コラム

「若い部下のモチベーションを理解すること」について考える

「部下のなかに、『この人のモチベーションはどこにあるか』というのが全く分からない人がいて、困っているんですよ・・・」

中堅社員や管理職向けのセミナーを行っていると、たまに上のような類の悩みを打ち明ける方がいらっしゃいます(多くの場合、30代~40代の、中堅社員または管理職層の方です)。

不思議なことに(と言っていいのかわかりませんが)、そのような投げかけをする方に限って、部下とのコミュニケーションもしっかり取るように心がけていたり、「部下のことを大切にしよう」という意識を高く掲げられているタイプの方が多いのです。

この傾向に対して様々な仮説を建てることは可能でしょうが、その一つに「若い部下のモチベーションは、どうやら上の世代のモチベーションとは若干違うらしいぞ」という見解を持たれている方もいらっしゃることでしょう。さて、若い世代と上の世代のモチベーションは本当に違うのでしょうか。

──今回は、「モチベーションを理解すること」についてお話ししていきたいと思います。

1) モチベーションを、「幸せを求める気持ち」として捉えてみる

そうは言っても、「モチベーション」というキーワードはこれまで多くの人々や書籍で幾度となく語られてきた分野ですので、「またそのテーマか」と思われた方もいらっしゃることでしょう。

そこで、今回はモチベーションという言葉を単なる「動機付け」や「やる気」として捉えるのではなく、より人としての欲動や行動の源泉となりうる「幸せを求める気持ち」として捉えてみたいと思います。

──ところで、「幸せ」っていったいどのようなものだと皆さんは思われるでしょうか?

これこそまさに、人によって千差万別なテーマになってしまいそうですが、アメリカの心理学者マーティン・セリグマンは「人の幸せは5種類に分けることができる」と提唱しています。
どういうことか、見ていきましょう。

マーティン・セリグマンが唱える、5つの「幸せ」の種類

上の図で示されている5種類の幸せについて、簡単に説明していきましょう。

右上の「快楽」とは、その名のとおりですね。美味しいご飯やお酒が飲めたり、ふかふかのベッドで眠むれたり、、、といった、快楽を感じられることによって得られる「幸せ」です。

左上の「達成」は、与えられた目標を達成できたり、誰にもできなかったことを成し遂げたときに感じられる幸せです。よく、「歴史に名を刻みたい」といったことを言う人もいますよね。そういうのも、「達成」によって得られる幸せと言えるでしょう。

「没頭」は、「自身のやりたい仕事に没頭する」や、「研究テーマに対して、没頭する」ことに対して、幸せを得ます。

ちなみに、これら「快楽」と「達成」、そして「没頭」の幸せは、どちらかというと「上の世代」が求める傾向が高いそうです。

では、「若い世代」が求める傾向が高い幸せは何かというと、左下の「意味合い」、「良好な人間関係」であると言われています。

意味合い」とは、「意義」であったり「理念」といった言葉で置き換えられることもありますが、例えば「この仕事(業務)をやることの意味」に深く共感できていることの幸せを指します。
業務でメール一本書く時でも、事務的なメールと「相手のことを想って書く」メールとでは、自然とキーボードに文章を打つ熱量も変わってきますよね。これもひとつの(大切な)幸せであると、マーティン・セリグマンは言っているのです。

良質な人間関係」は、もはや説明は不要でしょう。

そもそも、人は一人では生きられません。仲間と存在を認識しあい、助け合いながら共存していくことに、人は本能的な喜びや幸せを感じる生き物なのです。

さて、「若い世代は、『意味合い』や『良質な人間関係』への幸せを求める傾向が強い」とお話ししましたが、これにはいくつか理由もあります。   ひとつは、変化の激しい現代社会の、新しい価値観や考えが顕れては消えていくような新陳代謝が激しく活性化している世の中において、人々は「意味合い」の拠り所とできるような手本やロールモデルを見出せずに、目の前の事象に対しての「本当のこと」や「正しい意味」について模索することが多くなってきています。

また、一昔前までは「確固とした、盤石なもの」とみなされてきた様々な「組織」や「体制」は、バブル崩壊やリーマンショックなどを経由して、「(実は)けっこう脆いものであった」という認知に変わりつつあります。

そのような中で、人々はいつ崩れるかの保証がない組織や体制下での「達成」よりも、今目の前にいる人たちとの「人間関係」を大切にしようという意識が強まってきている傾向があるのも、当然と言えるでしょう。

