2022/5/13作成ー
アーティエンスでは、2021卒新入社員を対象に、2021年4月〜2022年3月の1年間に渡って、セルフマネジメント力(※)とリーダーシップの意識醸成を図るパルスサーベイ【Growth】(※)を月1回定期的に実施いたしました。(n=127〜92(月によって変動))
本記事では、Growthの回答結果の推移、ならびに結果から見えてきた新入社員のセルフマネジメント力・リーダーシップを育むためのポイントを考察していきます。
アーティエンスの提供するサーベイについて
※若手・新入社員が力強く成長していくために必要な4つの力(業務遂行力、巻き込み力、意義付け力、成長力)をまとめて、セルフマネジメント力と定義しています。Growthは、4つの力にリーダーシップを加えた5つの力への意識を高める設問となっており、日々の業務を振り返り回答することで、セルフマネジメント力とリーダーシップ発揮を促します。
Growthの年間の推移結果を紐解くにあたって、「スパイラル型キャリア論」というキャリア論について知っていただきたいと思います。
スパイラル型キャリア論は、東京経済大学グローバル組織・キャリア開発研究所の所長 小山健太氏によって提唱され、「自分視点」と「組織視点」の相互作用による螺旋的発展のキャリア開発のことを指します。
新入社員は、大学でのキャリア教育や就職活動を通して自分なりのキャリア観(自分視点)を持って入社します。その一方で、自分のキャリア観と組織からの期待・実際の仕事内容(組織視点)が必ずしも合致するとは限らず、ギャップを感じます。これがリアリティショック(※) です。
リアリティショック(自分視点と組織視点の対立)を感じた際、周囲とのコミュニケーションを通じて自身のキャリア観を再構築し、意味付けを変えていくことで、リアリティショックを乗り越えていくことができるとされています。リアリティショックへの対応については、周囲とのコミュニケーションの取り方や内容によって大きく3つのタイプに分類されます。
1つ目、リアリティショックを感じた際、周囲と「没コミュニケーション」となると、リアリティショックに対処できない「未適応」のタイプとなります。「組織・職務への不満」から、早期離職に繋がる可能性が高まります。
2つ目、リアリティショックを感じた際、新入社員から「職務上の相談」を行い「職務指導」を受けることで「消極的適応」のタイプへと移行します。リアリティショックの原因となっていた入社前の期待・夢からは認知的に一旦離れ、「組織視点の役割義務」を受容します。
3つ目、「消極的適応」からさらに進み、新入社員が既存社員へ「信頼関係に基づく自己開示」を行い、「本人の成長課題感にもとづく支援」を受けられると「積極的適応」のタイプとなります。入社前の期待・夢を固定的に捉えたり無視するのではなく、実現に近づけるよう、本人が主体的に「キャリア観の再構築」を行います。そうすることで、リアリティショックを感じていた仕事内容や組織からの期待に対して「本人視点の働きがい」を意味付けできるようになっていきます。
参照:「Z世代の自律を育む組織社会化とは〜新入社員育成をアップデートする~」のセミナー資料より一部抜粋
ここでGrowthの年間の推移結果を見ていきましょう。下記【表1】は、2021年4月〜2022年3月の Growth各設問の平均値です。
※ 9つの設問に対して’とてもそう思う’=5, ‘そう思う’=4,’どちらともいえない’=3, ‘あまりそう思わない’=2, ‘そう思わない’=1にて算出
【表1】2021年4月〜2022年3月のGrowth各設問の平均値
続いて下記【グラフ1】は、Growth各設問の2021年4月の平均値を100%(基準値)とし、それ以降の平均値の変動率を表した折れ線グラフ(ファンチャート)です。
※ファンチャート:ある基準となる時点を100%とし、それ以降の数値を基準となる時点に対する百分率で表示し折れ線グラフで表したもの。グラフが扇(ファン)を広げたような形をしていることからファンチャートと呼ばれる。
