしてしまいがちです。もう一つは、未来に向かって現状を変えていくよりも、現在の定められた役割や規範の維持を優先する力学が働くためです。

例えば、現状の組織形態やビジネスのあり方を変えていかないと、コロナ禍には対応できないといった状況になっても「まだやったことがないから」「工場は現場勤務だから」などいった理由でテレワークの導入に踏み切れなかったりするなどの事象です。これはテレワークに対応できない技術的な理由があるというよりは、現状の働き方やそこで生じている規範やルールなどを壊したくないといった恐れや不安が色濃く影響しています。

下記コラムで、「規範やルールなどを壊したくないといった恐れや不安」への個人で対応するアプローチも言及していますので、こちらもご参照ください。

今、管理職に渡すべき”課題の分け方・向き合い方”ー技術的問題と適応課題ー

こういった組織における解決の方向性は、まず評価制度がその主旨や目的どおりに運用される環境を整えることです。制度自体に曖昧さが残っているようであれば、明文化する、制度に落とすなどの対応が必要でしょうし、運用が曖昧なのであれば、評価者研修などを実施した上で、制度の主旨に則った評価がなされているか、人事部がチェックし、場合によっては差し戻すなどの運用が必要でしょう。

また、アンバー組織において多く聞くのは、中期経営計画や年度計画などが適切に運用されていないケースです。作られてはいても形骸化していたり、上位部署から下位部署の連携や関連部署同士での連携が見られないケースです。このような状況では、どれだけ精密な目標設定や評価を行ったところで、経営の変化には繋がりません。本来、人事制度は経営ツールの一つであるはずなのに、経営方針と連動しておらず、いつの間にか制度を運用することが主になり本末転倒になっている事象はしばしば耳にします。

こういった状態では、人事制度の整備の前に、中期経営計画や年度計画を策定する共に、関連部署との整合を取るなど、経営方針浸透プロセスの整備が必要と言えます。

オレンジ組織における人事マネジメント・評価制度とは?

よくある課題 ・どうやっても公平・公正な制度にならない
・どれだけ評価制度を緻密にしても納得度が上がらない・モチベーションが上がらない(むしろ低下している)
・評価制度が細かくなりすぎて、全体像を把握している人がほとんどいない
・目標の移り変わりに対応できない(期初に立てた目標が期末には実施的に変わっていたり、形骸化していたりする)
・テレワークなどでは、プロセスが見えていないと結果だけを評価せざるを得なくなり、納得感が得られにくい
・目標設定・評価のすり合わせに時間を取られており、本業の時間が奪われている

課題の
背景
・公平・公正や納得度は評価制度の緻密度ではなく、コミュニケーションの質で決まるのだが、それを認識していない
・結果の評価のみならず、過程における納得感が重要視されることへの認識が薄い
・制度の順守が主になってしまい、目標や業績が激しく変動する際に対応しきれなくなる。現実と乖離して現場が白ける

解決の
方向性
・制度の緻密度を上げる方向ではなく、コミュニケーションの質を上げる方向に投資をする(1on1など)
・上記と近いが、目標の変更を柔軟に認める制度に変える(4半期ごとに目標設定する、期中での目標設定を認める)
・達成意識が一定育まれていれば、評価と報酬の連動性を薄めるのも手
・現場に予算を持たせて、その中で賞与やインセンティブ支給を行う

オレンジ組織では、評価制度本来の主旨に沿った形で運用されているケースが多いです。一方で、絶対的な正しさや客観性を重要視するあまり、制度が細かくなりすぎて、すり合わせや意思決定に多大な時間を要している、誰もが納得する公平・公正な状態を目指すため、根回しやコミュニケーションにエネルギーが割かれ、本業の時間が奪われているなどの悩みが現場の管理職から多く聞かれます。公正や納得度が、評価制度の緻密さで決まると誤認されていることにあることも多いです。

オレンジ組織の特徴として科学的なマネジメント、客観性を重視するというものがあります。これはレッド組織やアンバー組織から見れば進化とも言えなくはないのですが、科学・客観性を絶対視しがちな部分に限界があります。

評価制度の納得度は、制度としての緻密さだけでなく、最終的には人と人とのコミュニケーションによって決まってくるものなのですが、コミュニケーションという曖昧なものではなく、誰が見ても同じ結果になる制度にすべてを求めたくなるのです。「数値を入れれば、管理職の認識に関わらず評価結果が決まる評価シートを作ってください」などの依頼は、まさにオレンジ組織の特徴を表しています。