これら傾向は、一昔前の「そうではなかった時代」をあまり知らない若い世代では、より顕著に出やすくなっている、ということですね。

◇ ◇ ◇   ここまでの内容は、尾原和啓氏著の「モチベーション革命」(幻冬舎)で紹介されている内容を参照した部分が多くあります。

非常に読みやすく、鋭い観点で書かれた名著ですので、興味を持たれた方は是非ご参照ください。

2) 「若い部下のモチベーション」を扱う際に、大切なこと2つ

さて、ここまでで「若い部下のモチベーションは、上の世代のモチベーションと傾向が異なる」ということと、「若い世代は、『意味合い』と『良質な人間関係』に幸せ(モチベーション)を見出すケースが多い」ということをお話ししました。

ここで、「ちょっと待ってくれ、どうも釈然としない」と思われた方のために、こちらから代弁しておきたいと思います。

「自分は40代だが、『意味合い』や『人間関係』にモチベーションを強く感じている」
「若い世代でも、『達成』や『快楽』にモチベーションを感じている人は沢山いる」
「こんな安易に、上の世代と若い世代とでグルーピングすること自体が、そもそもの相互不理解に繋がるのではないか」

──どれも、「確かに」と言える意見だと思います。

また、「幸せ」や「モチベーション」といった「深い」テーマに対して、このように安易にカテゴライズをしてしまうこと自体が、世代間の認識の溝をいたずらに広げてしまうことになることもあるでしょう。

ですが、マーティン・セリグマン氏が「5種類の幸せ」を提唱した背景には、以下の想いもあるように私は感じています。  

・幸せやモチベーションの描き方は、人によって様々であり、まずはそれを受け入れることが大切ということ
・幸せ・モチベーションのありかは、「自分自身」が探求していくことが大切だということ

どういうことか、詳しくお話ししてきたいと思います。

幸せやモチベーションの描き方は、人によって様々(違いがある)ということ

「幸せやモチベーションの描き方は、人によって違う」ということは、つまりは「自分と全く同じという人は(ほぼ)いない」ということです。

ですが、私たちは「幸せ」や「モチベーション」に関する言葉を扱う時に、どうしても自分自身が捉えているそれらの意味・解釈を意識せずにはいられないものです。

例えば、「自分は『快楽』にモチベーションを強く感じているが、その感情自体が(道徳上)望ましくないものと意識している」という人がいたとします。 その人はきっと、「モチベーション」という言葉自体もネガティブなものに聴こえて、上司から「モチベーション上げていこうよ!」と言われてムッとすることもあるかもしれません。(かなり極端な例かもしれませんが)

つまり、私たちが他人のモチベーションを扱う際には、「自分とは違うもの」「完全に理解しきれないもの」という認識を更に深めて扱っていくことが求められるのではないでしょうか。

「モチベーションの持ち方は人によって違う」というフレーズは誰しも理解しているところでしょうが、その違いがどのように存在して、またそれが普段のコミュニケーションでどのように作用されているのかというのは、私たちはもっとその意識のアンテナを高く掲げていく必要があるように感じられます。

幸せ・モチベーションのありかは、「自分自身」が探求していくことが大切だということ

ある人が、「部下のモチベーションがどこにあるかわからない」と言っていたとき、その部下自体は自分自身のモチベーションのありかを認識しているか?──皆さんは、どう思われますか。きっと、その部下にとっても「自分のモチベーションがどこにあるのかわからない」と悩んでいるケースも多いことでしょう。

さて、この場合「上司が部下のモチベーションを理解すること」と「部下が自分自身のモチベーションを理解すること」の、どちらのほうがより大切でしょうか。

──私は、後者だと思います。

つまり、上司が部下のモチベーションを扱う際に大切なことは、「上司が部下のモチベーションを分かってあげること」ではなく、「部下が自分のモチベーションのありかに気づき、理解を深めるように、手助けしてあげること」なのではないでしょうか。

部下が自分自身のモチベーションのありかに気づけていれば、いずれ上司はそれを知ることが出来るはずです(もちろん、部下との信頼関係がしっかりと育まれていることが前提になりますが)。

上司の方が「若い部下のモチベーションが解らない…」と悩んでしまう際の最大の問題は、「上司が(無意識的に)本人よりも先にその人のモチベーションを解ろうと努力してしまっていること」にあるように、私は感じています。
   ◇ ◇ ◇    

モチベーションという言葉が「組織」で扱われるようになったのは、1920年頃からと言われています。

マクレガーの「Y理論」やマズローの「欲求五段階説」はじめ、近年ではダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」の書籍がベストセラーになったりと、多くの人たちにとって「モチベーション」という言葉は耳になじみがあるもので、かつそれなりに「語ることが出来る」分野でもあることでしょう。

ですが、そのモチベーションについて、「自身のもの」として扱うときと「他人のもの」を扱うときとでは、観点に大きな違いが起こり得やすいものです。

私たちは、その点にも留意して、「若い部下のモチベーション」に向き合っていくべきなのでしょう。

日々の業務において、本記事が少しでも皆様のお役に立たれることを、心より願っております。

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