【グラフ1】2021年4月〜2022年3月の Growth各設問のファンチャート
ここで、以下3つの設問(【表1】ではピンク色で記載)に注目していきます。
回答を開始した2021年4月以降、上記3つの設問は上昇傾向であることが、【表1】【グラフ1】から確認ができます。
Q2・Q3は「巻き込み力:周囲に主体的に働きかけられる意識とスキル」を図る設問です。月日を重ねるにつれ、新入社員から周囲・上司へコミュニケーションを取れるようになり、仕事の品質の高まりを実感できていることがうかがえます。
「Q4:仕事において何を期待されているのかを知っている」についても、月を追うごとに上昇傾向にあり、自身に期待される役割の認識度合いが高まってきています。
以上の点から、前述したスパイラル型キャリア論における、新入社員と周囲が「職務上の相談」と「職務指導」というコミュニケーションをとり、「組織視点の役割義務」を受容している「消極的適応」のタイプまではクリアしていると捉えています。
また、2021年4月〜2022年3月の Growth各設問の標準偏差の推移【表2】のQ4にも注目してみます。月を追って、標準偏差(回答のバラつき)が徐々に小さくなっていることが確認できます。 【グラフ1】のファンチャートとあわせて見ていくと、今回回答いただいた新入社員全体的に「組織視点の役割義務」を受容している割合が高まり、そのバラつきも解消され、「消極的適応」の状態にあると言えます。
※標準偏差:データのばらつき具合を示す数値のひとつ。数値が大きいほどばらつきが大きい。
【表2】2021年4月〜2022年3月のGrowth各設問の標準偏差の推移
その一方で、先ほどの【表1】から、Q1、Q5〜Q9の6つの設問の平均値は下降傾向であること、【グラフ1】のファンチャートから2021年4月の基準値未満であることが確認できます。
上記6つの設問の平均値が月を追って下降傾向にあることから、新入社員が「キャリア観の再構築」や「本人視点の働きがい」を獲得できているとは言い難く、スパイラル型キャリア論の「積極的適応」が強い状態とも言い難い状態にあると考えています。
ただし、【表2】のQ5〜Q9の標準偏差の結果が、徐々に大きく出ているという結果から、新入社員個々人や企業によっては「積極的適応」のタイプに移行している可能性もあるため、一括りにはできない状態であると言えます。
1年間のGrowth結果のデータを通して、各項目を目的変数とし、それぞれ重回帰分析を行ったところ、下記2つの設問項目が、説明変数として他の設問項目に影響を与えることが分かりました。 ※ 相関係数は、それぞれ5.5~7.0がありました。
弊社の仮説としては、Q5・Q6の環境を整えている組織・チームが、「積極的適応」の状況を創られていると考えます。
特にQ5を、どれだけアプローチできるかが鍵となると考えています。 理由は、下記のヒストグラム(※)で説明します。
※ヒストグラム:ある特定のデータを区間ごとに区切り、各区間の個数や数値のばらつきを棒グラフに似た形の図で表現するグラフ
【Q4:仕事において何を期待されているのかを知っている】のヒストグラム
※とてもそう思う’=5, ‘そう思う’=4,’どちらともいえない’=3, ‘あまりそう思わない’=2, ‘そう思わない’=1にて算出
「とてもそう思う’=5, ‘そう思う’=4」が、11.1%上昇しており、「あまりそう思わない’=2, ‘そう思わない’=1」が5.4%減少しており、組織への適応は見られます。ただし、ここでQ5に関して注目します。
【Q5:自身やチームの目的・目標を意識することで、日々の仕事により意欲的に取り組めている】のヒストグラム
※とてもそう思う’=5, ‘そう思う’=4,’どちらともいえない’=3, ‘あまりそう思わない’=2, ‘そう思わない’=1にて算出
「とてもそう思う’=5, ‘そう思う’=4」が、15.2%上昇しており、「あまりそう思わない’=2, ‘そう思わない’=1」が2.5%上昇しており、組織の目的・目標に対して、自分事になっている新入社員が減少していることが分かります。
