2022/8/24作成ー
新入社員の目標ってどうやって立てればいいのだろう……
新入社員研修を行った後、現場に余裕が無くて育成できる余裕がない…
多くの会社で、育成の大切さは理解しつつも、現状として余裕が無いというループに陥ってしまっているのではないでしょうか。
もし、新入社員が自ずと成長していってくれる方法があるとしたら…。
そんなのは無理だと思われるかもしれませんが、私たちはそのような経験をしています。
誰から言われたわけではないけど、ゲームやメイクの上達を目指して毎日多くの時間を費やしていたり、料理をできる限り効率よく行うための方法を編み出していったりなどです。
このように、自分がなりたい姿があると、自然と成長していくことができています。
同じように、新入社員が目標に納得感や希望を持ち、ゴールを達成するための道筋が理解できていると、自然と成長していくことができるのです。
そこで、このコラムでは、どうすれば、自然に成長を遂げてくれる目標を作れるのかをご紹介します。
読み終える頃には、自然に成長を遂げる目標を設定できる状態になれます。
読みながら、一緒に目標設定をしていきましょう。
目次
新入社員が自然に成長を遂げる目標とは、目標を達成したときの自分に憧れ、頑張りたいと思えるものです。
「○○先輩のようになりたい」、「この資格が取れると、やりたい仕事ができる」などイメージができると、新入社員は自然に頑張ります。当たり前ですが、自分が望まない未来のために頑張れる人なんていません。ただ、だからと言って大きい目標を立てればいいのかというとそういうことでもなく、目標に対して自分には無理だという諦めを持たれないようにする必要もあります。
目標達成について、マサチューセッツ(MIT)工科大学のピーター・M・センゲ教授が提唱した、クリエティブテンション・エモーショナルテンションという考え方がありますので紹介します。
クリエイティブテンションは、現実と理想のギャップを埋めるために努力し、理想に近づいていけるようにする、という方法です。
この状態を作り出せる目標は、理想を達成したときの自分に憧れ、頑張りたいと思える内容になっています。
一方、エモーショナルテンションというのは、現実と理想にギャップがある状態は変わらないものの、現実と理想のギャップに対して、外部からの影響によって心理的に不安になり恐怖心が強くなってしまう状態を言います。
例えば、ノルマの未達に対しての過度な叱りがあるなどです。 このような環境にあると、成長するための目標のはずが、場合によっては不正を行って何とか目標を達成することだけを目指す、というようなことも起きてしまい、目標が全く意味のなさないものとなってしまいます。
目標を達成するために努力しようとするのではなく、理想を下げて達成できるようにする、ということも起こりえます。
組織の目標については、会社から与えられるメッセージが強く、新入社員が頑張って到達したいと思える目標になっていないため、エモーショナルテンションの動きが強まっていることが多いです。
しかし、自然と成長をしていく目標にするためには、クリエイティブテンションの状態をつくる必要があります。
会社からの期待だけでなく、新入社員がなりたい姿なのか、というポイントを意識して設定すると、自然と成長を遂げてもらえるようになっていきます。
次に自然と成長を遂げてくれる目標の作り方をお伝えします。作り方の流れは次のようになります。
この流れをみると目標設定が3段階目に来ていて、その前段階としてコンセプトの作成を行っていることが分かります。
目標を設定したいだけなのにと思うかもしれませんが、コンセプトを明確にしないと、新入社員が自然と頑張りたいと思える目標を作ることは出来ません。
もし、育成のコンセプトが定まっていない場合は、きちんと育成コンセプトを考えることから始めましょう。これから順に説明していきます。
会社の中長期的な目的・目標を踏まえて、そこから育成のコンセプトを決めていきます。会社を目的に向かって推し進めていくのは社員の役割のため、会社の目的・方向性と育成コンセプトがズレていると、お互いのゴールを達成しきれなくなります。
アーティエンスでご支援させて頂いた企業様の例を紹介します。
この企業様は、老舗食品メーカーで、社員数 200 名程度です。
100年以上続く企業ということもあり、強い年功序列や、コロナ禍であっても受け身の姿勢が強かったり、正しくやることが正義のため、失敗を過度に恐れ、チャレンジして来なかったという背景がありました。
