2021/4/28作成ー
「マネージャー(管理職)が、言われたことをそのまま下に伝える、メッセンジャーとなっている…。研修でどうにかなります?管理職としての意識が弱いんですよね。当事者意識も主体性もない」 と相談してきたのは、ある企業経営者でした。
本記事では「言われたことだけやる状態」の定義と、そこから抜けだすためのアプローチとして当事者意識・主体性を解放する方法についてお伝えします。
※管理職=ミドルマネジメント層を対象としています。
目次
本題に入る前に社員の意識を考える際に重要な、「衛生要因」と「動機付け要因」についてお伝えします。
「衛生要因と動機付け要因」とは、アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱した、仕事において満足を引き起こす要因と不満足を引き起こす要因をまとめたものです。
「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進・向上」 といった、仕事の満足度に関わる要素です。
動機付け要因は、あればあるほど仕事に前向きになる要素です。
「給与」「福利厚生」「経営方針・管理体制」「同僚との人間関係」「監督(上司との関係など)」 といった、仕事の不満に関わる要素です。
衛生要因が一定レベル整っていなければ、社員の不満は大きくなります。ここで重要なのは、衛生要因が一定レベル満たされている状態(もしくは、管理職自身が衛生要因を変えていける権限を持ち合わせている状態)でなければ、いくら社員の主体性を引きだそうとしても、その効果は薄くなる点です。
もしも自社の管理職の衛生要因が著しく欠けている場合には、まずは衛生要因を改善することから始めましょう。
衛生要因の多くは研修のみで解決することが難しいため、本記事では、衛生要因は一定レベル満たされた状態であることを前提に話を進めたいと思います。
今回は能力のピラミッドを基に「言われたことだけやる状態」を捉えていきます。
能力のピラミッドとは、ゲイリーハメルが提唱した仕事上における能力のフレームワークです。
指示通りにルールや手順すべてに従う社員
成果を上げることに責任感を持ち、途中で投げ出すことなく一生懸命にとりくむ社員
十分な訓練の基、その仕事における専門性を持ち合わせている社員
課題や機会を見つけると、すぐさま行動を起こし、積極的に変えていく社員
常識に挑戦する意欲を持ち合わせており、いまの状態をより良くするアイディアはないかと同業界・他業界にまで視点を広げている社員
仕事は使命であり、社会をより良くするための手段であると捉え、仕事に自分のすべてを傾け没頭している社員
それぞれ自社の管理職に置き換えた時に、どのあたりに属しているでしょうか。
一般的に、レベル3とレベル4の間には大きな壁があると言われています。
それは、課題が起きてから改善行動にうつす受身的である姿勢から、自身の目的のために課題を自ら捉え、創っていく能動的な姿勢への転換期であるためです。冒頭で経営者が話していた「言われたことだけやる管理職」はまさに、レベル1~3にいるのかもしれません。
しかし、昨今の流動的な環境下において、レベル4の主体性以上の人材をより多くしていかなければ、組織の発展は見込まれないと言われています。もしも、組織や部下に大きな影響を与える管理職がレベル3以下であると感じるのであれば、組織にとって喫緊の課題といえます。
その理由を紐解いていきます。
環境変化の加速・コモディティ化の波にコロナ禍も相まって、これから成果を出すためには、仕事に対する意識の変化が必要だと言われています。
これまでの時代では、主体性以上 の能力は一部の経営者・管理職 が持っていればなんとかなっていたかもしれません。 それは、上記からも分かるように、少数の上層部が決定したこと(上から言われたこと)を正しく遂行する方法で組織は発展できたからです。
ただし、正解のないこれからの時代において、意義ある目標のために工夫想像し、探索や挑戦を進めるには(できれば社員全体に)少なくとも組織に大きな影響を与える管理職には、主体性以上の能力が必須です。
レベル1~3の従順・勤勉・専門性といった、課題が起こってから改善していく受身的な要素の強い管理職が、これからの時代を切り開いていけるイメージは、みなさんも持てないのではないでしょうか。少し別の角度から、主体性について見ていきたいと思います。
自社の経営者と管理職、管理職同士、もしくは管理職とチームメンバーの会議でどんな言葉が多く使われていますか?