このような課題に対応するには、制度の緻密さを上げるのではなく、実はコミュニケーションの質を高める方向に投資をするのが近道です。

多くの会社で評価者研修を実施しますが、その際話題に上るのは、評価制度の不備ではなく、上司・部下間でのコミュニケーションの希薄さです。「いきなり期末になって評価がフィードバックされて理由も曖昧にされる」「途中で言ってもらえれば行動を修正できたのに、期末になっていきなり言われてもどうしようもない」などです。

評価制度に不満との声の奥には、実は制度ではなく上司・部下間のコミュニケーションへの不満が潜んでいることが少なくありません。

特にテレワークが行われるようになってから、上司からは「プロセスが見えなくなった」、部下からも「上司が自分の仕事ぶりを把握していない」などの不満が多く挙がる傾向があります。

よって、中間面談を取り入れる、1on1を取り入れてコミュニケーションする機会を増やすなどの施策が有効と言えます。

また、中には制度が厳格過ぎて、現状のビジネスのスピード感と合わないとされる場合もあります。そういった際には、期中における目標の変更を認める制度にしたり、四半期ごとに目標設定するなど、変化に対応しやすい制度に変更することも考えられます。

社員の達成意識が一定度高まっていれば、評価と報酬の連動性を薄めることも考えられます。ある程度成果を出していれば、報酬が上がり続ける制度にするということです。人はそもそも評価や報酬だけではモチベートされません。それよりも、やりがいのある仕事や組織風土からも影響を受けます。人は何によってやる気が上がり、何によってやる気が下がるのか?成果のみに偏るのではなく、人の本来の行動原理に立ち返った評価制度が必要になるのも、このタイミングだと言えるでしょう。

グリーン組織における人事マネジメント・評価制度とは?

よくある課題 ・関係性も良く、何となくみんなも頑張っているが、目標達成に向けての熱量が一歩高まらない
・主体性・協働・ボトムアップと言いながら、最終的にはトップが決断する構図が変わらない
・変化に対応するために話し合いをする時間は増えるが、なかなか意見がまとまらない
・全員一致よりもスピーディーな対応が必要な場面であっても全員一致を優先させてしまう。結果として、現状から変化しなかったり、市場や顧客より、自社の志向に沿った意思決定がなされてしまう
・組織開発などにどれだけ投資をしてもマネジメントする側・される側、指導する側・される側など、分離・分断の意識が抜けないり合わせに時間を取られており、本業の時間が奪われている

課題の
背景
・成果と対話が両立せずに、対話を重視してしまう
・経営者と従業員、マネジャーとメンバーなどの分離構造が以前として根強く残っている
・分離構造は生存本能に根付くものなので、どれだけ制度や仕組みを変えても残り続ける
 経営者:なんだかんだ言って自分が一番正しい、うまくやれる
 従業員:責任は最終的に自分以外の誰かに取ってもらいたい

解決の
方向性
・分離構造を変える
・特定の誰かが評価する仕組みの廃止
・評価・報酬を市場評価と自己評価と連動して決定する
・ノーレイティングへの移行(目標管理を廃止して、評価期間で何を達成したいのかという積み上げ評価)

グリーン組織は、一見うまく行っている組織であることが多いです。ビジネスの結果も一定度出ていて、組織の状態も良い、そんな組織です。

一方で、成果に対する意識が弱まりやすくなる、メンバーからのボトムアップや主体性の発揮を重視するがあまり意思決定が遅れる、全員一致を重視するがあまり、アイディアが丸くなり、結果として経営者が意思決定する構図が固定化しやすいなどの課題も見られます。

もちろん、それまでのレッド・アンバー・オレンジと比べると、組織としての安定性も増しているのですが、どこか物足りなさも感じる、そんな状態であることがグリーン組織では多いです。

「成果と対話のどちらを取るか?」では、言うまでもなく成果と対話の両立が望ましいのですが、グリーン組織では主体性や多様性を重視するがあまり、誰かを切り捨てたり、多数決で意思決定するなどのコミュニケーションを取らない場面が多くなりがちで、対話を重視するあまり成果への意識が向きにくくなる時があります。

また、どこかで、経営者やマネジャーが最後は決めてくれるもの、という意識に留まっていることも多く、そうなると、「散々話し合ったけれど最後は経営者やマネジャーが決めてください」といった結論になることもしばしばあります。こういった構図が固定化されてくると、今度は経営者やマネジャー側の方に「最後は自分たちが責任を取らないといけない」という信念を持つようになります。

例えば、コロナ禍において、働き方のみならず事業への変化対応が迫られるグリーン組織がありました。当初この組織では、マネジャー陣が話し合い、対応について協議を行いました。しかし話し合いは一向にまとまる気配ががなく、しびれを切らしたトップが、一存にて事業の方向転換と組織体制の変更を決定しました。その後、トップが事業部長を兼任することとし、一時的に指揮を取ることにしたとのことです。

