コロナ禍により、テレワーク導入企業は増加しています。
都庁の調査では、東京都の企業の57.8%(※)がすでにテレワークを導入しているようです。
2020/11/30作成ー
テレワークによる働き方の変化をうけ、育成の形も変わってきました。
本記事では、若手・新入社員の育成担当者にフォーカスをあて、今後育成担当者により一層求められること、そして、人事は育成担当者にどのような支援ができるのかをお伝えします。
※参照:東京都庁 テレワーク導入実態調査結果
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/09/14/documents/10_01.pdf
目次
これまでは、出社すると他部署の上司や先輩ともコミュニケーションをとれました。
ランチや飲み会では、業務上接点のない社員と話し、多様な考えや視点に触れあうこともできました。
しかし、テレワークでは業務上かかわりのある社員のみに接点が限られます。
すると、必然的に社内コミュニケーションにおける上司・トレーナーの存在感は高まり、影響力がこれまでよりも大きくなります。
特に、上司・トレーナー以外の既存社員との接点を全く持てていない状況の新入社員は、上司・トレーナーを通して、会社を捉えるといっても過言ではありません。
出社が基本であった際には、少し元気のない若手・新入社員に気付いた同じフロアの社員が、必要に応じて適宜フォローすることができました。
また、そういった気になる若手・新入社員の情報を得た人事担当者が、様子を見に行く・頻繁に声をかける、ということも可能でした。
しかしテレワークではそれらが、ほぼ不可能です。
実際に、人事の方もテレワーク化にともない、このような発言をされていました。
上記二点からも、クローズドな環境が創られるテレワークでは、上司・トレーナーへの依存度合いは高まってしまうといえます。
テレワークに取り組む若手・新入社員に仕事を依頼する際には、”何をすべきか”をこれまで以上に明確に伝えなければ、仕事の進度が遅くなってしまいます。
出社が当たり前であった頃、多くの企業では現場の上司・トレーナーが(忙しさもあり)ひとまず要点を伝え、不明瞭な部分はその後のコミュニケーションによって補填していくというスタイルが取られていたのではないでしょうか。
しかし、従来のように、要点だけ先に伝え、隣の席から適宜フォローするということは、テレワークではほぼ不可能です。
また、テレワークにおいては、若手・新入社員側が”不明瞭なことがでてきたら、上司・トレーナーに都度相談する”ということを、気軽に行いづらいという理由もあります。
テレワーク化にともない、仕事の依頼時にいかに情報を整理して、指示・依頼を明確にできるかが、仕事の進度に大きく関わってくるようになりました。
実際に、現場の上司の方・人事の方からこんな声もありました。
若手・新入社員に仕事を依頼する際に、少ないコミュニケーション頻度の中でいかに整理された情報を渡し、仕事の進度を早められるか、といった仕事の指示・依頼コミュニケーションスキルが、より重要になってきています。
テレワークという上司・トレーナーの目を常に感じられない環境では、本人が主体的に業務を進める姿勢がより大切になります。
例えば、上司・トレーナーがオンライン上で若手・新入社員に厳しく叱責したとしても、画面を閉じると、そこは自身の住空間であり、プレッシャーによる緊張はすぐになくなってしまうでしょう。
また、テレワークにより組織への所属感が薄れ、客観的に自組織を見る機会が増えている状況においては、過度なプレッシャーは退職を誘発する可能性が十分にあります。
もしも、これまでプレッシャーや恐怖の力をかりて若手・新入社員の行動を掻きたてていたならば、大きな転換を求められることになります。
また、場や仲間の力を借りづらいことも大きな難しさといえます。
これまでは、たとえ若手・新入社員のモチベーションが落ちていても、出社して、仲間の顔やエネルギー溢れる先輩社員をみて、モチベーションを維持できていたかもしれません。
しかし、オンライン上ではそういった機会は減ってしまいます。
場や仲間からの力が弱まる分、モチベーションの維持における上司・トレーナーが担うべき範囲が増してしまっているのです。
ここからは、これから先どのような育成が大切となるのかを、考えていきましょう。
現在、社員に主体性を求める傾向が強くなっています。
その理由として、大きく二つ考えられます。
上述した通り、テレワークでは管理・監視には限界があり、それらを強化することは合理的だとは思えません。
細かな管理・監視を行って、社員のモチベーションを下げ、結果的に成果が下がるよりも、社員自らが自身の成果に向けて積極的に周囲に働きかけ、自然と仕事が進んでいく状態を創ろうとする考えが、急速にすすんでいます。
少し大きな枠組みの話になりますが、今の日本では過去と同じことを継続していては成長しづらくなってきています。
時々で変わる環境にあわせて、新たな挑戦を行いながら、解を見つけだし、これまでにないサービスを生み出していける企業であることが、求められるようになりました。