一方的に目標を伝えている組織・チーム・管理職は、目標設定・管理を丁寧に扱っていく必要があります。ご参考までに、お役立ち資料・コラムを紹介させていただきます。
◆お役立ち資料
withコロナにおける目標設定面談とは?~部下が目標を自分事にしていくために~
◆お役立ちコラム
withコロナにおけるパワフルな目標管理とは? ー管理職が目標管理で抑えておきたい5つのポイント
部下が目標達成にコミットするために、管理職ができることとは? ~仕組みと管理職の能力開発が肝!~
21卒新入社員の成長を加速させる目的・目標の伝え方とは? -数値からひも解く【Growth結果レポート6月】
目標を自分事にすれば、組織と一体化(自己組織化)が促せますし、一体化が進めば従業員エンゲージメントも上がります。
「 Q5:自身やチームの目的・目標を意識することで、日々の仕事により意欲的に取り組めている」が、新入社員育成において、一つの鍵になりそうです。
ここからは、若手・新入社員が、Growthの各設問に落とし込まれている「セルフマネジメント力」を身に着け、「リーダーシップ」発揮への意識を高めていくために、人事やトレーナーが取り組める施策やアプローチ方法を、過去コラム・お役立ち資料とあわせてご紹介していきます。(前項目にて取り上げた「意義付け力」以外の4つのスキルについてお伝えします)
まず「業務遂行力:業務を遂行するための型を知り、活用できる力(Q1)」についてです。
先ほどの【表1】「Q1:私はよりよい仕事をするために学び続けている」の平均値の年間推移から、業務や職場環境への慣れと共に、学び続ける意識は徐々に薄れていっていることがわかります。
学び続ける意識や業務遂行力を引き上げていくためには、定期的にOff-JT(職場外の研修等)を実施することで一定の効果を得られるでしょう。ただし、さらに重要なのは、OJT(職務現場での指導・教育)の育成計画を立て、新入社員・トレーナー双方で育成計画の達成度合いを丁寧に確認していくことです。育成計画は最低でも6か月、できれば12か月のスパンで計画を立てられると、お互いにより成長を実感できるでしょう。余裕のないスケジュールは、新入社員にとってもトレーナーにとっても負担が大きく、十分な知識・スキル習得も得にくくなります。
また、育成計画を立てる際のポイントはいくつかありますが、一つ挙げると、インプットとアウトプットの機会をバランスよく設計することです。新入社員想いのトレーナーほど、インプット過多になる傾向にあります。インプットしたものをアウトプットするタイミングも考慮し、育成計画を練っていけるとよいでしょう。
◆お役立ち資料
新入社員が活躍するための「受け入れ方」 ―リモート時代のオンボーディング
テレワークであっても、OJTを活性化させる3つのポイント
◆お役立ちコラム
テレワークによる環境変化、OJTの役割はどう変わる?
テレワークで高まる育成担当者(上司・トレーナー)の重要性。人事は何をすべき?
次に「巻き込み力:周囲に主体的に働きかける意識とスキル(Q2・Q3)」についてです。
前項目にてお伝えしたように、巻き込み力を図るQ2・Q3の平均値は月を追って上昇傾向にあり、上司・周囲を巻き込む意識は徐々に高まっていたことがうかがえます。 しかしながら、その数値はあくまで新入社員本人の主観的な判断であり(ご希望に応じて、トレーナー向けのGrowthも実施しています)、巻き込まれる側の認知とはズレが生じている可能性もあります。前提、巻き込み力は新入社員一人で高めていくには限界があるスキルのため、トレーナーや上司との対話を通してズレを解消し、育んでいくことが大切です。その他の取り組みとしては、下記をお勧めします。
これらは、配属前等、より早く取り組むことが、新入社員の巻き込み力を早期に高めることに繋がるかもしれません。
◆お役立ち資料
新入社員とのコミュニケーションの量と質、どう高めていく?