しかし、このままでは時代に置いていかれてしまうという危機感から、変わらないといけないという想いが強くなり、弊社と一緒に対話を行う中で、最終的に「共に変わるために、一歩を踏み出す※」という育成コンセプトを創りました。
※コンセプトの内容は、お客様と作成した大切な内容のため、言い回しは加工しています。
会社の育成コンセプトは、大きく2つの方法で考えます。
1つ目が、解決したい組織課題から考える方法
2つ目が、特に今抱えている課題はなく、ありたい組織の姿から考える方法です。
先ほどの例の場合は、チャレンジできない組織からの脱却という組織課題から、そのために必要な人材として、一歩を踏み出すというコンセプトを考えていきました。このように解決したい課題や、ありたい姿に必要な人材はどんな人なのか、ということを言語化していく作業を行います。
育成コンセプトは、会社の中長期的なビジョンとの関連性が強くなるため、人事のみで作成するのではなく、経営層にも働きかけて、認識のズレが無いように作成することが大切なポイントとなります。
会社が目指す姿に合わせて、どのような人材が必要なのかを判断し、その内容に沿った育成コンセプトを設定することを始めに行いましょう。
コンセプトとして育成の方向性が決まったら、育成コンセプトを各階層ごとに設定します。 育成コンセプトに対して、新入社員と管理職が同じように進められるわけはありません。そのため、育成コンセプトを各階層ごとに設定するという段階を踏む必要があります。
例えば、先ほど例として提示した企業では、育成コンセプトから、下記のような階層ごとのコンセプトを作成しました。
各階層のコンセプト | |
---|---|
経営陣 | 「共に変わるために、一歩を踏み出す」を育むための風土・文化を創る |
管理職 | 「共に変わるために、一歩を踏み出す」に対して、ポジティブな影響を与えるチームを創る |
中堅社員 | 「共に変わるために、一歩を踏み出す」に対して、ポジティブな影響を与える |
若手社員 (2・3年目) |
「共に変わるために、一歩を踏み出す」に対して、あきらめず向き合う |
新入社員 | 「共に変わるために、一歩を踏み出す」に対して、自分ができることを考える |
※コンセプトの内容は、お客様と作成した大切な内容のため、言い回しは加工しています。
ただ、この状態のコンセプトは概念的な内容となっているため、ここで設定したコンセプトを達成するために一年間で何を目指すのかを決めていきます。それが目標になります。
目標はコンセプトとは違い、実施することがより明確になっている必要があります。
曖昧なままでは結局何をしたらいいかが分からないですし、人によって解釈が変わる場合もあるためです。
コンセプトから目標に落とす時は、2つのポイントを意識してみてください。
順番に説明します。
①SMARTの法則になっているか
SMARTの法則というのは、ジョージ・T・ドラン氏が提唱した理論で、5つの成功因子によって構成されています。 目標を設定する際には、このすべての要素が含まれているかを一つのポイントにして頂けたらと思います。
②新入社員が活躍をイメージでき、納得感のある目標設定になっているか
目標に対して新入社員自身が、目標を達成できたらなりたい姿に一歩近づけると思えたり、活躍できているイメージを持てなければ、目標に対して動き出すことはできません。
そのため、社会人未経験の新入社員でもイメージを持てるような言葉になっているか、新入社員自身が目標に対して納得して、自らの目標として捉えてもらえそうかという点は意識して言葉を選んでください。 意味合いとしては同じでも、言葉によって、イメージは大きく変わるため、目標は何度もブラッシュアップして言葉を磨いていって頂ければと思います。
これらのポイントを踏まえて、例えば、サービスを提供している会社の営業担当の場合、新入社員の目標として、次のような内容になるかもしれません。
誰が見ても同じ理解ができる明確な定義がされている内容で、納品まで一人で遂行するという基準も明確になっています。新入社員1年目でも頑張れば達成できる程度の目標で、営業の仕事と結びついていますし、3月末までという期限も設定されています。
また、社会人になって間もない新入社員もイメージしやすい内容になっています。
このような目標を設定できると、新入社員自身でも現実からビジョン(目標)に近づくために動く必要があることを感じることができます。 また、この段階で誰が見ても同じ理解ができる程度まで明確にした目標をつくれると、認識のズレが起きることがないため、今後各所に展開していくときにスムーズな連携を取れるようになります。
