前回のコラムでは、「コロナ禍により起きた新入社員育成の課題」を考えていきました。
今回は、具体的なオンライン研修の内容を中心に、withコロナにおける新入社員の育成方法をご一緒に考えていきたいと思います。
2020/11/26作成ー
コロナ禍により、多くの組織において今まで活用が少なかったオンライン研修が脚光を浴びました。今後、オンライン研修の機会が多くなっていきますが、オンライン研修のみでは、今までリアルで行っていた研修よりも効果が下がるという問題が起きます。
本コラムでは、オンライン研修であっても、学習の効果を高めて、継続化していく方法論を、お伝えしていきたいと思います。
目次
withコロナにおいてオンライン研修の効果を高めるために、下記2点をまずは整理してきたいと思います。
新人研修の主目的は、多くの場合以下の2点です。
1. 学生から社会人への意識変革
2. ビジネススキル・専門スキルの習得
オンライン研修では、この2点の達成度合いが弱くなると、多くのお客様からお聞きします。
1点目の「学生から社会人への意識変革」については、「オンラインならば研修を実施する意味がないのではないか」というお話も聞きます。
あるお客様は「(オンライン研修では)グループワークも盛り上がり、新入社員の状態としては、熱量も高かった。しかし、その後の新入社員の行動や態度を見ると、研修受講前となんら変わりないという状態であった。研修の意味が本当にあったのだろうかと思う」と仰っていました。
当たり前ですが、研修会社や講師は盛り上げるテクニック(※)を知っています。ただし、それは一時的に気分を高揚させるだけで、「学生から社会人への意識変革」を起こしているわけではありません。従来の研修であれば、研修後日に、人事の方や上司の働きかけによって、意識変革は継続したかもしれません。
※ 当社は、無理やり盛り上げるようなテクニックは推奨しません。一時的な盛り上げは、内発的動機が引き出されず、本当の意識や行動の変化がおきないためです。
しかし、オンライン研修は研修受講後にパソコンを閉じれば、そこは自宅です。すぐにプライベートの空間に戻され、研修受講前の自分に戻ってしまうでしょう。
この状況は「学生から社会人への意識変革」を、起こしにくい環境だと言わざる得ません。
2点目の「ビジネススキル・専門スキルの習得」は、「学生から社会人への意識変革」と比べるとアプローチが行いやすいです。知識やスキルの習得は、覚えることが中心になるので、オンライン研修に適した内容です。
ただし、それでも2つの課題が残っています。
1点目は、フィードバックの難しさです。例えば、マナー研修での名刺交換や、機械を操作するような実技を行う研修は、その場で講師やトレーナーからフィードバックをすることができません。そのため、実践しながら修正していく、という過程をふみづらいのです。
2点目は、体験量を積み上げていくトレーニングの難しさです。例えば、「機械を何度も操作して学ぶ」などが行えません。そのため、量から質に転化(※)する体験ができません。
※いきなり高い質を求めることは簡単ではないため、練習量などの経験を積み上げていくことで、結果的に質の変化を感じる体験のことです。
「学生から社会人への意識変革」と、「ビジネススキル・専門スキルの習得」の効果を、オンライン研修でも高めていくために、オンライン研修の向き・不向きを整理したいと思います。
#上記マトリックスは、新人研修以外でも活用は可能ですが、今回は新入社員研修にフォーカスして説明します。
以下、項目別に具体的に見ていきましょう。
知識をインプットするにはオンライン研修は手軽であり、反転学習(「3.オンライン研修の効果を高めていくためには?」にて説明)などを活用すれば、効果は高まります。
知識・スキル習得の領域は、リアルで実施する教室型研修(以下、教室型研修)でコストをかけて行う必要性は、少なくなっていくと思われます。
ただし、体験を伴う内容の場合は、限界があり、オンライン研修より教室型研修での実施を推奨します。研修受講者の人数を削減する、または、会場を広くするなどの対応をとりながら、できる限り実践の場を担保していけるとよいでしょう。
オンラインでのコミュニケーションは、言語以外で伝えられる情報(表情・行動)が少ないため、相手に対して分かりやすく説明することが必要です。またオンラインの場合には、タイムラグが発生したり、同時に複数人の音声を拾うことができないという制約があるため、一人の人の話を最後まで聴くことが必要になります。
そのため、話す力・聴く力は、養われていきます。
ただし、画面を通して得られる情報(表情・行動)には、限界があります。
どうしても相手の状況が見えずらくなり、論理的思考が先行するため、感情にアプローチする内容や観察力を養うものには、適していません。
しかし、今後テレワーク化が進みオンラインでのコミュニケーションが増えることを考えると、難易度は上がりますが、論理的思考が先行し、相手の状況が見えずらい環境でも関係性を築いていくためのトレーニングの位置づけとしても取り入れた方がよいでしょう。
その場合、いかに「安心・安全な場をつくるか」という、研修・場の設計が大切になります。