◆お役立ちコラム
テレワークだからこそ求められる管理職の”チームの心理的安全性”の創り方
続いて「成長力:定期的に自身の成長・変化を実感し、次なる成長に向けて動き出せる力(Q6・Q7)」についてです。こちらに関しては、昨年度GrowthとGrowth Meetingをご活用いただき、新入社員の成長力強化に繋げたA社様(製造業)の事例を以下4つのステップに分けてご紹介します。
「定期的に振り返りの機会を設定し、習慣化の支援をしていくこと」と「振り返りの内容に対してフィードバックすること」で、振り返りの質が高まり、成長力強化に繋がっていきます。
◆お役立ち資料
【2021年9月 Growth結果レポート】成長実感から成長予感へ ―「自組織での今後の成長ストーリー創り」、どうアプローチしていくか?
◆お役立ちコラム
新入社員の離職防止には「自分なりの前進感」を持つことがカギ? 数値から紐解く【Growthレポート1月】
21卒新入社員の成長実感を育むために何ができる? 数値からひも解く【Growth結果レポート5月】
最後に、「リーダーシップ:想いを持って主体的に組織・周囲にポジティブな影響を与えていく力(Q8・Q9)」についてです。
リーダーシップへの意識醸成を図るGrowth Q8・Q9の平均値は、年間を通して他設問よりも低い傾向にありました。ただ、回答のバラつきを示す標準偏差も年間を通して強く出ており、リーダーシップへの意識は個人によって差が大きい状況であったと言えます。
「リーダーシップへの意識が低いから、明日からリーダーシップを発揮するようにしよう」と考え、すぐに発揮できるものではありません。組織としてリーダーシップ開発に取り組み、リーダーシップが発揮しやすい職場環境を整えていくことが不可欠です。
そんなことを言うと、「若手・新入社員のうちは、リーダーシップを発揮する必要はないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、弊社では、若手・新入社員のうちからリーダーシップを育んでいくことは様々なメリットがあると考えています。
なぜ、若手・新入社員のうちからリーダーシップ発揮が必要なのか、彼らに求められるリーダーシップとは何なのか、そして、どのようにリーダーシップ発揮を促していけばいいのか、の詳細に関しては、以下のレポートで解説しています。よろしければご覧下さいませ。
若手・新入社員ができる!リーダーシップ発揮を促す3つの取り組みとは 【Growthレポート2月】
◆お役立ちコラム
これから求められる新たな概念”シェアドリーダーシップ”とは ー管理職を起点としたチーム創りを考えるー
VUCA時代、組織や社会から求められる人物像や、新入社員の性質も年々多様に変化しているため、柔軟に適応していくことが求められます。
そんな時代だからこそ、自身の視野・視座を広げて最適解を創っていくため、他社の仲間と対話し、学び合うことが有効であると考えています。
そんな想いから、人材開発や組織開発をメインテーマに扱った勉強会(学習コミュニティ)を定期的に開催しています。
アーティエンスの学習コミュニティ
人材開発・組織開発の分野は、非常に奥が深く、“絶対的な正解”はありません。だからこそ、適応解(試してみる価値がある施策)を、多様な方々との対話や議論から探求していきませんか? ご参加前の知識レベル・精通度合いは全く問いません。「組織をより良くしていきたい」「その人らしく活躍できる人材を育成したい」という想いに共感いただける方でしたら、歓迎いたします。
直近だと下記勉強会を開催予定ですので、お気軽に御申込くださいませ。
◆2022年5月20日(金)10:30~12:00/ZOOM 【無料/参加型オンライン勉強会】22年度新入社員 導入研修 プチ振り返り会 Growth Meeting(グロースミーティング)
◆2022年5月25日(水)10:30~12:00/ZOOM 【ファシリテーション×若手のキャリア】これからの若手社員のキャリア形成とは?~組織主導から個人主導のキャリア開発へ~
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