こういった構図になる背景には、全員の主体性・多様性を重視するしながらも、根強く残っている分離の構造(経営者VS従業員、成果VS対話など)が強く影響しています。

解決の方向性としては分離構造を変えることが有効です。
評価制度の観点で言えば、特定の誰か(上司)が評価する仕組みを変えるなどです。
実際にこの段階の評価制度を取り入れている企業は、まだ多くはありませんが、スタートアップ企業やベンチャー企業などを中心に増えつつあります。

事例:キャスター株式会社(リモートワーク×ホラクラシー型組織の給与評価制度を作りました)
https://note.com/hideakiishikura/n/n90e07060e4da

ティール組織における人事マネジメント・評価制度とは?

最後に、ティール組織における人事マネジメントや評価制度についてです。
ティール組織になると、特定の制度や傾向といったものはあまりなく、経営者の志向や会社のカラーが強く反映される制度になります。

働き方も多様な場合が多いため、報酬制度については市場原理が持ち込まれることが多いのが実情です。ティール組織における人事マネジメント・評価制度はまさにこれから立ち上がる領域でもあり、経営スタイルの多様性と同じく人事マネジメント・評価制度も多様なものが生まれてくると考えられます。

報酬を自己決定するティール組織もあれば、市場原理によって報酬を決めるティール組織もあります。ティール組織は「こうでなければならない」といった制約や考えに支配されることなく、常に最適解を模索し続ける組織であるのです。

当社では組織の成熟度を上げるために試行錯誤しながらではありますが、給与を自己決定する仕組みとして以下のような制度を設けていますので、ご紹介させていただきます。

【報酬を自己決定するための前提】

・財務状況(BS・PL・CF)をオープンにし、経営陣から説明を行い、質疑応答する場を設ける
・自身の仕事の進捗・状況を、全社員が日報・週次会議・1on1(月一回)・成果報告会(四半期一回)でオープンにする
・業界の給与水準を伝える

【報酬を自己決定するための仕組み】

・自身の目標と貢献を記したセルフマネジメントシートを四半期毎に、記載する
・各四半期の最終週に、 チーム内で成果発表を行う
・他のメンバーからフィードバックをもらう
・メンバーからのフィードバックをもとに、必要に応じて、次の四半期開始後1週間以内にシートを修正する
・期末に自身の報酬を役員に伝え、会議(社外取締役・税理士も参加)に上げる
・次年度の報酬が決定される

3)まとめ

コロナ禍に伴い、働き方や人事制度の見直しを検討されている企業も多くあるかもしれません。ただ、起こっていることをよく見ていくと、コロナ禍は新たな問題を発生させたというよりは、もともとあったマネジメント不全や人事課題を浮き彫りにしたといって過言ではないのではないでしょうか?

とすると、その課題は何かツールや仕組みを変えたからといって解決するものではなく、課題の全体像や構造を見立てた上で、適切に対応することが肝要な種類の課題であると言えます。

今回は課題を見立てる観点として「組織進化モデル」を元にした切り口をご紹介しました。
これを期に組織の成熟度を上げるといった観点で、自社の人事制度や評価制度を見直されてみてはいかがでしょうか。

制度そのものを見直したり、変更はせずとも、運用の仕方に手を加えたり、評価者研修の実施、1on1など適切な運用をサポートする施策を取り入れるところなどのスモールスタートでも効果があります。

また、そもそも自社にどんな組織課題があるかを整理してみるから始められることも、有効かもしれません。

アーティエンスでも組織課題を見立てるミーティングを初回につき無料で提供をしております。

詳細は、下記のとおりです。

・目的 : 組織課題を見出し、人事施策(人材開発・組織開発)の質の向上
・目標 : システム図が作成され、人事施策の方針が明確になること
・内容 : 対話による組織課題の探求
・場所 : オンラインで実施
・時間 : 2時間
・参加者 : 人事、経営者3~5名程度 (本施策を実行するメンバー、意思決定に携わるメンバー)

#人材開発・組織開発などを、外部パートナーに委託予定の企業のみ、本無料サービスは提供しております。

アウトプットは下記のようなものをお渡しいたします。

システム思考における問題解決

本ミーティングを行うことでのメリットは、

・全体を見て、本質を把握することから、企画の品質が高まること
・施策の実行者と意思決定者の対話で決まるので、合意形成・コミットが高まること

が特徴です。

表面的な対応をするのではなく、本質的な組織課題を明確にして、その上でwithコロナを乗り越える施策を行いませんか。

VUCAと言われる未来の予測ができない時代であり、大きな施策を打つことが難しい場合もあると思いますので、まずはスモールスタートでも行っていくことをお勧めいたします。