オンライン研修は、受講生のアウトプットを管理しやすいという利点があります。研修内のアウトプットを、データ化し、分析し、課題発見・解決も可能です。またアウトプットを見ながら、各新入社員の適性を判断して、配属への参考資料としても活用できます。
ただし、プロセス(行動・ふるまい)は基本的にみえません。グループワーク自体が、クローズな状況で行われ、講師が観察できる状況・時間が少なくなるからです。
また全体的な他者との関わりは、とても見えにくくなります。
例えば、教室型研修の場合、AさんとBさんのやり取りを聞いているCさんが納得している、また同じように聞いているDさんは集中できていない、などということが表情や、頷き・足をブラブラさせるなどの身体的反応で把握することができます。
一方、オンライン研修の場合にはAさんとBさんのやり取りをみることができたとしても、そのやり取りを見ているCさん・Dさんの状況までを細かく把握することはとても難しくなりますので、アテンドも観察を行えるような設計にするとよいでしょう。
他の受講生との対話を通して思考し、自身のことを振り返る際、画面では、他の受講生と共にワークをしていますが、実際には自宅という空間から1人で参加するオンライン研修は、内省が行いやすい環境です。
そのため、教室型研修で一堂に会して対話を行っている時と比べて、より「自身の感情や思考」と向き合いやすく、探求を深めていくことが可能になります。
ただし、スピード感を持ったディスカッションに関しては、教室型研修と比較して、品質は落ちます。議論をどんどん積み上げていくことが難しいためです。
またグループ内でチームに分かれて議論を進め、成果物の品質を高めるという進め方も難しくなります。
「上司とのコミュニケーションの質を上げるには?」というテーマがあったとします。
グループワーク内で「上司とのコミュニケーションの質」を、上司との【関係性構築】と【業務の報連相】という論点に分けたとします。
これまでの教室型研修であれば、Aさん・Bさんは「上司との関係性構築」の内容を話し合い、Cさん・Dさんは「業務の報連相」の品質を高めていく内容を話し合い、あとでシェアするということができていました。
しかしオンライン研修では、そのフローが複雑になるため、チームに分かれて議論するということがしにくくなります。(できなくはありませんが、オペレーションの難易度が上がります。)そのため、スピード感のあるディスカッションは難しくなります。
なおオンライン研修に適していないものも、工夫することで効果を高めることは可能です。
例えば、オンライン研修に適していない名刺交換(体験を伴うスキル習得)は、実践の代わりに動きの詳細が伝わる動画を用意することで、効果を高めることができます。
そして、事後フォローとして、現場の上司・トレーナーに名刺交換を行ってもらえるように、依頼しておけると尚よいでしょう。
オンライン研修には「何が適していて、適していないか」を把握することで、これまでの研修プログラムをオンライン化する際に、どのように選定・開発していくのか、取捨選択が可能になります。
withコロナでは、オンライン研修に適している・適していないにかかわらず、オンライン研修の実施は多くなります。
だからこそ、オンライン研修の品質を高めていくことが必要になります。
ここでは、既存の教室型研修をオンライン化する際に最低限抑えておくべき3つのポイントを説明していきます。
教室型研修の内容をそのままオンラインに移行するとトラブルはよく起きます。
オンライン研修用に、設計し直すことが重要です。
研修プログラムの設計に関して、よく起きる課題・原因と、解決策を、下記マトリックスにまとめました。
講師・ファシリテーターで起きる課題は、主にオンライン研修登壇の経験の有無から起きることが多いです。
教室型研修においてハイパフォーマーの講師であっても、オンライン研修でのトラブルは起きます。
例えば、下記マトリックスの「ワークの説明が分かりづらく、受講生の迷いが多くなる。」という課題に対する原因である「あいまいな説明をして、受講生自身で考えさせて、主体的行動を生もうとしているが、オンラインでは混乱が大きくなり、うまく作用しない」などは、ベテランのファシリテーターでよく起きるトラブルです。
このような手法は、教室型研修の中では、敢えて、曖昧な問いかけをして、受講生が(時に文句を言いながらも)自身で考えることで、当事者意識と主体性を開放する手法として用いられます。ただしオンラインでは混乱を招き、うまく作用しないということが起きます。
受講生の参加姿勢で起きる課題は、オンライン研修と教室型研修との違いに戸惑うことで多くなります。戸惑いを少しでも解消していくための、仕掛けや働きかけが必要です。
今回は、オンライン研修のコンテンツそのものの品質向上について、おさえておくべきポイントを3つにまとめてお伝えしました。いかがでしたか。
尚、前回のコラム「コロナ禍により起きた新入社員育成の課題とは? -2020年度を振り返り、2021年度 の新入社員育成企画を考える―」でもお伝えしたとおり、オンライン研修は研修前後の企画・設計(デザイン)が研修効果を大きく左右します。
次回「オンライン?リアル?withコロナにおける新入社員研修とは 」では、オンライン研修での学びをいかに記憶にとどめ、日々の仕事へ橋渡ししていけるか、について具体的な方法論を交えてお伝えしていきたいと思います。