そのためには、その企業に属する社員が、新たな挑戦を積極的に行い、解を見つけ出していく姿勢を身に付けていることが求められます。
そういった姿勢を創っていくためには、目の前の仕事や周囲で起こっていることを、自分事として捉えて考えていくことが大切です。
これらの姿勢は後から急激に変えるよりも、若手・新入社員のうちから育んでおく必要があります。
理想は、テレワークにおいても若手・新入社員が迷いなく、主体的に仕事を進めていけることです。
しかし、その状態を初期段階から創ることは難しいでしょう。
上司・トレーナーが下記の2つの観点をおさえながら日々かかわりって、育成していくことが大切です。
入社したばかりの新入社員に任される範囲は、どうしても部分になりがちです。
部分のみに目が行くと、全体や目標との繋がり感じられず、作業感が高まり、主体性が低下してしまいます。
そうならないためにも、下記のステップを意識した取り組みができるとよいでしょう。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
まず初めに行ってほしいのは、上司・トレーナー自身の話をすることです。
はじめに、自分から自己開示することが大切です。上司・トレーナー自身の目標をただ伝えるのではなく、自分はその目標を具体的にどう解釈して、どんな意義をもって日々仕事を進めているのかを言語化して、伝えてみてください。
また、これから先、どんなことに取り組もうと考えているのか、どんな未来を描いているのかを話すこともよいかもしれません。
若手・新入社員の話をじっくりと聞きます。
仕事においてどんなことに楽しさ・やりがいを感じているのか、また、どんなことができるのか。
そして、どんな成長をしたいのかを聞いてみましょう。
とはいえ、
「あなたのやりがいってなに?」
と聞かれても、答えづらいものです。
参考資料を基に対話し、若手・新入社員の楽しさややりがいを理解していくことをお勧めします。
ここでは、参考資料の一つとしてDisc理論を紹介します。
Disc理論とは、1920年代にウィリアム・M・マーストン博士により提唱された自己分析の手法です。
参考資料をみながら、これまで仕事において印象強かった経験の特徴をひも解いていく、という方法もよいかもしれません。
ただし、特に新入社員は仕事の経験も浅く、仕事に対するやりがいが不明瞭な状況が多いでしょう。
その場合は、無理にやりがいを創らせようとせず、都度、何に楽しさを感じたのか、どんな仕事に達成感を感じたかを丁寧に振り返り、新入社員にとってのやりがいの種を探し、共に育てていくという姿勢も大切です。
ステップ2で聞いた内容を基に、
若手・新入社員が今の仕事に取り組むことで、どのくらい成長を引き延ばせるのか、達成のためにどんなサポートを必要としているのかをすり合わせていきます。
一方的に押し付けるのではなく、若手・新入社員の納得感を高めることが大切です。
若手・新入社員と共に、仕事を業務ごとにマトリックスで整理してみるとわかりやすいでしょう。
・スキルが充足していて、ここから先の熱量を感じられていない業務(③)
・熱量はあるが、スキルを獲得できていない(思うように時間をさけていない)業務(②)
など、振り分けた背景を確認しながら、それぞれの業務のやりがいを高められるようにフォローを進めていけるとよいでしょう。
なお、若手・新入社員のうちは多くの経験を積むこと・仕事の基本を学ぶことが重視されることが多いため、④の熱量も低くスキルも低い業務に振り分けられる業務が多くなる傾向があります。
④に偏っている場合は、若手・新入社員自身がやりがいを感じられる業務を新たに渡していくことも、必要かもしれません。
また、上司・トレーナーが長期的な観点から、その業務の意義を伝え、④の業務に対する若手・新入社員の視野を広げていく働きかけも大切です。
若手・新入社員とマトリックスを“ともに創っていく”というプロセスが重要です。ぜひ一緒に創ってみてください。
上司・トレーナーは、業務性質を理解しておくことも重要です。
業務は、大きく分けると下記のような区分があります。
【ルーチンの業務】は、業務着手時に適切な情報を渡せば、若手・新入社員自身の力で解決し仕事を進めていけるかもしれません。
しかし、【イノベーションの業務】は、不明瞭な部分が多く、着手時に上司・トレーナーが情報を渡したとしても、経験の浅い若手・新入社員が、迷いなく主体的に進めるには、都度フォローが必要となるでしょう。
業務特性をみながら、育成の介入度合いや内容を調整していけるとよいでしょう。
例えば
・【ルーチンの業務】、基本的に決まったタイミングで成果を共有してもらう
・【複雑な業務】は、自身も都度状況がみられるようにCCにいれてもらいながら、必要に応じて相談してもらう
・【イノベーションの業務】は、自身も積極的に介入しながら、進めてもらう。また、成果へのフィードバックよりもプロセスを評価するようにする
などです。