年間目標が決まったら、次により具体的に、一年間の中でいつどのスキルを渡していくかを現場と一緒に考えます。
人事だけでなく現場と一緒につくる必要がある理由は、人事と現場で協力態勢をとれるようにするためです。
人事の方からよく伺うお悩みとして、現場が育成に協力的ではないという話をよく伺います。一方、現場からは、現場の課題にあっていない育成プランを人事から押し付けられる、という話が多くあります。 これらは、人事と現場でコミュニケーションを取り合えておらず、人事で取り決めた育成プランを一方的に現場に渡して終わりになってしまっていることが原因です。
そのようなことにならないよう、現場と一緒に年間の成長ストーリーを考えることで育成への共創を行い、その後の育成をスムーズに行えるようにすることが一緒に創る目的となります。
現場は、自分たちの業務で忙しいため、育成が後回しになってしまいがちです。ですが、その状態のままでは新入社員の育成は難しくなってしまいます。 人事としては、現場をどう新入社員の育成に巻き込むかが大きなポイントになるのです。
■年間成長ストーリーを描くまでの流れ
年間成長ストーリーを描くまでの流れとしては、人事で設定した目標を現場にも確認してもらい、違和感や想いの違いがないかを確認します。この時点で現場の意見と異なるときは、それぞれの想いを伝えて、対話をしながら目標をアップデートしてください。
目標に対して、人事も現場も合意ができたら、人事が改めて目標達成のために必要なスキルを洗い出して、現場に確認します。必要なスキルが明確になったら、現場とともに、どのタイミングでどんなスキルを持っている必要があるかを対話を通しながら決めていくことを行ってください。
現場との対話が難しい場合は、現場にテンプレートを渡して現場に作成してもらい、その内容を人事で確認・フィードバックを行うという作業を繰り返しながらストーリーをつくってみてください。参考として、育成計画表の例をお見せします。
■年間成長ストーリーを描く際のポイント
年間の成長ストーリーを描く際のポイントは3つあります。
です。
①スキルの抜け漏れがないこと
目標に対して必要なスキルが抜けていると、目標を達成することは出来なくなります。そのため、目標に対して必要な要素が抜けていないかは十分に確認してください。 また、もし抜け漏れに気が付いたときは、成長ストーリーの見直しを行い、漏れていたスキルを含めた内容にアップデートすることを忘れずに行ってください。
②オンボーディングを丁寧に行う
入社してすぐの新入社員は、目標に対してどのように行動すればいいのか分かりません。そのため、初めの1~3か月は目標に対して丁寧にフォローを行い、目標を目指すための土台づくりをしましょう。
この段階で新入社員が目標に対してネガティブな気持ちになったり、諦めの気持ちが強くなってしまうと、目標達成が難しくなります。 新入社員が目標に対してモチベーションを持って行動してもらえるためのフォローを丁寧に行うことを意識してください。
③新入社員に任せきることを意識する
新入社員の育成にかけられる時間は限られているため、目標はやがて、新入社員自身で管理してもらう必要があります。
目標に対して、会社から研修や1on1などの支援を行うタイミングは人事や現場で決める必要がありますが、それ以外の部分では新入社員自身に目標を達成するために行動してもらう必要があります。
そのため、新入社員が目標達成した姿を明確にイメージできる内容で、自身で管理することができる目標になっていることもポイントです。
成長ストーリーが完成したら、いよいよ新入社員に目標を展開します。
新入社員に展開する際は、次の3つのポイントを意識して伝えてみましょう。
③相手が理解を深めるための機会を持つ
例:確認させる、質問させる、反芻させる等
目標をただ一方的に伝えても、新入社員が理解できていないと、それは伝わってはいないため、新入社員が目標へコミットすることは出来ません。
伝え方には次の図のように3段階あると言われています。
目標を展開する、という内容で考えると
1段階目が、育成計画を渡すだけ
2段階目が、育成計画を渡し、新入社員に不安なところを聞いてフォローする
3段階目は、目標を渡す人が大切にしている考え方や想いを言語化して伝えることで、新入社員の共感レベルが上がり、関係性を強くできる というようなイメージです。