頭の中で思い起こしてみてください。
明確に分けることは難しいですが、最低でも”参加”以上の状態でなければ、変化に合わせた探索・創造は生まれないと感じませんか。参加以上の状態を創っていくには、主体性以上のレベルの人材が一定数いる必要があります。
管理職の多くはこれまで、組織目標に向かって、部下の従順さ・勤勉さ・専門性をいかに発揮させるかが重要視されることが多くありました。しかし、これからは、管理職自身の主体性・創造性・情熱の発揮と共に、 メンバーのそれらの能力を解放する環境を創っていくことが重要です。
チームメンバーに対して、具体的にどのようなアプローチをしたら良いかはコチラをご覧ください。
これから求められる新たな概念”シェアドリーダーシップ”とは
ゲイリーハメルはその著者の中で、
と明言しています。
結局外部、例えば経営者や研修講師が「主体性を発揮しろ!」といっても、短期的な効果は発揮できたとしても、長続きしないのです。
では、どのように主体性を引きだしていけるとよいのでしょうか。
弊社では、ありたい姿を意識することから始まると考えています。
価値や強みに焦点をあて、本当はどのように「ありたいのか」を描いた姿です。
その人自身からうまれる(インサイドアウト)ことが大切です。
規範や目標とのギャップからうまれる、「こうすべき」を描いた姿です。
環境や周囲から求められることと現状とのギャップからうまれます。
あるべき姿とは、上述した【上からの命令】と近しいかもしれません。
「もっと主体性を発揮すべきだ!」と求められ、本人の意思と関係なく設定されたゴールというイメージです。とはいえ、ありたい姿が言葉としてすぐにでてくる人は少ないのが現実です。
ありたい姿への意識を研修でどのように育んでいくのが良いのでしょうか。
まずは自身のありたい姿を、探求します。 ありたい姿は、「強み、可能性、価値が最大限発揮された時に創られる世界」という観点でアプローチすると描きやすくなります。
過去や現在の経験を振り返り、その人ならではの強み・価値を参加者同士の問いによって導き出します。
強み・価値を認めたうえで、自身のありたい姿を探求していきます。
具体的に弊社では、それぞれの管理職に自身の経験を振り返っていただき、困難を乗り越えた経験を共有いただきます。 聞き手はその方ならではの良さや素晴らしい点を、フィードバックしていきます。その後に、30年後(時に100年後等)の最高の状態を描きます。現実から離れた時間軸であるからこそ、本来その人が持っている「ありたい姿」が少しずつ見えてきます。
ここで大切なのは、明確・不変なありたい姿を描くことではありません。そもそも、ありたい姿は定めるものでもありません。大切なのは、ありたい姿への関心を高め、それがどんな状態なのかを問い続ける状態をつくることです。
また、現実との乖離は一端わきに置き、“心からこうありたい”を深めていくことが大切です。
※本イメージ画像はひとつのイメージです(これが唯一の解ではありません)
本来はもっと歪な形になり、複雑化・多様化します 再三となりますが、もっと情熱的になれ!や、主体的になれ!といっても意味がないことを、経営者は理解しておくことです。そもそもそれを伝えるというのは、経営者自身が心の底では、 自身の指示・命令に従順であるレベル1~3の管理職を期待しているということに気づかなければいけません。
具体的には、管理職に事前課題として経営者インタビューを実施してもらったり、 経営者の方に研修の冒頭に参加いただきインタビューしながらその想いを紐解きます。文章を読み上げる、「こうあるべき」というメッセージを伝えないように注意し(もしくはぐっとこらえて)、経営者自身が描いている組織のありたい姿を共有します。
また、その後に管理職と共に対話し、その背景を深堀ります。経営者からの思いをふまえて、管理職それぞれが「自組織はどうありたいか」を理解し、「自身のありたい姿」と繋げていきます。
自身・組織としてどうありたいのかを踏まえた上で、 管理職としてどうありたいのか(組織・周囲にどのような影響を与えていきたいのか)を考えていきます。
なお、自身・組織・管理職との境に、明確な線があるわけではありません。自身のありたい姿と管理職とが行き来することも十分にあります。(実際にピラミッドの最上位の情熱的な人材は、仕事と人生の境界は無いもしくは曖昧になっていると言われています。)とはいえ、これまで探求してきたことに”管理職”という要素を加えると、新たに見えてくることも多くあるはずです。
なお、それぞれの管理職のありたい姿を個人にとどめるのではなく、同一組織にいる管理職同士で共有し、「私たちは○○(会社名)の管理職としてどうありたいか」といった融合された未来を描くと、よりパワーを発揮します。