このあたりは、若手・新入社員と、具体的にすりあわせておくことが大切です。
育成担当者である上司・OJTトレーナーへの支援として、下記のステップで取り組めると良いでしょう。
会社として、【どのような人材】を育てていきたいのかを明確にし、上司・トレーナーに共有しましょう。
また、【どのように育てていくのか】という育成のステップもできるだけ具体的に伝えることが大切です。
人事が現場に介入できる幅が狭まっているため、例年に増して丁寧に行えるとよいでしょう。
まず初めに、育成担当者である上司・トレーナー自身の仕事や育成に対する”想い”の醸成を行うことが大切です。
今後、若手・新入社員に主体性を期待するのであれば、上司・トレーナー自身が、育成にやりがいを感じ主体性をもって臨んでいる状態を見せられることが望まれます。
・自身は日々どのような想いをもって行動しているのか
・会社からの育成方針を受けて、自分なりにどのような育成を行おうと考えているのか
等を整理できる簡単なフォーマットを上司・トレーナーに共有し、言語化の手助けをおこなうことも一つの方法です。
上述した通り、若手・新入社員の成長はこれまでにまして、上司・トレーナーの育成スキルに大きく依存します。
この状況に不安を感じている育成担当者も多いはずです。不安軽減のためにも、ぜひ、SMARTの法則など育成の型を伝えるようにして下さい。
参考:SMARTの法則
オンライン育成においては、ここが肝ともいえます。オンラインコミュニケーションは初期の関係性構築には不向きです。
関係性ができていない中で、オンラインで育成を行うのは相互にとってハードルの高いことです。
関係性ができていないと、自身の想いの開示が行いづらかったり、こまめなコミュニケーションを積極的にとることへの抵抗感に繋がりやすくなります。特に、新入社員への影響は大きいでしょう。
上司・トレーナーからの指示は、関係性がよければ納得度合いも高まり、行動にうつしやすくなり、成果にも繋がりやすいと言われています。
現場では、育成担当者が関係性を築きたくても、忙しさからなかなか気が回らないことも多いため、人事が時間を設けて支援できると良いでしょう。
具体的には下記があげられます。
はじめに相互理解を図るための顔合わせ面談ができると良いでしょう。
顔合わせの前に、人事から自己紹介シートを育成担当者・新入社員のそれぞれに配布し、それらを共有してもらうと、コミュニケーションがよりスムーズになります。
その際にはぜひ、仕事上の役割だけでなく、人となりが分かるようなエピソードや、(特に育成担当者側の)仕事に対する想いを記入できる欄があると、相互理解がより促進されます。
育成担当者と若手・新入社員との合同研修を行い、相互理解を深めることをお勧めします。
参考までに、弊社で実施する合同研修の一例をお伝えします。
前半にペアでのワークを設けないのは、まずは同じ立場のメンバーで集まり、安心・安全な環境の下で成長の実感や近しい立場ならではの不安の解消を図りたいためです。
また、午後/前半のワークでは、できるだけ現状をフラットに見てもらうために、多様な視点を得られるように、あえて色々な社員と話ができる時間を設定しています。
そして最後に、相互に率直な気持ちを伝え合います。
仕事上のコミュニケーションからはずれ、改めて研修という機会を設けると、普段気付けていないことに気づくことも多くあります。
実際、研修に参加した育成担当者から下記のような感想を多くもらいます。
ぜひ、実施してみてください。
現場育成がまわりだす時期には、育成担当者、若手・新入社員両方の状況を把握できる仕組みを創ることが大切です。
育成担当者の状況を把握するために、定期的に人事担当者と育成担当者である上司・トレーナーとが面談を実施できるとよいです。
育成面で迷っていること、人事がサポートできることはないかを聞けるとよいでしょう。
最近では1on1という手法もあります。参考にしてみてください。
育成担当者を一同に集めてフォロー研修や対話の場を設ける方法もあります。
テレワーク化により育成担当者間の情報交換も行いづらくなっているため、相互の育成状況を理解できると上司・トレーナー自身も助かる部分も多くあるでしょう。
OJTトレーナー間でそれぞれの不安や悩みが共有されることで、オンライン育成での新たな知見がうまれる可能性もあります。
人事との距離が遠くなっている分、若手・新入社員のアラートに早めに気付けることが大切です。
とはいえ、これまでのように若手・新入社員の状態を直接目で確認することが難しいため、代表的な方法として、簡易で短期スパンで状況をウォッチングできるパルスサーベイなどを導入できるとよいでしょう。
今回は、テレワークの急増に伴い注目が集まっている育成についてまとめました。
育成担当者である上司・トレーナーの影響力が高まっているいま、改めて、育成担当者の意識・スキルの再構築や、人事のフォロー方法の見直しを行ってみてはいかがでしょうか。
アーティエンスでは、育成担当者への研修や、育成担当者と若手・新入社員との合同研修なども行っております。
お気軽にご相談ください。