せっかく良い目標を作っても、新入社員がその目標をしっかり受け止めることができなければ、目標はクリエイティブテンションを生むことができず意味のないものとなってしまいます。 新入社員が自分と同等の納得や理解があって初めて成り立つということを十分に理解しておきましょう。
目標に余白をつくっておき、新入社員自身で決めてもらうポイントをつくっておきます。
一方的に渡された目標だと、受け身の姿勢になってしまい、言われたからやるという意識醸成を生み出しかねません。そうならないためにも、目標に新入社員自身の想いを乗せるポイントをつくっておくことが効果的です。
余白の作り方としては、例えば、目標に対して自身で学びたい内容を考えてもらうとか、アポイントを3か月で〇件獲得するための方法を自分なりに考えてもらうなどが挙げられます。
先程の育成計画表の学習機会について、10月以降からeラーニングとなっており、その中で何を学ぶかを個人で選べるようにするのも一つの方法です。
自分で設定できる内容があると、目標をより自分ごと化してとらえられるようになります。
仕事を進める中で、様々な仕事への出会いや、尊敬する先輩が出てきたなどの理由で、どのように活躍していきたいかが変わる人も出てくると思います。また、会社の方向性が変わるということも起こりえるでしょう。
そのような場合は、目標を達成することを優先するのではなく、進む方向に合わせて適宜目標をアップデートしていくということも必要になります。今の目標がクリエイティブテンションとして機能しているかどうかは注意してみておきましょう。
ここまで目標設定の方法について説明しました。
目標設定が大変だと思われるかもしれませんが、良い目標を設定することが出来れば、新入社員が自然と成長を遂げてくれるため、その後の育成はスムーズになります。
新入社員が活躍できるようになるように、ぜひこの流れに沿って目標をつくってみてください。
目標を設定する中で、分からないことがありましたら、コチラからお問い合わせください!目標を設定するお手伝いをさせて頂きます。
最後に目標設定するときの注意点を2つだけお伝えします。
です。
①孤独感を持たせないこと
孤独感を持たせる目標設定は、最近の新入社員には合わない目標設定のため、やめましょう。 孤独感を持たせる目標設定というのは、例えば、アポイントの数で競わせて協力関係ではなく個人プレーで評価するようなものです。
最近の新入社員は精神的に沈みやすい傾向もあるため、会社全体で支援しながら目標を達成していくイメージを持ってもらえるように意識してください。
同期や先輩がライバル関係にあり、助けを得られないと結果を出せなかった場合、立ち直ることが出来なくなる可能性もあります。
新入社員にとって、社会人としての仕事は未知の世界です。その状態で一人で達成しないといけない目標を渡されても、私はこの目標を達成することができるのだろうかという不安が大きくなってしまいます。始めは先輩・トレーナーと一緒に進めていける、という安心感を持ってもらえるようにしましょう。
②決めつけではなく、インサイドアウトを促すこと
最近の新入社員は、「~すべき」など自分以外の人からの価値観を押し付けられることに抵抗がある人が多くいます。SNSを通して様々な価値観を知っているからこそ、価値観に共感できないということも起こりえます。
これらの理由から、余白の部分を作って、自分の価値観を入れられるようにすることが求められています。
なお、意図していない部分で、新入社員にとって価値観を否定するような言葉に受け止められてしまう場合もあります。最近の人の傾向を知って、琴線に触れるポイントを知っておくことも必要です。
価値観を決めるけるような言葉に注意した目標や展開の仕方を心がけましょう。
新入社員が自然に成長を遂げる目標とは、目標を達成したときの自分に憧れ、頑張りたいと思えるものです。
そのような目標を設定できると、パフォーマンスが上がり成長実感を持てるようになりますし、チームや上司・同僚に対して貢献感を持つことでエンゲージメントを高めることもできます。
目標の作り方は、育成コンセプトからこの順番通りに作っていくと設定することができるようになっています。
良い目標を設定することで、新入社員の自然な成長を促し、最終的に自社内で活躍できる人材に育てていきましょう。 目標設定はあくまでもそのための、始めの一歩です。この一歩の方向を間違えてしまうと、成長の道のりは遠くなります。
新入社員にとっても、会社にとってもよい影響を与え合うことができるように、第一歩として、このコラムを見ながら目標設定をしてもらえたら嬉しく思います。