例)ある企業の管理職層が共に作成した宣言文
ありたい姿が少しずつ見えてきたら、日々の仕事と融合していくフェーズに入ります。ありたい姿を実現することを念頭におきながら、現実と照らし合わせ、アクションプランを作成、各種スキルを活用しながら、ありたい状態にむけて主体性を伴う行動を引きだしていきます。
「ありたい姿」への意識は、管理職の主体性を引きだすだけでなく、管理職の一体感醸成にも繋がります。実際に、弊社の管理職研修を実施した人事の方からはこのような声を頂いています。
研修後にも管理職の主体性を促進するためには、 自身の変化の認知と取り巻く環境の構築の二点を押さえることが必要です。
自身の変化や周囲に与えた影響の変化を、自身で自覚することは難しいです。本人が気付かないうちに変化していることも往々にしてあるためです。主体性を促進するきっかけを渡した後に、それらの変化をしっかりと振り返る機会(フォローセッション)を設けることが、主体性を促すうえでは最重要ポイントともいえます。
少しでもいいので取り組んだこと、目に見えた変化は起きていなくとも 意図して取り組んだことなどにまで範囲を広げて、ゆっくりと振り返ってみましょう。そうすることで、認知していなかった変化に気付き、自身の行動への肯定感がうまれ、主体性は加速されていきます。
弊社の研修では、他者からのフィードバックも大切にしています。本人は変化に気付いていなくても、周囲は変化を感じ取っていることは多くあるためです。ある管理職研修のフォローセッションでは、本人は「結局、全然変われなかった!」 と言い張っていましたが、それを聞いていた別の社員が「いや、○○さんすごい変わりましたよ。部下に対する言葉が変わりました。今までは、部下が体調不良になったら”何やってんだ!さっさと帰れ!”で終わってましたけど、研修受けた後、”何やってんだ!さっさと帰れ!ゆっくり休んで、また明日から頑張ろうや!”って言ってましたもん。」 と言われ、図らずも変化を知る、という場面もありました。
たとえ、研修で管理職自身が主体性の発揮を行ったとしても、 経営陣の同意・理解がなければ、すぐに元に戻ってしまいます。組織が階層構造である以上、どうしても上司の影響力は大きいためです。
人事として出来ることは、研修企画の際に要件定義を明確にし、管理職の変化をレポートなどにまとめ、経営陣にしっかりと伝えることが大切です。この変化は、事前アンケート・事後アンケート・サーベイなどから情報を拾えると良いでしょう。また、レポートを共有して終わりではなく、そこから見えた良い点・課題点、今後に向けてどのような働きかけを行いたいか、この変化を加速させるためには…、といったテーマで対話できると良いでしょう。
経営陣自身は管理職に対して機会を渡していくこと、また、日々のやり取りの中で、主体性を育んでいくコミュニケーションをとる必要があります。この点は、葛藤も多く発生する部分ですが、究極的には経営陣が自身を見つめ続け、「自組織はどうありたいのか、自身はどうありたいのか」を問い続けることが大切です。
管理職が主体性を発揮し、多くのチャレンジを行おうとしても、 それまで従順を第一としてきたチームにとっては、負荷が大きくなり、拒絶されることもしばしばあります。いくら管理職が主体性を発揮しようとも、チームが着いてこず、成果に繋がらなければ意味がありません。
チームと共に変わっていく仕組みまで、サポートしていくことが大切です。
そのためにも、まずは管理職がこれからのどのようなチームを創っていきたいのかを共有すること、また、チームメンバーが仕事を作業として捉えず、自身にとって意義のあることだと捉えられるような働きかけを行い、チームメンバーの主体性を引きだしていくことが必要です。
下記の意義目標等を管理職がまずは明示しつつ、都度、メンバーと共に考え直し、対話によって創り上げていくという方法もあるかもしれません。
環境変化の波を受け、管理職に大きな変化が求められています。とはいえ、人の変化とは外から無理に起こせるものでもありませんし、一瞬にして起こるものでもありません。できるだけ早く着手し、少しずつ引きだし、積み上げていくことが、これから先の環境を生き抜いていくためには必要だと、弊社は考えています。
弊社では、ありたい姿からスタートし、チームと共に変わっていく管理職研修をご提供しています。派遣型・公開型、どちらも開催しております。
本記事を読み、少しでも興味をお持ちであれば、ぜひ、お気軽にご相談・お問い合わせ頂ければと思います。また、詳細をお伝えできるセミナーも開催しております。ぜひ、ご参加ください。